PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
今回は結構長めに書いてしまったのですが、あまり話が進んでいないような…
それと最近執筆している間に考えたのですが、ベルベットルームの住人であるマーガレットって、髪は金髪と銀髪のどっちなんですかね?ゲームでは銀髪だったんですが、アニメでは金髪なんですよね。戯言ですので流してください。
今更ですが、理事長のみならずラブライブ!に出てくる母親に勝手に名前を付けちゃいました。作者的に、イチイチ『○○の母』とか書くのは少し抵抗があったので。今のところ
理事長(ことりの母)→南雛乃
穂乃果の母→高坂菊花
真姫の母→西木野早紀
となっています。まだ海未や花陽などの母親が登場するので、また勝手に名前を付けることになりますが、ご容赦ください。穂乃果のお父さんの名前も考え中です。どうでもいいですね。
そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方々、ありがとうございます!読者の皆様の感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。
前回の話を書き終えた後からたくさんの評価をいただいたので、作者としてはとても嬉しい限りです。まだまだ拙いところがありますが、これからも読者が楽しめる作品を目指して頑張りたいと思いますので、応援よろしくお願いします。
それでは、本編をどうぞ!
<昼休み 屋上>
花陽と真姫が行方不明になったと聞いて、悠たちはいつもの屋上でお昼を食べながら作戦会議を開くことにした。
「みんな、集まったな」
「うん!みんな集合したね」
現在屋上にいるのは、悠・穂乃果・海未・ことりのいつものメンバーである。ここなら誰も来ないので気軽に事件の話ができる。この感じは八十稲羽で特捜本部に集合した時を思い出させた。早速悠は本題に入った。
「それで高坂、今朝言ってた小泉と西木野が行方不明になったという話は本当なのか?」
「うん!」
「残念ながら、間違いないようです。確認もしましたし」
「私も確認したよ、お兄ちゃん」
海未は学校に着いて早々一年の教室に赴いて花陽のことを訪ねたらしいが、そこで花陽の親友という人物から、今朝から花陽は自宅から居なくなったという情報を得たらしい。また、ことりは雛乃の伝手を使って西木野家に連絡を取ったところ、同様の情報を得たという。自宅から失踪したとは…これではまさに希と直斗が言っていた【音乃木坂の神隠し】のようだ。
「それにしても、昨日会ったばかりなのに行方不明って……やはりその【マヨナカテレビ】というのは本当なんでしょうか?」
海未はテレビの世界を体験したばかりであるせいか未だに現在の状況が信じられなかった。
「正確には【音乃木坂の神隠し】だな。俺が去年体験したものとは多少違う部分があるからなんとも言えない。小泉と西木野は今日無断欠席ということになっているらしいが、実際あれが映った後に行方不明ってことはもうあっち側にいるかもしれないな」
「そんな………あんな危険なところに」
海未はあの世界での出来事を思い出したのか少し顔色が悪くなっていった。それを聞いた穂乃果とことりも若干顔色が悪い。あの世界で死ぬかもしれない体験をしたのだ。悠がいなかったら、今頃生きているのか分からない。
「危険な場所だからこそ、俺たちが助けに行かないといけないんじゃないか?」
悠がそういうと3人は顔を上げた。
「俺たちはあの世界に対抗できるペルソナを持っている。他の人はこのことを知らない。なら、あの2人を助けられるのは俺たちしかいないんだ。へこたれてる場合じゃない」
悠の力強い言葉によって、穂乃果たちの顔に生気が生まれた。
「そうですよね……私たちにしかできないんですよね!なら、先輩の言う通りへこんでる場合ではありません!!」
「わ、私はペルソナ?はまだ持ってないけど……やるだけのことはするよ!」
「私も!」
>4人が決意を固めた。
しかし、まだペルソナを持っていない穂乃果とことりをあの世界に行かせるわけにいかない。ひとまず、探索はペルソナを所持している悠と海未が行い、残りの二人は現実に待機して情報収集という流れに決定した。本当は同じ東京にいるりせや直斗にも協力をお願いしたいところだが、りせは芸能界復帰の準備で忙しいだろうし、直斗も桐条グループの調査をしているせいか連絡がつかなかったので断念した。
