PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

突然気候も寒くなっていって、布団が気持ちよく朝起きるのが辛くなる今日この頃です。こんなに寒いのに、先日友人の学園祭の出店の売り子を張り切りすぎて、風邪を引きかけました。寒さに弱い自分でありますが、読者の皆様も風邪やインフルエンザには気を付けてください。

改めて新たにお気に入り登録して下さった方、感想を書いてくれた方、アドバイスやご意見をくださった方、高評価を下った方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。


それでは、本編をどうぞ!


#35「Best Friends」

5月4日

 

 前日に謎の番組予告がマヨナカテレビにて報道され、多くのペルソナ使いたちを巻き込んだ"P-1 Grand Prix"を利用した事件は真の黒幕であるヒノカグツチが打倒されたことによって幕を閉じた。調査の結果、この事件においての稲羽市による被害者は一切なし。巻き込まれたペルソナ使いたちも皆無事だった。強いていえば、この町の住人の記憶が一日飛んでいるような感覚に襲われたということ、今朝方に商店街付近を見かけない黒塗りのリムジンが走っていたこと、稲羽上空にそれまた見かけないヘリが滞空していたこと、留置場で去年の連続殺人事件の犯人が謎の大怪我を負ったなど多少不可思議なこと起こったりもしたが、今日も八十稲羽には平和な時間が流れていた。その裏で自称特捜隊の少年少女たちの命懸けの奮闘があったことなど知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――事件解決から数時間後

 

 

 稲羽市に通じる公道を噂の黒塗りのリムジンが目立つように走っていた。そのリムジンの車内では3人の人物が会談している。

 

 

「全く…今回の任務は情けない結果に終わってしまったな。本当は我々が解決すべきことを巻き込んでしまった彼らに任せてしまったのだからな」

 

 

 中央に座ってそう呟く女性の名は【桐条美鶴】。彼女は日本でも有名な"桐条グループ"のご令嬢にして、シャドウワーカーの創設者兼部隊長を務めている強者である。グラマスな体型の上にライダースーツともSMスーツともボンテージともとれる戦闘服というかなり奇抜な恰好をしている。外に出れば、男どもの目を引くことは必至だろう。色々な意味で。

 

 

「だが、面白い奴らに出会えて、俺は満足だがな」

 

 

 美鶴の右側の席に腰を下ろして、嬉しそうにそう返す白髪の男性の名は【真田明彦】。美鶴とは古い仲であり、シャドウワーカーの隊員の一人である。上半身裸の上からマントを羽織るという奇抜な恰好をしているので、こちらもかなり目立っている。

 

 

「何とも興味深い人たちでありました」

 

 

 そんな2人に言葉を返したのは、金髪に黒いスーツを着こなした【アイギス】という名の少女。彼女は今回の任務の対象となっていた"ラビリス"と同じ、桐条に造られた対シャドウ兵器である。彼女はラビリスの後に開発されたので、ラビリスからすれば彼女は妹になる訳だ。

 

 

 それはさておき、彼女らがこの稲羽市を訪れた目的は先日皆月に盗まれた"ラビリス"の回収である。ラビリスの居場所がこの稲羽市でかつその町のテレビの世界だと判明したことに驚きはしたが、ラビリスの回収のために美鶴たちは稲羽のとあるゴミ捨て場のテレビから、テレビの世界にダイブした。だが、その世界では"P-1 Grand Prix"という仲間同士で戦わせるという趣味の悪い格闘大会が開かれている最中で、あのニセクマに美鶴たちもその参加者とみなされ例外なく仲間同士の決闘を強要されてしまった。そして、その最中に事件の首謀者である"皆月翔"に不意を突かれて昏倒し、気づけば磔にされていたところをあの自称特別捜査隊の少年少女に助けられたということだ。美鶴の言う通り、大の大人、それも自分たちより年下のペルソナ使いの少年少女たちに助けてもらったとなっては面目ない。

 

 

 しかし、自分たちとはルーツが違うとはいえ、あの田舎町にペルソナ使いがいるとは思わなかった。それに、先ほどその少年少女たちと会談した時に対峙した時の雰囲気は、自分たちと同じ、もしかしたらそれ以上の修羅場をくぐり抜けてきたというのが見て分かった。その中で美鶴の目を引いたのは、彼らのリーダーという"鳴上悠"と少年だった。彼らと共にヒノカグツチという黒幕と激闘を繰り広げたラビリスからの話によれば、悠は他のペルソナ使いと違って、数多くのペルソナを使役する能力があるらしく、その力を持って桁違いの強さを持つペルソナを召喚して、見事勝利したということらしい。その話を聞いた時、美鶴の脳裏で"彼"の姿が悠と重なって見えて、思わず興味を持ってしまった。

 

 ちなみに、明彦は"里中千枝"という自分と雰囲気が似た少女が気に入ったらしい。彼女の方も明彦のことが気にったのか、明彦のことを"師匠"と親しみを込めてそう呼んでいた。他にも"園田海未"という東京から訪れた少女にも興味を持ったらしいが、相手の方は明彦の恰好が上半身裸でマントだけだったので、破廉恥だと明彦を罵って友人の後ろに隠れてしまった。明彦自身はそのことに関して、海未はとてもシャイな性格なのだろうと思い込んでいるようだが、自身の通報されてもおかしくない恰好が原因だということには気づいていない。

