PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

更新が再び遅くなって申し訳ございません。いや本当に研修が大変だったのと、今回の話は山場の一つであったので試行錯誤した上で難産だったんです。本当にすみませんでした。

それはさておき、ダンまち17巻最高でした。特にフレイヤ様が(自主規制)ベルくんが(自主規制)。とにかくここでは語りつくせないほど最高でした。18巻も更に期待です!
OVAも予想通り酷かった(笑)(誉め言葉です)。

改めて、感想を書いて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

それでは、本編をどうぞ!


#109「Under the banner ②.」

 こんなはずじゃなかった……

 

 こんなはずじゃなかった……

 

 こんなはずじゃなかったのに……

 

 私たちは私たちのやりたいことをやりたかっただけなのに……

 

 なんで……なんで、こんな目に遭わなきゃいけないのっ!! 

 

 

 

 あの時だってそうだった。あの時だって……そうだ、あいつと会ったから全てが狂ったのだ。

 

 高校生で何か新しいことがしたいと思ったのが間違いだった。

 

 そのせいで、偶々気の合ったあいつとアイドル研究部なんて馬鹿みたいな部活を作ってしまった。

 

 あいつの誘いに乗ったせいで、私たちは狂ってしまった。

 

 あいつが私たちに理想を押し付けたせいで、私たちは耐えられなくなってしまった。

 

 あの日、あいつから逃げ出したときに、私たちは迷ってしまった。

 

 

 返して……あの時の、あの時の希望に満ちていた時の自分たちを返して

 

 

 だから、私たちはここにいる。

 

 

 

 ここまで来て、諦めてなるものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は近づいてくる。祭壇に投げ出した己の得物を回収して、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってくる。淡々としていながら、こちらに畏怖を与えるその冷たい表情が迫る……

 

「ち、近づかないで!!」

 

 逃げ惑いながらも、何とか正気を取り戻したあさっちとみーぽは雛乃のところへ駆けて、マウントを取った。

 

「近づいたら、こいつを殺すわよ!」

「そ、そうよ! 今すぐ」

 

ガンッ!

 

 鈍い音が聞こえた。金属が、剣が大地を震わす音が。

 

「お前らはそうやって俺を怒らせたいのか……」

 

「「ひっ……」」

 

 やってしまった。また、この男の怒りに火をつけさせることをやってしまった。

 先ほどよりも怒りが倍増しているのは火を見るより明らかだ。どうにか対処しようにも、もう後の祭りだ。靴の音をゆっくり立てて近づく男の表情がそう物語っている。

 そして、その男は刃をこちらに向けて口を開いた。

 

「質問に答えろ。お前らを唆したのは誰だ」

「へっ……?」

「お前らだけでこんな事件を起こせたとは思えない。裏に誰かいるだろう」

「「………………」」

 

 何の話だとすっとぼけることさえできなかった。そんな余裕さえなかった。彼が言ったことは本当のことで、それを誤魔化す気力も術も与えてくれなかった。

 

「3つ数える前に吐け。その間に吐かなかったら、こいつがお前らを斬る」

 

 最終宣告。彼の背後に携えるマガツイザナギは全身から発せられる禍々しい雰囲気もあって、その姿はまるで刑を執行する前の処刑人を彷彿とさせた。

 そして、男は無慈悲にも処刑前のカウントを始めてしまった。突きつけられる現実にガクガクと身体が震えてしまう。

 

「い、言えない……言えない…………」

「本当に……言えないのよ…………本当よ……だから」

 

 だが、答えは始めから決まっていた。例え、彼の推測が当たっていたとしても言葉通り言えないのだ。それを言おうものなら、自分たちは確実に終わる。だから、彼がどんなに脅してこようとも絶対に言えない。

 

「2つ」

 

「ほ、本当にっ! 本当に言えないの!!」

「言えない言えない! 言えないの!! だから、信じてっ! お願い……!!」

 

 そんなことは知ったこっちゃないと悠は無慈悲にもカウントを続けていた。何とか納得させようとあさっちとみーぽが必死に嘆願するが、

 

「0」

 

 ついに、カウントダウンは終わってしまった。つまり、死刑宣告が降りたのだ。

 

「残念だ」

 

 心底ガッカリした表情で肩をすくめる悠は無慈悲に日本刀を振り上げる。そして、背後のマガツイザナギも大きく大剣を振り上げた。

 

