PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

更新が再び遅くなって申し訳ございません。就職して現在研修中の身なので、これからも更新は遅くなると思いますが、何とか書き続けていきたいと思います。

最近友人の勧めもあって【ウマ娘】を始めました。中・長距離キャラの育成が結構難しいですが、休憩時間に超楽しんでやってます。ちなみに、私の推しキャラはオグリキャップです。あの物静かな天然で大食いなところにグッときました。

改めて、誤字脱字報告をして下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

それでは、本編をどうぞ!タイトルの和訳は【御旗のもとに】。


#108「Under the banner ①.」

──────お兄ちゃん……お兄ちゃん…………

 

 

 これはいつの日の記憶だろうか。意識が薄いのか、全く判断がつかない。

 

 

────お兄ちゃん、助けて……助けて……

 

 

 ああ、そうだ。これはあの日の記憶だ。

 高校生時代、私は学校のどこかに閉じ込められたことがある。正確には監禁されたというべきだ。犯人の目星はついていた。おそらく自分のことが好きだと付きまとっていたあの男子生徒だろう。

 自分に異常な好意を抱いており、何回かデートに行こう・自分の家に行こうなどと言いよられた覚えがある。あまりに異常だったので兄が目を付けて毎度の如く追っ払ってくれたので、これで問題ないだろうと油断していた時、今回のことが起こった。

 

────助けて……助けて…………

 

 自分が監禁されたのだと気づいたときには遅かった。目的を果たしたことにご満悦だったのか、犯人の男子生徒はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。その場で私は乱暴されそうになった。あの時の恐怖は今でも忘れられない。

 

 

 しかし、何故今この時の記憶が蘇ったのだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「音ノ木坂に復讐?」

「そう、正確にはこいつにね」

 

 あさっちと呼ばれた柴田という少女はぶっきらぼうにそう言うと、手に持つ拳銃で足元に倒れている雛乃を指す。

 悠から新聞部で聞いた情報については共有してもらっていたので、絵里たちはあらかたの察しがついた。つまり、こう言いたいのだろう。“自分たちは転校したのではなく、転校させられた”。他ならぬ理事長の雛乃によって。

 

「お母さんが……お母さんが何をしたっていうの!」

「何? あなた、こいつの娘なのに知らなかったの? こいつは私たちを音ノ木坂から追い出したのよ」

 

 銃口を倒れる雛乃に向けたまま、ことりの質問に淡々と答えるみーぽ。しかし、どこか様子がおかしいと観察していた絵里と希は思った。あの祭壇にいる2人の雰囲気が学園祭事件で対峙した時の佐々木竜次と酷似しているのだ。

 とりあえず、ここで動いても意味がない。最優先は雛乃の確保なので、選択を間違えれば雛乃を更なる危険に遭わせるかもしれない。だったら、情報を集めるのが先だと質問攻めにシフトチェンジすることを決めた。

 

「もしかして、あなたたちのことを書いたっていうあの週刊誌のことが関係しているの?」

「週刊誌? ああ、あの愚図が書いた記事のこと。そんな関係ないわ」

「重要なのは、こいつが私たちを追いだしたっていう事実。それだけよ」

 

 やはり、どこかおかしい。ならば、

 

「か、確証はっ! 証拠はあるの? 理事長があなたたちを音ノ木坂から追い出したって証拠は」

「……はあ? 何言ってるの。それを今、こいつから聞きだしてるんじゃない」

 

 だが、この質問はミスチョイスだったようだ。相手の神経を逆撫でしたのか、更に足元にいる雛乃に危害を加えかねないほど険しい表情をしている。

 まるで、立てこもり犯を相手にしているような状況に悠たちは去年よく同じような状況で菜々子を助けられたものだと感心した。こうなったらまた別の質問で話題をそらすしかない。それも、最も自分たちが聞きたかったあのことについて。

 

