PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

先日、執筆中の息抜きで部屋を掃除していたら中学の時に読んでいた浦沢直樹の「MASTER KEATON」が出てきたので、読み直してみました。久しぶりに読んでみると、とても面白かったので、つい一気読みしてしまいました。余談ですが、今作の海未のペルソナである【ポリュムニア】の武器もこの「MASTER KEATON」からヒントをもらったんですよね。

そんな小話は置いといて、改めて新たにお気に入り登録して下さった方、感想を書いてくれた方、アドバイスやご意見をくださった方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。


長らくお待たせしました!いよいよ、アルティメット編最終決戦!果たしてその結末は!?

それでは、本編をどうぞ!


#34「Break out of...③ーLast Battleー」

「悠っ!悠ー!しっかりしろっ!悠!」

「先輩!起きてくださいっ!鳴上先輩!」

「センパイっ!」

「鳴上くんっ!」

「鳴上さんっ!」

 

 

誰かの声が聞こえてくる。聞き覚えのある…温かくどこか安心させる声。それに、先ほどまで身体を蝕んでいた痛みが少しずつ癒されていく気がする。ぼやけてきた視界も段々クリアになっていく。ゆっくりと目を開けると、

 

「よ、陽介………」

 

「大丈夫か?助けに来たぜ、相棒!」

 

目の前に最初の決闘で戦って、友情を再確認した陽介の笑顔があった。視界がクリアになってきたので、よくよく見てみると、陽介は傷だらけであった。そんな傷まで負ってまでここまできてくれたのか。

 

「な、鳴上先輩!良かった……良かったです~~!!」

「にゃ~!鳴上先輩~~!!」

 

ふと見ると、陽介とは別に悠の手を握って涙を浮かべながらも嬉しそうに喜んでいる少女たちがいる。

 

「小泉……凛………」

 

よく見ると、彼女たちも陽介と同様に傷だらけであった。それに陽介や花陽、凛だけではない。千枝や雪子、完二やりせと直人、そしてクマの特捜隊に、海未と真姫、にこのμ‘sの仲間たちがそこにいた。

 

 

「鳴上くんっ!」

「良かった…無事で」

「センパイっ!」

「先輩、ご無事で何よりです」

「うえ~ん!良かった~悠センパ~イ!!」

「うわ~ん!センセイ、良かったクマーーー!」

「ってどこ触ってんだ、エログマ!」

「ぐふっ!」

 

「鳴上先輩っ!」

「鳴上さん……良かった……」

「全く……心配かけんじゃないわよ!ううっ……」

「真姫ちゃんとにこ先輩も心配し過ぎて泣いてるにゃ」

「「な、泣いてない!」」

 

 

「みんな………」

 

この場に仲間の皆がいることに悠は胸が熱くなった。一部セクハラを働いた者や涙で顔がぐしゃぐしゃになっている者もいるが、大切な仲間の姿を見ると、悠は自然と笑顔になった。ふと見ると、悠の傷を癒してくれているのは見覚えのあるペルソナたちを確認する。そのペルソナは雪子の【スメオオミカミ】と花陽の【クレイオ―】。

 

「天城……小泉………ぐうっ」

 

「鳴上くん、動かないで。私と戦った時より、傷がひどいから…」

 

「先輩、無理しないでください」

 

雪子と花陽が傷ついた身体で動こうとする悠を制止する。2人の回復魔法のおかげで大分動けるようになったが、まだ皆月に蹴り飛ばされたところが痛む。そう簡単には治らないようだ。

 

 

 

「鳴上くん、無事やったんやね。良かったわ」

 

 

 

次に悠に話しかけたのは八十神高校のセーラーに水色のポニーテールが特徴的な女の子……そして機械仕掛けの斧を持っている。その後ろに従えているペルソナは確か…【アリアドネ】。ということは、

 

「ラビリス……君まで………高坂と…ことりは?」

 

「あっちの世界で風花さんとシャドウワーカーっちゅう人たちに任せとる。ここはどうもペルソナ使いじゃないと行動できひんようになっとるらしいっちゅうて……でも、風花さんなら安心や」

 

なるほど。道理でいつも一番に駆け寄ってくるあの2人がいない訳である。しかし、風花とその仲間たちが一緒なら安心して任せられる。

 

 

 

「それよりも皆、来るでっ!」

 

 

 

ラビリスの言葉で一同は一斉にラビリスの視線の方を見る。つい先ほどまで”ペルソナの欠片”が浮遊していた場所にはフラフラに立っている皆月しかいなく、”ペルソナの欠片”はなくなっていた。どうやら陽介たちがここに殴りこんできたと同時に、ラビリスが破壊したらしい。皆月は大事なものを破壊されたせいか、燃え盛るような赤い瞳でこちらを睨んでいた。

 

 

「よくもやってくれたな………もうすぐ"あの子"の世界が完成するところだったのに……」

 

 

皆月から今までに見たことがないほどの殺気を感じる。いや、あの感じは皆月ではなく、"ミナヅキ"の方だ。自ら立てた計画が成功間際に頓挫されたので、その怒りは尋常ではないだろう。今すぐ自分たちに襲い掛かってもおかしくない状況だ。

 

 

「やる気ってんなら受けて立つぜ。あの時のリベンジがまだだからな」

 

 

陽介はミナヅキを見ても臆せず、まだ手負いの悠を守るかのように立ち塞がって戦闘態勢に入った。皆も陽介と気持ちは同じなのか、陽介に続いて戦闘の構えを取る。そして、りせは早速【コウゼオン】を召喚してサポート体制に入る。その様子を見たミナヅキは殺気を醸し出しながらも小馬鹿にするように吐き捨てる。

 

 

「ふん、死に損ないが何人来ようが俺に勝てるわけないだろ。"絆"なんて弱いやつが群れるための言い訳だ……"孤独"こそ本当の力だということを教えてやる!」

 

