PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

今回は絵里のヒロイン回です。タイトルは【SAOオーディナルスケール】の【Catch The Moment】を選びました。結構候補がありすぎて悩みましたが、選び抜いた結果がこの曲です。
また、今話に絵里の祖母が登場しますが、ロシア人ということ以外の詳しい情報が見つからなかったので、名前と性格、経歴は全部私の想像で書かせていただきました。

改めて、誤字脱字報告をして下さった方・評価を上げて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

今回、雑談で伝えたいことが多すぎたので、最後の方にあとがきとして記載しています。私個人の与太話なので、スルーしてもらって構いません。

それでは、本編をどうぞ! 


#113「Love & Comedy ~Catch The Moment~.」

 ♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

…………美しいピアノのメロディーが聞こえてくる。

 

 

 聞き慣れたそのメロディーで目を覚ますと、悠は別の場所にいた。床も天井も全てが群青色に染め上げられている、まるでリムジンの車内を模した空間。ここは【ベルベットルーム】だ。

 

「ようこそ、ベルベットルームへ。本日わが主と妹は留守にしております」

 

 目の前に秘書をイメージさせる群青色の衣装に身を包むプラチナ色の髪の女性はがいる。彼女の名はマーガレット。このベルベットルームの管理者であるイゴールの従者をしている者だ。あの奇怪な老人だけでなく彼女の妹であるエリザベスもいないようだ。

 

「あら、随分とお疲れのようね。何でも昨日はあのリーダーの子とデートだったとか。この前珍しくマリーがお冠だったから、合点が言ったわ」

 

 何でこの女性は自分の行動を把握しているのかと度々思う。ここの住人達にプライベートという言葉はないのか。

 それに、マリーがお冠だったということは今度会った時は相当怖い。10万ボルトは覚悟しなければならない。最悪、どこぞのクズ主人公のように最後は刃物でめった刺しにされるバッドエンドになるかもしれないと先の未来に恐怖を感じた。

 

「それはそうと、貴方の未来を先ほど占ってみたのだけれど、どうやら決断の時は迫ってきているようね」

 

 マーガレットがペルソナ全書を開いてそんなことを言うと、これまで定速で動いていたベルベットルームのリムジンが()()()()()()()()()()()()。これは稲羽の事件の終盤でも起こった出来事だ。違いがあるとすれば、この場に主であるイゴールがいないことだろうか。

 

「次の戦いであの子たちと追ってきたこの災難に決着が着く。それまでに束の間の休息を取りながら、あの子たちとの絆を深めるべきかと。おそらく、あの子たちの更なる覚醒が今回の事件の鍵になるわ」

「…………」

「これはベルベットルームの住人である私が言うのはおかしいのかもしれないけど、貴方の世界でいうゲームのように現実は巻き戻しはできない。だから、あの子たちと何を選び、何をなすべきなのか……よく考えるようにね」

 

 意味深な言葉を口にしたマーガレットがこちらを見据えたと同時に、視界が徐々に曇り始めてきた。どうやら時間らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<音ノ木坂学院 アイドル研究部室>

 

「えっ!? 恋愛?」

「そうよ、それが今回の新曲のテーマよ」

 

 穂乃果のデートから数日後、部室では新たなる会議が開かれていた。それは近々開かれるラブライブ本選で披露する新曲についてのことだ。

 大会側から指定された新曲の条件は今まで出していないジャンルであること。それにμ‘sが該当するジャンルは恋愛だったということだ。

 このお題に恋愛経験が皆無のメンバーは顔を真っ赤にし、海未に至っては赤くなったと同時にあたふたと挙動不審になった。メンバー全員が一人の男に恋しているというのに、この反応は如何なものか。当然その原因となっている男は意味が分からずポカンとしているが。

 

「れ、恋愛がテーマって……一体どうすれば」

「やっぱり一番は私たち世代の青春が良いんじゃないかしら? 共感する人が多いって言われているし」

「「それだっ!」」

 

 前もって考えてきたのか、絵里の的確な提案に皆は一斉に賛同した。現役を退いたとはいえ、流石は前生徒会長。悠に引けを取らない伝達力は健在だ。

 だが、この絵里が突然思わぬ爆弾を投下した。

 

「ということで悠、今度私とデートしましょう」

「……Pardon?」

「だから、()()()()()()()()。今回の新曲作りのために」

 

 この同級生は今何といったか? 自分が絵里とデート? なぜ? 