計画が万全に整ったと同時に、悠の携帯が震え始めた。穂乃果たちに断りを入れて画面を見てみると『非通知』と書いてあった。一瞬出るべきか戸惑ったが電話番号をみると覚えのあるナンバーだったので、悠は出ることにした。
「もしもし」
『お取込み中に申し訳ございません。マーガレットでございます』
電話の相手はマーガレットだった。おそらく何かの道具でベルベットルームから電話しているのか少しピアノの音も聞こえていた。用事はなんだ?と聞くと、マーガレットはこう返してきた。
『貴方にご報告することがありましたので、こうしてご連絡させてもらいました』
「報告?」
『本日あの世界に迷い込んだ失踪者の救出に向かうおつもりでしょうが、どうやら貴方たちにとって不都合なことが起こったようです』
「不都合なこと?」
『先日お客様があの子たちの救出に使ったルートですが、何者かによって貴方の世界とのつながりが遮断されたようです』
「なんだと…じゃあ」
『ご察しの通り、前回お客様が使用したテレビからあちらの世界に行き来することが不可能となりました。貴方のペルソナ能力をもってしても同じ場所に行くことはないかと』
それは大問題だ。その何者かは知らないが勝手なことをしてくれたものである。今のところあのルートしか手段がないので、今度はどこからあの世界に入らなければならないのか。そう思っているとマーガレットが唐突にこんなことを言ってきた。
『心配はいらないわ。もう手は打ってありますので』
「え?」
「あれ?これって……テレビかな?」
マーガレットの言葉に疑問を持っていると、突然穂乃果が屋上の隅であるものを発見した。穂乃果の方に近寄ってみると、そこには人間が1人は入れるサイズの薄型テレビが置いてあった。
「これは」
「確かにテレビですね」
「こんなの屋上にあったっけ?」
このテレビの発見にみんなは困惑した。こんなの昨日まではなかったはずなのだが……
『フフフ、私からの贈り物に気づいたようね』
「贈り物?」
どうやらこのテレビはマーガレットからの贈り物らしい。どういうことなのか
『先日は貴方たちに素晴らしい催しを見せてくれたお礼と思いまして、そのテレビからあの世界に行き来できるように手配いたしました。これからはそのテレビからあの世界を出入りできるはずです』
悠は開いた口が塞がらなかった。このテレビからあの世界に行ける?…もしかして
「それって、マリーを助けるときと同じことをしたってことなのか」
今年の2月に特捜隊メンバーとスキー旅行に出かけた際、マリー救出のために『虚ろの森』に行ったときのことを思い出した。あの時、その『虚ろの森』とこっちの世界をテレビでつなげたのは他ならぬマーガレットだったのだ。
『その通りよ。それに、そのルートは私たちベルベットルームの住人にしか干渉できないようにしてあるから、また行先を遮断される心配はありません』
何はともあれ使うはずだったルートを塞がれた今、マーガレットが用意してくれたルートを使うべきだろう。
「ありがとう、マーガレット」
『礼には及びません。私たちの役目はお客様の旅路を手助けすることでございますから、これくらいのことは当然のことです』
「でも」
『強いて言うなら、またあの子たちの催しが見たいわ。次も期待しているとあの子たちに伝えてくださるかしら?』
どうやらマーガレットはすっかり穂乃果たちのファンになったようだ。それならお安い御用だと悠は思った。
「分かった。高坂たちに伝えておく。改めてありがとう」
『フフフ、貴方たちがあの世界でどのような物語を紡ぐのか、楽しみにしているわ』
そういってマーガレットとの通話を終えた。とりあえず、穂乃果たちにマーガレットと話したことを伝えた。
「じゃあこれは、そのマーガレットっていう鳴上先輩の友達が用意したってこと?」
「そういうことだ」
「すごーい!そのマーガレットっていう人!今度会ってみたいな」
「…鳴上先輩の交友関係はどうなってるんですか?」
「お兄ちゃん、すごいね!!」
海未からは陽介と同じようなことを言われ、ことりからは的はずれなことを言われた。ともかく、マーガレットのおかげであの世界に行く手筈は整った。早速今日の放課後に屋上に集合してあの世界にダイブすることにした。
>必ず2人を救い出して見せる!
