PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
やっとテストが終わって、この通り執筆活動を再開しました。いや〜この試験が終わった後の解放感がたまらんです。たまらんと言えば、来年にペルソナ5のアニメ化が決定したり、5と3のダンシングゲームが出るようなので、ペルソナファンとしては滅茶苦茶嬉しいです!アニメのジョーカーの名前はどのようになるのかな。また、どのように物語を展開していくのか楽しみです。来年はペルソナの年ですね。
それはともかく、今回から本編はGW編である【THE ULTIMATE IN MAYONAKA WORLD】がスタートです。自分としてはようやく特捜隊メンバーを登場させられるので嬉しい限りです。活動報告にてμ‘sの肩書きを募集しましたが、アイデアをくれた『アルカミレス』さん・『Million01』さん、ありがとうございます。大変参考にさせていただきました。
そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方・誤字脱字報告をしてくれた方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。皆さんの応援のお陰でお気に入りが750件に到達しました。
これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進して行きますので、応援よろしくお願いします。
それでは、本編をどうぞ!
#24「I‘m back to YASOINABA.」
〈???〉
『こんばんは、5月1日のナイトジャーナルの時間です。まずは本日起こった国内線ハイジャック事件関連のニュースからお伝えします』
『今日未明、○○空港国内線にてハイジャック事件が発生しました。一時状況は膠着していましたが、警察の特殊部隊の尽力によりハイジャック犯は全員逮捕され、人質となった乗客は皆無事だったとのことです』
『しかし、このハイジャック事件はどのような目的で行われたのかは不明ということで、警察は調査を進めています』
「うっ……」
目が覚めると眩しい光が目に入ってきた。しばらして目が慣れてくると、のどかな田舎の風景が視界に映った。どうやら電車の中で寝ていたようだ。それに、何か悪い夢でも見た気がする。随分と寝ていたようなので体を動かそうとすると、肩に何か寄りかかっているのを感じた。思わずその方を見ていると…
「zzz…zzz………お兄ちゃん……」
可愛いらしい寝息を立てながら自分の肩に寄り添って眠っていることりの姿があった。悠と一緒に時を過ごしている夢を見ているのかとても気持ちよさそうに寝ている。そんなことりを見ていると何やら前から暖かい視線を感じた。
「ふふ、悠くん良く寝ていたわね。気持ちよさそうに寝ていたから、ことりも寝ちゃったわよ」
「叔母さん…」
目の前にはそんな2人を暖かい目で見守っていたらしい叔母の雛乃。すると、後ろから賑やかな声が聞こえてきたので振り返ってみる。
「やった~!!穂乃果が勝った~!!」
「ぷぷぷ……海未、アンタ本当にトランプ弱いわね」
「海未先輩は弱すぎだにゃ~!」
「も、もう一回です!次こそは負けません!」
そこにはトランプゲームを楽しんでいるらしい穂乃果と凛、海未とにこが居た。海未は負けてしまったのが悔しいのか再戦を申し込んでいる。
「あっ!真姫ちゃん見て!田んぼだよ!田んぼ!お米だよ!」
