PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

もう9月の下旬で季節の変わり目になりましたね。自分も学校が始まったり、車校の卒業が間近だったりと新生活に慣れようと励んでいます。この時期、油断していると一瞬で風邪を引いてしまう時期なので、皆さんも気を付けてください。

それと、前回予告で書いたExtra➁について。
本当は9/13に投稿する予定だったのですが、まだ本編に登場していないor登場しているけど名前が明かされてないキャラがいることやストーリーを考え過ぎたなどの理由で予告だけという形になってしまいました。なので、このExtra➁を楽しみにして下さっている方、もう少し待ってください。

そして新たにお気に入り登録して下さった方、感想を書いてくれた方、最高評価・高評価・評価をしてくださった方、アドバイスやご意見をくださった方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。

☆祝☆
お気に入り950件突破!
9/15日刊ランキング:23位&6位!
9/16日刊ランキング:3位!

改めて読者の皆様、ありがとうございます。このような嬉しいことが起こったのも、読者の皆様の応援があってこそです。これからも皆さまが面白いと感じてくれる作品を目指して精進して行きますので、応援よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


#29「The way of the truth ①」

「足立さん………ですよね?」

 

信じられない人物の登場に悠はもう一度聞き返してしまった。その人物の名は【足立透】。悠と千枝たち特捜隊には因縁のある人物である。悠は足立の姿を見て、呆然としてしまったが、千枝は足立を睨みつけながらカンフーの構えを取った。

 

「うん、そうだよ。しっかし悠くん、見ないうちに大きくなったねえ。やっぱり成長期ってやつなのかな?」

 

そんな悠たちとは対称に足立と飄々としている。それに彼が見ているのは悠だけであって、自分を睨みつけて戦闘態勢に入っている千枝は気にしていないようだ。千枝は足立のその態度に腹を立てて飛び掛かろうとしたが、悠が無言でそれを制した。すると、足立は視線を悠の傍に居る穂乃果と生徒会長に移した。

 

「ありゃ?里中さんの他にも見かけない子もいるね。悠くんの新しいお友達?」

 

足立にそう聞かれた穂乃果は思わずビクッとして悠の後ろに隠れてしまい、生徒会長は本能的に危険なものを察知したように後ずさった。初対面の人でも臆せず接することができる穂乃果だが、何故か今は足立には怯えている。悠たちの足立に対する雰囲気が穏やかではないと感じたからだろうか?このままでは会話が進まないので、怯える穂乃果の代わりに悠が紹介した。

 

「こいつは高坂と言います。俺の東京の後輩です。そして、こっちは…」

 

「ふ~ん、悠くんの後輩なの?いや~相変わらず悠くんはモテモテだねぇ。こんな状況でも女の子を3人も侍らすなんてさ。ちなみに高坂さん、下の名前はなんていうの?」

 

悠が穂乃果を紹介すると、足立は嬉しそうに、そして羨ましそうにそう言って、穂乃果にナンパまがいのことを質問してきた。足立のその行動に見かねた悠は足立にしかめっ面で制した。

 

「足立さん、俺の大事な後輩にナンパするのは止めてくれませんか?」

 

悠に制された足立は大袈裟に後ずさった。

 

「おっと、ごめんごめん。いや~最近可愛い女の子を見てないからつい調子に乗っちゃったよ~。でも悠くん、少し堂島さんに似てきたんじゃない?ちょっとあの人にドヤされたと思っちゃったなぁ」

 

本当にそんなことを想っているのだろうか?相変わらず本心で言っているのか分からない人だと悠は思った。叔父の堂島の苦労が少し分かった気がする。

 

「な、なんやこの人……」

 

生徒会長はのらりくらりと会話する笑顔の足立に不気味さを感じていた。それに先ほどまで笑いあっていた悠と千枝がこの足立が登場した途端、一変して警戒態勢を敷いている。それほどまで、あの男が危険だということなのだろう。一方、悠は最初この足立は偽者なのではないかと思ったが、それは違うと確信した。あの人懐っこい笑顔とその裏に隠れた不気味さ、そして人を食ったような声色は間違いなく【足立透】本人だったからだ。しかし、このままのらりくらりとかわされては埒が明かないと判断したので、悠は足立に単刀直入に質問した。

 

 

「足立さん、改めて聞きます。何故あなたがここに居るんですか?」

 

 

悠がそう聞くと、足立はバツが悪そうに頭を掻きながら答えた。

 

「ん~……何でここに居るのかって言われてもねぇ………まあ、僕としては大人しくするつもりだったんだけどさ、どうしてもって言われて頼まれちゃったんだよ。ほら、僕って頼まれたら断らないタチじゃない?」

 

「頼まれた?あのクマにですか?」

 

しかし、悠の返答に足立は首を横に振る。

 

「違うよ。あの凶暴なクマくんが僕にそう言う訳ないじゃない。()()()()の方だよ」

 

「もう一人?」

 

「ありゃ、その様子だと悠くんまだあの子に会ってないようだね。彼、君に訳アリっぽかったから、もう絡んでたと思ってたんだけどな」

 

