PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

更新が再び遅くなって申し訳ございません。しかし、今月末まで間に合ってよかったなと個人的には思っています。

6月に発売予定の篠原健太先生の新作【Witch Watch】が楽しみすぎます。SKET DANCEから篠原先生の作品が大好きで、本誌で1話を読んだときは大爆笑してしまうほど面白かったです。最近ジャンプを買えてなかったので、コミックスが本当に楽しみです。
他にも、血界戦線とか呪術廻戦とかSPY×Familyとか…大丈夫だろうか(私の財布)

そして、私事ですが、ずっと更新していなかった別作品を近々最新話をアップする予定です。いや、この作品に集中したくてずっと更新していなかったので、そろそろまずいかなと思ったので…
ずっと更新を待っていた方々、楽しみにしていてください。

改めて、誤字脱字報告をして下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

それでは、本編をどうぞ! ちなみに、今回のタイトルの和訳は【独白】です。


#110「Monologue.」

────ああ、そうだった。

 

 

 

 今なら、思い出せる。あの時のことを

 

 

 

「この大馬鹿あっ!!」

 

 

 

 誰か助けてほしいと願ったその時、教室の扉が勢いよく開いた。誰かが入ってきたようだが、何事かと振り返ったときには兄はその人物に顔面を殴られ、教室の端まで吹き飛ばされた。

 

「い、いててて……ネ……ネコ」

「お前は何やってんのさ! 例え妹が勝手に誘拐した下種野郎だったとしても、殺して言い訳ないだろ!!」

 

 殴られて呆気に取られる兄に詰め寄って胸倉を掴んでそう叫ぶクラスメイトがいた。普段どこぞの令嬢を連想させるような丁寧な口調と雰囲気が嘘のように、荒々しく怒気がこもった表情に驚きが隠せなかった。

 

「お前はそこの下種野郎と同じこと、いやそれ以上に屑なことをしようとしたの! わかる!?」

「…………」

「分かったんなら、なんとか言えよ。いうべきことがあんだろっ!! この」

「……音子さん、そこまでよ」

 

 激昂して今にも殴りかかりそうな少女だったが、またも思わぬ人物がそれを制止した。

 

「っ、アンタ……!」

 

 その人物もまた、いつも兄と一緒にいた和風美人の女子生徒……確か強豪と名高い弓道部に所属していて、何かと兄に相談しにくる人だった。

 

「もういいでしょ。鳴上も十分落ち着いているようだし、まずは逃げようとしたこいつを突き出すのが先決よ」

「…………」

 

 見ると、その人物の足元には自分を監禁した男子生徒が白目を剥いて転がっていた。どうやら隙を見て逃げようとしたらしいが、その前に彼女が気絶させたらしい。普段の素業と顔に見合わずバイオレンスだなと密かに思った。

 

「チッ……分かったよ」

 

 諭されて落ち着いたのか、もう危険はないと思い直したあの人……音子は気絶した加害者の首根っこを掴んで教室から出て行ってしまった。おそらく宿直室にいる先生にでも突き出すつもりなのだろう。

 

「落水、お前も……」

「……これであの時の借りは返したわ。あとは、わかってるわね」

 

 そう言って少女……落水はこっちに一瞬視線を向けると、音子を追うように教室から去っていった。

 嵐のような展開に呆然としてしまったが、やっと正気に戻ったらしい兄は気まずそうに頭を掻いたと思うと、私に目線を合わせた。

 

「すまない……その……助けにきた」

「……うん」

「怖かったな。すぐに助けられなくて……怖がらせて、ごめん。帰ろう」

 

 ああ、そうだった。あの時と同じだ。

 こうやって兄は怯えていた私に笑顔でそっと手を差し伸べてくれた。

 

 

 今、目の前で私にそうしてくれている(兄の息子)のように……

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当、あの時は色々ありましたね」

「まあ、そうだね」

 

 とある日の夜、秋葉原にてひっそりと営む【コペンハーゲン】の店内で、二人の女性がグラスを片手にそんな昔話に花を咲かせていた。

 一人の女性は、南雛乃は学生時代からの知り合いかつこの店の店主である蛍塚音子、もといネコさん。もちろん鳴上家の酔い癖を危惧して、グラスにはノンアルコールカクテルが入っている。

 先日己が巻き込まれた事件の最中、唐突に学生時代の記憶が蘇った雛乃がふと当事者だったネコさんと急に話がしたくなって、ここを訪れたのだ。ネコさんはどういう風の吹き回しなのかと困惑したが、仕方なく話に付き合うことにした。

 