 

 

「しかし、本当に良かったのか?ラビリスをGWの間だけとはいえ、あいつらに預けるだなんて」

 

 

 悠のことを思い返していると、明彦からそんなことを尋ねられた。そう、本来なら任務の対象であるはずのラビリスは今この車内にはいない。今頃、稲羽市に残って特捜隊の少年少女たちと観光しているところだろう。何故そうなったのかと言うと、これはその悠たちからのお願いであったからだ。先ほどの会談で美鶴たちが今回の事件解決のお礼に何かしたいと申し出た際、悠は迷うことなくラビリスを見てこう言ったのだ。

 

 

 

"GW中だけでいいからラビリスを自分たちとこの八十稲羽で過ごさせてほしい"

 

 

 

 これには流石の美鶴たちも驚いたものだ。このお願いを美鶴は快く承諾したが、明彦はそのことに眉をひそめた。仮にもラビリスは"桐条"のトップシークレットに該当する遺産の一つだ。助けてもらったとはいえ、出会ったばかりの少年少女たちに預けるのはどうかと思った。一応あの戦いの最中に彼らと親しくなったという風花もついてはいるが、それでも何か起こるのではないかと明彦は危惧しているのだ。だが、

 

 

「大丈夫だ」

 

 

明彦の疑問に、美鶴は断言するようにそう返した。

 

 

「彼らの目を見ると、昔の私たちを思い出してな。私が言うのもなんだが、彼らなら安心してラビリスを任せられると感じたんだ。ラビリス自身も鳴上たちのことを信頼しているようだし、風花もついていれば問題ないさ。明彦はこれでも不満か?」

 

 自身満々と言った感じでそう豪語する美鶴。それを聞いた明彦は観念といった感じで溜息をついた。

 

「そういう訳じゃない……ただ……少し心配だっただけだ」

 

 古い付き合いである明彦はこういう時の美鶴の人を見る目はかなり信用してもいいと若手いたつもりだったが、ここ数年様々なことがあったせいか少し心配症になっていたらしい。

 

「それに、私はラビリスにはアイギスと同じく兵器としてはなく人間として生活してもらいたいと思っていたからな。私たちよりも先に親しくなった鳴上たちに色々一般常識を教えてもらった方が良いだろう」

 

 美鶴のこの発言に明彦は一応納得はしたが、アイギスは一般常識なら美鶴も少し教えてもらうべきではないのかとツッコミたくなった。極秘任務でリムジンで田舎町を訪れると言う極秘任務ではあるまじきことをやらかした美鶴に一般常識うんむんと言われたくない。しかし、そうなると尋ねなければならないことがあると、アイギスは美鶴にあることを質問した。

 

 

「美鶴さん、ひょっとして姉さんを鳴上さんたちの学校に通わせることも考えているのでは?」

 

 

 アイギスの質問に美鶴は少し驚いた表情を見せるも、すぐにフッと笑みを浮かべてこう返した。

 

 

「そうだな、ラビリスがそう望むのであればそうしよう。アイギスもその方がいいと思っているのだろ?」

 

 

 美鶴の返しにアイギスはこくんと首を縦に振った。何を隠そうアイギスも数年前、美鶴たちがまだ学生だった頃に、一時辰巳ポートアイランドの月光館学園に学生として過ごしたことがある。あれはアイギスにとって人間社会を理解するにあたって様々なことを学んだ良い体験だった。それに、あの鳴上悠という少年は自分に色んなことを教えてくれた"彼"に似ていると感じている。それならば、自分の姉…ラビリスを任せても大丈夫だろう。

 

 さて、稲羽での事件は事後処理など色々やることが盛り沢山だが、この他にも解決しなければならないシャドウ事案はたくさんある。自分たちもあの特捜隊の少年少女たちのように頑張らなくてはと美鶴たちはより一層気を引き締めた。色んな意味で今回の事件は初心に帰る良いきっかけになったのかもしれない。

 

 

 

「そういえば"逆ナン"とは何なんだ?」

 

 

「「はっ?」」

 

 そんな良い雰囲気が車内を包んだとき…脈絡も無しに美鶴そんなことを尋ねてきた。せっかく引き締まった雰囲気になったのに、何を聞いて来るのかと明彦とアイギスは思わず呆けてしまう。

 

「いや、風花が鳴上の妹に"逆ナン女"と睨まれながら言われていたのが気になってな。逆ナンとはどういう意味なんだ?」

 

 どうやら先ほどの特捜隊の会談の際、風花が悠にお世話になるからよろしくと挨拶したところ、ことりという鳴上の妹…正確には従妹が"逆ナン女は近づくな"みたいなことを言いながら睨みつけたことが気になったらしい。明彦も"逆ナン"という言葉の意味が分からなかったのか、美鶴と同様首を傾げていた。この2人、どれだけ浮世離れしているのだろうかとアイギスは呆れてしまった。

 

