PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
今回はシャドウ戦が入っているので、本当は来週の月曜に更新する予定でしたが、予想以上に手が進んだので早めに更新してしまいました。
この7月は学生の自分はテスト期間に入るので、今月はあと1話しか更新できないと思います。これからの予定としては、閑話回を一回挟んで8月から本編はGW編に入る予定です。楽しみにしていてください。余裕があれば、次回のあとがきにGW編の予告編を入れようかなとは思ってます。
そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方・誤字脱字報告をしてくれた方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。読者の皆さんの応援のお陰でお気に入り件数が650を突破しました。これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進して行きますので、応援よろしくお願いします。
それでは、本編をどうぞ!
「「「「ペルソナ!!」」」」
悠たちはペルソナ召喚し、にこの影の元へ突進していく。先行したのは陽介の【ジライヤ】と同じく素早さが売りの凛の【タレイア】。高速で移動してにこのシャドウとの間合いを詰めて一撃を食わらしたが、一体のSPがそれを阻んだ。渾身の一撃のはずなのに、SPは何事もなかったかのように涼しい顔をしていた。
「んにゃっ!」
一方、次に先行した真姫の【メルポメネー】は中距離から炎の攻撃を放ったが、凛と同じくもう一体のSPに防がれた。
「ウソ!」
威力は大火事並みのはずなのに、信じられないことにそのSPはびくとも動かなかった。これには真姫だけでなく悠たちも驚きを隠せなかった。
「なによ、こいつら……攻撃が全然効かない」
「鳴上先輩!あのシャドウは一体何なのですか!?」
海未は信じられないのか焦った声で悠に問いかける。悠も去年同じようなことに遭遇しているので、あらかた目星はついていた。
「おそらく、こいつらは矢澤のシャドウの一部だ。去年同じシャドウと戦ったことがあるが……あいつらは相当手強いぞ」
完二のシャドウもこんな感じだった。アレもどんな攻撃をしても通用しなかった上に精神攻撃を与えられたのだ。アレを思い出すと何故か吐き気が襲ってきた。
「そんな……って海未ちゃん!!花陽ちゃん!!」
「「!!」」
今度はSPたちが動いていた。SPたちは気が緩んでいる隙をついて海未の【ポリュムニア】と花陽の【クレイオ―】を広場の柱に叩きつけて、手錠のようなもので拘束した。それを受けた海未と花陽の表情が苦しそうだ。
「園田!小泉!一旦ペルソナを戻せ!」
「こ、この距離では…無理です」
「わ、私も………」
ペルソナを一旦カードに戻せば手錠の拘束から逃れられる。しかし、召喚者とペルソナの距離が遠すぎるのでそれは無理だった。ならば自分があの手錠を破壊しようと、悠はイザナギをポリュムニアたちの方に向かわせて手錠を破壊しようとしたが、思った以上に頑丈だった。
『クスクスッ、この程度?』
にこの影はここぞとばかりにSP達を後ろに下げ、悠たちに向けて吹雪を放った。
「しまった!チェン…」
「メルポメネー!」
悠がペルソナをチェンジしようとしたが、真姫が悠たちを庇ってメルポメネーの炎で吹雪を相殺しようとする。だが威力はにこのシャドウの方が上回っていたので、真姫の抵抗も虚しく押し返されてしまった。
