PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

更新が再び遅くなって申し訳ございません。もっと早く更新したかったのですが、なんやかんやあって全然執筆が進みませんでした…

先日【ロードエルメロイⅡ世の冒険】が出ていることに今更気づいて速攻で買った読んだら、まさかの人物が登場して興奮してしまいました。もちろん誰かは言いませんが、もしやあのルートの後の話ではと思いました。

改めて、感想を書いて下さった方・誤字脱字報告をして下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

これからもこの作品を読んで頂けたら幸いです。それは今回のタイトルから分かると思います。


#106「Heaven②.」

—————何故こうなったのだろう?

 

 

 私は兄を愛していた。それは家族としてもだが、異性としても愛してしまった。

 従兄妹ならまだしも、あの人と私は血の繋がった兄妹。いけないことだと分かっていてもこの気持ちは偽れなかった。

 

 だから、常に兄の傍に居たいと思った。朝起きるときも、ご飯を食べるときも、学校にいるときも、寝るときも……これから先もずっと兄の傍に居たかった。

 

 だが、兄は周りから好かれる人格だった故に、いつも周りには自分以外の異性が群がっていた。私はそれが許せなかった。

 

 兄の傍に居ていいのは私だけ。だから、お前たちは近づくな。

 

 

  しかし、その行き過ぎた想いが行動に伴ってしまい、周りから超がつくほどのブラコンだと避けられてしまった時期もあった。

 

 

 これほど衝動に駆られたほどのこの想いは、いつか報われる日が来るのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<南家 自室>

 

「はああ……」

 

 自室で勉強中、思わず溜息をついてしまった。率直に言うと、最近になって音ノ木坂の神隠しに関わる事実が判明してきていることもあって、そっちが気になって勉強に集中できないでいた。

 あれから数日、結局音ノ木坂の神隠しについて有益な情報は得られなかった。被害に遭った直斗は未だ目を覚まさない。ラビリスにはシャドウワーカーに当時のことを聞いてもらったが、現在美鶴たちは別の事案に追われていて対応できないので、調べるのは少し待ってほしいとのことだったので、収穫なし。

 ハロウィンイベントの準備は着々と進んではいるが、噂の調査は全然進んでいなかったので、正直焦る気持ちが大きくなってきた。一体ここからどう情報を得ればいいのか。このままでは更なる被害者が……

 

「悠くん……悠くん」

「………えっ? 叔母さん?」

「悠くん、どうしたの? そんなに考え込んで。ご飯できたわよ」

 

 更に考え込もうとしたその時、いつの間にか自室に入ってきた雛乃に肩を叩かれていた。どうやらあまりに考え込み過ぎて雛乃が部屋に入ったことすら気づかなかったようだ。

 

「い、いや……何でもないです」

「そう」

 

 だが、雛乃は悠を一瞥したが気にすることなくリビングへと行ってしまった。何だか最近思い詰め過ぎて疲れてるなと肩を竦めつつ、悠はゆっくりと夕飯を食べに向かった。

 

 

 

 

 

 今日も雛乃のご飯は美味しかった。脳も身体も溜まった疲れがすっかり消えたようにスッキリするほどだった。この調子ならこの後も音ノ木坂の神隠しについての調査、ではなく勉強に集中出来るだろう。そう実感したその時、

 

「……悠くん、あなた何に首を突っ込んでいるの?」

 

 向かいでこちらの様子を見ていた雛乃が唐突に放ったその一言で場の空気は一変した。さっきまで暖かな雰囲気だったのが、急に冷たいものになっている。見てみると、雛乃の表情は数日前に音ノ木坂の神隠しについて尋ねた時のものになっていたので、悠は思わず箸を持つ手を止めてしまった。

 

「そ、それは……どういう」

「最近悠くんが例の噂について聞きまわってることを先生方から聞いたの。あれほどやめなさいって言ったのに、何で聞かないのかしら?」

「…………」

 

 食卓に再び沈黙が下りた。去年も叔父の堂島から追及された時にも感じたこの緊張感。あの時は最終的に警察署に連れて行かれて白状したが、全く信じてもらえなかった。それは当然だ。“ペルソナ”・“シャドウ”・“テレビの世界”といったオカルトな話の上、それが音ノ木坂の神隠しという今となっては眉唾な噂が関係しているなど、信じてもらえるはずがない。