「というか、アンタ入院してたんだろ。もういいの?」

「ええ、私はよかったんですが、悠くんが……」

「ああ……」

 

 ネコさんにそう言われて、雛乃は先日の出来事を思い返した。

 

 

 

 

 

「重症ですね」

「ええ……」

 

 あの戦いから翌日、雛乃を救出した後、戦いに敗れて抜け殻のようになった主犯2人を桐条グループに引き渡した。そして、その足ですぐに雛乃を西木野総合病院まで連れていくと、酷いケガと疲労困憊な状態だったのか、雛乃だけでなく悠までも入院を余儀なくされたのだ。

 

「睡眠不足に栄養不足、心労にストレス、更にはその状態からでは考えられないほどの運動量による疲弊。正直南さんよりこの子の方が危なかったです」

「…………」

「まあ、それほど鳴上君は貴女のことが心配だったってことですよ。こんなに無茶したくらいに」

 

 担当医の早紀の話を聞いて、隣で点滴に繋がれながら熟睡している甥っ子を見やる。

 本当にこの数日飲まず食わずだったのか、身体が細くなっており表情も芳しくない。ずっと一緒だったことりがご飯を作ってもあまり口にしなかったと言っていたので間違いないだろう。

 そんな状態で自分を助けに来てくれたのかと思うと、思わず胸が締め付けられた。まるで、学生時代を彷彿とさせるように。

 

「……愛されてますね、南さん」

「ええ、そうね。本当にあの人に似て、家族のためなら何でもする子なんだもの」

「まあ、そうですね」

 

 うちの娘も惚れるのも湧けないかと早紀はやれやれと納得するように片目を瞑った。

 

 

 

 

「で、ナルやんは入院が続いたままハロウィンイベントを迎えちゃったわけか」

「ええ。でも、ことりたちはむしろ張り切ってましたよ。悠くんがいなくてもイベントを絶対成功させるんだって」

「なるほどね。アタシも見に行ったけど、いつもと気合の入りようが違うと思ったらそういうことだったか」

 

 ネコさんの言う通り、A-RISEと約束していたハロウィンイベントは悠の退院が間に合わずに迎えてしまった。しかし、雛乃の言ってた通りに穂乃果たちは悠がいなくても乗り越えてみせると、事件の遅れを取り戻すように必死に猛練習した。その甲斐あってか、ハロウィンイベントは無事終了した。

 今まで映像などでしか見たことがないネコさんからしても、あの時のμ‘sのライブはA-RISEに引けを取らないくらいに素晴らしいものだったと思わせるほどに。

 

 

「ていうか今更なんだけど、何で今更アンタが変態男子に誘拐された時のことを思い出したのさ。あたしにとって、あれは忘れたい黒歴史なんだけど」

 

 突然ネコさんは不機嫌そうにそう言うと、やれやれと言わんばかりにグラスを傾ける。なるほど、そういうことかと心当たりがあった雛乃は何故かニヤリと笑った。

 

「あの時のネコさんが印象に残ってたからですよ。落水さんは相変わらずだったし」

「なっ……」

「あの時のネコさんはすごかったですよね。学生時代は今では考えられないほど丁寧で礼儀正しい優等生でしたもの。それが一変してあんなに乱暴になったんですから、すごく衝撃でしたよ。うふふ」

「アンタはあたしをイラつかせるのは得意なのかい?」

「今思えば、あの時から化けの皮が剝がれたんじゃないですか。だから、それで未だに男っ気が……?」

 

 ネコさんは雛乃の小言に青筋を浮かべながらイラっとしていた。確かに高校時代は今より口調は丁寧で礼儀正しかったのは事実だが、それとこれとは話が別だろう。そして、あの済ましたニヤケ顔が余計に腹が立つ。

 言われっぱなしは癪に障るとネコさんは反撃に出ることにした。

 

「……そういうアンタこそ、よく結婚できたもんだよね。“兄さん以外と結婚なんて考えられない”とか豪語してさ。まあ、よくあの南って男もこんなブラコン娘を拾ってくれたもんだよ」

「ぐっ……」

「で、その旦那は今あいつと一緒に海外にいるんだろ? 仲が良いことでよかったじゃないか。あの旦那じゃなかったら、今頃は行き遅れの分類に入ってたんじゃない? なはは」

「……オ~ト~コさ~ん~~~!! 

