PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
執筆中に様々なペルソナシリーズの楽曲を聞いて聞いているのですが、最近P4Dのエンディングの『カリステギア』にはまっています。最初聞いた時は気にも留めなかったのですが、改めて聞くと良い曲でした。いずれP4Dのストーリーも組み込みたいなぁと思っているので、上手く穂乃果たちと繋げられたらなと思ってます。その前にGW編やにこ編、絵里編、希編など盛り沢山ですが頑張ります。
そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。
これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進して行きますので、応援よろしくお願いします。
それでは、本編をどうぞ!
<鳴上宅>
「……お兄ちゃん?」
「はい…」
にこの家を訪問してから翌日。朝から悠の部屋はまるで冬が再来したのではないかと思えるくらい冷たい空気に支配されていた。もちろん発生源は正座している悠の目の前で、おたまを片手に持って無機質な笑みを浮かべていることりである。今朝目覚めると、目の前にことりが冷たい笑みを浮かべて部屋に侵入していたので、あまりの怖さに咄嗟にダイビング土下座をかまして、今に至るわけだ。
「確認するけど、お兄ちゃんはロリコンなのかな?」
「…………」
おそらく昨日にこと一緒にいたからそんなことを聞いてきたのだろうが、ヒドイ偏見である。普通に違うと言えば済むはずだが、今のことりは目が据わっているのでそれだけでは納得しないだろう。ここは慎重に言葉を選ばなくてはならない……
「な、何を言ってるんだ?俺はロリコンじゃなくて、フェミニストだ」
「大抵ロリコンの人はそう言うんだよね?」
どうやら言葉を間違えたようだ。その証拠に部屋の空気が更に冷たくなったような気がする。こうなったら言弾でも嘘弾でもいい。とにかく打ちまくって、ことりの心に訴えるしかない。
「ち、違うんだ!昨日は偶々矢澤に付き合わされただけで、別にことりが想像していることは何もしてないぞ。俺がそんなことするわけ…」
「………………………………………」
必死に言い訳はしてみるが、ことりは表情を崩さずどんどん部屋の空気が冷たくなるばかりで状況は全く改変されていない。全部無駄撃ちだったようだ。
「………………………………………」
ことりの長い沈黙は心臓に悪い。もうお仕置きでも何でもいいから早く何か言ってほしい。そう思ったとき、ことりがこんなことを言ってきた。
「………お兄ちゃんはさ、ことりの気持ちを考えたことある?」
「え?」
そう言うと、ことりは目を伏せて俯きだした。悠はどういうことなのか分からずに混乱していると、
「本当は分かってるんだよ。お兄ちゃんは優しいから、色んな人のところに行っちゃうって。それはお兄ちゃんの良いところだし、ことりも仕方ないっては思うけど…………でも、ことりは寂しいよ……お兄ちゃんが他の女の人と仲良く話したり、お出かけしたりすると……胸が痛くなるくらい寂しいよ…」
そう語ることりの表情はとても辛そうであった。予想外のことりの独白に悠は戸惑ってしまった。
「ことり…」
「あ、ごめんね…朝からこんなこと言っちゃって…でも、平気だよ。ことりは大丈夫だから。朝からお兄ちゃんに迷惑かけてごめんね」
ことりは先ほどの表情とは違って眩しい笑顔を悠に向けるが、顔が少し強張っているので無理して作っているのが分かる。その姿が以前の菜々子と重なって見えたのか、そんなことりを見た悠は、正座を崩してことりを抱きしめた。
「え?…お兄ちゃん?」
突然の悠の行動にことりは訳が分からず、手に持っていたおたまを床に落として呆然としてしまう。
「ごめんな…ことり。俺はことりがそう思っていることに気づけなかった……」
「お、お兄ちゃん…離してよ。恥ずかしいから」
ことりは恥ずかしいのか慌てて悠の拘束から逃れようとする。いつもは自らスキンシップを仕掛けることりだが、自分が受け手になるのは耐性がないようだ。ことりのそんな姿が愛おしいと思ったのか、悠は決してことりを離そうとはしなかった。
「妹が寂しい思いをしているのに、それに気づけないなんて、俺は兄失格だ。だから、そのお詫びになるかは分からないけど、今はこうして甘えていい」
悠のその言葉を聞いた途端、ことりはピタリと動きを止めた。そして……
「ズルい…こんな時だけ優しくして………ますます好きになっちゃうよ…………スゥ…スゥ……」
悠には聞こえない小声でそんなことを呟き、悠の胸の中に顔を埋めて眠ってしまった。おそらく、早起きしてこちらに来たので疲れたのだろう。しばらくそっとしておこうと思い、悠はことりが目覚めるまでその態勢を維持し続けた。
