PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
最近ペルソナ4の堂島親子の話を観直したら涙腺が崩壊しそうになりました。自分もあんな人を感動させられる話が書けたらなあと思いました。結構頑張らないといけないですけどね……
そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。
皆様の応援のおかげで、この作品のお気に入りが200件近くまで達することができました。まだまだ拙い作品ですが、これからも皆さんが楽しめる作品を目指して精進して行きます。完結まで結構時間がかかりそうですが、長くお付き合いいただければ幸いです。
それでは、本編をどうぞ!
<音乃木坂学院??? 中庭>
「この!!」
海未は目の前の敵に苦戦していた。どうやら、このシャドウたちは相当タフな体をしているらしく、何度攻撃しても倒れないのだ。まだペルソナを召喚したばかりで、扱いに慣れていないせいでもあるが、この状況はきつい。
「海未ちゃん!!」
「くっ!!」
このままではジリ貧で穂乃果たちを守り切れない。あのシャドウたちを倒すには強力な一撃が必要だろう。
(こうなったら捨て身で…)
覚悟を決めた海未は、まず二体のシャドウのうち一体の足に狙いを定め、ポリュムニアの力で氷漬けにして足止めした。その隙をついてもう一体がポリュムニアに突進してくる。待ってましたと言わんばかりに、ポニュムニアはその攻撃を真正面から受け止めた。
「うっ!!」
ペルソナの痛みのフィードバックにより、海未は顔を歪めた。顔色からして相当ダメージを食らったようだ。
「う、海未ちゃん!」
そこに容赦なしにシャドウはポリュムニアに追撃しようとすると、
「負けません!!」
その瞬間ポリュムニアがシャドウを力づくで地面にたたき落とし、弓の弦を力強く引いていた。
「食らいなさい!!」
ポリュムニアは弦を放し、特大の氷結攻撃を与えた。近距離でその攻撃を食らったシャドウは耐え切れず、唸り声を上げて消滅した。何とか手強いシャドウを一体倒したが、まだ油断できない。先ほど足止めしたシャドウが氷を自力で砕いて脱出してきたのだ。
「出てきてしまいましたか…でも、負けません!!」
負けられない!自分の背後で見守っている穂乃果たちを守るために。そしてこの場を任せてくれた悠のためにも、負けられない。海未はそう覚悟を決めて、再びシャドウに突進した。
『この!ちょこざいな!』
「ふっ!」
凛の影は相手を見誤っていた。凛の影は巨体の割に素早く、まるで特捜隊メンバーの完二のペルソナ【タケミカヅチ】を素早くしたものと戦っているようなものだ。しかし、そんなことはこの男には関係ない。伊達に八十稲羽で幾つもの死線を切り抜けていないのだ。
「イザナギ!!」
悠は隙を狙って、足の脛やアキレス腱など急所を攻撃していく。
『うっ』
そして、動きが鈍ったところで
「トドメだ!!イザナギ!!」
イザナギの得意技である落雷を放つ。案の定、凛の影は動けないのでモロに食らってしまった。
『きゃあああ!』
凛の影は悲鳴を上げたので、悠は勝利を確信した。宣言した通り三分で片付いたので、悠は安堵したのだが…
『ふふふふふふふ、あはははははは!!』
悲鳴が笑い声になったので、嫌な予感がした。まさか…
『あはははは。ふう、力がみなぎってくるわ!』
予感は的中した。あのシャドウは雷が効かないどころか吸収するタイプだったのだ。その証拠に先ほど与えた傷が癒されており、前より力が強くなった感じがする。
『さあ、お返しよ』
「く、イザナ」
『食らえ!』
すぐさま悠はイザナギに防御態勢を取らせようとしたが、相手の動きの方が早かったので、凛の影の高速パンチを食らってしまった。
「ぐは!」
