PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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お久しぶりです。ぺるクマ!です。

更新を4ヶ月以上も待たせてしまい申し訳ございませんでした。
仕事を辞めて大学院を目指すことになったので、退職手続きや引っ越しなどの作業でバタバタしていて、中々執筆の時間を取れなかったので、これから徐々にペースを上げていきたいと思います。
もう最終章の構成はできてるんですが、文字に起こすのはとても難しいですね…(笑)

改めて、新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございました!
今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。


それでは、本編をどうぞ! 


#119「Love & Comedy ~Cinderella~2/2.」

 前回までのあらすじ

 

 ラブライブ本選も近づいたとある日、不吉な夢を見て気が動転した悠は希から“甘えてもいい”というアドバイスを受けた。しかし、如何せんリーダーや兄のポジションを貫いてきた悠は他人に甘えるということ自体よく分からなかった。

 そこで、ネコさんのアドバイスを受けて学童保育のバイトをすることになった。その助っ人として、花陽を呼んだ悠だったのだが、

 

「……」

 

 この通り、花陽は不機嫌だった。お陰で精一杯おしゃれしてきたであろうメイクや洋服で作られた可愛らしい顔が険しくなっている。

 元はと言えば、勘違いしてしまう誘い方をした悠に原因があるのだが、デートだと勘違いした花陽は真実を知った途端、隣を歩く男に対する怒りや勘違いしてしまった自己嫌悪などで心情が複雑になってしまったのだ。

 やはりこうなったかと事情を察したネコさんですらやれやれと傍観を決め込む始末。

 

 そんなネコさんが本日2人を手伝いに連れてきたのは【藤村児童館】というところだった。

 

 

「よくぞ参られた! 強大な敵に立ち向かおうとする勇者たちよっ!!」

 

 

 正門をくぐると、RPGでよく聞くセリフが甲高い声と共に聞こえてきた。突然のことに悠と花陽は仰天したが、ネコさんはその声を聞いた途端げんなりした。

 

「はあ~、やっぱりここにはアンタがいるわけだよねえ」

「やっほ~、オトコ~! 待ってたよ」

 

 すると、いつの間にか目の前に茶髪の元気そうな女性が姿を現していた。おそらく今の声はこの女性のものだろう。

 

「オトコ言うな。全くアンタがいなさそうな日を狙ったっていうのに……相変わらず騒がしいね、タイガー」

「タイガー言うなっ! あんただって相変わらずじゃないか、オトコ」

「だからオトコって言うなって言ってんだろ!?」

 

 互いに罵り合う音子とタイガーと呼ばれた女性の様子に悠と花陽は唖然としてしまった。

 ちなみに、このタイガーという女性は“藤村大河”と言う名前で案の定ネコさんの腐れ縁、つまり悠の父親とも同級生だったらしい。

 何だかどこかで見たことがあるような感じがするのだろうが、気のせいだろうか。

 

「んっ? んんっ? ねえオトコ、この子があいつの息子?」

「えっ?」

「へえ、本当にあいつそっくりだわ。顔もそうだけど、雰囲気とかさ」

「だろ? あたしも最初会ったときはあまりに似すぎてびっくりしたもんさ」

 

 大河はふと悠の存在に気付くと懐かし気にまじまじと悠を観察し始めた。何だか珍獣を見つけたような感じで見られるのは、こそばしい。

 

 この時、不機嫌な花陽はすっかり蚊帳の外だった。

 

 

 そして……

 

 

「は~い、みんなちゅうも~く! 今日来られなくなった言峰先生の代わりに来てくれたお兄さんとお姉さんよ~! 元気に遊んでもらいなさい」

 

 

ワアアアアアアアアアアアアア

 

 

 大河さんの活気ある紹介に児童たちの歓声が沸き上がる。

 思っていたものと少し違ったが、何だか楽しそうな学童保育でよかったと悠は思った。

 

「…………」

 

 だが、それに反して隣の花陽は不機嫌なまま。否、更にひどくなっている気がする。

 理由は、おそらく先ほど気合を入れて選んだ洋服や靴などは全部大河にひん剥かれて、無地のジャージとスニーカーに着替えさせられたからだろう。おまけに強制クレンジングまでされてしまった。

 いきなりひん剝かれて何故ジャージなのか、パワハラではないかと花陽が激しく抗議したところ、

 

「動きやすく汚れてもいい格好である! 児童たちのお世話に、おしゃれ心など必要なし!!」

 

 とのことだった。加えて、あんな高そうな服を子供たちが汚してしまったら、花陽にも親御さんにも申し訳ないんだと言っていたが、納得いかない。十分にパワハラに値しそうな発言もあるが、せっかく悠のために着てきたのにこれでは意味がないではないか。