「きゃあああ!」
「真姫ちゃん!」
真姫のメルポメネーは火炎属性なので氷結属性は弱点。しかもペルソナのダメージはフィードバックで召喚者にも返ってくるので、真姫もダメージを受けた。ことりが急いで真姫に駆け寄って治療するが、回復には時間がかかるだろう。
『あははははは、本当に大したことないのね。笑っちゃうわ!!』
にこのシャドウの言葉に凛は憤りを覚えた。それはやられてしまった親友の花陽や真姫、先輩である海未を嘲笑しているように思えたからだ。
「よ、よくも……かよちんや真姫ちゃんを………許さないにゃー!」
「よせ!凛!!」
凛は怒りに任せてにこのシャドウに突進してしまう。激情に駆られてしまったのでSPの存在を忘れてしまった。SPがにこのシャドウを守るように立ちはだかり、凛のタレイアに鉄拳を食らわそうとするが、それはあるものに防がれた。
「ぐっ……ま、間に合ったか…」
「な、鳴上先輩!」
悠がペルソナを【ジークフリード】にチェンジしてタレイアをSPの鉄拳から庇ったのだ。ジークフリードは物理攻撃に耐性があるため、吹き飛びはしなかったものの、急所に鉄拳が入ったのでフィードバックでダメージが伝わった悠はその場に項垂れてしまう。
「な、鳴上先輩!ごめんなさい…凛のせいで………」
「鳴上!アンタ……」
凛とにこが悠に駆け寄るが、悠の表情はすこぶる悪い。それを好機と捉えたのかのか、にこのシャドウはニヤリと笑った。
『さあ、そろそろ終わらせるわよ!皆まとめて氷漬けにしてあげるわ!!』
そう言うとにこのシャドウは力を溜めていく。アレを何とか防がなければ、その場でゲームオーバーだろう。しかし、そう思ってもあの攻撃を防げるペルソナを持っているだろうか?氷結属性に有効なペルソナと言えば現時点では【ハリティー】があるが、あれでは全部は防ぎれない。
(くっ…このままじゃ……)
悔しさのあまりに、悠は思わず目を閉じてしまう。その時…
「ようこそ、お待ちしておりました」
不意に耳元にあの奇怪な老人もといイゴールの声が聞こえてきた。もしかして…
「【女神の加護】を4つ所持するお客様なら、今こそあのチカラを発揮できるはず。さぁ、彼女たちに特と見せつけて下さい。お客様の持つ【ワイルド】の
ーワイルドの
マーガレットの話を聞いて目を開いた悠は思わずニヤリと笑った。
「そうか…思い出した」
「な、鳴上?」
「俺の趣味は、チェンジと………合体だ!」
悠がそう言うと、悠の周りが青白く光り出した。頭の中でイゴールがタロットカードを2枚テーブルに並べる映像が鮮明に浮かんでくる。それと同時に、悠の目の前に【魔術師】と【女教皇】の2枚のタロットカードが出現した。
「え!カードが…2枚!?」
穂乃果がそれに驚いたと同時に悠の足元にタロットカードのイラストが描かれた魔方陣が展開された。悠がその2枚のカードに手を合わせると、更にカードの輝きが増していく。そして、にこのシャドウが最大級の氷結攻撃を繰り出した瞬間、悠は2枚のカードを合わせるようにして砕いた。すると、
グオオオオォォォ
怪獣のような唸り声を上げながら新たなペルソナが出現した。そのペルソナはにこのシャドウが繰り出した氷結属性の攻撃を全て無効化する。現れたペルソナは8つの頭と8本の尾を持った巨大な大蛇【ヤマタノオロチ】。その光景にその場にいる穂乃果たちは驚きを隠せなかった。
「な、何よあれ!蛇!?」
「あれが合体というやつかにゃ……鳴上先輩すごいにゃ!!」
