PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。


まず初めにお詫びを。
先日、手違いで未完成のものを投稿してしまいました。読者の皆様に混乱を与えてしまい、申し訳ございません。前にもこんなこともありましたが、またやってしまうとは思いもよらず、穴があったら入りたい気分になりました。こんなことが再発しないようにしたいと思います。繰り返しになりますが、本当に申し訳ございませんでした。


気持ちを切り替えて……この間章、もといアルティメット編もあと数話です。10月までには終わらすと言っておきながら、もう10月終盤ですが、楽しめてもらえたら幸いです。

最後に新たにお気に入り登録して下さった方、感想を書いてくれた方、アドバイスやご意見をくださった方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。

至らない点は多々ありますが、皆さんが楽しめる作品になるように精進していくつもりなので、これからも応援よろしくお願いします。


ついにクライマックス突入っ!黒幕を名乗る"皆月翔"とは何者なのか!?
それでは、本編をどうぞ!


#33「Break out of...➁ーDispairー」

風が耳元をすり抜ける音が聞こえてきた。その音で悠の意識は覚醒した。意識を取り戻して、悠は最初に己の身体の状態を確認する。少し体の節々は痛むが、身体は自由に動くようなので、問題はなさそうだ。確かこの事件の黒幕であったラビリスのシャドウがペルソナになったと同時に、"皆月翔"という真の黒幕を名乗る少年が現れて………そういえばと目を開いて、皆の様子を確認しようとする。しかし、そこに映ったのは

 

 

「何だ…これは……」

 

 

悠は目の前に広がっている景色を見て仰天する。そこは先ほどラビリスや穂乃果たちと居た放送室ではなかった。そこにあったのは幾つも十字架が不気味なほど大きな赤い月をバックに地面に突き刺さっている。そして、近くに見えるのはスプーンのようにねじ曲がった東京でよく見たムーンライトブリッジ。その光景はさながら、ホラー映画を想像させるような雰囲気で今にも幽霊やお化けが出てきそうな感じだった。そんな雰囲気に圧倒されそうになるが、それどころではない。

 

(こ、高坂やことりたちは……)

 

辺りを見渡すが、ここには悠以外誰もいなかった。一体彼女たちはどこへ行ったのか?それにここはどこなのか?悠は立ち上がって辺りを調査する。見たところ、どうやらここはどこかの建物の屋上であることが分かった。どこの屋上なのか気になったので、おそるおそると落ちないように慎重な足取りで端まで辿り着いて、下を覗いてみた。

 

 

「!!っ」

 

 

下を見下ろすと、そこには赤く不気味な霧に包まれた町があった。一体どこなのだと思って目を凝らす。見てみると、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()が見えた。さらに見てみると、歪んだ電柱に()()()()()()()()()()()()()。見覚えのあるものを見つけていくたびに、悠の顔はどんどん青くなっていく。

 

 

(まさか……ここは…)

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、ここは稲羽市。君たちが暮らす現実だ、鳴上悠」

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から声が聞こえてきた。思わず振り返ってみると、そこには手に日本刀を持つ少年がいた。赤色が特徴的な髪に目立つバツ印の刀傷。間違いない、こいつは先ほど黒幕を名乗った皆月だ。こいつが自分をここに連れてきた張本人だと確信した悠は思わず身構える。そんな悠を気にもせず、皆月は淡々とした態度で話しかけた。

 

「信じられないという顔をしているな。だが、ここは正真正銘君たちが住む現実だ。君たちがあちらの世界でモタモタしていた間に、このように仕込みをさせてもらった」

 

「………………」

 

「改めて自己紹介しよう。俺の名前はミナヅキ……"ミナヅキショウ"。()()()が"皆月翔"だ」

 

皆月はそう言うと手に持っていた日本刀を悠に投げ渡した。手に取って確認すると、それは紛れもなくマリーの日本刀だった。ないと思っていたら、皆月が持っていたようだ。わざわざ敵に武器を返すということは、例え悠とここで戦闘になっても余裕で勝てるということだろう。それに、自分の目の前にいる皆月だが、少ない会話だったとはいえ、放送室で会った時と別人のように感じる。ここで戦闘をしても無駄になるだけだと判断したので、悠は臨戦態勢を整えながら対話を試みた。

 

「おい、高坂やことり、ラビリスたちはどうしたんだ?」

 