「あなたたちが、私たちをテレビに入れたの?」

「……ええ、そうよ。私たちがやったわ。音ノ木坂に復讐する一環でね」

「私たちと同じ、学校から複数の行方不明者が出れば、廃校が確定するって考えてね」

 

 やけにあっさりとした答えだが、その事実だけで十分だった。目の前にいる少女たちが自分たちをテレビに落とした元凶なのだと敵意を示すには。

 

「や、やっぱり! ど、どうやって……」

「本当はずっと我慢してたのよ。こんなまどろっこしいことをせずに、こいつを懲らしめられたらってね!!」

「……って、ちょっ!?」

 

 だが、ここで再度のミスチョイスにファンブル。更に激情したあさっちが手に持つ拳銃を振り下ろそうとした。その時、

 

 

「危ないっ!」

 

 

 何かの危機を察知したのか、みーぽがあさっちを引き寄せた刹那、あさっちの頬に閃光が走った。ガシャンという音がしたので見てみると、それは銀に光る日本刀だった。もしみーぽが庇っていなかったら、その刃あさっちに当たっていたことだろう。

 その事実に恐怖しながら振り返ってみると、その剣の持ち主であろう悠が降り投げた後である姿勢でいた。つまり、彼が自ら得物である日本刀を彼女たちに向かって投げたことになる。

 

「お前たち、よくも俺の大事な家族を傷つけてくれたな」

「ゆ、悠さん……?」

 

 刹那、その時放たれた悠の言葉にその場にいる人間たちは戦慄した。今一番この状況の中で、怒らせてはいけない者の怒りが爆発したのだ。その証拠に、今の言葉には仲間の穂乃果たちでさえ、おそらく特別捜査隊のメンバーたちでさえ今まで聞いたことない、この男の性格からは考えられないほど禍々しい感情が乗せられていた。

 

「ゆ、悠くんっ!」

「悠、落ち着いて。あなた今」

「うるさい」

 

 パシッと、悠は絵里が伸ばした手を払いのける。その行動に絵里だけでなく、いつも近くで優しい悠を見てきた穂乃果たちも驚愕した。

 

「ゆ、悠さん……」

「悠くんっ!」

「悠っ! あんた」

 

「もうお前らは知らない」

 

 思わず呼びかけるも、もうこの男に彼女たちの言葉は聞こえていなかった。そして、

 

 

「ぶっ潰してやる!!」

 

 

 今、それを突きつける決定的な言霊が放たれたことに息を飲んだ。そして、確信する。今の彼も彼女たちと同様に正常ではない。行き過ぎた家族愛と昨年の事件のトラウマによって。

 

「……捕まえるの間違いじゃないの」

「でも、私たちはそう簡単に捕まらないわ」

 

 だが、そんな悠の気迫に2人は作り笑いを浮かべた。そして、次の瞬間に目を疑う行動に移した。

 

「なっ、ちょっとちょっと!!」

「どういうつもり!?」

 

 なんと、手に持っていた銀に光る拳銃をこめかみに突きつけたのだ。まさかここで自殺するのか。しかし、その仕草に見覚えのあるラビリスは思わず声を上げた。

 

「みんな、構えて! あの様子は」

「えっ?」

 

 

―カッ!―

 

 

 もう時は遅かった。あさっちはそのまま拳銃の引き金を引いた。すると、何かが割れるような音が鳴り響くと共に、2人の周囲から更に濃い霧が発生する。すると、

 

「えっ、ええええええええっ!? ナニコレ!」

「へ、兵隊にゃ!?」

 

 目の前に広がる光景に穂乃果たちは驚愕する。霧が晴れたと思うと、なんとそこにはいなかったはずの大多数の兵隊たちがいたからだ。

 武器を手にしながら騎馬に乗馬している騎士のような者もいれば、重装備に身を包んで武器を持っている者、更には深くローブを被っている魔導士のような者もいる。まさに某シミュレーションゲームにありそうなバリエーションだった。

 

