PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

新たにお気に入り登録して下さった方、感想を書いてくれた方、アドバイスやご意見をくださった方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。

今話はアルティメット編最終回。ここまで長かった………10月で終わらす予定だったのに、長引いてすみません。最後まで楽しめてくれたら幸いです。

それでは、本編をどうぞ!


#37「Goodby YASOINABA.」

5月5日夕方

 

 楽しい日々は過ぎ、稲羽を過ごす最後の夜が近づいてきた。名残惜しくも明日には東京に帰らなくてはならない。この八十稲羽に帰省してから本当に色々あった。P-1Grand Prixに巻き込まれて、新しい仲間のラビリスや風花、そして美鶴たちシャドウワーカーと知り合ったり、陽介たちと久しぶりに共闘したり、天城屋旅館で女子陣に酷い仕打ちにあったり…………後半は碌なことがなかったが、とても楽しいGWだったと思う。そんなことを思いながら、悠はみんなと離れてある場所へ向かっていた。目指すはある人物との思い出が深いあの高台だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<八十稲羽 高台>

 

 高台に辿り着くと、そこの展望台で思っていた通りの人物がいた。悠より先にそこから見える稲羽の景色を眺めている人物は、

 

 

「マリー」

 

 

 展望台にいた少女…マリーは悠の声に気づくと、こっちに振り向いた。相変わらず無表情だったが、その裏に嬉しさが感じられた。

 

 

「お疲れ様、悠」

 

 

「ああ、そっちこそお疲れ」

 

 悠はそう言うと、マリーの隣に立って一緒に稲羽の景色を眺めた。何だかこうして2人で稲羽の景色を眺めるのも久しぶりだ。今はちょうど日が山に沈むところだったので、夕焼けで稲羽の街並みがより一層美しく見える。

 

 

「ありがとう、悠。ヒノカグツチってやつから、この町を守ってくれて」

 

 

 しばらく夕焼けに染まる稲羽の景色を満喫していると、マリーがあらたまってお礼を言ってきた。

 

「気にするな。この町はマリーやみんなとの思い出が詰まった大切な場所だからな。守るのは当然だ」

 

 悠がそう言うと、マリーは何を思ったのか頬を朱色に染めて俯てしまった。どうしたのだろうと思っていると、マリーがこちらにジト目を向けてくる。

 

「悠…また、私を置いていっちゃうんでしょ」

 

 ジト目を向けながらそんなことを言うマリーに、悠は少しうっとなる。明日東京に帰るので、そのことを言っているのだろうが、置いていくという表現はいかがなものだろうか。

 

「置いていくって……別にそういうことじゃ……」

 

 すると、マリーは悠の傍まで近づき、悠の服の袖を掴んだ。

 

「マリー?」

 

 

「……寂しいよ……せっかくまた悠に会えたのに……これでお別れだなんて……私…ずっと…ずっと待ってたんだよ。私、悠とずっと一緒にいたいのに………また待ってるだけだなんて……」

 

 

 マリーは俯きながら寂しそうにそう言った。袖を掴んでいる手が少し震えているので、マリーの気持ちがストレートに伝わってくる。そんなマリーを心配させないようにと、悠はマリーの震える手にそっと自分の手を添えてこう言った。

 

「安心してくれ。マリーがここにいる限り俺は帰ってくる。俺にとって、マリーは大事な人だからな」

 

「……………」

 

 マリーは悠の言葉を聞いてポカンとしてしまう。すると、突然顔が茹蛸のように真っ赤になった。そんなマリーの様子に熱でも出たのかと思い、額に手を当てようとすると、マリーはその手を振り払う。そして、

 

 

「バカ!ボケナス!デリカシーゼロの天然ラブマシーン!素直過ぎだよ……だから、君はモテるんだ……あのキンパツやフシギキョニュウに………

 

 

「お、落ち着け、マリー」

 

「分かってるよ!このおんなったらし!」

 