「見れば分かるから。落ち着きなさいよ、花陽」
その横の席では八十稲羽の景色を見て興奮する花陽とそれを宥める真姫。花陽は初めて見る田舎の景色に興奮しているようである。すると、誰かがことりが寝ているところとは逆の肩をつんつんと叩いてきた。
「鳴上くん起きたんやね。はい、お茶」
振り向いてみると、隣の座席からペットボトルのお茶を差し出す希の姿があった。その隣には起きた悠をジッと見ている絵里の姿も。しかし、絵里は悠が自分を見ていると気づくと、すぐに窓の方に視線を移した。
「東條……絢瀬も……」
悠は希に礼を言って受け取ったお茶を一口飲んで喉を潤した。そして、穂乃果たちの賑やかな光景を見た悠はふと思い出した。
(ああ、そうか……今日はみんなで八十稲羽に帰る日だったな…)
今日は5月2日。叔母の雛乃と【μ‘s】のメンバーと一緒に八十稲羽に帰省する日だった。
【稲羽市】またの名を【八十稲羽】
去年、悠が両親の海外出張の都合で一年間過ごしてきた山梨県にある田舎町。初めてあそこを訪れる最中にベルベットルームに入って、イゴールに‘災難が降りかかる‘と予言された。そして予言の通り、悠は八十稲羽で発生した‘連続殺人事件‘に巻き込まれることになる。しかも、それは普通のものではなかった。【マヨナカテレビ】、【テレビの中の世界】、【シャドウ】、そして今でも使役している心の力【ペルソナ】。こういうのもなんだが、とにかく常識はずれなことばかり降りかかった。
しかし、悠はそこでかけがえのない出会いを経験することになる。共にペルソナを力を得て、共に悩み、戦って災いに立ち向かった、陽介・千枝・雪子・完二・りせ・クマ・直斗の【特別捜査隊】の仲間たち。彼らと出会わなければあの事件を解決出来なかったし、今の悠も居なかっただろう。辛いこともあったが、彼らとあの街で共に過ごし、笑いあったり喧嘩したりして、事件の謎を追いかけた日々は忘れられない大切なものとなっている。
両親が海外出張から帰国するのに合わせて、仲間に見送られながら八十稲羽を去って数か月後。GWを利用してみんなの待つ八十稲羽に帰省しているのだ。その際、仕事の都合で八十稲羽に行くことになっていた雛乃と悠が過ごした八十稲羽に行ってみたいと付いてきた穂乃果たちも一緒である。今日は平日だが、学校が4時限授業であったので、授業が終わった後にみんなで電車に乗り込んで、今に至る訳だ。
「いや~楽しみだな~今日から泊まる旅館。どんな料理が待ってるのかな~」
「本当ですね。私、お友達や先輩と一緒にお泊りなんてしたことなかったからワクワクします」
どうやら穂乃果と花陽は自分たちが泊まる旅館が楽しみなようだ。八十稲羽で旅館と言ったらあそこしかないだろう。
「私たちが泊まるその旅館ってあの『天城屋旅館』ですよね」
「稲羽市の『天城屋旅館』って秘湯で有名な老舗旅館じゃない。鳴上さんの仲間がその旅館の女将の娘で、口利きしてくれたってことだけど……シーズン中なのに泊まれるなんて中々ないわよ」
「これも鳴上先輩のお陰だにゃ~」
「ふんっ!旅館が楽しみだなんて、アンタたちはお子様ね」
「……鳴上さんのお陰で久慈川りせに会えるとか言って騒いでたのは誰だっけ?」
「うぐっ…………」
穂乃果たちのそんな賑やかな会話を聞いていると、騒がしいがこういう電車の旅も悪くないと悠は思った。
そんな穂乃果たちの楽し気な会話をBGMに窓の景色を見てみると、とある場所に黒塗りのリムジンが停車しているのが見えた。
(こんなところにリムジン?)