「お兄ちゃん、今日の朝ごはんは…どうかな?」
自室での甘い時間を終えて朝食を取っていると、今日の朝ごはんを調理したことりがおずおずと感想を聞いてきた。
「うん、前より上手くなったな。味噌汁も良い味が出てるし、卵焼きも中々だ」
「本当!!良かった~!」
まだ悠の腕には届いてないものの、この前のモノに比べたら随分良くなっている。
「やっぱり料理本のおかげだね」
聞けば休みの日に辰巳ポートアイランドで、ふらっと訪れた古本屋にとても参考になる料理本を見つけたらしく、それを使って勉強したらしい。それを聞いた悠は改めて料理本の有難さを再認識した。是非とも八十稲羽の必殺料理人達も、この健気な従妹を見習ってほしいものである。
「それでね、そこの古本屋のお爺さんがとても面白い人でね」
どうやらことりはそこの古本屋がとても気にったようだ。ことりがこんなにも絶賛するのだから、自分も今度そこに行ってみようと悠は思った。
さて、ことりとそんな楽しい会話をしながら朝食を平らげて学校に行く準備をしようと自室に入ったと同時に、悠の携帯の着メロが鳴り響いた。画面を開いてみると『矢澤にこ』の名前が表示されている。こんな朝から放課後の予定でも伝えようというのだろうかと思いながら、通話ボタンを押すと……
『あ、あの!こちらは悠お兄様の携帯であってますか!』
にこの声ではなく、妹のこころの声が聞こえてきた。
「そ、そうだが…こころ、どうしたんだ?」
『悠お兄様!た、大変です!お姉さまが…どこにもいないんです!』
「え?」
こころのその言葉を聞いた瞬間、頭の思考がフリーズして思わず携帯を落としそうになった。一体どういうことだろうか?
(まさか……)
一瞬嫌な予感が頭をかすめたが、まずは状況確認が先だと思ってこころにこう返した。
「こころ、今家にいるのか?」
『え?……はい』
今の時刻は午前7時。ちょうど小学生や幼稚園児が起きても良い時間だ。
「今から俺がそっちに行くから、待ってろ」
『え?…え?悠お兄様?』
悠はこころの返事も待たずに電話を切り、急いで身支度を済ませて玄関に躍り出た。すると、ことりが珍しく焦っている悠に驚きながらも声をかけてみた。
「お、お兄ちゃん?どうしたの?そんなに慌てて………それに」
「ことり、大変だ!また事件が起きたかもしれない」
「え?」
『事件』という単語を聞いた途端、ことりは体が震えるのを感じた。最初は冗談かとことりは思ったが、悠の真剣に思い詰めている顔を見て、冗談ではないことを察した。
「俺は今からそいつの家に行ってくるから、高坂たちに放課後屋上に集合って伝えてくれ!じゃっ!」
「あ!おにい」
ことりの制止の声も聞かず悠は颯爽と外に出てしまった。
「お兄ちゃん…制服が違ってたんだけどな……」
ことりの言う通り、慌てていたせいか悠が今着ている制服は音乃木坂学院のモノではなく、去年通っていた八十神高校の制服だった。にこが失踪したと聞いて、八十稲羽で身に着いた捜査魂に火が付いたのか、思わずクローゼットにしまってあった八十神高校の学ランに手が行ってしまったらしい。ことりはそのことをメールで伝えようとしたが、
「でも…学ランのお兄ちゃん…ブレザーよりかっこよかったな。まるで番長って感じで……」
悠の学ラン姿に見惚れてしまったのか、ことりは思わず頬を朱色に染めてしまった。
「メガネを掛けたら…もっとカッコ良いかも………キャッ」
ことりはこうして自身の妄想の世界に入ってしまい、海未からの電話に気づくまでずっとトリップしていたのであった。
<矢澤家>
「悠お兄様!」
矢澤家に着くとこころが出迎えてくれた。こころは姉が失踪したことにかなり焦っていたが、とりあえず落ち着かせて状況を聞きだした。
話によれば、こころは今日は珍しく朝早く起きてトイレに行こうとしたところ、にこの部屋が開けっ放しになっていることを発見した。不審に思って部屋に入ってみると、そこにいつも居るにこの姿はなく、学校の荷物もそのままになっていた。まさかと思い玄関の方に行くと、にこのいつも履いている靴がそのままになっていて更に不安になったという。どうしていいか分からず、思わず悠のことを思い出し、にこの携帯を使って連絡を取ったということらしい。
「……なるほどな」
話を聞いた悠はまた事件が起きたのだと確信した。まだ明らかになっていないことは多いが、前回花陽と真姫が失踪した時と状況が同じである。昨日はあまりに疲れていたので、マヨナカテレビをチェックするのを忘れていたことに今更ながら気づいた。
(まさか昨日映ったマヨナカテレビに矢澤が映っていたのか……くそっ!)
