PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
夏休みに入って、神輿を担ぎに地元の祭りに参加したのですが、担いでる途中にゲリラ豪雨に遭ってずぶ濡れに(泣)。他にも災難はありましたが、出店でたこ焼きやリンゴ飴など食べたり花火見たりして如何にも日本の祭り!というものを久しぶりに感じられたので、そこは良かったかなと思いました。ちなみに、神輿を担ぐ前の住職さんの前言葉で『伊弉諾尊』の名前が出てテンションが上がったりしました。
はい、こんなつまらない作者の近況はスルーしてもらってまずは一言。前回より開始したこのGW編ですが、原作とは多少違った展開になるのでご注意下さい。それでも、読者の皆さまに楽しんでもらえたら幸いです。
そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方・誤字脱字報告をしてくれた方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。
これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進して行きますので、応援よろしくお願いします。
それでは、本編をどうぞ!
<ジュネス八十稲羽店 フードコート>
『ジュネスは毎日がお客様感謝デー!来て、見て、触れてください!エ~ブリディ♪ヤングラ~イフ♪ジュ・ネ・ス♪♪』
奇妙なマヨナカテレビが流れた翌日。悠は仲間たちと会うために、ジュネスのフードコートに来ていた。いつも人が少ない八十稲羽だが、ここだけはいつも人が溢れている。今日からGWと言うこともあって、更に人が多く行きかっていた。この賑やかな感じに悠は懐かしさを覚えた。
本当は菜々子も連れてきたかったのだが、お友達のミナちゃんとタケヨシくんと遊ぶ約束をしていたらしく、今は一緒に居ない。まぁ、菜々子も友達の付き合いは大事だろうし、そこはしょうがないのだが……
(タケヨシとやら……菜々子に手を出したら、ただじゃ済まさんぞ……)
男友達も一緒とあってか、悠の内心は穏やかではなかった。流石は『鋼のシスコン番長』と言われる程のシスコンぶりである。それはさておき、悠はこのフードコートで待っているであろう仲間たちを隈なく探した。すると、去年みんなで捜査会議をするときに使っていた大きいテント席に目を向けると、
「あんたさ、少しは節操というのを持ちなよ。キャプテン・ルサンチマン?」
「うっせー!女を捨てた肉食獣に言われたくねぇんだよ!」
「ああん!」
テント席で互いを罵りあっている八十神高校の制服を着た男女がいた。あの緑色のジャージの少女に、首にヘッドフォンを付けている少年は、間違いなく特捜隊の仲間の【里中千枝】【花村陽介】である。また痴話喧嘩かと悠は苦笑しながら、ゆっくりと2人に歩み寄って声をかけた。
「相変わらずだな。2人とも」
その透き通った声に2人はハッとなって振り返る。そこには、2人の様子を懐かしそうに見て微笑んでいる自分たちのリーダーの姿があった。
「お、おおお!悠!!」
「鳴上くん!!」
2人は悠の登場に驚き、先ほどの険悪な雰囲気を忘れて悠の元へ駆け寄って自分たちのリーダーの帰還を喜んだ。
「お帰り、相棒!元気だったか!?」
「おッ帰り~!元気そうで何よりだよ!」
悠は2人のその言葉を聞くと、陽介とは拳を合わせて頷き、千枝とハイタッチしてこう返した。
「ああ、
数ヶ月ぶりの再会を果たした3人はフードコートの大きいテント席に腰を下ろした。雪子たちは、何やら遅れてくるという連絡を受け取ったので、それまではと3人はビフテキを食していた。陽介が再開の記念にということで、奢ってもらったのである。
「どうよ、久しぶりのビフテキのお味は?最高だろ?」
陽介がビフテキを口にした悠に、味の感想を求めてきた。正直言うと、このジュネスの肉はお世辞にも美味しいとは言えないのだが、これぞ稲羽の味というのも悠に感じさせるものだった。