 そんな花陽の心情を知らず、状況に冷や汗をかきながらも悠と花陽の学童保育のバイトが始まった。

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ、あそんであそんで~!」

「はなよせんせい、わたしもわたしも」

「わたしも!」

「ああちょっと待って~~!」

 

 初めてのバイト、更に子供の面倒をみるということに慣れていないのか、花陽はあたふたとしていた。次々と襲い掛かる子供たちのお願い攻撃。一つだけでも聞くのに精一杯なのに、一斉に来られてはたまったものではない。

 花陽は開始早々にあたふたとしてしまった。

 

「はい、できたぞ」

「わあ、ゆうせんせいありがとう!」

「ゆうせんせい、つぎはわたしとあそんで~」

「いいぞ、ちょっと待ってくれ」

 

 それに対して、悠は手慣れたように児童たちの相手をしていた。

 去年、学童保育のバイトをした時なんて、今世間で問題になっているモンスターペアレントみたいなものに関わってしまったので、それに比べればなんてことない。みんな元気な菜々子だと思えばいいのだ。

 そんな悠だからか、男の子はもちろんだが、特に女の子に人気だった。

 

「わあ! おにいさん、上手」

「たまたまだ。これは君にだな」

「わ~い! おにいさん、ありがとう!!」

 

 おままごとで遊んでもらった上に、鶴の折り紙というプレゼントを貰った女の子はとびっきりの笑顔を見せてくれた。

 

「……トウンク」

「???」

「な、何でもない」

 

 今何か悠の中でよからぬ感情が芽生えた気がする。そんな予感がした花陽は悠にジトっとした目を向けた。

 

 

 

 

 しばらくして……

 

「はあ~……」

 

 あまりに活気ある児童たちの相手に疲れてしまったので、花陽は隙を見て休憩を取っていた。正直児童たちの世話を舐めていた。こんなことを日頃からやっている保育士の皆さんには敬意を表する。もっと優遇されるべきなのではないかと花陽は思った。

 

「な~によ、こんなところでため息ついちゃって」

「……藤村さん」

 

 休憩を取っていると、いつの間にか背後にいた大河が話しかけてきた。

 

「あなたも大変だったみたいね。本当は今日デートだったんでしょ?」

「えっ?」

「やっぱりあいつの息子よね。散々思わせぶっておいてさ、結果は全部勘違いで終わるんだもの。あたしも何度も煮え湯を飲まされたもんだか」

 

 いきなり核心をついてきた会話にぎょっとしてしまった。

 どうやら大河たちの学生時代でも、悠の父親は色々とやらかしていたらしい。だからなのか、花陽の不機嫌な様子と理由についても、あらかた察していたようだ。

 束の間の会話だったが、何故か大河の様子にある考察が浮かんだ花陽は何気なく聞いてみることにした。

 

「……藤村さんも、悠さんのお父さんのこと、好きだったんですか?」

「んん~……どうだったかしら? まあ、好きだったんじゃない」

 

 あっさりとした答えだった。

 何となくだが、その雰囲気がどこか達観したようなものだったのが気になった。

 

「……何で好きになったんですか?」

「さあ? 何でだったかな? 正直あんまり覚えてないのよね。まあ一緒に過ごすうちに好きになったって感じかな?」

「はあ……」

「でもね、負けたって確信したときのことは明確に覚えていることはあるわ」

「えっ?」

「あれは卒業して5年くらい経った時だったかな?」

 

 そうして、大河は花陽にとある思い出を語った。

 高校を卒業して五年後、久しぶりに地元に集まって祭りで同窓会みたいなことをしようと当時の同級生たちが集まった。

 その時、悠の父親に想いを寄せている女性陣が絶対にこの祭りで悠の父親をものにしてみると息巻いており、大河もその一人だった。

 だが、悠の父親と共に現れたのは見たことがないぽっと出の女。後の悠の母親だったらしい。

 ぽっと出の女の登場に皆は驚いたが、そんなことは気にせず女性陣は彼にアピールを始めた。そして、彼は普段親しい女性には軽く褒めの言葉を掛けた。

 だが、不思議なことにぽっと出の女性には何も言わなかった。大河はそれに違和感を覚えた。

 

 そして、()()()()()()()()()

 

 度々見せつけられた熟年夫婦のような2人のコミュニケーション。言葉を交わさずとも、彼が出店の食べ物を食べ終えれば彼女はサッとそのゴミを受け取り、彼も彼で彼女の好みの味などを当たり前のように把握していた。

