PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
先日配信されたFGOの英霊剣豪七番勝負、とても面白かったです。自分は剣術…もとい弐天一流を習っている身なので、より一層楽しめました。その影響か、稽古に一層励み過ぎたり、季節の変わり目にやられたりして、情けないですが風邪を引いてしまいました。自分この時期に弱いらしく毎年のように引いてしまうのですが……とりあえず、全快になるように努めたいと思います。体調管理はやっぱり大事ですね……
最後に新たにお気に入り登録して下さった方、感想を書いてくれた方、アドバイスやご意見をくださった方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。
皆さまが面白いと感じてくれる作品を目指して精進して行きますので、これからも応援よろしくお願いします。
悠VSシャドウラビリス!それでは、本編をどうぞ!
another view(ラビリス)
ウチは……違う……こんな記憶………違う…………
流れ込んでくる本当の記憶。ウチは"桐条"に造られた兵器……研究者たちに実験のためと同胞同士で戦わされた。ウチはこんなやり方違うと抗議したのに、彼らは聞きもしなかった。逆にロボットに自我が目覚めたとか興味深いとか勝手なこと言って……辞めもしなかった。
目に映るんは、ウチが自分と似たロボットたちを破壊していく場面ばかり…みんなウチを見て………
嫌や嫌や嫌や嫌や嫌やっ!何でこんなのを見せられんといかんとっ!何で何で何でっ!!こんなの見たないっ!!こんな記憶……こんな過去なんて全部っ………
『生んでくれて…愛してくれてありがとう…………そう伝えてほしい…』
ふとそんな声が聞こえた気がした。聞いたことのある優しい声。この声は………
『あなたが幸せになれること…心から願ってます』
ウチの幸せ?
その言葉が頭に響いた瞬間、真っ黒になっていた視界が急に開けてきた。何か悪い夢から解放されたかのように。目を開けて見ると、そこでは激しい戦闘が行われていた。ここはなんやろ。まるで大きな放送室のような場所で、何故か辺りを赤色が支配していた。戦ってるんは誰やろう?意識が覚醒したばかりなのか、視界がぼんやりとしか映らへん。
「鳴上くんっ!下から来るよっ!」
薄っすらとした意識の中で、そんな声が聞こえてきた。ぼんやりと見えたのは…エメラルド色の長い髪の人。この人は確か……"桐条"の人……この人はウチが出会った研究者たちとは違う……本気で私を助けたいって思ってる。
「ら、ラビリスさんっ!大丈夫っ!?」
今度は上から違う女の子の声が聞こえた。薄っすらとしか見えへんけど、この声は……穂乃果ちゃんやったっけ……彼女は私が目覚めたことに驚いた様子だったけど、同時に安心したって顔をしてる。ウチが起きたこと…喜んでくれとるんよね?
「う……ウチは………」
「もう少し待っててね!鳴上先輩が絶対助けてくれるから」
鳴上くん?