 ありったけの大声量で罵詈雑言を悠に浴びせて、そっぽを向いてしまった。毎度のことだが、自分は思ったことを言っただけなのに何故ここまで言われなければならないのか。完全に怒っているような雰囲気なので、どうしようかと悩んでいると

 

「悠…目、つぶって」

 

「えっ?」

 

「良いから!黙ってつぶんのっ!!」

 

 凄い剣幕でそう迫るマリー。そう言われては従うしかないので、悠は慌てて目を閉じた。しかし、数分待ってもマリーは何も言ってこないのでどうしたのかと目を開けようとすると、マリーにまだ目を閉じてろと怒られてしまった。そうしてること更に数分後、再び目を開けようとすると、マリーがこちらに近づいてくる気配を感じた。証拠にマリーの息遣いがとても近く感じる。

 

 

「ありがとう……私のこと、忘れないでくれて。悠はこれからもコーハイたちと大変な目にあって、私のことを忘れちゃうかもしれないけど………私はこれからもどんなことがあっても、ずっと悠のことを忘れないから……だから…………悠もそうであってね」

 

 

 刹那、悠の頬に温かく柔らかいものが触れた感触が伝わってきた。突然の出来事に悠は驚き、慌てて目を開けると、そこには恥ずかしそうに身体を震わせて、顔を今まで以上に真っ赤に染めているマリーの姿があった。

 

「こ、これは……お礼!お礼だから!!」

 

 マリーはそう言い捨てると、全速力で駆け出して夕焼けに姿を消した。悠はそれを呆然と見つめるしかなく、ただまだ頬に残っている温かい感触に手を当てていた。マリーが何故このようなことをしたのかは野暮なので考えない。だが、それに対して悠は誰もいない展望台にこう呟いた。

 

 

「忘れるわけないだろ……」

 

 

 マリーはもういないが、ここにまだ彼女がいるのなら悠はそれだけは言っておきたかった。例え何があってもマリーのこと、それに特捜隊の仲間たちのことを忘れるわけがない。マリーにとって悠との思い出が大事なのと同じように、悠にとってもこの稲羽での思い出は忘れがたいほど大切なものなのだから。下を見ると、薄暗くなったのか稲羽の町にポツポツと灯りが付き始めた。帰りが遅くならないようにと、悠は満足げな表情で高台を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月5日夜

<堂島家>

 

「とうとう明日帰っちまうのか…」

 

「ええ。数日が過ぎるのは早いですね」

 

 高台から帰ってきた悠は堂島家で堂島と菜々子と一緒に夕飯を取っていた。本当なら陽介たちとどこかで夕飯を食べるつもりだったのだが、陽介から"今日は堂島さんたちと一緒に過ごせ"と言われてここにいる。堂島はここ数日本庁に呼ばれっぱなしで中々一緒に過ごす時間は少なかったので、そう思うとみんなの気遣いはとてもありがたかった。これで最後という訳ではないが、GW最後の夜は堂島と菜々子と一緒に過ごしたかったのは事実である訳だ。

 

 菜々子と一緒に手際よく料理や食器を並べていると、ふと堂島がこんなことを聞いてきた。

 

 

「お前、こっちに帰ってから何かあったのか?」

 

 

「えっ?」

 

 堂島からの唐突の質問にギクッとなる悠。

 

「いや、どうもお前が何かやり切ったって顔をしてるからな。あえて聞かないでおくが、済んだんなら結構なことだ」

 

「えっ………まあ」

 

 堂島の言葉を聞いて、悠は少しヒヤリとした。相変わらず堂島の刑事の勘は恐ろしい。悠のことを心配してのことなのだろうが、その刑事特有の追及する目を向けるのは勘弁してもらいたい。

 

「またお父さんがお兄ちゃんとばっかり話してる……」

 

「おお、すまんな菜々子。悠と話すとついこうなっちまうからな」

 