イザナギは真面に攻撃を受けたので、校舎まで吹っ飛ばされ壁に激突した。召喚者である悠もフィードバックにより、イザナギ同様壁に叩きのめされる。強烈な一撃だったので、立ち上がろうにも立ち上がれない。
(迂闊だった。まさか相手が電撃を吸収するタイプだったとは)
りせが居ればそんなことは簡単に判明していたであろうが、今更そんなことを言っても仕方がない。こうなったのは、自分が油断していたせいであるのだから。
「お兄ちゃん!!」
声がする方を向くと、ことりが倒れた悠に向かって走ってくるのが見えた。
「く、来るな!!」
そう叫んだ瞬間、
「ぐっ」
凛の影が倒れこんでいるイザナギの首をつかんできた。フィードバックにより、悠も首を絞められたような感覚に陥る。
『フフフ、残念だったわね…貴方はここで死になさい』
イザナギの首を折ろうとする勢いで凛の影は首を絞めた。
「ぐ…ああ……あ…」
フィードバックで、その感覚は悠にも伝わってきた。首を絞めつけられる感覚がどんどん強くなっていき、意識が遠くなっていく。
「お、お兄ちゃん……いやああああ!」
「鳴上先輩!!」
「な、鳴上先輩!…きゃあ!」
薄れゆく意識の中、ことりが泣き叫んでいる姿、穂乃果の絶望した顔、海未がこっちに気を取られてシャドウの攻撃を受けた姿が見えた…
ーこのまま何も出来ずに…死んでいくのか……
「ようこそ、お待ちしておりました」
ーこの声は……マーガレット?ということは…ベルベットルームか?
「お客様は先日、あの子たちと絆を育んだことによって【魔術師】・【女教皇】・【恋愛】のアルカナを呪いから解放させたはず。さあ、思い出して。貴方が持つ類い稀なる才能【ワイルド】の力を…」
ー【ワイルド】の……力…
「ぐっ」
マーガレットとの会話で思い出した……自分の中にあるのはイザナギだけじゃない…
(負けてたまるか…高坂たちを残して……陽介や菜々子たちに会わないで……死んでたまるか!!)
「ちぇ、チェン…ジ」
悠がそう呟いた瞬間、イザナギがタロットカードに姿を変える。
『何!』
イザナギをタロットカードに戻したので、首の拘束から解放された。
「お兄ちゃん!!」
「鳴上先輩!」
近くにことりと穂乃果の声が聞こえてきたので、なんとか意識はあるようだ。悠は息を整えてタロットカードの方を向いた。そのタロットカードに描かれているのは…【魔術師】のカード…
「ハア…ハア………【ジャックランタン】!」
そして、悠は力を振り絞りカードを砕いた。刹那…カードが砕かれて姿を現したのは、緑色のトンガリ帽子に青いマントを身に着けて、手にランプを持ったカボチャの妖精【ジャックランタン】だった。
「え?……これも…お兄ちゃんのペルソナ?」
「もしかして、鳴上先輩って二つもペルソナ持ってるの?」
ことりと穂乃果はイザナギとは違うペルソナの出現に仰天している。
「やれ!ジャックランタン!」
悠がそう命令すると、ジャックランタンは『ヒホッ!』と声を上げ、手に持っているランプを怪しく輝かせて特大の炎の攻撃を放った。
『きゃあああ!あ、熱い!熱い!!』
凛の影はジャックランタンの攻撃を全身に食らい、その場にのたうち回った。ジャックランタンの攻撃は凛の影だけでなく海未の相手をしていたシャドウにも飛び火し、海未に攻撃しようと無防備だったため何の術もなくシャドウは炎に包まれて消滅した。
「へ?」
海未は相手をしていたシャドウが突然炎に包まれて消滅したことに唖然としてしまう。何が起こったのか全く分からないのだ。
「海未ちゃん!大丈夫?」
「い、今のは……一体…」
「今のはあれ!鳴上先輩のペルソナのおかげだよ!」
穂乃果が指をさす方を見ると、海未はその光景に目を丸くしてしまった。
「え?…あ、あれは…イザナギじゃない?」