 

ミナヅキはそう言うと、床に落ちていた自身の刀を拾い上げて構えを取った。

 

 

 

 

ーカッー

【ツキヨミ】!!」

 

 

 

 

それと同時にミナヅキは手に取った刀を横に振るったと同時に、ミナヅキの背後にペルソナが出現した。頭に三日月を思わせる意匠をあしらえ、漆黒の刀剣を携えた黒衣が特徴的恰好をしている。ミナヅキが召喚したペルソナを見て、りせはその戦闘力の高さに驚愕した。

 

『うそ…あいつ、ペルソナ持ってたの!?しかもこの戦力って………みんな、気を付けて!あのペルソナ、結構強いよ。妙な力を持っているから、みんなで束になっても勝てるかどうか……』

 

りせの解析によりそのような結果が出た。しかし、ミナヅキの話では"桐条"が強いた実験は失敗に終わったはずではなかったのか?なにがどうあれ、ミナヅキがペルソナを持っていたとは想定外だ。足立や悠に使った能力はまだ序の口だったということだろう。しかし、その報告を聞いても、陽介たちは怯む様子はなかった。

 

 

「へっ、何が相手だろうが関係ねぇ!お前ら、全力で行くぞっ!!」

 

 

「「「「「おお(はい)っ!!」」」」

 

 

陽介が喝を入れるように鼓舞すると皆の士気が一気に高まった。流石は自称特捜隊副リーダー。幾度か悠の代わりに皆を引っ張ったことはある。しかし、その様子が気に入らなかったのか、ミナヅキは陽介たちを見る表情が更に歪んでいた。張り詰めた緊張の中、陽介たちがミナヅキの【ツキヨミ】に対抗すべく己のペルソナを召喚しようと、各々が自分のタロットカードを発現させて砕こうとしたその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やってくれたの……"死の羽根"を宿し者よ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、緊迫した雰囲気の中に何者かの声が聞こえてきた。その声からして、聞き覚えの無いものと間違いない。悠たちは誰か来たのかと辺りを見渡したが、どこにもいない。だが、皆月は違った。

 

 

「この声……まさか、()()()()か!!」

 

 

皆月はその声に聞き覚えがあるようだ。だが、その表情は先ほどと打って変わって青ざめている。何が起こったのだろうか?それに、カグツチとは一体……

 

 

 

「せっかく我が力を貸してやったというのに、使えぬ傀儡よ。お陰で計画は台無しだ」

 

 

 

刹那、ミナヅキとツキヨミの周りを赤い霧が覆い始めた。それは今この稲羽市を覆っている霧と酷似していたので、悠たちはぎょっとなる。ミナヅキは焦りの表情を見せる。

 

「や…やめろ……やめろくれっ!俺は"あの子"のために……」

 

ミナヅキはそう訴えかけるが、お構いなしにミナヅキを覆う赤い霧はどんどん濃くなっていく。ミナヅキの表情が段々苦しくなっているにも見える。

 

 

 

 

 

「落とし前として、貴様らの身体をもらい受ける」

 

 

 

 

 

「う…うああああああああああっ!」

 

 

 

 

カグツチと呼ばれた声がそう宣言した途端、ミナヅキは悲鳴を上げて苦しみだした。悠たちは困惑してただ成り行きを見守るしかなかった。何かアクションを起こそうとした瞬間に赤い霧は消え去り、代わりに虚ろな表情で立ち尽くしているミナヅキがそこにいた。何が起きたのかと思った途端、ミナヅキの目が怪しい金色に光り、それに呼応するかのように皆月の身体が赤色に染まっていく。身体は皆月のものを残しているものの、もはや端から見れば別物と化していた。

 

 

 

 

 

 

「くくく……やはり身体があるとは良いものよなあ………実に良い………」

 

 

 

 

 

 

それから発せられた声に一同は動揺する。その声は皆月のものでもミナヅキのものでもない、違う誰かの声に変わっていたからだ。皆月が"桐条"の非道な実験により二重人格だという事実を含めても、あまりに変わりすぎている。

 

「な、何なんですか…これは……」

「こ、この人……どうしたんですか……」

「まるで…もう別人みたいじゃない……」

 

海未と真姫たちはありえないものを見たかのように声が震えている。普通ならこうなるはずなのだが、特捜隊のメンバーは皆月の様子にデジャヴを感じていた。

 

 

「お、おい…これって……足立の野郎の時と同じじゃねえか?」

 

 

皆月のその様子を見て、完二はそう言った。その言葉に特捜隊メンバーに衝撃が走る。足立の時と同じというキーワードが去年のあの光景を思い出したからだ。

 

「ま、まさか…こいつは………りせっ!」

 

陽介は完二の言葉に何か察したように、りせに確認をとった。そして、改めてミナヅキの状態を解析したりせは皆にこう言った。

 

 

 

「うん!完二の言う通り、こいつの意識はもう()()()()()()っ!私たちが"アメノサギリ"と戦ったときと同じだよ」

 

 

 

りせの報告を聞いたμ‘sメンバーは頭にハテナを浮かべたが、特捜隊メンバーは動揺を隠せなかった。

 

 

 

 

アメノサギリ

 

 

 

 

かつて稲羽のテレビの世界で晴れぬ霧を発生させて、自分たちの町に垂れ流した"向こう側の存在"。

 

 

「くくく……まさにその通りだ。そこな小娘の言う通り、我はこの町が晴れぬの霧に包まれた時に生まれしもの。鳴上悠、そして特捜隊の者ども、貴様らとは因縁浅からぬ間柄よ」

 

 

皆月の身体を乗っ取った何者かはそう言うと、悠たちの方へ向き直って邪悪な笑みを浮かべたまま己の名を告げた。

 

 

 

 

