PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

先日感想欄で何某のアルカナは?という質問を受けましたが、今のところ悠が解放したアルカナで言うと以下の通りです。

穂乃果→【魔術師】
海未 →【女教皇】
ことり→【恋愛】
真姫 →【月】
凛  →【剛毅】
花陽 →【星】

また、まだ解放してなくて確定しているのは

にこ →【戦車】
希  →【女帝】
理事長→【法王】

他はまだ考え中です。もう決めているものもあるのですが、特に悩んでいるのは【隠者】ですかね……



そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進して行きますので、応援よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


#21「Niko meets her shadow.」

♫~♫♩~♩~

 

「ようこそ、ベルベットルームへ」

 

 聞き覚えのあるピアノのメロディと女性の声が聞こえたので目を覚ますと、案の定悠は空間にあるもの全てが群青色に染まったリムジンの車内を模した部屋【ベルベットルーム】にいた。今回はマーガレットがいつもの定位置に座っていおり、イゴールはいなかった。思ったのだが、去年はマーガレットとは反対に座っていたマリーはどうしたのだろうか?

 

「またあの世界に迷い人が入らしたようね。その迷い人はかなり己の過去に縛られているようだけど、心配はいらないでしょう。彼の地で多くの他者と深い絆を結ばれた貴方なら、きっとその迷い人を救えるはずだから」

 

 そう言うと、マーガレットはペルソナ全書を開いて語り掛ける。

 

「人は誰しも過去を背負っているもの。例え忘れていようとも、空に浮かぶ太陽や月のようにそれから逃れることはできません。それは貴方もよく分かっていることでしょう」

 

 そして、マーガレットはペルソナ全書を閉じてこちらに向いて微笑んでくる。

 

「貴方がどのように迷い人を救うのか、楽しみにしております。では、貴女がまたこの場所に入らす時まで…ご機嫌よう」

 

 そして視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

<放課後 音乃木坂学院?? 校門前>

 

「うわ~、すごいです~。このメガネを掛けると視界がクリアになるなんて」

 

「本当ね……どうやって作ったのかしら?」

 

「え~と、確か鳴上先輩が言ってたけど、クマって人が作ったんだって」

 

「「クマ?」」

 

 にこのマヨナカテレビが流れてから翌日、悠たちはマーガレットが用意したテレビであの世界に来ていた。いつもの校門付近にて、新たにメンバーに加わった花陽と真姫はクマ特製メガネの性能に驚いている。そんな2人の様子を見ていたことりが帰りのテレビの方を見て心配そうに呟いた。

 

「お兄ちゃん、まだかな?」

 

「余程大事な電話なのでしょう。おとなしく待っていましょう」

 

 悠はテレビに入る前に直斗から電話が掛かってきたので、今はここに居ない。長くなりそうな話だったので、悠は穂乃果たちに先にテレビの中に入るように言ったのだ。ことりは何の話なのかと気になってしょうがない様子である。すると、

 

「そう言えば、ことり先輩は何を持ってきたのかにゃ?」

 

 先ほどまで穂乃果としゃべっていた凛がことりが手に持っている箱を指さして聞いてきた。ことりは微笑みながら凛の質問に答えた。

 

「ああ、これは救急箱だよ。皆がケガしたら、これで手当てしようかなって思って」

 

 どうやら前回の花陽と真姫の救出の時、悠が負傷していたのを思いだしたのか家から救急箱を持って来たらしい。救急箱以外にも、役に立ちそうなものは鞄にしまってあるらしい。その心遣いに皆は感心した。

 

「へぇ~それは良いにゃ!ことり先輩は気が利くにゃ!」

 

「ううん、私は皆と違ってペルソナを持ってないから、これくらいはしないと…」

 

 ことりは申し訳なさそうに首を横に振る。どうやらまだ自身がペルソナを持っていなくて一緒に戦えないことを気にしているらしい。

 

「いえいえ、何もしない穂乃果に比べたらことりはいい仕事をしてますよ」

 

「ちょっ、海未ちゃん!それはひどいよ!!私だってちゃんと持ってきたよ!えーと……」

 

 穂乃果が海未にそう反論して、ポケットから何かを取り出そうとした拍子に大量のお菓子が飛び出してきた。ビスケットにマシュマロ、そしてキャンディー・ほむまんetc…。それを見た海未は目を細めて穂乃果に聞く。