「逆ナンとは女性が外見のみで男性を判断して声をかけ、その内面が己の推察通りかどうかに確かめる行為…いわば、男性が女性にするナンパと同じであります」

 

 呆れながらもアイギスは律義に"逆ナン"とは何なのかを分かりやすく説明した。一応ナンパのことは知っているのか、美鶴は納得という表情を見せた。

 

「ほう……そういうことか。しかし、ということはあの風花が鳴上にその逆ナンとやらをしたということになるが……」

 

「ナン………パ…………」

 

 すると、"ナンパ"という単語を聞いた途端、明彦が何か思い出したくないことを思い出したかのように項垂れた。

 

「真田さん?どうされました?」

 

 様子がおかしくなった明彦にアイギスは心配になって呼びかけるが、明彦は俯いたまま応じなかった。

 

俺は…俺は負けてない………いつかリベンジを

 

「明彦……後でそれはどういうことなのか説明してもらうぞ?」

 

 そんな明彦の様子を見て、美鶴はつい呆れてしまった。どうせ碌なことではないだろうが、聞いておく必要があるだろう。そう思い、美鶴は外の風景に目をやった。

 

 

(あの鳴上という少年……是非ともシャドウワーカーの隊員として迎え入れたいものだな…)

 

 

 美鶴はふとそんなことを考えた。自分たちには果たせなかったラビリスの回収に懐柔、あの事件の黒幕を打倒したという実力、そして何よりあの会談の時に見せた王者のような雰囲気と仲間たちに心から慕われるカリスマ性。こんなどこを探しても見つからない逸材は是非とも迎え入れたい。会談の際に悠に自分の連絡先を渡したのだが、それはこのためだったりもする。だが、

 

 

(…やはり止めておくか。シャドウ事案解決は私がやらなければならない"贖罪"だ。何も関係のない彼を巻き込むわけには……しかし……)

 

 

 シャドウワーカーの目標は世のシャドウ事案…かつて"桐条"が世に撒き散らしたシャドウによる事件の全解決。それはその諸悪の根源である"桐条"の娘である自分が解決しければならない。今更だが、そんなことに無関係な悠を関わらせるのはよろしくない。しかし、あの逸材を放っておくのは勿体ないという気持ちがあるのも事実。

 

(さて、どうしたものか………)

 

 悠をシャドウワーカーに勧誘すべきか否か、そんなことを考えながら、美鶴は稲羽の和やかな風景を呆然と眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ジュネス稲羽支店 フードコート>

 

 

ザワザワザワザワザワザワッ

 

 

 一方、こちらはGWの影響か普段よりもかなりの賑わいを見せているジュネス稲羽支店。昼前のこの時間帯だが、フードコートのいる人はいつもより多い。その中で人々の視線はとあるテーブル席に集中していた。

 

 

「ことり、そう密着しなくても……」

 

「えへへ~♡」

 

 

 そのテーブル席には、自称特捜隊のリーダー鳴上悠の腕にぎゅうっと密着するようにしがみつくその従妹の南ことりの姿があった。あの事件が決着して稲羽に帰ってからずっとこの調子で今朝方、シャドウワーカーの美鶴たちと会談した時も、その後の稲羽商店街の散策の時も、ずっとこの調子で離れないのだ。先ほどのシャドウワーカーの美鶴たちにも奇異な目で見られて居心地が悪かった。

 

「ことり……そろそろ」

 

「ダ~メ!これはことりを心配させた罰って言ったでしょ。今日一日……だけじゃなくて明日もこうしてぎゅっとするの♡」

 

 離れようとする悠に更に密着して、甘い声でそう囁くことり。このままトイレまでついてくる気なのだろうか。だが、今回の事件では色々と心配をかけてしまったことは事実であり、可愛い従妹にこう甘えられるのも満更ではないので、このままこうしていようと悠は思った。もちろんトイレに行くときは絶対に離れてもらうことにする。昼間からいちゃつく(ことりが一方的に)2人に周りはざわついていた。

 

 

「おい、あれ鳴上だぞ」

「鳴上くんって彼女がいたんだ」

「知らねえの?もう学校で噂になってるぜ」

「あれ?確か鳴上くんの彼女ってすごい巨乳って聞いたけど」

「それに学生にしては大人っぽいって」

「でも、あの子ってそんな感じじゃないような」

「まさか浮気?」

 

 

 ざわつく周囲の中にそう八高生たちの気になる発言を聞いた。自分に彼女が居る?しかも巨乳?それに、もう学校で話題になってる?何だろう、嫌な予感しかしない。こういう時の予感は最近よく当たることは多いので、悠は何故か背中に冷や汗が出た。

 

「ねぇ…にこちゃん、あの2人って東京でもああなの?」

 

「まあ……毎日ってわけではないけど……流石にあんなの見せつけられたら、たまんないわよ」

 

「私も散々注意はしているにですが……どうも止まらなくて」

 

「マジで……悠先輩にあんなに堂々と甘えるなんて……菜々子ちゃんもあんな風になるのかな………」

 

「流石にそこまではないでしょう……」

 