「ああ、稲羽に帰ってきたなって感じだ」
「おお!じゃあ、一緒にもう一枚いっとく?」
「里中、お前はそれで何枚目のつもりだよ……」
どうやら千枝は悠が来るまでに、何枚もビフテキを平らげていたらしい。陽介がそうツッコむと、千枝は当然でしょと言わんばかりにポカンとした顔になった。それがついおかしく見えたので、悠は笑いを漏らした。陽介と千枝も悠に釣られて口に笑みを浮かべた。こういうやり取りも懐かしいものだと悠は思う。
「ん?」
すると、背後に誰かの視線を感じた。昨日感じた濃密な殺気とは違うが、気になったので振り返ってみると、そこには誰もいなかった。
「悠?どうした?」
「いや……何か視線を感じて」
一瞬、紫じみた髪がチラリと見えた気がしたが、あれはもしかして。
「おまたせ!」
すると、向こうから雪子と穂乃果たちが走ってくるのが見えた。走ってきたのか息が上がっている。
「ごめんね。身支度に時間が掛かっちゃって」
「……花陽がご飯食べるのに時間がかかったのが原因でしょ」
「ちょっ!真姫ちゃん、そんなこと言わないで!!」
どうやら原因は花陽にあったようだ。まああえて追及はしないが。とりあえず、全員フードコートに集合したので、まずは自己紹介から始めた。
各々が自己紹介が終わると、陽介は満悦な笑みでこんなことを言ってきた。
「いや~、こんなに可愛い子たちがペルソナ使いで後輩だなんて。流石は俺の相棒!鼻が高いぜ!!」
「………これだから、ジュネス王子は」
千枝は犯罪者を見るような目で陽介にそんなことを言ったが、こんな可愛い少女たちに囲まれて、冷静でいられるはずがない。陽介の心の中はもうウハウハであった。
「あれ?そういえば、鳴上先輩の仲間って陽介さんたちだけじゃないよね?まだ居ない人いるよね?完二って人とか」
穂乃果は陽介たちを見て、そんなことを言ってきた。穂乃果たちは事前に悠の仲間に誰がいるのかというのは聞いて来ている。花陽とにこは元々ファンであるりせに会うのが大半の目的でここを訪れたわけなのだが。
「ああ……実はな……」
陽介はそんな穂乃果たちを見て、苦々しそうに説明した。昨晩、あの謎のマヨナカテレビが映った際、陽介は悠に連絡する前に他のメンバーにも電話を掛けていたらしい。しかし、その中で完二と悠より先に帰省していたりせ、そしてクマとの連絡がつかなくなっていたと言う。悠は昨日陽介から電話で聞いていたので、このことを把握していたが、何も聞いていない穂乃果たちにとっては衝撃であった。
「なっ!久慈川りせが行方不明!どういうことよ!もし、見つからなかったら、アイドル界の大損失よ!!そうなったらどうしてくれんのよ!!」
「そうです!どう責任を取ってくれるんですか!?陽介さん!」
この報告を聞いたにこと花陽は激昂し、陽介に掴みかかった。
「お、俺に言われても……って…ぐるじい……」
余程会いたかったアイドルが失踪したと聞いて我慢ならなかったのだろう。陽介を掴む手に力が相当入っているように見える。とりあえず、このままでは陽介が窒息しそうなので、慌てて悠たちは花陽とにこを落ち着けさせた。
「それにしても…鳴上くんも穂乃果ちゃんたちも折角来てくれたのに、何だが慌ただしくなっちゃったね…」
雪子は申し訳なさそうに悠と穂乃果たちにそう言った。悠と穂乃果たちはとんでもないと言おうとすると、雪子は先ほどとは一変して笑顔で言った。
「でも、来てくれてよかった!」
雪子が笑顔でそう言ったので、自然とみんなが笑顔になった。それをいいタイミングとばかりに陽介が立ち上がって、わざとらしく咳払いした。何をするのかは聞かされてないが、悠にはある程度想像はついていた。
「それじゃあ……悠の帰還と穂乃果ちゃんたちの加入を祝して、ここに特別捜査隊の再結成を宣言します!!」
陽介がそう高らかに宣言すると、雪子や千枝、そして穂乃果たちから拍手が上がった。
「おお!再結成!」
