PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。


今週は色々大変でした。部活の山合宿で野原を走り回り、車校の卒検を危なげながらも突破し、増え続ける課題をこなし………すったもんだありましたが、休日は丸一日暇だったので、その時間を利用して何とか書き上げました。

気づけばもう10月で今年もあと少し終わりですね。10月と言えば自分は食欲と運動の秋としていますが、皆さんはどんな秋をお過ごしでしょう。この時期は梨やリンゴなどの果物などが美味しすぎてつい食べ過ぎてしまう……気をつけよう。

それはさておき、
新たにお気に入り登録して下さった方、感想を書いてくれた方、アドバイスやご意見をくださった方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。

これからも皆さまが面白いと感じてくれる作品を目指して精進して行きますので、応援よろしくお願いします。

今回はあの人物が…………それでは、本編をどうぞ!


#30「The way of the truth ➁」

~悠と穂乃果が去ってから数分後~

 

 

「なに…これ………」

 

 

悠と穂乃果を元気よく見送った千枝は今、危機に瀕していた。何か重力で押されているような感覚だ。その証拠に体が重く、思うように動かない。気を抜いたら潰される。一体どうなっているのかと思っていると、頭上から誰かの声が聞こえてきた。

 

 

「ギャハハハハッ、たいしたことねえな」

 

 

見ると、そこには千枝を笑いながら見下す少年がいた。赤髪に顔にバツ印の刀傷、腰には二刀の日本刀と八十神高校の学ランを結んである少年。そして、緋色に光る目をしていた。この人物は一体何者なのか?八十神高校の制服を持っているということは、八高の生徒だろうか?しかし、こんな目立ちそうな装いをしている人物など、学校で見たことがない。それに何より………あの緋色に光る目は嫌な雰囲気を感じさせた。まるで、全てを飲み込むブラックホールのような感覚……そう思っていると……

 

「チッ………あ~あ、やっぱりペルソナ使いをこの力で操れるまでは行かねえか…………さっきの犬やカマトト、ムッツリたちもそうだったからなぁ」

 

さらっとそんなことをぼやく少年。おそらく千枝と戦う前に誰かにその力を試したのだろう。ただ、彼の言う『犬』・『カマトト』・『ムッツリ』が誰なのかは千枝には分からなかった。だが、一つだけ分かったことがある。こいつは自分の仲間を傷つけた。人一倍仲間想いの千枝はその事実が分かった途端、思わず歯軋りを立ててしまう。それに気づいた少年はニヤリと邪悪な笑みを浮かべてこう言った。

 

「ったく、な~にが頼りにしてるよ?だよ!お前はただ一人になるのが、怖いだけだろ?この自慢傲慢欺瞞ヤローが!お前なんてただ便利に使われてるだけだっつ~の!」

 

「!!っ」

 

「あと、我らがリーダーだっけ?お前らがやってるのは寒~いトモダチゴッコだろ?本当はもうあのリーダーに良い様に扱われるのはコリゴリだとおもってんじゃねえの?もう()()()()()()()っつってな?ハハハハハッ」

 

千枝の心をえぐるような悪口。さっきまでの悠とのやり取りを知っているということは、近くで見ていたのだろう。今すぐにこいつの顔面に靴跡を入れたいが、何かの力で地面に這いつくばることしかできない自分にはそれが出来ない。こいつは自分たちを否定している。まるで去年の足立のように。しかし、

 

 

「………………………」

 

 

改めてその少年を見たが、ふと噴き出た怒りが冷めた。改めて千枝が感じたのはただの憐み。自分たちをバカにしてくるこの少年は何故か寂しくしているように見えて、可哀想と思ってしまった。そんな千枝の反応が気に食わなかったのか、少年は突然顔を歪め不機嫌そうな声を出す。

 

 

「何だよ………………つまんねえ……つまんねえつまんねえつまんねえ!!!僕をそんな目で見るな!!」

 

 

少年は大声でそう言ったかと思いきや、突然近くの影を思いっきり蹴り飛ばした。勢いよく壁を蹴った音が廊下に木霊する。

 

「ッざけんなよ!!ゴミカス共が!!鳴上のせいでアレは集まんねえし!足立の野郎はどこ行ったか分かんねえし!ッざけんな!!コンチキショーがっ!!」

 

突然人が変わったように荒れ狂う少年。もはやそれは狂気としか言いようがないほどの狂いっぷりだった。しかし、千枝はこの少年の口から悠と足立の名前が出てきたことに違和感を覚えた。まさかこの少年が足立の言っていたもう一人の黒幕なのか?足立の話ではこの少年に頼まれてこの事件関わっているということになるが、どうやら関係は上手くいっていない様子だった。いや、それ以上に気になることがある。悠のせいでアレが集まらない?どういうことなのかと思っていると、荒れていた少年が急に大人しくなった。そして……

 

 

「もういいや………ここで一人死んだって、構わねえだろ」

 

 

少年のその言葉に千枝は背筋が凍った。この少年、まさか自分を殺すつもりなのか?そう思った刹那、少年は刀を抜刀して、その刃を千枝の頭に向けた。この少年、本気で千枝を殺す気である。それを直感した千枝の冷や汗が止まらない。そんな千枝に構わず、少年は無慈悲にこう告げた。