そう決意して悠たちは静かに放課後になるのを待ったのであった。
<放課後 屋上>
HRも終わり屋上に集合した悠たち。クマ特製メガネも穂乃果たちに渡してあるので準備は万端だ。まず、悠がテレビに触れて入れるかを確認する。すると、予想通りテレビの画面が水面のように揺れて、触れた手がテレビの中に入っていた。
「おお!すごーい!本当にテレビに入れるんだ!!」
「こ、こんなのに入って大丈夫なんですか?」
「お、お兄ちゃん!大丈夫!?」
穂乃果たちの反応は三者三様だが、みんな見慣れない光景に驚いていた。探索班である海未はテレビに入るのが不安なのか、少し緊張していた。一方悠はテレビの中に手を突っ込んでも問題ないと知ると、安心したという笑みを浮かべている。
「よし!大丈夫だ。それじゃあ、行くぞ!」
そう言って、悠は八十稲羽の時と同じく頭からテレビの中に入ろうとした。
「ちょっ、ちょっと!!鳴上先輩!!」
「待ってください!まだ心の準備が」
「お兄ちゃん!!」
先にテレビの中に入ろうとする悠を穂乃果たちが慌てて止めようとする。しかし、ここで不測の事態が発生してしまった。
「すみませーん!!ここがかよちんが言ってた………え?」
誰かが屋上にやってきてしまった。振り返ってみると、オレンジ髪のショートカットの女子生徒が穂乃果たちの状況を見て、目を点にしていた。
「あ、貴女は……」
海未もその少女に見覚えがあるのか驚いた顔をしていた。
「ん?どうした?誰か」
「な、鳴上先輩!!早く入って!!」
「うお!!」
予測してなかった非常事態にパニックになったのか、穂乃果が悠を押しのけてテレビに落としてしまった。
「あ……」
穂乃果はパニックになったとはいえ自分がしてしまったことに気づき、顔が青ざめてしまう。
「ほ、穂乃果!!何を!!」
「穂乃果ちゃん!お兄ちゃんに何をしたの!!お兄ちゃんに何かあったら」
「こ、ことりちゃん!ごめんって!わざとじゃないんだってば!!」
ことりがすごい剣幕で迫ってきたので、穂乃果はしどろもどろになってしまう。しかし、慌てるべきはそこではない。
「て、テレビに人が…入ったにゃ………」
ショートカットの少女は人がテレビに入るというありえない光景を見て呆然としていた。思いっきり一般人にありえない光景を見られてしまったので、海未は何とか取り繕うと説得を試みた。
「こ、これはですね……ま、マジックというか」
流石にマジックというのは無理があるのではなかろうか。しかし…
「海未ちゃん!早く入ってよ!!急がないと西木野さんと花陽ちゃんが……」
せっかく海未がなんとかしようとしたのに、穂乃果はまだパニックになっているのか口を滑らせてしまった。
「は、花陽?かよちんのこと?……それに西木野?……」
「こら!穂乃果!!何を言ってるんですか!!」
穂乃果のせいで、事態はどんどん悪化していく。
「穂乃果ちゃん?……お兄ちゃんの名前はでなかったけど?………お兄ちゃんはどうなってもいいってことかな?へぇ……」
「いやいや、違うよ!そりゃ、鳴上先輩も心配だけど!!というかことりちゃん、最近鳴上先輩のことになると何か怖いよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!どうするんですか!!この状況!」
3人が揃ってパニックになって言い争っていると、呆然としていた少女が口を開き始めた。
「まさか……あなた達は……」
「いや、これはね…」
次の少女の発言がその場を凍らせることになった。
「あなた達が、かよちんや西木野さんを誘拐した犯人かにゃ!!」
「「「え?」」」
少女の衝撃発言に3人は唖然としてしまう。
「きっとあなた達はさっきの人みたいに、そのテレビみたいな箱に入れてかよちんたちを誘拐したんだにゃ!!去年も田舎町でそういう事件があったから、そうに違いないにゃ!!」
まさかの誘拐犯扱いをされてしまった。去年の事件とは、稲羽市で起こったあの連続殺人事件のことだろう。一応あの事件は全国ネットで報道されているので知っててもおかしくない。しかし、どう勘違いをされたかは分からないが、このままでは面倒なことになるのは明白だ。最悪花陽たちを誘拐したと冤罪を被せられるかもしれない。