 堂島は菜々子にそう言うと、箸で悠と菜々子が作った料理をつまみ、まだ手に付けてなかったビールを飲み干した。

 

「か~っ、やっぱりお前の料理を食いながら飲むビールは最高だな」

 

「そう言って頂けると嬉しいです」

 

「お父さん、飲みすぎちゃだめだよ」

 

 そこからはいつも通りの堂島家の食卓となった。去年はジュネスのお惣菜や弁当で済ませたものだが、悠の影響か菜々子も料理を覚えたので、バランスの取れた食事を送れているらしい。P-1Grand Prix事件のせいか、こういう風に3人で食事するのは数日ぶりなのにまるで久しぶりのように感じた。

 

 

 "お前の帰る場所はここにある"

 

 

 雰囲気がそう言ってくれているような気がして、悠はまた堂島と菜々子に感謝を感じられずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 食事の時間が終わり、デザートに菜々子が野菜菜園で育てた果物を切ろうとしたとき、玄関のチャイムが鳴った。こんな時間に誰だろうと思い、メロンをまな板に置いて玄関に行くと、そこには意外な人物がいた。

 

 

「こんばんは、悠くん」

「こんばんは、お兄ちゃん♡」

 

「叔母さん!それに、ことりも」

 

 そこにいたのは、叔母の雛乃と従妹のことりであった。こんな時間などうしたのだろうかと思っていると、菜々子も来客が気になったのか堂島と一緒に玄関に駆け寄ってくる。

 

「ああ!ことりお姉ちゃんに雛乃おばさんだ!こんばんは~」

 

「あ、アンタは……義兄さんの妹さん…」

 

 菜々子は雛乃とことりが来たことに嬉しそうにしていたが、堂島はまるで苦手なものを見るような表情になった。

 

「こんばんは。菜々子ちゃん。堂島さんも」

 

「初めまして、堂島叔父さん。お兄ちゃんの従妹の南ことりです」

 

「あ、ああ……どうして、ここに?」

 

「ここに来てからまだ堂島さんにご挨拶してなかったものですから。よろしければ、私たちも上がってよろしいでしょうか?」

 

「ああ、はい。どうぞ。ちょうど、悠が果物を切るところだったので、良かったら」

 

 珍しくあの堂島がかしこまっている。以前親戚の集まりで悠の父親と酒飲み過ぎて雛乃にこってり絞られたことがあるらしいので、それのせいなのかもしれないが。とりあえず、雛乃とことりも堂島家の食卓に加わり、デザートの果物を一緒に頂いた。その際、ことりが堂島家でも悠に甘え始めて、堂島がその様子を訝しげな表情で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堂島さん、少しお話してもいいですか?」

 

 デザートも食べ終わって堂島家の雰囲気に溶け込み始めた頃、悠と菜々子、ことりが一緒に皿洗いをしているときに、雛乃が堂島にそんなことを言ってきた。

 

「ん?どうした?改まって」

 

 酒がまわってきたのか、堂島も先ほどのへこへこした態度もなくなり、いつもの堂島に戻っている。

 

「どうしても堂島さんに話しておきたいことがあるんです。()()()()()()として」

 

 雛乃の目から真剣な思いを感じる。そう思った堂島は少し間をおいて立ち上がってこう言った。

 

「………聞こう。とりあえずコーヒーを淹れてくるから、アンタは縁側で待っていてくれ」

 

「えっ?」

 

 堂島の言葉に雛乃は驚いた。おそらく、雛乃の話はあまり悠に聞かれたくないのだろうと察しての気遣いだろう。実を言うと、この話はあまり悠に聞かれたくないと思っていたので、雛乃は堂島のその気遣いに感謝した。

 

「この家にはインスタントしかないんだが………アンタはどうする?」

 

「じゃあ、ブラックで」

 

「分かった」

 