「その名前聞いたら、燃えてきた!やるぞー!おー!!」
「「「「おーーー!!」」」
そして、千枝の掛け声と共に、穂乃果とことり、そして凛が乗って歓声を上げる。あまりに大きい声だったので、周りの人がこちらに注目してしまった。
「拍手はおかしくねぇか!?何か調子に乗った俺が恥ずかしくなるから、もうやめて!」
閑話休題
「しっかし……この話は、はじめっから笑えないんだよな」
「そうですよね…」
先ほど話した通り、あのマヨナカテレビが映った後に数名の仲間との連絡が取れない状況になっているのだ。ちなみに、もう一人の仲間である直斗は連絡はついている。連絡を取った千枝によると、何やら調査を依頼されたらしく、その関係で今日は稲羽に来れないとのこと。悠たちに会えなくて残念だと言っていたらしい。とりあえず、直斗は無事ということだ。
「でも、昨日のマヨナカテレビはすごく鮮明に映ってたね」
雪子は昨日のマヨナカテレビを思い出したのか、複雑な表情でそう言った。それに対して、窒息しかけた陽介は補足を加える。
「ああ。あれが鮮明に映るのは、被害者があっち側に入れられてからっていうのが、去年のルールだったからな」
「それは私たちが今遭遇してるものと全く同じですね」
海未は、八十稲羽でもマヨナカテレビの法則は同じなのかと納得する。
「というか、あんな大勢が一気に映ったのって初めてだよね」
千枝の言う通り、これまで八十稲羽ではマヨナカテレビは映るのはテレビに入れられた被害者だけだったので、音乃木坂での事件は例外としても、あんなに大人数が一気に映ったケースは見たことがない。
「第一あたしら、こっちに居るし。というか、何であたしら?しっかも、あんな失礼なキャッチコピー付きで!あたし、女捨ててないっつの!」
千枝の怒りの言葉に何名か反応した。あれはどのテレビでも例外なく映っているはずなので、既に不特定多数の人に見られている訳だ。千枝はここに来る途中に生徒に声を掛けた時点で逃げられて、雪子と海未たちに関しては、バスに乗車している最中に、他人からまじまじと見られたらしい。
「そうです!何ですか!?純情ラブアローシューターって!!」
「勉強スキルE⁻って、凛はそこまで馬鹿じゃないにゃ!」
「何が小悪魔でツンデレよ。イミワカンナイ…………」
「私なんてナルシストよ!ふざけんじゃないわよ!」
「巨乳お米っ娘って……そんなに太ってないのに………」
海未たちはここぞも言わんばかりに不満を爆発させた。余程あのキャッチコピーが癪に障ったのだろう。穂乃果とことりは自分たちは映らなくて良かったと言わんばかりの表情をしている。ちなみに、花陽の発言に何名か反応していたが誰とは言わない。しかし、ここで地雷を踏んでしまう男が居た。
「あー花陽ちゃん、大丈夫だって。よく食べることは健康だって言うし、ここには肉ばっか食ってんのに貧相な体つきの肉食獣がいるし」
ビキッ
「それに、もう胸の成長の望みのなくて子供体型のままのやつだって世の中たくさんいるんだぜ」
ビキッ、ビキッ、ビキッ
「陽介、そろそろやめておいた方が……」
約数名からただならぬ殺気が漏れ出しているので、悠は陽介に制止の声をかけるが、陽介は止まらなかった。
「そいつらに比べたら、花陽ちゃんは胸が大きいしスタイルが良いってこ」
バキッ!!
「「「「ペルソナーーーー!」」」」
「ぐはっ!」
失礼な事を言った陽介は千枝と海未、凛とにこから蹴りを食らって、テントから大きく吹き飛ばされた。セクハラに近い事を言った上に彼女たちのコンプレックスに触れてしまったので当然である。やはり陽介はどこまで行ってもガッカリ王子だった。
「このセクハラジュネス王子が!」
「胸の大きさで良し悪しを決めるなんて……花村先輩、破廉恥です!」
「女は胸じゃないにゃ!!」
「誰が子供体型よ!まだ希望はあるんだから!!」
悶絶する陽介にそう罵声を浴びせる千枝と海未、凛とにこ。にこに関してはそれは自爆だとは気づかないのだろうか?