 

 

 

「じゃあな、肉女」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<とある教室>

 

「そういうことだから、分かってくれたか?」

 

エリザベスから発せられた言葉の誤解を解くために、持ち前の【言霊遣い】級の伝達力で穂乃果と風花を説得した悠。悠の伝達力のお陰か2人とも、何故か安堵した顔で納得していた。

 

「良かった。もし鳴上くんが女の人に乱暴する子だったらどうしようって思ってたの」

 

「あの…山岸さん………俺はそこまで言ってませんけど………」

 

先ほどのの爆弾発言で自分は風花にどのようなイメージで見られていたのか気になる。おそらく良くないイメージだと言うのは察しがついたので、少し傷ついた。そして、今度は穂乃果がこんなことを言ってきた。

 

「よかった~。これ本当だったら、ことりちゃんに告げ口してたところだよ」

 

「いや………それは勘弁してくれ………」

 

ことりに知られたら怒られるどころではないと思う。どんな形にしろ説得は成功のようだ。この誤解を生みだした張本人の方をチラッと見ると、悠の慌てようがおかしかったのかクスクスと笑っていた。何というか、その姿はからかってくる希みたいで怒りたくても怒れないというところが悩ましい。

 

「おやっ?どうやら話は終わったご様子。これで話を進めることが出来るかと存じます」

 

いや、それもこれもあなたが余計な発言をしたせいだろうというツッコミを喉に押し込んで、悠は彼女の話に耳を傾ける。とりあえず、あの女性は自分のことを知っているようだし、情報を引き出さなくては。

 

 

「では、まず自己紹介から。私の名は【エリザベス】。あなたの推測通り、ベルベットルームの元住人。絶賛()()()()()でございます」

 

 

彼女…もとい、エリザベスの言葉に悠はやっぱりかと思った。エレベーターガールを彷彿とさせる群青色の服装に、マーガレットと同じ黄金色の瞳、顔立ちからしてベルベットルームの住人だと思っていた。ただ、マーガレットと違ってエリザベスは顔が意外に幼く見えたので、もしかしたら自分より年下なのではないかと悠は思った。その横顔は達観した哲学者のように、はたまた穂乃果が見せる無邪気さを感じさせる。ただ……

 

「絶賛職務放棄中………」

 

「そんなこと堂々と言えるって…ある意味すごいよね……」

 

この予想もつかない発言を連発する奇抜さのせいでどうコミュニケーションを取ったらいいのか分からない。どうやらベルベットルームの住人にもマーガレットのような厳かな雰囲気の人もいれば、エリザベスのように自由奔放なタイプの人間も居るらしい。おそらくこのエリザベスが担当になった客人はかなりエリザベスの相手に苦労しただろう。自分はマーガレットで本当に良かったなと心の底から思った。

 

「私、元はベルベットルームの住人でしたが、訳あって職務を放棄し旅に出ておりました。その道中、並々ならぬ強い力のぶつかり合いを感じ、私はこの激ヤバ赤マル要チェケラスポットに降り立ったのでございます」

 

「げ、激ヤバ赤?」

 

「まあ、それがこんな辺鄙な場所とは思いませんでしたが」

 

テレビの中まで辺鄙と言われると少し複雑な気持ちになった。八十稲羽は確かに田舎だが、そんな悪いところではない。エリザベスの失礼な発言に悠は少し神経を逆撫でされたが、悠は何とか落ち着いてエリザベスの話に再び耳を傾ける。

 

「そして、すわ何事かと来てみれば………………何にもなく、なん・たる・ガッ・カリでございます」

 

「…………………」

 

「な、鳴上先輩!落ち着いて!!日本刀を抜刀しようとしないで!!」

 

さらっと失礼を上乗せするエリザベス。彼女の更なる発言に悠は青筋を浮かべていたが、穂乃果と風花が慌てて止めに入った。自由過ぎる振る舞いや発言に穂乃果や風花、果ては悠も困惑する。去年、稲羽で様々な人と知り合って絆を結び、人付き合いには慣れたつもりだったが、エリザベスのようなタイプはどうも勝手が分からない。流石の悠もこの感じを乗りこなすのはオフロード過ぎる。そう思っていると、エリザベスは突然目に真摯な意思を宿した光を宿してこんなことを言ってきた。

 

「しかし、その言葉は撤回しなければなりません。幸運にも私は今、"ワイルド"の力を持つあなたと巡り会えたのですから」

 

「「"ワイルド"?」」

 

"ワイルド"という言葉の意味が分からない穂乃果と風花を思わず復唱して首を傾げる。しかし、悠にはその言葉に聞き覚えがある。本来ペルソナは一人一体という原則を無視して、複数のペルソナを扱える特別な力だと悠はマーガレットとイゴールから聞いている。

 

「私にはある願いがございます。しかし、並大抵のことでは叶えられないものなのですが………"ワイルド"、その力にこそ、私の願いを叶える為のつっかけがある気がしたのでございます」

 

「つっかけ?」

 

「ぶっかけ………?とっかえひっかえ……………?まあそんな感じでございます」

 