 

 

 

「やめてっ!!」

 

 

 

 

 

 それは突然だった。彼、ましては彼女たちでさえ予想外だった。

 

「……穂乃果」

「悠さん、もうやめて! こんなことしたって、意味がないよ!!」

 

 第三者が介入することができないはずの祭壇に少女、高坂穂乃果が割って入ってきたのだ。しかも、穂乃果は悠でなく、あろうことかあさっちとみーぽを守るように、両手を広げて悠に前に立ちはだかったのである。

 

「穂乃果、そこをどけ」

「いやだ! 悠さんが分かってくれるまでやめない」

「うるさい! いいから、どけっ!!」

「やだっ!!」

 

 憧れの先輩、想い人からどんなに怒声を上げられても、穂乃果は負けじと叫び返してその場を動こうとはしなかった。

 初めてかもしれない。こうやって憧れの人物とはっきりと対立したのは。正直穂乃果は己の行動で悠を止められるとは思っていない。でも、それでも身体が勝手に動いてしまったのだ。止めないと、悠が悠でなくなってしまう。そうなることが、もっと怖かったから。

 

「そこをどけ。どかないと、お前を斬るぞ」

「……っ」

 

 そして、あろうことか悠は今まで絶対にしてこなかった、仲間に刃を向けた。刃を向けられた穂乃果の緊張は一気に跳ね上がる。

 

「わかったら、そこをどけ」

 

 次はないと言わんばかりに殺気を放つ悠に穂乃果は身震いした。

 怖い。本当に怖い。ここでペルソナを召喚しても秒で斬り伏せられてしまう。

 逃げ出したい、今すぐにでも逃げ出したい。背後をチラッと振り返ると、未だ雛乃を盾に怯えるあさっちとみーぽの姿がある。この二人は自分たちが追ってきた犯人だ。自分たちをずっと苦しめてきたのだから、当然の報いは受けるべきだ。でも

 

 こんなのは、絶対に間違っている。

 

 

「いやだ……いやだっ!!」

 

 だから、声を大にして、目の前の想い人に届くように心から叫ぶ。

 

 

「絶対……絶対にやだっ!!」

 

 

 涙を溢れさせながらも、体を震わせながらも、悠を止めようと立ちふさがる穂乃果に、悠は一瞬動きを止めた。

 何故そこまでして立ちふさがるのか、穂乃果の心境が理解できなかったからだ。だが、家族愛という妄執に囚われている悠はそんなことは分からなくていいと切り捨ててしまった。迷いながらも、とうとうマガツイザナギの大剣が穂乃果に迫る。

 

 その時だった。

 

 

 

「この大馬鹿野郎っ!!」

 

 

 

 刹那、自分以外の怒気を含む声がした。同時に、頬に強烈な痛みが襲った。マガツイザナギにも同じ衝撃が襲ったのか、フェードバックで悠は祭壇の外へと吹き飛ばされ、地に倒れた。

 突然の出来事に悠だけでなく、穂乃果も驚いて唖然としてしまったが、現れたその存在に思わず目を丸くした。

 

 対して、吹き飛ばされた悠は何が起こったのかわからなかった。だが、この痛みを自分は覚えている。否、何度も味わった覚えがある。ふと見上げてみると、己を殴った人物の顔が視界に映った。茶髪に首からかけているヘッドフォンが印象的な青年。その人物は

 

「よ、陽介……?」

「よう、随分荒れてんな……相棒。まさか、穂乃果に暴言を吐いた挙句に、斬りつけようなんてな」

 

 そう、今この場にいるのが信じられないほど遠くの場所にいるはずの、かけがえのない自分の相棒。花村陽介だった。

 いつもの爽やかな優しい表情はなく、彼にしては珍しく険しい表情で相棒をこれでもかと言わんばかりに睨んでいた。マガツイザナギをぶっ飛ばしたのだろう彼のペルソナ【タケハヤスサノオ】からも召喚者と同じ怒りを纏っているように見える。

 絆フェス以来の再会だというのに、悠は喜びよりも困惑が心を支配していた。なぜこんなところに来たのか、なぜ今自分を殴ったのか、なぜ自分の邪魔をするのか。感情が乱れた悠は思わず当たり前の言葉を口にした。

 

「ど、どうしてここに?」

 

 すると、陽介は更に表情を険しくしたと思うと、こちらの胸ぐらを掴んで、当たり前の問いかけに、当たり前の言葉で返した。

 

 

「そんなの、決まってんだろっ! 助けに来たんだよ。雛乃さんと、お前をなっ!!」

 

 

 その言葉に、ふとある記憶が思い起こされた。

 

 

────お前がもし道を間違った時には、今度は俺がぶん殴ってても止めてやるよ。

────例えどんなに地の果ての、真っ暗な場所までだってな。

────それが相棒ってもんだろ? 