これはまた珍しいものを見たものである。こんな田舎にリムジンを乗り回す金持ちが何の用なのだろうか?あまりに奇妙な光景にふと疑問を感じていると、希が窓から見える稲羽の景色を見て話しかけてきた。
「ええところやね。鳴上くんはここで一年過ごしたんやな」
そういえば、希や絵里は八十神高校の生徒会との交流会ということで一緒に来たのであった。2人の事情を思い出した悠は希の質問に答える。
「ああ…ここは俺にとって、大事な場所だからな」
ここにはもう一つの家族といって良い堂島親子や様々な災難を共に乗り越えた大切な仲間たちがいる。悠にとって稲羽の町は思淹れのある場所なので、そう言われると、とても嬉しく感じた。
「……そうか」
希は悠の言葉を聞くと、そう呟いて再び稲羽の景色に目を向けた。何故かその希の様子に悲し気な寂しさを感じたのは気のせいだろうか?少し気になったので、どうしたのかと聞こうとすると、
「次は~八十稲羽~八十稲羽~…終点です」
終点のアナウンスが流れてきた。どうやら目的地に着いたようだ。この話はまた今度にしよう。悠は隣で寝ていることりを起こして、自分の鞄とことり、雛乃の荷物を棚から下ろした。
「思ってたんやけど……鳴上くん、荷物多すぎやない?」
「そうか?」
実際悠の荷物はぎゅうぎゅうに詰まった大きめのボストンバッグだ。これには悠の荷物はもちろん、八十稲羽に居る陽介や千枝たち、お世話になった人たちへのお土産がたくさん入っている。それ故にこのような状態になっているのだが……。悠の荷物を見て、穂乃果たちは苦笑していたが気にしないでおこう。
そして電車はゆっくりと『八十稲羽駅』停車する。ドアが開くと、生暖かい風が吹き込んできて、その風の匂いに悠は懐かしさを覚えた。少し感傷的に過ぎたかと苦笑を漏らして、悠は穂乃果たちと共にホームへと降り立った。
<八十稲羽駅前>
駅から出ると懐かしい八十稲羽の風景が広がっていた。しかし、駅前だというのに相変わらずここは静かだった。
「うわあ。ここが八十稲羽なんだ~!」
「空気が美味しいですね、良いインスピレーションが湧きそうです」
「都会と違って風が気持ちいいです~」
穂乃果たちはあまりこういう田舎に来たことがないのか、都会とは違う風景に感激している。それは生徒会の絵里や希も例外ではなかった。
「なんというか…何もないわね。まさにド田舎だわ」
「ちょっと真姫ちゃん!」
「鳴上先輩の前でそういうことは」
稲羽の街を見て呟いた真姫の言葉に花陽と海未がそう注意すると、真姫はしまったという表情を浮かべた。何事もズバッと言ってしまう性格のせいで、敬愛する先輩の思い入れのある場所に失礼なことを言ってしまった。真姫は罪悪感で俯向いてしまったが、悠は真姫の失言を気にすることはなく、笑顔で真姫に接した。
「気にするな。俺も初めて来たときはそう思ったから、西木野がそう思うのは当然だ」
真姫の言う通り、八十稲羽は田舎町なのでこれといったものは何もない。それは真姫だけじゃなく皆が思っていることだろう。しかし、この何のないという感じがこの街の持ち味なのかもしれないと悠は思っている。真姫は悠の言葉を聞いて安心したが、逆に悠の笑顔に見惚れてしまい、顔を赤くして俯いてしまった。悠は真姫のその様子にハテナマークを頭に浮かべたが、後ろから数名の鋭い視線が突き刺さったのは言うまでもない。
「あら。もうすぐ迎えが来る頃ね」
そんな一幕が終わったと同時に、時計を見た雛乃がそう言った。そろそろ天城屋旅館からお迎えのバスが来る時間のようだ。余談だが、天城屋旅館は雛乃たちのような遠くから来るお客のために、今年からマイクロバス送迎のサービスを始めたらしい。