 

「ちょっと待った!! 絵里ちゃん、どういうこと!? というか、新曲作りのデートならことりちゃんか海未ちゃんが適任じゃないの! 穂乃果とかも」

「そ、そうです! 作曲担当は私なのに、どうして絵里がでしゃばるんですか!?」

「そうだよ! ことりだってちゃんとデートしてもらったことないのに!!」

 

 当然悠の疑問を他所に彼女の発言に異議が唱えられた。3人ともかなり私情が入っているようだが、絵里に対してかなりの食いつきっぷりだった。

 

「だって、穂乃果はこの間デートしたじゃない。海未だって、私たちに黙って山デートしたし、ことりとじゃただの仲良しの兄妹のお出かけになっちゃうじゃない」

「「「ぐっ……でもっ!」」」

「確かに、私も最初は海未が良いと思ったけど、私たちより悠と付き合い長いはずなのにちっとも恋愛の曲書いてなかったでしょ」

「「「ぐぐぐ……」」」

「それに、やっぱり恋愛の曲を作るには作曲者の主観も大事だけど、客観的な視点が必要だと思うのよね」

 

 有無を言わせない理詰めで攻めてくる絵里に3人はぐうの音も出なかった。ことりに至っては悔し過ぎて絵里を睨みつける目が血走っている。最近構ってやれなかったせいで病み具合がひどくなっているのであまり刺激するようなことは言わないでほしいと悠は切実に思った。

 

「それに、悠には同級生との恋愛が一番しっくりくると思うし」

「「「そっちが本音か!?」」」

 

 ポロッと出た絵里の本音に全員が総ツッコミを入れた。

 

「異議あり! ゆ、悠さんは同年代よりも少し年下との恋愛が似合うと思います!」

「そうよ! 悠さんの後輩は年上ばっかだけど、悠さんは年下が多いじゃない! その路線なら、私たちとの恋愛が一番よ」

「同意ですっ! 恋愛下手な私でも分かります!」

「そうだよ! この間の穂乃果とのデートの時だって、悠さんとってもドキドキしてたもん! これは悠さんが年下好きだって証拠だよ!」

「こ、ことりだって…ことりだって本気出したら、お兄ちゃんを悩殺できるもんっ! だって、お兄ちゃんはシスコンだもん!!」

「そうにゃそうにゃ! これは戦争だにゃあああっ!!」

 

 絵里の主張にここまで黙っていた1年生組を加えた年下組が抗議の声を上げた。ついでに同じ同級生であるにこと希もその理論なら自分こそが至高と名乗りを上げた。

 そこからはラブライブのことなどそっちのけで、恋愛はどの年代とのものが至高かという議論にもつれ込んでしまった。結果、いつまで経っても決着は着かず、そのまま無駄に会議が終わってしまった。

 

 

 

 

 

「はあ……」

「絵里、どうしたんだ?」

 

 不毛な会議が終わって少し経った後、部室に忘れ物をしてしまった悠が部室に戻ってみると、まだ部室に残っていたらしい絵里が携帯を見てため息をついていた。生徒会長の任を穂乃果に受け継ぎ、受験とラブライブに本腰を入れ始めたせいかどこか表情がぎごちない。というか、先ほどの絵里らしからぬ爆弾発言もそのストレスからかもしれない。

 

「あ、ああ……悠。なんでもないわよ」

「何でもないわけないだろ。もし困ってることがあるなら相談に乗るぞ。妹関係のことなら大歓迎だ」

「悠、それがシスコン番長って言われてる原因だってわかってる?」

 

 しかし、妹関係という言葉に何か感じたのか、絵里はふと考え込んだかと思うとジッと視線を悠に移した。

 

「ねえ悠、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんだ?」

 

 緊張しているのか、身体をモジモジとさせながらも目が据わっている。一体どんなお願いなのやら。

 

 

 

「私の、()()()()()()()()()()?」

 

 

 

「はっ?」

 

 今度こそ思った。この同級生は一体何を言ってるのだろうか? デートをすっ飛ばして彼氏? なぜ? マリーと同じように不意打ちで愛の告白か? 

