PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

つい先日、『大逆転裁判2』をクリアしました。最後まで目の離せないストーリーと相変わらずの嘘を見破ったときの快感がたまりませんでした。BGM自体もすごく雰囲気にあって良かったですし、あるBGMの使いどころも思わず興奮してしまうくらい最高でした。こういうゲームを考えた巧舟さんはやはりすごいと感じました。自分もあのように人に面白いと感じてもらえるストーリーが書けたらなぁと思います。

それはそれとして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や意見が自分の励みになってます。

これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進して行きますので、応援よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


#28「Wirepuller」

悠と穂乃果は単身で校舎に乗り込んだ生徒会長を止めるために、ひたすら校舎の中を走った。もう追いついても良い頃合いだというのに、彼女は一向に姿が見えない。それどころか、同じ場所を延々と走り続けている気がする。走っても走っても同じ景色しか見えない状態が続いている。これもあのクマ?の仕業なのか。この世界があのクマ?もとい会長のシャドウが作り出したものなら、こういう状況操作は可能だろう。逆に言えばそれほど放送室に行かせまいとしているのが分かる。すると、

 

「鳴上先輩!あれ!!」

 

穂乃果が息を切らしながら指を指した方向に、水色のポニーテールをした少女もとい生徒会長の姿があった。悠はここぞとばかりに距離を詰めて声を掛けようとすると、生徒会長は待ってましたと言わんばかりに振り返ってきた。

 

 

「もう追いついたんか。足速いなあ、鳴上くん。それに、穂乃果ちゃんやったっけ?」

 

 

生徒会長は特に疲れているという訳でもなく澄ました顔でそう言った。どうやら会長は悠たちが追いかけてくることは予想していたらしい。何やら狐に化かされたようで、悠と穂乃果は軽くあしらわれた気分になった。しかし、追いついたはいいが、ここで彼女にここから帰った方が良いと説得しても自分の意思を曲げたりしないだろう。仕方ないと思いつつ、悠は会長にこう言った。

 

「約束してくれ、絶対に俺と高坂から離れないと。そして…決して無茶はしないでくれ。この二つが守れないなら、俺は力づくでも君を保護しなければならなくなる。君の命に関わることだ」

 

「会長さん、お願い!鳴上先輩の言うことを聞いて!」

 

悠が会長にそう言うと、穂乃果も頭を下げてそう懇願した。かなり強めに、そして脅しのような圧力をかけて提案したので、反発して断られるかと思ったが、悠の予想に反して会長は肩をすくめながらこう返答した。

 

「……おおきに。ほな一緒に行動させてもらうわ。アンタらと居た方が、早くあのクマをとっちめられるかもしれへんしな」

 

会長の返答に悠と穂乃果はホッとした。しかし、会長はその後、悠を見ると釘を刺すかのようにこう言った。

 

「でも、無茶しちゃいかんのは鳴上くんの方やろ?さっきかて、一歩間違っとったら死ぬところやったんやで」

 

会長のその一言に悠はぐうの音も出なかった。自分から言っておいて何だが、完全にブーメランだ。陽介と雪子との対決では確かに死ぬかもしれないと思うような無茶はしたし、穂乃果を泣かせたくらい心配をかけてしまった。しかし、そうは言われても自分は無茶をするだろう。仲間や菜々子たちを助けるためにも。そんな悠の気持ちを知ってか知らずか、会長がこんなことを尋ねてきた。

 

「なあ?こんなこと聞くのも野暮やけど……鳴上くんは何で戦えるん?友達と戦わされるんって、ツラいやんな?」

 

「……」

 

「あっ…ご、ごめん。無理に答えんでも……」

 

どうやら先ほどの雪子との戦いを見て、思うところがあったらしい。穂乃果も会長の言葉を聞いて、自身も思うところがあったのか悠に視線を向ける。そう聞かれては答えない訳にもいかないので、悠は自分が思っていることを答えることにした。

 

「そうだな、避けれるのなら俺だって避けたいさ。何の為に戦うにしろ、それでも俺は仲間を信じるよ」

 

悠の返答に穂乃果は少し驚いたが、会長は表情を崩さずこう返してきた。

 

「…それって、戦っても相手の人が、アンタを嫌いにならんって事?それとも…アンタも戦いたないって相手の人も分かるって事?」

 