『チェンジっ!【ジャックランタン】!………………【ハリティー】!!』
そう思ったとき、隣ですごい大きな音が聞こえてきた。その方を見てみると……大きな背中があった。到底敵わないだろう敵に諦めずに立ち向かう、一人の男の子の大きな背中……
『あははははっ!こんなもの?』
『【ヤマタノオロチ】!!』
『!!っ…このっ!!』
その男の子…鳴上くんはもう一人の私……私のシャドウと戦っている。何故彼は戦っているのだろう。私は鳴上くんやそのお友達を傷つけた元凶なのに……何で………でも、彼が私のために戦ってくれていると思うと、不思議に嬉しいと思っている私がいた。
another view(ラビリス)out
「チェンジっ!【ジークフリード】っ!!」
「ぐうぅぅぅっ!!」
あのアステリオスという怪物はとても手強いが、先ほど戦ったエリザベスのタナトスより弱い。さっきは拳の衝撃波を受けてしまったものの、どれほどのものかを理解しておけば躱すのは容易い。シャドウラビリスの感覚を惑わす能力のせいか時折姿を消して不意なところから襲ってくることはあるが、
『鳴上くんっ!右っ!!』
こちらには風花のサポートがある。そんな甘っちょろい姑息な手が通じるわけがない。風花の指示通りに躱すとシャドウラビリスの攻撃が横をすり抜けていた。そこを突いて日本刀で一閃を仕掛ける。しかし、その一閃もシャドウラビリスに防がれた。風花のサポートで攻撃を真面に受けてないとしても、こちらがシャドウラビリスに責める一手が足りない。もっと強い一撃を与えられるペルソナが欲しいところだ。
「何なのよ……何なのよアンタたちはっ!!たかが人間の分際でっ!!」
あちらも苛立っているのか攻撃が段々単調になってきた。だが、その反面威力も上がってきているので、当たったら終わりということは変わりない。そんな状況に冷や汗を掻きながらも悠は戦闘に集中する。変わらずシャドウラビリスの猛撃は休むことなく続いていた。
「何が被害者を見捨てないよっ!何が憎みあったりしないよっ!!それはただあなたの妄想っ!自己満足だろうがっ!!」
戦いの最中でも辛辣な言葉を浴びせるシャドウラビリス。以前の悠であれば、激しく動揺して自己嫌悪に陥ってしまったであろうが、今の悠はそうはならなかった。そんなことを言われたのは初めてではないのだから。
「確かにお前の言う通りかもしれない。だが、それが俺の自己満足や綺麗事だとしても俺は仲間を…俺たちの絆を信じるっ!!」
悠はそう高らかに言うと、ジークフリードを突進させてアステリオスに攻撃を仕掛ける。だが、アステリオスは忽然と姿を消してジークフリードの攻撃を躱す。そして、攻撃が当たらず態勢を崩したジークフリードの後ろから拳を落として地面に叩きつけた。その痛みはフィードバックで悠にも返ってくる。フィードバックの痛みで思わず膝をついてしまい、何とか立ち上がろうとしたが、すぐさまシャドウラビリスが斧を振りかぶって悠に迫る。
「目障りなのよっ!あなたみたいな存在はっ!!一人でいるのが怖くて絆という言葉で誤魔化す偽善者はっ!早く私の前から消えろっ!!」
語気を荒くして斧を振り落とすシャドウラビリス。立ち上がっては間に合わないと判断した悠は、飛び込むように前転して回避する。危なげながらも回避できたが、次は逃がしてくれないだろう。改めてシャドウラビリスの方をみると、アステリオスと共に相変わらずこちらを憎々し気に睨みつけている。これが宿業だと言わんばかりに。だが、悠はシャドウラビリスとぶつかる度に彼女から別の感情を感じていた。人間への憎しみや怨念とは違う、悲しみや羨望、助けてほしいという感情。それを理解した途端、悠は自分の中で何かがハジケた気がした。そして、悠は何をするのかと思いきや、己の武器である日本刀を地面に投げ捨てた。
『な、鳴上くんっ!?何をっ!?』