 

「……はっ!? ま、待って待って!! 違うの! これには事情があって、決して告白って訳じゃ」

「分かってる」

「そ、そう……」

 

 若干しょんぼりした表情の絵里に詳しいことを聞くと、何でも絵里のおばあちゃんが数日前から来日しているらしい。大好きなおばあちゃんが来日したとあって、絵里と亜里沙はとても嬉しく休日に東京の良いところを案内しようと張り切っているとも。

 

「昨日ね、おばあさまに“彼氏はいるのかい”って聞かれちゃって。それで見栄張っているって言っちゃったの」

「ラブコメだと定番の話だな」

「それで、本当に申し訳ないんだけど……おばあさまが来日している間は私の彼氏っていうことにしてもらえないかしら?」

「ええ……」

 

 本当にラブコメでありがちな話になってしまった。それも相手があの真面目な絵里だというのだからなおさらだ。まさか今日のデートの話はその一環か。

 悠の嫌そうな顔を見て、絵里はすがりつくように悠の襟を掴んできた。

 

「お願い、そんな顔しないで! おばあさまは小さい時から本当に大好きで、例え嘘だったとしても裏切るようなことはしたくないのよ!」

「うーん……」

「もちろん亜里沙にも言っておくし、貴方の迷惑になるようなことはしないから!」

「…………」

 

 普段は毅然とした態度を貫いている絵里がこんな涙目になるとは思いもしなかった。絵里は祖母のことが大好きでロシアにいた頃はバレエの演技で褒められたことが何よりうれしかったということは聞いていたが、今でもそれほどに祖母のことが大好きなのだろう。

 それに、これでもかと言わんばかりに上目遣いで頼み込む同級生をやっぱり見捨てることはできなかった。

 

「……分かったよ」

「ありがとう! じゃあ早速、家に来てほしいんだけど」

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

<絢瀬家>

 

「来てしまった……」

「何よ、その言い方。私の彼氏なんだから堂々としていればいいの」

「似たようなこと、にこに言われたこともあったな……」

「…………」

「いたっ!?」

 

 言われるがまま絵里の家の前まで着いてしまった。他の女の名前を出したことでつねられてしまったが、そこまで徹底しなくてもいいのに。

 それに何だか彼氏のフリをするのは気が重い。彼氏のフリなど稲羽でエビ、もとい海老原あいに強引にやらされて以来だが、あの時とはまるで違う。それに、聞けば絵里の祖母はロシア人らしい。英語ならまだしも、ロシア語なんて全然わからないので、コミュニケーションがどこまで取れるのか分からない。ロシア語なんてコルホーズとかガガーリンとかしか分からないが、とにかくダメもとでやってみるしかない。

 

「あら、貴方が絵里の彼氏さんかい?」

「うおっ!?」

 

 一人気に意気込んでいると、背後から声を掛けられた。不意打ちだったので驚いて振り返ってみると、そこに外国のご婦人が膨らんだエコバッグを片手に綺麗な姿勢で立っていた。上品な婦人服に白髪、更には透き通るような青い瞳を持つ風格のある女性だった。何よりその顔立ちは隣の彼女(仮)を彷彿とさせたので、すぐにこのご婦人が誰なのかを察知した。

 

「お、おばあさま! いつからそこに?」

「今日は絵里の彼氏が来ると聞いたから、ピロシキをご馳走しようと思ってね。材料を買いに行って、今帰ってきたところよ」

「言ってくれれば私たちが買いに行ってたのに……」

「それで、貴方が絵里の彼氏さんかい?」

 

 絵里の呟きもそっちのけで、再度に悠に質問を投げかける祖母。こちらをジッと見る視線が品定めしているように感じて萎縮してしまった。

 