「悠くん、私たちは天城屋旅館に泊まるけど、悠くんは堂島さんの家に行くのよね?」
改めて説明しておくと、堂島とは悠の母方の叔父である【堂島遼太郎】のことである。現職の刑事であり、小学生の娘の【堂島菜々子】を男手一つで育てている。悠は去年この堂島の元でお世話になって、今では大切な家族のような存在となっている。
「はい。でも叔父さん、今日は本庁に呼ばれているらしくて迎えに来られないそうです」
一応今日みんなと来ることは堂島には伝えてあった。ただ、堂島は本庁の急な呼び出しで迎えに来れないということ。堂島は電話で迎えに行けなくて済まないと謝っていたが、刑事なら急な仕事は仕方ないだろう。叔父のその様子に電話越しで微笑んでしまったのは内緒の話だ。
「ええ!お兄ちゃん、旅館泊まらないの!?ことりと一緒じゃないの!?」
ことりは悠と一緒に旅館に泊まれると期待していたのか、ガッカリした様子だった。他にもことりほどではないものの浮かない表情をしている者が何人か居た。その中に希はともかく絵里も含まれているのは気のせいだろうか。
「そうなの…堂島さんも大変ね。もうすぐ暗くなるし、菜々子ちゃんって子のことも心配だわ」
堂島が本庁に行っているということは、菜々子は家で一人で悠を待っているということになる。雛乃の言う通りこれ以上待たせてはいけないと思い、早く堂島家に向かおうとすると、
「お兄ちゃんっ!!」
どこからか悠をそう呼ぶ愛らしい声が聞こえてきた。振り返ってみると、そこに小学生くらいの女の子がこちらに手を振っている姿が見えた。悠のことを『お兄ちゃん』と呼ぶ女の子はことり以外一人しか考えられない。
「菜々子?」
「「「「え?」」」」
思わず悠はその少女に駆け寄った。やはりそこに見間違えるはずのない菜々子の姿があった。
「菜々子、一人で迎えに来てくれたのか?」
この駅から堂島家までは歩けない距離ではないが、小学生の菜々子の足では中々の道のりである。それにもうすぐ暗くなる時間だったので、もし会えなかったらどうするつもりだったのだろう。そんな悠の心配をよそに菜々子は元気よく質問に答えた。
「へーきだよ。お父さんにも言ったし、バスも一人で乗れた」
「え?」
「お父さんが迎えに来れないって言ってたから、菜々子が代わりに来たんだ」
得意げにそう言う菜々子を見て、悠はそういうことかと察した。きっと菜々子は悠に少し大人になったところを見せたかったのだろう。そんな年頃だというのは分かるし、娘を溺愛する堂島がよく許可を出してくれたものだと思う。
「お兄ちゃんお帰りなさい!菜々子、ずっと待ってたよ!」
菜々子が悠に天真爛漫な表情でそう言ってくれたので、悠は微笑ましくなって菜々子の頭を撫でてこう返した。
「ああ、ただいま。お兄ちゃんも、菜々子に会いたかったよ」
「うん!」
悠の言葉を聞いた菜々子はとても嬉しそうに笑った。この天使を彷彿とさせるような笑顔を見ると、悠は本当に自分は八十稲羽に帰ってきたのだと実感した。
「お兄ちゃん、あの人たちは?」
菜々子が悠の後ろを指さす。振り向くと、穂乃果たちが悠と菜々子を見て呆然としている姿があった。ことりなんかは悠と菜々子のやり取りを見たのか羨ましそうな表情をしている。すっかり菜々子との会話に夢中になって、穂乃果たちに紹介するのを忘れていた。
「悠くん、もしかしてこの子が……菜々子ちゃん?」
「はい。この子が叔父さんの娘の菜々子です」
悠がそう紹介すると、穂乃果たちから驚きの声が上がった。特に何か対抗心を燃やしてることりや、兄妹がいる穂乃果とにこ、そして絵里は菜々子をまじまじと見ている。すると、悠の後ろに立っていた菜々子は一歩前に出て、雛乃と穂乃果たちに向けて礼儀正しくお辞儀した。
「こんにちは、堂島菜々子です」