 以心伝心とはまさにこのことだろうと思わせる隙のない行動に、大河たちは思い知らされたしまった。

 

「なんかさ、納得しちゃったんだよね。あいつの隣にふさわしいのはあいつだって。それで、あいつを狙ってた女はほとんど諦めたわ。私を含めてね」

「…………」

「まっ、とんだダークホースが現れたものよね。私は正直ネコとくっつくんじゃないかって思ってたんだけどさ」

「えっ?」

「まっ、あなたも悔いのないように行動しなさい。自分がこれだと思った時に行動しなかった時の後悔ったら、辛いものはないわよ」

 

 そう言うと、大河は再び児童たちの輪に入るために、クールにその場を去っていった。しかし、今の大河の言葉は花陽の心を何気なく締め付けたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、お昼寝の時間になった。

 悠の即席で作ったお昼ご飯が好評で、児童たちは満足感か幸せそうに寝そべっていた。ついでに何故か大河まで児童たちと寝そべっているのだが、責任者として如何なものだろうか? 

 これではどうしようもないので、悠と花陽はそっと教室を後にして、別室で休憩を取ることにした。

 

「はあ、大変でしたね」

「ああ」

 

 別室についてひと段落着くと、一気に疲れが出てきた。

 花陽はともかく、去年様々なバイトをこなしてきた悠ですら、テーブルに身体を預けてぐったりとしている。

 正直男の子たちとサッカーを一緒にやったとき、“ファイヤートルネードやって”だの“ゴッドハンドかマジン・ザ・ハンドをやって”と言われたときは冷や汗がでたものだ。ここでペルソナが使えたらイザナギを化身と称することができただろうが、それはそれで色々と怒られそうだ。今だって、あの作品は色々と大変なのだから。

 

「で、肝心の甘え方はわかりましたか?」

「全然」

 

 その言葉に花陽は椅子からずっこけそうになった。今回のバイトの目的はあらかた聞いていたが、まさかの無収穫に呆れてしまった。

 

「でも、段々とトウンクという感情は分かってきた」

「それは分からなくていい感情です」

 

 更に、余計な感情を覚えてしまった悠に花陽は再びジト目を向ける。

 ここに来た理由は一応聞いてはいたが、一体何しに来たんだ。私の我慢を返してほしいと花陽は思った。

 

「どうせなら、私にトウンクすればいいのに……」

「えっ?」

「ななっ!? 何でもないですよっ!」

 

 思わず本音を含んだ小言に慌てだす花陽。

 それはそうと、菜々子よりも年下の相手にその感情を抱くのはまずい。これは早々に何とかしなければ。ならいっそここで。

 そう思った時だった。

 

 

「大変よっ!!」

 

 

 バンっと扉が開いて誰かが入ってきた。そこにはかなり焦った顔の大河が息を切らしていた。

 

「藤村さん、どうしたんですか?」

「どうもこうも、子供たちが喧嘩しちゃったのよ!?」

「「えっ?」」

 

 

 

 

 

 

 

「ぼくの方が先だったんだぞっ!!」

「いいや、ぼくの方が先だった~~!!」

 

 現場に急いでたどり着くと、まさに喧嘩の真っ最中だった。おもちゃの取り合いという訳でもなく、どっちが先だったかを争って言い合いになっている様子だが、どういうことだろうか? 

 

「落ち着け。一体どうしたんだ?」

 

 こんな状況に手慣れている悠は一旦間に入って事情を聴くことにした。すると、

 

「だって、こいつが()()()()()()()()()()って言うからっ!!」

「……えっ?」

 

 衝撃の事実。まさかの内容に言葉を失ってしまった。

 どうやらこの子たちは午前中に不器用ながらも一生懸命遊び相手になってくれた花陽に一目ぼれしてしまったようだ。

 

「ぼくが先に花陽先生のこと好きになったんだぞ!」

「いいや、僕の方だって!」

「絶対ぼく!」

「ぼくっ!」

「…………」

 

 これは予想外の展開だ。この子たちぐらいなら、花陽に惚れてもおかしくないが、そんなことで喧嘩になるだろうか。

 

「あらあら、花陽ちゃん人気者ね」

「大河さん……」

 

 当の本人は既に微妙な表情を作っている。責任者の大河は他人事のように煽っているが、この事態、どう収拾するべきだろうか。すると、

 

「こらあっ!?」

 

 喧嘩する男の子たちにそう怒りながら近づいてくる子が一人現れた。あれは確か、午前中に悠がトウンクした女の子。

 

「何やってんの。しょうもないことで喧嘩して! 悠先生を困らせないでっ!」

 