「我が名は【ヒノカグツチ】。"他者を顧みぬ他者とのつながりをかなぐり捨て個の為にのみ生きようとする者たちの総意"。生きとし生ける者全てを殺し尽くす者よ」

 

 

 

 

ヒノカグツチはまるで見せつけるかのように、禍々しいオーラを放ってそう言った。改めて皆月に乗っ取ったヒノカグツチを見ると、そのオーラは尋常じゃない。"アメノサギリ"程ではないにしても、皆月の身体から感じるその迫力に悠たちはあの時の絶望を思い出すほどに絶句してしまった。

 

 

「あ、アメノサギリ?って何ですか…それに、ヒノカグツチって……どれも日本神話に登場す名前なんじゃ……」

 

 

海未は絶句する悠たちを見て、震えながらも質問した。自分たちより手練れであるはずの陽介たち、果ては類いまれなる力で今まで自分たちを助けてくれた悠ですら、皆月に乗り移っている存在に絶句しているので聞かずにはいられなかった。その質問に陽介は平静を保って答える。

 

「海未ちゃんたちは知らないから分からないんだろうけど、俺たちが去年あの連続殺人事件を追いかけてる時に、テレビの世界の霧が現実に漏れ出したことがあったんだよ。その犯人がアメノサギリっていうテレビの世界に居たやつだったんだ」

 

「なっ……じゃあ、目の前にいるのって……その」

 

 

「ああ、あいつみたいに実体はないようだが、こいつもアメノサギリと同じ"向こう側の存在"……こいつが真の黒幕か!」

 

 

考えてみれば、"桐条"から非人道的な実験を強いられていたとはいえ、このような大掛かりなことを皆月たちだけで思いついたとはありえない。皆月が足立のように"向こう側の存在"に力を与えられていたのなら、それを与えていた存在がいると考える方が自然だった。それにしても、あの連続殺人事件を解決したことによって"向こう側の存在"は全ていなくなったと思っていたが、まだ生き残りがいたとは思わなかった。そう思っていると、

 

 

 

「そ、その声は……アンタやったんやね!ウチの夢の中に現れた声は!!」

 

 

 

ラビリスは何か思い当たるところがあったらしく、ヒノカグツチに向かってそう言った。ラビリスにそう質問されたヒノカグツチは何が可笑しいのか、笑いながらラビリスの質問に答えた。

 

 

「ハハハハッ、その通りだ。眠っておったお主の願望を我が計画に利用しようと思ったのだ。幻想とはいえ願いを叶えさせたお主を特捜隊や外から来た小娘どもに差し向けてペルソナの力を削ぐ役割をさせたつもりだが、まさか特捜隊の者どもに誑かされた挙句にペルソナを覚醒しよるとは。人形の分際で生意気よ」

 

 

ヒノカグツチの言葉はこの場にいる悠たちの怒りを煽るのに十分なものだった。まだ出会ったばかりとはいえ、ラビリスは自分たちの仲間だ。仲間をバカにされるのはとても腹が立つが、怒鳴り散らしたい気持ちを抑えつける。

 

 

「お前の目的はなんだ?」

 

 

悠がそう問いただすと、ヒノカグツチはニヤリと笑って答えた。

 

 

 

 

「我の望みはただ一つ…完全なる実体を手に入れることよ」

 

 

 

 

「何?」

 

 

「貴様らに言う通り我にはあのアメノサギリのように実体がない。完全な実体を手に入れるためには、大量のシャドウとそれを制御する"ペルソナの欠片"が必要だということを聞いたのでな。そのために、こ奴らとお主らを利用したのだ。集めたシャドウと融合し、"ペルソナの欠片"を喰らえば、我は実体を持って現実世界に降臨するという寸法よ。あの小僧がシャドウと"ペルソナの欠片"を集める計画を練ってくれたが、実に良い計画だった。最も、あの小僧は()()()()()()()()()ことは思ってもみなかっただろうがな」

 

 

ヒノカグツチに言葉に、皆はより一層怒りを感じた。つまり、こいつは元から計画を練ってくれた協力者である皆月を裏切ろうとしていたのだ。アメノサギリと違って、あまりに自分勝手すぎる。

 

 

「し、しかし、あなたの計画はたった今失敗に終わりました。今更どう足掻こうが、あなたの負けです!」

 

 

ヒノカグツチの計画をの詳細を聞いて、海未は恐怖を押し殺して反論する。確かに、先ほどヒノカグツチの計画の要である"ペルソナの欠片"は破壊された。海未の言う通り、その時点でヒノカグツチの計画は失敗したのも同然のはずである。だが、ヒノカグツチは海未の反論にそれがどうしたと言わんばかりに嘲笑った。

 

 

 

「ハハハ、我を前にして口答えするとは中々強かよの、外から来た小娘よ。確かに計画は失敗した…だが、まだ我は()()()()()()()()()。今回はこのような結末だったが、次はそうはいかん。こ奴らの身体で生きながえながら次の機会を待つだけよ」

 

 

 

堂々と再犯予告をするヒノカグツチ。またの機会が来るまで皆月の身体を利用して逃げ続けるということだろう。そんなことはさせまいと、悠たちは戦闘態勢を取る。

 

 

 

 

「だが、その前にまず貴様を消しておかなければならんの、()()()

 

 

 

 

「!!!」

 

ヒノカグツチが悠に向かってそう言ったので、悠本人のみならずその場にいる陽介たちも動揺した。

 

 

「どういうことだ!?」

 

 

「貴様のせいで、今回の計画は狂ったのだ……正確にいえば、()()()()()()()()()のせいでな」

 

 

悠の中にあるものと聞いて、一同は困惑する。だが、悠本人には心当たりがあったので、反射的に自分の胸に手を当てた。

 

 

(もしかして、こいつは"女神の加護"のことを言っているのか?)