「は、はい。絵里の……彼氏の鳴上悠です。初めまして……えっ?」

「そんなに固くならないでいいのよ。私は若いころ日本に長いこと住んでいたから、日本語も問題ないわ」

「そうでしたか……」

 

 流暢な日本語だと思ったか、そういうことだったらしい。

 

「改めて、絵里と亜里沙の祖母のアレクサンドラ・トルスタヤです。絵里からよく聞いてるわ。よく助けてもらって、それからお付き合いに発展したって」

「「………………」」

 

 決して嘘ではないが、嘘である。そんなことで目の前のベテラン女子を騙していることに2人は改めて後ろめたさを感じた。

 

「そういえば、亜里沙も」

「鳴上さーん、いらっしゃーい!」

 

 すると、脇から亜里沙がウサギのように胸に飛び込んできた。何とか亜里沙を受け止めた悠だが、亜里沙はそのまま悠の胸の中をすりすりと堪能し始めた。その様子が愛らしい小動物のように思えて、悠は心なしかほっこりとした。

 

「あらあら、亜里沙は甘えん坊ね」

「うん、だって亜里沙、悠さんのこと大好きだもん!」

「ちょっと亜里沙、悠が困ってるでしょ!」

 

 亜里沙の抱きつきが行き過ぎだと思ったのか、絵里は姉らしく叱る。だが、亜里沙は悠に夢中で聞こえいないのか悠へのすりすりをやめる気配がない。羨ましさとじれったさも相まって思わず無理やり引きはがそうとする手を悠は止めた。

 

「いいよ、絵里。最近会ってなかったし、寂しかったもんな」

「うんっ! えへへへ~♡」

「もう……」

 

 何だかんだ妹(それが他人の妹でも)に甘い悠。分かっていたことだが、妹が想い人とイチャイチャしているとどこか複雑な気分だ。公衆の面前、もとい大好きな祖母の前にも関わらず、頬を膨らませて不機嫌を露にしてしまった。

 

「亜里沙、その辺りにしておきなさい。鳴上くんもその姿勢のままじゃ辛いだろうし、お姉ちゃんも不機嫌になってるわよ」

「お、おばあさま!? わ、私は不機嫌なんて」

「はーい」

 

 祖母の言葉に絵里は表情が顔に出てしまったと取り乱した。亜里沙も悠成分を十分接種して満足なのか、ホクホク顔で悠からそっと離れていった。

 

 

 

「何だか落ち着かない……」

 

 あれから綾瀬家のリビングに通されて、絵里からくつろいでほしいと言われたが、どこか落ち着かない。絵里はおばあちゃんと一緒にピロシキを作りにキッチンに行ってしまい、亜里沙は着替えてくると自室に戻ったままだ。

 キッチンの絵里とアレクサンドラさんに何か手伝いをしようかと申し出たのだが、

 

「悠はお客さんで彼氏なんだから、くつろいでていいの!」

「ええ……」

「最近悠のために何もできなかったから、彼女の私にも偶には働かせてよね」

 

 ウインクして微笑んだ顔でそう言われては邪魔もできなかったので、大人しく待つしかなかった。端からアレクサンドラさんの温かい目が少し気になったが、手持ち無沙汰になった悠はとりあえず雛乃に今日は遅くなると連絡することにした。

 

『悠くん、貴方ねえ……』

 

 絵里のことを相談した結果、予想外にも呆れた声を出されてしまった。電話越しでも雛乃がしかめっ面をしているのが手に取るように分かる。

 

『はあ、よりにもよって綾瀬さんのおばあさまなんて……一体どれだけ兄さんと同じルートを辿っているのかしら』

「えっ、父さん? それはどういう」

「鳴上さーん!!」

 

 雛乃との通話中に、自室から出てきた亜里沙がまたも胸に飛び込んできた。勢いで雛乃との通話を切ってしまったが、目の前に飛び込んできた亜里沙の服装に意識を持っていかれた。

 

「あ、亜里沙!?」

「どうどう、鳴上さん! 亜里沙の服、可愛い? セクシー?」

 

