PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

更新がいつも不定期で申し訳ございません。
気づけば、もう年の暮れですね。今年は様々な変化があって大変でしたが、皆さまはどのような一年であったでしょうか?
奇妙なことにちょうどクリスマスイブに更新できました。今年も私は一人です。

改めて、感想を書いて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございました!

今年最後の投稿となりますが、来年もこの作品をよろしくお願いいたします。

それでは、本編をどうぞ! 


#116「To the training camp again 1/2.」

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 

 

…………美しいピアノのメロディーが聞こえてくる。

 

 

 

 

 聞き慣れたそのメロディーで目を覚ますと、悠は別の場所にいた。床も天井も全てが群青色に染め上げられている、まるでリムジンの車内を模した空間。ここは【ベルベットルーム】だ。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ。本日わが主と姉様は留守にしております」

 

 目の前にエレベーターガールをイメージさせる群青色の衣装に身を包む銀髪の女性がいる。彼女の名はエリザベス。このベルベットルームの管理者であるイゴールの従者をしている者の一人で、マーガレットの妹だ。あの奇怪な老人だけでなく彼女の姉もいないとは珍しい。できれば、この女性と2人っきりというのは勘弁願いたいのだが。

 

「おやおや、どうやらとてもお疲れのご様子。流石に妹様と叔母様とのハプニング満載のデートは骨が折れたとお見受けいたします」

「…………」

 

 何でこの女性も自分の行動を把握しているのかと度々思う。どこかで監視でもされているのかと心配になってきた。

 

「ふふふ、流石に妹様もテオドアの話を聞いて焦ったのでしょう。しかし、鳴上様は見ていて退屈しないものでございます。まるで、あの方と同じように」

「?」

「いえ、こちらの話ですのでお構いなく。それはそうと、私のタロットによれば近々新たなるハプニングイベントが発生するようでございます。どうぞ、ご無理をなさずに私を楽しま……もとい大事にならないよう努めてくださいまし」

 

 何でタロットでそんなことを占ってるんだ。ありがたいにはありがたいが……やっぱりこの人と2人っきりは嫌だ。

 意味深な言葉を口にしたエリザベスがこちらを艶やかな視線で見つめたと同時に、視界が徐々に曇り始めてきた。どうやら時間らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一体、どうしてこうなったのだろう)

 

 外が寒々としている山の別荘の中、真姫は目の前の光景を見てそう思った。

 確か私たちは巣ごもり合宿のために来たはずだ。ラブライブ本選も近いのに、中々新曲が出来上がらない。だから、今回理事長とお母さんの働きかけで、うちの別荘ので集中していたはずなのに……

 

 

 

「王様げええええええええええええええむっ!!」

 

 

 

「「「Yeahhhhhhhhhhhhh!!」」」

 

 

 

 

 何でこうなったのだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日前~

 

 

「はあ……」

 

 

 年の暮れも近づき、日の沈みが早くなった昨今。すっかり暗くなった帰り道を音ノ木坂学院理事長である南雛乃はとぼとぼとした足取りで歩いていた。

 ここ最近すこぶる体調が悪い。というのも、来年に向けての仕事がいよいよ慌ただしくなったのだ。廃校の話がなくなって、これまで通り学校を存続できたことは嬉しい限りなのだが、こうも忙しい日々が続くと流石の雛乃もまいってしまうのである。嬉しい悲鳴と言えば聞こえはいいが、きついものはきつい。

 しかし、そうこうしているうちに家の玄関前に着いた。家に帰れば愛しの甥っ子と娘が待っている。そう思って、雛乃は自宅のドアに手を掛けた。

 

「ただいま」

「「お帰りなさい」」

「ん?」

 

 玄関に入ると、愛しの甥っ子と娘が出迎えてくれていた。こうやって2人が玄関で出迎えてくれるのはよくあることなのだが、今日は何だかいつもと違ってかしこまった様子に見えるのは気のせいだろうか。

 

「叔母さん、お疲れ様です。鞄をお持ちします」

「あ、ありがとう」

「ささっ、お母さんこっちに。もうご飯できてるよ」

「え、ええ……」

 

 そんな様子を気に掛ける暇を与えず、2人は慣れた手つきで雛乃をもてなしていく。そして、リビングのテーブルには本当に料理が並べられていた。どれも雛乃の好物ばかりだ。

 