 堂島は雛乃の言葉に頷き、いそいそと台所へと向かった。雛乃は堂島の言葉に甘えて窓を開けて縁側に座り、堂島を待つ。数分経ったとき、堂島はコーヒーの入ったカップを2つ持って縁側にやってきた。

 

「ありがとうございます」

 

「ああ、俺が淹れたから、口に合うか分からんが」

 

「そんなことは……美味しい。とても美味しいです」

 

 堂島の淹れたコーヒーはインスタントとはいえとても美味しかったので、雛乃は自然に笑ってみせた。堂島は世辞とはいえ、雛乃の反応が嬉しかったのか、照れ臭そうに頭を掻いた。

 

「まあ、コーヒー淹れるのは家での俺の仕事でな。死んだ妻に結婚する時に約束させられたんだ。"家のことはこれだけでいい。だから、必ずやり続けること"ってな。それで、コーヒーを淹れるのだけは自信がある」

 

「あっ…すみません……私」

 

「そう気にしなくていい。それで、話っていうのは何なんだ?」

 

 堂島はコーヒーを一口飲んでそう言うと、話を聞く姿勢を取った。職業病のせいか、堂島のその姿勢に雛乃はまるで職務質問を受けているような気分になったが、とりあえずコーヒーを一口飲んで、静かに語りだした。

 

「去年、悠くんを堂島さんのところに預けるって義兄さんたちに言われた時…私は心配だったんです。小さい時からの悠くんを知ってましたから、また一人で孤独なろうとしてないかって……でも、私の予想に違って帰ってきた悠くんは今までとは別人のように変わっていました。自ら積極的に人と打ち解けあって、仲のいい友達や慕ってくれる後輩がたくさんできて………私、悠くんが変わってくれて本当に嬉しかった」

 

「そ、それは良かったな」

 

「そうなんですよ!それで、悠くんがこの町のことを語るときの表情がとても楽しそうで」

 

 その後、悠についてのことを丸々10分間聞かされた。楽しそうに悠のことを語る雛乃に堂島は若干引いてしまう。何というか親バカが息子の自慢話をしているようで、中々割り込めない。このままではまずいので、堂島は思い切って話題の路線を戻そうとすると、

 

 

「私、悠くんの話を聞いて、この町……八十稲羽を訪れてみたいと思ったんです。そして実際に訪れてみて、この町が羨ましいなって思いました」

 

 

「どういうことだ?」

 

 雛乃が語りだしたことに疑問を持ったのか、堂島はそう聞き返す。それに雛乃の表情が先ほどと打って変わり、寂しそうなものに変わっている。

 

「悠くんがこの町に来て、懐かしそうな表情をしていたり、陽介くんたちと楽しそうに過ごしているところを見てると……悠くんがいるべきなのは()()()()()()()()()()()()()()()()と感じてしまったんです」

 

「……………………」

 

「そう思うと、私……悠くんに家族として見られていないんじゃないかって………怖くなったんです。私は堂島さんと違って…何も出来なかったから………ダメですよね、私って」

 

 雛乃はそう言うと、コーヒーを一口飲んで空を仰いだ。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。どうやらこれが本題らしく、本人は相当気にしているようだ。そんな雛乃を見て、堂島はしばらく黙り込んでいたが、ふとコーヒーを飲んで言葉を発した。

 

 

「こういうのもなんだが、俺はあいつには何もしちゃいねえよ。俺が逆にあいつに世話になっちまったからな」

 

 

「えっ?」

 

 堂島のふとした言葉に雛乃はハッとなって、堂島に視線を向ける。そこには刑事としての雰囲気はなく、今の堂島は一人の父親としての表情をしていた。

 

「俺は娘……菜々子と向き合うことから逃げてたんだよ。あの日、菜々子を迎えに行ったせいで、千里……妻が死んだんじゃないかって考えてしまったことがあった。あの子が居てくれただけで、何度救われたかを知っていたはずなのにな。それで、段々あの子と向き合えずに寂しい思いをさせてしまった…」