「どうだろうな、両方かもしれない。でも、理由がなければ仲間と戦うことなんてありえないだろ?俺はそう思ってる」

 

「………」

 

上手く言えたつもりはないが、それが今の悠に出せる答えだった。すると、会長は悠の言葉を聞いて少し黙りこんだが、突如こんな言葉を口にした。

 

 

「それがただの殺し合いだとしても?」

 

 

「「えっ!」」

 

突然出た物騒な言葉に悠と穂乃果を思わず声を出してしまった。

 

 

殺し合い

 

 

あのクマ?はそんなことを言ってきていないが、もしそうだとしたらどうするのかなど、悠はすぐには答えられなかった。殺し合いなど、日常から大きくかけ離れた状況、ましてやそれを大切な友人とさせられるだなんて、考えられない。だが、

 

「……例えそうだったとしても、俺はそんなことはさせない。()()()()()()()()()

 

悠は静ながらも力強くそう断言した。もし仲間たちとそれを強要されたとしても、自分は従わない。必ず命がけでそれを止めてみせる。

 

「そう………ごめんな。物騒なこと聞いてしもて。なんでそない言うたか、自分でもよう分からん…」

 

そう宣言した悠の言葉に納得したのか、会長は少し頷いて歩を進めようとした。しかし、それはもう一人の人物によって止められる。

 

 

 

ダメだよ!そんなの!!

 

 

 

「高坂?」

 

穂乃果が突然大声を上げて悠に迫ってきた。あまりに突然だったので、悠はただ豹変した穂乃果を見て慌てるしかなかった。

 

「……死ぬなんて言わないで!!何で……鳴上先輩はそんなこと言うの!?」

 

「そ、それは…言葉の綾で……でも、もしそうなったら俺は……」

 

訳が分からないと顔で言っている悠に穂乃果はキッと睨みつけてこう言った。

 

 

「ふざけないで!だって、穂乃果たちは……まだ鳴上先輩に八十稲羽を案内してもらってないんだよ!!

 

 

思いがけない穂乃果の叫びに悠と生徒会長は驚いてしまう。もちろん穂乃果がこんな大きな声で悠に怒鳴ったことにもだが、その怒鳴った内容が突拍子のないものだったからだ。

 

「高坂……それはどういう」

 

「ずっと楽しみだったんだよ!先輩がいつも楽しそうに語ってた稲羽の街を案内してもらうの。先輩の通ってた八十神高校とか、愛屋っていう中華屋さんとかに案内してもらったり、完二さんや直斗さんを紹介してもらったりとか。ずっと楽しみにしてたのに、鳴上先輩がそこに居なかったら……()()()()()()()()()

 

「…………………」

 

「だから……死ぬなんて言わないでよ!鳴上先輩が言うと……本当に死んじゃうかもしれないから」

 

「……………」

 

どこまでも澄んだ真っすぐな瞳で言う穂乃果の言葉に悠は気づかされた。

 

今日はGWの最初の日。穂乃果のみならず、海未やことりや花陽、凛や真姫やにこも、そして何より叔母の雛乃もいつも悠が楽しそうに語っていた八十稲羽を案内してもらうのを楽しみにしていたのだ。そして、陽介たちも初めて訪れる穂乃果たちをどのように案内しようかと張り切っていた。本来なら今頃、悠は陽介たちと共に穂乃果たちを稲羽のあちこちを案内していて、楽しい休日を過ごしていたはずだ。だが、そんな皆の楽しみをあのニセクマが邪魔して、自分たちをテレビの中へ誘い込み、仲間同士で戦わせて、それを見物にして嘲笑っているのだ。

 

 

(…………許さん)

 

 

悠は思わず拳を握り締めてしまった。どんな理由があったとしても、仲間や後輩から楽しみを奪ったことは許せるわけがない。悠の心に新たな決意が生まれた。もしかしたら自分は仲間を助けることやあのクマ?の言動のせいで目が曇っていたのかもしてない。こんな簡単なことに気づけてなかったのだから。手始めに、悠は己の気持ちをぶつけてくれた穂乃果の肩に優しく手をおいた。

 

「すまなかったな、高坂。お陰で目が覚めたよ」

 

「えっ……………?」

 

 

「絶対みんなでこの騒ぎを終わらせて帰ろう。向こうで叔父さんや叔母さん、東條たちも待ってるし、高坂たちには()と陽介たちとで稲羽の魅力を知ってもらわないとな」

 