悠が今使役しているのがイザナギではなく見たことがないものだった。それどころか巷のゲームセンターでよく見る人形に似たものだったので衝撃を隠せない。
「すごいよね!鳴上先輩って二つもペルソナが使えるなんて」
「あ、あれもペルソナですか……鳴上先輩って一体…」
2つもペルソナが使えるとはどういうことなのか。改めて悠のすごさに呆然としていると、悠から叱咤の声が上がる。
「園田!!まだ終わってないぞ!!」
「は、はい!」
改めて凛の影の方を向くと、影はすでに炎を鎮火させており悠たちを睨みつけていた。
『くっ、こんな展開は予想外だったけど…こんなものじゃ、私は倒せないわよ』
しかし、悠は臆することなく逆に凛の影を睨みつけ、怒気を含んだ声でこう告げた。
「お前はことりを泣かせた……その罪は重いぞ……チェンジ!」
そういうとジャックランタンを再びタロットカードに戻した。
「な!また」
次に出現したのは【恋愛】のタロットカード…
「【リャナンシー】!!」
カードが砕かれて姿を現したのは、黒いドレスとカチューシャを身につけ手には知恵の輪を持っている金髪の妖艶な雰囲気を持つ美女の妖精【リャナンシー】だった。
「また違うペルソナだ!」
「鳴上先輩は、どれだけペルソナを持っているのですか……」
「お兄ちゃん…」
またもや違うペルソナが出現したので、3人は呆然としてしまう。
『ふ、フン!だからなんだっていうのよ!消えろ!!』
凛の影は声色が焦っていながらも、リャナンシーに攻撃を与えようとする。
「惑わせ!リャナンシー!!」
リャナンシーは悠の命令に頷くと凛の影の攻撃を華麗にかわし、流れるように凛の影に接近し耳元に白い息をふうとかけた。すると…
『きゃあああああ!私は!私はああああ!』
リャナンシーが息を吹きかけたと同時に、凛の影は混乱したかのようにのたうち回り、自らを攻撃し始めた。その姿を見て、穂乃果たちは唖然としてしまう。
「こ、これは…」
「リャナンシーの力で、あいつを混乱させた。この隙に総攻撃だ!行くぞ、園田!!」
「はい!…行きます!ポリュムニア!!」
海未は悠の指示通り、ポリュムニアにありったけの攻撃を繰り出させた。それは的確に顔や首などの急所に的中した。
『こ、この…』
連続で攻撃したせいかリャナンシーの掛けた混乱は解けた。しかし、混乱から解けたとはいえ、急所にありったけの攻撃を食らったせいか、凛の影は足元がおぼつかなくなっていた。
「今です!鳴上先輩!!」
「イザナギ!!」
海未がそう告げると、悠は上空に佇んでいたリャナンシーをイザナギにチェンジして、上空から凛の影に向けて大剣を振りかぶった。
「これで終わりだ!!」
『!!や、やめて…』
凛の影の懇願も虚しく、イザナギは振りかぶった大剣で凛の影を一刀両断した。
『ああああああああああああああ!』
凛の影は無念にも悲鳴を上げて、消滅した。
「終わったな…」
「終わりましたね……」
戦闘を終えて安堵したのか悠と海未はペルソナをしまい、その場にへたりこんだ。
「鳴上先輩!!海未ちゃん!!大丈夫?」
穂乃果たちが駆け寄ってきた。一応大丈夫だとは言ったが、まだ心配しているようだ。一応穂乃果に寄り添っていた凛も無事らしい。
「お兄ちゃん!!」
ことりは目を潤ませながら、悠に抱き着いてきた。
「ことり?」
「お兄ちゃんのバカ!!…心配したんだよ……お兄ちゃん…死ぬかもしれないって……怖かったんだよ……ううっ…お兄ちゃん…バカ…バカ……バカ……」
どうやら相当心配させたようだ。悠はすまなかったと言葉で謝り、泣きじゃくることりを落ち着けようと頭を撫で始める。
「高坂・園田、すまないが凛のことを頼む」
悠の言葉に穂乃果と海未は頷いて凛のもとに駆け寄った。
「凛ちゃん…」
「星空さん」
凛は穂乃果たちに気づくとすぐに顔を上げたが、すぐに目を逸らした。何故なら穂乃果たちの後ろには、先ほど倒した凛の影が元の姿に戻り、佇んでいたからだ。