ヤマタノオロチはにこの攻撃を無効化し終えると攻撃態勢に入った。8つある内の2つはSPたちに向かって行き締め付ける。SPは必死に抵抗するが抜け出せない。それどころか締め付ける力が徐々に強くなっていき、顔が真っ青になっていく。その瞬間、海未のポリュムニアと花陽のクレイオーを拘束していた手錠が姿を消した。
「す、すごい!お兄ちゃん!!」
「さっすが鳴上先輩!!」
穂乃果とことりはそう言うと、解放された海未と花陽の元へ駆け寄った。幸い2人は無事だったので、穂乃果とことりは安堵した。すると、海未と花陽はヤマタノオロチに締め付けられているSPたちをギロッと睨みつける。
「よくもやってくれましたね……お返しです!!ポリュムニア!!」
「私も!クレイオー!」
「凛も行くにゃ!タレイア!!」
そして海未はポリュムニアに強く弓を引かせて、特大の攻撃を放つ。案の定SPは威力に耐え切れず消滅し、もう一体は戦線に復帰にした花陽のクレイオーと凛のタレイアに剣で刺されて消滅した。
それを見たにこのシャドウは激怒する。トドメとばかりに放った自身の攻撃を難なく防がれ、自分のお付きのSPのシャドウが倒された。それもこれも、全てあの男のせいだ。
『な……鳴上ィィィ!』
にこのシャドウは怒りに任せて悠に攻撃する。しかし、それはヤマタノオロチによって防がれた。いくら氷結属性の攻撃をしようとも氷結属性が効かないヤマタノオロチにはにこの攻撃は無意味であった。
「ふっ。俺に攻撃を加えても無駄だぞ。お前を倒すのは俺じゃない」
『何!?』
その時、にこのシャドウの背後に一つの影が接近した。
「さっきの仕返しよ!メルポメネー!!」
回復したばかりの真姫はさっきの仕返しと言わんばかりに、にこのシャドウの背後から特大の獄炎を繰り出した。無論にこのシャドウは悠に気を取られていたので、無防備にもメルポメネーの獄炎を受けてしまう。
『ああああああ!熱い!熱いイイイ!』
にこのシャドウは氷結属性。つまり、真姫の火炎攻撃は弱点であるので大ダメージを食らったことだろう。攻撃が決まった真姫はどSな性格を感じさせる嗜虐的な笑みを浮かべていた。
another view (にこ)
「な…鳴上………」
私は言葉を失っていた。もうダメだと思ったその時、鳴上が魔方陣みたいなのを出して、そこから蛇の怪物を召喚して逆転した。その鳴上の後ろ姿はまるで物語に出てくる主人公みたいで、不覚にもカッコいいと思ってしまった。
「アイドルになるって夢…本気なんだろ?」
そんなことを思っていると、鳴上が急に私に話しかけてきた。
「え?」
「それなら俺たちと一緒にスクールアイドルをやろう。矢澤の本気に高坂たちなら付いてきてくれるはずだ。俺が保証する」
「な、何よいきなり……」
鳴上はそう言ってくれたが、私は簡単に首を縦に触れなかった。そうであっても私があいつらを傷つけたのは変わらないし、それに……
「アンタだって思ってるんでしょ?こんな小学生みたいな私にアイドルなんて……」
別に言われて言ってるわけじゃないけど、こんな私なんて……。すると、
「いや、良いと思う」
「え?」
鳴上は戦闘中にも関わらず私の方を向いてトンでもないことを言ってきた。
「だって矢澤はとっても可愛いじゃないか」
「は?……………はあああああああああ!!」
なななな何澄ました顔で何言ってんの!コイツ!!バッカじゃないの!!何でそんな恥ずかしいことを平然と言えるのよ!!というか、そんなことはもっと雰囲気のあるところで言いなさいよ!!