足立の言葉に悠は思わず眉を顰めた。足立の話が本当だとすれば、この事件の黒幕はあのニセクマの他にもう一人いることになる。それに、その人物は悠に訳アリということだが……すると、千枝は我慢の限界がきたのか、強い口調で足立に問い詰めた。

 

「そんなことはどうでもいい!!アンタ、やっぱりあのニセクマと共謀してこの事件を」

 

「えっ?いや~、その辺りはどうなんだろう?それより悠くんたち、今大変なんじゃないの?あのクマくんにお仲間同士の決闘をさせられてるって」

 

「なっ!アンタ、何で知っとるん!?」

 

生徒会長は足立がこの世界で行われていることを知っていることに食い掛った。しかし、足立は例の如くそれを気にせず話を続ける。

 

「まあ、僕としてはあれを良い見世物と思ってるけどね。仲良さそうにしてる君たちがいがみ合うのを見るのは面白いし、良い暇つぶしになりそうだし」

 

「…アンタ、やっぱり…」

 

千枝はやはり足立はそんなことのためにこの事件を起こしたのかと思ったのか、これでもかというくらい足立を睨みつける。しかし、足立は千枝の睨みに動じず、肩をすくめながら悠に向かってこう言った。

 

 

「それにしてもさ、悠くんも好きだよね。自分から首突っ込んで痛い目にあってさ。お友達を助けるためだ~とか言っても、そんなの人生で何の得もしないよ。友達なんて、時が経てばポイっと忘れるんだからさ」

 

 

「そんな……そんなこと!!」

 

足立の辛辣な言葉に穂乃果は違うと反論しようとしたが、悠は何も言うなとそれを制した。穂乃果にとっては今の言葉は聞き捨てならないものだったかもしれないが、この男の言葉に惑わされてはキリがない。それに足立の言葉を聞いて、やっと本音が出たなと悠は思った。今の足立の言葉に思うところがないと言ったら嘘になるが、自分とこの男は考え方が違う。去年そのことを身を持って思い知ったので、悠はあまり動揺はしなかった。足立の言葉を静かに聞いた悠は一歩前に出て、足立に真っすぐな目で質問した。

 

 

「足立さん、あなたは俺に”現実のルール”に従うと言ったはずだ。あれは嘘だったんですか?」

 

 

「ルール?………………ルールねぇ………

 

悠の口から出た言葉に何か気になることがあったのか、足立は考え込むように小声でその言葉を復唱する。

 

「嘘でないと言うなら教えてください。ここで一体何が起きてるんですか?あなたは知ってるはずだ」

 

再度足立にそう問う悠。しかし、足立は悠の発言に思うところがあるのか、黙ったままだった。その沈黙が鬱陶しかったのか千枝がまた再度問い詰めようとすると、足立が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…相変わらず青臭いねぇ……君ってやつは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャッ

 

 

そんな言葉が足立から発せられたその時、足立は懐から不気味な音がするあるものを取り出して悠に向けた。それは黒に光る拳銃だった。

 

「ぴ、ピストル……」

 

「足立さんっ!!」

 

足立がピストルを構えたのを見て、悠は思わず日本刀を抜刀、千枝はカンフーの構えを取って穂乃果と生徒会長を守るように足立の前に立ちはだかった。穂乃果は恐怖のあまりに悠の背中にしがみついている。足立は一瞬表情を歪めたものの、すぐ無表情に戻って自分を静かに睨む悠にこう言った。

 

「こんなところでも"現実のルール"なんてさ。ルールって言葉に縛られてるから、君は"()()()()()()"にもバカ正直に従っちゃってるんじゃないの?」

 

「ここのルール?」

 

「ほら、友達同士でリングイ~ンってやつ。そのおかげで()()()()()()()()()()()()()()()()。全くガキはお気楽だね~」

 

「そ、それはどういう意味よ!」

 

千枝は足立にそう問い詰めるが足立は質問に答えるつもりはないと言わんばかりに沈黙を貫いた。だが、同時に悠は確信した。やはり足立はこの事件に何らかの形で関わっていることに。すると、足立はチラッと生徒会長の方を見てこんなことを聞いてきた。

 

 

 

「知らないと言えばさ………悠くん、君はそこの関西弁の子の名前とか知ってるわけ?」

 

 

 

「えっ?」

 

思わぬ質問に、悠は空いた口が塞がらなかった。何故ここで生徒会長の名前のことが出てくるのか?足立の意図の分からない発言に困惑しながらも、悠は思わず生徒会長の方を見てしまった。

 

「……ウチの…名前?」

 

「せ、生徒会長さん?どうしたの?」

 

穂乃果が足立の言葉で何か考え込む生徒会長に声をかけると、千枝が『生徒会長』という言葉に反応した。

 

「えっ?この子が生徒会長?」

 

「ああ、この子が八十神高校の生徒会長らしいけど、里中は知ってたか?」

 

まだ千枝に生徒会長のことを紹介してなかったので悠が千枝に説明してそう聞くと、千枝は悠の説明に難色を示した。

 

