PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
そして、更新が再び遅くなって申し訳ございません。
今回は久しぶりのヒロイン回シリーズです。今話はμ’sのリーダー穂乃果。そんな彼女に合うと思ってチョイスしたのは【ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅡ】のHELLO to DREAMです。歌詞の内容が彼女に合ってるなと思ったので。
実は私がダンまちシリーズを知ったのはちょうど2期が始まった時で、ⅡのPVをきっかけにダンまちシリーズを買って読み漁ってハマってしまいました。この時のベルくんのまっすぐさとヴェルフの漢っぷりに惚れました(あれ、ヒロインは?)
そういえば、今ダンメモ4周年ストーリーで(公式がネタバレ禁止してるようので自主規制)。
そんなことより肝心の本編ですが、1話で書ききるつもりが、いろいろ溢れてしまって前編後編構成になってしまいました。”主人公同士だし、仕方ないよね☆”という感じで割り切らせて下さい。
改めて、誤字脱字報告をして下さった方・感想を書いて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!
それでは、本編をどうぞ!
♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~
…………美しいピアノのメロディーが聞こえてくる。
聞き慣れたそのメロディーで目を覚ますと、悠は別の場所にいた。床も天井も全てが群青色に染め上げられている、まるでリムジンの車内を模した空間。ここは【ベルベットルーム】だ。
「ようこそ、我がベルベットルームへ」
目の前に鼻の長い奇怪な老人がいる。この老人の名は【イゴール】。このベルベットルームの管理者だ。そして、その両隣には2人の女性が座っている。右手にいるプラチナ色の髪の女性は【マーガレット】。そして、左手にいる銀髪の女性はマーガレットの妹である【エリザベス】だ。この顔ぶれは随分と久しぶりに思える。
「まずは、お疲れ様でございます。お客様はあの子たちと此度の難局を乗り越え、無事ご家族をお救いになられたよう。その証拠に」
開口一番にマーガレットがそう言うと、膝元に置かれたペルソナ全書をそっと開いた。
「お客様はかの戦いの最中にまた一つのアルカナを封印から解放させたご様子。そのアルカナは【法王】……ふふふ、まさかこのアルカナを解放したと同時にあの【コウリュウ】を召喚なさるとは……ああ」
マーガレットは興奮を隠しきれないのか、珍しく屈託のない笑みを浮かべなが恍惚としていた。その瞳が見つめる先には、悠が【法王】のアルカナを目覚めさせるキッカケとなった叔母との記録がスライドショーの如く映し出されていた。
同じようにその軌跡を眺めていたイゴールは不敵な笑みを浮かべたと思うと、その重々しい口を開いた。
「フフフフフフ……私もあのような偉業をご覧になったのは初めてでございます。やはり、貴方様は実に面白い。ですが、まだ「流石はわが主と姉様がお認めになったお方でございます。このエリザベス、誠に感服致しました」……」
またも主の言葉を遮って勝手に話し出したエリザベス。以前まではこのような横暴を咎めてきたイゴールもあきらめたのか、何も言うことはなく黙っていた。ただ、伏せている眼がわなわなと震えているので、相当お怒りなのは丸わかりだが。
「ですが、物事には何でも後始末ということは付き物。例外なく、鳴上様も後始末をつけなければいけないことがあるのではないでしょうか?」
「………………」
ここの住人は余計なことを言うのが習わしなのか。そう感じてしまうほど、エリザベスの言葉は的確に自分の傷をえぐった。