まず悠は皆月についさっきまで一緒にいた筈の穂乃果たちの安否について尋ねた。悠がそう聞いた途端、皆月は少し面を食らった顔をしたものの、すぐに瀬々笑うような表情で悠を見た。

 

「ふっ…俺たちのことより他人の心配をするとは………安心しろ、どうせ皆滅びるんだから、今生きてようが関係ない」

 

皆月の発言に悠を目を見開き、心に怒りの感情が沸き上がってきた。一体どういうことなのかと感情に任せて皆月に詰め寄ろうとすると、

 

 

 

 

「…少し時間がある。冥途の土産に教えてやろうじゃないか。君の好きな真実というやつを」

 

 

 

 

皆月は腰の刀を一刀抜いて悠の首先に突きつける。話はしてやるが、余計な動きを見せたら容赦しないということだろう。とにかく、どんな状況であれ話を聞くに越したことはないので、悠はいつでも日本刀を抜刀できるように構えて、皆月の話に耳を傾けることにした。悠が大人しくなったのを見ると、皆月はおもむろに今回の事件の詳細を話し始めた。

 

 

「今回の事件を起こしたのは、"あの子"の願いを叶えるためだ。"この世界を滅ぼしたい"という、あの子の願望をね」

 

 

「何だと?」

 

皆月の言うことに悠は疑問を感じる。こいつはさっきから"あの子"と言っているに加えて、"俺たちが皆月翔"と言っている。つまり、こいつの他にも共犯者がいるらしい。

 

「この世界はくだらないまやかしに満ちている。"絆"だ"友"だと騒ぎ、その裏にあるものを平然と踏みにじる。まさしく君のような存在がだよ。そんな世界に価値はない。ならば、全て消してしまえばいい」

 

「………………」

 

皆月の言葉に悠は顔をしかめた。今日はよく自分の信じているものが否定される日だなと思う。事件を起こした目的は"絆"と"友達"が蔓延る()()()()()()()()()?あまりに飛躍しすぎて馬鹿げているとしか思えない。だが、そんな馬鹿げていると思うことをミナヅキは真剣な顔で語っている。それからして、彼にはそうすることができるであろう手段を知っていると悠は踏んだ。

 

「そんなことが出来るわけないだろ?」

 

あえて、皆月の言うことを否定して、その手段を聞き出そうとする悠。悠の返答に皆月は予想通りと口元に笑みを浮かべてこう言った。

 

 

「君は"人の超えた力"を見たことがあるだろ?かつて足立が得て、君たちが倒してしまったものだ」

 

 

"人の超えた力"?その言葉と足立で悠はあるものを思いだした。"人を超えた力"というのは、例を挙げると俗に言う神様や女神などと言った超越した存在が使う力のこと。去年の事件の元凶であり、あの世界の霧を発生させていたもの…………まさか

 

 

「その通りだ。俺たちは()()()()()()()()()()世界を滅ぼす」

 

 

そう言った皆月の瞳が赤い炎のように光り出した。それを見て悠は確信する。こいつは足立と同じく"人の超えたもの"にペルソナ能力を与えられた者かと。そして、皆月は己が立てた計画の全貌を暴露した。

 

 

 

 

まず、今回の事件の被害者であるラビリスを護送中の飛行機から盗み出して、悠たちのお陰で平和になった稲羽のテレビの世界に放り込む。そして、ラビリスの心の風景が反映されて創り出された世界で、発生したシャドウを集める。そうして集めたシャドウを粘土細工にように集めて一つの大きな集合体をつくる。それを"器"にして"人を超えた力"をそこへ降臨させるという。何とも理解しがたい内容だった。

 

「それだけでは足りなかった。それに、そのシャドウたちを落ち着かせる"制御するもの"も必要だった。だから、あのシャドウが開いたP()-()1()G()r()a()n()d() ()P()r()i()x()()()()()()のさ………」

 

映るはずのないマヨナカテレビが映ったことにより、この世界にダイブしてきたペルソナ使いたち…つまり悠たち特捜隊とμ‘sに仲間同士の決闘を強要して、強い心の力を持つペルソナ使いの力を削ぎ落して、シャドウにする。そして、ペルソナ使い同士の激しい衝突で生まれる"ペルソナの欠片"という制御体になるものも調達したという。決闘の際に出現したあのリングはそのためのものだったらしい。

 