去年は人見知りが激しい性格だったので、悠とコミュニケーションを取るのにとても時間がかかったものだが、悠や特捜隊の皆と触れ合ったお陰か、このように初対面の人でも臆することなく挨拶できるようになっている。これには悠も少し驚いたが、成長したなと心の中で喜んでいた。
「か、可愛い………ことりにこんな可愛い従妹が居たなんて……」
ことりは先ほどの対抗心は何処へ行ったのか、菜々子を見て顔がふやけている。何やら自分に妹ができて嬉しいと言っているような感じだ。
「あら、悠くんに似てとても礼儀正しい子ね。こんな可愛い姪っ子が居るなんて、叔母さん嬉しいわ」
雛乃は菜々子の礼儀正しい姿を見て、すっかり菜々子を気にったようだ。2人だけでなく、穂乃果や希たちの菜々子を見て、可愛いと言ってくれたので悠はとても嬉しく感じた。
「良かったな、菜々子」
「うん!……あっ!μ‘sの人たちだ!動画で見たより可愛い!」
菜々子は穂乃果と海未、ことりを見てそんなことを言ってきた。その反応をに3人はとても驚き、穂乃果は菜々子におずおずと尋ねる。
「え?……菜々子ちゃん、穂乃果たちのこと知ってるの?」
「うん、知ってるよ。菜々子、陽介お兄ちゃんたちと一緒に動画見たもん。陽介お兄ちゃんや千枝お姉ちゃんたちも、μ‘sはすごいって言ってた」
そういうえば、前に電話したときに穂乃果たちの動画を見てファンになったと聞いた気がする。目の前にファンになったアイドルが居るので、菜々子はとても嬉しそうだ。穂乃果たちもこんな小さな子にすごいと言ってもらえて嬉しそうである。ふと見ると、絵里が菜々子の発言を聞いて複雑な表情をしているのだが、どうしたのだろう。
「歌もダンスも上手だったよ。みんな可愛いし、良い人そうだから、菜々子
「「「「「「な、菜々子ちゃん……」」」」」」
菜々子の心からの言葉に穂乃果たちは感激している。最近あまり見られない純粋な小学生の真っ直ぐな言葉に心打たれたようだ。それにしても穂乃果やことりはともかく、花陽や凛、そして普段あまり表情の起伏が少ない真姫までも感激している。にこは嬉しさのあまりにそっぽを向いて泣きそうになっているし、何故か生徒会の2人も感動していた。相変わらず菜々子の心の言霊は健在のようだった。
そんなやり取りをしているうちに、八十稲羽駅に天城屋旅館からと思われるマイクロバスが到着した。バスから降りてきた仲居さんが知り合いの『葛西』だったので、悠は葛西に挨拶をした。葛西さんも悠の登場に驚いていたが、笑顔でお帰りなさいと悠の帰還を喜んでいた。
「それじゃあ悠くん、菜々子ちゃん、気を付けて帰るのよ。堂島さんによろしくね」
「分かりました。じゃあ皆、また明日」
「鳴上先輩!菜々子ちゃん!また明日~!!」
「お兄ちゃ~ん!菜々子ちゃ~ん!!」
そうして、穂乃果たちを乗せたマイクロバスは旅館に向けて走り去っていった。マイクロバスが見えなくなると、悠は菜々子の方を向いてこう言った。
「菜々子、俺たちも帰ろうか」
「うん!」
雛乃たちを見送った後、悠と菜々子は手を繋いで堂島家に向かった。悠は気づかなかったが、誰も居なくなった駅に2人の後ろ姿をジッと見ている青いハンチング帽を被った黒髪の少女の姿があった。
「…お帰り、悠」
<堂島家>
皆と別れて久しぶりの堂島家に帰ってきた悠は、荷物をリビングに置いて早速台所に立っていた。本庁に行って疲れて帰ってくる堂島のために美味しいご飯を作ろうと思ったのである。冷蔵庫を開くと、そこにはたくさんの食材があった。ここに帰ってくる途中、菜々子から昨日堂島とジュネスでたくさん買い物をしたと聞いていたが、菜々子の言う通りたくさん入っている。さて、これらの食材から何を作ろうかと悠は思案した。