「いや……言葉遣いがどうかとおもいますよ……」

 

相変わらずの自由な発言だが、その言葉に真剣さが伝わってくる。それに、エリザベスの話を総合するとこういうことだろう。自分にはどうしても叶えたい願いがあるが、今まで色々な方法を試してもどれも失敗に終わった。そしてマーガレット曰く禁則であるが、その願いを叶える術を見つけるためにベルベットルームから飛び出して旅に出た。その道中、唯一のカギとしてその願い事に【ワイルド】の力が関係していると考えた。そして、先ほど彼女が言っていた『並々ならぬ力のぶつかり合い』…おそらくこのP-1グランプリのことだろうが、そこに【ワイルド】の力を秘めている者の気配を察してこの世界に立ち入ったと。悠がそう考察を立てていると、エリザベスが脈録もなくこんなことを宣ってきた。

 

 

 

 

「というわけで、鳴上様。私とお手合わせ願えないでしょうか?」

 

 

 

 

「「「はっ?」」」

 

突然何を言い出すのかと思いきや、お手合わせ?突然そう言われても困る。エリザベスはやる気満々のようだが、悠にとっては迷惑も良いところだ。早く放送室に居るりせやことり、菜々子を救出に向かわなくてはならないのに。

 

「いや、俺たちそんなことしてる暇は…」

 

「私、正直ワクワクしております。期待がマッハ加速でございます。有り体に申し上げれば、私は貴方の中に眠る”可能性”を見せていただきたいのです」

 

「いや…俺、やるとは言ってないんですけど………」

 

こっちが決闘を断ろうとすると、エリザベスはもうやつこと前提に話を進めていく。こちらの意見など不要と言わんばかりの乱暴っぷりである。もしやあのクマの仕業かと思い、悠は一応確認を取ることにした。

 

「あの…一応聞いておきますけど、俺の言葉通じてます?あのクマの能力で惑わされているとか……」

 

 

「あのような小細工、おととい来やがるべきでございます!!」

 

 

エリザベスは決め顔でそう言った。言葉遣いはアレだが、どうやらニセクマに惑わされているということはなさそうだ。

 

「こ、これで正気なのか…ある意味すごいな」

 

こうなると彼女のことが逆に心配になってくる。何か色々と問題のある妹を見ているような気分になって、マーガレットが心配になるのも当然だなと思った。自分にも妹は2人いるが………

 

 

「な、鳴上先輩!前っ!!」

 

「えっ?」

 

 

 

 

ガキンッ

 

 

妹のことに思考を巡らせている最中に穂乃果のそんな声が耳に入ってきたので反応すると、悠の目の前に何かが飛んできたので反射的に日本刀で防いだ。何とか防ぎ、飛んできた物体を見てみると、それは数枚のタロットカードだった。エリザベスは手に持っていた本…おそらくペルソナ全書を開いており、先ほどとは売って変わって戦闘モードに入っていた。

 

 

「鳴上様、もう既に戦闘は始まっています。手加減はいたしません」

 

 

「!!っ」

 

刹那、これまでの陽介や雪子、千枝との戦いがまるで戯れであったと感じさせるほどの信じ難い苛烈なプレッシャーが悠の全身の肌をビリビリと苛めた。この感覚に悠は見覚えがあった。これは去年、マーガレットと戦いになったときと同じだった。やはりそこは元とはいえベルベットルームの住人であるのか、覇気が半端ではない。これは生半可な気持ちでかかったらやられる。悠はそう再認識すると、マリーの日本刀を抜刀する。

 

「「鳴上先輩(くん)!?」」

 

その行動に穂乃果と風花は慌てるが、エリザベスは既にやる気だ。どういうことかは分からないが、戦わなくてはこちらがやられる。悠は気持ちを切り替えて戦闘態勢に入った。

 

 

「私、エレベーターガールを務めていた身でございますが、幾つか荒事の心得もございます。どうぞ殺すつもりでおいで下さいませ。ドロー、ペルソナカード!」

 

 

悠の様子を見たエリザベスは今の表情に似合わない恐ろしい警告すると、一枚のタロットカードを顕現する。そのカードのイラストは【死神】。エリザベスはそのカードを手に持ち、ペルソナ全書を開く。

 

 

 

ーカッー

【タナトス】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウオオオオオオォォォ

 

 

 

 

 

 

 

エリザベスがタロットカードを砕いた瞬間、耳を塞ぎたくなる雄叫びと共にペルソナが召喚された。そのペルソナは無数の棺桶を鎖で繋いだオブジェを背負い、飾り気のない一振りの刀を構える処刑人のような出で立ちをしており、顔には鳥か獣の頭蓋骨を模したような無機質な仮面を付けている。 そして、普通のペルソナには無い異様な気迫も感じられた。

 

 

(あれは……ヤバい……!!)

 

 

そう思った悠はプレッシャーに負けないように自身も【愚者】のタロットカードを発現させて砕いた。

 

 

 

ーカッー

【イザナギ】!!