 離れたと思いきや、自室で着替えてきたであろう私服を見せつける亜里沙。中学生にしてはかなり攻めたネグリジェのような私服でポーズまで決めて見せてくるので、中学生ながら色気があるように見えた。

 

「亜里沙、可愛いけどその言葉はどこで覚えたんだ?」

「友達がこの間紹介してくれたアニメだよ。確か戦闘員」

「よし、それ以上はやめよう」

 

 確かにあのアニメは原作も面白いが、女性キャラクターの一部は亜里沙に悪影響を及ぼしかねない。というか亜里沙にそんなアニメを教えたのは誰だ。亜里沙にはあの汚職騎士と行き遅れのようになってほしくない。

 

 

 

 1時間後…

 

「はい、おばあさまのピロシキよ。材料も余ってたからボルシチも作っちゃった」

「いっぱい食べてね、鳴上くん」

「あ、ありがとうございます」

 

 目の前に綾瀬家お手製のロシアの家庭料理が並ばれる。焼いたピロシキとボルシチ。名前だけ聞いたことがあっても実際に見たことがないものが満載だった。

 

 説明しよう。

 ピロシキとは小麦粉を練った生地に色々な具材を包み、オーブンで焼くか油で揚げて作られる東欧料理の惣菜パンのことである。主にウクライナ、ベラルーシ、ロシアなどで好まれており、各地によって作り方は大きく違う。例えば、日本で作られるピロシキは油で揚げたものがよく見られるが、ロシアでは焼くピロシキが一般的である。

 ちなみに、ボルシチは牛肉にソテーした白キャベツ、ニンジン、根パセリ、ジャガイモ、タマネギ、トマトなどの野菜、テーブルビートから作られる酸味のあるスープのことである。このスープはロシア料理というイメージがあるが、実際はウクライナの伝統料理である。

 

 閑話休題

 

 それはともかく、せっかく絵里たちが作ってくれたのに冷めてしまっては勿体ない。手を合わせていただきますと宣言して、悠はピロシキを口へ運んだ。

 

「うま────────!!」

 

 口に入れた瞬間、これまで味わったことがない旨味が広がった。

 

「これはすごい……! 毎日食べたいくらい、美味い!! 俺も負けてられないな」

「もっ、もうっ!! 調子いいんだから……」

「ふふふ」

 

 悠の屈託ない感想に絵里は頬を赤らめ、アレクサンドラさんは初々しいカップルのやり取りに微笑みを浮かべていた。亜里沙は照れる姉にじとーっと嫉妬の視線を送っていたが、完全に無視されていた。

 

 

 

 楽しい食事も終わり、そろそろ帰宅する時間になった。亜里沙は泊まってほしいとお願いしてきたが、流石に遠くから来た祖母のいる家に泊まるほど無神経ではない。それに無断で女子の家に泊まったとなったら、家族が黙っているはずがない。

 玄関まで見送りにきてもらった際、アレクサンドラはおもむろに悠の肩に手を置いた。

 

「鳴上くん、明日は休みでしょ。予定はあるのかい?」

「いえ、特に勉強以外ありませんが」

「良かったら明日、私たちと渋谷を回らないかい?」

「えっ?」

「「えっ?」」

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

「悠、ごめんなさい。まさかここまで付き合ってもらうだなんて」

「気にするな。もう慣れっこだから」

「それはそれでどうかと思うけど」

 

 そんなやり取りをする渋谷駅前。結局、翌日も綾瀬家についてきてしまった。頼みを断れなかったこともあるが、どうもアレクサンドラには別の目的があるように感じられたからだ。例えば、自分に話したいことがあるなど。

 

「ほう、ここが噂の渋谷かい。昔と違って賑わってるじゃないか」

「わああ~秋葉原と同じだ。ここならおでんジュースあるかな?」

 

 そして、件のアレクサンドラさんは亜里沙を真似たのか、とてもヤングな格好をしていた。とてもご年配とは思えないほど若々しくパワーもある。普通に渋谷の人々に混じっていても違和感がないほどに。