 

 

 そうだ、そうだった。あの冬の寒い日の河原で、目の前の相棒が言ってくれたあの言葉。

 何故思い出せなかったのだろう。思わず目頭が熱くなった。

 相棒があの時の約束を果たしに来てくれたのだ。家族愛に囚われた自分を、暴走した自分を助けるために。

 

 

「あちょおおおおおっ!!」

 

 

「「ぐはっ!」」

 

 感傷に浸っている最中、今度は背中から強烈な蹴りが襲った。自分だけでなく陽介も巻き込まれ、2人揃って蹴り飛ばされてしまった。この蹴りの威力は

 

「さ、里中?」

「鳴上君! なんてことしてんのさ!! 穂乃果ちゃんを斬ろうなんて、どういうつもり!? 君はそんな人じゃなかったでしょ!!」

 

 千枝は千枝ですごい剣幕で悠を責め立てる。人情を重んじる彼女にとってさっきの悠が穂乃果にやろうとしたことが逆鱗に触れてしまったらしい。

 

「いててて……おい、里中! なんで俺まで巻き込むんだよ!!」

「あっ、花村いたんだ」

「いたんだ、じゃねえよっ! 俺の存在は無視か!!」

「うっさいなあ。そこにいたんだからしょうがないっしょ」

「しょうがなくねえだろうが!」

 

 ぎゃあぎゃあわあわあといつもの夫婦漫才のような陽介と千枝のやり取りが始まる。なんというか、いつも通りの光景だ。

 

 

「鳴上くん、私も殴っていいかな?」

 

 

「えっ? いたっ!?」

 

 今度は頬に平手が飛んできた。案の定、それは雪子だった。笑顔なのに、その奥から凄みを感じるほど圧を掛けてくる。

 

「あ、天城……」

「鳴上くん、ちょっと失望しちゃったよ。雛乃さんのことが絡んでたとしても、鳴上くんは闇落ちなんてしないって思ってたのに」

「え、ええと……その……闇落ちって……って、うわっぷ!」

「センセーイ、大丈夫クマか~!」

「く、クマっ!?」

 

 そして、横から鼻水を垂らした着ぐるみverクマが抱き着いてきた。変わらずのモフモフに少し全身が癒される気がしたが、それどころではない。

 

「ど、どうして……ここに?」

「マリーチャンがセンセイがママさん助けにやみおちしそうって聞いたから、ヨースケたちと一緒に駆けつけたクマよ~~~! ナオチャンもそいつらにケガさせられたって聞いて、黙っていられなかったクマ~~!」

「……………………」

「ウオオオンっ! センセ~~~イ、本当に無事で良かったクマ~~~~~~!!」

 

 おんおんと泣きながら心の内を明かしたクマに、悠は何も言えなくなった。

 正直詳しいことは把握できていないが、分かったのは一つ。

 

 陽介たちが自分のために駆けつけてくれた。この事実が今ここにある。

 

「ったくクマ公、お前泣きすぎだろ」

「完二、アンタも目が潤んでるわよ。もしかして、泣いてる?」

「な、泣いてなんかねえよ! てか穂乃果、オメエはいつまでぼーっとしてんだ」

「へっ?」

「先輩らに言いたいこと、あんだろ?」

「…………」

 

 そして、あまりの事態に我を忘れていた穂乃果だったが、いつの間に近くにいた完二とりせにハッと正気を取り戻してもらうと、おぼつかない足取りで戻陽介たちの元へと駆け寄った。

 

「よ、陽介さん……千枝さん……雪子さん……」

「穂乃果ちゃん、頑張ったね」

 

 近くにいた雪子が代表するように駆け寄って、優しく労いの言葉を掛けた。

 

「鳴上君を止めてくれて、ありがとう」

「あっ……」

「ホノちゃん、クマからもありがとうクマ」

 

 雪子、そして泣き止んだクマからポンポンと頭を撫でられた穂乃果は緊張したのか、思わずといったように脱力した。

 ふと悠と目が合ったが、互いに思わず視線を逸らしてしまう。先ほどのことがあった手前、改めてどう振舞っていいのか分からないのだろう。

 リーダー同士似たもの同士か、これには3人も嘆息する。

 

 

 

「ちょっと、何で大円団みたいな雰囲気をだしてるの?」

 

 

 

ー!!ー

 

 

 

 だが、そんなひと時の安息は一気に崩れ去った。

 

 

 

 

グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!! 