 

 

 

イザナギを召喚し、颯爽とタナトスと激突した。剣を交えて分かったのは、あのタナトスというペルソナは見た目によらず相当力のあるペルソナだということだ。一撃一撃が気を抜いたら負けると思えるほど重い。武器は飾り気のない無銘の剣のはずなのに、大剣を持つイザナギに競り勝っている。

 

 

ウオオオオオオォォォ

 

 

更には規則性の読めないでたらめな攻撃。それはとある作品風に言うならば、まさに狂戦士(バーサーカー)。それを平気で使役しているエリザベスの涼し気な表情が恐ろしく見える。そして、タナトスのデタラメな攻撃に打ち負けてしまい、イザナギは虚しくも押し飛ばされた。フィードバックでその反動は悠にも返ってきたが、何とか踏ん張って踏み止まる。踏み止まった悠は改めて、こちらを涼し気な表情で見るエリザベスを一瞥した。彼女が何故こんな強引に戦いを仕掛けてきたのかは分からない。元ベルベットルームの住人であるので簡単に勝てる気はしないが、それでも立ち塞がるのであれば戦うしかない。そう思った悠は、イザナギをタロットカードに戻した。

 

「何はともあれ………全力で行かせてもらう!【ジークフリード】」

 

そう言って悠はペルソナを【ジークフリード】へチェンジする。そして、ジークフリードに大剣を握り直させると再びタナトスとの剣戟へ身を投じた。その様子を見たエリザベスは嬉しそうに微笑んだ。

 

「やはり鳴上様も数多くのペルソナを所持していられるご様子………これは楽しめそうでございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風花はエリザベスが召喚したペルソナ【タナトス】を見て、驚きを隠せなかった。それはあの狂気とも言える戦いっぷりに恐怖を抱いたというのもあるが、何を隠そうあのタナトスは風花の知っている人物がかつて使役していたペルソナと同じだったからだ。何故エリザベスがあの人物のペルソナを使役しているのか。だが、今はそれを気にしてる場合じゃない。悠があの人物と同じく複数のペルソナを使役できるのにも驚いたが、自分の能力で測定したエリザベスの戦闘力は()()()()。今の悠では絶対に太刀打ちできないだろう。しかし、そんな圧倒的に不利なこの状況でも、悠は諦めるような素振りは見せず、あのタナトスに立ち向かう。その姿があの人物と重なって見えて、風花は自然と胸が熱くなるのを感じた。

 

「鳴上先輩………………頑張って!!ファイトだよ!!」

 

そんな悠を穂乃果は元気よく鼓舞する。本当は彼女も怖いはずなのに、今自分に出来ることを精一杯やっているのだ。しかし、戦力の差は歴然に等しいのでこのままでは悠は負けてしまう。ならば、微力であっても自分が彼のサポートをするしかない。それに……また()()()のように、何もしないまま知り合いが消えていくのは真っ平ごめんだ。

 

「穂乃果ちゃん!」

 

風花は意を決して、悠の応援に必死になっている穂乃果を自分の方へ引き寄せる。穂乃果は風花の突然の行動に思考が追い付かず慌ててしまった。

 

「えっ?えっ?風花さん?」

 

「良い!?絶対私から離れないでね!!」

 

「は、はいー!!」

 

先ほどの穏やかな雰囲気とは違い、戦いに赴く厳かな雰囲気の風花に穂乃果はびっくりして言われるがままにするしかなかった。風花は穂乃果のことを確認すると、悠の方を向いた。本来自分のペルソナ召喚には()()()()が必要なのだが、この世界は自分たちペルソナ使いにとって環境が良いのか、アレがなくても問題なく召喚できるようだ。風花はそれを確認すると、祈るように手を合わせて意識を集中する。そして…

 

 

 

ーカッー

ペルソナ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッ!ガキンッ!

 

タナトスとジークフリードの剣戟は熾烈を極めていた。ただ最初イザナギを使っていた時よりかは上手く立ち回れているのだが、徐々に押され始めてきている。何か手はないものかと考えていると、

 

 

 

『鳴上くん!疾風属性の攻撃が来るよ!!』

 

 

 

「えっ………?山岸さん?」

 

突然頭に響くように風花の声が聞こえてきた。何事かと思って辺りを見渡そうとすると、すぐに風花の叱責の声がした。

 

『良いから!疾風属性に耐性のあるペルソナを出して!早く!!』

 

「ちぇ、チェンジ!!【ハリティー】!!」

 

風花の叱責に若干驚きながらも、言われるがまま悠はペルソナを疾風耐性のあるハリティーにチェンジした。刹那、ハリティーに疾風属性の攻撃が直撃する。幸い間一髪ハリティーにチェンジできたので、ダメージはさほどでもなかった。しかし、先ほどの風花の声が聞こえた感覚がりせのサポート時のものと酷似していたので、思わず風花の方を見てみる。

 

「これは……ペルソナなのか?」

 

そこにはペルソナが居た。思わず見惚れてしまう蝶のような羽に紅色のドレスを着こなした女性の姿をしている。そしてその下半身の透明な空間に風花と穂乃果が居る。もしかして、これが風花のペルソナなのか。

 

『これが私のペルソナ【ユノ】。さっき言った通り戦闘タイプじゃないけど、全力で鳴上くんをサポートするよ!穂乃果ちゃんも私と一緒に居るから、気にせず全力で戦って!』

 