「あ、あれは……私じゃ」
凛はまだ自分の抑え込んでいたものと向き合えないようだ。その姿が先日の自分と重なって見えたのか、海未が凛に話しかけた。
「そんなに、男性みたいと言われるのが嫌だったんですか?」
「………うん、嫌だった。あれの言う通り…私はそれでかよちんを…」
海未はあまりのことの大きさに何を言ったらいいか分からなくなる。すると…
「良いじゃん。それでも」
「え?」
そう言葉を発したのは穂乃果であった。
「穂乃果…何を」
「それでも、花陽ちゃんは凛ちゃんの友達でしょ?」
穂乃果がそうケロッとそう言ったので、凛は意味が分からず呆然としてしまう。すると海未はやれやれと肩をすくめて凛に向かってこう言った。
「星空さん、私も穂乃果に同意です。貴女がどう思っていても小泉さんは貴女の友達に違いありません」
「で、でも……」
「誰だって、友達に対してそう思ってしまうことなんてあるんです。私にもありましたし…」
「え!?」
先日の海未のシャドウのことを思い出したのか海未は苦笑いした。しかし、穂乃果の方を向くとすぐに笑顔になって凛にこう言った。
「でも、私には本音をさらけ出してもこうして認めてくれた親友がいます。星空さんや小泉さんだってそうなはずですよ」
「そうだよ!今の関係があやふやでも、本当の友達になれるよ」
海未と穂乃果にそう言われて心を打たれたのか、目に涙を浮かべて頷きながら泣き始めた。それを見て海未と穂乃果はどうしたのかと分からず困惑したが、悠がこちらを見てよくやったと言わんばかりにサムズアップしてくれたので安心した。
「うん……私は…かよちんの本当の友達になりたい…伝えなきゃ……その前に」
凛はそう言うと、涙をぬぐい取り己の影のもとに歩み寄った。穂乃果たちは少しハラハラしているが、凛の様子を見る限り大丈夫だろう。
「そうだね……凛は男みたいだって言われるのが嫌だった……だから、それを受け入れてくれたかよちんが居なくなるのが怖かったんだ………でも、もう貴女を抑え込んだりしないよ。これからはそんな自分をひっくるめて、かよちんに見てもらうから…」
「貴女は…私だね……」
凛の影はその言葉に頷き、宙に浮いた。そして、海未の時と同じく眩い光に包まれ姿を変える。その姿は先ほどの牛の化け物ではなく、黄色の衣装を纏った女神であった。
『我は汝…汝は我……我が名は【タレイア】。汝…世界を救いし者と共に…人々に光を』
そして、女神は再び光を放って二つに分かれ、あの時と同様一方は凛へ、もう一方は悠の中へと入っていった。
>凛は己の闇に打ち勝ち、困難に立ち向かうための人格の鎧ペルソナ”タレイア”を手に入れた。
(これも…イゴールが言っていた【女神の加護】なのか……)
悠が己の体に入った物体についてそう考えていると、凛は疲れたのか両膝を突いた。
「凛ちゃん!大丈夫!?」
突然倒れこんだ凛に穂乃果たちは心配になって駆け寄った。
「こ、これが…ペルソナ……この力があれば、かよちんを……」
と、顔色が悪いにも関わらず立ち上がって、花陽を探そうとする。
「ちょっ!凛ちゃんダメだよ!!」
「そうですよ!貴方はペルソナを手に入れて身体に負担がかかってるんですから」
穂乃果たちが制止するが、全く言うことを聞いてくれなかった。
「嫌にゃ!こうしてる間にもかよちんは…」
自身が大変なのに友人の心配をするその姿は特捜隊の千枝にどこか似ている。しかし、穂乃果たちの言う通りこれ以上無茶をさせてはいけない。
「凛」
悠はことりと一緒に凛の方へ赴き、諭すような声色で凛に話しかけた。
「せ、先輩?」
「今日は帰るぞ。俺も園田さっきの戦闘で体力がなくなってきたし、これ以上進むのは危険だ。ゆっくり休んで明日に」
「で、でも…かよちんが」
凛は中々言うことを聞かない。