この行動にはサポートに回っていた風花も焦ってしまう。シャドウラビリスはこれを勝機とみなし、ニヤリと笑って突進しようとしたが、悠をみるなり思わず足を止めてしまった。何故なら今の悠からは、先ほどとは違う雰囲気に身を包んでいたからだ。悠はそんなシャドウラビリスを見据えてこう言った。
「見せてやる。仲間との絆ってものをっ!!」
瞬間、悠の周りが激しく青く輝き出した。そして、悠の掌にタロットカードが一枚出現する。悠が顕現したタロットカードは【戦車】。今まで顕現したどのタロットカードよりも激しく輝いていた。それを見たシャドウラビリスは怯えるように恐怖した。
「な……何よあれ………や、やってしまいなさいっ!!アステリオス!!」
アステリオスは主人の命令に従い、雄叫びを上げながら悠に接近する。そして、高く拳を振り上げて悠に振り下ろそうとした瞬間、悠はニヤリと笑ってカードを砕いた。
「「「!!っ」」」
刹那、皆は驚くべき光景を目にした。巨体で悠の今持つペルソナではあまり太刀打ちできなかったアステリオスが何かに殴り飛ばされた光景を。
「アステリオスっ!!一体何が……」
シャドウラビリスはアステリオスが吹っ飛ばされたのが納得いかなかったのか悠の方を見る。そこには今まで見たことのないペルソナが居た。青い瞳を覗かせる牛の頭を彷彿とさせる黄金の兜と鎧。白いマントを背中に身に着けたアステリオスに匹敵する筋骨隆々の巨体。手に持つのは巨大なハンマーをイメージさせる武器。そのペルソナの名は
「【トール】」
エリザベスとの戦闘では使いきれなかった、にこと結んだ絆で解放された【戦車】のペルソナ。トールの召喚に風花はとても驚いていた。まさかこの土壇場でこんな強力なペルソナを召喚するとは思わなかったのだろう。そして、悠はシャドウラビリスが呆けている隙にトールに指示する。
「やれっ!トールっ!!」
悠がそう指示すると、トールは斧を高々に振り上げて地面に落とす。その瞬間、イザナギの出す雷よりの大きく光り輝く迅雷がアステリオスとシャドウラビリスに直撃した。
ウオオオオオオォォォ
落雷を受けたアステリオスは相当なダメージを受けたようで、動きが鈍くなっていた。それでも主人の命令を守ろうと悠の元へ攻撃しようとしたが、その前に悠のペルソナのトールが先にアステリオスに鉄槌を叩き落とした。そして、アステリオスは実体を失って消滅した。シャドウラビリスはアステリオスが消滅したのを目にすると、自身もトールの雷撃を受けてボロボロになりながらも、立ち上がって悠を弱々しくも睨みつける。
「何で……何で私が……人間よりも強いこの私が負けるのよっ!!うわあああああああっ!!」
自分が侮っていた相手に負けるはずがないと思っていたのか、アステリオスがやられたのと自分も大ダメージを受けた今の現実が受け入れられず自暴自棄になったシャドウラビリスが感情的に突進してくる。
「言ったはずだぞ」
大振りになったシャドウラビリスの斧をヒラリと躱す悠。大振りなったため、斧は地面にめり込んでしまいシャドウラビリスは動けない。その瞬間を狙ったかのように、悠は投げ捨てた日本刀を拾い上げてシャドウラビリスを斬り捨てるように一太刀浴びせた。
「人間の……
悠がそう言い終えると、悠の一太刀を喰らったシャドウラビリスは糸が切れた人形のように床に倒れた。
『て、敵シャドウ…戦闘不能!鳴上くん、すごいっ!』
『お疲れっ!鳴上先輩!』
「ふぅ……」
風花と穂乃果の声を聞いて日本刀を鞘に収めた悠は安堵の息を吐いた。今回のシャドウはとても厄介だったが、エリザベスのタナトスに比べたらそうでもなかった。改めて倒したシャドウラビリスを見てみる。宿業成敗と言わんばかりに一太刀浴びせたので、倒れたまま大人しくなっている。それを確認すると、今度は後ろの風花たちの方へ視線を向ける。そこには風花に穂乃果、そして意識が戻った様子のりせとことりが安心しきった表情でいる姿があった。ラビリスはまだ表情が優れないが、とりあえず全員無事ようだ。悠は皆の無事を確認した途端、安心して力が抜けたのか体のバランスが崩れて倒れそうになる。