 

いつも通りの優しい目でそう言う悠。穂乃果はそれに最初ポカンとしていたが、次第に表情が明るくなっていった。

 

 

「うんっ!絶対だからね!そのためにも………鳴上先輩!ファイトだよ!!」

 

 

この時、穂乃果はこの世界に来て初めて笑った。それは無理に笑っているのではなく、心の底から安心したことを表現しているような眩しい笑顔だった。それに釣られて、悠もつい微笑んでしまった。今だから思えるが、穂乃果が自分の傍に居てくれて良かったと思う。そんな2人を端から見ていた会長は羨ましそうに見ていた。

 

「アンタら仲ええな。まるで、本物の兄妹みたいやなぁ」

 

「ええっ!そ、そうかな……なんか嬉しいな……………って、ダメだ!!これ、ことりちゃんに聞かれたら、怖い目に遭わされる~~!」

 

「どういうことやねん……………ふふっ」

 

会長が何気なくいった言葉に穂乃果は照れてしまったが、ことりに聞かれたらと想像したのか顔が青ざめて頭を抱えだした。そんな穂乃果を見て、会長は呆れつつも微笑を浮かべた。そう言えば、会長も出会ってから初めて笑った気がする。やはり穂乃果には人を自然に笑顔にする何かがあるようだった。

 

(ん?)

 

しかし、悠はその彼女の笑顔に違和感を覚えた。上手く言えないが、彼女らしくない気がする。そう言えば、まだ自分たちは出会ったばかりで、生徒会長のことはよく知らなかった。もしかしたら、悠たちの知らない重荷を背負って生きてきたのかもしれない。そもそも本当にあのクマ?が彼女のシャドウだとしたら、彼女の抑圧された感情というのは何だのだろうか?そう思うと、彼女が明るく振舞っているのが、その裏返しに見えて少し怖くなる。

 

(……考え過ぎか)

 

ふと違和感を感じたら、それについて考察せずにはいられなかった。去年あの事件を追っているうちに、些細なことについても疑り深くなる癖がついてしまったのかもしれない。そう思っていると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたよ、鳴上くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から聞き覚えのある女子の声が聞こえてきた。その声を聞いて、穂乃果と会長は思わずビクッとして後ずさった。しかし、悠はあからさまな展開に肩をすくめてしまった。何故なら、声からしてその正体はもう分かっているのだから。

 

 

「やっぱりか、()()

 

 

「あははっ、やっぱりそう思った?」

 

悠の言う通り、そこには緑色のジャージに身を包んだ特捜隊のメンバー【里中千枝】がそこにいた。一緒にこの世界に飛び込み、去年ずっと一緒に居たメンバーと戦わせられたことを考えたら、次の相手は千枝が来るだろうとは予測はついていた。見た目もその佇まいも千枝そのもので、おかしなところは見当たらないが油断は出来ない。先ほどの雪子や海未も印象はこうだった。穂乃果や生徒会長も先ほどの雪子たちのこともあって警戒している。

 

「里中、気づいているか?この戦いの目的は……」

 

悠の問いに、千枝は元気よく答えた。

 

「知ってる。あたしたちが喧嘩するようにって、相手の言葉がおかしく聞こえるんだよね。大丈夫!鳴上くんは事件が終わるなり、あたしたちを置いて行って、そこの小娘たちに乗り換えたクソヤローだけど、大事な仲間だもん!」

 

はい確定。正気と見せかけて、最後の部分は暴言が混じっている。これはあからさまだなと悠は内心溜息をついた。相手もネタ切れなのか、内容が見え見えになってきている。しかし、千枝は突如顔を険しくして、こんなことを言ってきた。

 

 

「てか、あんたたちなんて所詮、ただ友達同士で戦わされてるだけじゃない。こっちは散々()()()()()()()()()……アンタら人間のせいでさ!!」

 

 

「「はっ?」」

 

もはや会話が測定不能。あからさまとは思っていたが、言動がおかしくなったり千枝のプロフィールから逸脱したりと、支列滅裂している。まるで自分は人間ではないと言ってるようなものだ。そう言えば千枝のキャッチコピーは『女を捨てた肉食獣』だった。穂乃果や会長も最初はポカンとしていたものの、千枝の言動がおかしくなっていったので、目が可哀そうなものを見ているかのようになっている。しかし、悠はこの千枝との会話で引っかかる言葉があった。