 雪子は2人の様子を見て、にこにそう尋ねた。にこ、そして海未は気まずそうな表情で雪子の質問に返答する。それを聞いたりせは強力なライバルが出現したのと、菜々子も大きくなったらこうなってしまうのかとうんざりした表情になっていた。普段ポーカーフェイスを保っている直斗までも微妙な表情になっている。

 

「いくら何でも、見せつけられるこっちの身にもなれって感じよね……羨ましい

 

「真姫ちゃん、本音が出てるよ」

 

「ヴぇっ!」

 

「ユキチャーン!クマもセンセイとコトチャンみたいに甘えた~い」

 

「ごめん、それはむり」

 

「ガビ~ンっ!」

 

 真姫と花陽がそんなやり取りをしている隣では、一番このことに食いつきそうなクマは悠とことりのいちゃつく姿を見て、自分もやりたいと雪子に誘いかける。だが、バッサリと雪子に断られたのでショックでしなしなと机にうつ伏してしまった。ちなみに完二は言えば、外見によらずピュアな心の持ち主であるため、悠とことりの姿に何を想像したのか鼻から出る鼻血を抑えて俯いている。先ほどのシャドウワーカーとの会談で、美鶴の恰好にも鼻血を出していたので、少々貧血気味だった。

 

「花村~、ビフテキまだ~?」

 

「陽介さ~ん?」

 

「まだなのかにゃ~?」

 

「うっせーな!こっちに帰って早々にビフテキ三枚も注文されて、すぐにできるかっての!?この食い気3トリオっ!」

 

 陽介は千枝・穂乃果・凛たち"食い気3トリオ"にビフテキをに注文されて、肉を焼くのにてんてこ舞いになっていた。シャドウワーカーとの会談の後に軽く穂乃果たちを商店街を案内した際に惣菜大学でビフテキ串を数本食したくせによく食べる。千枝はいつものことだが、穂乃果と凛は千枝と妙に気が合ったらしいので、2人が千枝から悪い影響を受けないかと陽介は心の中で心配になった。

 

「穂乃果ちゃん、凛ちゃん、よく噛んで食べてね。ジュネスのお肉って美味しくないから」

 

「天城さん!?さらっとそう言うこと止めて下さいますか!?」

 

 クマをバッサリと切ったばかりの雪子が穂乃果と雪子にそんなことを言ってきた。いつものことだが、いい加減そういうことを言うのはやめてほしいと思う。戦いが終わっても、陽介の心労でストレスが溜まりまくっていた。

 

 

「ここは人がいっぱい居て賑やかやね」

 

 

 雪子の隣でフードコートの賑わいを見てそう呟くのは水色のポニーテールが特徴的な女の子、あの事件を通して仲間になったラビリスだ。今は八高の制服ではなく、先ほどことりや穂乃果、雪子たちに選んでもらった私服に身を包んでいる。身体の機械の部分が見えないようにと、長そでにロングスカートという服装だが、ファッションセンスのある女子が選んだだけあって、ラビリスの雰囲気にバッチリ似合っていた。悠とことりの次に周りの人の視線を釘付けにしている。ちなみに洋服代は雪子たちが陽介名義でツケで支払った。それを聞いた陽介はラビリスのためなら安いものと強がっていたが、またバイト頑張らないといけないと心の中で涙した。

 

 

「八十稲羽って随分と静かな町だなあって思ってたけど、イメージと違って活気があるね」

 

 

 風花も田舎町にしては結構な賑わいっぷりに感嘆していた。だが、風花が座っている席の向かい側は悠とことりである。まだ誤解が解けていないのか、ことりが時々こちらに鋭い視線を送ってくるので落ち着かない。これに風花はどうしたらことりの誤解が解けるのか、そしてどうしたらことりと仲良くなれるのかを溜息をつきながら頭を悩ませた。

 

 人によってそれぞれだが、特捜隊の面々は勝ち取ったひと時の和やかな時間を満喫していたのであった。

 

 

 

 

 

 

「ハァ…それにしても今回は色々あったな…」

 

 千枝たちのビフテキを作り終えてくたびれた陽介はぐでっとテント席のベンチに座り込んでそんなことを言いだした。どうやら、今回のことに関して振り返ろうとしているらしい。これに特捜隊の面々はちょうどいいと思い、話し合いの思考に頭を切り替える。

 

「仲間同士で戦わせられたり、そこに足立が出てきたり、果ては桐条グループのお偉いさんと知り合ったりって……盛り沢山すぎるだろ…」

 

「あははは、確かに…あれだけのことがあったに、一日しか経ってないっていうのも信じられませんけど……」

 

 今朝方の美鶴たちシャドウワーカーとの会談を思い出したのか、皆は思わず苦笑いしてしまった。美鶴たちの会談は最初から落ち着かない雰囲気で始まった。相手が"桐条グループ"の重役ということもあるが、近くに高級感溢れるリムジンが停まっていたり、突然軍用ヘリが上空に現れたりしたしたので、どうしようかと冷や汗を感じざる負えなかった。

 