「「お兄ちゃん(せんぱい)っ!!」」
倒れそうになるギリギリのところで心配になって駆け付けてくれたことりとりせが身体を支えてくれた。
「お兄ちゃんっ!大丈夫っ!!」
悠の身体を安定させたと同時に、ことりはりせよりも先に心配そうに悠の顔を覗き込んでくる。その妹の顔が久しぶりのように感じてニヤけそうになったが、悠は心配させまいと平静を保って笑顔をみせた。
「ことり、ありがとう。お兄ちゃんは大丈夫だから。心配かけたな」
「もう……本当は大丈夫じゃないくせに…………」
悠の言葉にことりはしかめっ面をして、腕に抱き着いた。どうやら、無理をしているのがバレたようだ。流石我が従妹だなと思いつつ、今度はことりとは反対側にいるりせに改めてお礼を言った。
「りせ、高坂とことりのこと、ありがとうな。りせのお陰で高坂と合流できたし、この事件も乗り越えられた」
りせは悠に褒められたことに少し照れて頬を朱色に染めたが、疲れていることを感じさせないアイドルスマイルで悠にこう返した。
「ううん。私は自分に出来ることをやっただけ。でも、悠先輩なら必ずここに来てるくれるって信じてたからね」
りせの笑顔から全く偽りのない信頼を感じる。やはり仲間にそう言われると嬉しくなって、悠は思わず微笑みを返した。りせは久しぶりにカッコいい悠の姿を見たので、歓喜余ってそのままことりを押しのけて悠にハグしようとしたが、穂乃果と一緒にこちらの様子を傍観している全く知らない女性が居るのに気づいた。自分とは全然違う上品で清楚、そして奥ゆかしい雰囲気を持つ風花に少々見惚れたが、また悠が引っ掛けたのかと表情が険しくなった。
「ところで先輩、穂乃果ちゃんの他に
少しイヤミを含めて如何にも不満ですという声色で悠に尋ねるりせ。悠はそんなりせの様子に若干驚いたが、まだりせは風花とはまだ初対面だったのを思い出して、改めて風花を紹介しようとした。
「ああ、この人は…」
りせに風花を紹介しようとすると、風花の顔を見たことりが目を見開いて大声を上げた。
「ああっ!お兄ちゃんを誑かそうとした逆ナン女っ!!」
ことりは風花の姿を確認するなり音乃木坂でのことを思い出したのか、瞬時に風花から悠を守るかのように立ち塞がって風花を威嚇する。その姿はまるで、大切な卵を守る親鳥を思わせるような気迫であった。どうやら、ことりは未だに風花があの時、悠を逆ナンしたものと勘違いしているらしい。りせはことりの発言が衝撃だったのか、思わず風花から後ずさってしまった。
「ええっ!この人、悠先輩に逆ナンしたの!?」
「ち、違うよっ!私は道を聞いただけで、鳴上くんに逆ナンなんか………」
風花はまた変な勘違いをされたので、必死に弁解しようとあたふたした。先ほどの戦闘時に見せた落ち着きが嘘のようだ。しかし…
「う~ん…そういう風に焦ってるのが逆に怪しいというか……最近いるよね、大人しそうに見えて肉食系の女子って」
「こんなところまで来て、お兄ちゃんをナンパしようとするなんて…………」
「話聞いてるっ!?」
なんとか弁解しようとしても、思い込みの激しい2人に言葉は届いていないようだった。自分をサポートしてくれた恩人が可哀そうになってきたので、風花に絡むことりとりせを落ち着けようとすると、そんな3人とは反対に静かだったラビリスはゆっくりとこちらに歩いてきた。
「鳴上くん……これは何なん?」
悠の近くに着くと、ラビリスは改めて自分と姿のそっくりな影について質問する。
「これはシャドウ。自分の心の中にある抑圧されたもの……無意識に見たくないと閉じ込めていた感情が具現化した"もう一人"の自分だ」
「もう一人の…ウチ………」
悠にシャドウの説明を聞いたラビリスは今は大人しくなっている自分の影の方をチラッと見たが、すぐに目を背けて俯いてしまった。やはりというべきか、自分とは似つかない暴言や荒々しく暴力を振るったあの影が自分というのが認められないようだ。考えることもあるだろうと思い、悠は風花にあることを聞いてみることにした。