「おやおや、どうやら図星のご様子。その上、このような機会はあまりご経験があらず対策を練られていないとお見受け致します。でしたら、ここで」
「これええっ!! エリザベスっ!! お客様に無礼な口を利く出ない!! 大体お主はいつもいつも……」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、あまり見ない怒り顔でエリザベスに怒鳴るイゴール。そのまま血圧が上がりすぎて昇天みたいなことにならなければいいがと思ったと同時に、視界が段々とぼやけていった。
どうやら時間らしい。
────デートしよう
とある日、ふと悠の頭にそんな考えが浮かんだ。
事の顛末は先日の雛乃誘拐事件でのこと。
悠は有り余る家族愛と昨年の菜々子誘拐事件のトラウマで暴走した。その末に、陽介たちにさえやったことがなかった“仲間に刃を向ける”といった行為を穂乃果にしてしまったのだ。
最悪な事態は避けられたとはいえ、あの日から穂乃果とは口を利くどころか、顔すら合わせられないのだ。
他の仲間に助け船を求めても、今回はお前が悪いから自分で何とかしろと突き放されてしまった。
「うーん……」
そして、退院したからというもの、悠は自室でどうすれば穂乃果と仲直りできるのかをうんうんと頭を抱えながら考えていた。
「いっそ、お菓子で釣るか……? 駄目だ駄目だ、それじゃ穂乃果に誠意が伝わらない……」
あれこれ色々と思考しているが、てんで駄目だった。試しにことりに提案してみたが、全部誠意が伝わらないなどと一蹴されてしまった。更には、稲羽にいる叔父の堂島に電話して色々聞いてみたりもしたが…
『悠、お前の力になりたいのは山々だが、俺はそんなことには疎くてな。女の機嫌の取り方なんてわからんさ。千里の時だって全然で、今だって菜々子に色々頭が上がらねえんだ』
「そ、そうですか……」
『大体この手の問題はお前の専売特許だろうが。それを何で俺なんかに聞くんだ? ちゃんちゃらおかしいだろう』
尊敬する叔父にそう指摘されてはぐうの音も出なかった。
確かに堂島の言う通り、これまでの人生、他人のトラブルや悩みに自ら首を突っ込んできては少なからず解決に導いてきたつもりだが、それは甘い認識だったかもしれない。
そもそも、これまでは悠自身が関わっていない他人のトラブルや悩みに多く遭遇してきたが、
その末に、穂乃果を心から楽しませてもてなすという方向性から、冒頭の考えが浮かんだわけだ。
「よし、穂乃果とデートだ」
そうと決まれば行動開始だ。
先日読破した「ダンまち」16巻を思い返してみる。そういえば“デートとは金がかかるもの”と妖精の
────残高¥150
「……金がない」
財布にははした金しか入ってなかった。そういえば、何かとお金を使う機会が多かった上に、バイトを碌にしてなかったを思い出す。これではどこにも行けやしない。
どうしようか。いっそのことまたネコさんのコペンハーゲンか菊花の和菓子屋にバイトを頼んで。
「悠くん、ちょっといいかしら?」
「えっ?」
気付かぬうちに叔母の雛乃が部屋に入ってきた。
先日退院してから今でも思っているが、こうして叔母がいつも通りに日常を過ごす光景を見ると、穂乃果の件を抜きにしてどこか胸が温かくなる自分がいる。
そんな叔母は何かもらったのか、両手に大きな段ボール箱を抱えていた。
「実はね、東条さんが来てるの。なんでも実家からのお裾分けって。ついでに、悠くんに話があるっていうから」
「希が?」
そういう訳だからちょっと会いに行ってくれないかと言われたので、雛乃の荷物運びを手伝ったのち、玄関に足を運んだ。みると、本当に希がいた。いつもの制服ではなく、何時ぞやのデートで見た可愛らしい私服だった。まあ休日だし当然であるが……
今はことりが相手をしている最中だった。