 

 某道家神のように普段は細い目をうっすら見開いて、ニヤリと笑うネコにブチ切れそうになった。というか、もうなった。こういう風に煽り耐性が低いのも昔のまんまだ。

 

 

 

 少し取っ組み合って、気分を直したいと互いに飲み合った後、ふとネコさんが口を開いた。

 

「……ここからは真面目な話、アンタは今回のこと、どう思ってるんだい?」

「えっ?」

 

 今のネコさんの表情が違っていた。先ほどのおちゃらけたものとは違う、真剣な表情に雛乃は気後れしてしまった。

 

「あたしだって、ナルやんたちから聞いてるんだ。アンタが2年前に週刊誌と揉めた時のことで、元教え子にひどい目に遭わされたって。それをナルやんたちに助けられたんだろ?」

「……」

「まっ、聞くだけ聞くよ。アンタ、今日そのためにわざわざうちに来たんだろ。で、何で2年前のことをナルやんたちに言わなかったんだいい?」

「………………」

 

 普段、否これまで見たことがないネコさんの真剣な雰囲気に気圧されたのか、雛乃はポツポツと語り始めた。

 

「2年前、あの子たちが行方不明になって……何かに怯えて帰ってきたときはよくある家出かなにかと思ってました。でも……聞いてしまったんです」

「何を?」

「…………」

 

 

 

 

 

 それは、行方不明になっていた二人が帰ってきたと連絡が入った翌日のことだった。

 仕事の合間にお手洗いに行こうと、理事長室を出てすぐのトイレに向かった際、個室トイレで誰かの話し声が聞こえた。何だろうと思い、思わず聞き耳を立ててしまった。すると、

 

 

 

 

 

“実験は失敗した”

“そのせいで桐条の目が厳しくなった”

“今は身をひそめるしかない”

 

 

 

 

 

 耳を疑った。そして、血の気が引くという言葉をこの時初めて理解した気がした。

 衝撃的な内容に動揺して急いでその場から立ち去ってしまったので、その声の主が誰なのか認識できなかったが、たったひとつの事実が突き付けられた。

 

 

 

──あの子たちは誘拐された。この学校関係者の誰かによって

 

 

 

 恐ろしくて職務中にも関わらず身震いしてしまった。だが、それよりも恐ろしいことを想像してしまった。

 

「学校にまだあの子たちを誘拐した犯人がいるなら、またあの子たちが巻き込まれるかもしれない。そして、悠くんやことりも巻き込まれるかもしれない。だから、私は……」

 

 あの子たちに転校を勧めた。例え嫌われようとも、あの子たちの安全を考えて遠ざけた。週刊誌に変な記事を書かれて強要されても、頑として言わなかった。そして、娘と甥っ子に噂を追求しないように釘を刺した。

 でも、それは結果として逆効果となってしまった。あの時の週刊記者は本当に行方知れずになり、あの二人が自分に逆恨みして加害者となってしまった。そして今回、娘と甥っ子も巻き込まれて心と身体に傷を負わせてしまった。

 

「私は……いつもそう、余計なことをして誰かを傷つけてしまう。もう……誰も傷つけたくないと思っているのに……うう…」

 

 自責の念からか、思わず涙を浮かべて泣いてしまった。

 あの頃から全く変わっていない。何が家族のためだ。何が学校のためだ。全部自分のせいで誰かを傷つけてしまっているではないか。そんな自分が情けない、情けなくてこれまで自分がやってきたことなど意味がなかったのだと、更に自分が情けなく思えてしまう。

 こんな自分で、ことりや悠にどの面下げて合えばいいのか…

 

 

 

「大丈夫だって、ナルやんたちなら」

 

 

 

 だが、ネコさんはそんな自分を慰めるようにぽんぽんと肩を叩いた。

 

「えっ?」

「なんとなくだけど、あいつらを見てるとそう思ってしまうんだよな。誰かさんに似て危なっかしいけど」

「…………」

 

 それは自分の兄のことだろうか。

 

「そりゃ、あたしがこう言ってもアンタは信用しないけどさ。でも、あたしは信じてるよ。ナルやん、それにアンタの娘たちなら、大丈夫だって」

「…………」

「だからさ、信じてあげな。アンタの娘と甥っ子をさ」

 

 そういって、ネコさんは雛乃の目の前にグラスを置いた。これでも飲んで元気出せと言うように。

 何だからしくないがネコさんの気持ちが伝わってくる気遣いに雛乃は感謝して、手前に置かれたグラスの液体を流し込んだ。そして、

 

 

「あふ……」

 

バタンッ

 

 

 雛乃は顔を真っ赤にしたと思うと、そのままテーブルにうつぶせに倒れてしまった。

 

「ったく、相変わらず酒は弱いんだね。兄貴はまあまあだったけど、こいつは重症」

 