「ち、違うよ!これはね」
穂乃果たちはなんとか誤解を解こうとするが、当の本人は興奮しているのか全く聞く耳を持ってくれなかった。
「誘拐犯の言うことなんて聞かないにゃ!きっとかよちんもこの中に………かよちん!今助けに行くにゃー!!」
少女はテレビの中に入ろうと穂乃果たちに突進してきた。
「ちょっ、待って待って!危ないから!!」
穂乃果たちは入らせまいと慌てて少女を取り押さえる。しかし、
「離せー!!この誘拐犯め!!」
「だから私たちは誘拐犯じゃないってば!!」
「おとなしくしてください!」
「お願いだからじっとして!」
少女の方も無理やりにでも中に入ろうと必死にもがき続ける。そう四人がもつれ合っていると、
「あっ」
少女が足を滑らせて、テレビの方向に倒れてしまい
「「「「きゃあああああ」」」」」
四人仲良くテレビの中に入ってしまった。穂乃果たちがテレビに入った後、屋上は夕暮れまで静寂を保っていた。
<音乃木坂学院??? 校門前>
「いたた。高坂、何があったんだ?………それにしても、マーガレットが言ってた通り本当にあの世界に着いたみたいだ。」
パニックになった穂乃果に突き飛ばされてテレビに入ってしまった悠は辺りを見渡して、ここが以前来た霧に包まれた音乃木坂学院の校門前であることを確認した。後ろを振り返ってみると、ご丁寧に帰還用のテレビも用意されている。
話は変わるが、先日八十稲羽にいる特捜隊メンバーたちにこの世界について話をして、クマにこの世界と八十稲羽のテレビの世界がつながっていないか確認してもらった。クマからの報告は『繋がっていなかった』とのこと。おそらく悠が今体験してる世界とクマの世界は全く別物だとクマは言っていた。
そして、現地に行ってみないと詳しいことが分からないから一回東京に来るみたいなことを言っていたが、クマの財布事情ではジュネスのバイトをかなり頑張らないと無理だろう。まあ、いつもの如く陽介の財布を借りパクするかもしれないが……
その陽介や千枝たちもクマと同じようなことを言っていたが、クマと違って皆それぞれ八十稲羽でやることがあるだろうから無理はするなと釘を刺しておいた。
改めて、この世界は一体何なのか?
悠がそのことについて考えようとした、その時…
「「「「きゃああああ!」」」」
女子の叫び声が聞こえてきた。振り返ってみると、帰還用のテレビから穂乃果たちが出てきたところだった。どうなっているんだ?
「いたたた……ここは…」
「この霧……どうやら、あの世界に着いたようですね……って鳴上先輩!無事でしたか!?」
「お兄ちゃん!!大丈夫!?」
テレビに入ったことを確認した穂乃果たちは悠の姿を確認すると、一目散に駆け寄った。
「ああ、とりあえず無事だが…どうしたんだ?というか何で高坂とことりまで」
「鳴上先輩、さっきはごめんね!でも、あれには事情が」
穂乃果が先ほどの出来事について説明しようとしたが、それはある人物によって遮られた。
「こ、ここはどこなのかにゃ!霧で前がうっすらとしか見えないよ!」
先ほど穂乃果たちと一緒にテレビの中に入ってしまった少女が、見慣れない光景に慌てていた。
「え?……あの子は…一体?」
「いや、これは…不慮の事故というか」
海未がバツが悪そうにことの顛末を語ろうとしたが、
「あ!見つけたにゃ!誘拐犯!!」
少女は悠たちの姿を確認すると、真っ先にこちらに向かってきた。
「え?誘拐?……え?」
何のことか分からない悠は、ただオウム返しに返事をするしかなかった。そして、少女は悠たちにビシッと指をさしてこう言い放った。
「さあ!かよちんはどこにいるのかにゃ!とっとと白状しなさい!!」
「は?」
「あなた達がテレビみたいな道具を使って、かよちんや西木野さんを誘拐したのはもう知ってるにゃ!!おとなしく観念して、二人の居場所を吐きなさい!!」
誘拐と言われてもした覚えもないし何のことを言ってるのかは分からないが、とりあえず八十稲羽で最初にテレビに入ったときに、クマに殺人犯と疑われた時と同じ状況であることは理解できた。穂乃果たちの方を見てみると3人とも『何とかしてください』と目で訴えていた。悠はあきれつつも後輩のためにと思い、説得を試みた。