 そんな悠の心境など知ったことはないと言わんばかりに、雛乃は話を続けた。

 

「GWの後に悠くんが入院した時から思ってたの。あなたたちが何か危ないことに首を突っ込んでるんじゃないかって。去年のことは堂島さんからある程度聞いていたけど」

「「…………」」

「悠くん・ことり、今一度言うわよ。危ないことをしているのなら止めなさい」

 

 優しく言い聞かせる雛乃だが、その瞳に笑みはない。堂島から何を聞いたのかは知らないが、おそらく去年悠があの事件に首を突っ込んで危ない目に遭ったと思っているのだろう。

 音ノ木坂の神隠しに何か知っていて、それがとても危険なことだと認識しているのであれば、雛乃が警告してくるのは分かる。だが、

 

「叔母さん……俺たちは」

「悠くんっ! 身の程をわきまえなさい。あなたは受験生なの。今この時期がどれほど大事か、分かってるでしょ!」

 

 それでも引けないと言葉を紡ごうとしたが、ピシャリと反論さえ許さないと言わんばかりの口調で叱る雛乃に何も返せなかった。だが、

 

「お母さんだって……お母さんだって」

「ことり?」

 

 

「お母さんだって、ことりたちに何か隠してるんでしょ! 自分は知ってることは話さないのに私たちだけ話せって、ずるいよ! ことりたちが大っ嫌いな汚い大人たちと一緒だよ!!」

 

 

 その時、黙っていたことりが突如立ち上がって反論した。普段の穏やかな様子とは違う鬼気迫った表情で怒気を含んだ声色だったので、これには悠はもちろん雛乃も驚愕した。

 

「ことり、何を言って」

「音ノ木坂の神隠しについて何か知ってるんでしょ! 知ってるんだったら話して! 話してくれたら、ことり達も話すから」

「なっ!? ことりっ!」

 

 感情が暴走しているせいか、思わぬことを言いだしたことりに悠は焦りを見せた。一体どういうつもりなのか知らないが、本当のことを言ったところで信じくれるはずがない。証明することは容易いが、それは自分たちの戦いに雛乃を巻き込むことになる。それだけは絶対に避けたい。

 

「…………」

 

 だが、雛乃は娘がいきなり反抗したショックなのか、もしくは本当に噂について何も話せないのか、口を開くことはなく黙っていた。その様子を見たことりは感情に任せて雛乃を睨みつけた。

 

「ほら、言えないんでしょ! 言えないってことは、音ノ木坂の神隠しについてお母さんがやましいことがあるってことでしょ!!」

「そ、そんなことは……」

「違わないでしょ! 言えないってことはそういうことだもん!!」

「うっ……」

 

 ことりの追撃を受けても、雛乃は黙ったままだった。母の黙秘にまた怒りの感情が頂点に達したのか、ことりは手をわなわなと震わせて、更に睨みを鋭くする。

 

「やっぱりね。結局そういうことなんだ! お母さんは結局汚い大人なんだ! 最低だよ!!」

「!!っ……」

 

「お母さんなんて……お母さんなんて!」

 

 

「ことりっ!! いい加減にしろ!!」

 

 

 ことりがその先を言葉にしようとしたその時、これ以上は言ってはいけないと悟った悠は立ち上がって大声を出した。兄の制止の声が響いたのか、ことりは我を取り戻したように怒りを静めた。だが、その反動で自身が母に放った言葉の重みを再認識した。

 

「…………」

 

 雛乃はことりに責められた言葉にショックを受けたのか、その場に俯いてしまった。

 

「お、叔母さん……?」

 

「……ごめんなさい……私が悪かったわ」

 

「えっ?」

 

「ごめんなさい……ごめんなさい…………」

 

 うわ言のように謝罪の言葉を続けながら、雛乃はリビングから出て行ってしまった。去り行く叔母の背中を悠は追うことはできなかった。

 

「……あっ…………あっ……」

 