「は、はいっ!!」

 

『鳴上先輩、頑張って!!穂乃果と風花さんがついてるから!』

 

何はともあれ、サポート役が居るのはとても心強い。去年りせのサポートでどれだけ助かったのかを思い出すと、先ほどと違って気が楽になった。強力なバックアップを得た悠は果敢にタナトスに攻め込んだ。まずはハリティーの氷結魔法でタナトスを凍らすことを試してみる。だが、攻撃は受けたものの、すぐにそれは破壊され、逆にカウンターを繰り出してくる。すると、風花からの通信が入る。

 

『次!火炎属性、来ます!』

 

「ッ!【ジャックランタン】!」

 

風花の通信と同時にペルソナをジャックランタンにチェンジ。瞬間、タナトスの火炎攻撃がジャックランタンを襲った。今度は違う属性の魔法を仕掛けてきたので悠は思わず困惑する。

 

「な、何なんだ…あのペルソナは………違う属性の魔法を次々と………」

 

『私も分からない……あの人が使ってた時と違う………って、氷結属性!』

 

「【ヤマタノオロチ】!!」

 

 

次々と休む暇もなく違う魔法攻撃と物理攻撃を仕掛けてくるタナトス。風花のサポートもあってか危なげながらも防げてはいるが、そう長くは持たないだろう。去年ならまだしも、現在は呪いのせいでペルソナのストックがあまりないので、いずれやられる。あのタナトスというペルソナはどれだけチートなのだろうと悠は思った。それに剣戟から違う種類の魔法攻撃に切り替えてくるとは……何といやらしい攻撃をしてくるのだろう。それに、まだあのエリザベスは全力を出してないのか余裕といった表情をしている。風花がサポートしてくれているのに、このまま防戦してばかりではいられない。

 

「山岸さん、あのペルソナの弱点は分かりますか?」

 

『えっ…?うん、あのペルソナは光属性が弱点だけど…鳴上くん、光属性のペルソナは持ってるの?』

 

「……いえ、ありません」

 

残念ながら現在所持しているペルソナで光属性の攻撃ができるペルソナを持っていない。強いて言えば、()()()()()()()()()()()()()が2つある。花陽とにことの絆で解放された【星】と【戦車】のアルカナだが、何が出てくるかは分からない。しかし、その迷いが仇となる。

 

 

『な、鳴上くん!そこから離れて!!』

 

 

「えっ?」

 

解放していないアルカナを解放するべきかと悩んでいたせいか、風花の突然の警告に反応が遅れてしまった。何か嫌な予感を感じたので、その場を離れようとするが、もう遅かった。既に悠の周りは無数のタロットカードに囲まれていた。

 

「迷いは禁物でございます」

 

エリザベスがそう言って指をパチンと鳴らした瞬間、タロットカードから無数の衝撃が悠を襲った。悠は何が起こったのか理解できぬまま、フィードバックで力の奔流に巻き込まれて木の葉のように舞っていた。上下の認識がままならない中、地面が急激に近づいてきて全身を打ち捉える。

 

『『鳴上先輩(くん)!!』』

 

地面に叩きつけられた悠に心配の声を上げる穂乃果と風花。悠は起き上がろうとするが、立ち上がることが出来なかった。どうやらあの瞬間、急所を数多く攻撃されたらしく痛みで身体が思うように動かない。段々意識が遠くなっていく。このままではまずいと思い、首をエリザベスの方へ向けたが、そこには彼女はいなかった。

 

 

「そろそろ終焉と参りましょう」

 

 

すると、彼女は声が頭上から聞こえてきた。まさかと思い、風花と穂乃果が上を見上げると、そこにはタナトスを後ろに従えて宙に浮いているエリザベスがいた。人が宙に浮くという現実ではありえない現象を目のあたりにして、2人は思わず絶句してしまう。そんな2人は放っておいて、エリザベスは指を鳴らしたと同時に、タナトスは両手を上げてそこに白いエネルギーを集めていく。それは徐々に大きくなっていきそこら一帯を覆いつくす大きさまでになる。風花と穂乃果はその大きさとただならぬエネルギーの強さに畏怖してしまい、声を出すことが出来なくなっていた。そして、エリザベスは無慈悲にこう告げた。

 

 

 

「メギドラオンでございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面に叩きつけられた悠は薄れゆく意識の中で、ある光景が目に浮かんでいた。それは去年、陽介たち【特捜隊】と過ごした日常の風景だった。ジュネスで買い食いしてフードコートで雑談している場面だろう。陽介が千枝にビフテキを奢らさせて文句を言っていたり、雪子が何故かツボに入ったのかそれを見て大笑いしていたり、完二とりせがつまらないことで喧嘩したり、それを直斗と苦笑いしながら傍観したり、クマが菜々子と遊んでいたり………………まるで走馬燈のようじゃないか。ああそうか、ここで自分は終わりなのかと悠は感じた。

 

 

 

 

 

「……くーん」

「………ぱ~い」

 

 

 

 

 

 

(あれ……?)