「それっておかしくない?確かに鳴上くんが東京に帰った後、新しい生徒会の選挙はあったけどさ。でも、今年の生徒会長って()()()だったはずだよ」

 

千枝が生徒会長を見てそんなことを言ってきたので、悠と穂乃果は驚愕した。八十神高校の生徒会長は男?じゃあ、目の前にいるこの子は……

 

「ウチの……名前…………」

 

すると、会長は動きを止めた。別段足立はおかしなことを聞いたわけではないので、悠はその反応を不審に思った。それに、今の会長の様子は足立が怖いから答えづらいという訳ではなく、どこか脈録を欠いたような陰鬱さを感じさせた。

 

「ウチの…名前は…………………ウチの…記憶……」

 

段々顔色が悪くなっていく、そして身体も小刻みに震えだした。どうしたのかと思っていると、会長は口を開いた。

 

 

「いやや!もう戦いとうない!同胞殺しなんてちゃう!!」

 

 

「同胞殺し?」

 

「だ、大丈夫?」

 

同胞殺しという物騒な単語に悠と穂乃果は驚いた。それに、生徒会長の様子がおかしい。顔が絶望に染まったように目の焦点が合ってないし、狂ったように息遣いも荒くなっている。その様子は、まるで何か思い出したくないものを思い出したかのように感じだった。穂乃果はそんな会長が心配になって、落ち着けさせようと会長に触れようとしたその時……

 

 

 

 

「あ…ああ……ああああアアアア!!」

 

 

 

 

 

「きゃあっ!」

 

「「高坂(穂乃果ちゃん)!!!」

 

落ち着けさせようとした穂乃果を何か獲物を振り払うかのように、会長は手を穂乃果に向けて思いっきり振り払った。その動作に嫌な予感を感じた悠と千枝は穂乃果を庇うように2人の間に入って会長の手に触れた刹那、悠と千枝はその細腕に軽々と投げられて背後の壁に思いっきり叩きつけられた。

 

「「ぐっ…」」

 

「な、鳴上先輩!千枝さん!」

 

壁に叩きつけられた悠に穂乃果は駆け寄って、身の安全を確かめた。改めて会長の様子を見るが、どう見ても正気じゃない。このままでは危ない気がしたので、悠と千枝は互いに顔を見合わせて、抑え込もうとジリジリと会長に近づこうと試みる。少々荒っぽくなるが、今はそんなことを言ってる場合ではない。しかし、

 

 

 

「なっ!」

「うそ……」

 

 

 

気づいたときには、()()()()()()()()()()()()()()()()()。おそらくジャンプしたのだろうが、それは飛び跳ねたというには次元が違い過ぎる。あの脚力はもう人間業ではない。あまりの衝撃で固まった悠たちをよそに、会長は壁を三角飛びの要領で蹴って方向転換すると、床に着地したと同時に猛スピードで廊下の先に消えていった。その様子を間近で目撃した悠たちは何が起こったのか分からずと呆然してしまう。

 

「あの子…何者なの?」

 

「さっき、記憶がどうとかって」

 

悠は穂乃果の呟きにハッとなった。あの会長はどこか記憶が抜け落ちている節があった。先ほど足立に名前を聞かれたことで、忘れていた記憶を取り戻しかけたのかもしれない。しかし、そうだとして、あのようになってしまうほどの記憶とはどういったものなのだろう。

 

「ありゃりゃ、これは予想外だったなぁ。まさか名前を聞いただけで、あんなに取り乱すなんて」

 

足立は拳銃を指に掛けて会長が逃げた先を見てそう呟いた。奇妙なことに足立は先ほどの光景を見ても、驚愕の表情が見当たらない。そう言えば、先ほど足立は初対面の穂乃果に名前を聞いたが、何故同じ初対面であるはずの会長に名前を聞かなかった。もしやこの男は……

 

「足立さん…もしかして、あの子のことを知ってたんですか?」

 

「……さあね?例えそうだったとしても、僕には関係ないね」

 

「なっ!!」

 

「じゃあ、僕はここで失礼するよ。いつまでも君たちみたいなガキに付き合うつもりはないし」

 

足立はそう言うと、手に持っていた拳銃を懐にしまって、近くの教室のドアに手を掛けた。

 

 

 

 

「精々足掻きなよ、悠くん。みんなの楽しいGWは君の手にかかってるんだからさ」

 

 

 

 

足立は悠に手を振ってそう言い残すと、教室に入って去っていった。悠は立ち上がって足立を追いかけようとしたが、教室に入ると既に足立はいなくなっていた。

 

「くっ!足立さん……」

 

思わず悠は顔をしかめてしまう。足立は確実に何かを知っているはずだ。会長のこともあったが、せっかくの手がかりを逃がしてしまったような気分になって悠は己を呪いたくなる。

 

 

「鳴上くん!」

 

 

すると、それを見かねた千枝が悠に大きな声で呼ぶ。

 

「早く穂乃果ちゃんとあの子を追ってあげて!!あたし、ここで待ってるからさ!」

 

「えっ?でも……」

 