「お兄ちゃん、お夕飯作るの?菜々子もお手伝いするー!」
ある程度構想ができて調理を開始しようとすると、菜々子がお手伝いを申し出てくれた。もちろん悠はそれを承諾し、久しぶりの共同作業となった。こうやって菜々子と料理するのも久しぶりだと悠は思わず頬が緩んでしまう。
「ただいまー!帰ったぞ」
「お父さん!おかえりなさい」
料理が完成に近づいたころに、叔父の堂島が寿司を手に持って帰宅してきた。菜々子は堂島の声を聞くと、顔をぱっと輝かせて玄関へ駆けて行った。そして、帰ってきた堂島が台所に姿を現した。
「おう!悠、久しぶりだな!元気だったか?」
堂島は悠の顔を見ると、二カッと笑って迎えてくれた。まるで自身の息子が久しぶりに帰ってきたように。
「はい。お久しぶりです、叔父さん」
「んっ?お前、料理作ってたのか?まいったな……そうと知っていれば」
堂島は買ってきた寿司を見て苦い顔をする。しかし、それは悠にとっては想定内だった。
「いえ。叔父さんが寿司を買ってくるかなと思って、それに合う軽いものを作りました。問題ないです」
「ははっ、分かってるじゃねえか」
そうした懐かしいやり取りをしながら、食卓に3人が揃った。こうして3人で食事をしていると、数か月の空白を全く感じない。寿司を美味しそうに頬張る菜々子、仕事終わりのビールを飲んで渋い笑顔になる堂島。あの時とは全く変わってない光景で、まるで自分は変わらず家族の一員で、今もこの家に居て当然のような暖かい空気がそこにあった。今までそういうことに縁のなかった悠にとって、それはとても嬉しく感じた。
(叔父さん…菜々子………ありがとう…)
心の中で2人に感謝の言葉を述べて、悠は食事しながら堂島と菜々子の3人で家族の会話を楽しんだ。
<天城屋旅館>
一方、天城屋旅館に泊まっている穂乃果たちは浴衣に着替えて部屋でゴロゴロしていた。
「はあ~料理美味しかった~!」
「お布団ふっかふか~♪」
「温泉も気持ち良かったですね~」
「極楽だにゃ~」
天城屋旅館の自慢の料理や温泉を満喫したので、だらけきった状態になっている。ちなみに、雛乃と希や絵里とは別の部屋なので穂乃果たちがこのような状態になっていることは知らない。
「貴女たち、いくら何でもだらけ過ぎですよ」
海未はそんなだらける穂乃果たちを注意するが、穂乃果たちは全く聞き入れようともしなかった。こういう時は一緒に注意してくれる真姫も長旅で疲れているのか、窓側の椅子で静かに稲羽の景色を眺めていた。
「全くアンタたちは情けないわね~。こんなのでだらけてたらダメじゃない~」
「にこ先輩、テーブルにうつ伏せになっている状態で言われても説得力ないです」
にこまでこの調子である。天城屋旅館を満喫しているのは結構だが、程度というものはあるだろう。明日は悠とその仲間たちに八十稲羽の町を案内してもらう予定なのに、この調子で大丈夫なのだろうかと海未は頭を悩ませた。
「失礼します」
すると、凛とした言葉と共に、部屋に穂乃果たちと同じ年代らしいピンク色の付け下げを身につけた少女が入ってきた。大和撫子然とした美貌を持ったその少女の名は【天城雪子】。悠たち特捜隊のメンバーの1人で、この天城屋旅館の女将の娘である。
「あっ、雪子さん!どうしたの?」
雪子の登場にだらけきっていた穂乃果たちはすぐに起き上がった。旅館に着いてから色々と世話をしてもらったため、穂乃果たちはすぐに雪子と打ち解けあっている。雪子も悠の向こうでの後輩ということもあるが、どうやら穂乃果たちのことを相当気に入ったらしい。
「お仕事終わったから、穂乃果ちゃんたちとおしゃべりしようかなって思って。お茶請けも持ってきたよ」
「本当!やった~!!
