PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
最近、温暖化のせいかどこに居ても暑くかったり寒かったりして体調が崩れやすくなりましたね。かく言う自分も先日喉をやられました。皆さんも健康管理には十分気をつけてください。
一応今回も閑話回。さあ、今回は誰が登場するのでしょう?ちなみに、皆さんが気になるGW編は絵里・にこ・希たちがメインの『三年生編』を挟んでから開始するので、もう少し待ってください。
最後に、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方、活動報告にてアンケートに答えてくれた方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。
まだまだ未熟で拙い作品ですが、これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進して行きます。アンケートもまだまだ募集しておりますので。これからも応援よろしくお願いします。
それでは、本編をどうぞ!
<昼休み 音乃木坂学院 3-C教室>
「この間の実力テストの結果が張り出されたよー!」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り終わり、生徒がお昼の準備をしようとしたところで、とある女子生徒が教室に向かってそう叫んだ。
「ああ、ついに来ちゃったか~。あんまり見たくないな~」
「私も…あんま出来なかったし」
「見たくないけど、行くしかないか…」
みんなが言っているのは、先日行われた受験生向けの実力テストのことだ。悠たち三年生は始業式が終わって間もない時にそのテストが実施されていたのだ。その結果がたった今掲示板に張り出されたらしい。クラスのみんなはあまり出来が良くなかったのか重たい足取りで掲示板の方へ向かっていく。悠もテストの結果は気になるので、とりあえず掲示板の方へ向かうことにした。
掲示板に着くと、他のクラスからも集まったのか結構な人だかりができていた。流石に近くからは見えないので少し遠くから見ようと思っていると
「「「鳴上くん!」」」
前方からクラスメートの女子たちが悠に駆け寄ってきた。一体何事かと思っていると、こんなことを言ってきた。
「鳴上くん、テストの結果すごかったよ!」
「元々頭良いってことは知ってたけど、あそこまでとは思わなかったわ」
「今度勉強教えてもらっていい?」
そう言われて掲示板の方を見ると、彼女たちの言う通り悠の成績は学年トップであった。成績表の一番上に『鳴上悠』と記載されている。その下が『絢瀬絵里』となっており、彼女も悠と並んでトップであった。まさか自分が彼女と並んでトップになるとは思わなかったので、悠は驚きを隠せない。そんなことを思っていると、今度はクラスメートの男子たちが駆け寄ってきた。
「おい!鳴上!すげーじゃねえか!生徒会長と並んで学年トップってよ!」
「やっぱりお前、すげえやつだったんだな!何か自分のことのようで嬉しいぜ!」
「何か必勝法とかあるのか?教えてくれよ」
そうは言っても別に必勝法があるわけではない。それに、この学力テストは穂乃果たちとスクールアイドル活動を始める前に受けたものなので、今は少し学力が下がったのではないかと悠は思っている。
見ると、クラスメートだけでなく他クラスの生徒からも尊敬の眼差しで見られていた。どうやら皆から一目置かれたようだ。こんなことは八十神高校でもあったがやはり気恥ずかしくなる。そう思っていると
(ん?)
ふと何か別の視線を感じたのでその方向を見ると、少し遠いところから生徒会長である絵里がこちらをジッと見ていることに気づいた。何の用があるのかと思い、絵里と目を合わせると何故か絵里は目を逸らして逃げるように去ってしまった。
(絢瀬?どうしたんだ?)