 

だが、それは誰かの小さくとも響く声によって遮られた。そして、よくよく見てみると、その光景に違和感がある。何がおかしいのかと思って見ると、その光景には【特捜隊】だけでなく、穂乃果たち【μ‘s】も居た。

 

(えっ……?)

 

さらっと千枝に便乗して陽介に何か奢らせようとする穂乃果と凛、そんな2人に陽介の苦労も考えろと諭す海未。りせと一緒に完二を睨むにこに、喧嘩を仲裁しようとする花陽。直斗と一緒にそれの光景にあきれると同時に羨ましそうに傍観する真姫。そして、クマと一緒に菜々子と遊ぶことりの姿があった。さらに奥を見ると、悠を見つけて手を振っている雛乃、悠にニコニコした笑顔を見せる希に、気まずそうに目を逸らす絵里もいる。

 

これはどういうことだ?何故穂乃果たちがこの走馬燈の中にいるのだろう……去年彼女たちと知り合ってないはずなのに…………

 

 

 

 

(………そうだったな)

 

 

 

 

 

悠は再認識した。これは走馬燈ではない。悠が望んでいた光景、本来あるはずだったGWのワンシーンだ。今現実はどれほど時間が経っているだろう。まだ一日しか経ってないかもしれないし、もうGWは終わっているかもしれない。しかし、例えそうだったとしても、悠の目的は変わらない。

 

 

(高坂が教えてくれたじゃないか……絶対みんなで現実に帰って……八十稲羽をまわるって………そのためにも…()()()()()()()()!!!)

 

 

自分はまだ負けられない。まだやり残したことがあるのに、このまま終われるはずがない。悠は残った力を振り絞るように心の底から叫んだ。

 

 

 

 

 

 

イザナギ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!!っ

 

エリザベスがメギドラオンを放とうとした瞬間、右手に激痛が走った。あまりの痛みに思わず顔を歪めてしまい、手にしていたペルソナ全書から手を離してしまう。何事かと見てみると、そこには信じられない光景があった。メギドラオンを放とうとしたタナトスの右手に大剣が突き刺さっている。それをやった張本人はあろうことか、いつの間にか召喚されていた悠のペルソナ【イザナギ】だった。

 

 

 

ウオオオオオオォォォウオオオオオオォォォ

 

 

 

タナトスはあまりの激痛にメギドラオンを解除して暴れ回る。散々空中で暴れまくったタナトスはついに地面にひれ伏してしまった。それと同時に、悠の限界が来たのかイザナギはタロットカードに戻ってしまった。

 

(一体……何が……………これは…………)

 

右手の痛みを回復魔法で癒しながらエリザベスは一体何が起こったのかと困惑したが、その答えはエリザベスの目の前にあった。今の悠はフラフラになりながらも日本刀で身体を支えている状態である。だが、エリザベスの目には彼が大勢の人間に支えられているように見えているのだ。

 

ヘッドフォンを首に付けている少年や緑色ジャージと赤色のガウンを身に着けた少女たち、如何にも不良といった感じの少年やアイドルや探偵を感じさせる雰囲気を持つ少女たち、クマの着ぐるみ。そして彼らと違う制服の7人の少女たち。推測するに、彼らは悠の仲間だろう。エリザベスには聞こえないが、彼らは倒れそうな悠に励ましの言葉をかけているのが分かる。頑張れ、俺たち私たちがついているからと。そして、悠は彼らの言葉に応じるかのように頷き、エリザベスの方に目を向ける。

 

悠から向けられた瞳にエリザベスは思わず慄いてしまった。自分はまだまだ本気を出しておらず余裕なのに対して、彼は立てるかどうかも怪しいくらい衰弱している。こんな圧倒的に不利な状態でも、彼の瞳はこう語っているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に勝つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦い前の会話からして普段は物静かでクールな雰囲気を持っていそうな彼のものとは思えない、確固たる意志を感じる。久しぶりに鳥肌が立ってしまった。この感覚を感じたのは実に数年ぶりだろう。おそらくあの人物と対峙した時と同じ、いやそれ以上のものだった。エリザベスは少し呆然としてしまったが、彼女は悟った。

 

 

(これが彼に眠る"ワイルド"の…いえ……()()()()()()………………お見事)

 

 

そしてエリザベスは悠の隠れた力に満足したのか、ニンマリと口元に笑みを浮かべてタナトスをタロットカードに戻してペルソナ全書を閉じた。それと同時に、戦いの終わりを告げるかのように悠の身体は地面に吸い寄せられるように倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「えっ?」」

 

風花と穂乃果はエリザベスが取った行動の意味が分からず、困惑していた。とりあえず、もう戦闘を継続する気配はなさそうなので、風花は自身のペルソナをしまい、穂乃果と一緒にボロボロの悠に駆け寄った。見ると、悠はもう立つのは困難というくらいのダメージを負っていた。それにも関わらず、最後にあのタナトスに渾身の一撃を与えられたのは驚きだ。改めてエリザベスの方を見ると、彼女はこちらを見て満悦な笑顔を浮かべていた。

 

 

「ふふふ……感服致しました。まさかこれほどのチカラを持つ者があの方以外にも居らしたとは……流石は姉上が認める御仁でございます」

 

 