 

「穂乃果?一応聞いておきますが、そのお菓子が何の役に立つのですか?」

 

「ううう………」

 

 穂乃果が何も反論できずに黙り込んでしまった。穂乃果とて皆のことを思ってお菓子を持ってきたのだが、海未の言う通り何の役に立つかは不明である。その時、

 

 

「皆、待たせたな」

 

 

 直斗との電話を終えたらしい悠がテレビの中からやってきた。すると、穂乃果が悠なら分かってくれると思ったのか、最後の望みとばかりに悠に向かって突進して、胸に抱き着いてきた。

 

「うえ~ん!鳴上せんぱーい!海未ちゃんがいじめてくるー!」

 

「ちょっと穂乃果!」

 

「お、おい」

 

 テレビに入って早々に穂乃果に抱き着かれたので悠も流石に慌てた。すると、その様子を見たことりと花陽が穂乃果に食って掛かる。

 

「穂乃果ちゃん!離れて!!そこはことりのポジションだって言ったでしょ!」

 

「早く離れてください!!」

 

 そうしてことり花陽が穂乃果を引き離そうとする。しかし、穂乃果も中々離れようとはせずに必死に悠にしがみつく。もう校舎に突入する前から状況がカオスになっていた。

 

「ハァ、この人たちダメかも………」

 

 真姫は暴れる穂乃果たちを傍観しながら、静かにそう呟いた。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 とりあえず、穂乃果のお菓子に関しては、おやつは300円までだという理由で悠が没収した。それに納得のいかなかった穂乃果をあやすのに時間がかかったが、一旦落ち着いたところで悠たちは探索を開始する。

 

 今回の救出対象はにこなので、彼女に関係するところがマヨナカテレビに映ったあの遊園地への入り口になるだろう。にこに関係しそうな場所と言えば一つしかない。

 

「ここだな」

 

 校舎一階にあるアイドル研究部の部室である。読み通り、前回の音楽室のように他とは違う雰囲気が漂っていた。

 

「行くぞ…」

 

 悠は皆にそう言って部室の扉を開け、中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<遊園地【ニコニーランド】>

 

 中に入ると、悠たちはあのマヨナカテレビに映った遊園地の入り口に立っていた。入り口の看板にデカデカと【ようこそ!ニコニ―ランドへ】と書かれてある。看板の周りには、にこをモチーフにしたらしいキャラクターが看板に描かれており、何か痛々しさしか感じられない。それでも、目の前に遊園地が広がっていることに穂乃果たちは大はしゃぎだった。

 

「うわあ、すご~い。本当の遊園地みたいだにゃ~!」

 

「そうだね~」

 

しかし、その中で真姫だけは反応が違った。

 

「何よこれ。遊園地だからって期待したけど、見てみればデスティニーランドのパクリじゃない」

 

「それ言っちゃだめだよ!真姫ちゃん!!」

 

 真姫の言う通り、このニコニ―ランドは悠たちの世界にあるデスティニーランドに似ているのだ。しかし、それを一々気にしては身が持たないのでそっとしておこう。それにしても、何事にも興味を示さない真姫がここまで気にするとは珍しい。余程デスティニーランドに思い入れがあるのだろう。一同はとりあえず遊園地の中に入ったのだが、そこで花陽がこんなことを言い出した。

 

「あの……私たち普通に入場できましたけど、お金とか大丈夫ですかね?後払いとかだったら、今日手持ちが少ないから不安なんですけど」

 

「心配するところはそこですか……」

 

 何というか色々と花陽は真面目過ぎる。ここはテレビの世界なのでそんなことは気にしなくていいだろう。そう思ったその時、

 

 

 

『にっこにっこに~!皆~やっと来てくれたねー!』

 

 

 

「「「「「!!」」」」」

 

 にこの声が聞こえたので全員それに反応して身構える。

 

『もう~そんなに慌てないでよ~。にこは今日みんなとこの遊園地で遊ぶことを楽しみにしてたんだよ』

 

 辺りを見渡すが、にこの姿は見当たらない。どうやら今の声はスピーカーか何かで話している声のようだ。

 

『でも~、にこはまだ皆と会う準備できてないから〜それまでこの子たちと遊んでてね』

 

 にこがそう言ったと同時に、悠たちの周りにシャドウたちが出現した。

 

「なっ!」

 

「い、いきなり!」

 