自分に何かあるのかと気になったが、周りの人の対応に追われてそれどころではなくなった。とりあえず放課後に屋上に行く前に生徒会室に寄って、話を聞くことにした。
<放課後 三年教室廊下>
ようやくHRが終わり放課後になった。教室を出て生徒会室に向かおうとすると
「鳴上せんぱーい!」
後ろから聞き覚えのある元気いっぱいの声が聞こえてきた。振り返ると穂乃果がこちらに手を振って走ってくるのが見えた。穂乃果は悠の近くに寄ると太陽のような笑顔で手を握ってくる。
「こ、高坂。一人か?」
「うん!海未ちゃんとことりちゃんは掃除当番だから後で来るって」
「そ、そうか」
「それより鳴上先輩!提示版見たよ!実力テストで学年で一位取ったって!」
「あ、ああ」
穂乃果もあの掲示板を見たらしい。しかし、穂乃果は興奮しているのか妙に顔が近い。
「やっぱり鳴上先輩はすごいね!穂乃果の自慢だよ!」
穂乃果はそれからも興奮して悠を褒めちぎった。穂乃果の気持ちは嬉しいのだが、廊下でそんなことをしているとかなり目立つので恥ずかしい。何より廊下にいる生徒みんなの視線(特に女子の穂乃果に対する視線と男子の悠に対する視線)が痛い。何とか穂乃果を宥めようとすると、
「こら!穂乃果!!手を放しなさい!鳴上先輩が困っているでしょう」
今度は掃除当番だったはずの海未がやってきて悠の手を握っている穂乃果を叱った。
「園田?掃除当番じゃ?」
「穂乃果が何かするんじゃないかと思って抜けてきたんです。そんなことより穂乃果!離れなさい!周りの人が見てるでしょ!!」
「え~あとちょっと~。だって鳴上先輩の手って気持ちいいもん」
何か先ほどとは違うことを言い始めた穂乃果。そんなことをことりの前で言ったらただでは済まないだろう。すると、
「穂乃果……?」
「ヒィ!」
中々言うことを聞かない穂乃果に対して海未の凄みの効いた低い声で脅す。それに穂乃果はビビって悠の手を放したが、それは逆効果だった。
「うええん!鳴上せんぱーい!海未ちゃんがいじめてくる~。いくら穂乃果が鳴上先輩と触れ合えて羨ましいからってあんまりだよー!」
今度は悠の身体に抱き着きついて子供のように泣き始めた。ことりほどではないが、穂乃果も時々自分がピンチになると、このように悠に甘えてくることがある。そこに、りせのようなわざとらしさがないので対応に困るのだ。それにさっきから向けられている視線がより鋭くなった気がする。どうしたもんかと悩んでいると、
「ほう……」
突然辺りの気温が下がったような感覚に襲われた。この気配は…
「穂乃果…よくもまあ私の目の前でそんなハレンチなことを……貴女という人はどうも私を怒らせるのが上手なようですね……」
見ると、淡々とした口調の海未がハイライトのない目でこちらを見ていた。あれは先日クラブ【まきぱな】で見せた敵を狩る本気の殺意だ。これには悠だけでなく今までのやり取りを傍観していた野次馬も恐怖して、その場から逃げていった。穂乃果は海未の殺気を受けて、あの時の恐怖を思い出したのか口をパクパクさせていた。
「ま、待て!落ち着け!園田!!」
悠は何とかしようと海未に制止の声を掛けるが無駄に終わった。
「大丈夫です鳴上先輩、すぐに終わりますから………」
海未はそう言うが淡々とした口調からして絶対大丈夫じゃない。海未がホラー映画のようにゆっくりと近づき獲物を狩ろうとしたその時だった。
「悠くん、探しましたよ。あら?穂乃果ちゃんと海未ちゃんも居たのね」
混沌としたその空間に仏(雛乃)が降臨した。雛乃の姿に気づいた海未は目のハイライトを戻して、雛乃にお辞儀した。
「り、理事長!し、失礼しました!」
「あら海未ちゃん、そんなにかしこまらなくていいのよ。いつも通り叔母様で良いのに」
「い、いえ…そういう訳には……」
あの殺気に臆せず海未を一声で宥めるとは雛乃の並ならぬ寛容さに悠は驚愕する。これが年の功というものだろうか。悠の【オカン】級を超える【女神】級の寛容さというべきだろう。海未の本気の殺意から免れたため、悠と穂乃果は雛乃にお礼を言う。
「叔母さん、ありがとうございました」