「まあ、落ち着け。話を」
「はっ!あそこに学校みたいな建物が!!あそこにかよちんたちを監禁しているのかにゃ!?」
少女はまだ悠たちを誘拐犯と思い込んでいるらしく、話を聞いてくれなかった。
「いや、だから」
「かよちーん!待っててにゃ!今、凛が助けに行くから!!」
凛と名乗った少女は校門を飛び越えて、敷地内に入ってしまった。
「待って!そこは危険だから!!」
「高坂!」
「穂乃果!待ちなさい!」
なんと穂乃果も凛という少女を連れ戻そうと敷地内に入ってしまう。
「もう!!本当にあの人は!勝手な行動は厳禁だって言ったのに!!」
「お、お兄ちゃん!急がないと」
「追いかけるぞ!!メガネを掛けるのを忘れるな!」
「「はい(うん)!」」
この事態には流石の悠も焦った。先日の海未のシャドウの一件以来、この世界を訪れていないので、ここのシャドウがどう出現するか分からない。そんな状況でペルソナを持っていない穂乃果たちがどうなるのかは明白だ。本当ならペルソナを持っていないことりも危険なので今すぐにでも帰らせたいが、状況が状況である。悠たちはすぐにメガネを装着して、二人の跡を追った。
<音乃木坂学院??? 中庭>
「きゃああああ!」
敷地内に入り穂乃果たちを追跡していると、案の定中庭の方で凛という少女と穂乃果が複数のシャドウに囲まれているところを発見した。
「穂乃果!!」
「待ってろ!…ペルソナ!」
悠はすぐに手の平に出現させたタロットカードを砕き【イザナギ】を召喚した。そして、イザナギは電光石火の如く穂乃果たちを囲っていたシャドウを全て斬り捨てた。その隙をついて悠たちは穂乃果たちの方へ駆け寄ることに成功する。
「鳴上先輩!」
悠の登場に穂乃果は歓喜の声を上げて喜んだが、それに反して悠の穂乃果に向けている顔は冷たかった。その顔は叔父の堂島が怒っているときの表情に似ていた。
「ひっ!…な、鳴上…先輩?」
「高坂、勝手に行動するなとあれほど言っただろ」
「ご、ごめんなさい…」
八十稲羽で『泣く子も黙る』と恐れられている堂島に仕込まれた威圧に、穂乃果は言葉もでなくなった。
「後で俺と園田で説教だ。覚悟しておけ」
「……はい」
穂乃果は悠の威圧の前に沈んでしまった。それより凛は先ほどシャドウを一掃した悠のペルソナを見て驚いていた。
「い、今の…怪物はなんですか?」
見たことがないものを見たせいか凛は声が上ずっている。
「それはだな」
とりあえず、凛に簡単な説明をしようとすると
「お兄ちゃん!囲まれたよ!!」
ことりの声に反応して、辺りを見渡してみた。周りは既に複数のシャドウが出現していて、悠たちを警戒しながら襲うタイミングを見計らっていた。更に、その真ん中にシャドウたちのリーダーらしい一回りでかいのが一体いる。外見はまるでアルパカのようであり、他のシャドウより手強そうな雰囲気を持っている。これは悠のイザナギだけでは対処できるか分からない。悠がどうしたものかと思っていると
「鳴上先輩、私も参戦します」
海未が悠の隣に立ってそう言った。
「良いのか?」
「ええ、いつまでも先輩に頼ってはいられませんから。それに私のペルソナを試す良い機会ですので、雑魚は私が引き受けます。鳴上先輩はあのアルパカのシャドウの相手をしてください」
海未は力強く頷いてそう言った。後輩が頼もしいことを言ってくれたので、悠は思わず笑みをこぼした。
「それじゃあ、お手並み拝見だ。任せたぞ、園田」
「望むところです」
悠は海未の返事を聞くとともに、イザナギをアルパカのシャドウに突進させた。そして、海未は顔をキリッとさせ、雑魚シャドウたちと対峙する。
「行きます……」
海未は目を閉じて、掌底を繰り出す姿勢を取った。すると、海未の目の前に悠と同様に青白く光り輝く【女教皇】のタロットカードが出現する。そして目をカッと見開き…
「ペルソナ!!」
掌底でカードを砕き、海未もペルソナを召喚した。
右手には大きな弓
古来の神殿に仕える巫女をモチーフとしたような薄手の青い衣装。
凛とした雰囲気を引き出す整った顔と美しい黒い長髪。