「希、どうしたんだ?」
「あっ、悠くん。実はな、実家から差し入れが届いとって、一人じゃ食べきれへんかったから、悠くんとことりちゃんにどうかなって思うて」
「本当は退院したばかりのお兄ちゃんの様子を見に来たんだって。明日には登校するのに、気が早いよ」
希の発言にすかさずことりが牽制を入れるやり取りに汗が止まらない。なんでこの二人は表面上仲良さげなのに、そんなに火花を散らすのか。
「まあ、ことりちゃんの言うことが大半なんやけど。それはそうと悠くん、ちょっと話ええ?」
「えっ、俺?」
何だろうと思って近寄ってみると、希はおもむろに悠の手を両手で包んだ。
「うふふ、悠くんは相変わらず隙だらけやねえ」
「えっ」
「病み上がりやろうけど、頑張ってな」
希は意味ありげにそう言うと、そっと手を離した。そして、ことりに荷物を渡すとその場から去っていった。
「なんだったんだ?」
「さあ。あれ、お兄ちゃん、手に何か持ってない?」
「あっ」
そういえば、今握られた手には何か紙みたいな物の感触がある。もしや希が何か手渡したのかと思ってみると、予想通り悠の手に何かが握られていた。
「これって、わくわくざぶーんのペアチケット?」
それは絆フェスの後にプロデューサーの落水が招待してくれた【わくわくざぶーん】のチケットだった。しかも2枚もある。もしやと思って、希が帰っていた方角を見た。
まさか、希は穂乃果にいつまでも煮え切らない態度を取る悠を見かねて、ここぞとばかりに助け船を出してくれたのか。流石は幼馴染、ことりですら手助けしてくれないのにここぞとばかりに助けてくれた。自分のことをよくわかっていると悠は内心歓喜した。
そんな様子をことりは横でジロッと睨みつけているが、当の本人は気がつかなかった。しかし、
『うちのチケット、上手いことつこうてな。その代わり、今度お家デートよろしゅうな』
その日の夜、上記の内容のメールが当人から送られてきた。
そういえば、雛乃を助けに行く前にそんな約束してたなと、すっかり忘れていた。やっぱり、幼馴染は厄介だなと心の底から感じた悠はとりあえず『お手柔らかにお願いします』とだけ返信した。
~翌日~
「だ、大丈夫だ……誘うだけ。誘うだけだ……」
希と悪魔の契約をした次の日、悠はガチガチに緊張していた。
とりかく、昨日希から託されたわくわくざぶーんに穂乃果をデートに誘うだけ。そうだ、それだけのことだ。
いつもより早い時間に登校(早く来すぎて警備員に驚かれた)し、正門で生徒会の朝のあいさつ運動の手伝いをしながら穂乃果を待つ。そして、件の穂乃果が姿を現した。
「お、おーい! 穂乃果―!」
「(ビクッ)」
親友の海未とことりと一緒に登校してきた穂乃果は正門で悠の姿を見つけるや否や、直立不動になって表情がこわばった。そのリアクションにちょっと後ずさってしまうが、ここで退いてしまっては男が廃る。
「実は、ちょっと話が」
「ごめんなさあああああああああい!!」
要件を言う前に穂乃果は校舎の方に一目散に逃げていった。
「えっ? ま、待ってくれ、穂乃果!」
「ダメダメダメ、今悠さんと目を合わせられないよおおおっ!」
「だから待ってくれえええっ! 穂乃果あああっ!!」
「いやあああああああああああああああっ!!」
訳が分からないことを叫びながら兎のように逃げる穂乃果に全然事情が吞み込めない悠。何とか落ち着けさせようと、悠は逃げ回る穂乃果を学校の隅から隅まで追いかけまわした。
「鳴上くん、学校に来て早々何してるんですかっ!」
「高坂さんを追いかけまわすなんて、どういう神経をしてるんです?」
「あっ…」
運悪く職員室の前を通ってしまい、担任の教師に捕まってしまった。
何とか厳重注意で済んだが、運悪くこの朝の行動は女子生徒の間で噂になってしまった。しかも悠が穂乃果をストーカーしたなどという根も葉もない内容が広がってしまい、今日一日全校の女子生徒からひそひそと白い目で見られてしまった。そして、