「ことりちゃんのお母さーん!ありがとう!怖かったよ~」
「フフフ、良いのよ。それにしても三人とも仲が良いようで良かったわ」
今のどこを見ればそう見えるのだろうか?それはそれとして、
「それで叔母さん、俺を探してたってどうして?」
「悠くんに聞いておきたいことがあったから探してたのよ。ちょっとお時間貰ってもいいかしら?」
雛乃が悠に用事とは珍しい。少し予定は違うが、生徒会室に行く前に雛乃の話を先に聞くことにし、雛乃にOKの返事をした。
「それじゃあ穂乃果ちゃん・海未ちゃん、少し悠くんを借りるわね」
「「は、はい」」
「また、後でな。練習は先に始めといてくれ」
雛乃と悠は穂乃果と海未にそう断りを入れて、悠を連れて理事長室に戻っていった。
「行ってしまいましたね。ハァ…」
「あれ?海未ちゃん、どうしたの?顔色が悪いけど」
「…何でもありません。それより穂乃果?」
「何?」
「覚悟は良いですか?」
悠と雛乃という抑止力がいなくなったせいか、海未は穂乃果にさっきの制裁を加えようと笑顔のまま穂乃果に近づいていく。
「逃げるが勝ち!さらばだー!」
本能が危険を察知したのか穂乃果はそう言って全力疾走で逃げ出した。
「待ちなさい!」
こうして校内を舞台に穂乃果と海未の追いかけっこがスタートした。その後、うっかり転んで海未に捕まり、先ほどの一件がことりにばれた穂乃果は海未とことりからお仕置きを受ける羽目になった。悠が屋上に来るまで新メンバーである花陽たちはその光景に恐怖していたという。
<理事長室>
理事長室に入ってから悠は接待用のソファに座らされた。自分は学生なのだから別にソファでなくてもと思っていると、雛乃が先に口を開いた。
「悠くん、この間の実力テストで学年トップを取ったようね。おめでとう♪」
「あ、ありがとうございます」
雛乃もあの実力テストの結果を知っていたのか、理事長室について早々そのことで褒められた。面と向かって雛乃に褒められるのは気恥ずかしいが嬉しくもある。
「ふふ、流石我が甥っ子だわ。今度ご褒美を上げなきゃね」
「ご褒美?」
「フフフ、期待して良いわよ」
雛乃はそう言うと悠に向かってウインクする。その仕草は普通に若々しくて可愛いらしい。今更だが、この人は本当に年を取っているのだろうかと不思議に思うが、そのことを聞くと大変なことになりそうなのでそっとしておこう。ご褒美のことは気になるが、話が脱線しそうなので本題に入ることにした。
「それで叔母さん、話ってなんですか?」
「あっ、そうだったわね。付かぬ事を聞くけど、悠くんはGWは何か予定はあるのかしら?」
「え?」
意外な質問、というか予定確認だった。何故ここでそんなことを聞くのかと思うが正直に答えることにした。
「俺は八十稲羽に帰るつもりです」
「あら?『行く』じゃなくて『帰る』っていうのね」
「はい。あそこは俺にとって、大事な家族や仲間がいる大切な場所ですから」
そもそも悠はどんなことがあろうともGWは何が何でも八十稲羽に帰るつもりだった。己の運命の起点となった場所であり、陽介や菜々子たちと深い絆を結んだ場所でもあるので、長期休暇のときは八十稲羽で過ごしたいと思っている。すると、それを聞いた雛乃は何故かジト目でこちらを見てきた。
「ふ~ん、じゃあ私と悠くんは家族じゃないのね。そんなこと言うなんて…私、悲しいわ………」
更には目に涙を浮かばせてそっぽを向いて泣き始めた。何故こうなったかは分からないが、雛乃にそう言われると流石の悠も慌て始めた。
「い、いえ!そんなことは!叔母さんは」
「…………フフフ、冗談よ♪」
「え?」
見ると、雛乃は悲しそうな表情ではなくイタズラが成功した子供のような顔で舌をペロッと出していた。それを見た瞬間、自分はからかわれたのだ気づいた。
「……叔母さん」
「ごめんなさい、ちょっとからかいたくなったの。悠くんが慌てる姿を少し見たくなったから」
それにしてもタチが悪い。迫真の演技だったので、つい本気にしてしまった。
「まあ、でも悠くんが稲羽市に帰る予定ならちょうど良かったわ」
「え?」