「…………」

「どうしたの、お母さん」

「い、いえ。何というか、何で私の好物ばかりなんだろうなって」

「今日は疲れてるだろうから、お兄ちゃんとお母さんの好きなものをたくさん作って元気をだしてもらおうと思ったんだよ?」

「ああ、我ながら中々のいい出来だった。それに」

 

 

 

「それで、一体どういう魂胆なの?」

 

 

 

 その一言に和やかな雰囲気が一気に沈んでいった。

 

「え、ええっと……何のことでしょう?」

「そそ、そうだよね。ことりたち、何も」

「……後ろに隠している芋焼酎は何なのかしら?」

「「(ギクッ!!)」」

 

 そう、雛乃が指摘した通り、悠が背中に隠しているのは芋焼酎だった。これを食事の最中に飲ませようとしたのだろう。そして、ベロベロに酔っぱらったところを……

 

「分からないとでも思ったの? 何年あなたたちのことを見ていると思ってるのかしら」

「「…………」」

「はあ、一体どうしてこんな真似をしたの。ちゃんと説明しなさい」

 

 企みがばれた2人はサアっと顔を青くすると、観念して頭を下げた。

 

 

 

 

「「お願いします! ()宿()()()()を下さいっ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはほんの数時間前のこと……

 

「巣ごもり合宿?」

「ええ……何というか、インスピレーションが湧かなくて……」

 

 ことりとのデートから数日後、部活で会議している最中に海未がそんなことを言ってきた。

 何でも、ラブライブ本選も近づいてきたにも関わらず、一向に歌詞の内容が思いつかないとのこと。それは作曲担当の真姫と衣装担当のことりも同様らしい。

 

「最近色々ありすぎて、歌詞に集中する時間がなかったというか……」

「そうね、誰かさんのせいで……」

「うん、そうだよね」

 

 歌詞とメロディー、衣装作成担当から突き刺さる視線が痛い。

 おそらく原因は自分にあると言いたいのだろうが、言いがかりもいいところだ。確かにここ最近自分の周りは絵里のおばあちゃんが来日したり、ことりとデートに行ったりと忙しかったが、それと彼女たちは全く関係ないだろう。というか、ことりはこの間楽しそうに遊んだのに、その視線は何だと言いたい。

 

「まあ確かに、もうラブライブ本選まで時間がないし、3人の言う通り作業に集中する時間をつくる必要があるかもしれないわね」

「エリチ、でも」

「分かってるわよ。合宿の許可は原則2週間前に取らなくちゃダメなのよ。そこはどうするの?」

 

 元生徒会長の言葉にメンバーはあっとなった。

 今から申請したとしても合宿は2週間後。とてもじゃないが、それでは申請に間に合いそうにない。それに、何とか特例をと理事長の雛乃にお願いしようにも、規則に厳しい彼女のことだ。そう簡単に認めてくれそうにないだろう。

 余談だが、皆の話を聞いて現生徒会長の穂乃果は“そうだった”みたいな顔をしているが、現役としてそれは如何なものだろうか。

 

「大丈夫だ。俺に策がある」

 

 皆が頭を悩ます中、悠は親指を立ててそう宣言した。何か策があるのだろうと、穂乃果たちは期待の眼差しで見つめるが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、全く……何であなたたちはいつもやることが極端で単純なのかしら……しかも、親を酔わせて言質取ろうなんて、私はそんな悪い子に育てた覚えはないわよ」

「「うっ……」」

「それに、綾瀬さんの言う通り、部活動における合宿の申請は2週間前にしなければならないのだけれど?」

「「…………」」

 

 これはダメかもしれない。作戦を看破された上に考えも見透かされた。

 頭の中で“失敗”という言葉が浮かんだ時、雛乃から沙汰が下された。

 

 

「でも、もしかしたら、私が悠くんに2週間前から頼まれてたのに、忘れてしまっていただけなのかもしれないわね」

 

 

 雛乃のその一言に2人は顔を上げた。そこには優しい笑顔でウインクする雛乃の姿があった。そんな叔母の慈悲にダメだと思っていた悠とことりは涙を流しそうになった。

 すると、雛乃は早速携帯を取り出してどこかに電話をしたかと思うと、すぐに通話を終えた。

 

「今西木野さんに電話してみたら、山の別荘が空いてるからOKですって。その場所は稲羽からも近いようだから、ついでに、陽介くんたちも呼んだらどうかしら?」

「えっ?」

「せっかくの合宿なんだし、人数は多い方がいいでしょ? 新曲のための合宿なら陽介くんたちもいれば、何かアイデアが出るかもしれないわよ」

 