「ぶっ!あははははは、千枝たち……、ここはテレビの世界じゃないから……ペルソナは出せないよ………ぷっあははははははは、あ~はははははは!」
雪子がそんな陽介たちのやり取りを見て、腹を抱えて笑い出した。突然訳もなく笑いだした雪子に、何の知らない穂乃果たちはぎょっとしてしまう。
「え……雪子さん?」
「あー……出たよ。雪子の訳わかんないツボ………」
雪子は普段は物静かなタイプなのだが、特段面白くもないことで笑いのツボにはまり、突然笑い出すことがある。そのツボは付き合いが長い千枝ですら未だに分からない。まあ、これは気心知れた仲間の前でしかやらないので、多くの人は知らないが、初めて見た穂乃果たちにとっては衝撃であろう。
「陽介さん、大丈夫?」
ことりはそんな雪子に驚きつつも、吹き飛ばされた陽介が心配になったのか陽介の元に駆け寄って呼びかけた。
「おおっ!こんなところに、菜々子ちゃんと同じような天使が……」
陽介は自分を気遣ってくれることりに感動している。自分の周りの女子は菜々子以外こんな自分を気遣ってくれないので無理はないのだが。しかし、そこは不運に定評のある陽介。更なる刺客が現れた。
「陽介………ことりに手を出したら、ただじゃ済まさんぞ」
「出さねーよ!!つーかお前、ここに来てもシスコンかよ!」
「当然だ」
シスコンを発動させて陽介に警告する悠。陽介がことりを狙っていると思ったのだろう。無論、陽介にはそんな気はないとは言えないが不条理も良いところである。すると、ことりは悠の言葉に何故か感銘を受けて、笑顔でこう言った。
「お兄ちゃん……でも、大丈夫だよ。ことりはお兄ちゃん以外の男の子には興味ないから♪」
「ぐほっ」
ことりからの痛手の追撃。実を言うと、陽介はμ‘sのファーストライブの動画を見てから密かにことりのファンだったので、今の言葉は陽介の心に深い傷を負わせた。
「ありがとうな、ことり」
そんな陽介をほっといて、悠はことりの言葉が嬉しかったのか微笑みをした。
「うん!今日のお兄ちゃんの学ラン姿は番長って感じでカッコいいし……鋼のシスコン番長って言われても、ことりは全然気にしないよ♪だって、どんなお兄ちゃんでもことりのお兄ちゃんだから♡」
「そうか」
突如テント内に兄妹の空間とは思えない甘々な空間が展開され、千枝たちは困惑した。これには先ほどまで腹を抱えて笑っていた雪子も正気に戻った。穂乃果たちはある程度慣れてはいるが、やはり何度見ても、きついものはきつい。しかし、ことりはしばらくすると、目を細めて悠にこんなことを尋ねてきた。
「でもお兄ちゃん、『可愛い菜々子・ことりは誰にも渡さん』ってところだけど……結局ことりと菜々子ちゃん、どっちが一番大事なの?そこははっきりさせてよ」
「え?」
何故かよくある『私とあの女どっちが大事なの?』的な修羅場を匂わせることを聞くことり。昨日の悠のキャッチコピーを見て、そう聞いているのだろう。しかし、悠にとっては菜々子もことりもどっちも大事なので選べない。
「あ~、何か親戚って感じだわ」
「うん………鳴上くんはシスコンって分かってたけど、ことりちゃんはブラコンなんだね………」
困惑する悠とことりのやり取りを見て、千枝と雪子は微妙な表情になった。悠はともかく、まさかことりもブラコンとは想定外だったようだ。
「というか、ことりの方が重症ですけどね」
海未は千枝にそう補足を加えた。床に倒れこんでいる瀕死の陽介に、ブラコン全開で悠に詰め寄ることり。もうテント席は色々とカオスだった。
「……ねえ、何か飲み物買いに行かない?こんなカオスな空間に居るのが耐えられないから」
「「「「「賛成……」」」」」
真姫の言葉を皮切りに、悠とことり、陽介以外のメンバーは買い物をしに席を離れた。しかし、買い物が終わって席に戻っても、悠はことりに詰め寄られてるままであった。
閑話休題
「それにしても、今回一番気になるのって、あのクマさんでしたよね。テレビの中で、主催者のように振舞っていましたし」