 そして、ことりも感情に任せて母を傷つけてしまったことにショックを受けたのか、懺悔するように椅子に座ったまま俯いてしまった。悠がすんでのところで止めてくれたとはいえ、己の言刃で母を傷つけてしまったことを後悔しているようだ。何か元気が出る言葉を掛けたいが、この重苦しい雰囲気に見合う言葉が見つからない。

 

「雨……か」

 

 いたたまれなくなって外を見ると、今の南家の雰囲気を表すように大雨が絶え間なく降り注いでいた。雨と言えば、最近雨が降った日の夜にマヨナカテレビをチェックするのを忘れていたなとふと思ったが、今のリビングの雰囲気に圧されて気にしなかった。

 今日はもう寝てしまおう。そして、明日雛乃に謝ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 そうは思ったが、やっぱり夜に雨が降っている状況が気になって全然寝付けなかった。むくりと布団から起き上がって、自室の時計に目を向ける。時刻はもうすぐ午前0時を指すところだった。去年、この時期辺りに終わったと思っていたマヨナカテレビが映ったことを考えれば、今回もまた映るかもしれない。

 見逃すまいと悠はジッと自室のテレビの画面を見つめる。だが、

 

「………………?」

 

 時刻が午前0時を指しても何も起こらなかった。強いて言えば、画面に一瞬ノイズのような砂嵐が見えたような気がしたが、それ以外全く何も起こらなかった。何だったのだろうと疑問に思ったが、ひとまず何事もなくて良かったと悠は一息ついて布団に入って就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

「お母さん、いないね」

 

「ああ」

 

 朝起きると、南家に雛乃の姿はなかった。出来立ての朝食がテーブルに用意してあることから、今日はいち早く起きて朝食を作った後に出勤したようだ。今の状態で自分たちと顔を合わせられなかったのもあるかもしれない。

 

「………………」

「………………」

 

 黙々と雛乃お手製の朝食を取るが、向かいのことりの表情も浮かない。ことりも昨日思わず母に暴言を吐いてしまったことを気にしているのだろう。その気持ちはよく分かる。自分だってそうだ。だから

 

「ことり、今日の夕飯は叔母さんの好きなものを作ろう。きっと叔母さんだって許してくれるはずさ」

 

「……うん。そうする」

 

 よし、そうと決まれば今日の夕飯はご馳走だ。確か雛乃が好きな料理は等々考えながら、悠は朝の準備を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<音ノ木坂学院 アイドル研究部室>

 

「…………」

 

 この日の放課後、音ノ木坂学院アイドル研究部の部室はどよーんとした雰囲気に包まれていた。今の天候が雨天だということもあるが、おそらく原因は昨日のあれだ。

 

「私たち、昨日はどうしてたのかしら……」

「あれが俗にいう会議が長引いた際に起こる麻痺状態というものなのですね……」

 

 昨日来るハロウィンイベントに向けて、A-RISEに負けないキャッチフレーズを考えようとしたが、色々と試行錯誤した結果とんでもないベクトルに走ってしまった。挙句、その末路を絶対に見られなくない悠にまで見られたので、彼女たちの精神的ダメージは大きかった。

 ちなみに、悠は改めてツバサたちのお願いであるUTX学園で練習を観に行く約束になっているので、今日は不在である。

 

「ま、まあ……とにかく方向性は決まったからいいじゃない。本番はもうすぐだから、早速綿密な会議を」

「絵里ちゃん、うるさい」

「アンタが勝手に進めなさいよ」

「エリチ、うるさい」

「ええっ!?」

 

 絵里が場を和ませようと話題を逸らそうとするが、そう簡単に場の雰囲気は変わらない。何せいつもあっけらかんと振舞っている希でさえ、こんなに落ち込んでいるのだから結構重症だ。言った通り本番はもうすぐだし自分だけじゃ勝手に決められないし、どうしたものか。

 

「あれ?」

 

 窓の外を見ると、ちょうど自分たちと同じ年齢らしき2人の少女が中庭を通る姿が見えた。それが音ノ木坂学院の生徒であれば目に留めなかったが、何故目に留まったのかと言うとその少女たちの服装が最近よくみるようになった宅配業者の作業服だったからだ。