「確かに足立さんのことは気になるし、あの子が何であんなに取り乱したかは分からないけどさ。でも、足立さんがどんな風に関わってるにしろ、あの子は助けなきゃだめだよ!」

 

「里中………」

 

「いつもみたいにサクッとあの子を助けてやりなよ。鳴上くんなら足立さんに負けないし、絶対あの子を助けてやれるって信じてるからさ」

 

戸惑う悠に力強く、そして輝かしい笑顔でそう言って聞かせる千枝。その目は悠なら絶対出来ると確信していることを物語っていた。確かにどんな形であれ、あの生徒会長は何者かにこの世界に落とされた被害者だ。自分たち特捜隊は絶対に被害者を見捨てたりはしない。それに、自分の心配より他人の心配をするとは、自分の仲間はこういう優しいやつばかりだなと悠は心の中で誇らしく思った。悠は千枝に感謝して、彼女と信頼の証のハイタッチを交わした。

 

「ああ、任せろ!」

 

「うん!頼りにしてるよ!我らがリーダー!!穂乃果ちゃんも鳴上くんのことをよろしくね」

 

「は、はい!行こう!鳴上先輩!」

 

千枝とのハイタッチを交わしたあと、悠は穂乃果を連れて会長が逃げた方向に走っていった。そこにどんな結末が待っているかは知らないが、目的はただ一つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

another view(絵里)

 

「おま~ちど~う」

 

部屋に入ってきたのは、岡持を持った女の子だった。青く光る黒髪のショートヘアに雷文の髪留めが特徴的で、八十神高校の制服の上に赤いエプロンと三角巾を身に着けている。見るからに私たちと同じ高校生だろうけど、何か寡黙というかどこか掴めない雰囲気を醸し出している印象的な子だった。

 

「あ、あの……何の用かしら?」

 

私は少し戸惑いながらもその子に何か用があるのかと質問する。

 

「でまえ、お届けに来た~」

 

「えっ?出前?」

 

その子は私の言葉を気にせずに、教室に入ってきて岡持ちをテーブルに置いて、中から丼を2つ取り出した。

 

「は~い、にくどん3人前お届け」

 

彼女はそう無感情であり無気力な声色で私たちの目の前にその肉丼が置いた。お肉がたくさんでボリューム満点、炒めたお肉から食欲をそそる匂いが鼻を刺激する。時計を見るとちょうどお昼頃だったので、ちょうどいいとは思ってたけど……

 

「あの………ウチら、出前なんて頼んでないんやけど………というか、ここ学校の中やで?」

 

希が女の子に当然の質問をした。希の言う通り、私たちは出前なんて頼んでないしする暇もなかった。それに、ここって一応学校なんだけど、出前ってして良いのかしらとツッコミたい。そう思っていると、その子は澄ました顔でこう返答する。

 

「うちのでまえ、どこでも届けるから、もんだいない」

 

「いや、そういうことじゃなくて………」

 

どこでも届けてくれる出前なんて聞いたこともないんだけど……どこか抜けているのかしら、この子は。それよりどうするのよ。明らかに一つ多いし、頼んでないものにお金なんて

 

 

「あら?もう出前届いたのね」

 

 

すると、困惑する私たちの前に理事長が姿を現した。もう届いたのねって、まさか……

 

「理事長!?こ、これ理事長が頼んだんですか!?」

 

「そうよ♪本当は八十神高校側が用意した弁当でも良かったんだけど、悠くんからどこでも何でも届けてくれるっていう出前のことを聞いたから、試しに頼んでみたの。本当に学校でも届けてくれたから驚いたわ。ついでに絢瀬さんと東條さんのも頼んじゃった」

 

満悦な笑顔でそんなことを言う理事長。やっぱり情報網は鳴上くんか……この人やっぱり甥っ子のこと好きすぎじゃないかしら?まあ、それほど家族を大事にしてるってことでもあるんだろうけど……

 

「おかいけい、2400円」

 

「は~い。ありがとね、あいかさん」

 

「まいどあり~」

 

「あっ、それと去年はうちの甥っ子がお世話になたわね。悠くんが『あいかの出前はすごく良い』って褒めてたわ」

 

「いえ……私の方こそ鳴上くんにはお世話になった」

 

困惑する私たちをよそにその子と理事長はそんなやり取りをしていた。そのやり取りからもう常連さんとのやり取りに見えるのは気のせいかしら?それに鳴上くん、この子のことを下の名前で呼んでたのね……

 

「ええなぁ…あいかちゃん……鳴上くんに下の名前で呼んでもろおて…………」

 

「うちの肉丼気にったら、これ使って」

 

希からそんな呟きが聞こえたかと思うと、彼女…あいかさんははポケットから数枚のチケットを取り出して理事長に差し出した。

 

「これは?」

 

「にくどんのむりょうけん。商店街の愛家で使えるから。鳴上くんと使って」

 

「あらまあ、ありがとう。是非とも悠くんたちと使わせてもらうわ」

 

こ、この子……あまりに寡黙な子って思ってたら、商売根性がすごすぎる。こんなサービスを持ってくるなんて。すると、あいかさんは希と私に視線を移した。

 

 

「あなたたちが、鳴上くんの彼女?」

 

 

「「えっ?」」

 

おもわぬ発言に私と希は思わず間抜けな声を出してしまった。どういうこと?希は一条くんや海老原さんの時のように、まだあいかさんに何も言ってないはずなのに。すると、あいかさんは私が思っていることを見透かしたように、こう答えた。

 

「いま、学校で噂になってる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が居るって」

 

「「………………」」

 

それどう聞いても希よね。胸が大きいってどうみても希しかいないし………って私も大きいか………それに、もう希のあのデタラメがこの学校で噂になってるの!?早すぎじゃない!?これには流石の希も焦った顔してるし。というか、それに私も入ってるの!?