「……死にたいので、帰ります」
「ちょっと待ちなさい」
放課後には精神が行くところまで追い詰められていた。同じタイミングで部室に来ていた絵里がドン引きしてしまうほどに。
「絵里にはわかるのか? 仲直りしようとした相手が突然逃げて、引き留めようとしただけなのに……それをストーカーと間違われて、学校中の女子から蔑まれる気持ちが……」
「分からないわよ」
全部悠の自業自得だろうと付け加えたかったが、我慢して押し黙った。そんなことを言えば、そのまま窓からダイブしそうな勢いになりそうだったからだ。改めて、同性ながら女の力は恐ろしいなと感じてしまった。
「とにかく、死にたいので……帰ります」
「う、うん……でも死なないでね」
もう引き留められないと悟った絵里はそのまま見送った。
だが、悠が去ったのを確認すると思わずため息をついてしまった。事の顛末はあらかた聞いている。何だか、あの悠をあそこまでさせる穂乃果をどこか羨ましいと感じてしまった。
「……私もちょっと本気出さないといけないかしら?」
「はあ……」
失敗続きだなと悠はとぼとぼと帰路を辿りながらそう思った。
家族愛による暴走に続いて、学校に戻って早々に不祥事。一体自分は何をやっているのだろうか、これではだめだ。
ちょっと一息入れようと、近くの公園のベンチに腰を掛ける。
「……」
公園で友達と戯れる子供たちや買い物帰りの主婦たちが会話している様子を眺めながら悠は再びため息を漏らした。
改めて、何でこんなことになったのだろうか。いや、それは完全に自分が悪いのだが、どうしてここまで引っ張ってしまったのだろう。
以前合宿にて、波のいたずらで穂乃果の裸を見たことがあって気まずくなったが、その時は時が経てば以前の関係まで修復した。
それなのに……
「何が、違うんだろうな……」
「ゆ、悠さん……」
その時、背後から声がした。思わず振り返ってみると、まさかの人物がいた。
「ほ、穂乃果っ!? な、何で……ここに?」
「は、話があるんだけど……いいかな?」
「あ、ああ……」
驚愕を何とかこらえつつも冷静を保ちつつも了承する。穂乃果はちょこんと悠の隣に座ると、どこか緊張したように身体をこわばらせていた。
~回想 昼休み~
「うううううう、どうしよう……穂乃果のせいで悠さんが……」
「アンタね……」
事の顛末を聞いた穂乃果の友人ヒデコ・フミコ・ミカはほとほと呆れていた。
今朝の騒ぎは女子生徒の間で瞬く間に噂になったので、3人の耳にも入っている。悠の奇行には驚きを隠せなかったが、穂乃果から誤解であることは聞いて分かった。
「でもさ穂乃果、あの鳴上先輩に誘われるって、この学校の女子達がうらやむことのほどよ」
「それをねえ」
「まあ、事情は聴いてるけどさ」
3人は悠と穂乃果の間に溝が入ってしまったことは聞いている。だが、当然ヒデコたちは一般人なので、悠と穂乃果はライブの方向性の違いで喧嘩したとしか穂乃果たちは言っていない。
「もう単刀直入に聞くけど、何でそんなに鳴上先輩を避けるの?」
聞いててじれったくなったのか、フミコが正面からズバッと切り込んだ。正面からの質問にうぐっと気まずそうな表情を浮かべる穂乃果だが、観念して本当の事情を話した。
「だ、だって……夢見ちゃったんだもん……」
「夢っ?」
「ほ、穂乃果が……悠さんの弱みに付け込んで
「「「………………はあっ?」」」
あまりに突拍子のない回答に何言ってんだこいつと言わんばかりに怪訝な視線を向ける3人。だが、穂乃果はそんなことは露知らず話を進めた。