 

 

 

殺し合い

 

 

 

先ほど会長が自分に言った言葉だ。まさかここでその言葉が出るとは思わなかった。

 

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい………アンタたちにだって、同じ苦しみを味わわせてやるっていってんのよ!!」

 

 

内容がもはや悠に対する悪口ではなくなっている。もしかしたら、あのクマ?が己の思っていることを千枝に代弁させているのかもしれない。先ほども考えたが、もしあのクマ?がこの世界を作り出したであろう会長のシャドウならば、これは会長の抑圧された本心なのかもしれない。一体あの会長の過去にどのような関係があるのだろうか?ますます今年の八十神高校の生徒会長の謎が深まったが、今はその詮索はよそう。どんなことであれ、友人にありもしない酷いことを言わせているのは、友人として許容できない。

 

 

「やるぞ、里中」

 

 

悠は覚悟を決めて日本刀を抜刀する。それを見た千枝も唸り声を上げながら、カンフーの構えをとった。そして、例の如くいつの間にかあった頭上のモニターに煽りせちーが映し出された。

 

『おおっと!やはり獣の女の子にも傷つけることを臆さない悠先輩!チェンジというチート能力を持っていながらも、先ほどは大苦戦!?口先ばかりのシスコン番長は無事この試合に勝利することは可能なのでしょうか?さあ行くよ~!リングイ~ン』

 

刹那、悠と千枝の周りに頭上から4つの柱が降ってきて、2人を囲むように地面に突き刺さって一つのリングが完成した。もう毎度のことになってきたので、もう気にしなくなってきた。だが、一体このリングは何故出現させているのだろうか?そんな疑問もよそに、千枝は己のタロットカードを発現させていた。

 

 

ーカッー

「来い!【ハラエドノオオカミ】!!

 

 

千枝はタロットカードを自慢の蹴りで砕き、己のペルソナを召喚した。現れたのは手に赤い薙刀を持って、戦国武将を彷彿とさせる黄金の甲冑に身を纏った【ハラエドノオオカミ】。正直手強そうだが、穂乃果との会話で新たな決意をした悠は臆することなくこう言った。

 

「天城じゃないが……一撃で仕留めてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

another view(絵里)

 

拝啓、愛しい亜里沙へ。お姉ちゃんは今とても疲れています。何故なら……

 

 

ウフフフフフフフ………………

 

 

隣で黒い笑みを浮かべながら、何かをノートに記録している親友が同じ部屋に居るからです。

 

 

さっき校舎の中で出会った【海老原あい】さんにハーレムのことを聞いてから、私たちは一旦最初通された八十神高校の生徒会室に戻ってきた。そして、希はこの部屋に戻ってからずっとこの調子。書いているのは何かを記録したノート何だけど、何故か今の希が書くと黒魔術の本みたいに見えて、不気味に見える………ハッキリ言うと、とても怖い。さっき希に質問攻めされて、顔を青くしていた海老原さんの恐怖が分かる気がする。

 

かく言う海老原さんも鳴上くんに悩みを相談してもらった一人らしい。かつて抱いていた人に愛される存在になりたいという願望と先ほど出会った想い人の一条くんについて。少し迷惑をかけてしまったけど、鳴上くんに相談して良かったとか言ってたわね。希には言ってないけど、その迷惑というのが一時鳴上くんに彼氏になってもらったことらしい。その時、私の心の中に何故かイラっとした感情が芽生えたのは秘密。

 

 

「エビちゃんの話によると……特に危険なのは…久慈川りせちゃんか…………雪子ちゃんも少々………………マリーって子も気になるけど……………要注意なのは妹ちゃんだけかと思うてたんやけどなぁ………全くウチのゆ……鳴上くんはモテすぎて困るわぁ……………」

 

 

今鳴上くんのこと下の名前で呼ぼうとしなかった!?それにもう勝手に自分のものみたいに言ってるんだけど。何かもう希が怖すぎて、一緒にいるのが嫌になってきた。あ~、早く誰か来ないものかしら……まだ時間はありそうだし、聞いてもいいわよね。

 

「ね、ねぇ……希?」

 

最近はにこっちやエリチというダークホースが……………ん?エリチやん。どうしたん?」

 