 

「あら?東條さんと絢瀬さん、いつの間に悠くんとお付き合いしてたの?」

 

何も知らない理事長は私と希を見てそんなことを聞いてきた。これには流石の希も更に慌てた。ってまずい!?

 

「えっ?……え~と…それは………」

 

「あっ!それ希です。私は全然関係ないんで」

 

「エ、エリチ!?」

 

私は冤罪を免れるために真実を言った。形的に私が希を売ったように見えるかもしれないけど、気にしない。希はというと私に売られたと思っているのか、普段の姿からは信じられない程オロオロしている。その姿を見て少し面白いと思ったのは内緒。

 

「………おめ~でとう」

 

すると、突然あいかさんが希に向かってそんなことを言ってきた。これには希も素っ頓狂を上げる。

 

「ふぇっ?」

 

「鳴上くんは良い人だから、きっとあなたを幸せにしてくれる」

 

「えっ?」

 

「じゃあ私、他の出前もあるから」

 

そう言うとあいかさんはテーブルの岡持ちを持って、そそくさ教室の扉の方へ向かっていった。

 

「どんぶり、置いといて~」

 

「「どこに!?」」

 

「ま~いど~」

 

彼女はそう言うと、何事もなかったかのように去っていった。何だか…嵐のような子だったわね、あいかさん。それより、丼を置いといてって言ってたけど、一体どこに置いとけばいいのかしら?

 

「それで東條さん、悠くんと付き合ってたの?それに、どこまでいったの?」

 

あいかさんがいなくなった途端、理事長が笑顔で希にそんなことを聞いてきた。再びオロオロし始めた希がチラチラとこっちを見て助けを求めているけど、私は無視。だって今の理事長の顔、ニコニコしてるけど怖いんだもの………笑顔だけど殺気を感じるとかそんなのじゃなくて、何も感じないからこそ怖いのよ…………危なかったわ。

 

「キスはしたの?それとも……もう一線を」

 

「すみません!!あれは嘘です!ウチは鳴上くんの彼女やないです…………………………まだ

 

の、希が折れた!?自ら嘘と公言した!?余程あいかさんに言われたのと理事長の追及が堪えたようね。でも、最後の方、小声で何かいわなかったかしら?まあそれはともかく、これに希も少しは懲りたでしょう。というか嘘をついたらどうなるのかってことを今身をもって知った気がする。

 

「そう……まあどうして嘘をついたのかは後で良いとして、冷めないうちに肉丼食べちゃいましょ」

 

「そうですね。せっかく届けてくれたあいかさんに悪いですし」

 

まあ希の疑惑を不問にして私たちはそれぞれ出前の肉丼を自分の前に置いてスタンバイする。改めて見ると、見た目からしても匂いからしても、美味しそうなのは分かった。

 

 

「それでは、いただきます」

 

「「いただきます」」

 

 

私と理事長、遅れて希は肉丼に箸をつけた。口に広がる肉丼の味に私は感激した。鳴上くんには失礼かもしれないけど、こんなところにもこんな美味しいものがあるなんて思わなかった。これは亜里沙にも食べさせてあげたいくらい。希や理事長の方をチラッと見ると、私と同じように肉丼の味に感動していた。希に関しては美味しいものを食べたせいか顔色が良くなって輝いているように見える。

 

「美味しいっ!!」

 

「ホンマやね。食べても肉しか見えへんけど、美味しいわ……このまま食べ続けたら、体中が肉になってしまうような気になるなぁ」

 

「ふふ…これは悠くんも病みつきになる味ね」

 

食べても食べても、肉…肉…肉………………全く底が見えない……希の言う通り、体中が肉になったような気がする。それでも、残すのは気が引けたので無理にでも詰め込んだ。そして、

 

 

 

「「「ご馳走様でした!」」」

 

 

 

 

数十分後、私たちは肉丼を完食した。食べ終わった後、全てを受け入れる境地に達したような気分になって、私は寛容さが向上したような気がした。とりあえず、空になった丼は校門付近に置いておこうと言うことになり、私と希は丼を置きに校門へ向かった。

 

 

 

another view(絵里)out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消えた会長を追うために悠と穂乃果は再び校舎内を走り続けた。だが、先ほど同様に走っても走っても同じ景色ばかり続いて行く。埒が明かないと思い、悠と穂乃果は近くの廊下で一旦立ち止まって休憩を取った。本当はこんなことをしている間にあの生徒会長が何をしているのかと気が気で仕方ないのだが、今は打つ手がないので仕方ない。それに、悠の頭の中には先ほどの足立の言葉が気になっていた。