「じ、実際そう思っちゃったのは本当なんだよ! ”ふふふ…今の悠さんなら何でも聞いてくれる。あんな事だってこんな事だって~”とか、"悠さんが穂乃果を傷つけようとしたことをゆすって強引に付き合っちゃおう"って! もしそうなったらそれは違うと思うし、穂乃果はそんな風に悠さんと接したくないし……どうしようって混乱しちゃって……」
「「「…………?c(゚.゚*)エート。。。」」」
駄目だこいつ、あまりに思考回路がポンコツになっているせいでとんでもないことを考えている。元からおかしいとは思っていたがここまでになるとは思わなかった。現に周りで聞いていたクラスメイトも顔を引きつらせるほどドン引きしていた。
「というかさアンタ、実際先輩のこと好きなんでしょ?」
刹那、ボンと効果音が聞こえそうなほど顔を真っ赤にした穂乃果はえらく飛び上がった。
「なななななななな何を言ってんの、ヒデコ!? ほ、穂乃果は悠さんのことなんて……」
「いや、アンタが言ってた夢の内容だって……鳴上先輩を自分のモノにしたいっていう願望が溢れてから」
「いやああああああああっ! 違う違う、違うからそんなこと言わないでええええええっ!!」
必死に否定する当人だが、バレバレだよと3人は心の中で突っ込んだ。こんなにあからさまなのに何故そんなにまで否定するのか意味が分からない。まあ、自分たちにまだそういう経験がないからそう言えるのか。
仕方ないと遠目でこちらをジト目で監視していることりに絞られることを承知で、ヒデコは穂乃果に切り出した。
「穂乃果さ、これはチャンスなんじゃない?」
「ちゃ、チャンス?」
「そっ、鳴上先輩にアンタを好きになってもらうチャンス」
ボンボンボンと更に顔を紅潮させる穂乃果だが、その目と耳はしっかりと3人の方に傾いていた。これは好機と言わんばかりに、ヒデコに続いてフミコとミカも援護射撃する。
「そういえば話に聞いたけど、何でも鳴上先輩、穂乃果をわくわくざぶーんに誘おうとしてたらしいよ」
「いいじゃない、プールなんて一番男を悩殺しやすい場所じゃん」
「穂乃果もそれなりのスタイルなんだし、可能性はあるよね」
「まあ海未みたいにぺったんこじゃないし」
―!!(ブチッ!)―
刹那、最後のミカの発言にブチっと怒りを覚えた者の視線と同時に、穂乃果の頭に閃光が走った。
“水着”・”プール” ・“スタイル”。この時、穂乃果の脳内にはとある日に妹の雪穂がこっそり読んでいたある雑誌の記事が過った。
“恋する乙女必見! 天然ジゴロを落とす指南講座”
────天然ジゴロを落とすためには、普段知らない貴女を見せること。女はいくらでも化けるので、これで悩殺!
「まあ、でもだからって、無理にとはいかないけど」
「よし、行くっ!」
「「「決断はやっ!?」」」
そうだ、こうしちゃいられない。今すぐ悠にその旨を伝えに行こうと穂乃果は一目散に教室から出ていった。一体何だったんだと唖然としつつも、ヒデコたちは昼食を再開しようとした。だが、
「ヒデコ~…フミコ~…ミカ~……!」
「ちょ~っとお話しよっか~♡」
この後、3人は懸念通り遠目から見張っていた
そして、時は現在のとある公園に戻る。
「あの、悠さん……今日はごめんね。穂乃果が逃げちゃったせいで」
「いや……あの件に関しては俺も悪かったところがあるから」
「ひ、昼休みに謝りに行ったんだけど…悠さん、いなかったから」
「ああ…その時は確かトイレに籠ってたよ。視線が痛かったし」
「そ、そうなんだ~…」
「………」
「………」
何だかいつも会っている仲なのに、この時ばかりは変に緊張してしまう。こんな感情、今まで感じたことなかったのに。
「あ、あのさ……悠さん、話を聞いたんだけどさ……穂乃果をわくわくざぶーんに誘おうとしたの?」
「え、ええっと……」
会話が更にぎこちなくなってくる。そんな二人の様子を遠目で見ていたおばちゃんたちが“あら、初々しい”・“つきあいたてなのかしら”などとニヤニヤしている視線が痛い。こんな状態ではいたたまれないと感じた穂乃果は押されるように言葉を発した。