 

「こんな時間に学校に宅配便?」

「てか、こんな天気に傘もささずに大丈夫なの?」

 

 更に目に留まったのは彼女たちが押しているお届け物だった。台車で大きなダンボールを運んでいるようだが、学校への宅配便、ましてやこんな雨の日にしてもかなり大きなものだった。

 

「あの子たち、大丈夫かしら。傘も持ってないようだし、ちょっと行ってこようかしら?」

「えっ、ちょっと絵里ちゃん!?」

 

 絵里はそう言うと、サッと傘を持って部室から出て行った。その後ろ姿に希とにこはやれやれと言うように溜息をついた。

 

「何か変わったわね」

「そうやね。昔はあんな風に自分から人助けに行くことはなかったんやもんな。誰かさんの影響やね」

 

 希の言葉にふとその誰かさんの顔が浮かんだのか、この場にいるメンバー全員がなるほどと納得した。

 

「確かにそうかもしれなせんね。それに比べて穂乃果ときたら、全然変わっていませんし」

「あははは、この間も活動日誌書き忘れて怒られちゃったよ」

「それはいつものことでしょ。山田先生も困ってるのがお決まりになるくらいね」

「うぐっ……すみません」

 

 絵里と比較されて居たたまれなくなる穂乃果。事実は事実だが、あんまり比べないでほしいと心の底から思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? あの子たち、どこに行ったのかしら?」

 

 中庭に出て件の少女たちのところへ向かうと、彼女たちは既に中庭にはいなかった。どうやらこっちが向かってくることに気づいて、さっさと立ち去ったようだが、何がまずいことでもあったのだろうか。

 

「傘持ってなかったようだし、ずぶ濡れになってなければいいんだけど……あれ?」

 

 見ると、先ほど少女たちが立っていたであろう場所に何かが落ちていた。拾ってみると、それは手帳だった。雨のせいか相当塗れているが、さっきの子たちの落とし物ならどうしたものか。一応中身は大丈夫なのか確認するために、申し訳ないと思いつつも絵里は手帳を開いた。

 

 

 

 

“恨めしい”

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

“恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい”

 

“音ノ木坂廃校すべし”

 

 

 

「!!……」

 

 開いた最初から目に余る衝撃な言葉の羅列に絵里は目を見開いた。これ以上は見てはいけないはずなのに、ページをめくる手は止まらなかった。

 

 

“今日はアイツらをテレビに入れた。これで少しは廃校に近づくだろう”

 

 

「なっ!?」

 

 次のページにはその文章と、西木野真姫と小泉花陽の情報が詳細に書かれていた。フルネームに生年月日、更には住所などプライベートな個人情報まで明記されていたので、絵里は思わず背筋が凍った。それでも、ページをめくる手は止まらない。

 

 

“今日はアイツを入れた。だが、死にはしなかった……何故だ、何故。あんなヤツいなくなれば良かったのに”

 

“アイツもテレビに入れた。今回こそ上手く行くはず。そうでなければ、自分たちのやってきたことはなんだったのだろうか”

 

 

 そして、次のページには矢澤にこに絢瀬絵里と同じように個人情報までも明記されていた。そして、

 

“ついにやってやった。私たちの計画を邪魔し続けた鳴上を事故に見せかけてテレビに入れることができた”

 

“あの佐々木とかいう新聞部員をうまく利用できたのが功を制したのだ”

 

“これで私たちを邪魔するものが消えるだろう”

 

 

 

“あいつらは生きて帰ってきたふざけるな”

 

“ふざけるな”

 

“こんなことがあってはならない”

 

 確定的だった。このページにはあの学園祭事件の全容が記されていた。最後には計画が失敗した時の反応だろうか、見れば見るほど悪寒を感じざるを得ない恨み言がつらつらと並べられていた。

 ここまで読んでいくつか気になることがあったが、そうこう思考しているうちに最後のページに辿り着いていた。

 

 

“計画はいよいよ大詰めだ。今度こそ復讐を成功させてやる。そのために、私たちを貶めたあの理事長をテレビに入れてやる”

 