 

 

 

 

「え、え、えええっ!? なにこれ!? ドラゴン!?」

「なんで!?」

「み、皆っ! 前」

 

 瞬間、祭壇に超大型のドラゴンが出現した。そして、間髪入れずに先ほど悠のマガツイザナギが全滅させたはずの兵隊軍が目前に迫っていた。

 まずい、ペルソナの召喚が間に合わない。不意を突かれた死を感じたその時だった。

 

 

「みんなを守って! テレプシコーラっ!!」

 

 

 兵隊の進行はその一言に妨げられた。他ならぬ旗を手に戦う聖女によって。

 

「え、絵里?」

「絵里ちゃん?」

「悠、やっと正気に戻ったのね。本当、貴方は毎度毎度ハラハラさせるのが上手なんだから」

 

 光輝く防壁にて敵の侵略を防ぐ絵里のペルソナ【テレプシコーラ】。暴走して気付かなかったが、絆フェスの戦いからその鉄壁ぶりがより精度が増しているように見える。

 ただ、絵里はまだ悠にされたことを根に持っているのか、むすっとしていた。これは後が怖い。

 

「絵里先輩、加勢します」

「直斗っ!?」

 

 更に、陽介たちに続いて意識不明だったはずの直斗までもが参戦していた。まだ本調子ではなにのか、顔色が悪く足元がふらついているが、絵里を援護しようと己のペルソナを召喚して応戦する。

 

「先輩ら、大丈夫っすか!?」

「皆、こっち!!」

 

 呆然とする悠たちを完二とりせが逃げ道を作って悠たちを誘導する。頼もしい後輩たちが敵を妨害してくれたおかげで、ひとまず後方のことりたちがいるところまで後退することができた。

 皆のところへ戻ってきた途端、散々悠にハラハラさせられた彼女たちは駆け寄ってくるやいなや、ジト目の視線を浴びせた。

 

「え。ええっと……その…………あいたっ!」

「お兄ちゃんのバカっ! ことりがどれだけ心配したと思ってるの!! 穂乃果ちゃんまで傷つけようとして!」

「うっ……」

「バカっ! あほっ! 鈍感っ! ロリコンっ! ばかバカバカバカ……バカ……」

 

 今までに見た頃がない従妹の怒って涙ぐむ表情に何とも言えなくなった。怒りの言葉をぶつけつつも悠に寄りかかって涙する様子からどれほど心配を呆気てしまったのか痛感する。だが、これで終わりではない。

 

「本当……悠くんのアホチンッ!」

「もう、心配掛けんじゃないわよ! アンタが本当に闇落ちしたら、どうしようって思ったじゃない!」

「本当ですよ!」

 

 そして、希の罵声を皮切りに一斉に溜まっていた不安をぶちまけられた。これは対処しきれないと陽介たちに助けを求めるが、本人たちは知らん顔を決め込んでいた。気の毒だが、お前が引き起こした事態だからお前が何とかしろと相棒の目は語っていた。

 

「な、直斗……確か薬を打たれて、昏睡状態のはずじゃ?」

「話を逸らそうとしている魂胆でしょうが、それは後で話します」

「…………」

「そんな絶望に染まった表情をするのはやめてください。まあ、僕がここにいるのは皆さんと同じ、雛乃さんと貴方を助けるためとだけ言っておきま」

「ちょっとみんな、落ち着いて! 悠センパイの闇落ち回避を喜んでる場合じゃないよ!」

 

 闇落ちじゃないと抗議したところだが、今はそれどころではない。りせの呼びかけに一斉に祭壇の方を向く。

 祭壇の方はもうすでに強固な守備が施されていた。重兵隊による分厚い鉄壁が敷かれており、ドラゴンによる威圧が立ち入る隙を与えない。まさに、盤石の大勢だ。

 

「こ、こいつら……!」

「まだやる気なのか!?」

 