 入場して早々にシャドウに囲まれたので一同は動揺した。それに、まるでボロボロになったクマのぬいぐるみのような形をしたものや王様の恰好をしたものなど今まで見たことないシャドウまでいる。入場して早々いきなりシャドウに襲われる展開に皆が混乱していると、

 

「皆、落ち着け!」

 

 悠が皆を一喝して、我に返させた。そして悠は覚悟を決めてペルソナを召喚しようとすると、それは海未の声によって止められた。

 

「鳴上先輩、ここは私たちに任せてもらえませんか?」

 

「え?」

 

 突然の海未の申し出に悠は面を食らった。海未は真剣な表情のまま悠にその理由を説明する。

 

「この数のシャドウなら私たちでも対処できますし、まだ覚醒したばかりの花陽や真姫にここでペルソナに慣れさせる必要があるでしょう」

 

「いや…それはそうだが…」

 

「それに、もし矢澤先輩の影が暴走した場合は鳴上先輩のチカラが不可欠です。だから、この場は私たちに任せて、鳴上先輩はことりと穂乃果の守りに徹してください」

 

 要するに、この先にこのシャドウとの戦いを想定して、悠には体力を温存しておけということなのだろう。見ると海未の目はしっかりとした決意が宿っており、凛や花陽、真姫の方を見ても皆同じ目をしていた。後輩がそこまで言うのであれば仕方ないと思った悠は、海未たちにこの場は任せることにした。

 

「分かった。この場は任せる。思いっきりやってこい」

 

「「「「はい!」」」」

 

 悠がそう言うと、ペルソナを持っている海未・凛・花陽・真姫は気合が入ったような返事をして各々の戦場へと赴いた。悠は頼もしい後輩を静かに見守ることにした。

 

 

 

「行きます!ペルソナ!」

 

「ペルソにゃ!」

 

 海未は掌底で、凛は拳でタロットカードを砕き、戦闘を開始していた。海未はともかく凛は前回の戦いでやっとペルソナの扱いに慣れたようで、次々と襲い掛かるシャドウを蹴散らしていた。あの2人は問題なさそうだなと思い、次に目を向けるのは覚醒したばかりの花陽と真姫だった。

 

 

 

「………私も行くわよ!」

 

「わ、私だって……皆の為に…鳴上先輩のために頑張らなきゃ!」

 

 真姫と花陽は心を落ち着けてそう言うと、真姫は手刀を繰り出すような構えを取って【月】のアルカナのタロットカードを、花陽は【星】のタロットカードを両手で支えるように発現させた。

 

 

カッ!

 

「「ペルソナ!」」

 

 

 真姫は手刀で、花陽は両手を合わせてカードを砕く。それと同時に、2人の後ろから彼女たちのペルソナが姿を現した。最初に現れたのは真姫のペルソナ。

 

 華麗に靡く赤い長髪。

 炎をモチーフとした仮面。

 麗人としての雰囲気を漂わせる赤い貴族服。

 鋭い指を持つ黄金の手。

 

 これが真紀のペルソナ【メルポメネー】の姿。そして次に現れるのは花陽のペルソナ。

 

 背中に生えたエメラルド色に光る鳥の翼。

 おとぎ話の妖精を彷彿とさせる黄緑色のドレス。

 腰には凛とした雰囲気を引き立てるレイピア。

 

 これが花陽のペルソナ【クレイオー】の姿だった。

 

「やって!メルポメネー!!」

 

 真姫がそう指示すると、メルポメネーは腕を手前でクロスさせ、手に炎を発現させる。そして、その手に纏った炎をシャドウたちに目掛けて放った。放たれた炎は勢いよく燃え盛り、シャドウたちを蹂躙する。相当威力があったのかシャドウたちは悶え苦しんで、消滅した。しかし、その炎をかわしていた複数のシャドウが不意をついてメルポメネーに襲いかかる。

 

「お願い!クレイオー!!」

 

 花陽がそう言うと、クレイオーは自身の翼を大きく靡かせて、メルポメネーを襲おうとしたシャドウたちの周りに大風を発生させる。威力は台風並み。シャドウたちはクレイオーの風に吹き飛ばされ消滅した。その風に何とか耐え切ったシャドウが一体いたが、いつの間にか高速で移動したクレイオーにレイピアで突かれて倒されてしまう。危なげながらも、2人は何とかシャドウを撃退することに成功した。