“昨日は失敗した。今日は何としても理事長をテレビの中に入れる。私たちの恨みを想い知れ”

 

 

「……まさかっ!!」

 

 脳裏に過った予感に触発され、絵里は自身でも信じられないくらいの速さで起き上がり少女たちの後を追った。だが、すでに少女たちは学外に出てしまったのか姿がどこにも見当たらなかった。

 嫌な予感がずっと脳に警報を鳴らしている。居ても立っても居られなくなった絵里は踵を返してちょうど中庭を通りかかった先生に向かって走り出した。

 

「山田先生! すみません!! 理事長と今連絡取れますか!?」

「あ、絢瀬さん……? どうしたの、そんな慌てて」

「いいから早く!!」

「は、はいいいいっ!!」

 

 偶々通りかかった教師、山田先生は絵里の気迫に慄いてしまい、条件反射に携帯を取り出した。それと同時に絵里は一番早く伝えなければならないと直感した人物に電話を掛ける。

 

 

 

「悠、早く帰ってきて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、絵里の知らせを受けた悠は真っ先に美鶴たちシャドウワーカーに雛乃の捜索を依頼。結果、音ノ木坂学院に秋葉原、更には東京中を隈なく捜索したが痕跡は一つもなし。

 

 

 

 

 この日、南雛乃は音ノ木坂から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<南家 リビング>

 

 

「……」

 

 事が発覚してから数時間後、南家に集合した穂乃果たち。しかし、今の南家は重苦しい雰囲気に包まれていた。再び事件が、それも被害者が今まで自分たちを見守ってきた雛乃かもしれないのだから当然ではある。それを示すように、家族である悠とことりの落ち込みが顕著になっていた。

 

「みんな集まったわね。心中お察しするところ悪いけど、改めて状況説明するわよ。ラビリス、お願いしていいかしら?」

「う、うん。ええよ」

 

 何とか場の空気を変えようと、いつも取り仕切る悠に代わって絵里とラビリスが代行して状況説明を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絵里の推測通り、中庭で見かけたあの少女たちは配送業者でもそのバイトでもなかった。学校側も今日は配送物を受け取った記録はないし、ここ最近は依頼もなかったとのこと。

 

 更に、シャドウワーカーの山岸風花が東京中の監視カメラを隈なく調べたところ、絵里が目撃した時間に音ノ木坂学院から出て行く不審なトラックが一台確認された。映像を追跡ところ、人気のない場所に無造作に停められているのを発見した。

 すぐに美鶴が隊員を現場に急行させたが、既にもぬけの殻だった。だが、代わりに発見されたのはトラックの荷台に存在感を示すように置かれていた大きなテレビだったという。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 ラビリスからの報告を聞いて、一気に雰囲気が沈んでしまった。それと同時に確信してしまう。絵里の推測通り、あの少女たちが自分たちの追っていた犯人だったかもしれないと。

 

「迂闊だったわ。まさか、一番気の抜けたこの時期に仕掛けてくるなんて……」

「やっぱり、理事長も私たちと同じように午前0時にテレビに……」

 

「それはない」

 

 ピシャリと皆の暗い雰囲気を覚ますような声が響いた。

 

「悠……」

「今日は会わなかったけど、叔母さんは俺たちに朝食を作ってくれてた。これまでみたいに午前0時にテレビに入れられたわけじゃないと思う」

「……そうね」

 

 大切な家族が事件に巻き込まれたという状況でも、悠はキッチリ推理していた。多少無理はしているかもしれないが、こんな状況でそれを指摘するほど無神経な者はいなかった。

 

「では、何で今回は方法を変えたのでしょうか? 穂乃果とことり、私の時以外は午前0時に何らかの方法でテレビに入れられたということでしたが……」

 

 海未の言う通り、今回も今までのケースとは違っていた。今回は真っ昼間、おそらく学校が終わって生徒の出入りが激しくなる時間帯を狙っての犯行だが、これに何の意味があるのだろうか。

 

「それに、この日記の筆跡は……まさか」

「にこちゃん?」

「な、何でもないわよ」

 

 皆が考えている傍ら、にこは絵里が拾った手帳の内容を見てどこか暗い顔をしていた。まるで、この手帳の持ち主に心当たりがあるように。

 