海未は皆が落ち着いたタイミングを見計らって、話の修正を図った。海未の言葉に、千枝たちの蹴り攻撃から復活した陽介も真面目な顔で海未に合わせる。
「ああ、海未ちゃんの言う通りだ。そしてそのクマが今、行方を眩ましてる」
「「「アヤシイ………」」」
「まあ、あのクマくんが訳もなくこんな悪ふざけをする気はしないんだけど……」
千枝はあのクマのことは理解してるつもりなので擁護するように言った。
「いや、今回のアレはクマが仕掛けたってことはないだろう」
悠が確信を持っているかのように断言したので、陽介たちは頭にハテナを浮かべた。何故そう思うのかと問うと、悠はこう答えた。
「俺が不思議に思ったのは、何であのマヨナカテレビに映ったのが
「「「あっ」」」
そうなのだ。今回のマヨナカテレビに映っていたのは悠たちと向こうで既に覚醒している海未や凛たちだった。もし、クマが全員を巻き込んだ悪ふざけを企んでいるのならば、まだペルソナを覚醒させていない穂乃果とことりも映ってなければおかしい。
悠は陽介たちに向こうで似たような事件が起こったということを知らせてはいるが、穂乃果とことりはペルソナ使いに覚醒していないということは知らせてない。これは悠の仮説だが、今回の事件は悠たちが追っている音乃木坂の犯人である可能性があると踏んでいる。
「やっぱり、テレビの中を調べるしかないな」
陽介の言う通り、考えても埒が明かないので真実は現場で突き止めるしかないだろう。事件は会議室ではなく現場で起こっているのだから。
「でもさ、クマくんが居ないと、あたしらテレビから出られないんじゃない?」
そうだった。音乃木坂ではマーガレットが用意してくれたテレビのお陰で、悠と穂乃果たちは自由にあの世界を行き来していたが、ここではクマがテレビを用意しないと自力での脱出は不可能だった。うっかり忘れてたと思っていると、陽介は含みのある笑みを浮かべてこう言った。
「へへっ、そいつは心配いらねえよ。この間、俺があっちに出口用のテレビ置きっぱなしにしといたから」
「えっ、マジで!」
「ふーん、見た目に反して用意周到なのね。花村さん」
千枝と真姫が陽介の発言にそんな反応をした。陽介はチャラそうに見えて結構考えるタイプなので、そこまで言う必要はないんじゃなかろうか。陽介もちゃんとした理由があって、
「いやだって、考えてみ?クマ公があっちに居ないときに、寝ぼけてテレビの中に入っちまったら…………怖いだろ?」
「そんなドジ踏まないって」
「むしろ、そんなドジを踏む人がすごいです」
やっぱり陽介は陽介だった。千枝と海未はそう言うが、用心に越したことはないだろう。実際悠も初めてマヨナカテレビを見た時は右手を不用意に突っ込んで中に落ちかけたことがある。というか悠はまだしも、陽介や完二もそんなことが起こりそうなので怖い。
「でも、これなら自由にテレビの中を調べられるね」
「ああ、陽介のお陰だな」
どんな理由であれ、出口が確保してあるのなら心強い。
「じゃあみんな、これからあっちに行くわけだが、準備は良いな?」
「「「応っ(はい)(うん)!!」」」
悠がそう問いかけると、みんな力強く頷いてくれた。陽介や穂乃果たちの目は真剣に満ちている。穂乃果たちはともかく、変わらむ信頼を寄せてくれる仲間たちを見て、悠は誇らしい気持ちになった。そして、一同はベンチから腰を上げた。
<ジュネス 家電コーナー>
去年使っていたテレビの前に悠たちは居た。ただし、一気に大人数でテレビの中に入ると目立つので、人数を2組に分かけた。先行隊は悠と陽介、そして海未と凛に花陽の5人である。稲羽でのダイブが初めてである海未たちは今から飛び込む大型テレビをマジマジと見ている。
「これが…鳴上先輩たちが使っているテレビですか……私たちが使っているものと、あまり変わらないですね」
「でも……こんな人が多いところで先輩たちは普通に向こう側に入ってたんですか?」
花陽の言う通り、悠たちの周りには人が多く行き渡っていた。音乃木坂では誰も来ない屋上でダイブしていたので、こんな人が多い公衆の面前でダイブするのは気が気でないようだ。