昨日寝込んでいた自分が恨めしい。あの時我慢してマヨナカテレビのチェックを怠っていなかったら事件を未然に防ぐことが可能だったかもしれないのに。今は自分を責めることよりも、今の状況をどうするかが先である。一番の問題は……
「どうしましょう……お姉さまが居ないと私、家事も料理もあまり出来ませんし……ここあや虎太郎をしっかり面倒を観なきゃならないのに…………」
そう、にこがいないこの状況ではこころが家のことをしなければならないだろう。しかし、しっかりしてそうとは言え、こころはまだ小学生だ。一人で姉弟の世話をしたり家事をしたりするには負担が大きすぎる。
「お母さんやお父さんは?」
「…お母様はお仕事の出張で遠くに行ってまして、お父様は……」
「…ごめん、言わなくていい」
「は、はい…」
こころの口ぶりからして大体の事情は察してしまった。それに事情は違うとは言え、この姉弟が八十稲羽に訪れる前の自分と重なって見えて、悠はほっとけないと思った。こうなれば自分ができることはただ一つ。こころ達に嘘をつくことになるが仕方ない。
「こころ、実はな……お姉ちゃんは今遠くに取材に行ってるんだ」
「え?…」
悠の言葉をを聞いて、こころは目を見開いて驚いた。
「昨日俺のところに連絡があってな、取材が急に入ったらしくて…心苦しいけど、代わりにこころ達の面倒を見てほしいって」
正直その場で思いついた作り話なので信じてもらえるか不安だったが、こころは悠の言葉に頷いているので一応信じてもらえているようだ。しかし、
「でも、例えお姉さまのマネージャーさんでも、家のことで迷惑をかける訳には…」
「遠慮するな。これはお姉ちゃんから頼まれたことだし、俺もこころたちのことが心配だからな」
こころは不承不承といった感じだったが、最終的に悠の申し出を受け入れた。
とりあえず時間も時間なので、ここあと虎太郎を起こすのをこころに任せて、矢澤家の冷蔵庫にあるもので簡単な朝食を作らせてもらうことにした。すると、こころに起こされたここあと虎太郎がリビングにやってきたところだった。2人とも台所にいるのが、にこではなく悠がいることに少し驚いていた。
「あれ?悠兄が居る。お姉ちゃんは?」
「なんで~」
「ああ、2人ともおはよう。実はな…」
ここあと虎太郎にもこころと同じ説明をした。2人とも何の疑問も持たずに悠の説明を受け入れたが、悠は内心心苦しかった。まだ小さい子供に嘘をつくのは結構辛いものだが、状況が状況なので仕方がないと思うしかない。
朝食を食べ終わった後、そろそろ学校が始まる時間なので、こころ達を見送ろうとすると、こころが心苦しそうに尋ねてきた。
「悠お兄様、本当に良いのですか?お兄様だって学校があるはずなのに……」
「大丈夫だ。学校には遅れるって連絡は入れているから」
こころを見送った後は、朝食に使った食器の皿洗いや洗濯、掃除などの家事をするつもりなので確実に学校に遅刻する。連絡を入れた雛乃には随分と怪しまれたが、何とか誤魔化しきれた。バレたら確実に絞られるだろうが、今は自分のことよりも目の前の幼い少女たちのことが大事である。
「そうなのですか……悠お兄様、本当にありがとうございます。私たちのために」
「気にするな。それより早く学校行かないと遅刻するぞ。ここあや虎太郎も待ってる」
「はい。じゃあ、悠お兄様…いってきます!」
「悠兄~、いってきま~す!」
「いってきます」
「いってらっしゃい」
こころ達は悠に元気よくそう言って、学校に向かっていった。悠はこころ達を見送ってから家事に取り掛かる。あの少女たちを見て思ったことはただ一つ…
(絶対に矢澤を助けてやる…何が何でも)
悠は心の中で誓って、家事を順調にこなしていった。
<音乃木坂学院>
一通り矢澤家の家事が終わると、悠は急いで学校に向かった。幸い家事は早く済んだので、2時限目の授業は間に合いそうだったのだが…………
「鳴上…何故学ランなんだ?」