『う……嘘よ嘘よ!私が可愛い訳がああああ!』
私が心の中で鳴上を罵倒しているとあっちの怪物もかなり動揺していた。そういえば、あいつは私って言ってたわね………。そんなことを思っていると、ふと視界が霞み始めた。これは……
「わ…私……泣いてるの………可愛いって言われただけなのに………」
何で涙が出たのか分からなかった。でも、鳴上のお陰で私の中の何かが吹っ切れたような感じがした。
(本当…鳴上って……)
私はある決心をして立ち上がる。それに気づいたのか鳴上はあいつまでの道を開けてくれた。その目は私に行ってこいと言っているように見えた。私は鳴上が用意してくれた道をゆっくりと歩いて、散々暴れ回っていたあいつに歩み寄る。
『アンタ……何のつもり…』
あいつはさっきの炎を攻撃のせいか弱々しくなっていたけど、冷たい声で私に話しかける。でも、さっきと比べて私は平然としていられた。
「よくも人のことを散々言ってくれたものね。私からもアンタに言わせてもらうわ」
『な、何よ………』
「アンタが私って言うなら、覚えておきなさい。私は………」
私は握りしめた拳を更に握りしめて
「宇宙一のスーパーアイドルになるって決まってんのよーー!」
私に全てをぶつける勢いで思いっきりそいつの腹を殴り飛ばした。
『きゃああああああああああ!』
やけくそで殴ったのに、あの怪物…もとい私の影は思ったより吹き飛んだ。ふふん、図体がデカい割に大したことなかったわね。振り返ると、今の私の姿を見たのか高坂たちは引きつった顔をしていたけど、鳴上だけはよくやったと言わんばかりにサムズアップしてくれた。それを見た私は何故かお父さんに褒められたような気がして、無性に嬉しくなった。
another view (にこ) out
「「えええええ!」」
穂乃果たちは信じられないものを見てしまった。何故ならにこが自分の暴走したシャドウを腹パンで沈めたからだ。
「じ、自分で自分のシャドウを倒しましたよ!!あの人」
「い、一撃だったにゃ…」
「信じられない…」
悠は穂乃果たちとは反対にその光景にに懐かしさを感じていた。体型や性別は違う者のその光景は八十稲羽に居る頼もしい後輩の姿と重なって見えたからだ。すると、己の影を殴り飛ばしたにこは悠の方を見て言った。
「ありがとう、鳴上……また借りが増えたわね」
「いいさ。それよりほら」
悠が指差したところに、元の姿に戻ったにこの影が倒れていた。にこはそれを確認すると、ゆっくりと歩み寄って己の影を見下ろしてこう言った。
「情けないわね。散々私を貶したくせに」
『う…うるさい……私は……』
「本当は分かってたわよ。私の中にアンタみたいなのがいるなんて」
『!!』
「私は理解者が欲しかったのよ。自分のアイドルになりたいって夢を分かってくれる仲間が欲しかった………でも、その癖して自分の勝手な理想を押し付けて転校させたり、羨ましいってことだけで鳴上たちに八つ当たりしたりして………本当に私は最低な女ね。アンタの言う通り、私に夢を持つ資格なんてないわ」
「そ、そんなことは…」
花陽は自虐するにこを止めようとしたが、それを悠は制止する。自分の影と向き合ってるときは他人が口出しするのは良くない。
「でも………それでも私はアイドルの夢をあきらめきれない。今はあいつらを傷つけた過去とは正面から向き合えないけど……いつかアンタに胸を張って答えを出せるようにするから、これからの私をちゃんと見てなさい」
そして、にこは一呼吸おいてはっきりと言った。
「アンタは私で、私はアンタね」
にこがそう言うと、にこの影は無表情だったものの一瞬笑ったような感じがした。そして、にこの影は光に包まれ姿を変えた。それはピンク色のドレスに身を包んだ女神であった。
『我は汝…汝は我……我が名は【エラトー】。汝…世界を救いし者と共に…人々に光を』