「シャドウの方は上手く集まったが……"ペルソナの欠片"は中々集まらなかった。()()()()、君のせいで」

 

「……どういうことだ?」

 

あまりに話の内容がぶっ飛びすぎて、訳が分からない。その"ペルソナの欠片"というものが中々集まらなかったのは自分のせいだと言われても、自分はあの世界にダイブしてから流されるまま行動していたので、そんな特別なことなどした覚えはなかった。

 

「自覚がないのか………だから、俺たちが直々に戦って集めるしかなかった。P-1Grand Prixで負けた敗者たちと戦ってな」

 

だが、どんなことであれ、悠たちはテレビの世界にダイブした時点で、まんまと皆月の策略に嵌っていたのだ。どうやったかは知らないが、P-1grand prixに気を取られている中で皆月が自分たちから計画に必要なものを調達し、現実を赤い霧が蔓延る状態にしていた。足立が言っていた"ここのルール"に従っていたら大変なことになるという意味が今になって理解できた。ということは、足立は皆月の計画に加担していたことになる。何故足立が皆月の計画に加担したのかは気にはなるが、一つ皆月に聞いておきたいことがあった。

 

 

「何故ラビリスだったんだ?この世界に放り込むなら、他の人間でも良かったはずだ」

 

 

「!!っ」

 

悠の唐突の質問に、皆月は面を食らった表情になる。

 

「わざわざハイジャックを装ってまでラビリスを盗んだってことは…………お前は"桐条"に恨みをもつ人間なのか」

 

「…………………」

 

悠の質問に皆月は押し黙った。沈黙はビンゴと言うべきかその反応からして、何かあるようだなと悠は思考する。"桐条"という言葉を耳にした時に、皆月の刀を手にする力が強くなったのが見えたので、アタリのようだ。

 

 

 

「…そこまで頭が回るとはな………流石は特捜隊のリーダーを務めたことはある」

 

 

 

余裕だった表情を歪めて皆月は悠を睨んだ。先ほどの落ち着いた雰囲気が嘘だったように、張り詰めた空気が皆月を包んでいる。その迫力に圧倒されていると、皆月は重々しい口調で言葉を発した。

 

 

 

「恨みはあるのかだと………?当然だ。何故なら"桐条"は………"あの子"に非人道的な実験を強いた悪魔たちなんだからな。あの悪魔たちのせいで"あの子"の中に俺が生まれた」

 

 

 

「なっ!?」

 

 

皆月翔は"桐条"が秘密裏に進めていた"人工的にペルソナ使いを生み出す計画"の被験者だった。孤児だった皆月は"桐条"の研究者だった【幾月(いくつき) 修司(しゅうじ)】という男に拾われ、有無を言わさずに身体をペルソナ使いになるように改造されて、実験という名目の戦闘訓練を強いられた。他人とは触れ合えない隔離された環境での残酷な実験の最中に皆月の中に"ミナヅキショウ"という人格……今悠と話している人格の者が生まれたが、結果的にその実験は失敗し、皆月は植物状態に陥ってしまった。

 

「……意識を取り戻した時には幾月は死に、俺たちはこの稲羽市の病院に居た。すぐに病院を抜け出して何とか生きてきたが………俺たちのことを分かってくれる人間はいなかった」

 

「………………………」

 

あまりのことに悠は絶句してしまった。"桐条"はラビリスたちのような実験だけでなく、こんな自分と同じような子供にそんなことまでしていたとは。ますます過去の"桐条"のことが分からなくなってくる。皆月…今はミナヅキが語る姿に桐条に対する相当な憎しみを感じた。

 

 

「分かるだろう?"あの子"の痛みを分かってもらえない…"絆"や"友"という言葉であの子のやらされたことを誤魔化すこの世界はいらない。俺は…"あの子"のためにこの世界を滅ぼし、"あの子"だけの世界を創る」

 

 

ミナヅキの赤く光る瞳から相当な覚悟が伝わってくる。それを感じた悠は皆月に何と言葉をかければいいのか分からなかった。どれだけ自分の知らない苦痛を味わったことだろう。でなければ、"自分以外の誰もいない世界を創る"など、端から聞いたら妄言としか捉えられないことを考えたりはしないだろう。それに、もし自分が皆月と同じ立場であったならばそう考えていたのかもしれないと悠は思った。しかし…

 

 

 

 

「…そんなこと、やって良いわけがない」

 

 

 

 