「ありがとうございます!」
「あ、ありがたくいただくわ」
穂乃果たちは喜んで雪子を部屋へ招き入れて、雪子が持ってきたお茶請けを食しながら楽し気に談笑した。話題はお互いの学校のことや生活のこと、そして悠のことなどで盛り上がり、とても楽しそうだった。
しかし、真姫はあまりその雰囲気に馴染めないのか、一歩下がったところで穂乃果たちの会話を聞きながら窓の外を見ていた。それを見た雪子は気掛かりだったので、真姫に声を掛けようとする。何故かその姿が寂しそうで、仲間になる前の直斗と同じ雰囲気を感じたからだ。すると、
「ね…ねえ……ちょっと良いかしら?」
雪子が真姫に声を掛けようとしたと同時に、別の部屋に泊まっている浴衣姿の絵里と希が入室してきた。心なしか絵里は少々顔色が悪い。
「あれ?会長さんに副会長さん。どうしたんですか?」
雪子のお茶請けをパクパクと食べていた穂乃果が2人にそう尋ねた。絵里はバツが悪そうに穂乃果の質問に答える。
「いや…その……少し貴女たちの部屋に居させてくれないかしら?」
「え?………絵里さん、部屋に何か不満な点でもあったの?」
絵里の申し出を聞いて、部屋に何か不満があったのかと雪子はおずおずと尋ねる。ちなみに雪子は絵里と希とは同級生ということもあって、既に意気投合している。それに対しして、絵里ではなく希が代わりに答えた。
「違うんよ雪子ちゃん、エリチが部屋から女の人のすすり泣く声が聞こえるって言ってな。ウチは何にも聞こえなかったんやけど、エリチが怖がりやからそれで」
「ちょっと!希!!」
絵里は颯爽と希の口を塞ぎにかかったが、時は既に遅く、穂乃果たちの耳にバッチリ入っていった。穂乃果たちは絵里の事情を聞いて、普段は毅然な生徒会長という印象を持つ絵里の意外な一面を見た気がして、少し顔を緩みそうになった。
「それにしても、女の人のすすり泣く声って………」
「旅館とかではありきたりな怪談みたいですけど、そんなことありませんよ。会長はただ疲れてるだけなんですよ」
しかし、逆に『女のすすり泣く声』という単語が気になったのだが、海未はそれを絵里が疲れてるだけと一蹴する。それを聞いた雪子は
「あっ……絵里さんと希さんを案内した部屋って山野アナの……」
「え?………雪子さん?」
「ん?どうしたの、海未ちゃん?」
「……何でもありません」
不意に雪子のそんな呟きが聞こえた気がしたが、海未は嫌な予感がしたのであえて追及はしなかった。そういうことで、絵里と希を交えて穂乃果たちのガールズトークはしばらく続いたのだった。
会話に一段落ついて、絵里たちが自分たちの部屋に向かったときには、時計は日付が変わる午前0時を指す前であった。
<堂島家 悠の部屋>
菜々子がはしゃすぎ過ぎて寝付いた頃合いに、堂島に促されて、悠は2階の自身の部屋に入っていた。数か月前まで使っていた自分の部屋は、全く変わっていなかった。この稲羽を去るのが名残惜しいままドアを閉じた、あの時のままだった。悠は下でゆっくりしている堂島に感謝しつつ、ソファに腰を下ろした。
「ここはいいところだな………」
大切な人たちがそこに居て、変わらず自分に接してくれた。それを確かめた悠は、本当にここに変わらぬ絆があることを感じた。
明日は久しぶりに陽介たちに会える。そして穂乃果たちを紹介して、八十稲羽の周辺を案内しよう。それなら明日は忙しくなると思い、悠は早めに寝ようと布団を敷くことにした。その時、
(!!)
窓から強烈な視線を感じた。音乃木坂で感じた濃密な殺気。
思わず振り返ってみたが、誰もいない。どうやら気のせいだったようだ。久しぶりに菜々子と叔父に会ってはしゃぎ過ぎたせいか疲れているのかもしれない。
「……って雨か」
窓を見ていると外は雨が降っていた。この部屋の窓から雨を降っていると思わず後ろにある時計を確認してしまう。時刻はもうすぐ午前0時になろうとしていた。こうして、夜の雨の日に時間を確認してしまうのは、アレのせいだろう。
「マヨナカテレビ………」
『雨の降る夜の午前0時に点いていないテレビで自分の顔を見つめると運命の相手が映る』というもの。現在悠と穂乃果たちが追っている【音乃木坂の神隠し】の似た噂。
あれに映るのが自分の運命の相手ではなく、テレビに入れられた人物が映ると知った時からついてしまった悪い習慣だ。
「まさか……音乃木坂だけじゃなくて、ここでもまた映るってことはないよな……」
不意にそんなことを呟いてしまった。あの連続殺人事件は解決した後に、マヨナカテレビは映らないのは確認した。それに、悠が東京で過ごしていた最中に八十稲羽では映っていないということは陽介たちからも聞いている。
映るはずがない…
しかし、悠はついてしまった悪習慣のせいか悠は惹かれるように、テレビの画面を覗き込んでいた。案の定、テレビの画面に映ったのは自分の姿のみ……
のはずだった…
「なっ!」
突然テレビに光が灯り、何かが映った。そしてそれに映っているのは………
~テレビ内容記録~
派手なBGMとよくテレビで聞く男性ナレーションの声と共に、画面には格闘番組に出てくるようなリングとアリーナが映し出された。次に妙な恰好をした『クマ』が現れる。
『オトコの中のオトコたち!出てこいクマーーー!!』
可愛い菜々子・ことりは誰にも渡さん!