 

「パワフルだな、アレクサンドラさん」

「ええ、そうなのよ。ロシアに居た時は奥ゆかしいところもあったんだけど」

「あら? 絵里と鳴上くんは手を繋がないのかい? 恋人同士だろう?」

「「!!っ」」

 

 鋭いところを突かれた2人はビクンと肩を震わせて動揺してしまった。こんな疑われる展開はラブコメのお約束みたいなものだが、いざ突然やられるとどう対応していいのか分からなくなる。

 

「えっ? お姉ちゃんと悠さんが恋人ってなに? まさか……」

「あ、亜里沙っ!? ちょ~っとこっちに来てもらえるかしら~?」

 

 そして、亜里沙への口止めも忘れていたのか、絵里は慌てて誤魔化しにかかった。

 何だか雲行きが怪しい展開になってきた。

 

 

 

 渋谷の街を歩き回って数時間、大量の荷物を持たされた悠の体力は限界にたどり着こうとしていた。渋谷ヒカリエからスクランブル交差点、104に道玄坂、更には宇田川町にタワーレコード、センター街にスペイン坂などと渋谷中を色々回った気がする。

 疲れすぎてこのままRGからUGに片足を突っ込みそうになったと錯覚するほどに。そうなる前に、亜里沙がクレープが食べたいと辿り着いた宮下公園のベンチで休憩できたので、何とか意識を保っていた。あまり言いたくないが、女性の買い物は量が多いし長い。世のカップルの男性は大変だなと改めて思った。

 

「少しお話いいかしら?」

 

 ベンチで休んでいると、隣にクレープを片手に持ったアレクサンドラさんが座ってきた。

 

「貴方、本当は絵里の彼氏じゃないんでしょ?」

「えっ!?」

 

 またも不意打ちに投げかけられた言葉に、思わず動揺してベンチから落ちそうになってしまった。

 

「誤魔かそうとしなくていいのよ。小さいときからあの子を見てきたから、嘘をついている時の仕草くらい分かるわ」

「そ、それは……」

「うふふ、そんな顔しないでちょうだい。私は絵里の嘘を咎めたいわけじゃないの。本当は貴方を見てみたかったの」

 

 そういってクレープを一口かじるアレクサンドラさん。何というか、絵里と亜里沙の祖母だけあって、食べ物を口に入れる姿も綺麗だと思ってしまうが、それどころじゃない。

 

「俺を見たかったって、どういうことですか?」

「貴方なんでしょ? 絵里にやりたいことが何なのかを教えてくれたの」

「えっ?」

 

 アレクサンドラさんの言葉にまたも驚かされてしまった。

 “やりたいことは何なのか? ”。それはかつて絵里の抑圧されたシャドウの原因となった絵里の積年の悩みだったはず。絵里は家族にすらそのことを言っていなかったのに、どうしてこの人は知っているのだろう。

 

「こう見えて、若いころは教師を生業としていたの。長年やっているとね、色んなものが見えてくるの。この生徒がどんなことで悩んでいるのか、どういう風に接したらいいのか、生徒の食事に何か混入されていないかとかね」

 

 最後のは教師の仕事に全く関係ない気がする。単なるアレクサンドラさんの冗談だと信じたい。

 

「あの子はね、ロシアでバレエを辞めてから雰囲気が落ち込んでいたわ。無邪気ではなくなったし、幼いのにどこか心が冷たくなって。日本に行ってしまった時はとても心配だったわ」

 

 だから、それからずっと絵里に電話をかけて近況をずっと聞いていた。

 危惧していた通り、バレエを辞めて何事にも冷めてしまった絵里は大きくなるにつれて、小さい時のきらめきを忘れて心がシベリアの気候のように冷たくなっていったことが電話越しでも伝わった。

 もう自分が何を言っても孫は頑なに変わろうとはしないだろうとアレクサンドラさんもそれ以上何も言わなくなって何年も経ってしまった。だが、

 

「今年の6月辺りからあの子の声が明るくなってね。何かあったのかいって聞いたら、自分を変えてくれた人に出会えたって。昨日初めて会った時、すぐに貴方だって気づいたわ」