「じゃあこの校舎のどこに小泉が居るって、凛に分かるのか?」
「え……それは…」
突然そんなことを言われても凛は分からなかったので、答えに窮してしまう。それを容赦なしに悠は言葉の追撃を食らわせた。
「仮に分かったとしても、この先どんなシャドウが出るか分からない。今のように小泉と西木野のシャドウに遭うかもしれない。もしこんな状態で探索を続けたら、小泉たちを助ける前に俺たちが死体になってるかもな」
悠の発言に、凛のみならず穂乃果たちも凍り付いた。自分たちがシャドウに襲われて、死体となっている姿を想像したのか4人とも顔色が悪い。縁起でもないことを言ってしまったと悠は後悔したが、これぐらい言っておかなければ凛は止められないだろうと思ってのことだった。
「小泉たちを助けるためには俺たちがしっかりしないといけないだろ?だから、今日はゆっくり休んで、明日万全な状態で救出に向かおう」
この悠の言葉で、流石に凛も折れた。
「分かったにゃ……ごめんなさい…勝手なこと言ってしまって」
「気にするな。俺も言い方が悪かったしな」
その言葉に穂乃果たちは猛烈に反応した。
「そうだよ!鳴上先輩!!死体だなんて冗談にもほどがあるよ!!」
「鳴上先輩……言葉は選んでくださいよ…」
「一瞬お兄ちゃんが死んじゃうところを想像しちゃったよ!お兄ちゃんのバカ!!」
悠の言葉があまりにも重かったので、穂乃果たちは一斉に非難の声を上げる。3人の剣幕が相当なものだったので、これからは言葉に気をつけようと悠は思った。とりあえず早く先へ進んで花陽たちの救出に行きたいところだが、今日は現実に帰ることにした。
another view(???)
あらあら、もう帰っちゃうんだー。ざーんねん。
まあいっか。どうせ、今日予告はするんだし。これなら明日来てくれるよね?
そしたら、私をちゃんと見てくれるかな?……鳴上先輩♪
another view(???) out
〈音乃木坂学院 屋上〉
無事にマーガレットが用意したテレビを使い、現実に帰還した一行。見ると空は夕焼けに染まっており、ちょうど下校時間を告げる放送が鳴り響いていた。
「それじゃあ、みんな。今日は解散だな…」
「そうですね…今日はもうヘトヘトです」
流石に戦闘で疲れたのか悠と海未はげっそりしている。そんな2人をよそに穂乃果がこう提案した。
「じゃあさ、今から何処かに食べに行こうよ!!」
「「は?」」
「明日の英気を養うためにさ!今日はパァと」
前にも聞いたことのある穂乃果の案に2人は顔をしかめた。こっちは疲れているのに冗談じゃないというのが2人の言い分だ。しかし…
「賛成にゃー!凛もお腹ペコペコだから、何か食べたいにゃー!」
なんと凛も穂乃果に賛成した。
「え?凛ちゃんも!良いねえ、何食べよっか?」
「先輩は何が良い?凛はラーメンが良いにゃ!」
「あ!私のことは穂乃果でいいよ?穂乃果も固苦しいの嫌だし」
「本当!!やっぱり穂乃果先輩とは気が合うにゃ!!」
穂乃果と凛は訳が分からないが意気投合したようだ。この光景を見て悠と海未は思った。
((面倒くさい者同士が出会ってしまった))
ともかくあの2人を何とかしなければそのままどこかに連れていかれるので、2人を説得することにした。
「あのな…もう下校時間だから……」
「えー!食べにいこうよー!鳴上先輩~!」
「食べにいこうにゃー!」
2人は悠の袖を引っ張ってそう懇願する。端からみたら、駄々をこねる子供とその父親のようであった。すると…
「「…貴女たち(ねぇ)」」
2つの低い声が聞こえてきたので振り返ってみると、そこに般若の如く怒っている様子の海未と目のハイライトが消えていることりが居た。あまりの迫力に穂乃果と凛は腰が抜けてしまい尻もちをついてしまう。
「いい加減にしなさい!!私たちはともかく鳴上先輩は今日大変な目に遭ったんですよ!!少しは気を遣いなさい!!」