「山岸さん。聞きたいことがありますが、いいですよね?」
そう言うと、風花は悠の問いにこくりと頷いた。しかし、何を勘違いしたのかすぐにことりが悠と風花の間に割って入って、悠に詰め寄った。
「お、お兄ちゃんっ!一体何を聞くつもりなのっ!?まさか……あの人の趣味とかスリーサ…ふぇっ!?」
何かとんでもないことをことりが言う前に、悠はことりの頭を撫でていた。前触れもなく悠に頭を撫でられて、ことりは顔を真っ赤にして驚いて素っ頓狂を上げてしまう。そんなことはお構いなしに、悠はことりの頭を撫でながら微笑んでことりに話しかけた。
「ことり、一回落ち着こう。なっ」
「う……うん…………」
悠に優しくそう声を掛けられたことりは、頬を朱色に染めて大人しくなった。しかし、手を合わせてモジモジしたり、口角が上がったりしているのは気にしない方向で。
「ああっ!ことりちゃん、ずる~いっ!せんぱい、私にも~!!」
りせはことりが優に頭を撫でてもらっていることが羨ましかったのか、自分にもと悠に要求する。しかし、悠はそれはまた今度と言って要求をはねのけた。りせは少し不満顔だったが、先ほどよりは話が聞ける雰囲気になったので、改めて悠は風花に顔を合わせてもう大丈夫ですよという視線を向ける。風花は悠のことりのあやし方を見て、若干戸惑いの表情をしていたが、深呼吸した後に静かに語った。
自分たちは【シャドウワーカー】という"桐条グループ"と警視庁が共同で設立した特殊部隊から来た者で、過去の事件で各地に溢れだしたシャドウを殲滅するのが目的の組織であるという。ちなみに風花自身は正式に所属しているわけではないらしい。何故なのかと聞くと、本人曰く
「職業が特殊部隊というのは……アレだから」
ということらしい。何となく気持ちは分からなくない。おそらく直斗が公安に頼まれて調査している"桐条"の組織とはこの【シャドウワーカー】のことだろう。何故公安自身が内偵をしないのかこれで合点がいった。そして、この世界に来た目的は今は閉鎖された"桐条"の研究所で封印されていたラビリスの回収だという。詳しく聞くと、ある理由で封印されていたラビリスは先日その研究所からシャドウワーカー本部に護送される途中に盗まれてしまったという。
「盗まれたって、どういうことですか?」
「鳴上くんはニュースを見なかった?5月1日に起こった飛行機のハイジャック事件」
ハイジャック事件と聞いて、悠はふと見たニュースの内容を思い出した。確かに5月1日に某空港にてハイジャック事件が発生していた。警察の特殊部隊の働きによって人質になった乗客には被害はなく、犯人も捕まったと聞いている。もしかして…
「それがラビリスを荷物として乗せていた飛行機で……乗客や犯人に気を取られている間に、ラビリスが盗まれたらしいの」
なるほど。確かにハイジャック事件では人々の目に向くのは、人質の方であって荷物の方はあまり目が向かない。そのラビリスを盗んだ犯人も中々考えたものである。それで、ラビリスが盗まれたことに気づいたシャドウワーカーはすぐに調査に乗り出したらしい。そして、そのラビリスと同じ"桐条"に造られた兵器である"アイギス"による感知を手掛かりに辿り着いたのが、この八十稲羽であったということらしい。
「もしかして……リムジンで稲羽に来たんですか?」
悠は八十稲羽に帰省した道中に見かけたリムジンを思い出した。もしかして、アレに風花たちが乗っていたのか?そう聞くと、風花は何故か苦笑いしながら返答する。
「わ、私とアイギスはどうかと思うって言ったんだけど……美鶴さん、ちょっとズレてる人だから……」
田舎にわざわざリムジンで来るだなんて、どんな人だろう?こんな田舎にリムジンはおかしいと思ったが、その美鶴さんという人物はかなりズレているというかぶっ飛んでいる人らしい。そんなことしたら、八十稲羽のような田舎ではかなり目立つだろうに。少し困った上司を持つ風花に少し同情してしまった。それはさておき、風花たちシャドウワーカーがこの世界に来た経緯は分かった。すると、