 

「………………」

 

「だが悠は……あいつは俺にその大事なことを思い出させてくれた。あいつが俺を真剣に叱咤してくれたお陰で、俺はあの子と向き合うことができた。そうして俺…俺たちはなれたんだよ。本当の家族ってやつに」

 

「堂島さん…」

 

 堂島が神妙にそう語る姿を見て、雛乃は呆然としてしまった。すると、堂島はコーヒーカップを傍らに置き、雛乃の目を見据えた。

 

 

「あいつは俺の姉貴に似て、心優しいやつだ。そんな悠がアンタを家族と見てないなんてあり得ねえよ。アンタはもっと自信を持った方が良いんじゃないのか?そんなんじゃ、悠と娘さんが逆にアンタのことを心配し過ぎてぶっ倒れるかもしれねえぞ?」

 

 

 堂島の気さくな言葉に雛乃は思わず涙してしまった。涙を流す雛乃に堂島は気に障ることを言ってしまったかと慌てている。雛乃は大丈夫だと両手でジェスチャーする。そして、

 

 

「…ありがとうございます。堂島さん」

 

 

 雛乃は涙を拭って、堂島に頭を下げた。その表情からはもう暗いところは見受けられない。どうやら、少し雛乃の悩みに貢献できたようだ。

 

 

「一つ聞いておきたいんだが……アンタ、そこまで悠のことを気にしてるのは、悠が義兄さんと似ているからとかじゃないよな?」

 

「えっ?」

 

 突然の堂島からの質問に首を傾げる雛乃。何のことだろうと思っていると、堂島が直球に言った。

 

「だってアンタ、()()()()だったんだろ?」

 

「なっ!!」

 

 不意打ちにそんなことを言われて、雛乃はびっくりしてしまい、手に持っていたコーヒーをこぼしてしまう。その慌てようから図星ということは明白だった。堂島はその反応を見て、やっぱりかと言うように溜息をついた。

 

「前に義兄さんが話してくれてな。"ウチの雛乃がブラコン過ぎて大変だった"って。確か、高校生になっても一緒に風呂に入ろうとしたり布団に潜り込んだり、義兄さんと仲良くしてた女を目の敵にしてたり……あとは大学生のとき」

 

「ど、堂島さん!それ以上言ったら怒りますよ!!」

 

 柄にもなく子供のとうに止めにかかる雛乃。どうやら雛乃にとっては恥ずかしい過去らしい。その様子を見た堂島はニヤッと笑ってこう返した。

 

「おっと、これは失礼。だが、義兄さんからその話を聞いたときは驚きましたな。しっかりしてるアンタがブラコンだったって」

 

「…………昔の話です」

 

 雛乃はぷいっとそっぽを向いて拗ねてしまった。これはからかい過ぎたかと堂島は反省する。何というか、童顔のせいか雛乃は年の離れた妹みたいな感じがするので、ついからかってしまった。

 

「このことは悠や娘さんにも言ってないんだろ?だったら、俺が今すぐ…」

 

「そういう堂島さんだって、学生時代にご両親に内緒で原付を乗り回してたんでしょ。でも、結局お義父さんに見つかってしこたま殴られたとか」

 

「ぶっ!な、何でそれを」

 

 まさかのカウンター。菜々子にも言っていない秘密を暴露されて、堂島はコーヒーを吹き出してしまった。この秘密は悠にしか話してないのに、何故それを雛乃が知っているのだろう。

 

「義姉さんに聞いたんですよ。"遼太郎が失礼なことを言ったら、言ってやりなさい"って言われて」

 

「姉貴め、余計なことを……」

 

「堂島さんだって、私の話を兄さんから聞いたんでしょ。ちなみに、この話を菜々子ちゃんに今聞かせても良いんですよ?」

 

「そ、それだけは勘弁してくれ。俺が悪かった!」

 