 何という気遣い。その後、雛乃の提案を稲羽組に聞いてみたところ、陽介たちは快くOK。

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

「や、やっと着いたあ……」

「まさか、こんな山奥にあるとは……」

「ちょっとした……訓練だったよ……」

 

 合宿当日、いくつかの電車やバスを乗り継ぎ、山道をしばらく登ったところにある真姫の別荘にたどりついた。今までよりも歩く道のりが長く、更に上り坂ということもあって、穂乃果をはじめとした一部のメンバーはぜえぜえと息が上がっていた。

 だが、それを尻目に目の前にそびえ立つ西木野家の別荘は大きいという言葉しか浮かばないほどのログハウスだった。以前、海未との山登りデートの際に訪れた別荘とは違った雰囲気があり、如何にもという感じが漂っている。

 

「ようこそ、いらっしゃいました」

 

 別荘の風格に感嘆としていると、玄関から以前と同じように見覚えのあるメイドさんが出迎えてくれた。

 

「で、出島さん!? 確か、休暇中だったはずじゃ……」

「奥様から頼まれまして。鳴上さんを落とすサポートもしてほしいと

「も、もうっ!」

 

 どうやら真姫の母親は娘の恋路を手助けするための刺客を送り込んできたらしい。

 

「それと、先ほど稲羽市のご友人方もご到着致しましたので、まずは」

「センセ~~~~~イ! お久しぶりクマ~~~!!」

 

 出島さんの言葉を遮って、甲高い声と共にクマが飛び出してきた。いきなり目の前が真っ暗になったのでびっくりしたが、主に顔面から感じるモフモフ感がクセになる。ということは

 

「久しぶりだな、クマ」

「ほほ~い!」

 

 いきなりの登場にも関わらず普段通りに返してくれた悠にクマは更に嬉しくなって、テンションが上がった。

 

「おいおい、そんなにはしゃぐなって」

「あははは……それはそうと、みんな~! 久しぶり!」

「本当、久しぶりだね」

「先輩ら、全然久しぶりって感じ、しないっすけど」

「ええ、この間の絆フェス以来なのに、そう思ってしまいますね」

 

 クマが飛びついてきたのを皮切りに陽介や千枝、雪子や完二らが顔を出してくれた。何というか、稲羽の仲間たちの顔を見ると、やはり故郷に帰ってきたような安心感があった。この場にマリーの姿がないが、どうやらこの場所は稲羽からギリギリ出た場所にあるようなので、来られなかったらしい。

 そして、

 

「せんぱ~い♡久しぶり~~! あなたのりせだよ~~♡」

 

 当然のように休暇をもぎ取ってきたらしいりせが満悦な笑みでクマ同様に飛びついてきた。すると、

 

「とうっ!」

「きゃっ! なにするの、ことりちゃん!!」

「泥棒猫は退治しなきゃと思って」

「なにをおおっ!」

「「ぐぬぬぬぬぬぬっ……」」

 

「おいおい…」

「あははは…いつも通りっちゃ、いつも通りだね」

 

 絆フェス以来の特捜隊&μ‘sの再集合にみんな浮き立っているようだ。

 

 

 

 

 

「では、南様と園田様はお部屋にご案内致します。他の皆さまはリビングでくつろいでおいてください」

 

 今回の巣ごもり合宿のメインであることりと海未は早速巣ごもり部屋に案内されるようだ。その間、リビングでは

 

「おおおおっ! すご~~い! 暖炉なんて初めて見たあ」

「はあ、あったかそうにゃあ」

「確かに、お金持ちの家とかでよく見るわよねえ」

「こういうの見るとテンション上がるわねえ」

「あんたたち、よくそんなにはしゃいでられるわね」

「本当にそう……」

 

 リビングにつくと、みんな思い思いにくつろいでいた。東京組にとっても稲羽組にとっても結構な道のりだったのか、とても疲れているように見える。現に一番体力があるだろう完二ですらソファに身を預けてボウっとしているのだから。

 最も別荘の装飾や設備にテンションが上がっている者も何人かいるわけなのだが。

 

「ねえねえ真姫ちゃん、暖炉に火つけていい?」

「ダメよ」

「ええっ!? 何でえっ!?」

 

 即答だった。出島さん曰く、まだそれほど寒くないし薪も用意していないだからとのことだが、穂乃果たちは納得していないようだった。

 

「それに、今火をつけたら煙突が汚れて、サンタさんが入るとき大変だって、パパが言ってたもの」

「「へっ?」」

 