「とにかく今日のマヨナカテレビを確認しよう。それで、もしマヨナカテレビに叔母さんが映ったら、明日あの世界に突入しよう。絶対に叔母さんを助けるんだ」

「…………」

「そのためにも、今日のところは解散しよう。みんなも疲れているだろうし、明日に備えないとな」

「……そうだね、お兄ちゃん。一刻も早くお母さんを助けないと」

 

 一見すると普段通りの悠に見えるが、無理して表情を作っているのが絵里たちには見て分かった。ことりもことりで笑顔だが、明らかに作り物であることがマルバレだ。果たして、2人をこんな状態で居させたままでいいのだろうか。そう思った絵里たちは顔を見合わせた。

 

「ねえ悠・ことり、今日私たちここに泊まっていいかしら?」

「「えっ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったああ! ゴール出来たぁ!!」

「うわああああああああああああ!!」

「…………」

 

「相変わらずうるさいわねぇ。希、これ頂戴」

「ダーメ。それは悠くんの」

 

「悠さん、これはどこに?」

「ああ、それは…」

 

 その日、南家はこれ以上にないくらいの笑い声と笑顔に溢れていた。捜査会議が終わって一旦荷物を取りに行った絵里たちが戻った後、今日は晩餐だと言わんばかりに絵里たちが手料理を振舞ってくれたのだ。その上、その間は穂乃果たちがトランプやテレビゲームで場を明るくしてくれた。

 

「海未ちゃん、本当にゲームに弱いよね」

「まさか、あんな負けからするなんて」

「もはや呪われてるんじゃないかって思うくらいにゃ」

「うううう……」

「ほーら、もうすぐご飯なんだから」

 

 居間のテレビの前では凛が持ち込んだゲーム機で穂乃果たちがパーティーゲームをやり込んでいる中、キッチンでは絵里と悠が着々と夕飯の準備を進めていた。

 

「それにしても、悠は休んでも良かったのに(ひょいっ)」

「(パシっ)いや、俺も何か身体を動かさないと気が済まなくて(さっ)」

「そう、ならいいわ(パシッ)」

「そう言えば、亜里沙は? (シュッ)」

「(パシッ)あの子なら大丈夫よ。今日は穂乃果の家に泊まるらしいわ」

「なるほどな」

 

 会話しながら少し目線を合わせるだけで手際よく料理している。その様子は端から見れば驚きだ。

 

 

 皆、雛乃がいなくなって堪えている悠とことりを案じているのだろう。その気遣いはとてもありがたく、今の自分たちの心境はとても良好だった。

 

「…………」

「あれ? 悠さん、どうしたの?」

「いや、何でもないさ」

 

 胸につっかえている違和感を感じながら、悠は皆と夕食を食べて、楽しい一時を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 だが、無理に押し込めていた感情はすぐさま爆発する。

 

 

「ことり、大丈夫か?」

「お、お兄ちゃん……」

 

 あらかた盛り上がって、今夜映るであろうマヨナカテレビに備えるために早めに寝ようとした際、一旦2階の自室に戻ったことりが中々出てこないので様子を見に行ったところ、ことりは部屋の床に一人うずくまっていた。そして、

 

「う……う……うわああああああああああああんっ!!」

「ぐほっ……」

 

 悠の姿を確認するや否や、ことりは涙を溢れさせながら悠に突進するように抱き着いてきた。不意打ちに勢いよく抱き着かれたため、悠は受け止めきれず壁に後頭部を激突させてしまった。

 

「ことりの……ことりのせいだよ。ことりが、お母さんに……あんなこと言ったから……お母さんが……お母さんが……ううう…………う……」

 

 兄の意識を刈り取りそうになったことは知らず、ことりは溜めに溜めていいた感情を爆発させる。家族が、それも一番ことりを長く、そして近くで見守っていた母が誘拐されたのが堪えたのだろう。

 その感情は分かる。意識が揺れる最中、悠の脳内では昨年の今ごろの出来事がフラッシュバックした。

 

「お……俺は……」

 