悠は皆月の不意をついて、日本刀を抜刀した。確かに皆月のされたことは許されることではない。だが、どんな理由があったとしても、自分勝手な動機でこの世界を滅ぼして良いわけがない。それに、そんな世界で()()()()()()()()()()()()()()。その間違いを自分が止めてやる。悠はそう覚悟を決めてミナヅキを見据えて日本刀を構える。

 

 

「ふっ、あくまで俺たちの邪魔をするか………だが、どちらにしろもう遅い。君が今何をしようと、計画はもう仕上げに入ったからな」

 

 

「何?」

 

皆月の言葉に動揺していると、足元が小さく揺れ始めるのを感じた。それは次第に大きくなっていく。

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

 

 

 

 

 

 

立っているのも難しいほどの激しい揺れと共に、辺りの空気が変わっていくのが見える。さっきまで真っ赤に染まっていた世界は次第にどす黒い深紅になっていき、禍々しい雰囲気が辺りを包む。そして、下の方から無数の何かが引き寄せられるように渦を巻きながら集まってきた。あまりの勢いに強風が発生してバランスを取るのがままならなくなってきたが、悠は目で集まってきたものを確認する。

 

 

 

「あれは……シャドウっ!!」

 

 

 

渦を巻いて集まっているのは無数のシャドウ。皆月が集めたといっていたシャドウたちだろう。明らかにこの数は尋常じゃない。その渦は次々とシャドウを巻き込んで、竜巻のように唸りを上げている。間近で見ると、すごい迫力が伝わってくるので、悠は思わず息を呑んだ。あんなものに巻き込まれたらひとたまりもない。

 

 

 

 

 

 

「くくく……ははははははははははははははははははっ」

 

 

 

 

 

ふと、皆月が狂ったように笑い出したのでそっちを振り返ってみる。そこには先ほどまでなかったものが出現していた。人の背丈ほどの大きさの透明な物体がぼんやりとした光を放ちながら、ゆらゆらと漂っている。あれが皆月がシャドウの他に、自分たちから集めたという"ペルソナの欠片"のようだ。それを目の前にした皆月は狂ったように笑っている。先ほどの大人びた雰囲気はそこにはなく、まるで欲しかったものを与えられた子供のようであった。あれはおそらく"ミナヅキ"の方ではなく、皆月本人の人格のようだ。

 

 

 

 

 

「はははは、もうすぐこの世界は滅ぶ!僕だけの世界が完成する!!はははは」

 

 

 

 

 

皆月はこれから世界が滅ぶ様を想像しているのか、恍惚な表情を浮かべている。それ故に、同じ場にいる悠の存在を忘れているようなので、今がチャンスだ。悠は気配を消して皆月の死角に回った。狙うは"ペルソナの欠片"ただ一つ。アレを破壊すれば、皆月の計画は失敗するはずだ。隙をついて破壊しようと、"ペルソナの欠片"に急接近する。もらったと思ったが、

 

 

 

 

「バレバレなんだよっ!」

 

 

 

 

悠が"ペルソナの欠片"に一閃を繰り出す瞬間に、いつの間にか皆月が悠の懐にすばやく潜り込んでおり、腹に一発強烈な拳を叩きこんだ。

 

「がっ!」

 

かつてない衝撃が悠を襲う。皆月の拳は重くしばらく身体が動けそうにないくらいの威力だった。あまりの威力に悠は日本刀を手放してしまい、その場に倒れてしまう。蹲る悠を見ると、皆月はさらに凶悪な笑みを浮かべて笑い出した。

 

「だっせえな!!鳴上ー!」

 

皆月はそう悠を蔑むと、瞳に赤く光が灯った。その瞬間、悠は身体が押しつぶされそうになる感覚に襲われた。まるで金縛りにあったかのように身体の自由が利かなくなる。そういえば、皆月は放送室で同じような手で悠を拘束したような気がする。これが皆月の能力なのかと思っていると、それを待っていたかのように皆月は蹲る悠の腹を蹴飛ばした。

 

「ぐはっ………!」

 

腹に来る衝撃は想像以上の痛みがあったので、胃液が込み上げてきた。それに咽る間もなく、皆月はまた一撃また一撃と悠を蹴り飛ばす。

 

 

「はははは。見ろよ、鳴上!もうすぐお前の世界は滅びる。何も出来ないで見届けるしかない気分はどうだ?絶望的だろ?」

 