「全部……思い出した………ウチが"桐条"に造られた兵器で……友達同士で殺し合いをさせられたん……………」
すると、ずっと黙っていたラビリスが口を開いた。気持ちの整理がついたのか、先ほどよりは落ち着きを取り戻しているような声色だった。
「でも、その友達がな……最後に言うてたんよ。
自分に置かれた現状を自虐的にそう語るラビリス。だが、すぐに顔を上げて
「ガラクタなはずなのに……何でウチは………ここに居たいって思うてるんやろう……何で鳴上くんたちと一緒にいたいって思うとるんやろ………何で…ウチはガラクタで………鳴上くんたちを苦しめた元凶なんに………」
震える声でそう呟いた。それを聞いた悠は少し驚きながらも、一呼吸置いてラビリスに向かってこう言った。
「良いんじゃないか?それでも」
「えっ?」
悠がラビリスに向かってそう言ったので、思わずラビリスは悠の方を振り返った。ラビリスがこちらを振り向いたのを見ると、悠は真っすぐにラビリスの目を見てこう言った。
「そう思うってことはラビリスには心があるんだろ?だったら、君はガラクタなんかじゃない」
「!!っ…………………でも…」
「本当に心のないガラクタだったら、俺たちと一緒にいたいなんて思わないはずだぞ」
悠の言葉にラビリスは目を見開いたが、すぐにまた俯いてしまった。頭では分かっていても、やはりシャドウの言葉が心に残っているのか、まだそれを受けきれていないようだ。すると、その様子を見ていた穂乃果がラビリスに近寄ってこんなことを言ってきた。
「じゃあさ、穂乃果たちと一緒に八十稲羽をまわろうよっ!ラビリスさん」
「えっ?」
突然穂乃果に言われたことにラビリスは戸惑った。"
「あのね、この事件が解決したら鳴上先輩たちが穂乃果たちを八十稲羽のあちこちを案内してくれるって約束してたんだ。ラビリスさんも一緒に行こう!」
そう言われてラビリスはやっと穂乃果が言ったことが理解できた。そう言えば、千枝との決闘の前に、穂乃果はまだ悠に八十稲羽を案内してもらいたいと言っていた。つまり、それにラビリスもどうかと誘っているのだ。正直なところ、ラビリス自身も行きたいと思っているのだが、すぐに首を縦に振ることは出来なかった。只得さえ自分は人間ではないし、そんな自分がついてきたら、悠や穂乃果の友達が何を言うのか分からない。それに、こういう時どう返したらいいのかラビリスには分からなかった。
「いや……ウチは…………」
「鳴上せんぱーいっ!ラビリスさんも一緒に八十稲羽をまわるのっていいよね?」
ラビリスの返事も聞かずに悠に確認を取る穂乃果。それに対してラビリスは思わず慌ててしまう。いつ自分は一緒に行くと承諾したのだろう?慌てて違うと言おうとする前に、悠はそんな穂乃果の質問にサムズアップして答えた。
「もちろんだ!」
「な、鳴上くんもっ……ええの?………ウチなんかを……」
迷わずラビリスの同行を認めた悠。ラビリスには穂乃果と悠の言動が分からなくなっていた。自分は"桐条"に造られた兵器で、人間でなければ何者かなんて自分でも分からない。そんな得体の知れない自分が悠たちの輪の中に入って良いのか?ラビリスの問いに、悠と穂乃果はポカンとした。すると、
「ラビリスは自分がこの事件の元凶だから、俺や高坂はともかく、陽介や園田たちが自分を受け入れてくれるのかが気になってるんだろ?」
悠の指摘にラビリスはうっとなる。どうやら自分の考えていることが分かっているようだった。そんなラビリスの反応をよそに、悠はラビリスに向かってこう言った。
「大丈夫だ。俺たちはラビリスのように、自分の影に悩まされて一緒に乗り越えていった者同士だからな。きっとラビリスと友達になりたがるはずさ」
悠はそう言葉を切って、穂乃果やことり、りせの方を見る。3人ともラビリスを見て、もちろんと言うように頷いた。しかし、それだけでは穂乃果は物足りなかったらしく…