 

 

自分の中に今あるものと言ったら、アレしか思いつかない。あの宝玉にどのような力があるのかは、悠はおろかベルベットルームのイゴールやマーガレットでさえ、未だに正体が分かってないのだ。今までは、イゴールの推測通り悠が何者かにかけられた呪いを打ち消す効果しかないと思ったが、アレにはどうもヒノカグツチにとって都合が悪い力もあるらしい。すると、

 

 

 

 

「邪魔のものは全て消しさればならん」

 

 

 

 

ヒノカグツチがそう言うと、皆月の身体を再び赤い霧に包み、別の姿へと転生した。その姿はミナヅキのペルソナであるツキヨミ。姿こそは変わっていないものの、普通のペルソナより一回りも大きく、足立の【マガツイザナギ】と同じく禍々しい雰囲気を醸し出していた。その姿を目のあたりにして、悠たちは絶句してしまう。

 

 

 

 

 

 

「鳴上悠よ、仲間と共に絶望しながらこの世から消えるがよい」

 

 

 

 

 

 

ヒノカグツチが悠たちにそう言った瞬間、上空に渦を巻いていたシャドウたちが一斉にヒノカグツチに向かって急降下してきた。それを確認したヒノカグツチは掌を上に向けると、集まってきたシャドウが灼熱の業火に変化する。それを解析したりせから驚愕の声が聞こえた。

 

 

『な、何アレ……って危ない!!』

 

 

だが、りせの警告は遅く、ヒノカグツチは悠たちに向けて業火を放っていた。悠は無謀と思いながらも、みんなを守るためにペルソナを召喚しようとする。その時、

 

 

 

 

ーカッ!ー

「正当防衛ですっ!【ヤマトスメラミコト】!!」

 

 

 

 

ヒノカグツチの業火が悠たちに向けられる寸前に、悠より早く直斗が己のペルソナを召喚し、皆の前に機動隊が使うようなシールドを発現させる。その瞬間、地獄の業火が悠たちを襲った。幸い直斗が張ったシールドのお陰で皆無傷で済んだ。直斗の盾がなければ死傷者が出ていただろう。

 

 

「ッハハハハハ。呆れた胆力だ。どんなに足掻こうが、仲間同士で戦い続けた貴様らに勝機はないわ!」

 

 

ヒノカグツチは直斗の必死の抵抗を嘲笑うと、弄ぶように追い打ちをかける。このままではみんなに直撃してしまう。次こそはと、悠はみんなを守るためにタロットカードを砕いた。

 

 

 

ーカッ!ー

「【ジャックランタン】!」

 

 

 

火炎ならこいつが有効だと、悠はジャックランタンを召喚する。だが、召喚されたと同時に、ヒノカグツチの業火がジャックランタンを襲う。結果的に皆を守れたが、業火の火力が想像以上だったのかジャックランタンは業火を吸収しきれずに消滅し、悠はフィードバックで大ダメージを負ってしまい、床に膝をついてしまう。

 

 

「そんな……鳴上先輩が」

「こんなの……勝てる訳ないじゃない」

「にゃ~………」

 

 

悠が戦闘不能になったのを見て、海未たちは委縮してしまった。それ以前に、あのヒノカグツチは今まで戦ってきた他人の暴走したシャドウとは迫力が桁違いだ。そんなものに立ち向かうのは正気の沙汰じゃない。その様子を見て、ヒノカグツチはニヤリとした。

 

 

 

 

 

 

「終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

そして、トドメトばかりにヒノカグツチは悠に向けて業火を放とうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうはさせねえよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、業火を放とうとしたヒノカグツチに大爆発が襲い掛かった。それに怯んでしまい、業火は明後日の方向へと飛び出してしまった。それをやった張本人は、【タケハヤスサノオ】・【スメオオミカミ】・【ハラエドノオオカミ】・【タケジザイテン】・【カムイモシリ】。つまり、特捜隊メンバーのペルソナたちだった。

 

 

「陽介さん!?」

「雪子さん?それに、千枝さん?」

「完二さん………クマさん…」

 

 

自分たちよりも前に出て、あのヒノカグツチに立ち向かった姿勢に海未たちは驚きを隠しきれなかった。悠は陽介たちの方を見て、頼もしく思ったのか陽介に向けて拳を出した。

 

 

 

「頼んだ」

 

「ああ、ここは任せとけ」

 

 

 

悠と陽介は互いにそう言って拳を交わした。たったそれだけのやり取りだったが、2人の間に固い信頼があるのを海未たちは感じた。それに、陽介だけではない。千枝に雪子、完二やりせやクマ、そして直斗もそれに応じるかのように頷いてヒノカグツチと対峙した。

 

 

「き、貴様ら……よくも……」

 

 

ヒノカグツチは陽介たちを憎々し気に睨みつけるが、陽介たちは怯まずにヒノカグツチを睨み返す。

 

 

「なーにが実体を手に入れるためだっての。そんなことで、俺たちの大切な場所を奪われてたまるかってんだ!!」

 

 

陽介がそう叫んだと同じ瞬間、陽介のペルソナのタケハヤスサノオはヒノカグツチの懐に入り込み、目にも止まらぬ速さで攻撃する。だが、多少攻撃が通じたものの、ヒノカグツチはすぐに態勢を整えて、陽介たちに向かってまた業火を放つ。しかし、ヒノカグツチの業火が直撃する直前、雪子のスメオオミカミが皆の前に立ち、業火を全て吸収した。

 

 

「みんなの楽しみを奪っておいて、自分勝手な理由で死ねだなんて…絶対に許さない!!」

 

 

雪子がキッと睨んでそう言うと、その隙に千枝のハラエドノオオカミが腹蹴りを、完二のタケジザイテンとクマのカムイモシリが突進攻撃をヒノカグツチの腹部に繰り出した。

 