「お兄ちゃんを困らせる人は、穂乃果ちゃんでもおやつにしちゃうぞ♪」
2人の発言から本気で怒っていることが分かったので、穂乃果と凛は言葉が出なくなってしまう。そんな2人を見かねたのか助け舟をだすことにした。
「落ち着け」
そう言うと、海未とことりは不承不承と言った感じだったが何とか怒りを抑えてもらった。その隙を見計らって悠は穂乃果たちのフォローに入る。
「俺も高坂たちとご飯を食べに行きたいが、まだ小泉たちを救出してないからそんな気分にはなれないのは分かるな?」
「「…はい」」
「だから、今日は各自でゆっくり体を休めよう。こういう時間も大切だぞ」
悠の言葉に穂乃果と凛は一応頷いてくれたが、まだ顔は不満と書いてあった。
「そんな顔するな。小泉と西木野を助けたら、また手料理をご馳走するから」
悠がそういうと、穂乃果たちは手の平を返したように急に笑顔になってはしゃぎだした。
「本当!!鳴上先輩、約束だよ!」
「鳴上先輩の手料理!?楽しみだにゃー!」
そんな2人とは対照的に海未とことりは穂乃果と凛の様子に呆れていた。
「全く…この人たちは……」
「お兄ちゃん、優しすぎ…」
>とりあえず今日はここで解散となった。
<下校時間 通学路>
「ことり、いい加減離れてくれないか?もういい時間だし、叔母さんも心配するぞ」
あの後、学校を出てから穂乃果たちと別れるまで、ことりがくっついたまま付いてきてるので流石に悠も困惑していた。こういうスキンシップはいつものことだが今回は何かおかしい。いつもより意固地になっている感じがするのだが…
「……今日はお兄ちゃんの家に泊まるからこのままが良い」
「え?」
「着替えはまだ持ってきてないから…今から取りに行く…」
ことりはブツブツとそう言ったがその申し出は受けられない。まだ両親や叔母に連絡をしていないし、テレビに入った影響で相当疲労が溜まっているだろうから今日のところは無理にでも帰らせるのがベストだろう。
「ことり、今日はダメだから家にかえ」
「嫌だ!!」
「!!」
突然ことりが大声を出したので悠は仰天した。どうしたのかと思っていると……ことりは悠の腕に顔を埋めて震えながら静かに語りだした。
「怖いの……お兄ちゃんが死んじゃったらどうしようって…思うのが…今日だって……お兄ちゃん…死にそうだったじゃん…また、ことりを置いていくのって……思ったから…だから……今だけでも……そばに居たいの……私は…ペルソナを出せないから……お兄ちゃんのことを……力になれないから……」
ことりは泣きながら己の思いを吐露する。大袈裟なと悠は思ったが【言霊遣い】の伝達力により、ことりの内心を理解出来てしまった。どうやら自分はことりを相当不安にさせてしまったらしい。先ほど、自分が死にそうな場面を目撃してしまったのなら尚更だ。ことりの独白を聞いてそう思った悠は、震えていることりを落ち着けようと背中をさすりながら優しく声をかけた。
「ことり……大丈夫……大丈夫だから…俺はここに居るし…ことりがペルソナを持っていなくても、ことりが傍に居るだけで支えになっているから、そんなこと言うな」
「……本当?」
「ああ、本当だ。俺が嘘をついたことあるか?」
「この間、ことりに嘘ついて別の女の人とデートしたくせに…」
「あ…」
うっかりこの間のトリプルブッキングのことを忘れていた。これは藪蛇だったかと後悔していると、ことりは悠の腕に更にしがみついてこう言った。
「良いよ、もう気にしてないから。それに私もあの後お兄ちゃんにひどいことしたから、今度お詫びする」
「そうか……」
「だから約束して……もう、ことりの前から居なくならないって…お願い……」
「ああ、約束だ。だから、今日は家に帰ろう…な」
「…うん」