「そうだよっ!穂乃果たちもラビリスさんと友達になりたいんだもん!」
まるでみんなの心を代弁するように、穂乃果が一歩前に出てラビリスにそう言った。
「確かにラビリスさんはロボットだけど、ここまで一緒に行動して良い人ってことだって分かったし、何があったかは知らないけど…私はラビリスの助けになりたいんだ。鳴上先輩が私たちを助けてくれたように。それじゃあ、ダメかな?」
ラビリスは悠と穂乃果の言葉、そしてことりとりせの反応を見て、何故か分からないが胸が熱くなるのを感じた。
「ウチ……アンタらの輪の中に入ってもええの?」
ラビリスの問いに悠たちは勿論と言わんばかりにこくりと頷いた。その瞬間、ラビリスは自分の足元に水滴が落ちていくのを感じた。どこから出てきたのだろうと思い、反射的に自分の頬に手を当てると、それは自分の目から流れていた。その証拠に気づかなかったが、視界がうっすら霞んでいる。つまり……
「ウチ……泣いてるん…………?おかしいな……ウチはロボットで……涙なんて出んはずなのに………」
ラビリスは泣いている。きっとそれは何者かも分からない自分を暖かく受け入れてくれた人が見つけて、嬉しいと感じたからだろう。その気持ちは悠に痛いほど分かった。ラビリスの過去に比べたらそうでもないかもしれないが、親が転勤族だったが故に自分もこの八十稲羽に来る前はずっと一人ぼっちだったのだから。陽介たち特捜隊と出会って、みんなと心から分かち合えたときの喜びは今でも忘れられない。ラビリスは自分の目から出た涙を拭くと悠たちに向かってこう言った。
「うん……ウチも…行く………ウチも…鳴上くんや穂乃果ちゃんたちとイナバっていうところをまわってみたい」
ラビリスが自分の誘いを受けてくれたことに穂乃果は嬉しくなってぱあっと表情が明るくなった。穂乃果とは対称に、風花は少々困った表情になる。その表情から上司にどう報告しようかと悩んでいるようだった。
「でも………もう一人、連れて行かなあかんのがおるやろ」
ラビリスはそう言うと、自身の後ろでずっとただず待っていた自分の影と向き合った。どうやら、自分の心の奥底にあった自分に向き合う決心がついたようである。
自分の影と顔を合わせたラビリスは儚げに微笑んで語りかける。
「ごめんな。ずっと見んふりしとって。ウチがアンタをずっとひとりぼっちにしてた」
「………………」
シャドウラビリスは本人の優しい言葉に戸惑いながらもそう頷く。それを見たラビリスは微笑んで、我が子を抱きしめるようにそっと自分の影を抱擁した。
「ええよ。ウチはアンタで、アンタはウチなんやね」
ラビリスは自分の影を受け入れようとしている。それが分かったのか、シャドウラビリスは驚いたのか目を見開いたが、すぐに嬉しそうに笑った。その途端、2人のラビリスから眩い青白い光が発生し、2人だけでなく辺りの空間をも包んだ。その光は輝きを増していったので、悠たちは思わず目を瞑った。そして、輝きが弱まったので目を開けてみると、ある光景が目に入った。シャドウラビリスがいたところにはシャドウから生まれ変わったペルソナがいた。ラビリスと同じ銀色の髪をたなびかせ、外見は美しい女神のよう。これがラビリスのペルソナだろう。自分のシャドウを受け入れると、シャドウはペルソナに生まれ変わる。ロボットがペルソナを持つとは驚きだが、ラビリスには人間と同じ"心"がある。今回も例外ではなかったようだ。
「こ、これって、どういうことなのっ!?」
風花はまるでありえないものを見たかのように狼狽している。悠たちにとっては見慣れた光景だが、風花にとってはそうではなかったらしいので、悠がそのことについて解説した。
「ここのシャドウは抑圧された感情が具現化して、もう一人の自分に変化したもの。そのもう一人の自分を受け入れたら、そのシャドウはペルソナに変わるんです」
「しゃ、シャドウがペルソナになるなんて………」