「なになになにになにっ、どういうことっ!?」

「もしかして、これもシャドウなの!?」

「いや違う。ウチのナビじゃ、シャドウとは違う反応が出とる。アレは……」

「まさか、ペルソナか!」

「ぺるそな……? へえ、あなたたちはそう呼んでるのね」

 

 あの反応、そしてあの拳銃を使った所作からして間違いない。彼女たちもペルソナを召喚したのだ。あの手に持っている拳銃をこめかみなどに当てて引き金を引く召喚方法はシャドウワーカーの美鶴や風花が使っていたもの。何故彼女たちが使えるのかが分からないが、今はそんなことを考えている暇はない。

 

「ぺ、ペルソナにしたって、この数は異常でしょ!」

「おそらく増殖に関する能力なのでしょう。でなければ、こんな数に説明がつきません」

「そうだとしても、本体がどれかって分からないじゃない」

 

 そうなのだ。ペルソナはペルソナでもどこぞの作品のように個体が増殖するようなタイプは今まで悠ですら見たことがない。そして、真姫の言う通りこれだけ数が居ては本体がどれだか見分けがつかない。

 

「そんなのは関係ない。行くぞ!」

 

 だが、悠はそうとはお構いなしに目の前の敵を討たんと突撃した。

 

「ちょっ、悠!」

「あいつ、何時ぞやの時みたいに暴走してるわよ。まるでイノシシじゃない!」

「私たちもやるわよ」

 

 いきなり先陣を切った悠に戸惑いつつも、自分たちも後に続くように絵里たちもペルソナを召喚した。

 

 

 

 

 

 

 

「にゃにゃにゃ~! 数が多すぎるにゃあ!!」

「キリがないわ!」

 

 当然ながら、久しぶりの大物との戦闘は苦戦を強いられていた。見たことがない敵との戦闘だというのはもちろんだが、今回は相手の数が多い。

 大多数の敵と言えば、学園祭事件での佐々木竜次戦を思い出すが、あの時とは全く違う。あちいは数こそ10万と多かったが、あれはあくまで雑魚シャドウ。こちらは一体一体の能力が強力なのだ。

 

「くそっ……チェンジ!!」

 

 先陣を切った悠と言えば、驚くことに前にできれていなかった。前に見なかった強力なペルソナをチェンジしているものの、圧倒的な物量と能力に圧されている。

 

「鳴上くん!」

 

 圧されている悠に加勢しようと、ラビリスはアイギスのいうところのオルギアモードを発動。一点突破で敵をかき分けて悠の元へと突進する。

 

「きゃああっ!!」

「ラビリスっ!」

 

 だが、すぐに敵の別動隊に囲まれて動きを封じられてしまった。しかも、重装兵だけで編成された部隊だった故か、オルギアモードでも抜け出せない。しまいには、重装ならではの重量がのしかかり、頑丈であるはずのラビリスの片足がぐしゃりと嫌な音を立てた。

 

「っああああああああああああああ」

「ラビリスちゃんっ!」

 

 ラビリスが悲鳴を上げた。今まで感じたことがない痛みと不快感が身体を支配する。だが、何とか歯を食いしばり、最後の力を振り絞るようにアリアドネを召喚。アリアドネの能力を使用して何とかその場から退却した。

 しかし、ラビリスの片足がひしゃげて本当に動かない状態になっている。これではまともな戦闘ができない。主力の一人が潰れたことで完全な劣勢に追い込まれた悠たちは一旦退くしかなかった。

 

 

 

「くくくく……あはははははははっ!」

 

 対して、祭壇で高みの見物を決めている2人は高笑いしていた。今まで苦汁をなめられてきた天敵が苦戦している様子にこの上なく愉悦を感じているようだ。

 

「いい! いい! やっぱりこの力は最高ね!!」

「今まで恨んでたやつだって、あんな表情をして……ああ、たまらない!!」

「さあ、このまま一気に攻めるわよ。これで、あいつらも終わりよ!!」

 