 

「せっかく鳴上くんと穂乃果ちゃんたちが都会から遊びに来てくれたのに、アンタのせいで台無しだっつの!」

「テメェがぶっ倒される覚悟はできてんだろうなぁ?ゴラァ!!」

「クマの大切なセンセイたちを巻き込んでヒドイことさせたなんて…許さないクマ!!」

 

 

パワーのある3体のペルソナの攻撃を受けて、ヒノカグツチは唸り声を上げて後退する。

ヒノカグツチが3人の攻撃に怯んでいるのを好機に、直斗はヒノカグツチの周りに光魔法の魔方陣を発現させた。

 

 

「皆さんの楽しみを奪った報い、きっちり受けてもらいます!!」

 

 

直斗がそう言ったと同時に、ヤマトスメラミコトの光魔法が発動した。魔方陣から放出される光がヒノカグツチを包んだ。これで決まったかのようにみえたが、ヒノカグツチは消えることなかった。

 

 

 

「効かぬ効かぬ!!我にそんな小細工は……ぐっ!」

 

 

 

ヒノカグツチはそう豪語しようとした瞬間を狙って、先ほどまで気配を消していたラビリスが思いっきり斧を振り落として、ヒノカグツチを床に叩きつけた。

 

 

「ウチも陽介くんたちと同じや。鳴上くんや穂乃果ちゃんたちを傷つけてといて、ただで済むと思わんどいて!!」

 

 

ラビリスの攻撃が効いたのか、ヒノカグツチは先ほどよりもダメージを受けているように見える。ここが踏ん張り時だと、陽介は皆を奮い立たせて、己のペルソナを突進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

another view(海未)

 

私は何をしているのでしょう……

 

 

目の前で陽介さんたちが戦っている姿を見て、私はそうすることしか出来ない自分を情けないと思いました。陽介さんたちはあのヒノカグツチという到底私たちでは敵わないバケモノを相手に臆せず、果敢に立ち向かっています。さっきまで私はあのヒノカグツチという化け物の迫力に震えていたのに、今は震えが止まり、陽介さんや雪子さんたちの戦っている姿に目が離せませんでした。だって、あの方たちの目はどこまでも澄んでいて、真っすぐだったのですから。あれが、鳴上先輩が昨年一緒に戦った仲間の姿…………

 

 

 

私も……あの方たちに近づきたい!

 

 

 

陽介さんたちの戦っている姿に触発されて、私は不意にそう思いました。今はまだ未熟で、陽介さんや雪子さんたちと肩を並べるなんておこがましいですが、少しでも……あの人たちに近づきたい!ここで弱音を吐いていても始まりません。

 

私はそう自身を奮い立たせて、立ち上がります。すると、花陽も凛も真姫も、そしてにこ先輩も同じ気持ちだったのか、私に呼応するように立ち上がりました。私たちも戦いましょう!鳴上先輩を守るために………そして、一歩でも特捜隊の皆さんに近づくために!!

 

 

 

 

 

 

 

ーカッ!ー

【ポリュムニア】!!」

 

 

 

 

 

 

 

another view(海未)out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バアアアアアアアン

 

 

 

「ぐおおっ!だ、誰だ!!」

 

 

 

ヒノカグツチが新たに陽介に向けて業火を放とうとした途端、ヒノカグツチの肩に一本も矢が突き刺さった。誰がやったのかと振り返ってみると、

 

 

 

 

「海未ちゃん!!」

 

 

 

 

それをやったのは他でもない、真剣な目でヒノカグツチを見据えている自分たちの新たな後輩の一人である海未であった。

 

 

「陽介さん、すみません!!遅れながら私たちも参戦します!」

 

 

その声にもうヒノカグツチに対する恐怖は感じられない。しっかりとした戦意を持って戦いに参戦している。だが、今の海未の攻撃はあまりヒノカグツチには効かなかったようだ。

 

 

「小娘が……生意気な!!」

 

 

ヒノカグツチは今度は海未をターゲットにしたのか、掌の業火の玉を海未に向けて放つ。ポリュムニアは何なくヒノカグツチの攻撃を紙一重に躱した。それに苛立ったのか、ヒノカグツチは次々とポリュムニアに向けて業火を放っていく。そして、ついに業火がポリュムニアの身体にかすってしまい、ポリュムニアの動きが鈍ったのを機にヒノカグツチは追撃をかける。瞬間、待っていましたと言わんばかりに海未は不敵に笑った。

 

 

 

「今です!みんな!!」

 

 

 

 

ーカッ!ー

「「「「ペルソナ!!」」」」

 

 

 

 

海未の合図と同時に凛の【タレイア】、花陽の【クレイオー】、真姫の【メルポメネー】、にこの【エラトー】の魔法が一つに合体してヒノカグツチの急所に直撃した。雷撃・疾風・火炎・氷結属性が合わさった攻撃は相当な威力があったのか、ヒノカグツチは呻き声を上げながら膝をついた。ヒノカグツチに膝をつかせるほどの攻撃を放ったμ‘sたちに陽介たちは思わず感嘆した。悠からはまだ覚醒して日が浅いと聞いていたが、これほどまでとは思わなかった。感嘆したと同時に、自分たちも負けられないと陽介たちは士気を更に高くした。

 

 

 

『よし!海未ちゃんたちのお陰で、ヒノカグツチの動きが止まったよ!仕掛けるなら今がチャンス!アーユーレディ?』

 

 

 

「OK、りせ!お前ら!一気に攻めるぞ!!」

 

 

 

りせからそのような報告が入り、攻め時だと悟った陽介の号令で皆は一気にヒノカグツチの元へ攻め込んだ。この調子ならいける。誰もが、そう思った時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小賢しい羽虫どもが!調子に乗るなあぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒノカグツチはついに本気を出したのか陽介たちの総攻撃を受ける前に、炎の衝撃波を発生させて陽介たちを退ける。今の攻撃で陽介たちは結構なダメージを受けたのか、すぐに動けそうになさそうだ。