 それに、服装は目のやり場に困るものだったり、あまりに浮世離れしていたりなど色々とずれているところはあったが、会話してみると【桐条美鶴】は根は優しく、器の大きい人物だなと悠たちは感じた。出なければ、彼女たちの目的であったラビリスをGWだけなら一緒に過ごしていいとOKしてくれなかっただろう。それに、あの事件を解決したこともあってか彼女たちに随分と気に入られたようで、"何かあれば喜んで相談に乗る"と連絡先まで教えてもらった。悠と直斗にとって今追っている音ノ木坂の事件のカギを握っているであろう美鶴たちと繋がりを持てたことは何よりの収穫だった。

 

 

「しっかし、あのヒノカグツチという野郎、本当に迷惑なやつだったぜ。皆月の野郎もだったけど、下手したら現実滅んでたって、笑えねえだろ」

 

 完二は今回の黒幕であったヒノカグツチのことを思い出したのか、うんざりとした感じでそう言った。

 

「ええと…あのヒノカグツチって、人の迷惑を考えないで、自分のことばっかり考えている人の心が集まった存在ってこと?」

 

 りせが確認するようにことりに引っ付かれている悠に尋ねる。

 

「そうだな、恐らく去年この町は霧に包まれた時、”自分だけ助かればいい”と考えた人たちの心が集まって、あのヒノカグツチが生まれたんだろうな」

 

 悠は去年、この町が霧に包まれていたときのことを思い出していた。あの時は町が正体不明の霧に包まれ、原因不明の体調不良が流行り始めたこともあって、町はとんでもない騒動になっていた。考えてみれば、"向こう側の存在"は人がこうでありたいと願った思いの集合体たちだ。それでヒノカグツチという存在が生まれていてもおかしくなかった。ヒノカグツチといえば……

 

「そのヒノカグツチなのですが、僕はあいつが散り際に残した言葉が気になっているのですが……」

 

 あの戦いで悠が召喚した伊邪那岐大神の一撃を受けた後、ヒノカグツチは散り際にこう言っていた。

 

 

 

"あいつが言っていたことと違う"

 

 

 

「あの言葉から察するに、ヒノカグツチは誰かから実体を得るための方法を聞いて、皆月たちを唆して今回の事件を起こしたという訳か」

 

 陽介がヒノカグツチが言葉を思い出して、簡潔に事件に至るまでの経緯を推察した。陽介の推察は悠と直斗と同じ考えなので、そこはあっているだろう。問題は"ヒノカグツチに方法を教えたのは誰なのか?"ということだ。

 

「僕がこの事件で気になったのは、"何故事件が鳴上先輩と穂乃果さんたちがこの稲羽に訪れたときに起こったのか"という点です。皆月たちがそれを狙っていたとも考えられますが、あまりにもタイミングが良すぎます」

 

「ああ。それに、俺たちが見たP-1Grand Prixの予告映像に俺たちはともかく、稲羽に初めて来たばかりの園田たちも映ってたのも変だ」

 

 直斗と悠が自分たちの疑問点を示す。これらの疑問点が解消されるとする答えは、一つしか考えられない。それに気づいた海未が恐る恐るといった感じで2人に尋ねた。

 

 

「それって………私たちが追っている音ノ木坂の犯人かもしれないということですか?」

 

 

 海未の出した答えにその場にいた皆、特にμ‘sメンバーは驚愕した。自分たちが追っている犯人が今回の事件に根底に関わっていると思えば当然の反応である。それに、悠にはその存在に心当たりがあった。穂乃果たちの事件が起こる前に、悠の夢の中に現れた人物がそのヒノカグツチを唆した者かもしれない。しかし、それは現時点ではその可能性があるという訳で、まだ決めつけは良くないと悠と直斗は念を押した。どちらにしろ、このことは事件を追っているうちに明らかになるだろうということで、その話は打ち切った。

 

 

 

「それにしても、あの皆月って人、可哀そうだよ……」

 

 ヒノカグツチについての話が終わると、皆月のことを思い出したらしい穂乃果がそう呟いた。それを聞いた皆は先ほどまで饒舌であったのが嘘であったかのように黙り込む。ちなみにその皆月はというと、あの事件のあと、シャドウワーカーに身柄を拘束され、軍用ヘリで護送された。ヒノカグツチに身体を乗っ取られた影響なのか、はたまた伊邪那岐大神の一撃が効いたのか、悠たちにみせた凶暴性が嘘であったかのように大人しくなっていて、抵抗することもなくヘリに乗り込んだ。しかし、悠を見る目が憎々し気なのは変わっていなかった。美鶴は皆月の処遇は良い様にすると言っていたが、どのようになるのかは悠の知るところではない。

 

 皆月にどんな過去であって、ヒノカグツチと共に今回の事件に及んだのかは先ほど直接話を聞いた悠や事情を知るシャドウワーカーの美鶴から聞いていた。皆月に何があったのかは理解したつもりだが、それでもあのP-1 Grand Prixでの所業を思い出すと許せないという気持ちも出てしまい、あの皆月にどういう気持ちを抱いていいのか分からない。

 

 

「俺も…あいつと同じようになっていたかもな」

 

 

 悠のふと発したその一言に皆はびっくりしてしまった。面を食らったような表情をしていたので、説明不足だったなと思い、悠は何故そう感じたのかを説明した。

 