「な、なぜ?」

「最初はつかみどころがなくてどう接したらいいのか分からないけど、真っすぐで家族想いで仲間想い、天然ジゴロだけど魅力的な人だって聞いてたから。その特徴にピッタリだったもの」

「いや、どんな特徴ですか……」

 

 むしろ、普通なら絶対分からないと思う。それだけ長年教師をやってきた経験は伊達じゃないということなのだろうが、逆にこのアレクサンドラさんはどんな教師生活を送ってきたのか気になるところだ。

 すると、そのアレクサンドラさんはクレープを膝元に置くと、改まって悠に向かい合わせた。

 

「鳴上くん、どうか()()()()()()()()()()()()()()

「えっ?」

「もちろん、貴方にも好きな人がいたら、本当に付き合ってゆくゆくは結婚してほしいなんて言わないけど」

 

 それはそれでどうかと思うが、と思ったが口にはしなかった。

 

「それでも、この先あの子が幸せになれるように見守ってくれないかい? それが、孫が心配な老婆の勝手なお願いだよ」

「…………」

 

 即答できなかった。

 当然だ。どんな形であれ孫を幸せにしてほしいというアレクサンドラさんの願いは現在の悠にはとても重く感じた。それは自分の生まれ育った環境と性格、更には最近の己の行動による過ちによるもの。つまりは自分に自信を持てなくなったからだ。

 だから、悠は正直に伝えた。

 

「正直、俺が絵里を幸せにできるのか分からないです。親友や家族から目の前で困っている人がいたらすぐに駆け付けるから、心配でしょうがないって言われますから」

「そう」

 

 悠の返答にアレクサンドラさんは残念そうに視線を逸らした。しかし、

 

「それでも俺はみんなが困っていたら助けたい。おこがましいかと思うかもしれませんが、絵里も亜里沙も俺にとって大切な……友達です。友達が困っていたら、助けるのは当たり前ですから」

 

 その言葉を聞いたアレクサンドラの脳裏に過去の教え子が過った。

 教師として働いていた時、自分が受け持っていたクラスで誰これ構わず人助けに専念していた男子生徒がいた。危なっかしいところもあって何度もハラハラしたが、結果的に彼は関わった友人たちをより良い方向に導いた。

 

 

(ああ、彼なら大丈夫。きっとどんな形であれ、絵里たちを幸せに導いてくれる)

 

 そう思わせるほど、今の悠の言葉はアレクサンドラさんにとって最適解だった。

 

「鳴上さーん、おでんジュースあったよ!」

「だから亜里沙、それはおでん缶だって言ってるでしょ!」

「あはは……亜里沙におでんジュースが何なのか、教えてやらないと」

 

 どうやら絵里たちも戻ってきたようだ。やれやれと悠は立ち上がって絵里たちの元へ向かい、アレクサンドラは集まる3人の景色に温かな笑みを浮かべていた。

 

 

 

「今日はありがとうございました」

「いえいえ、こっちこそありがとうね。私の我儘に付き合ってもらって」

「全然。絵里、それじゃあ……また学校でな」

「う、うん……」

「鳴上さん、またね! 次は亜里沙の部屋に泊まりに来てね」

 

 本日買い物した荷物を綾瀬家まで届けて、帰宅する。家に帰れば雛乃とことりが温かいご飯を用意してくれてるはずだ。最も、その際に絵里一家とのデートはどうだったのかと質問されることになるだろうが、何とかなるだろう。

 悠が頭の中でそんなことを考えている一方、綾瀬家の玄関では未だに絵里が帰宅する悠の後ろ姿を見つめていた。

 

「絵里、このまま逃がしていいの?」

「えっ?」

「ロシアでも言ったでしょ。男はいつチャンスをくれるか、分からないって」

 

 祖母から久しぶりに聞いたその言葉に絵里は心を揺さぶられた。口ぶりから悠と付き合っているという嘘は見破られていることが察せられたが、そこではない。

 そうだ、こんな機会はもうないかもしれない。今回は偶々祖母のこともあって付き合ってくれたが、今後悠が自分の都合のために動いてくれることなんて金輪際ないかもしれないのだ。現に、悠はこれからも希やことりの攻勢に飲まれて確実にモノにされてしまうかもしれない。

 そう考えた絵里が内に秘めていた気持ちは濁流のように溢れだした。

 

(そうよ、私はもう……遠慮しないって決めたんだから……!)