そして女神は再び光を放って二つに分かれ、一方はにこへ、もう一方は悠の中へと入っていった。
>にこは己の闇に打ち勝ち、困難に立ち向かうための人格の鎧ペルソナ‘エラトー‘を手に入れた。
「あっ…」
「矢澤!」
にこがペルソナを手に入れたと同時に膝をついたので、悠たちは心配になってにこの元へ駆け寄った。しかし、にこは疲れた表情はしているものの、何か吹っ切れたと言っているような嬉しそうな表情をしていた。
<音乃木坂学院 屋上>
「……なるほどね。つまりアンタたちは私のようにテレビの中に入れられて、鳴上に助けられて、スクールアイドルをやりながら犯人を捜していると………」
「そういうことだ」
にこを救出してテレビの世界から帰還した悠たちは、まずにこに事情を説明した。にこは最初は話が呑み込めないような感じだったが、ペルソナやシャドウなど現実ではありえない光景を目撃したせいかまずは納得したようだった。
「あの……信じてもらえましたか?」
「……アレを見せられたら納得するしかないじゃない」
「そ、そうですよね……」
花陽はまだにこが自分のシャドウを殴り飛ばした場面が忘れられないのか、にこに対して遠慮がちな態度を取っていた。あんな衝撃的なシーンを忘れろというのは無茶な話なので、仕方ないかもしれないが…
「それにしても、矢澤先輩も花陽たちと同じ方法でテレビの世界に入れられたんですね」
「ああ」
今回のにこの事件で、悠の中にある仮説が生まれた。これは八十稲羽の事件を通して分かったことだが、テレビに人を入れられるのは
「でも……まだ分からないことだらけですね」
海未の言う通りまだ分からないことはある。犯人がペルソナ能力を持っていたとしても、どのようにしてテレビの引き込むターゲットを選んだのか、どうやってテレビの中からターゲットを眠らせてかつテレビの世界に引き込んだのか。その方法は未だ皆目見当もつかない。
「とりあえず、矢澤を家に帰そう。今は矢澤を休ませることが先決だ」
あの世界にメガネ無しで過ごしたにこの身体は疲労でいっぱいのはずである。その状態のまま家に帰すのは危険だと思ったので家まで送ろうと思ったのだが
「…別にいいわよ。一人で帰れるから」
その提案はにこに一蹴された。
「でも…」
「良いったらいいの!私はアンタたちに心配されるほどヤワじゃないわよ」
そう言いながら屋上の扉に向かうが、足取りはかなり不安定だった。心配なので手を貸そうとすると、にこは悠たちの方を振り向いてこう言った。
「それとアンタたち、明日話があるから私の部室に来なさい」
「「「「は?」」」」
「分かったわね?それじゃあ」
そう言い残してにこはクールに去っていったが、その数秒後にドアの向こうから人が階段から転げ落ちる音が聞こえたのは言うまでもない。
~翌日~
<放課後 音乃木坂学院 アイドル研究部室>
「いらっしゃい。待ってたわ」
にこ救出から翌日。悠たちはにこに言われた通りアイドル研究部にやってきた。部室に入った瞬間、初めて部室に入った穂乃果たちは、部室の光景を見て驚嘆した。
「すご~い!鳴上先輩の言う通り、部屋全体がアイドル一色だ~」
「このポスターは『A-RISE』?……それだけじゃなくて、全国のスクールアイドルのポスターがこんなに……」
「校内にこんなところがあったんですね……」
まあ自分も初めてここを訪れた時もびっくりしたので、この反応は当然だろうと悠は思った。部屋の主であるにこは穂乃果たちの反応に満足したのかドヤ顔で椅子に踏ん反り替えっている。
「こ…これは……まさか……」
すると、花陽はアイドルオタクの血が騒いでいるのか、手に何かのDVDボックスを持って体をワナワナと震わしていた。
「ふっ、アンタ中々良い目をしてるじゃない。その価値に気づくなんて」
「あれ?花陽ちゃん、このDVDってそんなにすごいものなの?」