「い、行こっか……わくわくざぶーん」
「えっ?」
「ほ、ほらっ! 明日学校も練習も休みだし、穂乃果も予定ないから……せっかく悠さんのお誘いだから……」
「そ、それって……」
「ゆ、悠さんと……悠さんと一緒に、わくわくざぶーんに行きたい!」
「っ!」
思いの丈をぶつけるように顔を真っ赤にしながらシャウトした穂乃果に悠は呆気に取られ、野次馬のおばちゃんたちは湧いた。中には見覚えのある女子小学生が目をキラキラさせているのも見える。
「じゃ、じゃあっ!」
周りの空気に耐えられなくなったのか、穂乃果はそう言い残して脱兎のごとくその場を去っていった。
残された悠はあまりの展開に追いつけず呆然としてしまった。後にメールで『悠さんの好きな時期でいいから!』という確認メールが届いていた。
どこかこのメールを見た途端、悠は心にときめきとドキドキを感じていた。何だか、とあるバンドのそんな曲を聞きたい気分になった。
そうと決まれば早速当日まで準備だと、帰宅して早々に悠は行動を開始した。
都合がよい日を設定して水着の有無を確認。ここまでいいのだが、如何せん金がない。こうなったら雛乃に土下座してお小遣いをもらうしか……
「はい、悠くん」
自室で悶々と悩んでいると、またもいつの間にか入室していた雛乃が妙に膨らみのある茶封筒を渡してきた。
「叔母さん、これは?」
「お小遣いよ。というより、軍資金って言った方がいいかしら」
「えっ?」
断ってみてみると、封筒にはうん万円が入っていた。お小遣いとしても高校生の自分にはあまりにも大金である。
「お、叔母さんっ! これって」
「穂乃果ちゃんと仲直りのデートでお金が入用なんでしょ。私もたまには叔母らしいことをしないとね」
そう言って得意げにウインクする雛乃。前から思っていたが、この時の叔母は悠の目に菩薩様のように見えた。
「それに、今回のことは私にも少なからず責任があるから……」
実は雛乃は見ていたのだ。先日自分が誘拐された事件の最中、悠と穂乃果が何か言い争いをして、悠が自分を助けるために穂乃果さえも傷つけようとしたことを。
ただの行き違いとはいえ、二人が現在の状態になってしまったことには自分にも責任がある。そう雛乃は思っていたのだ。
「私にはこんなことしかできないけど、頑張ってね」
労いの言葉をかけると同時に、雛乃は悠を元気づけるように頭を優しく撫でてくれた。この年にもなってと若干恥ずかしさを覚えながらも、大切な叔母に励まされたことによって、デートへの意欲が湧いてきた気がする。
しかし、その傍らでことりがハイライトが消えた瞳で家政婦は見たと言わんばかりにジッと見つめていた。
「ううう……どどどどうしよう! やっぱりこういう時を見越して新しい水着買ってくればよかったよ~~!」
「お姉ちゃん……」
勢いでデートを約束した穂乃果だったが、現在自室でわたわたしていた。わくわくざぶーんといえばプール、プールといえば水着。少なくとも変なものを見せたくはない。そう思って家にある水着を片っ端から試着しているのだが、気づけば自室はかつてないほど散らかってしまった。
「あらあら、鳴上くんもついにその気になってくれたのかしら? なら、私もいよいよ義母としての振る舞いを覚えないと」
「お、お母さん!?」
「…………」
「お父さん、何で包丁を入念に研いでるの? これから悠さんを抹殺するつもりなの!? お願いだから止まってええ!!」
娘が男と、しかもあの悠とプールでデート。それだけなのに、まるで結婚が決まった夜のような騒ぎように雪穂は制止するのに精一杯だった。胸に秘めたイラつきを感じながら。
波乱の予感しかないが、果たして悠と穂乃果のデートはうまくいくのか?
To be continued.