これぞ海未が己の影と向き合って手に入れたペルソナ【ポリュムニア】。
ポリュムニアが出現したと同時に、シャドウたちが襲い掛かってくる。
「全て討ちなさい!ポリュムニア!!」
海未がそう指示すると、ポリュムニアは右手の弓をシャドウたちに向けて、弓の弦を力強く引いた。
「あれ?海未ちゃん、矢がないよ?」
「黙りなさい」
「…………」
そして、ポリュムニアはある程度シャドウとの距離が近づいたと同時に弦を離す。すると、あたかも見えない矢に当たったかのように一斉にシャドウたちが凍り付き、砕けて消滅した。このポリュムニアが使用している矢のない弓はさしずめ、ビルマの民族武器である『弾弓』に似ている。
「すごーい!!…って、海未ちゃん!後ろ!!」
穂乃果の声と同時に背後から一体のシャドウがポリュムニアに突進してきた。不意を突かれたので、その攻撃は当たってしまう。
「うっ!!」
ポリュムニアが受けたダメージが海未にフィードバックしたのか海未は表情を歪めた。しかし、
「この!」
すぐさま海未はポリュムニアに体勢を立て直させて、仕返しと言わんばかりに先ほどより弦を強く引き離してシャドウを消滅させた。しかし…
「海未ちゃん!また来るよ!」
またもやポリュムニアの背後から二体のシャドウが襲い掛かってきた。
「同じ手は食らいません!!」
海未がそういうと、ポリュムニアは背後からのシャドウの攻撃を紙一重にかわして
「果てなさい」
ポリュムニアは先ほどとは段違いの威力を持った攻撃でシャドウを殲滅した。
「う、海未ちゃん…目がマジになってるよ!」
「海未ちゃん…怖い」
「…………」
海未がシャドウを殲滅した様子に、穂乃果とことりはビビっていた。海未のポリュムニアは先ほどの戦闘から考察するに中遠距離型だろう。姿や属性は違えど、戦闘スタイルや言動からして八十稲羽の特捜隊メンバーである雪子に似ていた。
しかし…
「くっ!まだ出てくるんですか!」
またもやシャドウが地面から湧いて出てきた。いくら相手が雑魚でもこう数が増えられては腹が立つ。これではキリがないと思いつつ、再び戦闘態勢に入ろうとすると……
「イザナギ!!」
ポリュムニアの前に悠のイザナギが躍り出て、シャドウたちに一斉に雷を落とし消滅させた。辛うじて生き残ったシャドウはイザナギの迫力に負けて一目散に逃げだした。
「もう大丈夫だ。また湧いて出てくることはないだろう」
悠はそういうと、イザナギをタロットカードに戻して体にしまった。海未も同様にポリュムニアをしまう。
「な、鳴上先輩…さっきのアルパカのシャドウは?」
「一撃で仕留めた」
「………」
とんでもないことをこの男は言いのける。道理で海未の救援に入ったのが早かったわけだ。
「やっぱり、鳴上先輩には敵いませんね」
「そうでもないさ。俺は途中からしか園田の戦闘を見てないが、中々センスがある戦いだったな」
「え?」
「園田みたいに遠くから支援してくれる奴がいると俺も心強い。これからも期待してるぞ」
と、悠は裏表の全くない言葉で海未を称賛した。
「あ……ありがとうございます……」
悠に褒められたせいか海未は顔を真っ赤に染めた。
「ん?どうした?熱いのか?」
「い、いえ……こういう風に誰かに…特にお父様以外の殿方から、心から褒められたことなんてなかったものですから…」
「そうか?」
「それに…鳴上先輩に褒められると……嬉しいというか…」
「??」
そんなやり取りをしていると、非戦闘員である穂乃果とことりが駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!海未ちゃん!お疲れ様!!ところで、海未ちゃん?お兄ちゃんにデレデレしすぎじゃないかな?」
「こ、ことり?何を言ってるんですか!!私は別に…」
「二人ともすごかったよ!!私も早くペルソナ出したいなあ」
ことりと穂乃果は戦闘を終えた悠と海未を労う。ことりは海未に意味不明なこと言い出し、穂乃果に関しては不謹慎なことを言い出したので、悠はさっきの独断行動の件も含めて説教しようとすると、
「す」
先ほどからビビりまくっていた凛が悠たちを見て、何か呟いていた。悠は何事かと思っていると…