 悔しい。去年、菜々子のことがあってから、あんな想いは二度としたくないと言っていたのに、雛乃を同じ目に遭わせてしまった。ことりの激情につられて、自分のため込んでいたものが溢れてしまう。

 だが、己の意識も限界だったのか、ことりに何も言葉をかけることは出来ず、そのまま視界がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 聞きなれたメロディが流れてくる。目を開けると、思った通りリムジンの車内を模した蒼い空間、【ベルベットルーム】だった。

 

「マリー?」

「うん、久しぶり」

 

 ベルベットルームで待っていたのはイゴールでもマーガレットでもエリザベスでもない。稲羽でお天気お姉さんとして奮闘中のマリーだった。何時ぞやを思い出させる赤いポーチとパンクな衣装、そして青いハンチング帽から覗くエメラルド色の瞳が目の前にあった。

 

「どうして、ここに?」

「今回の君の叔母さんの件は、私にも責任があるから」

「えっ? それはどういう……」

「悠に渡したあの日本刀、実は私の力を付与してたの。少しでも悠やあのコーハイたちの助けになるようにって思って。思い当たる場面はない?」

 

 マリーの言葉に今までのことを振り返ってみると、確かに思い当たる節はいくつもあった。

 P-1Grand Prixにて戦闘で負った傷はあの日本刀を所持していた時にはいつの間にか回復していたし、聞いた話では学園祭事件で、穂乃果がピンチの時に刀が輝いた時に兎のようなペルソナ、おそらくは【カグヤ】が召喚されて穂乃果を助けたとも。

 

「もしかして、足立さんのも……?」

「うん、悠の身体にアイツの意識が来たのも私の力。最初は悠の役に立てればって思って色々力を付与したんだけど、ここまでになるとは思ってなくて」

 

 やりすぎたと言わんばかりに額に手を当てるマリーだが、こっちは色々衝撃過ぎてフリーズしてしまった。まさか、今まで不思議に思っていた出来事が全てマリーの力によるものだったとは思いもよらなかった。

 

「そして、今回の件も私……」

「えっ?」

「ごめん、ここから先はこの部屋のルールで言えない。後は自分で何が起こったのかを突き止めてとしか言えない。ホントは教えたいけど……」

「いや、いいさ。それだけ教えて貰っただけでも十分だ」

「……」

 

 申し訳なさそうにするマリーに悠はそう声を掛ける。しかし、

 

「悠、無理してる」

「えっ?」

「分かるよ、それくらい。ずっと、見てきたから……」

 

 マリーは澄ました顔でそう言うと、悠の頬に手を当てて言い聞かせるようにこう言った。

 

「でもね、悠……って、もうこんな時間。はあ……後はフシギキョニューたちに任せるよ。癪だけど」

 

 マリーはしかめっ面でそう言うと、ギリッと歯ぎしりする。あまり見ない怖い表情に少しビクッとなったが、マリーは素知らぬ顔で視線をこちらに移した。

 

 

「悠、もう真実はすくそこに近づいてる。必ずあの人を助けて、また会いに来てね……」

 

 

 最後、マリーが柔和な笑みを浮かべて顔をこちらに近づけてきた。しかし、自分が何をされるのか認識する前に悠の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、いつもの自室の布団に戻っていた。だが、何だかあの部屋に行く前とは何か違う気がする。主に、後頭部辺りに覚えのある柔らかいものが当たっているような。

 

「…………あっ」

「悠くん、おはよう」

 

 だが、答えは明白だった。ふと顔を上の方へ上げてみると、まるで赤子を見るような優しい眼差しをする希がいた。この状況はつまり、希に膝枕をされていたということだ。やばいと直感した悠はバッと起き上がった。

 

「ええっと、何でここに?」

「悠くんとことりちゃんが全然降りて来んから様子見に来たんや。そしたら、2人とも抱き合う形で寝よったし、その姿勢じゃ寝づらいと思うたから、ウチが膝枕したんよ」

「……ちょっと何言ってるか分かんない」

 

 だが、その言葉を裏付けるように自分の反対側ではことりがもう片方の膝で寝ていた。

 

「み、みんなは?」

「穂乃果ちゃんたちはははしゃぎすぎてもう寝とるよ。エリチも少しね」

「そうか」

 