 今の真姫の発言に場の空気が一変した。何か触れてはいけない気がしたが、若干の危険な予感がしたのか、空気を和ますために悠と絵里は目を合わせた。

 

「へえ、とても素敵ね」

「優しいお父さんだな」

「ふふ、そうでしょ。ここは毎年クリスマスにお父さんとお母さんと一緒に来るところなの。サンタさんが来やすいからって」

「なるほど……んっ?」

「それで、ここの煙突は毎年私が掃除してるの。去年まで、サンタさんが来てくれなかったとしなんてなかったんだから」

「…………」

 

 証拠に暖炉を見てみなさいと言われて覗いてみると、確かに暖炉の奥に真姫が描いたであろう“MerryChristmas! ”という文字とサンタさんのイラストが描かれていた。ふと見ると、真姫はどうだと言わんばかりに決め顔をしていた。

 

「「「……」」」

 

 珍しい真姫の無邪気な発言にリビングにいるメンバーの表情が固まってしまった。

 何というべきか、菜々子くらいの年頃ならともかく自分たちと同年代でここまでサンタの存在を信じているなんて、思わなかった。というか、真姫のお父さんは娘にどんなことを吹き込んで今日まで至ったのだろう。

 当の本人はキョトンとしているが、下手なことは言えない。言葉のチョイスを間違えれば、真姫の将来を左右してしまうかもしれないからだ。

 

「ぷくく……真姫が、サンタさんを…………あはは」

「にこっち、シャラップ」

「ぐほっ……!」

「にこちゃん、それはダメだよ!」

「そうよ、真姫の夢を壊すつもりっ!?」

「だ、だって……あの真姫が……真姫がサンタさんを……」

「ホーリーシット」

「ぐえっ……」

「み、みんな……どうしたの?」

 

 余計な一言を発しようとするにこを全力で止めようとして、真姫に不審がられてしまった。

 

「ま、まあまあ、そうだよな! 確かにちゃんと綺麗にしときゃ、サンタさんも安心だよな!」

「うんうん! サンタさんって、結構煙突に入ることが多いから」

「えっ? サンタさんって、窓からスッと通り抜けられるんじゃないの?」

「えっ!?」

「おいっ、天城! 言葉に気をつけろよ!!」

「だって」

「ああもうっ! 雪子は黙っておいて! 余計に事態をややこしくするから」

「ははは、クリスマスか……あっ」

「「「あっ……」」」

 

 クリスマスといえば去年の惨劇を思い出した。

 勘違いが勘違いを呼び、最終的にカオスになった堂島家での悲劇。最も、その原因ははっきりしない発言をしてしまった悠にあるわけだったのだが。

 

「「「「…………」」」」

 

 当時被害者になった特捜隊女子組は嫌な思い出を思い出したのか、気まずそうになりながらも元凶になった男を睨みつけた。

 

「……なあ陽介。俺って」

「言うな……何も言うな、相棒」

「????」

 

 

 

────真姫の無邪気な発言から気まずい雰囲気に陥ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……いい湯だな」

「そうっすねえ」

「ああ」

 

 一通りの時間が過ぎて、お風呂の時間。一番風呂を巡ってのジャンケンに勝った男子陣は勉強と練習疲れを癒すべく西木野家別荘の大浴場に入っていた。寒い季節だからか、この時期の温泉というのはとても気持ちがいい。このままずっと入っていたい気分だ。

 

「やっぱり、メイドさんが作る飯は旨かったなあ。悠と同じくらいだったんじゃね?」

「いや、それはないだろ。あっちは本職、俺は嗜む程度だから」

「嗜む程度で茶巾寿司とか作れる人、そういないと思うんすけど」

 

 そうでもない。先ほど夕食に出てきたシュトレンに海鮮サラダ、ホワイトシチューにターキーなど今の自分では再現できない工夫とひと手間がなされており、自分もまだまだだと実感した料理だったと悠は言った。

 

「というか、ここにサウナはないんすかねえ。ちょっとばかし汗かきたいっていうか」

「……お前、ここ最近サウナの話ばっかりするよな? まさか」

「やはり完二は、そっち側の…」

「だからそうじゃねえって言ってんだろうがああっ! しめんぞ、きゅっとしめんぞごらあああ!」

 

 何気ない男子高校生の会話だが、久しぶりの陽介たちの会話、そして一緒に時を過ごすこの時間が懐かしく、悠にとって大切な時間だった。

 

「あれ、そういえばクマは?」

「ああ、クマ公なら……」

 