 更に追い込みをかけんと、勢力を増やしてこれを滅さんと畳みかける。その勢力は更なる絶望を与えんとするほどの規模だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(くそっ、俺のせいで……また皆が危機にさらされてる……)

 

 何とか後退したはいいものの、状況は最悪。自分が無意味に突撃してしまったせいで、穂乃果たちは無駄に傷つき、ラビリスは重傷を負ってしまった。更に、目の前からここで終わらせようと言わんばかりの大勢力がこちらに押し寄せてくる。

 

「ゆ、悠くん…………」

「悠さん……」

「悠……」

「………………」

 

 この今までにない絶望的な状況に穂乃果たちの心は折れかけていた。このままでは全滅してしまう。

 だが、ここで諦めてはならない。自分の失態が招いてしまった状況なのだから、その落とし前はつけなくては。迫りくる敵に焦りを感じながらも悠はこの状況を打開するための手を考えていた。

 

 佐々木戦で使用した新しいイザナギの力は傷ついた今では使えない。あれはことりの弁当でみなぎったのと、女神の加護が揃ったことで発動したものだ。

 そして、絆フェスの経験で復活したアルカナのペルソナでは力不足であることも直感していた。二体とも強力なペルソナであることに間違いないのだが、今目の前にしている数では圧倒的に圧されてしまう。

 

 

「…………はっ」

 

 

 あった。今所持してるアルカナの中で、この状況を打開できるペルソナが。

 しかし、それはあまりにリスキー。このペルソナは今現在の状態で完全に制御できているわけではない。最悪自分が壊れてしまうかもしれない。

 それでも、自分はやらなくてはならない。背後でうずくまろうとも必死に抗おうとする穂乃果たちのために。そして、叔母を助けるためにも、自分はやらなくてはならない。それに、祭壇で高笑いしている少女たちにもお灸をすえなくては。

 

「みんな、ごめん」

「えっ?」

 

 悠は背後でうずくまる仲間にそう言い残すと、覚悟を決めたように目を閉じる。

 

(足立さん……借ります)

 

 カッと悠の目が見開いた瞬間、悠の掌から一枚のタロットカードが顕現された。だが、そのカードはいつものとは違い、怪しく赤く光っており、どこか禍々しい雰囲気を醸し出している。更に、極めつけはそのタロットのアルカナは欲求と達成を暗示する【欲望】。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マガツ…イザナギ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カードを砕く。すると同時に、悠の足元に朱色の魔法陣が展開され、朱色の色彩が目に映る膨大なエネルギーが出力される。そして、それと共にペルソナが顕現された。

 

「あ、あれは……」

 

 そのペルソナの出現に祭壇の少女たちはもちろん、穂乃果たちも息をのんだ。更には、こちらに襲い掛かろうと突撃した兵隊たちも足を止める。出現したそのペルソナがあまりにも規格外だったからだ。正確にはその強さではなく、あの禍々しい雰囲気にだ。

 外見は赤黒く禍々しい色を発し、毛細血管のごとき紋様が全身を巡っている。手には大きな黒い大剣。そして、身に着けた仮面からは外見と同じ赤黒い不気味な瞳を覗かせていた。そのペルソナの名は【マガツイザナギ】。

 

「イザナギ……だよね?」

「でも、雰囲気が……」

 

 初めてみる、しかも何度も見てきたイザナギと瓜二つなのに全く違う雰囲気を纏うそのペルソナに穂乃果たちが抱いたのは畏怖の感情だった。そして、一度そのペルソナを目にしたことがあることりは反射的に身体が震えてしまった。

 

「な、何よアレ……何なの、この雰囲気……」

「怯む必要はないわ。ただ少し肌がピり着くだけでしょ」

 

 対する2人もマガツイザナギの邪気に恐れを抱いたが、見かけ倒しだと何とか威勢を保つ。しかし、それはすぐに虚勢に終わることになる。

 

「目を瞑れ」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

 

 

 

 

 