 

 新学期に入ってから、あの男が他のメンバーとのデートを見守ってから感じていた焦り。初めて感じた異性に対して自分だけを見てほしいと願った想い。それを今、止めることはできない。

 嘘をついていたのに、それを気にしないどころかアドバイスを与えてくれた祖母の言葉に突き動かされるように、絵里は走り出した。突然の姉の行動に亜里沙は驚き、アレクサンドラは微笑ましそうに見つめていた。

 

 

 

「悠っ!!」

 

 後ろから自分を引き止める声がした。振り返ると、ここまで走ってきたのか、随分と汗だくで息が上がっている絵里がいた。

 悠が普段見ない彼女の姿に仰天する間も与えず、絵里はすぐさま妹と同じように抱き着いた。誰にも渡したくないと、周りに見せつけるような抱擁だったのか、周囲の人々の注目の的となった。これに流石の悠も慌ててやめさせようとするが、出来なかった。

 そう思わせるほどに、絵里の抱き着く力が強く、今までの絵里からは感じられなかったほどの強い想いが伝わってきたからだ。

 

「私はもう、手加減しないから」

「えっ?」

 

 

ー!!ー

 

 

 悠にしか聞こえないほどの声量で呟いた絵里はそのまま悠の首筋に顔を近づけたと思うと、そのまま唇を押しつけた。

 訳が分からずなされるがまま固まって数秒後、絵里がゆっくりと首筋から口を離した。

 

「本気を出した私の攻勢は凄いわよ。穂乃果やことり、希だって目じゃないんだから。覚悟してよね」

 

 己の後輩の如く貴方のハートを奪って見せると胸に指先を当てる仕草に思わず見惚れてしまった。そして、その際に見せた笑顔に意識が自然と奪われる。

 何度目かの経験したはずのキス。これまで決して唇同士でないものであっても、どこか心を奪われてしまった。節操ないと思いつつも、アレクサンドラさんとの約束は必ず守ろうと改めて思いなおした瞬間だった。

 

 

 

 

 帰宅後

 

「悠くん、その首元にあるキスマークは何なのかしら?」

「納得のいく説明、してくれるよね?」

 

 案の定、帰宅して早々キスマークを見つけた家族に尋問を食らってしまいました。

 

 

To be continued.




今話を最後まで読んで下さり、ありがとうございます。いかがだったでしょうか?

最近もう暗いニュースと出来事ばかりですが、そんな時は面白いアニメや漫画を読んで笑って元気をもらいましょう!
最近の私のお薦めは【戦闘員、派遣します!】です。このすばの暁先生の作品なだけあってめっちゃ面白いです。戦闘員6号の相棒アリスのオカルトキラーっぷりがとても面白すぎて……(笑)。

ゲームでは【新すばらしきこのせかい】も面白かったです。主人公ネクの前作もやってたのでなお面白かったです。PVでミナミモトが登場したときは前作のこともあって絶対味方な訳ないやんと思っていたのですが、実際は(ネタバレになるので自主規制)。

楽しみといえば【月姫リメイク】でしょう。月姫はカニファンの狂った時空とアルクェイドルートのアニメでしかしっかり見たことないので、とても楽しみです。
作者の奈須きのこといえばFGOの2部6章。中々えぐい描写もありましたが、思わず引き込まれてしまうほど面白かったです。村正おじいちゃんとキャストリアのやり取りは神だった。そして、妖精はく(自主規制)。
オベロンと光のコヤンスカヤ、欲しかった……(爆死の跡)。

すみません、与太話が長すぎました。
次回もなるべく早く更新したいと思いますので、それまでお待ちください。
ではでは

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