 

 

 

ここのルール

もう一人の黒幕

生徒会長の名前

 

 

 

それにこのグランプリには全く関係がない穂乃果やことりが何故この世界に落とされたのかも気になる。そして、今一番気になっているのは最後に足立が残したあの言葉だった。

 

 

 

 

 

みんなの楽しいGWは君たちの手にかかってるんだからさ

 

 

 

 

 

あの言葉が妙に引っかかる。何故かこの言葉に不吉な予感を悠は感じたのだ。それにこれは悠の思い違いかもしれないが、足立は悠に何かを期待しているかもしれない。だが、あの足立が悠に何を期待しているのか皆目見当もつかない。そう思っていると…

 

 

 

『……ンパイ!悠センパイ、聞こえる!?』

 

 

 

 

突如、廊下にそんな声が聞こえたので悠と穂乃果は足を止めた。周りを見渡すが、そこには悠と穂乃果以外誰も居なかった。

 

「えっ?誰?」

 

「この声……というかこの感じは…本物のりせなのか!?」

 

「り、りせさん!?」

 

この校内放送ではない、頭に響く感じは間違いない。りせのペルソナ【コウゼオン】の能力だ。りせのコウゼオンの能力は通信と解析。まだ【μ‘s】のペルソナにそのような能力を持つ者はいないが、戦闘力が低い代わりにサポート能力が高いペルソナである。おそらくどこかで悠に直接通信しているのであろう。

 

『良かった~…悠先輩と繋がって。上手く穂乃果ちゃんとも合流できたみたいだね』

 

「りせさんだ………本物のりせさんの声だ!」

 

りせの声を聞いて悠は少し安心した。さっきまでモニターでこちらを散々煽ってきたりせとは違う声。間違いなくこれは本物のりせだ。

 

「ああ、何とかな。そっちは大丈夫なのか?」

 

『うん……突然誰かにテレビに入れられて、変なニセクマに捕まって……それから穂乃果ちゃんとことりちゃんが来て……先輩達は何故か戦ってるし……あのクマ、ヤバいと思ったから穂乃果ちゃんだけでも逃がせたけど……』

 

「りせ、今ことりと放送室に居るんだな?菜々子は?」

 

『…ごめん!あんまり時間ないかも!!とにかく先輩早く放送室に来て!何故か分からないけど、あのクマは先輩が思ってることよりヤバいことを………きゃあっ!』

 

「りせっ!どうした!?りせっ!!」

 

「りせさん!?」

 

何度呼びかけたが、りせが応答することはなかった。完全に通信は絶たれたようだ。おそらくクマに見つかったのだろう。悠は焦りを感じずにはいられなかった。先ほども言った通り、りせはサポート能力は高いが戦闘力は格段に低い。それに今りせはあのニセクマにとって都合が悪いことを暴露しようとしたので、何をされているのか分かったもんじゃない。段々悠の心に余裕がなくなっていく。それを見た穂乃果は落ち着けさせようと悠に声をかけた。

 

「な、鳴上先輩!落ち着いて」

 

「落ち着こうも何も…どうすればっ!」

 

 

ガタッ

 

 

悠が穂乃果に何か怒鳴りつけようとしたとき、近くの教室からそんな物音が聞こえた。悠と穂乃果は何事かと思って恐る恐るその教室のドアを開ける。

 

 

 

 

「いたた………………ここは何処?私……確か………」

 

 

 

 

そこには頭を抱える一人の女性が居た。エメラルド色の三つ編みに清楚さを感じさせる白を強調した私服。そして、どことなく上品な雰囲気を持つこの女性に悠は見覚えがあった。

 

 

「あ、あなたは……逆ナンの人?」

 

 

「ち、違うよ!私は逆ナンなんてしたことないから!って、あなたは……確か音乃木坂で会った……」

 

悠の発言にその女性は誤解だと言わんばかりに抗議した。その人物は以前出会ったことがある人物だった。ことりとの下校中に学校の場所を聞かれて、ことりに逆ナンなのかと罵られた女性。あの時、逆ナンという単語が印象に残りすぎて、失礼だがついそう読んでしまった。まさか再会するのが、こんなテレビの世界とは思わなかった。

 

「鳴上先輩、この綺麗な人と知り合いなの?」

 

「ああ、この間、道を聞かれてな……あの、このままじゃあなたのことをずっと『逆ナンの人』って呼び続けてしまうので、名前教えてくれませんか?」

 

見知らぬ人に対してこう言うのはどうかと思うが、自然とあのやり取りが頭に残っているので仕方ない。相手の女性も不本意ながら、悠の提案を了承したようだ。

 

「……私、逆ナンなんてしたことないのに………私は【山岸風花】って言うの。よろしくね」

 

「改めて。音乃木坂学院3年の鳴上悠です」

 

「お、同じく音乃木坂2年の高坂穂乃果です」

 