「すごいにゃー!カッコいいにゃ!!」
「「「「え?」」」」
突然目をキラキラと輝かせて、悠たちに詰め寄る。
「ねえ!さっきのペルソナ?っていうの、もう一回見たいにゃ!!早く出して!!」
「え?いや」
「早く!早く!」
悠と海未のペルソナを見て、何か刺激されたのかは知らないが、もう一回ペルソナを見たいようだ。何がどうなっているか分からないが、これは誤解を解くチャンスである。悠は自身のペルソナを再び召喚して、凛に今何が起こっているのかなどの事情を説明した。
閑話休題
「そ、そうだったんですか………ごめんなさい!勝手に誘拐犯扱いしてしまって」
「大丈夫だ、俺は気にしてないから」
「分かってもらえてなによりだよ」
「穂乃果?貴女に関しては後で説教ですからね」
「ううっ」
何とか話を聞いてもらい、自分たちは誘拐犯ではなくこの世界に迷い込んでいる花陽と真姫を助けにきたことは理解してもらえたようだ。話してみれば意外と素直な子だったので、悠は安堵した。
「それで……【星空凛】さんでよかったかな?」
「は、はい。あ!でも、堅苦しいのは嫌なんで『凛』って呼んでいいですよ」
珍しくフレンドリーな子であった。
「じゃあ凛、今も説明したがここはとても危険な場所だから早くあっちの世界に戻ったほうが」
「嫌です!!」
凛は即答で悠の提案を一蹴した。先ほどの素直さはどこに行ったのだろうか。
「かよちんはここにいるんでしょ!ここに居るって分かっておきながら、帰るのは嫌にゃ!」
どうやらフレンドリーでありながら頑固な性格のようである。そうは言っても、穂乃果とことり同様ペルソナを持っていない凛をこんな危険な場所に連れまわすことはできない。
「でも、ここはシャドウっていうさっき見た怪物たちがいっぱいいるんだよ!危ないよ!」
「そうですよ!星空さん、ここは鳴上先輩の言う通りにしてください」
「お兄ちゃんの言うことは聞いた方がいいよ!私と穂乃果ちゃんと一緒に戻ろう!!」
穂乃果たちも口々に説得するが、『それでも絶対行く!』と凛は中々折れなかった。この頑固さは特捜隊メンバーの千枝に似ている。このままでは埒が明かないので、悠は何故そこまで頑なになるのか聞いてみることにした。
「凛、どうしてそこまで頑なになるんだ?」
「親友のかよちんがピンチなんだよ!!ほっとける訳ないにゃ!!」
どこか既視感を感じるようなことを言いのけたその時…
『ぷくくくくくくく…あははははははは』
どこからか凛に似た笑い声が聞こえてきた。この感じはまさか…
「だ、誰にゃ!何で笑ってるのかにゃ!!」
『何でって?そりゃ笑えるわ。本当は花陽のことを親友だなんて思ってないくせにね』
後ろからはっきりした声が聞こえたので振り返ってみると…
もう一人の凛がそこに居た。
「あ、あれは…まさか」
「星空さんの…影」
「嘘…」
穂乃果たちはその【凛】を見て顔が真っ青になった。その【凛】は悠のそばにいる凛と同一人物だが、目は怪しい金色に光っており禍々しいオーラを纏っている。その姿を見て、海未の影の時の恐怖が蘇ったのだろう。
「だ、誰にゃ!凛と同じ顔をしてるけど……それにどういうことにゃ!かよちんのことを親友と思ってないって!」
凛はその人物が己の影とは知らないので、迷わずに食って掛かった。その反応が面白かったのか凛の影は喜々と楽しそうに語り始めた。
『アンタ、小学生の時に男子から言われたよね?【女らしくない、男みたいだ】って』
「!!」
『自分は好きでそうしてるのに何でそう言われなきゃならないのかって思って、アンタはスカート穿くの止めたんだよね。大好きだったのにさ』
「そ、それとこれとは」
自分の知られたくない過去を暴露されたせいか、凛の顔色が悪い。
『関係あるよ。スカート穿くのを止めたって、自分は女らしくないって思ってたじゃない。あんなバカな男子の言うことなんて聞き流せばよかったのにね』
「うるさい!!それとかよちんと何の関係があるんだにゃ!!」
とうとう我慢できなくなったのか凛は声を荒げてしまう。
『だってさ、花陽だけだよね?こんな男っぽい自分と女として変わりなく接してくれたのってさ』