 

「やるじゃない、花陽」

 

「真姫ちゃんこそすごかったよ。一気にあの数のシャドウを倒すなんて」

 

「こ、これくらい当然よ」

 

 真紀は花陽にそう言われてクールにそう言った。すると、その時…

 

「イザナギ!」

 

 悠のイザナギの雷が真姫のメルポメネーの後ろに落ちた。何事かと思い、真姫と花陽が振り返ると、そこにはメルポメネーとクレイオーに奇襲を仕掛けようとしたらしいシャドウたちが雷を食らって苦しみながら消滅する姿があった。

 

「目の前の敵を倒したからって警戒を怠るな。シャドウは神出鬼没だから、どこから攻撃してくるか分からないぞ」

 

 悠はすっかり油断していた真姫と花陽に向かって厳しい口調でそう言った。初めての戦闘だからということもあるだろうが、油断は禁物。ここは遊び場ではなく戦場だ。悠の言う通り、シャドウは神出鬼没なので油断したら寝首を掻かれるのだ。

 

「ご、ごめんなさい…鳴上さん」

 

「すみません……」

 

 厳しく怒る悠を見た真姫と花陽は申し訳なさそうに目を伏せて反省する。ちょっと厳しすぎたかと思ったが、これくらいは叱っとかないといけないだろう。しかし、叱った後にフォローを入れるのも重要である。

 

「でも、2人とも初めてにしてはかなり上出来だ。これからも期待しているぞ」

 

 これは世辞ではなく本当のことである。まだ初めての召喚なので拙いが、上達すればかなりの強者になるだろう。そもそも悠は人を褒めるときは本心しか言わないので、その心は人に届きやすい。

 

「「は、はい!!」」

 

 悠の心からのフォローのお陰で2人はよりやる気が出たみたいだ。やはり八十稲羽で培ったコミュニケーション能力は伊達ではない。辺りを見渡すと、シャドウの姿は見えなくなったので、どうやらここら辺りは掃討し終えたようだ。真姫たちとは違う方で戦闘を行っていた海未たちが合流してお互いを労い終えたと同時に、あの声が聞こえてきた。

 

『お待たせ~!』

 

 再びにこの影の声が聞こえてきたので、悠たちは思わず身構えた。

 

『それじゃあ、にこも準備できたところで始めるよ!【にこちゃんと一緒!?みんな大好きニコニ―ランド】ー!』

 

 そう言うと同時に盛大なファンファーレが流れて、同時にどこからか誰かの歓声が聞こえてきた。これは八十稲羽でもあったことだが、もしかしてここも外から誰かに見られているのだろうか?

 

『それじゃあ、みんな~。にこは今一番奥にある【ニコニ―キャッスル】の広場で待ってるから~そこに集まってきてね~。みんなが来るのを待ってるにこっ!』

 

 そう言うと同時にファンファーレが鳴り止み、辺りは静かになった。結局にこの影は姿を現さなかった。警戒を解くと、真姫が呆れたようににこの影に悪態をついた。

 

「ニコニ―キャッスルって……ますます痛々しいわね」

 

「それは言わないでおこうよ、真姫ちゃん…」

 

「でも、その広場に矢澤がいるのは確かだろう。大抵失踪者は一番奥の場所にいるからな」

 

 思い返せば、この世界でも八十稲羽でも、失踪者はその各々が作り出した世界の最深部にいることが多い。ならば、先ほどにこの影が言った一番奥にあるという城の広場に行けば、目標にたどり着けるだろう。

 

 悠たちはにこの影が言った指定場所に向かうため、その場を駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

another view (にこ)

 

 身体が重い。ここはどこ?何か霧っぽいのが辺りに充満しててよく見えないけど……

 確か私は噂を確かめようと思ってテレビを見つめたら、突然意識が遠くなって……。そんなことを思っていると、突然声が聞こえてきた。

 

 ーもうにこちゃんには付いて行けない!

 ー理想が高すぎるよ!

 

「え?…この声は……」

 

 忘れようもない。この声は2年前、あいつらが私の元を去る前に言い残した言葉だ。思い出すだけで足が震える。どうして今更……。そう思っていると、また別の声が聞こえてきた。

 

 ーあ、矢澤だ。

 ーあ~あの痛いって噂の?

 ースクールアイドルやってたけど、メンバーに飽きられたって人?