その逆ナンの女性…改めて風花が自己紹介したので、悠と穂乃果も自己紹介した。あの時は道を聞かれただけで名前は聞いてなかったが、改めて聞くと良い名前だなと思った。しかし、【山岸】と聞いて悠はどこかでその名前を聞いたことがあるような気がした。確かあれは、真姫の両親が経営する西木野病院で……

 

「鳴上悠くんに高坂穂乃果さんか。改めて聞くと、2人とも良い名前だね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「そう言われると……何か照れちゃうね」

 

風花は悠と穂乃果をまじまじと見たと思ったら、笑顔でそんなことを言ってきてくれた。何というかこの風花は上品な雰囲気からして、お姉さんと言った感じがあるので褒められると何か照れ臭い。

 

「でも鳴上くん、やっぱりあなたは……」

 

風花が悠に何かを言いかけた瞬間、いつの間にか教室の頭上にあったモニターに光が灯って、あの忌々しい悪意に満ちた声が聞こえてきた。

 

 

『んもー、センセイったらこんなところにいたクマ?およ~、そっちのかわい子ちゃんは誰クマ?さてはセンセイ、逆ナン中だったクマね?どれだけハーレムを広げるつもりクマ?』

 

 

例の如く意地悪そうな表情で悠をからかってくるニセクマ。ハーレムという言葉に穂乃果と風花がビックリしたような顔をしたが、悠は無視してニセクマに問い詰めた。

 

「誤解を生むような言い方は止めてもらおうか。山岸さんはお前がこの世界に落としたんだろ?」

 

『ハア~?何を言っとるクマ~?確かにこいつのお仲間は勝手に飛び入り参加してきよったけど、そんな弱いペルソナ使いの小娘なんて知らんクマ!』

 

「えっ?」

 

今聞き捨てならないことを聞いた気がする。目の前にいる()()()()()()()使()()?悠と穂乃果は思わず条件反射で風花を見てしまう。

 

「う、うん…私も鳴上くんと同じペルソナ使いなの。でも、私のは情報解析型だから戦闘力はないんだけどね」

 

風花の告白に悠と穂乃果は驚きを隠せなかった。まさか自分たち【特捜隊】や【μ‘s】の他にもペルソナ使いが居たとは。それに情報解析型とはうちのりせと同じ能力かと悠は思った。しかし、ここで新たな疑問が浮上する。この世界に自分たち以外のペルソナ使いが何故居るのか?あのニセクマの話によれば、風花の仲間はここに乱入してきたと言っていたが、この世界に何か目的があったのだろうか。

 

『さてと、お察しの良いセンセイなら……分かっとるクマよね?』

 

思考の海に入ろうとする悠にニセクマが含みのある言葉を発する。その言葉の意味を悠はすぐに理解した。そして、少し遅れて穂乃果もクマの意図に気づく。

 

 

「……まさか、鳴上先輩と風花さんを戦わせる気なの!?」

 

 

穂乃果の言葉にその場に戦慄が走った。そう、このニセクマは大会に関係のない人物まで戦わせるつもりなのだ。まだ陽介たちのように友達同士を戦わせるのはまだしも、まだ互いを知らない者同士を戦わせるのは許容できない。

 

「ちょっと待て。こんなのは決闘じゃない。ただの弱いものいじめだ」

 

先ほど風花は己のペルソナを情報解析型と言った。つまり、りせ同様戦闘力は低いわけである。そんなものを悠と戦わせたらどうなことになるかなど容易に想像がつく。そう異議を唱えた悠だが、モニターのニセクマはだんまりを決め込んだのか口を開かなった。

 

「お前は何がしたいんだ?友達同士の決闘が自分の思い通りに行かなかったからと言って、今度は自分にとって都合の悪い人たちに潰し合いをさせるのか?一体どういう」

 

 

 

ギリリッ

 

 

 

悠がクマにそう言いかけた瞬間、モニターからそんな不吉な音が聞こえた。不気味に思って見てみると、悠と穂乃果、それに風花は思わず絶句してしまった。

 

 

 

 

『ったく、何をごちゃごちゃと……それが人間やろうもん。自分たちに関係ない人達を殺させたんやからなぁ

 

 

 

そこに映っているのはニセクマであったが、雰囲気が違っていた。ぞっとするほど憎々し気に、この世の全てを呪わんばかりの怨嗟がニセクマを包んでいた。もはや既に、クマ特有の愛らしさなど微塵もない。やっと本性を現したかと悠は少しビクつきながらもそう思った。それに、あのクマの今の発言で、悠の頭の中で点と点がつながったようにあの言葉がよぎった。

 

 

ーそれがただの殺し合いとしても?

ー同胞殺しとちゃう!!

ーアンタにも同じ目に遭わせてやるって言ってんのよ

 

 

もしかしたら、あの言葉は彼女の過去そのものなのではないか?例えばこう推測できる。彼女は過去に誰かから戦いたくない相手と戦わされた。そして、その相手を自分で殺してしまった。そう考えれば、このシャドウの言動と彼女の言葉が合致する。だが、どうしても引っかかることがある。何故その怒りをぶつける相手が自分たちなのか?それに彼女は自分のことを人間と言っているが、彼女は一体何者なのか?