 

そう言いながら皆月は、まるで優悦に浸った子供のような表情をしていた。しかし、突然蹴るのを止めたのかと思うと、再び悠を蹴り飛ばす。その時の皆月の表情は先ほどの子供のような表情ではなく、恨みを持つ仇を目の前にした者の表情だった。

 

 

「目障りだったんだよ……ムカつくんだよっ!お前は()()()()()()()()()のに!僕と同じ孤独な人間だったくせにっ!!」

 

 

「がはっ!」

 

 

「僕に持てなかったものを持っているお前がっ!目障りなんだよっ!!」

 

 

皆月はその一撃一撃には恨みが込めて、悠を甚振っていく。もう何発も蹴りを入れられたせいか、痛みが全く感じなくなり、視界もぼやけてきた。今自分がどこに居るのかも把握しきれない。そんな悠の様子を見た皆月は甚振るのが飽きたのか、蹴りを入れるのをやめて、悠の首根っこを掴んだ。

 

 

「くくく……どうせなら、お仲間たちにも見せてやりたかったな。お前が無残に死んでいくところをなぁっ!」

 

 

皆月はそう言うと、腰に差していた物騒な刀を一本抜刀して、刃を悠に向ける。抵抗しようにも、さっきまで力強く甚振られたせいか全身に力が入らない。そのせいか、ペルソナを召喚するためのタロットカードを発現する気力もなくなっている。もう終わりかとあきらめかけたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

パアアアン

 

 

 

 

 

 

瞬間、拳銃の発砲音と共に、何かが壊れた音がした。見てみると、"ペルソナの欠片"の表面にヒビが入っていた。そのひび割れの原因となっているものは一発の銃弾だった。

 

 

「何っ!?」

 

 

 

「チッ」

 

誰かの舌打ちが聞こえる。それに反応した皆月は正体が分かったのか、凄まじい殺気を纏って、悠から離れてある人物と対峙した。

 

 

 

 

 

「テメ―っ!何やってやがんだよ、()()ぃぃ」

 

 

 

 

 

 

皆月の言葉に驚いて見てみると、そこには銃を構えて戦闘態勢を取っている足立がいた。拳銃の照準は先ほどヒビが入った"ペルソナの欠片"に向いてる。つまり、先ほどの銃撃は足立によるものだったのだ。足立が取った行動に悠は困惑せざるを得ななかった。足立は皆月の協力者ではなかったのか?

 

 

「あれ?僕がいつ”協力する“って言ったっけ?ははは」

 

 

皆月の遠吠えに足立はあっけらかんと人をバカにした表情でそう言葉を返した。その言葉を聞いて、悠は確信する。()()()()()()()()()()()()()()()のだ。おそらく協力者のフリをして、皆月の計画をぶち壊そうと機会を待っていたのだろう。さっきのがそのときだったのだ。

 

「足立さん……」

 

そのことが分かった途端、悠は思わずそう呟いてしまった。その呟きが聞こえたのか、足立は皆月の近くに転がっている悠に目をやると、やれやれと呆れた表情でこう言った。

 

「ちょっと悠くん、いくら何でもやられ過ぎだよ。こんなガキ一人にさ。都会に帰ってからあんな可愛い子たちを侍らせてるから、平和ボケしたんじゃないの?」

 

足立の言葉に少々うっとなる。言い方はどうかと思うが、的を得ているので言い訳のしようがない。

 

 

「……………言っとくけど、君らのためじゃないよ。僕は僕のけじめを付けにきただけだからね」

 

 

足立は不貞腐れたように悠にそう言った。おそらく足立のことなので、悠たちに気づかれずにことを済まそうとしたのかもしれない。それが足立らしいと思って、悠は思わず安堵した。

 

 

「分かってます、あなたはそういう人じゃない……ぐっ!」

 

 

足立の言葉にそう返答した途端、脇腹に衝撃が走った。皆月が怒りのあまりに八つ当たりで悠を蹴飛ばしたようだ。思いっきり腹を蹴られたので、再び胃液が逆流して体に激痛が走る。それを見た足立の皆月を見る目が一層険しくなる。

 

 

 

 

「クソボケが…ぶっ壊してやるっ!!」

 

 

 

 