雛乃は先ほどのほんわかな雰囲気に戻ってこう切り出した。
「実は私、GWは仕事の関係で稲羽市に行くことになったの。悠くんがあっちで通った八十神高校の校長先生と会談したりとか色々とね」
「ハァ、それは……」
「それでね、空いた時間は是非とも悠くんに稲羽の町を案内してもらおうかと思ってね」
「え?」
どういうことだろうかと思っていると、雛乃は悠の考えを見透かしているようにこう返した。
「一度見てみたいのよ。悠くんが一年過ごした稲羽の雰囲気とそこで出会ったお友達とか。それに、私も随分堂島さんに会ってないからご挨拶しなきゃって思って」
「それは分かりましたが…ことりは?」
「勿論ことりも付いて来るわ。一緒に行く?って聞いたら、お兄ちゃんとなら絶対に行くって言ってたわよ」
どうやら雛乃だけではなくことりも付いて来るそうだ。そんな会話をしていると、
コンッコンッ
ドアをノックする音が聞こえてきた。誰か来たのだろうか。
「はい。どうぞ」
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、この後訪ねる予定だった生徒会長の絵里だった。
「絢瀬?」
「な、鳴上くん……何でここに?」
まさか悠が理事長室に居るとは思わなかったのか、絵里は慌てて悠から顔を逸らしてそう聞いた。何故顔を逸らすのかは分からないが、とりあえず質問には答えることにした。
「いや、叔母…理事長に呼ばれて」
「そう……」
絵里は相変わらず素っ気ない態度を取っているが、どこかよそよそしい。何かあったのだろうか?すると、雛乃がそんな絵里に声を掛けた。
「あら?絢瀬さん、どうしたの?」
「い、いえ…書類を渡しに来たのですが……お取込み中のようなのでまた後で出直してきます。じゃあ、失礼しました!」
「あ、絢瀬?」
絵里はそう言うと悠の制止の声も聞かずに、その場を去ってしまった。絵里が去った後、雛乃は原因は悠にあると思ったのか悠に疑惑の目を向けてきた。
「悠くん?絢瀬さんに何かしたの?」
「い、いえ……強いて言えば、この間高坂たちのライブの件で少し揉めたというか…」
尤も、最初は一触即発になったが最終的に悠が絵里に特大の爆弾を落としたことが原因だろう。
「そう……悠くん、絢瀬さんと喧嘩したのね」
「別に喧嘩って訳じゃ…」
「ハァ、それにしてもことりだけじゃなくて悠くんや絢瀬さんも心配ね。どうしたもんかしら……」
そう言って額に手を当てて溜息をつく雛乃。廃校の問題も抱えているせいか、少し顔色が悪そうだ。悠はそんな雛乃を見ると何とかしたいと思った。しかし、悠ができることと言えばアレしかないだろう。
「あの、叔母さんの好きな料理って何でしたっけ?」
「え?」
「良かったら今日、叔母さんの好きなものを夕飯に作ろうと思って。叔母さん、疲れていそうだから」
雛乃は悠のその言葉に面を食らったような顔をする。しかし、すぐに穏やかな顔に戻り手を口に当てて微笑んだ。
「……フフフ、やっぱり悠くんは優しいわね。そういうところは兄さんに似てるわ」
「叔母さん?」
「でもごめんなさい。今日は帰りは遅くなるから、悠くんのご飯は食べられそうにないわね」
「そう…ですか」
悠は雛乃の返答を聞いて少し暗い表情になった。
「そんな顔しないで。悠くんのその気持ちはとても嬉しいから」
そう言うと雛乃は立ち上がって悠の隣に座り、悠の頭をあやすように撫で始めた。悠は突然のことに呆然としてしまう。八十稲羽で過ごしているときは菜々子に、今ではことりによくやっている仕草だが、自分がやられるとは思わなかった。
「ことりから聞いてるわよ。悠くんも最近頑張り過ぎて疲れてるって。だから、これは日頃頑張ってるご褒美ね」
そう言って雛乃は更に悠の頭を撫で続ける。最初は戸惑ったものの、段々暖かい気持ちになってきた。何だろうか、遠い昔に母親によくやってもらったことを思い出す。すると、雛乃は悠に目を合わせて優しい笑顔でこう言った。
「悠くん、ありがとう。気を遣ってくれて」
>雛乃の暖かい気持ちが伝わってくる……