 あれだけ叩きのめされてもなお、必死に再戦しようとする祭壇の少女に悪態をついてしまう。だが、彼女たちの目は本気だった。

 

「当たり前でしょ……こんなところで、負けられないのよ!!」

「取り返す……取り返す……誰が相手だろうと、取り返してやる!」

 

 執念深く吠える彼女たちの姿に思わず慄いてしまった。何が彼女たちを駆り立てるのか分からないが、あんな目に遭っておいての尚まだ戦うつもりのようだ。

 それにしても、まさかもう一人もペルソナが使えるとは思わなかった。しかも、超大型のドラゴンとは恐れ入る。それに加えて、先ほど大苦戦を強いられた群衆型のペルソナも加わるとなると、悠たちでは圧倒的に戦力が足りない。ならば、

 

 

 

「……陽介・里中・天城・完二・りせ・クマ・直斗」

「んだよ」

 

 

「穂乃果・海未・ことり・花陽・凛・真姫・にこ・絵里・希」

「……何、悠さん?」

 

 

 

「すまないが、もう一度俺に力を貸してくれ」

 

 

 

 改まって、仲間にそう願い出る悠に皆は呆気に取られた。

 本当は申し訳ないと思った。こんなところまで来て、全部自分が悪いのに、自分のために戦ってくれなど言いたくはなかった。

 

 

「っし、おうよ! 相棒っ!!」

「うんっ! みんな、行こう!」

 

 

 相棒の、リーダーの懇願に陽介と穂乃果たちは嬉しそうに笑みを浮かべてタロットカードを顕現する。

 

 ここに、互いに戦力を増強させた第二ラウンドのゴングが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的だった。あちらの数が

 

「こいつら、一体一体が強すぎだろ!」

「道を開けろ、ゴラァ!!」

「ああもうっ! しつこいっての!!」

 

 状況は穂乃果たちが繰り広げた第一戦と同じようなものになっていた。

 斬る・殴る・蹴る・砕く・燃やす。

 何とか抑え込んでいるものの、完二や千枝のペルソナでも複数体を吹き飛ばすのに精一杯だ。雪子の大火力も同じように。足を故障しているラビリスも、まだケガが完治していない直斗も応戦するが状況は劣勢。りせと希のナビで的確に戦力を削ってはいるものの、このままではジリ貧だ。

 

 

 

 

 圧されていく。彼らの圧に。

 

「くっ! こいつら、しつこい……!」

「早く倒れてよっ!!」

 

 状況的には先ほどと同じくこっちが有利なはずなのに、彼女たちは劣勢に追い込まれたような心境だった。

 新たに加わった少年少女たちもかなり厄介だが、マガツイザナギのこともあって、彼女たちは悠を最大限に警戒していた。またあのような技を使われたらおしまい。だから、彼の方に厳重に戦力を送っている。

 見ての通り、彼はその場から動けず苦戦していた。

 

 だが、

 

「んっ? ちょっと、にこのやつがいないわよ」

「えっ……そ、そういえば他のμ‘sのやつらも……なっ!?」

 

 瞠目した。ふと見てみれば、祭壇の階段近くに今さっき気にかかっていた敵の姿があったのだ。

 

「よしっ!」

「かかりましたね」

 

 この状況を作り出したのは、直斗が速攻で立てた作戦が故だった。

 このまま総力戦で立ち向かっても先ほどの二の舞で終わる可能性が高い。そこで、悠たちは少数精鋭で大将首を取る作戦に打って出た。

 彼女たちの恐怖対象になっている悠とパワーで大多数の兵隊を蹴散らす完二たちを囮にする。その隙をついて穂乃果たち別動隊を迂回させて突入させていたのだ。

 彼女たちは今頃別動隊の存在に気付いたようだが、もう遅い。

 

 

 走れ、走れ。

 風の如く。激しいレースを繰り広げる競馬のように。

 大切なものを取り戻すために。

 穂乃果たちはその思いを胸に走り出す。

 走れ、走れ、走れ。

 

 

 そんな想いを胸に抱いて、穂乃果たちは戦場を駆け抜ける。そして、彼女たちはついに再び祭壇へと足を踏み入れた。

 

「ふんっ……出し抜いたからってなに?」

「えっ?」

 