 

 

 

 

「茶番はもう終わりだ!我が業火を持って、一人残らず焼き尽くしてやる!!」

 

 

 

 

ヒノカグツチは今までの仕返しと言わんばかりに、両手を上空に掲げて、発現させた業火の出力を更に倍増させた。それは業火というには生ぬるい、小さな太陽のようだった。あれがこちらに放たれては一溜りもない。放たれたら完全に終わりだ。

 

 

(まずい、このままじゃ…………)

 

 

悠は何とかしようと身体を起こそうとする。その時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全く……見てらんないよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒノカグツチの業火が再び繰り出されようとした瞬間、青いタロットカードが発現され砕かれた。それによって召喚されたペルソナが倒れている陽介たちの前に立ち塞がって、業火を放とうとするヒノカグツチに一太刀浴びせた。不意を突かれたせいか、ヒノカグツチは両手に発現した小太陽を維持しきれず、自身に落としてしまう。

 

 

 

「ぐおおおお!き、貴様っ!!」

 

 

 

何が起こったのかと見てみると、そこにいたのは【マガツイザナギ】だった。このペルソナを使役する人物は一人しかいない。

 

 

『はぁ……詰めが甘いんだよ君たち。せっかくお膳立したのに………僕が目覚めるまで片付けてくれないんだからさ……』

 

 

マガツイザナギからくたびれた様子を想像させる足立の声が聞こえてくる。今の状況から察するに、足立のマガツイザナギが皆を守ってくれたのだ。その足立の行動に悠は思わず驚くしかなかった。今までの足立は自分たちにヒントを与えることはあっても、直接手助けをすることなどなかったはずだ。

 

 

 

『……今回だけだよ。僕もやらなきゃいけないことがあるんだから。さっさとやっつけてよね』

 

 

 

足立はそう言うと、マガツイザナギは【道化師】のタロットカードに姿を変えて、悠の中に入ってくる。その瞬間、悠の中に荒ぶる力が湧いてくるような感覚が襲う。そして、その力を抑制しようと、"女神の加護"たちが輝きだす。それを感じた悠はヒノカグツチの方をみて、ニヤリと笑った。

 

 

「な、鳴上先輩?どうしたんですか?………えっ!?」

 

 

悠の様子が心配になったのか、近くにいた花陽は悠の顔を覗き込んだ。すると、悠は立ち上がってスタスタとヒノカグツチの方に歩みを進めようとした。

 

 

「待ってください!先輩はまだ……」

 

 

まだ完全回復してないのに、戦場に出るのは危険すぎる。花陽は悠を何としても止めようと悠に抱き着いた。すると、突然悠はこちらを振り向き、自分を行かせまいとしがみつく花陽の頭をあやすように撫でた。

 

 

「え……」

 

「大丈夫、すぐに帰ってくるから。待っていてくれ」

 

 

悠は花陽の頭を撫でながらそう言われては何ともいえなくなる。だが、不思議なことに悠のその真っすぐな瞳を見ると、何かやってくれるような予感がした。それに応じようと、花陽は悠の目を見て願うように言った。

 

 

「…必ず帰ってきて下さいね。みんな待ってますから」

 

「ああ、必ずだ」

 

 

悠はそう言うと、真っすぐにヒノカグツチの元へと歩いていった。花陽は悠に頭を撫でられてたせいか、顔を真っ赤にしてながらも、悠の無事を祈るかのように手を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、悠はゆっくりと歩いていき、カッターシャツのボタンを外していく。先ほどのダメージが動けるようになった陽介たちも、悠がヒノカグツチの元へ歩いていくのを見て止めようとしたが、それは阻まれた。今の悠が纏っている雰囲気を感じて大丈夫だと直感したのだから。

 

 

 

 

「何のつもりだ…仲間に頼らねば何も出来ぬ人間風情が。手負いの貴様が何をしようと、もはや貴様と仲間たちの運命は変わら…………むっ!?」

 

 

 

 

ヒノカグツチは自分の元に向かってくる悠をそう罵ったが、すぐに表情が険しくなった。さっきまでとは違い、悠に身に纏っている雰囲気に途轍もないものを感じていた。

 

 

 

「ああ、お前の言う通りだ。俺は一人じゃ何も出来ない、ただの人間だ。でも、()()()()()()()

 

 

 

悠は歩み寄る足を止めて、自分を見下ろすヒノカグツチを見る。黒縁のメガネから覗くその瞳はどこまでも真っすぐだった。

 

 

 

 

「仲間がいたから……俺を信じてくれるみんながいたから、ここまでやってこれた。みんなとの"絆"があったからこそ、俺はここにいる」

 

 

 

 

悠はマリーの日本刀を抜刀して、鞘を地面に投げ捨てる。

 

 

 

 

 

「終わりにしよう、この戦いを。俺たちの"絆"で!」

 

 

 

 

 

悠はそう宣言すると、自分の目の前に一枚のタロットカードを顕現する。顕現されたタロットカードは次第に青く眩い光り、今までのタロットカードよりも大きな輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

 

千が死に逝き、万が生まれる

 

 

 

 

 

 

感じる。悠のイザナギと足立のマガツイザナギ…二つのイザナギの力一つに溶け合って生まれる、今までに感じることのない相反する力の融合。荒ぶるその力を制御するため、光り輝く"女神の加護"たち。この場にいる陽介たち特捜隊と海未たちμ‘sたち仲間との変わらぬ"絆"。

 

 

 

 

 

 

「鳴上!しっかり決めてきなさい!!」

「先輩!!必ず帰ってきてください!」

「鳴上さん……お願い」

「行っくにゃー!鳴上先輩!」

「信じてます、鳴上先輩」

 