雛乃にそう言われると、悠は恥ずかしくなったので練習に行ってきますと言って早々に理事長室から退散した。屋上に向かう途中、雛乃に撫でられたところを触れて、先ほどのことを思い出すと恥ずかしくもあったが、それと同時に嬉しくも感じた。すると、ポケットの携帯が震えたので確認してみる、雛乃からメールが来ていた。
『From 南雛乃
言い忘れてたけどさっきのご褒美はテストのものとは別だから、そっちの方も楽しみにしててね。あとGWはことり共々よろしくね、悠くん♪』
とりあえず、雛乃とことりの3人で八十稲羽に帰省することになった。何だか今回の帰省は楽しくなりそうな予感がしたので、悠は密かにフッと笑った。
<夜 鳴上宅>
今日の練習が終わり帰宅すると、悠は八十稲羽にいる叔父の堂島にGWはそちらに行くと連絡を入れた。
『そうか、GWはこっちに帰って来るのか』
「ええ、ご迷惑でなければ」
『何を言ってるんだ。家族が帰ってくるのに迷惑な訳ないだろ?菜々子も喜ぶぞ』
堂島は我が子が帰省するのを聞いた父親のように喜んでる。菜々子と同じく堂島も悠が帰ってくるのが嬉しいようだ。
『しかし、義兄さんの妹さんも来るのか……』
しかし、雛乃も来ると知ると何故か声のトーンが下がった。
「あの、叔母さんと何かあったんですか?」
『…あんまり思い出したくないんだが、お前が生まれる前の親戚の集まりで義兄さんと調子に乗って酒飲み過ぎたことがあったんだよ。その時あの妹さんにこってり絞られてな、それからあの人には何というか…苦手でな………これは菜々子に言うなよ』
そう語る堂島の声が果てしなく暗い。どんな風に絞られたかは分からないが、悠も一回雛乃に怒られたことはあるので、その恐怖は共感できる。そんなことを思っていると
『おお菜々子か、今悠から電話が………分かった分かった……悠、菜々子と電話代わるぞ』
どうやら堂島が電話している相手が悠と気付いた菜々子が電話に代わるそうだ。そして、電話の向こうからあの可愛い声が耳に入ってきた。
『お兄ちゃん!!』
この声は間違いなく八十稲羽にいる愛しの従妹【堂島菜々子】のものだった。
「菜々子、久しぶりだな。お兄ちゃんだ」
『お兄ちゃん!全然電話してくれなかったから、菜々子すっごく寂しかったんだよ!』
「ごめんな。お兄ちゃん、学校で色々忙しくて」
『じゃあ、学校で何かあったの?』
「それはな…」
しばらくこんな感じで菜々子にこっちで起こったことを色々話した。勿論、ペルソナやテレビの世界のことは伏せておいた。菜々子は終始楽しそうに悠の話を聞いていた。特に食いついたのは、悠がスクールアイドルのマネージャーをやっていることだった。
『菜々子、陽介お兄ちゃんたちとその動画見たよ!みんなとっても可愛かった!』
「そうか」
話を聞くと、どうやらジュネスで陽介や千枝たち特捜隊のみんなと一緒にあのファーストライブの動画を見たようだ。菜々子にそう言われると、穂乃果たちのことだがとても嬉しい。しかし、
『あ、でもクマさんは菜々子の方がお嫁さんにしたいくらい可愛いって言ってくれたよ』
この言葉を聞いた瞬間、悠の中にドス黒い感情が生まれた。
「……そうか(クマ、高坂たちを愚弄した挙句、菜々子をナンパするとはいい度胸だな)」
悠の心の中に即刻あのクマは始末するべきなのではないかという気持ちが芽生えた。もしGWで菜々子だけでは飽き足らず、ことりもナンパしたらクマの命はないだろう。その翌日に鮫川でクマの遺体発見というニュースが流れてもおかしくはない。
(まず陽介にクマの暗殺許可を貰わなくては…いつも煮え湯を飲まされてる陽介ならすぐに許可を……)
『お兄ちゃん、大丈夫?何か声が怖いよ…』
「あ、ああ、大丈夫だ。心配かけてごめんな」
どうやら頭の中でクマの完全始末方法を考えていたら、菜々子を怖がらせてしまったようだ。今のは冗談だが、今後はこういうことがないように注意した方がよさそうだろう。尤も、あのクマが何もしなければの話だが…
『うん……あ、お兄ちゃん今度のGWは菜々子のところに帰ってくるんだよね』
ちょっと悠のことが心配になったのか、心優しい菜々子は話題を変えてくれた。それに対する悠の返答はもちろん決まっている。