―――当然です
寂れた田舎を踏み台に、大英雄に俺はなる!
―――退屈なもんは、全部ぶっ壊す!!
女を捨てた肉食獣!
―――肉を食べなさい!肉をっ!!
私をリングへ連れてって!
―――一撃で仕留める
薔薇と肉体の狂い咲き!
―――もっと奥まで、とつ・にゅう☆
見た目は子供、頭脳はバケモノ!
―――バカ軍団ですか…?
破廉恥なものには正射必中!
―――ラブアローシュート!バンバンバーーン☆
アイドルのためなら何でもやります!
―――ご飯おかわり!特盛りで!
運動スキルはA⁺、勉強スキルはE⁻!
―――んん~~!テンション上がるにゃああっ!!
私は全てにおいてNo.1!
―――い、イミワカンナイッ!!
あなたのハートににっこにっこにー!
―――にっこにっこに~♡
~テレビ内記録終了~
「何だ…今のは……」
今映ったのは確かにマヨナカテレビだった。まさか事件が解決したこの八十稲羽で再びマヨナカテレビが映るとは驚くしかない。いや、それよりも驚いたのは…
映っていたのは
「鋼のシスコン番長………」
あまりのことに状況が呑み込めず呆然としていると、悠の携帯が鳴り響いた。着信主は陽介。おそらく今の番組を陽介も見たのだろう。とりあえず、今は仲間と連絡を取って状況を確認するしかない。悠は急いで通話ボタンを押した。
<天城屋旅館>
「い、今のって……何?」
「な、鳴上先輩や……私たちも映ってましたよね……」
旅館に泊まっていた穂乃果たちも悠たちと同じくテレビの前で驚愕していた。穂乃果の提案でここでもマヨナカテレビが映るか試してみようとしたのだ。すると、午前0時になった瞬間、本当にマヨナカテレビは映った。しかし、そこに映ったのは変なキャッチコピーで紹介され、『P-1Grand Prix』という格闘番組に出演している自分たち。どういうことなのかと思っていると、穂乃果たちの部屋に雪子が駆け込んできた。
しかし、先ほどのマヨナカテレビを観て驚愕していたのは悠や穂乃果たちだけではなかった。
「何や…今のは……」
とある部屋の一室。親友が隣で寝ているのをよそに、その人物は部屋にあったテレビの前で固まっていた。
この町ではやっていた『マヨナカテレビ』という噂。何となく自分の通っている高校で広がっている噂に似ていたので、せっかくだからと試してみたのだ。しかし、そこに映っていたのは変な格闘番組に出演している自分の想い人と知り合いたち。彼女は急いで鞄からタロットカードを取り出して、占いを始めた。
「嘘……そんな…………」
彼女はその結果を見た途端、声を失った。想い人たちの未来を占った結果、タロットが示したのは災いを表す『"塔"の正位置』だっだのだから。
ーto be continuded
Next Chapter
「それではここに八十稲羽特別捜査隊再結成を宣言します!」
「相変わらずのガッカリだな」
「クマと連絡が取れない?」
「行こう!」
「ちょっと!何かいつものと違わない!?」
「こ…ここは………どこだ?」
Next #25「Welcome to Mayonaka World.」