 あの皆月は自分を"同じ匂いがする孤独な人間"と言っていた。最初はそんなことはないと思っていたが、皆月の目を見た途端、そうなのかもしれないと認識を改めてしまった。あの目はかつて自分も八十稲羽を訪れる前までしていた"孤独"な目であったからだ。もし自分が陽介たちと絆を結べなかったらあんな風になってしまったのではないかとも思った。そう話すと、皆もそのこと想像してしまったのか表情が暗くなってしまった。この話はまずかったかと思ったが、仲間であるみんなにこそ聞いてほしかった。

 

 

「でも、それはもしもの話だ」

 

 

 だが、話はこれで終わりではない。

 

 

 

「俺は今回の事件で改めて思ったよ。俺はあいつと違って信じられる皆がいる。それだけで俺は十分幸せ者だなって」

 

 

 

 真面目な顔と偽りの感じない声色で放ったその言葉に皆は呆然としてしまった。みんなのその反応に何か変なことを言ったのかと悠は少し焦ってしまう。すると、

 

 

「ったく……照れること言うなっての!この人タラシ!」

 

 

 陽介は皆を気持ちを代弁するかのようにそう言うと、悠の背中をバシッと叩いた。見ると、陽介の顔は悠の言葉のせいか照れ臭そうな表情をしていた。それは陽介だけでなく、他のみんなも陽介と同じく照れくさそうな顔をしている。悠の一言がそれほど心に染みたという証拠だ。

 

「でも、あっちで何かあった時は俺たちに言えよ。すぐに東京に駆けつけるからな」

 

 陽介はすぐに神妙な顔つきになり、悠に念を押すようにそう言った。確かに今回のことで、自分たちが追っているのはヒノカグツチを唆したかもしれない恐ろしい存在である可能性が浮上したのだ。その時は自分や海未たちだけでなく、陽介たちの力も借りた方がいいだろう。悠は承知したと言うようにああと言って首を縦に振った。

 

「そうそう!花村の言う通り、超特急で駆けつけるから」

 

「おうよ!先輩のためなら、学校サボってても行くっすよ!」

 

「いや、巽くんはともかく、里中先輩は成績まずいんじゃなかったんですか?」

 

「「ぐっ……」」

 

 千枝と完二の意気込みに直斗はツッコミを入れる。2人は直斗のツッコミに痛いところを突かれたのか、黙り込んでしまった。そういう心意気は嬉しいが、出来れば学力に余裕があったらにしてほしい。ただ得さえ、千枝と完二の学力はアレなのだから。

 

「穂乃果ちゃんたちも何かあったら、すぐに私たちに連絡してね。鳴上くん、自分が危ない時ほど、一人で抱え込もうとするから」

 

「そうそう、先輩ってそういう頑固なことあるからね~」

 

 雪子とりせが穂乃果たちにそう念押しをする。それを聞いた悠はうっとなる。それは去年の"あのこと"を言っているのだろう。あの時のことは一応謝ったつもりなのだが、まだ根に持っているようだ。

 

「あはは、確かに」

 

「薄々分かってたわよ、こいつがそんなやつってことは…私の時もそうだったし…」

 

 穂乃果たちも悠にそういうところがあるということは承知していたらしい。

 

「安心してください。いざとなったら雪子さんたちに連絡しますが、私たちも今より強くなって鳴上先輩を支えてみせますから」

 

 海未の力強い言葉に雪子は自然と笑顔になった。どうやら海未に安心して任せられるような安心感を感じたらしい。ヒノカグツチの対決の中で見せた成長ぶりは悠も見ていたので、これは期待が高まる。

 

「ウチもいざとなったら、鳴上くんたちに協力するで!」

 

「うん。美鶴さんも言ってたけど、私も鳴上くんたちの役に立ちたいからね」

 

 ラビリスも胸をドンと叩いてそう宣言する。傍にいた風花も自分もと悠の方を向いて頷いた。仲間たちのその姿に改めて自分は恵まれていると思った。こんなにも自分を心配してくれる仲間がたくさんいるのだから。稲羽に来る前の自分にはこんなに仲間が出来たことは想像できなかっただろう。もし皆月の言う通り、自分たちが似ているのであれば、皆月にも心から信頼できる仲間と出会えるはずだ。いつか皆月にもそういう仲間と巡り合えますようにと悠は心の中でそう願った。

 

 

 

 

 

 

「よし!湿っぽい話は終わりにして、これからのGWのこと考えようぜ!」

 

 今回の事件の話はこれで終わりにして、GWのことを考えようと明るい調子で話題を変えた陽介。陽介の一言に、皆も賛成と言った感じだった。何はともあれ事件は終わったのだ。それに、邪魔されたとはいえGWはまだ数日もある。今は楽しいことを考えよう。

 

「そうだ!事件解決の打ち上げとして、堂島さん家で宴会ってんのはどうだ?菜々子ちゃんも含めてさ」

 

「おおっ!それ賛成!!」

 

「いや、こんな大人数じゃ堂島さん家入り切れないんじゃないっすか?」

 