 だが、予想と違って祭壇のあさっちたちは平然とした表情だった。一体どういうことかと思いながら穂乃果たちが祭壇へ辿り着いた瞬間、異変が起きた。

 

「しまった、罠よ!」

「なっ!?」

 

 足元から黒い魔方陣が展開された。りせの解析から、食らったら確率で即死する闇魔法の魔方陣だった。

 まさかのトラップが仕掛けられていたことに動揺しつつ、その場から離れようとするが、すでにあさっちが用意していた重装兵に包囲されており動くことができなかった。陽介らが慌てて救援に向かおうとも、こちらの敵の数が多すぎて思うように突破できない。

 

「そんな……」

「こんなところで」

 

 黒い魔方陣から怪しげな光が灯り始めた。発動時間はもうすぐ。このままでは闇に飲まれてしまう。このトラップを解除しようにも、今この場にいる人員にこのような魔法を相殺できる者はいない。

 悩んであたふたしている間にも、トラップが発動する。もうダメなのかと思ったその時だった。

 

 

ーカッ!ー

「ペルソナっ!」

 

 

 光が差した。闇に囲まれて終わりだとめを瞑ったと同時に、輝かしい光が瞼に入った。思わず目を開けてみると、上空からペルソナが自分たちを守るように佇んでいた。

 その名は【スラオシャ】。

 ゾロアスター教に伝わる天使の名を持つそのペルソナが、手に持つスクロールによる光魔法でトラップの闇魔法をを一瞬で祓った。

 

「ま……間に合った……な」

「悠さんっ!?」

「悠、アンタいつの間に」

 

 そして、スラオシャを召喚した悠が自分たちの上空から飛び降りてきた。まるで映画のようなワンシーンにまたも穂乃果たちは呆然としてしまった。

 

「お兄ちゃん、一体どうやってここまできたの?」

「ここから、あそこまでって結構距離があったような……?」

「ラビリスにナックルチェーンでぶん投げてもらった」

「………………」

「アンタ、よくやったわね」

 

 見れば、この男をぶん投げたラビリスはとても心配そうな表情でこちらを見ていた。おそらく最近そういうゲームから発想を得たのだろうが、無謀すぎる。だが、そんな無謀なことをやってのけたからこそ自分たちは助かったわけなのだが。

 

(ありがとう……絵里・菜々子)

 

 そして、悠はこのペルソナを使役するキッカケを作ってくれたここにはいない、最愛の従妹と呆気に取られている同級生に感謝を示しながら、祭壇で佇む少女たちを見る。

 

 

「く、くそっ!」

「なんで……なんで……!」

 

 

 起死回生の策を阻まれたあさっちとみーぽの心情は荒れた。だが、そんなものを鎮める時間を与えることはなく、悠たちが自分たちのいる場所まで接近する。

 

「さあ、理事長を返してもらうわよ!」

「大人しく観念して下さい」

 

 これ以上は意味がないと言うように、絵里と海未が投降要請を出した。しかし、彼女たちの様子は変わることはない。

 

 

「ま、ま、負けてたまるかあああああああああああっ!!」

 

 

 追い詰められても、最後の抵抗と言わんばかりに手駒をありったけ召喚させた。陽介たちの方の戦力が一気に減ったところを見ると、戦力をこちらにほとんど回してきたらしい。

 そして、その回してきた手駒たちで自分たちを守る分厚い壁を作る。しかし、それにも関わらず、穂乃果たちは突進した。

 

「なっ!?」

「いっけえええっ!! 悠さああああああん!!」

 

 穂乃果たちの狙いは敵の殲滅ではない。本当の狙いは人質となっている雛乃に辿り着くまでの道を作ること。そう、40ヤード走4秒2に相当する俊足を持つ悠が一瞬で走れるコースをだ。

 そして、彼女たちの狙い通り、悠は某アイシールドのように一瞬でコースを見定めてると穂乃果たちが作った道を走り抜けた。

 

「なっ……」

 

 だが、走り抜けた先にはみーぽの召喚したドラゴンが悠を踏みつぶさんと待ち構えていた。回避しようにもタイミング的に不可能。物理耐性のあるペルソナを召喚しようにも、間に合わない。

 今度こそ終わったとまさに目の前のドラゴンが悠を踏みつぶそうとしたその時だった。

 

 

「させませんっ!」

「おらああああああっ!!」

 

 

「ぐああああああああああああああああああっ!」

 

 