 

「な、何よ!誰が言ってるのよ!」

 

 今のは明らかに知らないやつの声だったけど、言っているのは私の悪口だ。どこの誰か知らないけど、本人の前で悪口だなんていい度胸じゃない!私が声を荒げたにも関わらず、悪口の声は止まらない。

 

 ー理想が高すぎたんじゃない?

 ーそもそもあんな小学生みたいな人がアイドル?

 ー子役の間違いじゃないの?

 ーそもそも高校生かどうかも怪しいぜ。

 

「な、何よ!アンタたち!!言いたいことがあるなら、ちゃんと正面から言いなさいよ!」

 

 そう叫んでも辺りには何も居ない。探そうにも、周りが霧に邪魔されてどこから声が聞こえてくるのか分からない。

 

 ーあんな性格だからいつも一人なんじゃないの?

 ーあ~、普段の行いからして幼稚だからな。

 ーいつも部室で一人だってよ。

 ー寂しくないのかね~。

 

「うるさい!アンタたちに何が分かるっていうのよ!私が始めたこの部活は私一人で終わらせたいだけよ!」

 

 そうだ。別に寂しくなんかない。あいつらが去っても私は一人でやるって決めたんだから。すると、聞き覚えのある声が突然聞こえてきた。

 

 

『クスクスッ、クスクスッ。また強がっちゃって~』

 

 

「だ、誰?」

 

 その声が聞こえてきた方を見ると、今度は人影が見えた。ようやく出てきたのね。人を散々からかった罰として一発殴らせてもらうわ。私はそう思って身構える。

 

『寂しくない?。嘘ばっかり~。本当は鳴上たちみたいに皆でいるのが羨ましいくせに~。自分だけで大丈夫?。それはアイドルになるっていう到底叶うはずのない夢に縛られてる自分への強がりじゃないの~?』

 

 その影はゆっくりと私に近づいて来る。しかし、現したその姿を見て私は絶句した。

 

「う、ウソ………」

 

『さっさとそんな無意味な夢なんて諦めて楽になったら?もう一人のワ・タ・シ?」

 

 その姿は他でもない。小学生の恰好をした私…『矢澤にこ』にそっくりだった。

 

 

another view (にこ) out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、悠たちは…………

 

「つ、疲れた~!!」

 

「もう……ダメにゃ」

 

「ううう………」

 

 目的の広場にたどり着く直前で穂乃果と凛、更には花陽までがグロッキー状態になっていた。表情からしてもう動きたくないと物語っている。倒れこむ穂乃果たちに向かって、その姿を見下ろしていた真姫が呆れた様子で呟いた。

 

「ハァ、たかが遊び疲れただけじゃない……」

 

 真姫の言う通り、穂乃果たちは数十分前まで広場に向かうことなどそっちのけで、グロッキーになるまでこの遊園地にあるアトラクションを楽しんでいたのだ。このダンジョンは遊園地というだけあって、ジェットコースターやコーヒーカップ、メリーゴーランドなどの様々なアトラクションが完備されていたのだ。

 

「だから止めましょうって言ったのに。言うことを聞かなかった貴方たちの自業自得です」

 

 元はと言えば、目的の広場に向かう途中に目に入ったアトラクションを見た穂乃果が、少しでいいからと言ったことが始まりだった。それに賛同した凛と花陽と一緒に少しと言いながらも辺りのアトラクションをまわりにまわっていた。3人が疲れているのは、先ほどコーヒーカップに乗って調子に乗ってカップを回し過ぎたことが原因である。

 

「しょうがないじゃん。遊園地なんて久しぶりなんだからさ。でも、真姫ちゃんだってメリーゴーランド乗ってたじゃん」

 

「なっ!そんな訳ないでしょ!」

 

「嘘にゃ!私たちが見えてないところで、メリーゴーランドの馬車に乗っていたの知ってるんだからね!」

 

 真姫は穂乃果と凛の指摘に顔を赤くして焦ってしまう。実際真姫も穂乃果たちに隠れてメリーゴーランドに乗っていたことは事実なので、否定は出来ない。このままでは収拾がつかないと思った海未は悠にフォローを求めることにした。

 

「鳴上先輩からも穂乃果たちに何か言ってください………」

 

 そう言って悠の方を振り向くと、そこにあった光景に海未は絶句してしまった。何故なら、

 