 ままごとをしていた時と打って変わって強気に出ている女の子。どうやらままごとをする時と地の時は別人になるらしい。将来は役者かなと不本意に思ってしまった。

 

「しょ、しょうもないことってなんだよ!」

「ぼくたちはしんけんなんだぞ!」

 

 男の子たちも一瞬怯んだものの、負けじとそう主張する。しかし、それを聞いた女の子はやれやれと首を横に振った。

 

「あのね、()()()()()()()()()()()()()()なんだよ! あんたたちなんて目じゃないの!!」

「「えっ?」」

 

 

「ええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」

 

 

 突如として、落とされた爆弾。館内に響いたのは男子たちではなく花陽の叫び声だった。

 

「ちょちょちょちょっと~~~! 何言ってるの~~~~!!」

「だって、花陽先生と悠先生って付き合ってるんでしょ? 見たらわかるもん」

「あっ……えっと……その」

「そうなんでしょ? 悠先生?」

「えっ……ええっと……」

「あわあわわわわわわわわ」

 

 花陽は今日一番に心が乱された。まさかこんな小さな子に自分の秘めたる想いをばらされるとは思ってもみなかった。

 現に思い人である悠もどうコメントしたらよいのか分からないのか、困惑していた。

 状況は更に混沌を極めている。ここはどんな選択肢を出すべきか。

 そして、そうする前に更に事態をややこしくする者が動き出した。

 

「そうなのよ! かなちゃん分かってるわね~。そうそう、この子たち今年からお付き合いしてるのよ~」

「た、大河さんっ!?」

 

 大河の話を聞いて、周りにいた児童たちが一斉に色めき立つ。

 もちろんこれは女の子の想像に悪乗りした大河の根も葉もない作り話なので、矢面に立たされた2人は困惑する。特に花陽は現況を処理することができず、顔が真っ赤っかだ。

 

「もうね、手を繋ぐことはもちろんね、あんなことやこんなこともしてるんだって~。キスもしたらしいわよ~」

「「えっ?」」

 

 その話に男の子たちは反射的に花陽の方を見ると、花陽は未だ顔を真っ赤にしたまま俯いている。あの反応はまさにその話が真実なのだと受け取れた。

 

「だから、アンタたちに付け入る隙はないってこと。諦めて次の恋を見つけなさい」

 

―!!―

 

 ガーンと効果音が聞こえた気がした。大河のホラ話に青ざめた表情をみせた男の子たちはとぼとぼと肩を落として去っていった。

 この女性、子供にも容赦ないのか。ホラ話とはいえ、あまりに可哀想すぎる。

 それに、大河と子供たちに凄い爆弾を落とされた悠と花陽はしばらく顔を合わせることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「あなたたち、今日はありがとね! お給料は後でネコに渡しておくから」

「「……はい」」

 

 ということで、本日の学童保育のバイトは無事終了。帰り際に大河から御裾分けだと大量のさつまいもを頂いた。何でも実家の祖父から送られたものらしいが、かなりの量を貰ったので、段ボール箱が重い。

 

「……」

「……」

 

 バイトが終わったのはいいが、未だ顔を合わせるのが気まずい2人。会話は続くことはなく、帰り道の静けさが痛ましい。

 この気まずさを紛らわそうと花陽は何とか話題を振り絞った。

 

「……それ、どうするんですか?」

「……しょうがないから、今度この芋を使って穂乃果たちと焼き芋大会をしよう。その方が良いと思うし」

「そ、そうですね……」

「……」

「……」

「……そう言えば、稲羽ではやらなかったな」

「そうなんですか? てっきり陽介さんやクマさん辺りがジュネスから持ってきてやってそうな気がしましたけど」

「いや、多分それどころじゃなかったから……」

 

 ちなみに地域によっては焚火が禁止されているところもあり、その上火元の扱いには注意が必要なので、この季節に焼き芋をやる際は注意してください。

 

「……」

「……」

 

 だが、会話が続かない。

 話題を続けようにも何故か続かないのだ。

 

「あ、あの……悠さん、今日はありがとうございます」

「あ、ああ……」

「……」

「……」

 

 更に続かない会話。そして、沈黙が2人の間に更に溝を作った。

 だが、そんな中で花陽は考えていた。大河に言われた言葉が引っかかる。

 

 

“あなたも悔いのないように行動しなさい。自分がこれだと思った時に行動しなかった時の後悔ったら、辛いものはないわよ”

 

 

 あれは花陽の心にずっと残っていた。あの言葉はまるで失敗した先輩からのアドバイスのように感じたからだ。

 このままではダメだ。花陽はそう奮起した。

 