「もちろんだ」
『本当!!菜々子、ちゃんと良い子で待ってるから!楽しみにしてるね』
「ああ、お兄ちゃんも菜々子と会えるのが楽しみだ」
正直菜々子とこういう風に会話していると早くGWが来ないのかと思っている。GWが来るまでは時が経つのが長く感じそうだ。
『うん!じゃあ、菜々子宿題があるからお父さんに代わるね』
「分かった、ちゃんと宿題頑張るんだぞ」
『は~い!じゃあお兄ちゃん、またね♪』
菜々子がそう言い終わると、声が堂島に代わった。
『ははは、相変わらず仲が良いな。菜々子がとても嬉しそうだったぞ』
「ええ、自分も菜々子が元気そうで何よりでした」
『そうか。じゃあGWのことは分かったから、義兄さんの妹さんにはよろしく言っといてくれ』
「分かりました。それじゃあ」
堂島や菜々子との久しぶりの通話を終えて、そろそろ良い時間だったので晩御飯を作ろうとする。しかし、冷蔵庫にあまり材料がなかったため、近場のスーパーに買い出しに行くことにした。
スーパーで食材の他に切らしていた洗剤や新しいタオルなどを購入した。悠は買い出しを済ますと早く帰ろうと急ぎ足で自宅へ帰ろうとする。しかし、その道中での電柱で思わぬものを目撃した。
「ん?」
それは道端の電柱に手を付けて息を切らしているジャージ姿の少女。何事かと思い少女に近づいて見ると、その正体が分かった。
「園田?どうしたんだ?」
「な、鳴上せん…ぱい」
正体は海未であった。ジャージ姿や息を切らしていることからして、トレーニングをしていたと推測できるが、その顔はどこか辛そうで目の焦点が当っていない。
「園田、何をしていたかは知らないが少し休め。このままじゃ危険だ」
「だ、大丈夫です。も、問題ありません……」
海未は悠の警告を振り切ってその場を去ろうとするが、足がふらついて歩くのがやっとといった感じだった。そして、小石につまずきその場に倒れそうになる。しかし、それを悠は自分の身体で海未を受け止めた。
「あ……せん…ぱい」
「ほらな、その状態じゃ無理だ。一旦あそこの公園で休むぞ」
「は…はい……」
といっても、海未をこのまま歩かせるのはどうかと思ったので、悠は海未を背中に乗せて公園に向かう。心なしかその時の海未は疲れているせいなのか、はたまた別の要因があるのか、顔が真っ赤になっていた。
一先ず公園に入ると海未をベンチで先ほど購入したしたタオルを枕にして横にさせる。海未が呼吸を整えたのを確認すると、まずは水分補給をと思い、またスーパーで買ってきたスポーツドリンクを飲ませた。
「すみません、鳴上先輩……ご迷惑をおかけして」
「迷惑じゃない。園田の身体の方が大事だ」
「はい…すみません」
先ほどよりかは海未の顔色が良くなっているので、もう大丈夫だろう。何とか落ち着いたようだ。
「それで、どうしたんだ?こんな時間に、こんなになるまでトレーニングをして」
放課後の練習の後にもトレーニングをするとは感心するが、あんな倒れそうになるまでするのはやり過ぎだ。実は穂乃果やことりから最近海未の調子が変ということは聞いていたが、まさかこのトレーニングのやり過ぎが原因なのか。そう聞くと海未はバツが悪そうに俯いて、呟くように答えた。
「…先輩のように、強くなりたいから」
「え?」
「この間、花陽と真姫の救出の時、私は何もできませんでした。鳴上先輩が来てなかったら、今頃死んでいたでしょう」
「……………」
「私は…もっと強くなって、先輩と同じように…穂乃果たちを守れるようになりたいです…だから」
その話を聞いて悠は合点がいったと思った。話から察するに、この間のシャドウ戦で花陽のシャドウを倒しきれなかったのを引っ張っているのだろう。海未が辛そうに言葉を紡ごうとすると、悠は海未の肩に手をそっと置いた。
「え?」
「園田の守るために強くなりたいって気持ちはよく分かった。俺の仲間にもそんな風に考えてたやつが居たからな」
「そうなんですか……」
「でも、無茶しすぎだ。それで体を壊したら元も子もないだろ?」
「うっ、そ、それは…」