「くっ!逃げられた……今度こそヤツを」

 

「ねぇお兄ちゃん、早く観覧車に行こうよ~」

 

 ことりに観覧車行きをせがまれながら、近くにあった釣りを体験できるゲームで遊んでいたからだ。その姿を見た穂乃果は海未に茶々を入れようとしたが、それは阻まれた。何故なら、海未は悠たちの遊んでいる姿を見て、身体をワナワナと震わせながら、額に青筋を浮かべて悠たちを睨んでいるからだ。そんなことには気づかずに悠はまだ釣りゲームで遊ぼうとする。

 

「ちょっと待ってくれ、今度こそヤツを釣り上げて………あっ。ことり、100円くれ」

 

「お金いるんだ…」

 

 何かどこか見たことのあるやり取りである。悠がそう言った瞬間、ブチッと海未の堪忍袋の緒が切れてしまった。海未はずんずんと歩きながら2人の元に近づいていき、2人の肩をガシッと掴んでこう言った。

 

 

「鳴上先輩?どういうことか説明してもらえますか?」

 

 

 笑顔でそういう海未の姿に悠とことりは恐怖を感じざるをえなかった。

 

 

 

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 

 

 

<【ニコニ―キャッスル広場】>

 

「やっと……着いたな…」

 

 あの後、海未の説教を食らった悠たちは何とかにこの影が居るという広場にたどり着いた。とりあえず、さっきのことは忘れて辺りを警戒しながら広場に入ると、こんな光景が目に入った。

 

「ちょっと!アンタその恰好止めなさいよ!私が小学生に思われるじゃない!」

 

『何言ってるのよ?アンタは体型的に小学生じゃない』

 

「な、何よ〜〜〜〜〜〜!この!」

 

 2人のにこが取っ組み合っている姿が展開されていた。その光景を目のあたりにして、悠たちは思わず黙り込んでしまった。前に完二を助ける際にも、同じような光景を目にしたことがあるが、アレは目に毒だった。しかし、目の前にある光景は小学生同士が喧嘩しているようにしか見えないので、どうしたらいいのか分からない。

 

「あ、アンタたち!何でここに!」

 

 すると、にこは悠たちの気配に気づいたのかこちらを振り向いてフリーズしていた。

 

「いや~、何というか……その」

 

「助けに来た……」

 

「何よ!そのやる気のない返事は!!」

 

 覇気のない穂乃果と悠の返事が気に食わなかったのか、にこは盛大にツッコミを入れた。このやり取りは何かデジャヴを感じる。すると、

 

『スキあり!』

 

「ぐはっ!」

 

 にこの影が後ろからにこに飛び蹴りを食わらせて、にこをダウンさせた。自分が自分をダウンさせるという驚きの光景に目を奪われていると、にこの影が悠たちに向かってこう言った。

 

『も~!みんな遅い!にこはずっと待ってたんだよ!!にこを待たせたみんなにはオシオキだぞ☆』

 

 にこの影の言葉にその場にいる全員がハテナマークを頭に浮かべた。悠は一瞬これにもデジャヴを感じて嫌な予感がしたが、それは的中した。

 

 

「「「「「きゃあああ!」」」」」

 

 

 突然どこからか水しぶきが飛び出して悠たちに襲い掛かった。それは四方八方から降り注いだので避けられるはずもなかった。おかげで悠たちは全員ずぶ濡れになってしまった。

 

「ケホッケホッ!な、何今の…」

 

「さ、寒いです……」

 

 掛かったのは思いっきり冷水だったので体が冷えるのを感じる。このままでは風邪をひきそうだ。

 

「皆、大丈夫……か………」

 

 皆の無事を確認するために穂乃果たちの方を振り向いた悠なのだが、そこで思わずフリーズしてしまった。理由は簡単。ずぶ濡れになっているため、穂乃果たちの制服が濡れて、シャツから彼女たちの下着が透けて見えているのだ。しかも、水を掛けられたせいなのか、顔が赤くなっていて表情が扇情的に見える。ここに完二がいれば、間違いなく鼻血を出して倒れていることだろう。悠はそんなことにはならないが、健全な男子高校生にとってご褒美のような光景を目の前にして、することはただ一つ。

 

(な、何か録画できるものはないか!)