エリザベスはそう言葉を切ると、自分の中で何かを整理するように幾度となく頷いて見せた。その表情はまるで忘れていた愉悦を思い出したかのような感じだった。やがて、彼女は己の中で整理がついたのか再びペルソナ全書を開き、ボロボロな悠に温かい光を包ませた。温かい光に包まれると、傷ついていた悠の身体が癒えてく。光が消えると悠の身体はエリザベスとの戦闘前と同じ…いやそれ以上に回復していた。

 

「……これは……」

 

「鳴上先輩!!」

 

悠が元気を取り戻した瞬間、穂乃果は歓喜余って悠に抱き着いた。

 

「こっ、高坂…」

 

「良かった…良かったよ~~~~!!鳴上ぜんばーい!!」

 

今まで以上に泣きじゃくる穂乃果。ここまで泣かれたら、また心配をかけてしまったと申し訳なくなってくる。もう無茶はしないと言ったはずなのに、これでは先輩失格だ。それに、意識が朦朧としていた中での渾身の一撃を受けてもなおエリザベスはあまり疲れておらず、余裕の表情だったので、完全に自分の負けだった。相手はベルベットルームの住人であるので仕方ないと言えば仕方ないが、少し悔しい。前にマーガレットと渡り合ったこともあって、心の何処かに慢心があったのかもしれない。

 

 

「鳴上様、誠に不思議な方でございます。先ほどの戦いは大変なご迷惑をかけてしまったとはいえ、互いにうらなり……いえ、予想以上に嬉しい収穫があったと存じます」

 

 

「うらなり……?」

 

「すずなり?……おいなり…………?まあとにかく上機嫌でございます」

 

戦いが終わった後ですらエリザベスはこの調子とは。ますます敗北感を感じてしまう。だが、何故かはわからないがそんな悠と穂乃果の様子をエリザベスは羨ましそうに見ていた。その表情は先ほどとは打って変わって、言い方は悪いが如何にも純粋な子供を連想させた。すると、エリザベスは悠を見つめてこんなことを言ってきた。

 

 

「私は先ほど目にしました。あなたを支える数多くの人々との絆を………それに、あなたのチカラはもっと強い"可能性"が秘められていると思われます。私、好奇心をマックス抑えられぬ愛らしい性質でございますので、もっとあなたの"可能性"を……いえあなた自身のことが知りたくなってしまいました。ふふふ♪」

 

 

クスクスと笑うエリザベスの言葉を聞いた途端、悠はエリザベスに対して悪寒を感じてしまった。上手く言えないが、エリザベスの自分を見る目が新しいおもちゃを見つけた子供のような感じだったのだ。また変な人物に目を付けられたなと悠は思う。東京でも、希や菊花など何人かの人物に目を付けられているのでこれ以上は勘弁してほしい。そんなことを思っていると、エリザベスはそんな悠にこんなことを言ってきた。

 

「それでは私はこれで失礼致します。姉上がそろそろ追ってきそうなので、その前にトンズラでございます。一応この辺りに張られていた結界は排除致しましたので、この部屋を出た先の階段を上がれば、鳴上様の目的地はすぐそこでございます」

 

「「えっ?」」

 

さりげなくとんでもない発言をするエリザベス。つまり、あのニセクマが自分たちを放送室に行かせまいとしていた結界とやらを消したということだろう。あまりに突拍子のない発言に驚愕して、どういうことなのか説明を求めようとすると、エリザベスはいつの間にか教室のドアの傍に立っていた。

 

 

「それでは鳴上悠様、ご武運を。きっとあなたなら()()()()()をお救いになられるでしょう。また会える日を楽しみにしております。ベ~ルベルベル♪ベルベット~♪♪わ~が~あるじ~♪ながいはな~♪♪」

 

 

エリザベスは悠の制止の声も聞かずに、優雅にスキップしながら聞き覚えのある鼻歌と共に廊下の方へと去っていった。最後の最後まで自由な人だなと思う。ただ、あの鼻歌は以前マーガレットが妹とよく一緒に歌っていた唄と聞いていたものだったので、姉との思い出は大切にしているのだなと悠は感じた。それはそれとして、彼女の言葉にあった"あの方"とは一体誰なのだろうか?まさかと思うが……

 

「あれ…?これって、エリザベスさんの落とし物かな?」

 

穂乃果は何か見つけたのか、悠から離れてそれを床から拾った。穂乃果が手に持っているのは綺麗な装飾のついた白金細工の栞だった。おそらく穂乃果の言う通り、これはエリザベスのものなのだろう。返そうにも持ち主であろう彼女はもう去ってしまったので、機会があったら返そうと、とりあえず栞は穂乃果に預けておくことにした。

 

「それはそうと…放送室へ急ぐぞ!高坂」

 

「うん!エリザベスさんが何とかしてくれたみたいだから、早くあのクマさんを何とかしないと」

 

悠と穂乃果は早くこの事件を解決しようとエリザベスの言葉を信じて、教室を飛び出した。目指すはこの騒ぎを引き起こしたニセクマの居る放送室。

 

 

「あっ!ちょっと待って!私を置いてかないで!鳴上くーん!穂乃果ちゃーん!!」

 