 まさかの事態にネコさんはやれやれとため息をついた。元気付けてやろうとジュースにウイスキーを少し入れただけなのだが、それでもこの有様だ。全くあの血筋は酒に極力弱い体質でもあるのだろうか。

 

「まっ、いいか」

 

 ネコさんは何も悪びれることなく、懐から携帯電話を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方……

 

『お兄ちゃん、体調は大丈夫?』

「ああ、調子は戻ってきたから明日には退院できるって、早紀さんも言ってたよ」

『よかった。じゃあ明後日から復帰だね。絵里ちゃんたちにも伝えておくよ』

「よろしく」

 

 西木野総合病院の一室にて、悠はことりと連絡を取っていた。

 悠の意識が戻ってからことりは寂しさを紛らわすために見舞いに毎日来てくれている。更に、夜はこうやって電話をかけてくる。まあ、前回と同じく自分の元にたくさん見舞客が訪れて、アプローチをかけてきたりせや亜里沙と取っ組み合ったせいもあるかもしれない。

 

「叔母さんは?」

『さっき出掛けたよ。ネコさんのところに用事があるって言って』

「ネコさん?」

 

 それは珍しいこともあるものだと悠は思った。しかし、

 

「ああ、だからか」

『えっ、もしかしてネコさん、お兄ちゃんのところにも電話してたの?』

「ああ、叔母さんのことで連絡してくれたんだ。何のことだと思ったけど」

『…………』

 

 すると、さっきまで明るかった従妹が無言になった。電話の向こう側でも雰囲気が一変したのがよくわかる。

 

『ねえ、お兄ちゃんは聞いた? お母さんのこと』

「ああ、聞いたよ。それに、さっき美鶴さんからあの二人のことも聞いた」

『えっ?』

 

 先日、ことりたちの後に見舞いに来たラビリスと美鶴が話をしてくれた。

 あの二人は強制にペルソナ使いにされていた。更に、その方法が美鶴たちの知るものと酷似していたので、黒幕は桐条の人間かもしれないということらしい。

 更に、あの2人はどうやら本当に利用されていただけのようだ。今は正常で一応経過を観察するため、親御さんの了解を得たうえで保護することになったらしい。取り調べを担当した美鶴によると、聞かれたことにはちゃんと答えられるほど正常だったらしく、戦闘時で見せた狂気さや荒々しさは一切なかったという。

 症状や手口が佐々木の時と酷似しているので、黒幕は同一犯であるとみて間違いないだろう。美鶴は今回は自分たちの不手際だと謝罪して、犯人逮捕に尽力を上げると意気込んでいたなとふと思い出した。

 

「……俺はあの二人を許すつもりはない。どんな事情があったしても、叔母さんを誘拐して傷つけたことは変わらないからな」

『うん、それはことりも同じだよ。でも……』

「ああ。だからこそ、あの二人を唆した黒幕は絶対に許さない。必ず見つけてやる」

 

 思い返すのは昨年の事件。あの時も菜々子を傷つけた生田目を許すことができなかった。でも、それ以上に許せなかったのは生田目をそうさせた黒幕の存在だった。

 今回のあさっちとみーぽのことだってそうだ。

 

 

 

(……絶対に捕まえてやる)

 

 

 

 これ以上あの二人のような、雛乃のような被害者を出さないためにも、好きにさせてたまるか。必ず捕まえてやる。そう決意した故か、思わず拳に入る力が強くなった。

 しかし、

 

『熱くなってるところ悪いけど、お兄ちゃんはその前に穂乃果ちゃんとの関係を何とかしなきゃいけないんじゃない?』

「………………」

 

 新たな決意をした矢先に出鼻をくじかれてしまった。

 実はあの日以来、穂乃果との間に気まずい雰囲気が継続していた。暴走していたとはいえ、後輩を斬りつけようとしたり暴言を吐いてしまって、どう謝ればいいのか分からず、ずっとこの状態を放置したままだったのだ。

 ずっとこのままという訳にはいかないし、ここでことりの仲裁を得て仲直りを

 

『……言っとくけど、今回はことりは手を貸さないからね』

「えっ?」

『自分で蒔いた種なんだから当然でしょ。あと、陽介さんもりせちゃんも今回はお兄ちゃんの責任だから、自分で尻拭いしろって。じゃあね』

 

 ことりはそう言い残すと、有無を言わさず電話を切ってしまった。ツーツーと電話を切られた無声音が聞こえてくる中、悠は思わず項垂れてしまった。

 

 

 

「幸先……悪そうだな」

 

 

 

To be continued.


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