「な、何を言ってるんですか!穂乃果さん!!これは『伝説のアイドル列伝………」
花陽は穂乃果どころか近くにいた真姫や凛、海未を巻き込んでそのDVDについて解説し始めた。悠は花陽がアイドルの話になると、話が長くなることは知っているので一旦花陽たちから離れた。すると、ことりが隅にある棚を見上げて呆然としている姿が見えた。
「ことり?どうしたんだ?」
「え……いや……」
見ると、ことりの目線の先に可愛らしいサインが書いてある色紙があった。それに気づいたのかこの部室の主であるにこが2人に解説を入れた。
「あら?兄と同じで目の付け所が良いわね、鳴上妹。それは秋葉のカリスマメイド『ミナリンスキー』さんのサインよ」
「ミナリンスキー?」
「そう。秋葉のメイド喫茶に突如舞い降りた天使だって噂よ。最もネットで手に入れたから本人の姿を見てないけど」
正体不明のカリスマメイド『ミナリンスキー』。悠はメイド喫茶などというものに興味はなかったが、にこの話を聞いて興味が湧いたのか少し行ってみたいと思った。しかし、それを察したことりがすごい剣幕で悠に迫ってきた。
「お兄ちゃん!メイド喫茶なんてぜーったいに行ったらダメだからね!!」
「こ、ことり?」
「どうしたのよ、鳴上妹?」
ことりの突然の剣幕に悠のみならず、近くに居たにこやアイドル知識を披露していた花陽たちも驚嘆していた。
「お兄ちゃんがメイド喫茶なんて行ったら悪い虫……じゃなくて女の子がいっぱい寄ってきそうだからダメ!絶対ダメ!!分かった!?」
「あ、ああ……」
「どんだけブラコンなのよ、この子は……」
何故か麻薬防止のキャッチフレーズみたいになっているが、とりあえず首を縦に振っておいた。しかし、普段悠に女の話が出ると静かに黒化して怒ることりがこんな剣幕で叱責するとは珍しい。
「ことり……もしかして、その『ミナリンスキー』っていう人を知ってるのか?」
「え!?…………いや、知らないけどすごい人だな~って思って……。それにそんな人に会ったら、お兄ちゃんが………」
「??」
どういうわけか歯切れが悪い。だが、悠にはことりが嘘をついているということは分かった。別に悠はどこぞの弁護士のように相手が嘘をつくと反応する腕輪やノイズが聞こえる耳を持っているわけではない。悠はことりが『知らない』と言った瞬間、ことりの左手が震えているの見抜いたのだ。これはことりが小さい時から嘘をついたときに見せる仕草だったので一発で分かった。
しかし、わざわざこの場で可愛い従妹の秘密を暴くのは、気が引けたのでやめておくことにした。とりあえず、今はにこの話を聞くことにしよう。
「それで、話って……何ですか?」
海未がおずおずと尋ねると、にこは神妙な顔で悠たちに問うてきた。
「アンタたち、これからもスクールアイドルをやりながら犯人を追うんでしょ?」
それは当たり前だと、穂乃果たちは首を縦に振った。
「なら…私も協力するわ。アンタたちの犯人探しとスクールアイドルに」
「ほ、本当ですか!!」
穂乃果はその言葉が余程嬉しかったのか、目をキラキラとさせた。
「どこの誰か知らないけど、勝手に私をあの世界に引き込んで、家族を泣かせた罪は重いわ。絶対に一発殴って罪を償わせなきゃ気が済まないのよ」
「いや…殴るのはどうかと思いますけど……」
海未がにこの過激な発言に冷静にツッコむ。
「でも……正直不安なのよ」
さっきとは一変して、にこは少し暗い表情になってそんなことを言ってきた。何故なのかと聞くと、にこはそのままの表情でこう返す。
「鳴上の言う通り、アンタたちがスクールアイドルに本気で取り組んでいるのは分かってる。でも、私がまた自分の理想を押し付けて……あいつらと同じことにならないのかなって……」
どうやらまだ2年前のことは引っかかっているらしい。いくらあの自分の影と向き合えたとはいえ、簡単にあの過去は割り切れないようだ。どんな過去でも、月や太陽のように逃れられないとマーガレットも言っていた。何とか出来ないもんかと考えていると、