 突如、上空に一筋の閃光が走った。

 その閃光、海未のポリュムニアが放った光矢はドラゴンの頭部へ一直線に向かって、大爆発を起こした。

 そして、すぐさまピンクの影が上空に飛び上がった。その影…にこのエラトーは手に持つハンマーで渾身の黒点撃を繰り出した。チャージ状態からの黒点撃は相当な威力だったのか、巨体のドラゴンは簡単に吹き飛ばされて消滅した。

 

「くっ……うう……」

「みーぽ……!」

 

 召喚者のみーぽはさっきの黒点撃のフェードバックを受けたのか、腹を抱えたまま項垂れてしまった。その様子から察せれるあまりに威力に硬直してしまったが、当の本人たちはそのままかつての仲間たちを睨みつけた。

 

「悠さんにはもう指一本触れさせません。私たちは、負けられないので」

「にこたちだって、負けられないのよ。悠とことりの家族を助けるために……あんたたちを止めるためにも!!」

「だ、黙れっ!」

 

 海未とにこの偽善者じみた言葉が気に食わないのか、更に無茶をしてあさっちは悠とにこの元にありったけの重装兵を増員させる。

 あまりの数に怖気づいてしまうが、後方からも穂乃果たちが相手していた軍隊が押し寄せてきた。抑え込むことができなかったのか、彼女たちも自分たちの元へと後退してくる。周囲は完全に包囲されていた。

 

「悠、走って! 道は私たちがつくるわ」

「わかった!」

 

 だが、それでも悠はにこの言葉を受けて前に前にと走り出した。そのを機に、一斉に周りを囲う兵隊たちが押し寄せた。

 

「穂乃果、スイッチ!」

「うんっ! 行くよ、ことりちゃん!」

「穂乃果ちゃん!」

 

 

―!!―

 

 

 悠と重装兵たちがぶつかる寸前、悠は足を崩して低姿勢を取る。刹那、その後方からにことスイッチした穂乃果のカリオペイア・ことりのエウテルペーによるユニゾン攻撃が炸裂した。獄炎と疾風が織りなす怒涛の広範囲攻撃は悠の上を掠めて重兵隊に直撃。相当な威力を持った攻撃に重兵隊は一人残らず倒れされ、その間を悠は走り抜けた。

 

「うおおおおおおおおおおおっ!」

 

 呆気に取られる2人の間を通り越して、大切な叔母の元へと急ぐ。

 

 そして、悠は走り抜けるその最中、悠の意識は過去へと飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠、ちょっといいか?」

 

 あれは夏休みの真っ只中。みんなでスイカ割りをした日の夜、縁側で余ったスイカを食している菜々子・ことり・雛乃を眺めていた時、風呂から上がった堂島にそう声を掛けられた。

 何だろうと申し出を了承すると、堂島は冷蔵庫からビールを取り出して、悠の向かい側に座った。

 

「なに、少し雛乃のことで話があってな」

「叔母さん?」

 

 そう言われて、思わず縁側にいる雛乃の方を見てしまった。

 

「お前も知ってると思うが、あいつは高校の時に誘拐されたことがあるんだよ」

「えっ?」

「なんだ、知らなかったのか?」

 

 堂島は意外だと言わんばかりに驚いていた。

 あらかたの顛末を聞くと、学生時代に雛乃をつけ狙っていた男子生徒が突発的に雛乃を誘拐して、見つけ出した父親が犯人を殴り殺しそうになったとのこと。

 実際そんなことは雛乃の口からも両親からも今まで聞いたことはなかったので、初めて聞く父親と雛乃の裏話に驚いてしまった。

 

「まあ、そんなことがあったからか、あいつは随分と菜々子を気にかけてんだ。同じ体験をしてトラウマになってないか心配だったんだろうな」

 

 菜々子と聞いて、あっと思った。菜々子も確かに誘拐されてテレビの世界に入れられたことがあった。

 おそらく同じ体験をした者同士で、何かあの時のことでトラウマになっていないのかと心配したのだろう。かつての自分がそうだったように。

 

「それにな、前に義兄さんに言われたんだよ。俺は今、あいつを守れない。だから、あいつに何かあったときは、助けてくれってな」

「………………」

「とはいえ、俺があいつを守るにはこの場所が限界だ。ここ以外じゃ俺はあいつを守れん。だから、代わりにお前があいつを守ってくれ」

 

 

 ビールを片手にそう言った堂島の意図はよく分からなかった。だが、縁側で楽しそうに菜々子とことりたちと談笑する雛乃を見て、あの笑顔を守りたいと固く思ったのはよく覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

(叔父さん……!)