「え?」
昇降口に入った瞬間、すれ違った知り合いの教師にそう指摘された。悠は今自分が着ているのが八十神高校の学ランだということに気づいたのだ。これはマズイと思ったその時……
「悠くん?それはどういうことかしら?」
偶然通りかかった雛乃にその姿を目撃されてしまった。すれ違った教師は雛乃のあまり見ない怖さに恐怖してその場から急いで退散した。悠も逃げようとしたが、雛乃の笑顔なのに瞳が全く笑っていない表情に圧倒され、足がすくんで動けない。
「ふふふ、朝から遅刻はするし、制服も八十神高校のモノと間違えるなんて……悠くんも随分大きくなったわね~。私や音乃木坂学院に対して反抗したくなったのかしら?」
「いや…それは………」
悠は必死に言い訳をしようにも、恐怖のあまりに言葉がうまく紡げない。打つ手なしと思った悠は撤退しようとしたが、雛乃に背を向けた瞬間、既に制服の襟を掴まれていた。
「悠くん?理事長室にいらっしゃい……」
その後、悠は雛乃の理事長室に連行され、一時間以上説教されました。雛乃の説教を受けた後の悠が憔悴しきった顔になって、クラスメイトから結構心配されたのは言うまでもない。
<昼休み 屋上>
「はぁ……」
朝から色んなことがあった悠は、屋上のアスファルトの上に寝っ転がっていた。何か疲れてここから動きたくない気分である。今回制服を間違えたことに関して、雛乃は笑って許してくれたが、今後二度とないようにと厳重注意された。ちなみに八校の学ランは雛乃に預けている。まぁ全て自業自得な訳だが、それもこれも全てにこを誘拐した犯人が悪いのだ。
(それよりも、今日弁当作ってないからどうしようか………)
空を見ながらそんなことを思っていると誰かが近づいて来るのを感じた。
「そんなところで寝とったら風邪引くで、鳴上くん」
聞き覚えのある関西弁が聞こえてきたので顔を上げてみると、案の定にこにことした笑顔をしている希の顔があった。
「東條か……何の用だ?」
「ひどいな~折角約束通り弁当持って来たって言うのに」
「え?」
見ると、希の手には二つの弁当袋があった。それを見て、悠は昨日生徒会である情報を教えてくれたお礼に希とお昼を食べる約束をしていたことを思い出した。昨日は色々あったせいかすっかり忘れていた。
「…ごめん。忘れてた」
「ええよ、鳴上くん今日は朝から大変やったやろ?何かあったか知らんけど、学校に遅刻したり、制服間違えて理事長先生に怒られたりしてな」
そう言われてはぐうの音もない。それに、昨日あんなに自分とにこを追いかけまわしたのに、それに関して話題を振らないのが不思議である。とりあえず、悠は希から弁当を受け取って一緒に食べることにした。弁当箱の蓋を開けると、白米に色とりどりのおかずといったド定番の弁当の姿があった。
「これは美味しそうだな……」
一応希の料理の腕は知っているので期待はできる。悠は箸を取って、おかずの一つであるハンバーグを口に入れる。悠は気づいていないが、希は悠の様子を固唾を飲んで見守っていた。すると、悠は電撃が走ったかのように目を見開いてこう言った。
「!!…旨い!旨いぞ!!」
「ホンマ!!」
「ああ!これは、俺好みの味だ!」
それを聞いた希は心の底から嬉しそうに目を輝かせた。悠は希がそんな顔をしているとは露知らずに、弁当の中身を口にかきこんでいく。朝から色々あって疲れていたのか、走り出した箸が止まらない。それどころか自分の細胞の一つ一つが活性化されていく感じがする。
そうして全ての弁当のおかずを完食した悠は手を合わせて全ての食材、そして希に感謝を込めてと思いながら
「ご馳走様でした!」
某美食屋のように大声でご馳走様を言った。悠のそんな姿に一瞬驚いたが、次第に微笑みながらお礼を言った。
「うふふ。お粗末さま、鳴上くん♪」
希のその言葉で悠は我に返った。何かみっともないところを見られた気分である。しかもそれが穂乃果たちならともかく、希に見られたのだから尚更恥ずかしい。