「厳しいことを言うようだが、一人で皆を守るなんてことはフィクションじゃない限り不可能だ。俺はそれを去年の事件で痛感したし、園田もこの間の小泉たちの事件で分かっただろ?」
悠のその言葉に海未はショックなのか俯いてしまう。悠の言う通り、人間一人では何もできない。悠にしろ海未にしろペルソナが使えるとしても、所詮はただの高校生なのだ。
「じゃあ……私は…どうしたら……」
海未は何をしたらいいか分からなくなったのか、悠にすがるように問いかけてきた。
「そんなに落ち込むことないだろ?園田は十分に頑張ってるし、俺も園田を頼りにしてる」
「え?」
悠の答えが意外だったのか。海未は思わず聞き返してしまう。
「スクールアイドルの練習の時は俺よりも皆を引っ張ってるし、探索の時もはしゃいでる高坂たちを窘めたりしてくれるしな。それに、園田もペルソナも遠距離タイプだし中々強いから安心感がある」
「そ、それは……ほめ過ぎです。私にできることなんてそれくらいしか…」
「園田、人は一人じゃ何でもできないが仲間がいればどんなこともできる。だから、1人で強くなろうとしなくていい。みんなで強くなれば良いんだ」
「…………先輩」
「何かあったら、迷わず俺たちを頼ってくれ。俺も園田の力になりたいし、それは高坂たちだって同じなはずだろ?」
海未は悠の言葉を聞いた瞬間、何かが吹っ切れたような感じがした。今まで悩んでいたことがバカみたいに思うくらいだ。
「そうですね…私が愚かでした。私には…ちゃんと向き合える友達や先輩がいるのに…一人で勝手に悩んで…自分を痛めつけて……」
海未はそう言うが、言葉に反して顔は生気が戻った感じになっている。どうやら海未の悩みに一役貢献できたようだ。
「さあ、もうこんな時間だ。そろそろ帰らなくちゃな。園田、家まで送ろうか?」
悠は海未の表情を確認すると、公園の時計を見てそう言った。流石にもう遅い時間だったので、帰らなければまずいだろう。
「い、いえ!私の家はすぐ近くなので、そこまでしてもらうわけには」
「それでもだ。最近は物騒だからどんなことがあるか分からないんだ。園田は女の子なんだから尚更な」
「お…女の子……」
悠に女の子と言われ赤面する海未。そして、結局海未は悠に家まで送ってもらうことにしてもらった。送ってもらっている道中、海未は悠にこう切り出した。
「あ、あの!鳴上先輩」
「ん?」
「私、これからも頑張って強くなります。今は先輩に頼りっぱなしですし、先輩のようになれないかもしれませんが、必ずいつか先輩の頼れる後輩になりたいと思ってます。それまで私のこと見守ってくれますか?」
海未は何か決心した顔でそう言ってきた。
「当たり前だ」
悠の返事を聞いた海未は安心したという表情を顔に浮かべて、ありがとうございますと言わんばかりに頭を下げた。
「これからも私のことを見ていて下さいね。鳴上先輩!」
>海未との絆が深まった気がする。
海未を家まで送り届けた悠は、時間も時間だったので急いで帰っていった。
another view (直斗)
鳴上先輩に頼まれた調査。桐条グループに関してはあまり進展はなかったが、先輩の言っていた音乃木坂学院の二年前の失踪事件のことについては情報を掴んだ。僕はそれを自室の机に広げて吟味しているところだ。そこにはその時の失踪者の名前と証言が記載されている。これを見て分かったことはただ一つ。
ー失踪者は失踪していた時の記憶が曖昧であること。
これは僕らが経験したあの事件。テレビに落とされた時のことと似ている。しかし、まだハッキリしていないところがある。僕は直接本人たちに会って確かめようと思い、失踪者たちの今の住所を調べて薬師寺さんに明日の予定を伝えるため自室を出た。もしかしたら、あの事件と同様に先輩が今遭遇している事件も一筋縄ではいかないかもしれない。
ーto be continuded
Next Chapter
「どこかのアイドルグループみたいだよね!」
「アイドルなめんじゃないわよ!!」
「どうしたんだ?」
「わあ、すごーい!」
「お姉ちゃん、この人は」
「矢澤が…」
Next #18「Niko raid on heros.」