私の声が聞こえたのか、希は書いてるものから目を離して私の方を向いた。まだ正気を失っていないことには安心した。というか、私の名前も言わなかった?まさか私も希のブラックリストに入ってるの!?希に対して更に恐怖心を持ってしまったけど、私はさりげなく希にあのことを聞いた。

 

 

「前から思ってたんだけど、希は何で鳴上くんにそう執着するの?ただ好きって訳じゃないわよね?」

 

 

気になっていた。希は鳴上くんが来る前までは、私以外の人に深く関わろうとはしなかった。でも、鳴上くんが転校してきた途端、アプローチの仕方はともかく、人が変わったように鳴上くんに積極的に関わろうとするようになった。あの希がこうなったということは、昔2人に何かがあったことは察しがつく。私がそう聞いたのが意外だったのか、希はポカンとしていたが、やがて持っていたペンを机に置いて、こう語りだした。

 

「う~ん………高坂さんたちにも聞かれたんやけどな。こう言うのもアレやけど、例えエリチでもこれだけは詳しくは話せへん」

 

「そ、そうなの……」

 

まさか高坂さんたちも聞いてたなんて。どうせ希のことだから、自分の彼氏だからとか言って、誤魔化したんでしょうけど。

 

 

「まぁ……親友のよしみで、少しだけ……………鳴上くんはウチに『()()』をくれた人なんや」

 

 

「えっ…………?色彩?」

 

私は希が口にした単語にただ首を傾げるしかなかった。相変わらず分かりにくい例えを出す希らしい言葉だけど、『色彩』と言われても流石に私も意味が分からない。どういうことなのかと、もっと詳しく聞こうとすると、希は懐からカードを一枚取り出して、それを見つめだした。

 

「それにしても、鳴上くんたちどうしとるんかいな……トラブルに遭ってなければええんやけど……」

 

何か不吉なことを言いだした希。ふと見ると、そのカードは希がいつも愛用してるタロットカードで、そのイラストは……『塔』?どういうことなの?私はじれったくなって、希に問いただそうとすると、この部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。

 

 

 

 

 

another view(絵里)out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このっ!ちょこまかするな!!」

 

千枝のペルソナ【ハラエドノオオミカミ】は悠のペルソナ【イザナギ】に連続攻撃を仕掛けていた。だが、イザナギはそれをなんとか躱す。決闘が開始してから、ずっとこの調子である。その拮抗状態に我慢できなくなったのか、時々千枝が直接悠に自慢の蹴りを仕掛けてくる。悠はペルソナと同様に千枝の蹴りをヒラリと躱すが、千枝の蹴りが重いのか、地面に蹴った跡がハッキリ残っているのを見ると、当たったらどうなるのかと内心ヒヤリとした。流石普段から河原で修行していることはあるなと悠は感心する。

 

(そろそろ頃合いか…)

 

悠は日本刀を構えなおすと同時に、イザナギも大剣を構えなおした。それを見て、千枝もカンフーの構えを取り、ハラエドノオオミカミも薙刀を構える。そして……

 

 

 

 

 

 

ドオオオオオンッ

 

 

 

 

 

(イザナギ)千枝(ハラエドノオオミカミ)が激しくぶつかり合い、周りに衝撃が走った。例えるなら、武道の達人同士のぶつかり合いのようで、リングの外に居る穂乃果や会長にも、それは伝わり自然と身体が震えてしまった。両者ともに一歩も引かないせめぎ合いは続いていく。だが、時間が経つにつれて徐々に悠が押され始めた。やはりイザナギとハラエドノオオミカミではパワーに差があったようである。顔が力んでいく悠に対して、千枝はしてやったりと言った笑みを浮かべ始めた。このままでは押し負ける。そう思った穂乃果の目に信じられない光景が映った。

 

 

「えっ?」

 

 

突如千枝がバランスを崩れてしまい、勢い余って宙を舞って床に仰向けに倒れてしまった。これには穂乃果や生徒会長どころか、千枝本人も何が起こったか分からないと言った表情になる。だが、

 

 

 

ーカッ!-

「今だ!ジャックランタン!!」

 

 

 

悠はこれがチャンスとばかりに、ペルソナをジャックランタンにチェンジして最大出力でハラエドノオオミカミに火焔を食らわせた。

 

 

「きゃあああああああっ!」

 

 

ハラエドノオオミカミは成す術なく大ダメージを食らい、フィードバックでそれを受けた千枝は耐え切れずにその場から動くことはなかった。

 