 さっきまで自分たちがいない間でもどんちゃん騒ぎしていたのに、道理で下が騒がしくないはずだ。時間的に今夜のマヨナカテレビに備えて仮眠を取っているのかもしれないが。

 

「悠くん、自分を傷つけたらあかんよ」

「希……?」

 

 さっきまでの優し気な表情とは打って変わって、真剣な表情でこちらの手をぎゅっと握った。

 

「悠くん、悔いたらあかん。起こったことは仕方ないんや。大事なんはこれからどうするのか、やで」

「そ、それは……」

「今日かて、皆が悠くんとことりちゃん家に泊まろうと思うたんは、2人を励ますのもあるんやけど、自分にそう言い聞かせるためでもあるんやで」

 

 知らなかった。見れば自分の手を包んでいる希の手が少し震えているのを感じる。

 

「だから、悠くんはこれまで通りでええ。これまで通り、ウチらを助けてくれた時のように理事長を助けよう」

 

 まるで母が子を諭すように、愛する人に愛を伝えるように目に涙を溜めて希は言葉を掛けてくれた。その言葉は不思議に悠の心の中にストンと入った。

 何だが、希に励ましてもらってばかりで頭が上がらないなと思う。だが、それが目の前にいる東條希。幼い頃の自分の救いになっていた人物なのだ。

 

「希、ありがとう。お陰で俺も、ことりも吹っ切れた気がするよ」

 

 彼女の膝で眠っていたことりも今の話を聞いていたのか、表情が自分と同じく和らいでいる。希もそれを確認したのか、良かったと言わんばかりに安心した笑みを浮かべていた。

 

「そう。なら良かったわ。いつも悠くんに助けてもらってばかりやから、これくらいはせんと」

「今度お礼させてくれ」

「ほんま? じゃあ、デート1回」

「……へっ?」

「ウチの家でお泊りも追加でお願いな」

「えっ? お泊り……? えっ?」

 

 明らかにお礼の内容が飛躍しすぎな気がした。デートはともかく、家にお泊りは流石にまずい気がする。なにかこう、色々な意味合いで。

 

「ウチ、悠くんのためを思って頑張ったのに…………」

 

 悠の苦い反応に希は表情を曇らせたかとおもうと、目に涙をためてきた。その表情をされると、今の悠にはクリティカルヒットだった。

 

「わ、分かった分かった! 今度デートしよう。希の家にお泊りで」

 

「やったあ!」

 

 案の定、お決まりのパターンにやられてデートの約束をしてしまった。何やらとんでもないことを約束してしまった気がする。さながら悪魔との契約のような。思えば希は実家暮らしではなく一人暮らしだった気がするのだが、大丈夫だろうか。それに、希は素知らぬ顔でやり過ごしているが、膝元からギロッとこちらを睨む妹の視線がいつも以上に痛い。

 でも、悪くないと思っている自分が心の中にいる。この約束を果たすためにも、絶対に生きて雛乃を助け出そう。当然、その後約束を果たしてから自分が無事でいられる保証はないわけなのだが……

 

 

「悠さーん・ことりちゃーん・希ちゃーん、どこ~? そろそろ午前0時だよ」

「ああ、分かった。今行くよ」

 

 

 階下から自分たちを呼ぶ声がした。いよいよ、真偽を確かめる時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、マヨナカテレビは映った。

 

 

 

 案の定、その画面に雛乃の姿があった。これまでの花陽やにこたちのように、突拍子な恰好や背景はない。質素な白色の背景に普段の仕事服で現れた雛乃はまるで謝罪会見を行うかのような暗い表情で映っていた。

 だが、そこから映像に変化はなく、ただただ暗い表情の雛乃の姿が垂れ流されるだけで、数分もしないうちに映像は途切れてしまった。

 

 

 これで確定した。雛乃は間違いなくテレビの世界にいる。そうなれば、自分たちがやることは一つだ。

 

 

 

「行こう、テレビの世界へ」

 

 

 そして、彼・彼女たちの大切なものを取り戻す戦いが始まる。

 

 

 

To be continued.


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