 実は入る前に、クマは覗きの準備をしていたらしい。それを海未に見つかってしまい、その場で締め上げられたとのこと。今頃は男子部屋で簀巻きにされていることだろう。

 何というか、相変わらずだなと悠はしみじみと思った。

 何はともあれ、相棒と後輩との数少ない時間だ。ゆっくりと噛みしめて楽しもうと天を仰いでいると、

 

「んっ?」

「どうした、悠」

「いや、何か紙が落ちてきた」

 

 どこから飛んできたのか、悠の身体に一枚の紙きれがくっついてきた。何か書いてあるようなので、気になって見てみると以下のようなことが書いてあった。

 

 

 

“さがさないでください”

 

 

 

「えっ?」

「な、何だよこれ……」

「……この切羽詰まった感じ、この間のフェスみたいっすね」

「た、確かに……」

 

 この書かれている内容といい、切羽詰まった筆跡といい、何だか不気味だ。ゆったりと温かい空気が一気に冷めていった気がする。それにしてもこの筆跡、どこかで見た覚えがあるのだが。

 

「あっ」

「おい、どうしたんだよ、完二」

「あの窓……妙な開き方してないっすか?」

 

 完二が示す方を見てみると、野天風呂から見える2階の部屋の窓が妙な開き方をしているのが目に入った。

 

「ああ、確かに妙だな。雰囲気がありすぎて……」

「あの部屋は……ことりの部屋、だったか?」

 

 記憶が正しければ、あそこはことりの巣ごもり部屋だった気がする。こんな寒い時に窓を開けることなんてないと思うのだが……

 

「な、なあ……よく目を凝らしてみっと、なんか輪っかに結ばれたロープが見える気がするんだけどよ……」

「あ、ああ……なんか、ヤバそうな雰囲気が漂ってるような……」

「ま、まさか……!」

 

 ロープ・空いた窓というワードを聞いて、真っ先に思い浮かぶのは……。

 

「んっ? なんか、あの部屋から落ちてきたぞ」

「これは……」

 

 タイミングよく吹いてきた強風で件の部屋から何かが描かれた紙切れがもう一枚こちらにやってきた。その紙に書かれていたのは

 

 

“タスケテ”

 

 

 

「こ、ことりいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 

 

 

 不吉な想像をしてしまった悠はその場から全速力で駆け出して行った。どうやらいつぞやと同じくブラコン魂が爆発してしまったらしい。

 

「お、おい……悠。まじか」

「流石、シスコン番長は健在っすね。って、花村先輩」

「んっ?」

「あれって、先輩のじゃ?」

 

 完二が指さしたその先には悠が腰に巻いていたタオルが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脱衣所を出て真っすぐにことりの部屋へと向かう。すれ違いざまに出会った出島さんが目を丸くしていた気がするが、気にならない。今は一刻を争う事態だ。

 一体何があったというのだろう。まさか自分のせいかと最近の自分の行動に自信がなくなってきた悠は自虐気味に自問自答するが、そうこうしているうちに件の部屋にたどりついた。

 

「ことりっ、早まるなあっ!!」

「「「…………えっ」」」

 

 強硬気味に部屋をぶち明けると、そこには窓からロープをたらしてどこかに行こうとしている3人の姿が……。

 

 だが、

 

 

「「「きゃああああああああああああああああああああっ!?」」」

 

 

 悠が突入した途端、件の3人は顔を隠しながら悲鳴を上げた。

 

「えっ、ええっ? 何かあったのかっ!?」

 

 悠は全く持って分からず慌てているが、原因が自分自身であることに気づいていない。そう、風呂場から全速力でやってきた悠のある一部分を3人は見てしまったのだ。

 目の前にいる想い人の()()()()を。

 

「ど、どうしたの……って、きゃあああああああああっ!?」

「ゆ、悠くん!? こ、こんなところで……

「悠……あなた」

「な、鳴上くん……」

「センパイ……お、大きい

 

 悲鳴を聞いて駆け付けた希たちも悠の姿を見てフリーズした。一体全体何がそうフリーズするのか、悠にはてんで分からない。希やりせに至っては顔を手で隠しながらもチラチラと見てくるが、余計に分からない。

 女子陣の反応に全く見当がつかずにポカンとしている悠に、埒が明かないと思った千枝は声を振り絞った。

 

「そ、その……鳴上くん、今きみは…………()()、なんだけど?」

「えっ……? あっ」

 