皆月は二刀の刀を構えなおして、足立に突進する。だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

ーカッー

「…ペルソナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

足立は皆月の攻撃を躱すと、掌に発現させていた赤いタロットカードを砕いた。それと同時に禍々しいオーラを纏うペルソナが召喚された。悠の【イザナギ】と外見は同じだが、アレに反して禍々しい雰囲気を持ったそのペルソナの名は【マガツイザナギ】。突然目の前でペルソナを召喚されたら普通の人間は驚くのだが、皆月は恐れることなく突撃する。だが、マガツイザナギの禍々しい迫力に押されて、皆月は突撃も虚しく尻もちをついてしまう。足立は尻もちをついた皆月を地面に縫い付けるように、上に乗りかかってマウントポジションを取った。流石は元刑事というだけであって、皆月もそう簡単には抜けられないようだった。

 

 

「テメエ……どういうつもりだ。最初から裏切るつもりだったのか?恩知らずにも程があるだろーが!?」

 

 

抑え込まれたにも関わらず、刃のように鋭い眼差しで足立を睨む皆月。相当頭に血が上っているのか、怒りで身体が震えていた。

 

 

「ゴミカスが調子に乗りやがって、勝った気になってんじゃねえぞ!僕に逆らうとか、マジでバカだろ?そんなんだから、鳴上に負けたんだよっ!バーカバーカバーカっ!」

 

 

罵るボキャブラリーがなくなったのか、駄々をこねる子供みたいに"ばか"としか言わなくなった皆月。

 

 

 

「ごちゃごちゃうるさいんだよ、バーカ」

 

 

 

足立もいい加減うんざりしのか、黙らせるように皆月の下顎に銃口を突きつける。

 

 

 

「あのさー、君って人のこと言えるの?調子に乗って人様のもの盗んで、テレビの世界でバカな大会開かせてさ。せっかく高坂さんみたいな可愛い子たちがわざわざ都会から遊びに来たって言うのに……君のせいで、あの子たちの楽しみが台無しだよ」

 

「もう十分楽しんだろ?君みたいなクソガキに“あの力”が制御できるわけないって。今すぐ悠くんたちにゴメンナサーイって土下座して、お家に帰った方が良いんじゃない?今なら間に合うかもよ」

 

 

 

 

相変わらず人を食ったように諭す足立。だが、

 

 

 

「うるせぇうるせぇうるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!何見下してんだっ!ぶち殺すぞっ!僕はやれるんだ!やれるから、やっちまって何が悪いっ!下顎から串刺しにされてえかっ!?」

 

 

 

その言葉に皆月は更に癇癪を起したように怒鳴り散らした。自分がやらかそうとしたことに対して反省も謝罪する気はないようだ。それに、()()()()()()()……とは。その言葉は去年、足立も悠たちに動機として言ってたことだ。かつて自分が口にした言葉を言われた足立は顔をしかめて吐き捨てる。

 

 

「君を見てると、ムカつくんだよねぇ。だけど、これで終わりだよ」

 

 

足立はそう言うと、皆月を抑えつけたまま拳銃の照準を"ペルソナの欠片"に向ける。その距離は数メートル。これを破壊してしまえば終わりだ。足立は意を決して拳銃の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

「!!っ」

 

 

 

 

 

 

だが、拳銃の引き金を引いたと同時に、皆月の瞳が赤く光り、気づいたときには足立と皆月の位置は逆転していた。放った弾丸は惜しくも"ペルソナの欠片"をすり抜けてしまう。今度は皆月が足立に馬乗りになっている。計画を邪魔されたせいか、皆月の目が燃えるように怒りに満ちていた。

 

 

 

「殺してやるよ、足立……元の形が分かんなくなるくらいぐちゃぐちゃにしてやるぁっ!!」

 

 

 

バキッ!

 

皆月は癇癪を起して足立の胸倉を掴み、容赦ない勢いで足立の顔を殴った。ありったけの力で殴ったせいか、足立の口から出血が確認できた。それに関係なく皆月は何度もその勢いで足立を殴りつける。

 

 

バキッ!バキッ!