「すまない………加減出来なかった」

 

 

 

 

 

『K.O.!!またまた悠先輩の大勝利~~!!もう、さっきから先輩が勝ってばっかで退屈~。つまんな~い』

 

 

煽りせちーは悠の勝利宣言の後、そんな愚痴をこぼしてモニターから消えた。悠はそんなことは気にせず、日本刀を鞘に納めた。皮肉なことに、対戦するにつれてこういう手合いが慣れてしまった気がする。勝つためとはいえ、恐ろしいものだ。しかし奇妙なことがある。先ほどのことを考えれば、ここでモニターにクマ?が映って、悠に嫌みの一つ言ってくるなずなのだが、今になってもモニターに何も映る気配がなかった。あちらで何かあったのかもしれない。気にはなるが、まずは千枝を起こすことが先だろう。

 

「里中、大丈夫か?」

 

千枝は起き上がって、悠を見るとこう言った。

 

「いたたた、何とかね………まさかあそこで、あたしの蹴りを()()()()なんて思わなかったよ。いつの間に護身術とか習ったの?」

 

どうやら千枝は先ほどのタネが分かったようである。千枝の言う通り、悠は先ほどのせめぎ合いで押されていた時、日本刀の受けていた形を少しずらして、千枝の押していく力を受け流したのだ。いくらパワーがあるとしても、それを受け流されてはどうしようもない。柔道や剣道、合気道などの武道でよく使われるものである。

 

「いや、前に読んだ『THE 武道』って本で、園田に少し教えてもらっただけだ。正直初めて試したから加減出来なかったけど。ごめんな」

 

そう謝る悠だったが、千枝は気にしていないと言わんばかりに手を横に振った。

 

「良いよ良いよ。相変わらず鳴上くんは強いなぁ……正直ちょっと差とか感じちゃって、ショックかも。まあ当然かな?鳴上くんはあたしらと違って、今でも現役バリバリだもんね」

 

「よく言うよ……………里中の方こそ、まだまだ現役だろ?相変わらず威力のある蹴りだったし」

 

「そう?じゃあ、あたしもまだまだイケるぞよっ!ってね」

 

そう言うと、悠と千枝は笑いあった。その笑う千枝の笑顔を見て悠は内心ホッとする。それは人一倍友達思いの千枝を感じさせるものだったからだ。すると、そんな2人のもとに穂乃果と生徒会長が駆け寄ってきた。

 

「千枝さん!大丈夫!?」

 

穂乃果の問いに千枝は当然だと言わんばかりに元気よく答える。

 

「うん!まあね。最初、鳴上くんにワケ分かんないこと言われてビックリしたけどさ。でも、鳴上くんがそんなこと言うはずないってことは分かってたから。なんせあたしら、ずっと一緒だったしね」

 

千枝がそう言うと、生徒会長は呆れたように肩をすくめた。

 

「……本当の仲良しやけん、考えとることが分かんやな」

 

「そうそう!だって、鳴上くんが私のことを猪武者~とか()()()()()()()~とかなんて言うはずないもん」

 

「……………」

 

千枝の言葉を聞いた途端、悠は気まずそうに目線を逸らした。

 

「な、なんでそこで黙るのさ!?あ、あたしだって、料理勉強してんだからね!」

 

千枝は目を逸らす悠に声を荒げた。猪武者はともかく、『生物兵器製造機』は雪子同様に的を射ている。というか、事実のような気がする。雪子ほどではないにしろ、千枝も一応八十稲羽の必殺料理人の一人なのだから。にしても、あのニセクマは自分に何を言わせているのだろうか?自分は相手が思ってもいないことを言われたのに、陽介はともかく雪子や千枝には本心を喋らされている気がする。何か不公平だと悠は思った。

 

「あれ?てか、何で穂乃果ちゃんがここに居るの?それに、穂乃果ちゃんの後ろに居る子、誰?」

 

千枝は穂乃果の後ろにいる生徒会長を見て首を傾げた。そういえば、千枝に穂乃果のことや会長のことを説明するのをすっかり忘れていた。ここで改めて千枝に生徒会長のことを紹介しようとすると………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ~、奇遇だね。そこに居るのは悠くんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!っ」」

 