 

風花も今のところ、頼れる人物がこの世界に精通しているであろう悠と穂乃果しかいないので、遅れながらも教室を出る。それに勘ではあるが、あの2人について行けば、自分たちの()()()()()に近づけるのではないか。そう思った風花は急いで先へ行ってしまった2人を全力で追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

another view(希)

 

 

……………んっ?今、何か嫌な気配が…

 

「そうなの。悠くん、そんなに多くの人に慕われてたのね」

 

「まぁ…慕われてるというか……って希?どうしたの?」

 

「えっ…?いや、何もあらへんよ。ちょっとぼうっとしてただけや」

 

時刻は昼過ぎ。理事長先生の用事も終わったらしいので、今は鳴上くんたちと合流しようと八十神高校の校門を出て行っている最中やった。結局ウチらの生徒会での交流会は相手側の生徒会長が急病ということで中止になってもうたんやな。まあ、そのお陰で恥ずかしい目にあったりしたけど、鳴上くんのことを色々聞けたから、ウチにとっては役得やったけどな。

 

それはさておき、エリチが理事長先生と話している中、ウチは突然嫌な予感を感じた。何か鳴上くんにまた女の子の気配があったような……それもあるけど、あの学校で何か良くないことが起こるような予感。占いと趣味としてるから、そんなことに敏感なだけかもしれんけど……それを感じた時、私の頭の中に昨日の夜中に映ったあの番組がよぎった。

 

 

 

高校生同士の決死の格闘番組

鋼のシスコン番長

P-1グランプリ

 

 

 

すると、理事長先生が何か思い出したようにこんなことを言い出した。

 

「そういえば、ここの先生たちが興味深い噂話をしてたわね」

 

「噂、ですか?」

 

「何でもね、『夜中の0時に密かに流れてる格闘番組があって、そこで負けた人は翌日死体となって発見される』って言う内容なんだけど。ちょっと物騒よね」

 

「えっ!」

 

「ああ、私もここに来る途中にそんな噂を聞きましたけど、それって根も葉もない噂じゃないですか?去年、この街で奇妙な連続殺人事件があったって話は聞いてますけど………希?」

 

 

理事長先生の話を聞いたウチは思わず八十神高校の校舎を見てしまう。やっぱり何か嫌な予感がする。理事長先生やエリチの言う通り根も葉もない噂話やけど、昨日見てしまったあの番組予告とその噂話が繋がってるように感じてしまう。もしかしたら鳴上くんたちが、それに巻き込まれて…………

 

 

 

 

 

「大丈夫。悠ならきっと帰ってくるから」

 

 

 

 

 

ウチがそう不安に駆られたその時、ふと前から誰かの声が聞こえてきたので振り返ってみる。そこにはウチらと同じ高校生らしい女の子がいた。ショートカットの髪型に青いハンチング帽と手提げ鞄。それにすらっとしたスタイルにオシャレな服装に身を包んだその姿は、ウチや横にいるエリチも見惚れてしまうくらい綺麗やった。

 

「あら、お人形さんみたいで可愛い子ね。あなたも悠くんのお友達なのかしら?」

 

 

ウチらと違って、理事長先生は余裕たっぷりにその女の子に質問していた。今この子悠って鳴上くんのこと下の名前で呼んでたんやけど…もしかして………

 

 

 

「今、悠は大変な目に遭ってるけど、ガッカリーや緑のと赤いの、それにコーハイ?たちがついてるから大丈夫。だから、君たちも悠を信じて待ってて」

 

 

 

「「「えっ?」」」

 

彼女は理事長先生の質問に対してそう返した途端、ウチの視界が真っ白になった。そこから先は覚えてない。

 

 

 

 

 

another view(希)out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悠と穂乃果は急いで放送室への道を駆け抜ける。迷ってる暇なんてない。早くあのニセクマを何とかしてりせたちを救出しなければ。後ろから待ってと叫ぶ風花の声が聞こえるが、心苦しくもそれを無視して走り続ける。階段を上り切ると、エリザベスが言っていた通り『放送室』と書かれたプレートがある部屋が見えてきた。やっとたどり着いた。これでこのふざけたグランプリに決着をつけられる。悠はそう思って勢いよくその扉を開いた。扉を開けたとき、そこに待ち受けていたのは……

 

 

「ほほーい!センセイのご到着クマ~。それに、ちゃんとおバカな小娘もいるクマね」

 

 

まるでこちらが来るのを待っていたかのように、放送室の椅子に踏ん反り返ってこちらを見ているニセクマ。見た目もモニターで見た姿のままだったので、こいつは間違いなく本物のニセクマだろう。目の前にいるこの事件の元凶であろうニセクマを見て、悠と穂乃果は身構えて、対峙する。

 

 

 

 

いよいよこの事件も終幕へ。その先に待ち受ける真実を求めて、今ここに役者は出そろった。

 

 

 

ーto be continuded




Next Chapter

「楽しめただろう?P-1グランプリ」

「どういうことだ……」

「ことりちゃんっ!!」

「菜々子っ!!」

「お前は一体何者だ」


フン……ふっふっふっふっふ……………


Next #31「The truth of "Labyrinth"」

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