悠が優しくそう言うと、ことりは首を縦に振った。結構無理な約束をしたが、悠の心遣いで何とか落ち着けたようだ。久しぶりにことりと一対一で語り合うことができたので、ことりの気持ちが理解できた気がする。
「でも……夕飯は一緒に食べたい…」
「お安い御用だ」
そういうと、ことりは顔を上げて自分を見つめてきた。たくさん泣いたせいか目元は腫れていて顔が少し赤くなっている。月明かりに照らされているせいか、その姿は従妹ながら綺麗に見えた。悠はそのことりの姿にしばし見惚れてしまった。
>ことりの一途な愛情を感じる…
「すみません、ちょっといいかな?」
その声に我に返って振り返ってみるとそこには綺麗な女性が居た。容姿は大人っぽくどことなく上品さが漂っており、髪はエメラルド色の三つ編みで普通の洋服を着こなしている。
「はい……何でしょうか?」
とりあえず悠は平静を保って用件を聞くことにした。
「君たち音乃木坂学院の」
女性がそう言いかけたとき、さっきまでじっとしていたはずのことりが二人の間に割って入り女性を半眼で睨みこう言い放った。
「お兄ちゃんをナンパですか?すみません、お兄ちゃんには私という妹が居るんでそういうのは困るんですけど?」
「え?…」
何を勘違いしたか知らないが、いきなり初対面の人に向かってそれはないだろう。しかも何故か見せつけるように腕を組んでくる始末である。
「いや、別にそんなんじゃ……私はただ」
女性は必死に弁明しようとするが、思い込みが激しくなっていることりにその言葉は届かない。
「じゃあ、何ですか?男漁りたいなら別のところにしてください」
「だから……そんなのじゃ」
いきなり逆ナンした人扱いされて女性は困惑していた。しかも容赦なしにことりが追撃してくるので、落ち着きがなくオロオロしている。こんな人が逆ナンなどしそうには見えないのだが……もしこの人が逆ナンの常習犯ならアカデミー賞を取れるだろう。
「ことり、落ち着け。初対面の人にいきなりそれは失礼だろう」
「お兄ちゃんは黙ってて!この人はお兄ちゃんを誘惑しようと」
もはや通常の対話では無理っぽいようだ。仕方ない。こうなったら、奥の手を使うか
「ことり…それ以上言ったら、今日の夕飯はニンニクを丸ごと使ったものにするぞ」
「!!」
ニンニクの単語を聞いた途端、ことりの顔が青ざめていった。ことりがニンニクが嫌いなことは熟知している。小さい頃、食卓にニンニクが出ただけで泣いていたぐらいなので効果覿面だろう。
「お兄ちゃん……卑怯だよ…」
ことりは涙目で悠にそう言うが、そんなものは受け付けない。
「初対面の人に失礼なことを言ったことりが悪い。ほら」
悠は忘れないうちにと、ことりに謝るよう促した。少々不服そうだったが、ことりは素直に頭を下げた。
「……ごめんなさい」
「すみません、うちの妹が失礼なことを」
悠もことりと一緒に頭を下げる。本当なら怒ってもいいはずなのだが、この女性は中々寛容さがある人物らしく笑って許してもらえた。
「あはは…大丈夫だよ。それにしても仲が良い兄妹だね。私兄妹とか居なかったから少し羨ましいな」
「そうなんですか……兄妹居そうに見えますけど」
「そうかな?でもね…学校の寮に入ってた時、お兄さんみたいな人がいてね」
見知らぬ女性と兄妹のことで話が弾んでしまった。ことりはその様子を見て面白くなさそうに半眼で見つめて話に割って入る。
「聞きたいことがあるんじゃないんですか…」
「あ!そうだった……ごめんね、話が脱線して」
「いえ、そんなことは」
互いに謝りながら、悠は用件を聞くことにした。
「君たち音乃木坂の生徒さんだよね?」
「そうですけど」
「お、音乃木坂学院ってどこにあるのかな?…道に迷っちゃって」
どうやら道を尋ねただけのようだ。しかし、この時間だと学校は閉まっているはずなのに何の用があるというのだろうか?