「そうだにゃ!だから、かよちんは私の」
『でもさ、花陽が居なくなったら…誰がアンタをちゃんと女として見てくれるんだろうね?』
「!!」
影からの言葉を聞いた瞬間、凛は痛いところを突かれたのか顔が強張った。
『だから、必死こいてこの世界まで来て探しに来たんでしょ?親友だからとか言っても私にはお見通しよ。アンタがこうしてまで花陽を探すのって』
「や、やめて!!!」
『自分を女として見てくれる都合のいい人間が居なくなるのが怖いからでしょ?』
その言葉を聞いたと同時に、凛は声を更に荒げて全力で否定した。
「違う!!違うよ!!私はかよちんのことをそんな風に思ってない!!」
『誤魔化したって無駄よ。アンタのことなんてお見通しなんだから』
「何なの…貴女に凛の何が分かるっていうの!!」
『分かるよ?だって私は【星空凛】、アンタだもん』
「う、嘘にゃ!貴女なんか……私じゃ」
凛はそう言うが、影はニヤリと凛をバカにするかのようにこう言った。
『別に私を否定したって良いよ。どうせこの場所じゃあ、アンタの運命は死ぬって決まってるんだから』
「うるさい…うるさい!!……貴女なんか…」
マズイ!凛があの禁句を言おうとしている。
「鳴上先輩!」
「とにかく凛を止めるぞ…凛!!」
「凛ちゃん!ダメ!!」
悠たちはその先は言わせまいと凛たちに接近した。しかし……
「私じゃない!!!」
時既に遅く、凛は禁句を言葉にしてしまった。
『フフフフフフ、いいわ…力が…テンションが……上がってくる!!!あはははははは!!!』
凛の影は高笑いしながら、強い禍々しいオーラを取り込んで大型シャドウに姿を変えた。その姿は、まるで神話に出てくるミノタウロスのような牛の化け物であった。
『我は…影……真なる我………さあ、死ぬ覚悟はできたかしら?』
大型シャドウ化した凛の影は凛を殺そうと腕を振り下ろそうとすると
「「ペルソナ!!」」
『!?』
間一髪のところで、悠のイザナギによる斬撃と海未のポリュムニアの遠隔攻撃で凛の影を牽制する。
『ちっ、余計なことを』
「高坂!ことり!今のうちに凛を連れて逃げろ!!」
「え?」
「でも、お兄ちゃ」
「いいから行け!!」
悠が凛の影を牽制している間に、穂乃果とことりは悠の指示通り隙をついて凛を保護し、その場を離脱しようとした。
「園田!高坂たちについていけ!ここは俺が引き受ける!」
「分かりました!鳴上先輩も気を付けて!」
聡い海未は悠の意図が分かったらしく、穂乃果たちと共に安全な場所に避難しようと戦線離脱をしようとする。これは穂乃果たちが逃げる途中にシャドウに出くわした場合の護衛役である。しかし…
『フフフ、逃がさないわよ』
凛の影がそう言うと、地面からまたもや2体のシャドウが出現して、穂乃果たちの行く手を阻んだ。しかもそのシャドウたちは先ほどの雑魚シャドウより一回り強そうな雰囲気を持っている。
「そんな!」
「くっ、やるしかありません!…ポリュムニア!!」
海未は穂乃果たちを守りつつ、シャドウとの戦闘を開始した。
「ちっ!やってくれたな」
悠は思わず舌打ちをしてしまう。大型シャドウとの戦闘の場合、大技を使用するので非戦闘員である穂乃果たちが避難していれば戦いやすかったのだが、これでは穂乃果たちを気にしながら戦わなければならないので正直やりづらい。
『フフフ、あの小娘の前にアンタから殺すわ。良い準備運動になりそうね』
悠をなめているのか、凛の影は余裕を持った顔で悠を見据えていた。
「…なめるなよ。3分でカタをつけてやる」
ともかく不利な状況でもやるしかない。悠は穂乃果たちのことは海未に任せて、自分は目の前の大型シャドウを倒すことに専念することにした。
果たして…
ーto be continuded
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「きゃあ!」
「わ、私は…」
「私は…何も出来ないの……」
『消えなさい』
「こんなところで…」
『思い出してください。貴方の本当の力を』
「チェンジ!」
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