 

 今の穂乃果たちのあられもない姿を収められるものがないかとポケットを漁っていた。まぁ、この場に陽介がいたら同じようなことをしていただろう。ポケットを漁ってみると、尻ポケットから携帯電話を発見した。

 

(これだ!)

 

 悠はすかさず携帯を取り出してカメラを起動させようとしたが、悠の携帯は防水機能が付いていなかったのか故障していた。

 

(なん…だと……)

 

 理想郷(アガルタ)を目の前にしてこのアクシデント。悠はショックで思わず項垂れてしまった。すると、悠の項垂れる姿を見た凛が話しかけてきた。

 

「鳴上先輩?何をしているのかにゃ」

 

 凛の声に反応したのか、穂乃果たちも悠の姿に注目した。

 

「ふ、服が…」

 

「服?」

 

 穂乃果たちは改めて自分たちの今の恰好を見る。そして、自分たちの制服が透けているのを見た途端、反射的に腕で体を隠して赤面した。

 

「な、鳴上先輩のエッチ!!」

 

「先輩!見ないでください!」

 

「ハ……ハ……ハレンチです!!」

 

「最っ低!!」

 

 穂乃果と海未と真姫は、顔を真っ赤にしながら悠に罵声を浴びせた。年下に弱い悠にとって穂乃果たちの罵声は結構心にくる。まるで言葉の投げナイフだ。しかし、ことりは反応が思っていたのと違った。

 

「お、お兄ちゃん、ダメ!今日は勝負下着じゃないから……」

 

「ことりちゃん!何言ってるの!!」

 

「こ、ことりまで………ハレンチです!!」

 

「と、とりあえず落ち着け!」

 

 ことりの勝負下着というのは気になるが、もうパニック状態になっているので、その場を落ち着かせることに専念した。

 

 

 

「うう……何しに来たのよ…あいつらは………」

 

 悠たちが騒ぐ光景を目にして、立ち上がりながらにこはそう呟いた。すると、先ほど自分を殴ったにこの影がにこの方に近づいてこう言った。

 

『ねぇアンタ、自分を偽り続けるの疲れないの?』

 

「は?」

 

『もう無理するの辞めようよ~。自分を騙すのも、家族を騙すのも嫌じゃないの~?』

 

 唐突にそんなことを言われたので、にこは困惑した。

 

「な、何を言ってるのよ!私は自分を偽ってなんて」

 

『だってさ、アイドルどころかスクールアイドルもやってないのに、よくもまあ言えたものよね。自分は宇宙一のスーパーアイドルなんてさ~。これが嘘だって分かったら、こころ達はどう思うだろうね~?』

 

「!!」

 

 影がそう言うと、にこは何か思い出したかのように顔をしかめた。

 

「そ、それは……」

 

 すると、にこの影はさっきまでの子供っぽい可愛げのある声とは一変して、今までのシャドウ同様に冷たい声でにこにこう言った。

 

『叶うはずのない夢や理想を追い続けて何になるっていうのよ。アンタはそれで人を傷つけたことを忘れたの?』

 

「ど、どういうことよ……」

 

 

『2年前にあいつらが失踪したのってアンタのせいじゃない』

 

 

 その言葉を聞いた途端、にこは顔が徐々に真っ青になっていった。それに伴って体が震えて始める。にこの影はそんなことはお構いなしと言わんばかりに、鋭い言刃をにこに向ける。

 

「な……なにを…………」

 

『とぼけたって無駄よ。2年前にアンタがあいつらとスクールアイドルを結成して、僅かな時間で解散したこと忘れたの?それもアンタの叶うはずのない理想をあいつらに押し付けたせいでね』

 

 影の言葉が百発百中の投げナイフのように、にこの心に傷を与えていく。影の言葉のせいなのか、まるで思い出したくもないものを思い出したかのようで、にこの表情が苦しそうだ。

 

『そして…あいつらがアンタの下から去った次の日に失踪したことも覚えてる?アンタが高い理想を押し付けたせいで、耐えられなくなったあいつらはアンタがいる音乃木坂が嫌になったから転校したんだよ!』

 

 影がそう強く言うと、にこは糸が切れた人形のようにその場にへたり込んでしまった。しかし、にこの影は容赦なしに攻撃を言刃による攻撃を続ける。

 

『まあ、今のアンタはただのストーカーだけどね。鳴上たちが上手く行ってるようだからって跡を付けまわしたり、先輩面して解散しろって言ったりさ。それって鳴上たちが自分の夢を先に叶えそうだったから妬ましかったんだよね?』