「大丈夫だよ!にこ先輩!!」
「え?」
話を聞いた穂乃果が勢いよく立ち上がって、にこの目を真っすぐ見てこう言った。
「私はにこ先輩に何があったかは分からない。でも、今まで私たちに解散しなさいって言ってきたのって、にこ先輩がスクールアイドルに対して真剣に考えていたからでしょ?」
にこは穂乃果の言葉を聞いて呆然としてしまった。まさか悠にではなく穂乃果にこんなことを言われるとは思わなかったのだろう。そして穂乃果は太陽のような笑顔を向けて、にこの心に響く言弾を撃った。
「そんなにこ先輩なら私はついていけるよ。だって、にこ先輩は一番スクールアイドルのことを本気で考えてくれているし、ちょっと怖いところもあるけど信用できるから!」
その言葉を聞いた瞬間、にこの今まで自分が作ってきた壁が打ち抜かれたような感覚に陥った。それほど、穂乃果の言葉が心に響いたのだろう。すると、他のメンバーたちもにこに向かって各々の言葉をかけ始めた。
「私も穂乃果に同意です。にこ先輩の指導なら参考になりますし、私も大歓迎です」
「ことりも!」
「わ、私も!にこ先輩について行きたいですし、アイドルの話もしたいです!!」
「にこ先輩なら信用できるにゃ!」
「過去に何があったかは関係ないとは言い切れないけど……鳴上さんや穂乃果さんが言うならね」
海未たちの言葉を聞き終えたにこは、自分の胸が熱くなるのを感じた。こんな自分を穂乃果たちは受け入れてくれている。そんな風に思えたからだ。
「そういえば、矢澤にはこれをあげないとな」
悠はそう言うと懐からクマ特製メガネを取り出して、にこに渡した。
「これは…鳴上たちがあっちの世界で掛けてたメガネ?」
「ああ、俺たちの
「え?」
そして悠はポケットから去年から愛用している黒縁のメガネをにこに見せる。それに習って、穂乃果たちも自分たちのメガネをにこに見せた。にこは少し驚いたが、悠たちに仲間と認められて嬉しかったのか目に少し涙が浮かんだ。
「仲間……うん!」
にこはようやく自分が欲しかったものと出会えたと言わんばかりに悠が渡してくれたメガネをぎゅっと握りしめた。そしてメガネを掛けて、改めて悠たちに顔を向ける。
「アンタたち!スクールアイドルを名乗るからには私は手加減しないわよ!覚悟は良いわね!」
そう言ったにこは勝気な笑顔を浮かべていた。それにつられて悠や穂乃果たちも笑顔でにこに改めて挨拶をする。
「ああ、臨むところだ。こちらこそよろしくな」
「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
こうして、悠たち【μ`s】に『矢澤にこ』という新たなメンバーが加わった。彼女のアイドルに対する情熱や信念はこれからも穂乃果たちに良い影響を与えるだろうし、その腕っぷしは事件解決の手助けにもなるだろう。それに、にこが仲間になるということはこの部室を悠たちも使えるということなので、当初問題になっていた練習場所のことも解消できた。
「じゃあ、早速みんなには私のにっこにっこにーを」
ガラッ
「にこっち~、ちょっと話があるんやけど……」
にこが何かを言いかけた時、生徒会副会長の希が笑顔で部室に入ってきた。しかし、その笑顔の瞳のハイライトは消えているので恐怖しか感じない。さっきまでの良い雰囲気が台無しである。
「と、東條……」
「あらっ、鳴上くん♪それに高坂さんたちまで。安心してええよ、用があるのはにこっちだけやから」
そう言われても、目が笑ってないままなので反応に困る。
「な…何よ、希。目が怖いわよ………」
「ここ昼休みに提出した部活申請の書類なんやけど、不備があったから再提出な」
「ハア!?不備~?どこがよ!」
「というか矢澤、もう部活申請の書類を出してたのか?」