 いい笑顔更にとんでもないことを言いだす雛乃に頭を下げる堂島。悠のお陰で本当の家族になったとは言え、菜々子に家のことはほとんど任せっきりなので、家での立場がなくなってきている。そんなことを知られては父親として立つ瀬がない。堂島にとってそれを菜々子に知られるのだけは勘弁してほしかった。しかし、雛乃はしてやったりと勝ち誇った表情を浮かべた。

 

「ふふふ、これでおあいこですね」

 

「……アンタってひとは。これは義兄さんが頭が上がらない訳だ」

 

 堂島はやられたと言わんばかりに溜息をついたが、内心はとても穏やかだった。その後も2人は互いのコーヒーがなくなるまで、楽しそうに会話していた。

 

 

「お父さんと雛乃おばさん、楽しそうだね」

 

「そうだな」

 

「見てて微笑ましいよね」

 

 

 悠と菜々子とことりはそんな2人の様子を暖かく見守っていた。時が過ぎてことり雛乃が天城屋旅館に戻るまで、堂島家には温かい笑い声が絶えなかったという。どうやらまた2人、堂島家にここを訪れる家族が増えたようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5月6日

<稲羽駅>

 

 そして、とうとう帰りの電車の時間がやってきた。悠たちが帰ることもあって、先に帰ったりせと直斗を除く特捜隊のメンバーや堂島と菜々子が見送りに来てくれた。ちなみにラビリスと風花も同じ電車で帰る予定である。

 

「叔父さん、お世話になりました」

 

「「「「お世話になりました」」」」

 

 悠は堂島にGW中に世話になったことにお礼を言う。それにならって、穂乃果たちもGW中に稲羽の様々な場所を案内してくれた陽介たちにお礼を言った。

 

「ああ、久しぶりにお前の顔が見れて良かった。またいつでもゆっくり来いよ。こいつも待ってるからな。アンタたちも今度はゆっくりウチに遊びに来るといい」

 

「はい!」

 

「ほら、菜々子。そんな悲しそうな顔するな。悠が帰りづらくなっちまうだろ」

 

「……………」

 

 堂島は横で拗ねている菜々子の背中を押してそう言った。菜々子の方はもう悠が帰ってしまうので、マリーと同じ寂しそうな顔をしていた。出来ることなら、悠も菜々子ともっと長く過ごしたかったが、こればっかりは仕方がない。休みというものには期限があるのだから。

 

「菜々子、また夏休みに来るから」

 

「本当!?」

 

悠がそう言うと、菜々子はとても嬉しそうに笑った。だが、

 

「マジっすか!?」

 

「もちろん、ひと夏いるんだよな?」

 

「え?」

 

 悠が夏休みにもこっちに来ると聞いて、完二と陽介は嬉しそうに聞いてきた。培った勘がこの流れはまずいと警報を鳴らしている。

 

「やった!一か月もあるじゃん!何でもできるよ!」

 

「えっとねー、夏祭りでしょー?海水浴でしょー?花火大会もあるね!」

 

 千枝とクマも悠が夏休み中ずっといると思い込んでいるのか、もう夏休みでも予定を立てていた。もう千枝たちの中では、自分が夏休みはずっとこっちにいるのが確定事項みたいになっているようだ。

 

「盛り沢山だー!じゃあ、穂乃果たちも一緒に良い?」

 

「もちろん、良いに決まってんじゃん!」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ、穂乃果ちゃんたちもいなきゃ始まんねえしな」

 

話に穂乃果たちも食いつき、一緒に夏休みをどう過ごすのかと計画を練り始める。

 

「あの…それ、ウチも加わってもええの?」

 

「うん!ラビリスちゃんだけじゃなくて、風花さんや絵里さん、希さんも一緒にね」

 

「「「え?」」」

 