 陽介の提案に完二が中々鋭い指摘をする。確かに堂島家は特捜隊メンバーでギリギリの状態だったので、これに穂乃果たちが入るとなると少し厳しい気がする。菜々子は喜ぶかもしれないが、人がぎゅうぎゅうに入ってる我が家を見て、堂島が卒倒してしまうかもしれない。

 

「じゃあさ、天城屋旅館(うち)で打ち上げしない?菜々子ちゃんやラビリスちゃん、風花さんたちもお泊りで」

 

 ここで雪子から中々魅力的な提案を出してきた。確かに天城屋なら大広間で一緒にご飯を食べられるし、打ち上げの場所に最適である。それに菜々子も一緒ならより一層楽しめるだろう。

 

「え?いいのか?だって、今シーズン中……」

 

「大丈夫。こうもあろうかと、鳴上くんたち用の部屋取っておいたから」

 

 陽介の疑問に雪子はそう言うと、ドヤ顔で皆にサムズアップした。こういうイベントの場合、この次期女将に抜かりはない。何はともあれ、事件打ち上げは天城屋旅館に決定した。これには既に宿泊している穂乃果たちはともかく、悠や陽介たち男子組も大いに喜んでいた。

 

「やったー!じゃあ、ことりはお兄ちゃんと一緒の部屋に泊まる~♡」

 

「えっ?良いのか?」

 

「ダメに決まってんだろ!部屋は男女別!」

 

 天城屋旅館で打ち上げをすることが決定した瞬間、ことりがさらっとそんなことを言ってきた。悠は思わず了承しそうになるが、すばやく陽介がツッコミを入れる。そんな美味しいイベントを悠だけにされる訳にはいかないし、あの様子だと間違いが起こりかねない。ことりは拗ねてしまったが、これが最適解である。これ以上この話は止めようと、危機感を感じた陽介は別の話題を振ることにした。

 

 

「そういやお前の叔母さん、もうそろそろ仕事終わるんだろ?」

 

「ああ、さっき電話で八高での用事が終わったから今からジュネスに向かうって。それと絢瀬と東條たちと一緒に学校で愛屋の出前を頼んだって」

 

「マジか。お前の叔母さん、稲羽に適応するの早すぎだろ」

 

「そういや、もうお昼だね。ちょうどいいし、あたしらもお昼は愛屋の肉丼にしようよ。今から愛屋に出前頼むから」

 

「おお!それいいっすね!」

 

「賛成クマ~!」

 

 時刻を確認すると、そろそろお昼の時間を指す頃合いだったので悠たちは千枝の提案に賛成する。悠もちょうど久しぶりに愛屋の肉丼が食べたかったころだったし、穂乃果たちに早速稲羽の味を体験してもらうのにもってこいだ。

 

「愛屋の出前って…どこでも何でも届けてくれるって鳴上先輩が言ってたやつかな?」

 

「確か…学校にいても、ジュネスの中にいても、誰かに追いかけられてる時でも届けてくれるって言ってましたね」

 

「嘘かと思ってたけど…本当にあるっぽいわね……」

 

 μ‘sメンバーは以前悠から聞いていた噂の愛屋の出前は本当だったのかと、再認識する。にわかに信じられない話だが、陽介たちが何も不思議に感じていないところを見るとそう思わざる負えない。すると、千枝は愛屋の出前が初心者である穂乃果たちにいつの間にか持っていた愛屋のメニューを見せた。

 

「穂乃果ちゃんたち、何頼んでもいいんだよ。今日は()()()()()だから」

 

「っておい!何本人の了承もなしに決めつけてんだ!?」

 

「はあ?アンタ毎日ジュネスのバイトやってんだから、みんなに奢れるくらいのお金あんでしょ?」

 

「ふざけんな!!お前、俺がここで時給400円でこき使われてるの知らねえだろ!?」

 

「うわぁ…これだからジュネス王子は……」

 

「それ関係ねえだろ!この肉食獣!」

 

「ああんっ?」

 

 いつも通り痴話喧嘩を始める陽介と千枝。ここまで仲が良いともう付き合ってるんじゃないかと思えるほどなのだが、本人たちは口を揃えて否認している。ここまで来ると当分収まりそうにないので、喧嘩する陽介と千枝をよそに穂乃果たちのリクエストを聞いて、注文するとしよう。

 

「う~ん、どれにしようかな……鳴上先輩は何かオススメはある?」

 

「肉丼だな。稲羽に来たら、これだけは食べたほうがいい」

 

「じゃあ、私はそれにします」

 

「私は………この大盛りを………」

 

「風花さんはどうします?」

 

「う~ん……最近ダイエットしてるから……卵とご飯で」

 

「えっ?」

 

 風花のリクエストにその場は騒然となる。ダイエットしているからと言って、それは良いのだろうか。そういえば、ラビリスはどうしようかと彼女の方を見てみると、ラビリスは悠たちの様子を静かに眺めていた。どうしたのかと思っていると、

 

 

「ふふふ、みんな仲良しさんやな」

 

 

 ラビリスは嬉しそうにそう呟いていた。そして、悠と穂乃果、ことりに向かってこう言った。

 

 