「……悠さん」

「どうした?」

「あの、ちょっと疲れちゃったんでおんぶしてもらってもいいですか?」

「えっ?」

 

 花陽はわざとらしく痛そうに訴える。上手くも下手くもない演技だが、今日の仕事や児童との騒ぎで疲れたのかと思って、悠は花陽をよいしょとおんぶした。

 

「大丈夫か?」

「はい。悠さんの背中がとても大きくて居心地がいいです」

「そ、そうか…」

 

 そう言われると、どこかこそばゆい。それに背中越しに伝わる花陽の身体の柔らかさなどが悩ましい。

 

「悠さん、甘えるってこういうことですよ」

「??」

「自分が疲れている時とか、しんどい時にこうやって助けてもらえばいいんです。悠さんはずっと私たちのために頑張ってきたから、しんどい時は私たちに頼っていいんですよ」

「……」

「去年だって、陽介さんに甘えたこと、あるんでしょ?」

「えっ? 知ってたのか?」

「いいえ、何となく。悠さんが菜々子ちゃん以外に甘えるとしたら陽介さんかなって」

「……」

 

 自分と陽介はどう見られているのだろうかと悠は少し心配になってしまった。

 そんな悠を間近で見ている花陽は嬉しそうだった。

 

「だから、悠さんもこの先辛いことや悲しいことがあったら、私や真姫ちゃんたちに甘えて下さい。みんなもそう思ってますよ」

「……ありがとう。花陽」

「はい。それと悠さん、ちょっとこっちを向いてもらっていいですか?」

「??」

 

 不意にそんなことを言われたので、振り返ってみる。

 

 

チュッ

 

 

 すると、同時に上唇に優しい感触が伝わった。待ち構えていたであろう花陽の人指差しと自分の唇が少し触れ合ったのだ。

 そして、花陽は触れた人差し指をそっと自分の唇に当てる。

 

「なっ!?」

「ふふふ、間接キスしちゃいましたね」

 

 思わぬ出来事に悠は目を見開いて狼狽した。間接だったとはいえ、キスしてしまった。そんなあふためく悠の様子に花陽はおかしくなって思わず笑った。

 

 

「悠さん、今日は本当にありがとうございます。大好きです」

 

 

 夕日を背に花陽はニコっととびっきりの笑顔を向けた。

 

 

 後日、学校側にきちんと許可を得て、μ‘sメンバーによる焼き芋大会が行われた。その際、花陽がメンバーからかなりに詰問に追われてしまったのは、別の話。

 その話題でメンバーが沸き立っている間、悠は明後日の方向を向いていたが、頬を真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 桐条グループが所有する都内のビルの一室。そこは異様に冷たい空気で包まれていた。

 

「白鐘、本当にいいのか? 鳴上様たちに何も言わず、この人物を捕縛すると?」

 

 桐条グループの社長令嬢兼シャドウワーカー隊長である美鶴が対面に座る探偵王子こと直斗にそう問いかけた。

 

「……ええ。あの人たちは何も知らなくていい。何も知らず、ラブライブで優勝して……普通の青春を送ればいい。それが、あの人たちにとって傷つかない方法です」

「鳴上が、それを容認すると?」

「……もうあの人に、大切な人が目の前で傷つくのを見せたくないだけです。あの人が傷つくのは、もう十分です」

 

 昨年の稲羽市で起こった連続殺人事件から最近起こった彼の叔母が誘拐された事件まで、自分の恩人は何度も傷ついている。例え彼が追っている黒幕が、自分もよく知る()()()()だったとしても、もう彼にはこれ以上傷ついてほしくない。だから、この件は自分が片を付ける。

 そう語る直斗の目には、美鶴が慄いてしまうほどの覚悟を決めた冷徹な光を宿していた。

 

 

 物語は終盤へ。

 それぞれの思惑が交錯するとき、過去最大の戦いが始まる。

 

 

To be continuded.




今話を最後まで読んで下さり、ありがとうございます。いかがだったでしょうか?

次回から本格的に最終章に突入します。
どんな展開になるのか、真犯人は誰なのか、楽しみにして下さい。

話は変わりますが、PERSONA4のSwitch版が来年の1月に発売されると聞いて、テンションが上がりました!まあPSVita版とそんなに変わらないと思いますが、できたら追加コミュであいかを…なんて考えますが、ダメですか?

それに、最近は【ダンまち】4期や【BLEACH 千年血戦編】、【チェンソーマン】など面白いアニメもいっぱいあって良きです。
ポケモンSVも来月発売されますね。私は多分”ニャオハ”を選ぶかな?キャルちゃんに似てるから

次回もなるべく早く更新したいと思いますので、それまでお待ちください。

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