 

 

 そうだ、あの時改めて約束したのだ。雛乃を、家族を何が何でも守ると。

 だから、今度こそ絶対に、家族を守って見せる。

 もう、菜々子の時のような思いは絶対にしたくないっ!! 

 

 

 

「叔母さあああんっ!!」

 

 

 

 距離はあとわずかまで迫る。

 意識が朦朧としている雛乃に悠はありったけの大声を出して呼びかけた。その声に目を覚ましたのか、雛乃も思わずといったように手を伸ばす。

 

 

 

「ふっ……馬鹿ね、もらったわ」

「えっ?」

 

 刹那、対峙しているあさっちから不穏な言葉を耳にした穂乃果は思わず悠を見た。

 伏兵が一人いた。まるで、待ち構えていたように。悠の側面から刀が襲おうとしている。

 

「悠さんっ!!」

 

 思わず警告しようとするが、もう遅い。

 あさっちは勝利を確信した。悠が倒れれば、こいつらは機能しなくなる。リーダーという大黒柱を失えば、目の前にいる少女たちは烏合の衆。呆然とした隙を狙えば一気に消せるだろう。

 勝負は最後になるまで分からないとよく言われるが、まさしくその通りだ。ここまで策を張り巡りあわせ合い、何度も心がくじけそうになったが、結果として自分たちは最後まであきらめなかった。自分たちの願いを叶えるために。自分たちの時間を取り戻すために

 その努力と執念がついに実るのだ。

 

 

 

────ああ、これでようやく願いが叶う。

 

 

 

 

 しかし、伏兵の刃が届くよりも、悠と雛乃が手に合わせるのがわずかに早かった。

 

 

 その時、奇跡が起きた。

 

 

 

 

 

「なっ……!」

「あ、あれはっ!?」

 

 

 

 

 一寸の光が灯った。そして、世界が眩い輝きに包まれた。

 同時に、一匹の竜が祭壇にて誕生した。

 全身を眩い光で纏ったその姿はまさしく神龍と言うべきものだった。その龍の名は…

 

 

【法王】コウリュウ

 

 

 あさっちとみーぽは目を見開いた。殺ったと思われた悠と雛乃は無傷だった。あさっちのフェードバックで、放った伏兵は消失していたことが感じられた。

 だが、それよりもマガツイザナギとは違う、禍々しさのない圧倒的な存在感と神々しさにひれ伏してしまいそうなほどに呆然としてしまった。

 

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!! 

 

 

 

 更に、コウリュウは神々しい雄叫びを上げると、次々と落雷を発声させ、己が敵と認識したシャドウを一匹残らず殲滅した。

 

「そんな……」

 

 またも思わぬ形で企みを打ち砕かれた事実に膝をついてしまう。それがチェックメイトの証だった。

 

「これで、あなたたちの負けです」

「大人しく投降しなしなさい」

「………………」

 

 戦意喪失したことにより、ペルソナは消失。愕然とする自分たちなど知ったことではないと祭壇で戦闘を繰り広げていた穂乃果たちが2人を包囲した。まだ戦えると戦闘態勢と取ろうとしたが、祭壇にあちらの新たな援軍が到着したので、もう戦おうとする僅かな戦意すら刈り取られてしまった。

 もうこれで戦いは終わりだ。存分に聞きたい話を聞かせてもらう。だが、その中で、にこはかつての仲間を憐れむかのように寂しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

「に……兄……さん……?」

 

 目を開いた。

 そこには、在りし日の兄の姿があった。

 アッシュグレイの髪、大きな瞳。傷だらけの横顔はまさしくあの日の兄だった。

 でも、違った。

 それは、あの兄の息子である“あの子”だった。近くで見ると、本当に兄にそっくりだと思わされる。そして、彼……悠はこちらを見て、あの時を再現するように、強がりの笑顔を作った。

 

 

「叔母さん、あなたを助けにきました」

 

 

 笑顔の悠に、思わず呆然としてしまった。

 本当にあの人の息子なんだと、次にはくしゃりとこちらも下手くそな笑顔を浮かべた。

 

 

 

「ありが、とう……悠くん」

 

 

 

To be continued.


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