 

 

辺りに皆月が足立を殴る鈍い音が木霊する。

 

「足立…さん………」

 

悠は思わず足立の元に駆け寄ろうとするが、皆月に殴られて蹴られた痛みがまだ残っていて身体が動かない。それを尻目に皆月は怒りが頂点に達しているのか、足立に振り落とす拳の勢いが容赦ない。このままでは何も出来なければ自分の目の前で足立が殴り殺されるかもしれない。それだけは絶対にダメだと思い、悠は身体に鞭を打って、近くに転がっている刀に手を伸ばそうとした。だが、上手く身体が動いてくれない。

 

 

(動け…動け………今動かないと…足立さんが………)

 

 

自分の身体に何度も暗示をかけるが、身体は言うことを聞いてくれなかった。このまま何も出来ずに、見殺しにしてしまうのか?自責の念に駆られて心が半ば折れかけて意識が遠くなりそうになったその時、何者かが走ってこの場になだれ込んでくるのが見えた。その姿は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

another view(足立)

 

 

バキッ!バキッ!

 

「ぐ……はッ…………!」

 

苦い鉄の味が口の中を支配していく。凄い力だな……僕は一撃ごとにぐわんぐわんと揺れる衝撃の中でそんなことばかり考えていた。なんだよ、結構まだ余裕あるじゃない、僕。これも去年堂島さんに散々シゴキを受けていたお陰かな……

 

 

「ハア……ハア……ハア……テメェ、何考えてんだ?これがどれだけ大事なモンか分かってんだろうな…僕の計画をぶち壊すつもりだったのかよっ!」

 

 

バキッ!

 

「がはっ…………!」

 

 

更に一段と鉄の味が広がっていく。一思いに僕を殺したけきゃ傍に転がってる刀でブスっと刺せばいいのに、皆月は馬乗りになったまま殴りつけてくる。簡単に死なせはしないってことか。相当頭に血が上ってやがる。やっぱりガキはガキだよなあ………

 

 

「言ったでしょ?"協力する"なんて言ってないって…………隙をついて、あれを壊そうとしたんだよ………」

 

 

そう、僕は元々この計画をぶち壊す魂胆だった。僕の目的は"()()()()()()()()()()()()()"こと。この皆月の起こした事件で誰か死んで、現実でその死体が発見されたら、去年のここで起こった連続殺人事件は再捜査されることになる。そうなることは僕としては何としても避けたい事態だった。そのためにわざと協力するフリをして機会を伺ってたんだ。正直またあの特捜隊の連中と顔を合わせるのは気が向かなかったし、彼らのために動いてるように思えて癪だったけど、そうは言ってられない状況だったし。高坂さんみたいにわざわざ都会から来てこの事件に巻き込まれたっていう子も居たから尚更ね。

 

 

「このクソ虫がっ!散々姿を晦ませてやがったから、クソの役に立たねえと思ってたが……まさかこの瞬間を狙ってやがったとは…なぁっ!!」

 

 

バキッ!バキッ!

 

「がっ……ぐ……………」

 

 

あー…まずいな、意識が朦朧としてきた。殴られる痛みすら分からなくなってきて意識が飛びそうだ。しかし、最近のガキは加減というものを知らないのかねぇ……こんなに殴ったら本当に死んじゃうっての。

 

 

「んっとにムカつくぜ、クソゴミがっ!折角テメェだけはぶっ壊さないでおこうとおもってたのによぉっ!テメェが出来なかった世界が滅ぶ様を見せて気持ち良くさせてやろうと思ってたのによぉっ!」

 

 

バキッ!バキッ!

 

「ごはっ…!……ぐ……はっ…………」

 

 

強烈な一撃に、遠のいた意識を繋ぎとめる。そう、こいつが僕をわざわざあそこから連れてきたのは僕に世界の滅亡の様子を見せるためだそうだ。僕が出来なかったものを見せて、僕をスッキリさせてやろうと思ったらしい。笑っちゃうよね。実際こいつの言ってたことには共感は持てた。

 

世の中はくだらない馴れ合いばっかりだ。"絆"や"仲間"とか耳当たりの良い言葉を軽々しく言ってるヤツに限って、自分が傷つくと簡単に人を斬り捨てる。結局他人に寄り縋らないと生きていけないのに勘違いするバカがこの現実には多くて困る。まさしく僕が嫌いだった悠くんたち特捜隊のガキたちみたいなのがね。こんなクソみたいな現実なんて、手品みたいにパッと消えてしまえばいいと思ったよ。実際僕はそう思って、去年の"あの事件"で世界を滅ぼそうとした訳だし。でもね……

 

 

 

 

 

 

「一緒にすんじゃねえよ……クソガキが」

 

 

 

 

 

 

 

「!!っ、ああ?」

 

 