 

「鳴上くん!任せたで!」

「センセイ!一発かましたれい!」

「先輩、頼りにしてますから」

「いっけーーー!悠センパイ!」

「センパイ!ガツンと一発決めてくれ!」

「大丈夫!鳴上くんなら出来る!」

「いつも通り、すごいの頼んだよ!」

「美味しいとこ、持ってけ!相棒!!」

 

 

 

 

 

 

そして……あの世界で悠の無事を祈る3人の少女の"祈り"

 

 

 

 

『鳴上くん、頑張って!』

『お兄ちゃん、待ってるから。無事に帰ってきて!』

『鳴上先輩!ファイトだよ!!』

 

 

 

 

それらは大きな一つの力へと変わって、発現したタロットカードに集中し輝きを増してく。やがて、そのカードのイラストは【世界】に変化した。悠はそれを目の前の敵を倒すために解放すべく、日本刀を逆手に持ち替えて構え、その名を叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊邪那岐大神(イザナギ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【世界】のタロットカードを日本刀を突き刺すようにして砕くと、悠の背後に【イザナギ】が召喚される。そして、イザナギは神々しい光に包まれて今までは違う姿に転生した。

 

 

 

黒い学ランは白い長ランに

手に持つ大剣は金の環の大太刀に

そして雰囲気は荘厳さを感じさせるものへと変化した。

 

 

 

その姿に転生したそのペルソナの名は【伊邪那岐大神】。かつてあの連続殺人事件の黒幕をも打倒した、悠の最強のペルソナだ。

 

 

 

 

「イ、イザナギが進化したにゃ!」

「すごい……」

「これも…鳴上先輩のペルソナ……」

「まるで神様みたい」

「あいつ……」

「鳴上くんって、本当に何者なんや……」

 

 

 

ヒノカグツチとは違う、伊邪那岐大神が放つ神々しいオーラに陽介と海未たちは圧倒される。だが、陽介たちはそれを見て、悠ならやってくれると安心感を抱いていた。それに反してヒノカグツチは何か伊邪那岐大神に恐れを感じて震えていたが、意を決して伊弉諾狼大神に最大出力の業火を放った。だが、伊邪那岐大神は大太刀を振るって、業火をいとも簡単にかき消した。

 

 

 

「ば、バカな!こんな……こんなことが……」

 

 

 

己の攻撃が打ち消されたことにヒノカグツチは動揺する。その隙に、伊邪那岐大神は手に持つ金の環の大太刀を手元で一回転させて大きな輪を作る。そして、その輪から金色のオーラが集まってヒノカグツチに向けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりだ!ヒノカグツチ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グオオオオオオォォォーーーー!!」

 

 

 

雷撃の如く伊邪那岐大神が放ったその光の渦はヒノカグツチに直撃する。途端、使役していたツキヨミは徐々に霧状に崩れていき、皆月の身体が露わになった。そして、その皆月の身体から赤い霧のような存在が追い出されるように飛び出して、その姿を消していく。あれがヒノカグツチの本体なのだろう。伊邪那岐大神の攻撃により、本体が保てなくなったようだ。

 

 

 

 

 

「バカな……我れが……"絆"などという…まやかしに………あやつの話とは違う……」

 

 

 

 

ヒノカグツチはそう言い残して、光に飲まれて跡形もなく消滅した。ヒノカグツチが消滅した途端、先ほどまで赤色に染まっていた空間が徐々に元の形に戻っていく。全て収まったときには空には大きい満月が浮かぶ夜空へと変わっていった。

 

 

「終わった……」

 

 

悠はヒノカグツチが完全に消滅したのを感じると、全ての力を出し切ったように床に倒れこんんだ。それに呼応して、役目を終えた伊邪那岐大神も青い光に包まれ、イザナギの姿に戻って消えていった。仲間が自分を呼ぶ声が聞こえたが、大いなる力を解き放った疲労のせいでよく聞こえなかった。だが、薄れゆく視界に映ったのは稲羽を思い出させる満天の星空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

「ようこそ、ベルベットルームへ」

 

聞きなれたお決まりの台詞が聞こえたのでふと見てみると、いつの間にか悠はベルベットルームの定位置に座っていた。ずっと戦い続けていたせいか、この蒼い空間も久しぶりに感じてしまう。それに、いつもの向かいの席に女性の姿が見受けられた。しかし、よく見てみると、それはいつもこの部屋で世話になっているマーガレットではなく…

 

 

 

「こんな感じでよろしいでしょうか?随分と久しぶりなので、少々困惑気味でございます」

 

 

 

「………何でここにいるんですか?エリザベスさん」

 

そこにはマーガレットの妹であるエリザベスがいた。悠はエリザベスにそう質問したが、エリザベスは悠の質問をスルーして、ベルベットルームの全体をマジマジと見ていた。すると、悠の方に踵を返して、話しかける。

 

「見事な戦いで御座いました、鳴上様。貴方様とお仲間たちの尽力により、現実を浸食しようとした赤い霧は完全に晴れました。これで、あなた方の大切な町に平和が戻るでしょう」

 

頓珍漢なことを言いだすかと思ったが、意外なことにベルベットルームの住人らしく、悠たちの功績を称賛し労った。と、感心している場合ではない、悠がヒノカグツチを倒して倒れてしまったあと、どうなったのだろうとエリザベスに問いただす。仲間の安否を確認しなければと思っていると、

 

「ああ、それと鳴上様の仲間たちは無事でございます。あのヒノカグツチという存在が消滅したと同時に、鳴上様たちが居た建物は崩壊しましたが、私が安全な場所に転移させました。今頃、あなたたちがいつも集っている場所で鳴上様がお目覚めになるのを待っているかと存じます」

 