 

 

………そうや。良いこと思いついたわ。この試合からルールを変更しようか…どっちかが死ぬまでリングから出られへんっていうルールになぁ

 

 

悠がそう思考していることをよそに、モニターのニセクマはただならぬ雰囲気で突如とんでもないことを言ってきた。このままでは強制的に風花と決闘をさせられてしまう。何とか話を逸らして、この戦いを回避できないものかと考えていたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~れ~~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「えっ?」」

 

 

 

ドカアアン!!

 

 

 

突然その場にそぐわない声が聞こえたと思ったら、その瞬間天井が爆発して何者かが乱入してきた。悠は思わず爆発によって発生した瓦礫から穂乃果と風花を庇う。しばらくして崩落する音が鳴り止んだあと、悠は辺りを見渡して状況を確認する。見ると、天井はボロボロに崩落しており、先ほどニセクマとやり取りしていたモニターは跡形もなく粉々になっていた。何か起きたのかと破壊された辺りを見てみると、粉塵のもうもうと立ちこめる中から乱入者らしき人物が姿を現した。

 

 

 

「エキセントリックお邪魔致します」

 

 

 

それは若い女性でこの場にそぐわない奇妙な恰好をしていた。この人物がこの惨事を起こした張本人に間違いないだろう。それにしても、何の意図があってのことだか知らないが、ここは廊下や扉がある教室なのに、何故天井から大袈裟に入ってくる?規格外過ぎるだろうと悠は心の中でツッコミを入れる。

 

「おやおや、天井とモニターが粉々に…一体どなたがこんなことを」

 

困った顔をして破壊された天井とモニターの残骸を見る女性。それをやった張本人が自分といった自覚がないのだろうか?それはアンタだよとツッコミたいが悠は何とかその言葉を飲み込んだ。しかし、

 

「へ、変な人だ!」

 

悠の代わりに穂乃果がその女性を見てそう叫んでしまう。それに反応した女性はやっとこちらに気づいて、小首をかしげた。

 

「おやおや、これは失礼しました。人が居るとはめんつゆ知らず……」

 

「「「め、めんつゆ?」」」

 

女性が発したそぐわない言葉に3人は思わず聞き返してしまう。

 

「そばつゆ?……おつゆ?…………まあ、とにかくそんな感じで御座います」

 

「いや、どんな感じですか………」

 

出会い頭に意味不明なことを連発する女性。これには穂乃果のみならず、風花も訳が分からず困惑した。一体この女性は何者なのだろうか?しかし、悠はこの人物の服装を見てもしやと思った。特徴的な群青色の服に、特徴的な銀髪に黄金色の瞳。雰囲気は違えど、あのベルベットルームの住人に似ているのだ。悠は単刀直入に質問した。

 

「もしかして…あなたはベルベットルームの?」

 

すると、女性はオーバーに手を口に当ててこんなことを言ってきた。

 

「まあっ!これが世に言う"ナンパ"で御座いましょうか?外見のみで異性を判断して声をかけ、その内面が己の推察通りかどうかに賭ける、禁断の儀式……そちらに別の女性がいらっしゃるのに、なんと大胆な御仁で御座いましょう」

 

突然なんて勘違いをしてくるんだ。見ると、穂乃果と風花はこの女性の言葉を真に受けて、シラ~と効果音が付きそうな目でこちらを見ていた。

 

「鳴上先輩……こんな状況でナンパはないよ」

 

「鳴上くん………」

 

「いやいや!ナンパじゃなくて、俺の知り合い……マーガレットに似ていたから」

 

確かに傍から見れば、悠がこの少女をナンパしているように見えるかもしれないが、それは大きな誤解である。

 

「マーガレット?…………………では、貴方様が"鳴上悠"様で御座いますね?」

 

「えっ?俺を知ってるんですか?」

 

「ええ、先ほど姉さまから追いかけられた際に貴方様のことは聞いております」

 

マーガレットが姉様?ということは、この女性はマーガレットが以前語っていた『妹』なのだろうか?確かにみれば、少し顔立ちが似ている気がする。それに、追いかけられたときとは、一体どんな…

 

 

「姉様の()()()()()()()方と」

 

 

「とんでもない誤解だ!!」

 

マーガレットはこの人になんて誤解を招くことを言ったんだ。確かに稲羽から東京に帰る際、そんなことを言っていた気がするが、言い方というものがあるだろう。もしかしたら、この人の誇張表現かもしれないが、それは姉同様である。後ろを振り返ってみると、そこにはもうすでにごみを見るかのような目で悠を見ている穂乃果と風花がいる。とりあえず、この女性とコミュニケーションを取る前にあの2人の誤解を解くのが先のようだった。

 

ーto be continuded




Next Chapter

「期待がマッハ加速で御座います」

「これで正気なのか……」

「鳴上くん!?」

「来て!ペルソナ!!」

「一人追加だな」

「彼女の真名は…………」


「ドロー、ペルソナカード」


Next #30「The way of the truth ➁」

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