「いや…いつもここは人が少ないから、普通に入れたんだけど………連休だからな」
陽介の言葉に一同は納得した。この家電コーナーは色々と家電製品は充実しているのだが、何故かテレビを買う人があまりいないので、いつもはこのエリアは人が少ない。だが、今日からGWということもあって、様々な家電製品を求める客が多いようなので、いつもより人が居るのだ。
「………でも、前より活気が溢れてる」
悠は周りのお客を見てそう言うと、本当に入れるのかを確認するために、手をテレビの画面に当てた。すると、思った通りに手を当てたところから、画面が水面に触れたかのように揺れた。それを見た陽介と海未たちはより一層緊張感を増した。
「よし、人が居なくなった。今だ!」
陽介が周りに人が居ないのを告げると、悠たちは一斉にテレビの中へとダイブした。
「鳴上くんたち、行った?」
「はい。今テレビに入ったのを確認しました」
遠くの方では後から入る千枝と雪子、そして真姫とにこが控えていた。
「じゃあ、私たちも行くわよ」
テレビの中へとダイブすると、そこはいつもの空間が広がっていた。この先を行けば、あのスタジオのような広場に着くだろう。しかし…
「お、おい!何かいつもと違くねえか!!」
「「えええ!」」
陽介の言う通り、いつもと何か違う感じがする。それに、何か空間が歪み始めて怪しげな光に包まれている気がする。
「ちょっ!何とかしないと!」
「先輩!どうすれば!」
「無理だ!これじゃあ何も出来ない!」
「「「「うわあああああ!」」」」
そうして一行は謎の光に包まれて、意識を失った。
♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~
聞きなれたメロディが流れてくる。目を開けると、思った通りリムジンの車内を模した蒼い空間、【ベルベットルーム】だった。どうして自分はベルベットルームに居るのだろうか?自分は今さっきあのジュネスのテレビに入って、それから……覚えてない。そんなことを思っていると、
「ようこそ、ベルベットルームへ」
いつものお決まりの台詞が聞こえてきた。しかし、この声はイゴールでもマーガレットでもない。この透き通った懐かしい声は………
「マリー?」
そこには、マリーが居た。あの時と同じように、マーガレットの席とは反対のソファに腰を掛けて、無表情で悠を迎えてくれた。悠が自分を認識したと気づいたのか、マリーは立ち上がって柔和な笑顔を作ってこう言った。
「お帰り、悠。また会えたね。ずっと忘れてなかったよ」
その立ち姿と笑顔は間違いなく、マリーのものだった。積もる話はあるが、今はマリーに聞かなくてはならないことがある。イゴールとマーガレットはどうしたのかとマリーに聞くと、彼女は厳しい顔つきになって答えた。
「鼻とマーガレットは今ここには居ない。鼻は分からないけど、マーガレットは妹の気配があるから捕まえに行くって」
「妹?」
そういえば、以前マーガレットから『妹』の話を聞いたことがある。確か『妹』はある人物を救うために、ベルベットルームの規則を破って出て行ったとか。すると、マリーは腰の青いバッグから一枚の紙を取り出した。
「これは、マーガレットから悠への伝言。読むね」
マリーはそう言うと、マーガレットから預かったらしいメモを読み上げた。
『私情により、その場に居ない無礼をお許し下さい。しかし、貴方に伝えたいことがあるので、ここに記しておくわ。彼の地でもこの部屋に呼ばれて戸惑っているだろうけど、ここはお客様の定めと不可分の部屋。この部屋で、全く無意味なことは起こらない。
貴女は確かに一度、扉を開いたけれど、万物は常に移ろい、一つ処に留まらないもの。貴女がかつて得た筈のものも、時は移ろわせていく。貴方はそれらを、今一度思い返すことでしょう。自身が開いた扉の先をどのように歩くのか、それを見せて頂戴』
マーガレットの言葉を聞いて最初に浮かんだのは、陽介たち特捜隊の仲間たちとの笑顔と楽しく過ごした記憶だった。悠にとって大切なあれらが移ろう………?