 千枝の言葉に恐る恐る視線を下に移してみる。そして、初めて悠はとんでもないものを召喚してしまったことに気が付いた。

 

「ま、マーラ様を……召喚してしまっただと……はっ!?」

 

 突如、背後から殺気を感じた。思わず振り返ってしまった時には遅かった。

 

 

「は、破廉恥な者は、滅殺です!!」

 

 

 暴走した海未にリビングまで吹き飛ばされ、騒ぎは大きくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、酷い目に遭った」

 

 何とか事態は収束したが、心と身体に傷を負った悠は男子部屋でふさぎ込んでいた。

 妹が心配なゆえに全裸で走ると思わなかった。その挙句がマーラ様召喚だ。長瀬大輔の中の人もアニメでの召喚を熱望したが、実現できなかったことをここでしまうとは思わなかった。

 まあ、しばらく女子陣に冷たい目で見られてしまったが、しょうがない。陽介も完二も懸命に慰めてくれたが、この傷ついた心は癒えそうにない。

 何だか、最近こんなことばっかりだなと思いながら、しばらくは男子部屋に引きこもるかと思っていたその時だった。

 

「鳴上様、少々よろしいでしょうか?」

 

 すると、ノックと共にメイドの出島さんが入室してきた。

 

「出島さん、どうしたんですか……」

「先ほどから落ち込みようが激しいので、元気が出るものを作ったのですが」

「は、はあ…ありがとうございます」

「それと……お連れ様のご様子が」

「へっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこでクマは言ったクマ~! ブタがぶったぶたれたブタがぶったブタをぶった、て~~~!」

「ぶっ! ぷははははははははははっ!!」

「ゆ、雪子さん、笑いすぎだよ」

 

 

「だから~私が今アイドルとして忙しいから~センパイとイチャイチャできるんおよ~~少しは感謝しろ~このバードせいじん!」

「あははは~おかしなこというなあ。べつにことりとおにいちゃんはそうしそうあいだから~~どろぼうねこがなんといおうとも、ちっともかゆくないも~ん」

「にゃにおおお~」

「おおおいっ、こんなところで暴れるな! 高そうな物とかに当たるだろっ!」

 

 

 

「これは……一体」

 

 目の前で繰り広げられるリビングの惨状に悠は唖然としてしまった。あれだけ和やかな雰囲気だったのが、宴会のように騒がしい。というか、一部がまるで酔っているかのように騒いでいるのでなお質が悪い。

 

「じ、実は……」

 

 話を聞くと、先ほどのマーラ様降臨後からリビングの雰囲気が悪くなったので、気分直しのお菓子を作っていた。すると、その過程でアルコールを使った途端にリビングが怪しい雰囲気になってしまったのだという。

 

「皆さまはお酒類の匂いなどに弱いとお聞きしていたので、細心の注意を払っていたのですが……鳴上様は?」

「ははは、まさか。そんなわけないじゃないですか」

「…………」

 

 この男も酒の匂いにやられてしまっていた。更には、いつの間にシャツのボタンを全開にしており、片手には“シンデレラ”が入ったグラスが握られていた。

 完全に場酔いモードにはいっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……数分後、

 

 

「王様げええええええええええええええむっ!!」

 

 

「「「Yeahhhhhhhhhhhhh!!」」」

 

 

 冒頭に戻る。

 

 

 

To be continuded.




今話を最後まで読んで下さり、ありがとうございます。いかがだったでしょうか?

最近、買うまいと思いつつも【ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド】を買ってしまいました。選んだのはもちろん、ポッチャマです。まだ殿堂入りしていませんが、今はチャンピオンロードでルカリオとユキノオーの育成に励んでます。

更に、ブラックフライデーに【テイルズオブアライズ】も購入しちゃいました。確かに評判通り、内容がとても面白いと思いました。声優陣の真に迫った演技も思わず世界観に入り込んでしまうほど、感嘆としてしまいました。
ロウ役の松岡さんの影響故か、料理シーンは何故かとある作品を見ている風に思えてしまうのは私だけでしょうか?

【ぐだぐだ龍馬危機一髪】も今までのぐだぐだイベントでベスト3に入るほど面白かったです。

今年もついに終わってしまいますが、この作品もあと数話で最終決戦編に突入する予定です。構想は頭にあるのですが、文章にするのが難航しそうです…
何とか面白くなるように執筆していきたいと思ってます。

次回もなるべく早く更新したいと思いますので、それまでお待ちください。
それでは皆様、良いお年を!

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