 もう話が進み過ぎて、止めようにも止められない。実際夏休みにこっちに帰ることはすでに決めていたが、どの程度滞在するかを悠まだは決めていなかった。思わず堂島と雛乃の方を見ると、堂島は二カッと、雛乃はニコッと笑ってこう言った。

 

 

「俺は構わんぞ。悠がいれば菜々子も喜ぶし、俺も嬉しいしな」

 

「私も別に良いわよ。但し、ちゃんと勉学にも励んでもらうけどね」

 

 

 

「「「やったー!!」」」

 

 

 堂島と雛乃の許可が下りたと同時に、皆は歓声を上げた。みんなは嬉しそうな表情を見ると、内心焦った自分が馬鹿らしく感じて、思わず口角が上がってしまった。みんなが一緒なら今年の夏休みも楽しくなりそうだなと思う。今度は平和に休暇を過ごしたいので、P-1Grand Prixのような事件が起こらぬよう祈るばかりである。

 

 

 

 

『まもなく上りの電車が参ります。危険ですので、白線の内側までお下がり下さい』

 

 

 

 

 そう思っているとそんなアナウンスが駅内に流れてきた。どうやら悠たちが乗る電車が来るようだ。少し時間が経つと、悠たちが乗る赤い電車が駅に停車しドアが開いた。さて、そろそろ電車に乗り込もうと足を踏み入れたその時、

 

 

「お兄ちゃんっ!!」

 

 

 荷物を持ち上げて雛乃たちと電車の中に乗り込もうとする悠を菜々子は抱き着いて止めにかかった。どうしたのかと思っていると、菜々子は涙目でこう訴えてきた。

 

「やっぱり帰っちゃいやだ!菜々子、お兄ちゃんともっと遊びたい!もう少しここに居て!」

 

「菜々子……」

 

 やはり悠がもう行ってしまうと思うと、寂しくなったのだろう。それにこのGWはP-1 Grand Prixに巻き込まれたり、穂乃果たちを色々案内したりとあまり菜々子と過ごす時間が取れなかった。本人はここまで平然としていたが、いざお別れと思うと耐えられなくなったらしい。

 

「ナナちゃん、クマと一緒に遊ぶクマー!」

 

「菜々子ちゃん、ウチに遊びにおいでよ。ムクっていう犬がいるからさ」

 

「それとも、またウチに泊まりに来る?」

 

 クマと千枝、雪子が気遣うように菜々子にそう誘いをかけたが、菜々子はそれらを一蹴するように首を横に振って悠にしがみつく手を離さなかった。

 

 

「やだっ!お兄ちゃんとがいい!!」

 

 

 ここまで菜々子が駄々をこねるのは初めてだ。後ろにいる穂乃果やことりたち、果てには雛乃までもどうしたものかとハラハラとしている。このままでは電車に乗り遅れてしまう。どうしたものかと思っていると、

 

 

「菜々子、あまり我がまま言ってると、夜に怖い話するぞ?」

 

 

 菜々子は堂島の言葉にビクッと震えてしぶしぶと悠から離れた。結果的に効果覿面だったが、流石に小学生の娘にその宥め方はないだろうと悠は思った。少し残念な宥め方をされた菜々子をフォローすべく、悠は菜々子に目を合わせて、笑顔で菜々子の頭を優しく撫でる。

 

 

「菜々子、夏休みの時はいっぱい時間があるから、その時にたくさん遊ぼうな」

 

「………うん!菜々子、良い子で待ってるね。お兄ちゃん!」

 

 

 悠の笑顔に安心したのか、菜々子はそう言って笑顔を返した。その様子は従兄妹ではなく、本物の年の離れた兄妹のように見えて、その場にいたみんなは微笑ましくその様子を見守っていた。

 

 

「つか、菜々子ちゃんって怖い話ダメなんすね」

 

 菜々子が怖い話が苦手だということが意外だったのか、陽介は堂島にそんなことを聞いてきた。

 