突如、背後から聞こえてきた。声から察するに、それは男の声だった。だが、悠と千枝はその声を聞いた途端、背筋が凍った。その声はある人物のものであり、ここにいるのはあり得ないはずの人物。そして、悠を『悠くん』と呼ぶ人物は、叔母の雛乃以外に一人しか考えられない。2人は恐る恐る後ろを振り返った。

 

 

「嘘……」

 

「どうして、ここにあなたが居るんですか………」

 

 

悠と千枝はそこにいる人物を見て、驚愕せずにいられなかった。そこにはだらしない背広の恰好した男がいた。信じられない人物の登場に動転してしまい、悠は思わずその人物の名を大声で言った。

 

 

 

 

 

「足立さん!!」

 

 

 

 

 

「やあ。久しぶりだね、悠くん、元気してた?」

 

 

その人物、もとい【足立透】は人懐っこい笑顔を浮かべて悠たちに向かって手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<放送室>

 

『締めんぞ!きゅっと締めんぞ!ゴラァ!!』

 

『わ、私はそんなに太ってないよ!!』

 

『だ~れが小学生よ!ぶっ飛ばすわよ!!』

 

『バカ軍団ですか?』

 

薄暗い放送室でニセクマは椅子にふんぞり返っていた。先ほどからここで、ポップコーンを食べながら、モニターで彼らの戦いを見ていたのだ。普段から仲間だの友人だの、本当は思ってもいないことを隠しながらぬるま湯に浸かっている連中に互いの悪口を言い合わせて、その反応を見て楽しむ。途中、思わぬ来訪者たちが現れたが、刺客が即刻始末した。一人取り逃がしたようだが、その者は戦闘能力が低いようなので、いずれ潰れるだろう。この催し物に支障が出るほどではない。だが、今のクマの表情はそれらを見て楽しむにしては、不機嫌な表情をしていた。

 

「何故だ……何故だ…………何故アレが集まらない………」

 

どうやら己が立てた計画が思うように進まなくてイライラしているといった感じだった。気のせいか、この放送室に負のオーラが充満しているように見える。それは人から見れば赤い霧のようだった。

 

 

 

 

「全てはあいつの仕業か………鳴上悠!!」

 

 

 

 

先ほど自分に生意気にも喧嘩を売ってきたあの少年。今このクマが不機嫌なのも、全てモニターで千枝と分かりあって笑顔を浮かべている悠が原因だ。あの清々しい笑顔がクマには憎らしく見える。それにあの笑顔を見ると、クマの目線の先のスタジオで倒れている少女たちの言葉が木霊した。

 

 

『お兄ちゃんは絶対負けないもん!私のお兄ちゃんは最強なんだから!!』

『アンタなんかが、悠先輩に勝てる訳ない!!』

 

 

すると、クマは更に機嫌が悪くなったのか、ポップコーンを握りつぶして、地面に叩きつけた。先ほどより顔が険しくなっている。何が絶対だ。何が勝てるわけないだ。何故人間は他者をそう信頼する。人間など自分のことしか考えない生き物ではなかったのか…………自分の思い通りにならない事態にクマは決心した。

 

 

「………今に見ていろ………鳴上悠……」

 

 

戦え、ペルソナ使いたちよ。お前らが争えば争うほど、我が願望は成就へと近づく

 

 

 

ーto be continuded




Next Chapter

「足立さん……ですよね?」

「いや~、相変わらず悠くんはモテるねぇ」

「アンタ!!何でここに」

「あれは嘘だったんですか?」

「ウチの……名前………」



「エキセントリックお邪魔します」



Next #29「The way of the truth ①」

























Next extra?

「最近お兄ちゃんが変なの」

キッカケはことりの一言から始まった。


最近悠は練習に参加する頻度が少なくなったり、帰りがとても遅くなったり、よく寝不足になっている。それだけのはずだった。


「お兄ちゃん………あの逆ナン女と一緒にいた……」


偶然見てしまったある女性と一緒に居る悠。その表情はとても楽しそうで、ことりの不安が膨らんでいく。この事実を追求すべくことりは【μ's】のみんなに悠の足取りを追うことを提案する。


「人妻かよーーーー!」
「超絶年上ーーーー!」
「社長ーーーーーー!」


次々と目撃される悠と数々の女性との逢引き現場。

「お兄ちゃん……何で…………」

「ことりちゃん…」

受け入れがたい現実を目の前にしてしまったことりはどうするのか?そして、ことりはついに真実を知る。


Extra➁「"Witch detective" Kotori.」

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