それを聞いて悠はひとまず安心する。それに、稲羽の町の住人もマリーが自身の力で赤い霧から守ってくれたのだという。菜々子や堂島たち稲羽の住人も無事だったと聞くと、肩の荷が下りた。すると、エリザベスはいつもイゴールが座っている席に腰をかけて、悠の顔をマジマジと見る。いくらベルベットルームの元住人とはいえ、主の席に座って良いのかと思っていると、エリザベスはこんなことを言ってきた。

 

 

「本当にあなたは興味深い方でございます。何者かに呪いをかけられて不完全な状態にも関わらず、"ユニバース"に匹敵する力を解放した……それに、あなたのみならず、お仲間たちもどんなにボロボロな状態でも最後まで戦った。これがあなたのいう"絆"というものの力なのでしょうか?」

 

 

何処から見ていたかは分からないが、どうやらエリザベスはあのヒノカグツチとの戦いを見ていたらしい。エリザベスの言う"ユニバース"という力が何なのかは分からない。それに、あの時は不完全というか、ヒノカグツチや皆月が仕掛けたP-1 Grand Prixでの仲間たちとの決闘やエリザベスやシャドウラビリスとの戦闘で体力的にもボロボロだった。でも、それでも悠があのヒノカグツチと戦えたのは……

 

 

 

 

「傷ついて倒れそうになっても、"誰かのために立ち上がる"。その力が"絆"だと俺たちは思ってる」

 

 

 

「?」

 

 

 

「俺は孤独じゃない。そう思える仲間が居たからこそ、戦えたんだ」

 

 

 

 

 

悠の答えを聞いて、エリザベスは一瞬呆けたものの、すぐに満足げな表情になった。どうやら悠の出した答えがお気に召したらしい。

 

 

 

 

「ふふ……鳴上様が羨ましゅうございます。私と違って、あなた様には大切に思えるお仲間がたくさんいらっしゃるのですから」

 

 

 

 

そう言うエリザベスの表情は変わらず笑みを浮かべていたが、どこかその裏には寂しさを感じた。

 

 

「……そろそろお時間です。本当はもっと鳴上様とお話したかったのですが、いつまでもお仲間たちをお待たせする訳にはいきませんので」

 

 

エリザベスの言葉に、それもそうだなと思い、悠は頷いた。向こうでみんなも待っているだろう。それに、エリザベスには色々と世話になった。また会える日があれば、その時は是非ともお礼をしたい。自分も出来る限り、エリザベスの力になりたいから。そう言うと、エリザベスはクスクスと笑いだした。どうしたのかと聞くと、エリザベスはこう返した。

 

 

「いえ、鳴上様は"あの方"に似て、お優しい方だと思いまして。ですが、()()()()()()()()()と思いますので、その時にでもお礼をさせてもらうと致しましょう」

 

 

「え?」

 

 

今何と言った?

 

 

 

 

「ああ、鳴上様にお伝え忘れていたことがございました。私、しばらく放浪の旅を中断して、一旦ベルベットルームに戻ることを決意いたしました。つきましては、姉様と一緒に鳴上様の今後の旅路に付き合うこととなりますので、これからもよろしくお願いいたします」

 

 

 

 

「え……?よろしく?え………?」

 

 

あまりの衝撃な発言に悠は唖然としてしまった。エリザベスが()()()()()()()()()()()?それに、自分の旅路に付き合う?まさか……

 

 

 

「それでは鳴上様、近々お会いする時まで、おととい来やがれでございます」

 

 

 

エリザベスは悠の返事も待たずにそう答え、悠の視界は暗転した。視界が暗転する中、悠は思った。また別の意味で厄介なことになりそうだなと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が覚醒した悠は閉じていた目を開ける。すると、視界に見覚えのある天井が映った。

 

「ここは………」

 

ここがどこか確認すべく悠は身体を起こした。伊邪那岐大神でヒノカグツチを打倒したあのあと、エリザベスが自分たちを安全な場所に転移させたと言っていたが……確認すると、自分はとあるテント席のベンチに仰向けになっていたようだ。そして、ふとテントの外に目を向けると、そこにはある光景が悠の目に映し出された。

 

 

 

 

「ジュネス?」

 

 

 

 

多数の白い丸テーブルに椅子が乱立し、ビフテキやたこ焼きと書かれた旗が立ち並ぶ屋台たち。ここはジュネスのフードコートだった。外はまぁ薄暗いし人の気配が全くないので、まだ開店前なのだろう。一瞬、ここは現実なのかと疑ったが、それは違うと直感した。肌に感じる涼し気な風の感触と匂い。それと向かいの山から出てきた朝日の光。間違い、ここは現実の…自分にとって大切な八十稲羽だ。

 

 

 

(帰ってきたんだな……本当に)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「鳴上先輩(お兄ちゃん)!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わず感慨に浸っていると、誰かがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。見える人影は2つ。2人とも悠の知っている人物だった。そして、2人は悠の近くまでくると、突然悠の胸の中にダイブしてきた。悠は危なげながらも2人を受け止めて踏み止まる。

 

 

 

 

「高坂……ことり………」

 

 

 

穂乃果とことりは少しの間、悠の胸の中に顔を埋めていたが、顔を上げた。

 

 

 

 

 

「「お帰り、鳴上先輩(お兄ちゃん)」」

 

 

 

 

 

悠に向けたその笑顔は朝日に負けないくらいの眩しい笑顔だった。2人の笑顔を見ると、悠は自分は帰ってきたのと実感した。悠はそれに応じるように、彼女たちに微笑んで返答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠たちのその様子を風花は少し遠いところから見ていた。だが、彼女は3人に交わろうとはせず、ただ朝日に照らされる3人を母親のように暖かい目で見守っていた。

 

 

 

 

ーto be continuded




Next #35「Best Friends」

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