 

 もう自分の影から何を言われても、にこは何も反応せずに俯いているだけだった。顔は前髪で隠れているので、どんな表情をしているのか分からない。

 

『本当は分かってるんでしょ?自分がどれだけ鳴上たちを僻んだって、あの2人を転校させた過去は消せないし、そんな自分にアイドルなんて向いてないって』

 

すると、にこの影はにこの肩を掴んで諭すように言った。

 

『だから、もう夢を諦めて楽になったら?。ここはアンタの本当に望んでいる一人で楽になれる世界なんだからさ』

 

 にこはそう言われても、しばらくその場で俯いたままであったが、突然にこの影の手を振り払った。

 

「………よ」

 

『は?』

 

「何よ!さっきから勝手なことばっかり!!私は寂しくなんかないし、こころ達に嘘なんてついてない!!鳴上たちのことなんてどうだっていいじゃない!アンタが私の何を知ってるっていうのよ!」

 

 にこは先ほど言われたことが納得いかなかったのか、烈火の如く怒鳴り散らした。しかし、影は臆することなく平然とこう返す。

 

『ハァ?今さら何言ってるのよ。簡単なことじゃない。それは私はアンタでアンタは私だからよ』

 

「アンタが…私?」

 

『ようやく分かった?分かったらさっさと…』

 

「………違う…違う違う違う!!…………アンタなんか……」

 

 にこは声を震わせながらも全力で影の言葉を否定する。もう次の言葉がどんなものかは容易に想像できた。悠はその禁句は言わせまいと大声でにこに呼びかけた。

 

「よせ!それ以上言うな!」

 

「ダメー!!」

 

 しかし、それはフラグであった。

 

 

 

 

 

 

 

「アンタなんか……私じゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うぷ……うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ………………あーっはっはっはっはっは!違わない!私はアンタ、アンタは私ーーーーー!』

 

 にこの影はそう高笑いすると、今までの影と同じように禍々しいオーラに包まれていった。そして、その包むオーラの大きさはどんどん大きくなっていき、やがてそれが晴れていく。そこには二体のSPを模したようなシャドウと、それらに守られるように玉座に居座っているSPより一回りでかいピンク色のドレスを纏った女王の姿があった。それが暴走したにこのシャドウである。

 

 

我は影…真なる我………まだ幻想にすぎない夢を追い続けるって言うなら、ここで死なせてあげる。それが…アンタの為だからね

 

 

 変貌を遂げたにこのシャドウが手を上げると、にこのシャドウの傍らに居たSPのシャドウたちがにこに襲い掛かってきた。にこはあまりの無力感に心を飲まれてしまい、助からないと思ったのか目を閉じてしまう、すると、

 

「イザナギ!」

 

 悠はすかさずカードを砕いて【イザナギ】を召喚し、攻撃が当たる前に眼前のにこを抱えさせて救出した。見ると、今SPたちが攻撃したところには大きな窪みが出来ている。相当な腕力を持っているシャドウのようだ。悠はそんなことを思いながら、にこを自分たちの方へ引き寄せることに成功した。しかし、にこは自分を助けた【イザナギ】という得体の知れないもの、何よりそれを使役する悠の姿に驚きを隠せなかった。

 

「な、鳴上……アンタ一体…」

 

「話は後だ」

 

 状況を把握し切れていないにこを穂乃果とことりに任せて、悠は海未たちとにこのシャドウと対峙する。見ると、にこを救出されたのが気に食わなかったのか、にこの影は悠たちを憎々し気に見据えていた。

 

鳴上ィ……良いわ、元々アンタたちのことは目障りだったのよ。そいつ共々、ここでくたばってもらうわ!

 

 にこのシャドウが冷たい声で警告するが、悠たちはそれでは屈しない。そっちがその気なら、こっちも全力で行くだけだ。

 

「行くぞ!皆!!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 悠の言葉と同時に、各々がタロットカードを発現させる。たった一人の少女を救うため、皆は己の武器の名を敵に向かって叫んだ。

 

 

「「「「「ペルソナ!!」」」」」

 

 

 

ーto be continuded




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「なにこれ!」

「このままじゃ……」

「貴方の趣味は何だったかしら?」

「俺はお前の夢を笑わない」

「す、すごい……」


「覚えておきなさい。私は………」


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