「あ…ごめんな、東條。みっともないとこを見せてしまって」
「ええよ、気にせんで。あ!鳴上くん、口に米粒がついとるで」
希は微笑みながらそう言うと、悠の口元に手を伸ばした。見ると、本当に悠の口周りに米粒がついており、希はそれを一粒取ると自分の口に含んだ。
「え?」
悠はそれを見て呆然としてしまう。ラブコメにありそうなことをされて悠は慌てるが、希は平然と悠に微笑みかけている。何か自分だけ意識しているみたいで馬鹿みたいだ。まだ口に米粒がついているのか、再び希が悠に近づこうとしたその時……
「お、お兄ちゃんから離れて!!」
「ちょっ!ことり!!」
「見つかっちゃうよ!!」
屋上のドアが勢いよく開いて、ことりが屋上に駆け込んできた。それにことりを止めようとする海未や穂乃果の姿も出てきた。更には気まずそうな顔をしている一年生組も出てくる。どうやら屋上のドアに潜んでいたらしい。
「あらあら?どうやら見られとったらしいな」
焦る悠とは違って希は随分と余裕だった。どこにそんな余裕があるのか不思議である。
「お、お前たち……」
「「あははは」」
穂乃果と凛が苦笑いしてその場を誤魔化そうとしたが、他のメンバーはそうは行かなかった。
「それよりお兄ちゃん!どういうこと!!副会長さんと一緒にご飯食べるなんて!そ、それに……口についた米粒取ってもらうなんて!そんなラブコメっぽいこと、ことりはまだやったことないのに!!」
「そ、そうです!前に【わかつ】でも一緒にいましたし、どういうことなんですか!!」
ことりと花陽が凄い剣幕で聞いてくる。海未も真姫も言葉にはしてないが、目を鋭くしてこちらを睨みつけていた。これには悠も何が何だが、分からないので慌てるしかない。
「み、みんな!落ち着け!落ち着いてくれ!」
その後、悠が【言霊遣い】級の伝達力でことり達を説得しようとしたが、運悪く昼休み終了のチャイムが鳴ってしまい、気まずい雰囲気のまま解散となった。ちなみに、希は気配を消して一足先に屋上から退出していた。
<放課後 音乃木坂学院 屋上>
時は経ち放課後。悠たち【μ‘s】は作戦会議のために再び屋上に集合していた。昼休みのこともあってか、何人かは未だに不機嫌だったが、とりあえず会議を始めることにした。
「そ、それじゃあ【音乃木坂失踪事件特別捜査会議】を始めようか……」
すると、捜査会議という単語に反応したのか穂乃果と凛がそれに食いついた。
「え?捜査会議?…わあ!何か刑事ドラマみたいだ~!」
「じゃあ、この屋上が捜査本部ってこと?うーん!テンション上がるにゃー!!」
これにより少しだが、他のメンバーの雰囲気も良くなったようだ。こういう時の穂乃果と凛の元気の良さには助けられる。みんながまともに話を聞いてくれる雰囲気になったところで、悠は今回の事件のことを話した。
「え?今回行方不明になったのって、あの矢澤先輩なの……」
「ああ、一応近辺の人に聞き込みはしたが、今日矢澤を見た人は誰もいなかった」
「そんな……昨日見たばかりなのに…なんで」
みんな昨日まで姿を見たにこが行方不明になったことに戸惑いを隠せないようだ。すると、悠の説明を黙って聞いていた真姫が口を開いてこう言った。
「それにしても……自宅からの失踪って、私と花陽の時と同じじゃない」
「確かに…」
真姫の言う通り、前回の事件の時は2人とも自宅からテレビの中に失踪している。前にその時のことを詳しく聞いたところ、2人とも学校に流れていた『神隠し』の噂を興味本位で試そうとしたところ、テレビの画面に何か映ったことは確認したが、それからのことは覚えていなく、気がついたときにはテレビの中に迷い込んでいたとのことだ。
「本当に一瞬でした。何か映ったと思ったら、突然意識を失ってて……」
花陽がその時のことを辛そうに語る。正直思い出させるのは気が引けるが、事件解決ためなのだから仕方ない。それを聞いた海未が己の見解を示した。