「ウチ…鳴上くんたちと出会えてよかった。お陰でこうして…みんなと楽しく過ごせるから。鳴上くん、穂乃果ちゃん、ウチを誘ってくれて…助けてくれてありがとうな」

 

 

 偽りのない心からの優しい笑顔でお礼を言うラビリスに、悠たちも思わず微笑んでしまった。ラビリスは造られたロボットだというが、その笑顔はそれを感じさせない、むしろ人間というのが正しいのではないかと思わせる人間らしいものだった。ラビリスのお礼を聞いて、悠はふと何かを思い出したかのようにある人物の方に顔を向けた。

 

「高坂」

 

「ん?どうしたの?鳴上先輩?」

 

 悠を向けたのは陽介に焼いてもらったビフテキの残りを頬張る穂乃果であった。これから肉丼がくると言うのにまだ食べてなかったのかとツッコミたい気持ちを抑えて、悠は穂乃果にあることを伝えるために目を合わせて言った。

 

 

「ありがとうな。あの事件の時に俺を支えてくれて。高坂がいたから、俺は目的を見失わずに戦えたよ」

 

 

 あのP-1 Grand Prixの最中に何度も心が折れかけた時、一番自分の近くで支えてくれたのは他ならぬ穂乃果だった。傷ついた悠を見て心配して泣いてくれたり、叱ってくれたりした。穂乃果がいなかったら自分は本当にどうなっていたかは分からない。

 

 

「ぶう…………」

 

 

 精一杯お礼を伝えたはずなのに、何か不味かったのか穂乃果は頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。これには悠も感謝が足りなかったのかと慌てて何が悪かったのかと問うと、穂乃果はそっぽを向きながらもこう答えた。

 

 

「まだ穂乃果のこと名前で呼んでくれないなぁって…」

 

 

「え?」

 

「だって、陽介さんとか千枝さんとかはすぐに穂乃果のこと名前で呼んでくれたのに、鳴上先輩はまだ名字呼びなんだもん。名字呼びって他人扱いしてるみたいで嫌だなって思って………」

 

 穂乃果にそう言われて、悠は唖然としてしまった。何かと思えばそのようなことを気にしていたらしい。そう言えば完二やりせ、直斗は仲間になってすぐに名前呼びにしたのに、後輩が多い今では、従妹のことりや凛、穂乃果の妹の雪穂以外はみんな名字呼びだったことに今更気づいた。深く考えたことはなかったが、もしかしたら穂乃果たちにどこか遠慮しているところがあったのかもしれない。

 

「ははは、確かにそうだな。それじゃあ」

 

悠はそう言うと穂乃果に右手を出した。

 

 

「これからもよろしくな、()()()

 

 

 不意打ちで名前呼びされたので、これには穂乃果も驚いて仰け反ってしまった。しかし、それ以上に悠がやっと自分を名前で呼んでくれたので嬉しくなり、悠の差し出した手をぎゅっと握った。

 

 

「うん!こちらこそよろしくね、()()()

 

 

 

 

 あのP-1Grand Prixの事件は解決した。だが、東京に帰ればまたやらなければならないことはたくさんある。受験もあるし、穂乃果たちとのスクールアイドル活動、そして何より今回の事件で更なる恐ろしい存在が関わっている可能性が浮上した"音ノ木坂の神隠し"。やることは山積みだ。それでも、今はこの仲間の皆で勝ち取った平和な時間を楽しんで過ごすとしよう。

 

 

「おま~ちどう」

 

 

 すると、愛屋の出前娘である【中村あいか】が大きな岡持ちを持ってやってきた。皆は小腹が減っていたのか、待っていましたと言わんばかりにあいかの来訪を歓迎する。人がごった返すフードコートに大きな岡持ちを持って登場したあいかに穂乃果たちは驚愕したが、これは序の口だ。今までのあいかの武勇伝を聞いたら、さぞ卒倒することだろう。さあ、午後の案内のためにも、久しぶりの丼をいただこう。あいかへの勘定も済ませ、皆に肉丼がまわったところで箸をつけようとしたその時だった。

 

「鳴上くん、お帰り。そして、おめでとう」

 

あいかが悠を見るなり、脈録もなくそんなことを言ってきた。

 

 

「えっ……?ああ、ただいま。あいか、おめでとうってどういう」

 

 

 

()()()()、幸せにして上げてね」

 

 

 

「「「「「「はっ?」」」」」」

 

 

「えっ?」

 

 

 あいかの爆弾発言により、その場が一気に凍り付いてしまった。そして追い打ちをかけるかのように、誰かから肩をガシッと掴まれた。背後から覚えのある魔王のような迫力を感じる。この気配はまさかと思いつつ、悠はゆっくりと振り返ってみる。そこにいたのは、

 

 

 

 

 

 

「鳴上くん、ちょ~っと聞きたいことがあるんやけど……ええよね?」

 

 

 

 

 

 

 

悠に安息が訪れるのはまだ先にようだった。

 

 

 

ーto be continuded




Next Chapter

「それじゃあ、皆さん」

「「「「乾杯!!」」」」」

「ここは勇気を振り絞って………」

「どうするんだ!!」

「お仕置きが必要やね……」


「ちくしょう!!良いことなんて一個もない人生!!」


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