 悠が穂乃果たちに聞こえるようにそう呟いた刹那、マガツイザナギが雄叫びを上げる。すると、それを聞いた大多数の敵兵が一気に膝をついた。更には武器を投げ捨てて、まるで何かに怯えるように頭を抱えている。

 

「えっ?」

「ど、どうなってるの……?」

「アレは……恐怖?」

 

 希がナビで解析した通りだった。今マガツイザナギが使用したのは【デビルスマイル】。敵全体を恐怖状態に陥れる状態異常を付着する大技だ。悠が直前に警告してくれたお陰で穂乃果たちは二次被害を受けずに済んだが、あさっちとみーぽーは危機察知能力が高かったのか、運よく耳を塞いで恐怖状態を免れていた。

 そして、敵の恐怖状態を確認した悠は無地味に呟いた。

 

 

「消えろ」

 

 

 一瞬のことだった。マガツイザナギが魔法を展開したと思うと、膝をついたシャドウたちは文字通り消えた。まるで、地獄から這い出た亡者たちに引きずられるように。

 

 

「「「……!っ」」」

 

 

 今まで見なかったこの男らしくない不気味な攻撃に傍から見ていた少女たちはゾッとした。そして、祭壇の少女たちは自分たちの手駒が一気にいなくなった事実とマガツイザナギの強大な力を目のあたりにして腰を抜かしていた。

 

「「ひっ!」」

 

 だが、いつの間にかそのマガツイザナギの使役者である悠が祭壇の上に、つまり自分たちの目の前まで迫っていた。そして、少女たちを見据えた悠の目はこう言っている。

 

 

 

 

────お前たちもこうしてやる

 

 

 

 

「う…う………うわあああああああああああああああっ!!」

「誰かっ…!誰か……誰か助けてええええええええええええええええっ!!」

 

 

 無表情・無感情・無慈悲に徹したその冷たい顔は昨年あの生田目太郎をテレビに落とそうとしたときと同じだった。まるで死神が迫ってくるような恐怖を感じたのか、二人は後ずさって逃げ惑うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お兄ちゃん……」

 

 祭壇での悲惨な状況にことりは危機感を覚えていた。

 このままではダメだ。祭壇での兄の様子を見たことりはそう思った。このままでは悠が元に戻れなくなってしまう。

 何とか止めようと思うにも、マガツイザナギの迫力と悠のただならぬ気迫に足がすくんでしまい行動ができない。周りの仲間に頼ろうにも恐怖で発声がうまくできない。穂乃果たちも同様に今までに見たことがない悠がショックなのか、呆然としている。

 

(どうしよう……どうしよう……だれか、お兄ちゃんを止めて)

 

 打つ手がないこの状況にことりは心でそう祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、今理解した。なぜこんな時に、あの記憶が蘇ったのか。目の前の光景を見て思い出した。

 

 

 

────この野郎っ!! 

 

 

 

 監禁されてから少しして、犯人の男子生徒がいよいよ行動を起こそうとしたその時に兄が監禁場所に突撃してきたのだ。呆気にとられた犯人はそのまま兄に取り押さえられた。どうやってこの場所を見つけ出したのかは当時話してくれなかったが、とにかく兄が助けに来てくれたので一安心した。

 

 と、この時までは思っていた。

 

 

 

 

────よくも妹を酷い目に遭わせてくれたな! 許さねえぞっ!! 

 

 

 

 

 改めて見てみた兄の表情は今までに見たことがないほど怖かった。烈火の如く、または鬼気迫ったというべきほどに怒りが全身からあふれ出しており、ただひたすらに無力化した犯人を殴っていた。

 普段あんなに優しい兄がこんなにも怖くなったのは、この時が初めてだった。

 

 

────兄さん、やめて……

 

 

 弱弱しくもそう訴えたが、完全に兄は理性を失って、言葉が届かなかった。そんなただ見ているしかない状況に、心の中で誰かに助けを求めるしかなかった。

 

 

 だが、この後どうなったのだろう。やっと思い出せたことなのに、その続きも思い出せなかった。

 

 

To be continued.


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