「犯人はテレビの向こうからターゲットを眠らせてあそこに引き込んだということになるのですが……」
「そうなるな」
「あれ?でもさ、何で穂乃果たちの時は違ったんだろ?」
悠が海未の見解に同意を示すと、突然穂乃果がそんな疑問を口にした。それに関しては悠も不思議に思っていたことだった。
「確か、高坂たちの時は学校で俺と会ってから一人になったときに攫われたな」
「え?……そうなんですか?」
「しかし、穂乃果の言う通り、何で犯人は花陽と真姫の時から手口を変えたのでしょうか?」
何故穂乃果たちの犯行の後から手口が変わったのか?それは確かに不思議である。八十稲羽の時のように一件だけ模倣犯の仕業だったということも考えられるが、今のところは確証がない。
「それに私たちが狙われた理由って何なのかしら?何の共通点もないはずなのに」
穂乃果たちが狙われると分かったのは例のマヨナカテレビだが、八十稲羽の時のようにテレビで報道されたということも聞いてないし、特に事件を起こしたということも聞いていない。
「みんなスクールアイドルのことで悩んでたとかは?」
「うーん…どうでしょう?それはあまりに漠然としてますし」
「もしそうだとしたら、学校にたくさんいるかもしれないじゃない。その中で何で私たちが攫われたのかってことになるでしょ」
穂乃果の思いつきを花陽と真紀が反論する。
(共通点か………)
悠が思った攫われた穂乃果たちの共通点は
「まあ、それは犯人に聞くしかないだろうな。でも、今は矢澤の救出が先決だ。今日ぐらいにもあのマヨナカテレビが映るだろうな」
悠のこの言葉に穂乃果たちはピリッとした雰囲気になった。しかし、
「しかし…またあれが映るんですね……あんなハレンチなものが………」
何故か海未の顔が真っ赤になっている。どうやら前回の花陽と真姫のマヨナカテレビを思い出したらしい。同じくマヨナカテレビを見た穂乃果やことりも思い出したのか、やや気まずそうな表情になった。それを見た花陽と真姫の顔が青くなる。
「え?え?私たち、どのように映ってたんですか!?」
「ううっ……聞きたいけど…聞きたくないような…」
「凛は見てないから気になるにゃ~」
凛は特捜隊の陽介や千枝と同じように、事故のような形でテレビの中に入ってペルソナを手に入れたので、マヨナカテレビには出演していない。凛にとっては興味本位で聞いているのだろうが、花陽と真姫にとっては重要なことである。それに対して、穂乃果たちは気まずそうにこう返した。
「えっと、確か…シャドウの時と同じキャバ嬢のような格好で……」
「何かと人を誘惑するような感じで色々しゃべってたよね……」
「あんなことやこんなことって……ハレンチです!!」
「「(ヴぇ)えええええ!!」」
それを聞いた途端、花陽と真姫が赤面した。そして、すぐさま悠の元に詰め寄り、切羽詰まった顔でこう聞いてきた。
「な、鳴上さん………もしかして、見た?」
「見たんですか?」
正直に言うと2人がかなりのダメージを負うことになりそうだが、嘘を言うよりマシだと思ったので、悠は正直に告白した。
「………見ちゃった」
「「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
悠がそう言った瞬間、花陽と真姫は一気に顔を更に赤くしてそう叫び、その場で悶え始めた。
「は、恥ずかしい姿を鳴上さんに見られた~!!」
「もう、お嫁にいけない~~~~~~!」
余程悠にそんな姿を見られたのが嫌だったのか、2人の壊れ具合が半端ではない。あまりの出来事に穂乃果たちは若干引いていた。悠はそんな2人を慰めようと話しかける。
「落ち着け、嫁には行けるから安心しろ。大体アレなんてまだかわいい方だぞ…もっとヤバいやつだって………」
そう言って悠は八十稲羽に居た時に見たマヨナカテレビの数々を思い出す。逆ナンにストリップ、そしてサウナ……………サウナ?