混乱する風花をよそに、シャドウから変化したラビリスのペルソナが厳かな声色でラビリスに言葉をかけた。
『我は汝…汝は我……我が名は…【アリアドネ】』
「これが、ウチのペルソナ……」
ラビリスだけでなく、端から見ていた悠たちもラビリスのペルソナの姿を見て、感嘆の声を上げた。そして、アリアドネは光に包まれてタロットカードに姿を変えて、ラビリスの胸の中へ入っていった。
>ラビリスは己の深い闇を乗り越えて、困難に立ち向かうための人格の鎧ペルソナ"アリアドネ"を手に入れた。
「あっ」
ペルソナを手に入れたことによる負荷のせいかラビリスは誤って倒れそうになる。それを予期していたかのように、悠は倒そうになったラビリスをしっかり受け止めた。
「な…鳴上くん…………」
「頑張ったな、ラビリス。もう一人じゃないぞ」
悠の労いにラビリスは思わずポカンとしてしまう。しかし、すぐにラビリスは悠に出会ってからのことを思い出すして自然と口が笑みを浮かんでいることに気づいた。本当に不思議な人だ。自分は悠たちに仲間同士の決闘をさせて元凶だというのに、まるでもう自分の仲間だというように接してくれる。これだからあんなに仲間に信頼されているのだろう。
「うん…ありがとな。鳴上くん」
そんな悠に心から感謝して、悠の耳元でお礼の言葉を囁いた。
>ラビリスからの心からの感謝と信頼を感じる……
「「むう~……………」」
ラビリスと悠がお互いに言葉を交わしている様子を見て良い雰囲気に見えたのか、ことりとりせは揃って頬を膨らませていた。このままでは暴動が起こりそうなので、それにいち早く気づいた風花が2人を宥めにかかった。
「こ、ことりちゃん、りせちゃん。そんなにむくれないで」
「「だって」」
「羨ましいのは分かるけど……鳴上くん、早くここを出ないと。早くあなたたちの友達や美鶴さんたちを助けにいかないきゃ」
風花の指摘に悠はハッとなった。そう、この騒ぎの元凶であろうシャドウラビリスを倒したからといって全てが解決したわけじゃない。まだ磔にされている陽介や海未たちの救出が残っている。急いでラビリスを連れて皆の救出に向かおうとすると、
「!!っ」
突然どこからか殺気を感じた。この感じは……まさか……
「もう、遅いんだよっ!バーカっ!!」
「「「!!っ」」」
突然頭上から誰かが降ってきて悠に襲い掛かった。しかし、何とか反応した悠は鞘に入れたままの日本刀で防御することに成功する。相手は奇襲が失敗したことに舌打ちして、大きく後退する。悠はすばやく穂乃果たちを庇うように前に立ち、日本刀を抜刀した。
「誰だっ!」
相手に向かってそう叫ぶと、相手がゆっくりと歩いて姿を現した。悠を襲った相手の正体は悠と同年代と思われる少年だった。赤髪で顔にバツ印の刀傷、腰に八十神高校の学ランを結んである。両手には物騒な刀が握られている。少年は悠を見るやいなやニヤリと笑った。それは先ほど戦ったシャドウラビリスの邪悪な笑みに似ていた。
「くくくっ………ゴミカスのみなさん、こんにちは~。僕の名前は【
「「「なっ!」」」
皆月という少年の言葉に悠たちは困惑した。この事件の黒幕はラビリスのシャドウだったはず…………もしかして、この皆月が足立が言っていたもう一人の黒幕なのだろうか?それに、足立の口ぶりからして、
「今からお前に面白いものを見せてやる。
「何?」
「たっぷりと味わわせてやるよ。"絶望"をなっ!」
そう言った瞬間、少年の目が怪しい赤色に光った。それを見た途端、頭がぐちゃぐちゃに回っているような感覚に陥り、悠は意識を失った。
ーto be continuded
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「ここは…どこだ?」
「ようこそ、"僕の世界"へ」
「教えてやるよ。お前の好きな真実ってやつを」
「それじゃあ……………さよなら」
Next #33「Break out of...➁ーDispairー」