「ああ、寝る前にテレビで怖い話なんか見ると、一人でトイレに行けなくてな。夜中に起こされるんだよ、俺が」

 

「お父さん!!」

 

 悠の前で自分の恥ずかしい話を暴露された菜々子は頬を膨らませて父親に怒ってきた。

 

「はっはっは、すまんすまん」

 

 堂島は菜々子のその姿が珍しかったのか、明るい表情で笑っている。

 

 

「もう……お父さんなんて知らない!!」

 

 

 からかわれたことに怒った菜々子が思わず悠たちが乗る電車に駆け込んでしまった。悠は菜々子を止めようと追いかけて、電車の中へ入っていく。だが、そのタイミングはあまりにまずかった。

 

 

 

ジリリリリリリリッ!

『発車しまーす』

 

 

 

「「えっ」」

 

 

 菜々子に追いついたと思ったら、その途端に電車のドアが閉まってしまった。ホームを見てみると、そこには呆然としている堂島と陽介たち、そして乗り遅れてしまった雛乃と穂乃果たちがいた。そして、ゆっくりと電車が動き出して景色が流れる。

 

 

 

 

 

「「「菜々子(ちゃーん)――!!」」」

 

 

 

 

 

 事態に気づいた堂島たちが必死に悠たちが乗る電車を追いかける。その様子は端から見れば、悠が雛乃たちを置き去りにして、菜々子を東京へ連れて帰ろうとしているようにしか見えなかった。

 

 

「あ、あれ……?お兄ちゃん………?」

 

 

 菜々子は外にいる堂島たちと、自分の傍にいる悠を交互に見て、少しパニックに陥ってしまった。

 

 

 

 

「そっとしておこう……」

 

 

 

 

 

 悠は溜息をついてそう言うと、とりあえず落ち着くために菜々子と一緒に電車の座席に腰を下ろした。さて、これからどうしたものか。そう考える悠の目には相変わらずのどかな稲羽の風景が広がっていた。

 

 

THE ULTIMATE IN MAYONAKA WORLD

-fin-




Next Chapter








"さあ、物語の続きを始めようか"









八十稲羽の事件を特捜隊メンバーと解決して、東京へ帰省したμ‘sたち。




「な、鳴上さん!こんにちは!」
「鳴上くん、真姫のことよろしくね」
「鳴上先輩!…お。お弁当!作ってきました!!」
「ドラスティックお邪魔いたします」






いつも通り練習に励みながらハチャメチャな毎日を送る彼らの元に一つの知らせが届く。







「ラブライブが開催されます!!」






全国のスクールアイドルのナンバーワンを決める"ラブライブ"の開催広告。廃校から学校を救うため、悠たちはラブライブの出場を目指すことを決意する!だが……




「このグループのリーダーって誰なんですか?」
「「「えっ?」」」
「始めるわよ!戦争を!」


「来週から中間試験だ!」
「赤点取ったら……」
「「「タスケテーーー!!」」」




色々と問題は山積みで、それに奮闘する日々が待ち受けていた。そんな中、






再び映ったマヨナカテレビ






その被害者とは意外な人物だった。



「えっ?」
「嘘っ!」
「あの人が…」



そして、事件を追う中で蘇る過去の記憶。




「これは……」
「思い出されたようですな」




それは、忘却の彼方に置き去りにした彼女との物語。その物語が、彼女を救うカギとなる。






「貴女なんか……私じゃない!






「逃げろっ!」
「悠先輩っ!!」


これまでにない試練が悠たちに降りかかる。




「もう、先輩に頼ってばかりは嫌なんです!」
「絶対に負けない!」
「必ず助けます!」




その先に待つ残酷な真実に悠たちはどう受け止めるのか。



抗え!



少女のために。己のために。学校のために。新たな物語が幕を上げる!





PERSONA4 THE LOVELIVE 最新章


【μ`SIC START FOR THE TRUTH】





12月下旬開始予定

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