(そんなはずはない)
久しぶりに稲羽を訪れた時、今までの転校のこともあって、そんなことを考えてなかったといえば嘘になる。だが、こんな自分を陽介たちは忘れず暖かく迎えてくれたので、悠はそれは絶対にないと思った。足立にはそんなのただ自分の願望を押しつけてるだけだと言われるかもしれないが、それは確信を持って言えることだった。
マーガレットが何故自分にこのような言葉を送ったのかは気になるが、まずマリーに聞くべきことがある。
「マリー、一体何が起こってるんだ?」
悠はマリーにそう尋ねると、マリーは渋い顔で返答した。
「この部屋のルールで詳しくは話せない。けど…気づいてるでしょ?君たちを利用して、この町で悪だくみしようとしてるヤツが居る」
マリーから告げられたことに、悠はやはりかと思った。そもそもあの悪ふざけはクマが仕組んだものとは考えられないし、何者かが仕組んだものとすれば辻褄は合う。
「あのマヨナカテレビは俺たちを誘い出すための罠だったのか」
「そういうこと。悠が向こうで追ってる犯人かは分からないけどね。私もこの騒ぎを解決するために頑張るけど……それじゃあ、全然足りない。だから、また悠やガッカリーたちに迷惑かけちゃうかもしれない………」
そういうことかと悠は納得した。詳細は少々長くなるので省くが、マリーの存在は言わばこの町そのものと言ってもいい。マリーがここまで言うということは、それほどの脅威が稲羽を襲っているということだ。事情を把握した悠は沈んだ顔をするマリーに近づいて、彼女の肩に手を置いた。
「えっ?」
「大丈夫だ、マリー。この町は必ず俺が守ってみせる。だから安心しろ」
マリーは悠の言葉に驚いた顔をしたかと思うと、悠の手を振り払って顔を伏せてしまった。悠はどうしたのかと心配になって声をかけようとすると……
「ば、バカ!ニブチン!キザオトコ!オンナッタラシ!!悠なんてどっか行っちゃえ!!」
顔を真っ赤にして悠にそんな罵声を浴びせた。せっかく良いことを言ったのに、ひどい返しである。これはこれでマリーらしいと言えば、らしいのだが。とりあえず、ことの重大さは分かったので、マリーに礼を言って部屋から出ようとすると、
「ま、待って。ここを出て行く前に…これを持って行って………」
そう言ってマリーが取り出したのは、一つの日本刀だった。悠は戸惑いながらもそれを受け取った。
「これは?」
「悠が私をあの墓から救ってくれた時に使ってた日本刀。悠を悪しきものから守ってくれますようにって……願いを込めて………」
マリーは顔を赤くしたままそう言った。確かに、これは悠が今年の2月にあの墓からマリーを救うために使用した日本刀だった。試しに鞘から出してみると、刃がピカピカに光っているくらい手入れされている。ハイカラだなと思い、悠はマリーに感謝して日本刀を鞘に納めた。
「ありがとう、マリー。行ってくる」
悠はマリーを真っすぐ見て礼を言うと、マリーは悠の言葉に頷きながら微笑みを返した。
「行って。悠ならきっと、真実にたどり着くはずだから。あと一つ、この事件の犯人は……………」
マリーが何か重大なことを言おうとしていたが、その肝心な部分は悠の耳には届かず、悠の視界は暗くなった。
another view(絵里)
「ここが、八十神高校。悠くんの母校ね」
私こと絢瀬絵里は理事長と親友の希と共に、八十神高校の正門に立っていた。理事長が廃校阻止のヒントになるかもしれないと、ここの生徒会との交流会を目的として訪れたのだけど……理事長、鳴上くんのこと好きすぎじゃない?もしかして、実は鳴上くんの通ってた学校を見に来ただけなんじゃ……
「立派な校舎やね……」
不意にそんなことを思っていると、隣の希がそんなことを言ってきた。確かにこの八十神高校は田舎の高校にしては、校舎はちゃんと整備されていて、そこそこ大きい学校だった。それはそうと、ジュネスで少し買い物してから希の顔色が悪いんだけど、大丈夫かしら?気になって声を掛けたけど、本人は問題ないの一点張りだし……
運動場を見ると、GWなのに部活に励んでいる部活生の姿が見えて、その姿は活気に溢れていた。そういえば、行きのバスの中で、ここのサッカー部が県大会に行けるかもしれないって生徒が言ってたわね。そういえば……
(P-1グランプリって何なのかしら?)