僕の言葉に皆月は驚いたような表情をする。何故か分からないけど、僕は残りの力を絞り出すように掠れた声で皆月に言った。

 

 

 

 

「…誰かに嫌われて、世界に嫌われて……テメェはただ駄々こねてるだけのクソガキだろうが。俺はね……マジでこの世界が大嫌いなんだよ……テメェみたいな半端なガキと一緒にされるのなんか……はは………こっちから願い下げだね………」

 

 

 

 

言ってやった。そして、僕の命もここで終わっただろう。この言葉を聞いて、皆月がキレない訳がないだろう。バカだよね、僕も。まさかこんな状況でこんなこと言っちゃうなんてさ。そんな自分に笑えてくる。悠くんの悪影響でも受けちゃったのかな?はははっ

 

 

「終わったぞ、テメェ………望みどおりに殺してやる」

 

 

皆月は僕の言葉に我慢の限界がきたのか、静かに立ち上がって、側に転がっていた刀を拾い上げて抜刀した。そして、その刀の刃を僕の首元に突き立てる。冷やりとした鉄の感触に肌が栗立った。どうやら完全に僕を殺す気のようだ。その証拠に僕を見下ろす彼の目は据わっていた。はは、ダッサイなぁ…僕。バカなことを言ってしまって、それにキレたガキに殺されましたーなんて……堂島さんに情けないってドヤされそうだなぁ。あーあ、最悪だよ。まだ食べたかったウナギ食べてないし、ここで僕が死んだら去年の事件が複雑化するし、僕には何も残らなくなる。まあ…()()()()()()()()し、あとはなんとかなるだろう。だから、

 

 

「…君さあ…知らないでしょ?」

 

 

「?」

 

 

最後に何も知らないガキに一つ警告していてやろう。

 

 

 

「あいつら……悠くんたちはしつこいんだ……こっちがどれだけ叩きのめしても………何度も何度も這い上がってくる………覚悟しときなよ」

 

 

 

「……………死ね」

 

 

僕の警告に皆月は一瞬動きが止まったものの、すぐに僕に処刑人のような冷た言葉を吐いて、刀を僕に振り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドオオオオオオオオオンッ!

 

 

 

来るはずのない衝撃が来ない……その代わりに、誰かの雄叫びと何かが壊れる大きな音が聞こえたので、朧気ながらも目を開けて確認してみた。

 

 

 

「なっ……………」

 

 

 

 

ありえない光景に僕は絶句するしかなかった。さっきまで僕に刀を振り落とそうとした()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから。あまりに衝撃が大きかったせいか、"ペルソナの欠片"は大きく砕け散って霧散していく。一体…誰が………

 

 

「アンタっ!大丈夫なん!?意識はあるん?」

 

 

見ると僕の様子を確認するためか、こっちを覗き込んでいる女の子がいた。水色のポニーテールに八十神高校のセーラー服。身体は人間ではなく、機械の部品が剥き出しのロボット……確か、この子は皆月が今回の事件のために盗んだものであり、悠くんが救おうとした……"ラビリス"って言ったっけ?…………そうか、だとしたら………

 

 

 

「悠っ!大丈夫かっ!!悠っ!!」

「鳴上先輩っ!しっかりしてくださいっ!」

「鳴上くんっ!」

「センパイっ!大丈夫ですか!?」

「鳴上っ!しっかりしなさいよっ!」

「待っててください。今から回復を……」

「花陽、アンタいつの間に……」

「ちょっ!あれって……足立じゃない!?」

「ぎょえええっ!何でアダッチーがここに!?」

「ラビリスちゃんっ!そいつも…こっちに保護しろ!」

 

 

 

 

それと一緒に別の声が聞こえてくる。この聞き覚えのある声は………

 

 

 

「はは……全く……君たちは…相変わらずムカつくね……本当に…………」

 

 

 

彼らの姿を確認して、僕は思わずそう言った。あとは君らで何とかなるだろう。君たちのしつこさは僕自身が身を持って知っている。人がここまでやったんだ。最後まで気を抜かないで頑張ってよね、僕の嫌いな特捜隊の諸君。そう思った瞬間、心が安堵したのか僕の意識はプツリと途切れた。

 

 

 

 

 

 

ーto be continuded




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「みんな……」

「助けに来たぜっ!相棒!」

「な…何アレ……」


「最後の戦いだ!みんな、やるぞっ!」

「「「おおっ!!」」


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