「………………………」
「ちょっ、ちょっと!鳴上先輩!勝手にテレビに入ろうとしないで!!」
アレ疑惑のある後輩のサウナを思い出してしまい、衝動的にテレビの中に入ろうとする悠を穂乃果が慌てて止めに入った。
「いや、気持ち悪いもの思い出したから、テレビの世界でシャドウを狩りまくろうと思って」
「それほどなの!!」
悠のその様子を見た穂乃果たちは、何を思い出したのかと戦慄してしまう。聞いてみたいと思ったが、悠のガチで青くなっている顔を見ると、中々聞き出そうとは思えない。
「な、鳴上先輩は一体何を見たのかにゃ……」
「先輩がこうなるほど衝撃的なものなのですから、聞かない方が正解かもしれませんね」
「そうしてくれ……」
正直アレは穂乃果たちには見せられない。最悪トラウマになることもありえるかもしれないので心の中にしまっておこうと悠は思った。これ以上自分と陽介以外の被害者を出したくない。
とりあえずグダグダにはなったが、今日は必ず午前0時にテレビをチェックするとして、もしにこが映った場合は明日救出に向かうという形で解散となった。
「ことり」
「何?お兄ちゃん?」
「ちょっと頼みごとがあるんだが……」
悠はことりにあることを頼んで、矢澤家へと向かった。
<矢澤家>
会議を終えて矢澤家に着くと、すでにこころ達は帰宅していて、みんな悠の帰りを待ってくれていた。夕飯を作って一緒に食べたり、ここあ達の遊びに付き合ったりしているうちに、こころ達が寝付いしまった。悠は勉強しながらマヨナカテレビが映る時間を今か今かと待つ。
そして、時刻は午前0時前。そろそろマヨナカテレビが映る時間だ。外でざあっと降る雨を一瞥した悠は、矢澤家のテレビに目を向ける。すると、午前0時になった瞬間、ザザッという音と共に、映像が鮮明に映し出された。そこで悠が目にしたものとは……
「……何だこれ?」
映し出されたのは、某子供教育番組に出てきそうなファンタジーっぽい背景に遊園地っぽい建物がそびえ立っている映像だった。一体何なのかと思っていたその時、
『にっこにっこにー あなたのハートににっこにっこにー 笑顔届ける矢澤にこにこー にこにーって覚えてラブニコっ♡』
小学生の女の子がしそうな衣装を身に着けたにこが、そう言いながら妙な振り付けをしてとびっきりの笑顔で画面に飛び出してきた。
「…………」
何というか反応に困る。それに前回の花陽と真姫のものみたいに、健全な男子高校生が喜びそうなものではない。ロリコンなら喜びそうな映像だが、ある意味目を背けたくなるくらい衝撃的だった。
『みんな~こんばんは~!みんなのにこだよ~。今日は~ファンのみんなと仲良くなるために~とっくべつな企画を用意したんだにこっ!題して~
画面にでかでかとそんなタイトルのテロップが映し出されて、合成音声のような歓声が聞こえてくる。これは八十稲羽のマヨナカテレビでもあったものだがこっちのも同じようだ。
『もうファンの皆と一緒に遊園地で遊べるとか、と~っても楽しみ~。にこちゃんは先に入場してるから、皆が来るのを楽しみに待ってるよ♡それじゃあ、次に会う時まで~バイバイにこ~』
にこはそう言うと、投げキッスをして遊園地の方へと走り出して行った。にこの姿が見えなくなったと同時に映像は消えた。
「うわぁ…………」
テレビが終わった後、思わず悠はそう呟いてしまった。今まで様々なマヨナカテレビを見てきたが、これは1、2を争うくらい衝撃だったかもしれない……というか、にこが小学生っぽい格好をしていることが自虐過ぎて笑えない。そう思っていると、携帯に海未から電話がきた。
『な…鳴上先輩……』
海未の声が果てしなく暗い。海未にとっても余程衝撃的なものだったのだろう。
「見たのか?」
『見ました……何だか…花陽たちとは違った意味で、見てはいけないものを見てしまったというか………痛々しいというか』
「そうだな……」
『……………………』
「録画したけど」
『要りません!!』
海未はそう怒鳴って一方的に電話を切った。それと同時に、今度はことりから電話がきた。
「私だ」
『お兄ちゃん……試してみたけど、やっぱりさっきのテレビ…録画出来なかったよ』
「ですよね……」
ーto be continuded
Next Chapter
「え?」
「にっこにっこにー♪」
「うわ~、楽しいー!」
「100円をくれ」
「クスクスッ、クスクスッ」
「もう嫌!」
「これは厄介だな……」
Next #21「Niko meets her shadow.」