「ああ、学校ならこの先を右に曲がって真っすぐ行ったところにありますけど……」
「あ、そうなんだ。すぐ近くだったんだね………え?」
すると、女性は少し驚いたような表情で悠の顔を覗き込んだ。天然ジゴロ(マーガレット命名)の悠でも美人に顔を覗き込まれるのは気恥ずかしいし、その様子をことりがまた半眼でこちらを睨んできているので冷や汗が止まらない…
「な、何か…」
「あ!ご、ごめんね!ちょっと知り合いに似てたというか……」
「ハア……」
「そ、それじゃあこれで。道を教えてくれてありがとうね」
女性はそう言うと慌ててその場を去っていった。一体何だったのだろうか、あの女性は
「……ことりの将来の旦那さんにちょっかいを掛けるなんて」
「は?」
「何でもないよ♪お兄ちゃん、早く行こう!ことりもお腹減っちゃった」
「わ、分かったよ…」
今なにか聞き捨てならないことを呟いていた気がしたが……そっとしておこう。触らぬ神に祟り無しというやつだ。とりあえず自分も今日の戦闘のせいでお腹が減っているので、早く帰ってご飯を作ろうと家路を急いだ。
「今の子って、もしかして……ペルソナ使い?…それに……あの人と同じ……」
<鳴上宅>
ことりの家で夕食を取って、明日のためにと今日は少し勉強をしてから寝ることにした。勉強がひと段落して時刻をみると、もうすぐ午前0時であった。今日の天気は雨ではないが、一応確認しようとテレビを覗き込んだ。
すると…午前0時になったと同時にテレビが光り、どこか高級感の漂うクラブの風景が映し出された。それを見て、去年の修学旅行で特捜隊のメンバーと行った辰巳ポートアイランドのクラブを思い出していると…
『はーい!こんばんわー!!貴方の花陽ちゃんです!』
『こんばんわー!真姫ちゃんでーす!』
突然画面にドレスを着こんだ行方不明の花陽と真姫が現れたので、悠は思わず転びそうになった。2人の恰好はドレスなのだが、以前特捜隊メンバーの雪子の影が来ていたものとちょっと違う…少し露出が多めのものを着ているので目のやり場に困る。
『今日はテレビのみんなにお知らせしたいことがあるんだ~』
『私たちがやってるお店なんだけど~お客さんが少ないせいか、もうすぐ閉店しちゃうの~』
『そこで~閉店までとっくべつにお客さんに色んなサービスを実施することにしましたー!』
『あんなことから〜こんなとこまで〜色々しちゃうから、皆ぜひ来てね♪』
『閉店までそんなに時間ないけど~私たち張り切っちゃうから期待しててね!待ってるからー!』
花陽と真姫が誘惑するようにそう告げたと同時にテレビは消えた。しばらく呆然としていると、携帯電話の着メロが鳴ったので通話ボタンを押した。電話してきたのは、海未だった。
『な、鳴上先輩!!今、テレビが』
「見たのか?」
『み、見てしまいました……あ、あんなの…ハレンチです!!』
「ああ、録画すれば良かったな」
『……………』
ーto be continuded
Next Chapter
「行くぞ」
「これは……」
「は、ハレンチです!!」
「やめて!」
「アンタなんか…アンタなんか……」
「絶対負けないにゃ!ペルソナ!!」
Next #14「I want you to see me」