バスの中でここの生徒らしい人が噂していたあの話。真夜中に流れていた『P-1グランプリ』という高校生同士の格闘番組で、そこで負けた人は死体となって発見されるって………物騒な話ね。まっ、そんな根も葉もない噂なんて信じないけど。
「それじゃあ絢瀬さん・東條さん、行きましょうか」
「「はい」」
理事長の後について行って、私たちは校舎の方へ歩いて行った。
another view(絵里)out
意識が戻って目を開くと、光が差し込んできた。身体の状態は良好で、手足の感覚はある。その証拠に、手に先ほどマリーからもらった刀があるのが分かる。瞼をゆっくりと開くと、悠は目の前にある光景に目を疑った。
「こ、ここは!」
今自分が居るのは、ついこの間まで、陽介や千枝と雪子、そして自分が通っていた八十神高校の正門だったからだ。あまりの出来事に悠は焦ったが、一旦心を落ち着けてじっくりと観察した。
「いや……ここは間違いなくテレビの中だ」
悠は八十神高校の正門と校舎を見てそう思った。見た目は現実のものと瓜二つだが、この場所には、去年感じていた出入りする生徒の姿が思い浮かぶ暖かさが感じられなかった。ここは自分が知っている八十神高校じゃないと確信を持って言える。
状況確認のために辺りを見渡すが、一緒にテレビに入った陽介や海未たちはおろか、千枝や花陽たちの後半組も居ない。同じ場所から入ったのに、どういうことなのだろうか。こんなことは初めてなので、どうすれば良いのかと頭を悩ませていると、
『は~い!おっ待たせしました~!ようやく、大本命の悠先輩が目を覚ましたよー!』
不意に頭上から聞き覚えのある声が聞こえてきた。この人を惹きつけるような甘ったるい声は……
「りせなのか!?」
そう、特捜隊の大切な仲間の一人であり、今でも穂乃果たちのスクールアイドルの件で世話になった【久慈川りせ】だ。悠がそう叫んだが、あちらにこっちの声が聞こえないのかあえて無視しているのか分からないが、返事はなかった。
『実況はこの私、みんなのりせだよ~♥。さあみんな~、今日は空気の読みあいとかいらないから、本性むき出しでドカーンとやっちゃお~う!!全員注~目!!』
ウオオオォォォ
そんなりせの声と同時に、多数の声が聞こえてきた。驚いて見てみると、何と正門の向こうから多数の八十神高校の制服を着た生徒がこちらを見ていた。予想外の出来事に、流石の悠も混乱してしまう。こんな多数の人が何故テレビの世界に居るのか?すると、先ほどのりせとは別の声が聞こえてきた。
『ノフフフフフ、やっと起きたクマね~。さあ、センセイが起きたので、本格的なP-1グランプリが始まるクマよーーー!!』
頭上を見ると、さっきは何も映ってなかったモニターに光が灯り、そこには今回の騒ぎの原因であろう『クマ』の姿が映し出された。妙な帽子とマントを身に着けている、あのマヨナカテレビで見た通りの恰好をしている。それに、今マヨナカテレビで放送されていた大会名と同じ名前を口にした。しかし、このクマは本当に自分たちの知っているクマなのだろうか?
「おい。どういうつもりだ。お前は本当に………」
クマがなのかと悠がテレビに映ったクマ?にそう聞こうとすると、クマ?はウザったそうに悠の言葉を遮った。
『かっ~、センセイの話は長いクマっ!ごちゃごちゃ言っとらんで、戦いんしゃい!もう対戦者も待っとるし、みんな既に戦っとうとよ!』
「何っ?」
今クマ?が聞き捨てならないことを言った気がする。みんな既に戦ってる?……どういうことだ。
「本当……待ちくたびれたぜ、相棒」
不意に後ろから声がしたので、振り返ってみる。そこには一緒にテレビに入った陽介がいた。あまりに唐突だが、陽介の姿を見て悠はほっとした。しかし、先ほどのクマ?の発言からの登場とあのマヨナカテレビに映っていた番組内容から察すると……
「俺に陽介と戦えって言うのか!?」
「らしいな。というか見りゃ分かんだろ?」
陽介は悠の言葉に呆れたように淡白にそう返した。その陽介の様子を見て、悠は違和感を覚えた。何故か姿は本物の陽介のはずなのに、何かが違うような感じがする。すると、画面のクマ?がそんな2人をこんなことを言ってきた。
『ムムッ、仲間ヅラしてぬるま湯にチャプンッなんてさせんクマよ!この戦いは…デスマッチ方式。勝者しか先に進めんクマからね』
クマ?の言葉は完全に2人を煽るようなものだったので、流石に悠も腹が立って声を荒げてしまった。
「いい加減にしろ!どんな企みがあるのか知らないが、俺たちはこんな大会に参加するつもりはないぞ」
悠がそう言うと、画面のクマ?は驚いた表情になったが、次第に悪意丸出しにニヤリと笑って、とんでもないことを言った。
「ほほ〜う…そんなこと言って良いクマか?センセイがこの大会に参加せんということは………ナナちゃんやコトチャンはどうなっても良いということクマね?」
「……えっ?」
ーto be continuded
Next Chapter
「菜々子とことりが!?」
「もう手遅れだろ?」
「何だと……」
「大体あの子たち、本当の妹じゃねぇんだろ?」
「鳴上先輩!陽介さん!」
「「ペルソナ!」」
Next #26「VS Captain Ressentiment!!」