悠はにこが既に部活申請の書類を生徒会に提出していたことにツッコミを入れた。性格上にこがそんな面倒なことをするとは思えなかったので、逆に疑いたくなる。
「そうよ。どうせアンタたちをこの部活に入れるつもりだったから、今日のうちに書類を書いておいたの。授業をサボってまでね」
「いや、授業サボったらダメでしょ。一応にこ先輩だって鳴上先輩と同じ受験生なんですから」
「うっさいわね!それで希?どこに不備があったっていうのよ」
海未のツッコミを一蹴して改めて希に問うと、希は持ってきた書類をにこにある場所を指さしながらにこに突きつけた。
「ここの部長名のところ、名前が『
「え?…」
「そして、この副部長のとこは『
その瞬間、部室の室温が一気に下がったような感覚に襲われた。悠は思わずブルッと震えながらも確認すると、その発生源は希だけでなくことりや海未、花陽と真姫からも発せられていた。
「あ…これは……その」
にこはしどろもどろに言い訳をしようとするが、もう手遅れであった。
「にこっち?これはウチに喧嘩売っとるということでええんやな?」
「に、にこ先輩!どういうことなんですか!?」
「勝手に鳴上性を名乗るなんて……それ将来のことりの名字なんだけど?」
「……ちゃんと説明してくれますよね?にこ先輩?」
「いくら先輩でも、こればっかりは…ね……」
目の笑ってない海未たちがにこに詰め寄ってくる。その光景はさながらホラー映画のようだった。あまりの恐怖に、にこは思わず顔が真っ青になっていく。
「ちょっ、落ち着きなさい!どうして……な、鳴上!助け」
何とか希たちから逃れようと悠に助けを乞うが、当の本人は…
「高坂、凛、今からちょっと外に行くか」
「あ!良いね!ちょうど喉が渇いてたんだ~」
「凛もちょうど行きたいところだったにゃ!」
バタンッ
悠は巻き込まれるのを避けるため、穂乃果と凛を連れて部室から出ていった。それを見たにこは、見捨てられた屈辱から思わず叫んでしまった。
「な………鳴上イィィ!覚えときなさいよ~~~~~~~~~!」
その後、アイドル研究部室からにこの断末魔が聞こえたのは別の話。
<屋上>
「ふう…平和だなぁ」
にこを置き去りにした悠は屋上でフェンスに寄りかかって空を見上げていた。穂乃果と凛は悠の分も買ってくると下で飲み物を選んでいる。今日の空は今まで雨だったのが嘘のように青空が広がっている。久しぶりに太陽をみているようで、心が穏やかになるのを感じる。それに来週はGWだ。陽介たちのお土産はどうしようかと考えていると……
ー……ざわ…だ……えろ
「!!!」
背後からそんな掠れた声と共に濃密な殺気を感じたので、悠は思わず振り返った。しかし、振り返ると先ほどの殺気は消えていた。そこにはただ遠くに高層ビルが立ち並ぶ景色が見えるだけだった。
「今のは……一体」
今のはなんだったのだろう。何か八十稲羽で夜間清掃のアルバイトをした時にも感じた、誰かにジッと見られているような感覚と似ていたような。
「……気のせいなのか?」
しかし、今のは気のせいでは片付けられないような気がする。そんなことを思っていると、
「鳴上先輩!お待たせ!」
「お待たせにゃ〜!」
ちょうど飲み物を抱えた穂乃果と凛が帰ってきた。悠は遅れて反応して穂乃果たちから飲み物を受け取った。
「あれ?鳴上先輩、何かあったの?」
「え……いや、何か視線を感じて」
「「??」」
その後しばらく穂乃果たちと他愛ないことで談笑したが、あの自分に向けられた殺気が何だったのかと、頭から離れなかった。
ーto be continuded
Next Chapter
「いらっしゃ~い♡鳴上さーん!」
「お金を稼ぐのは大変だな………」
「私も行く!」
「お疲れ様」
「何で鳴上君が家に来てるのよ~~!!」
Next #23「Part-time work panic.」