PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

117 / 131
閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

年初めからFGOで村正を引こうとしたら、400連くらい(無課金)回したのに自爆…周りの友人たちは全員引いたって話だったので、引いたやつら全員宿儺の指を食わせやると一時荒れてました(笑)。更に先日来た寒波で路面凍結で滑りそうになったし、そのせいで部活の練習も中止になったし、今度は緊急事態宣言も出て(以下同文)。

年明けから散々だったので、自分の今年の行く末が不安になりました…。

改めて、感想を書いて下さった方・高評価をつけて下さった方・誤字脱字報告をして下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

これからもこの作品を読んで頂けたら幸いです。今年最初から物語が動き出します!それは今回のタイトルから分かると思います。

それでは、本編をどうぞ!


#105「Heven ➀.」

────いつだっただろうか。

 

 私とあの人は兄妹だった。周りからは仲睦まじい……というより、仲が良すぎてブラコンシスコン兄妹と呼ばれていた。そう呼ばれることを、私たちは別に不快に思わなかった、何とも思わなかった。むしろ本当のことだった。

 私は本当に兄のことを異性として愛していた。本当はいけないことだと自覚していたが、この気持ちは止まりそうになかった。

 

 

 

 

 だが、いつからだっただろう。私があの人を……兄さんを好きになったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………もう朝……」

 

 カーテンの隙間からのぞく陽光と小鳥のさえずりで目が覚めた。意識が覚醒すると同時に部屋を包む冷気を感じて、思わず布団を被ってしまう。もうすぐ冬が近づいて来る前触れか、段々朝が寒くなってきたものだ。

 何とか布団から起き上がると、自室のドアを開けていつもの場所へ向かう。もうこの家の家族と言っても過言ではない甥の部屋だ。甥の部屋に入ると、案の定娘のことりが甥のベッドに潜り込んでいた。全く一体誰に似たのだろうかと薄く笑みを浮かべると、いつものように2人に声を掛けた。

 

 

「悠くん・ことり、起きなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今日は何だが、いい朝だな」

「どうしたの、お兄ちゃん? 急にそんなこと言って」

「ああ、ちょっとな」

 

 南家を出て学校へ登校するいつもの通学路。朝起きたら布団にことりが潜り込んでいたのを雛乃に見つかって軽く説教され、いつも通り他愛ない話をしながら朝食を取った後に登校。一週間以上2人がいなかったせいか、この日常を懐かしく思ったのだ。当たり前のようでいつか終わってしまいそうなこの日常。何故かこの時間を噛みしめなくてはと感じたのは気のせいだろうか。

 

「そう言えば、あんまり聞けてなかったけど楽しかったか? 沖縄は」

「う~んと……初日は海に行けたから良かったけど、それからはずっと台風でどこにも行けなくて。でも、クマさんがやってたクイズ番組で少しは時間潰せたかな?」

「ああ……その話は、そっとしておいてくれ」

 

 やはりあのクイズ番組は現実だったのかと、今更ながら現実感が湧いてきた。ある場面を思い出したのか、ことりが笑顔から一変して険しい顔になったのは見なかったことにしておこう。

 

 

「ん? あれは……」

 

 

 話しているうちに音ノ木坂学院に着いたが、学校の校門前に誰か有名人がいるのか、少しの人だかりができていた。誰だろうと思い見てみると、そこには意外な人物が待っていた。

 

「あら、遅かったわね。鳴上さん」

「き、綺羅さん?」

 

 なんと、校門の待ち人はあのA-RISEのリーダー綺羅ツバサだった。ツバサならこんな人だかりができるのは納得だが、分からないのは目的だ。

 

「何で綺羅さんが、こんな朝から?」

「ああ、実はね……」

 

 ことりがそう尋ねると、ツバサは何故か悠の方をチラッと見て少し言いにくそうな表情になる。何だか2人の間に言いにくい何かがあったような雰囲気になり、周囲の野次馬も一層多くなる。

 すると、ツバサは意を決したように口を開いた。

 

 

「鳴上さん、少し()()()()()()()()()?」

 

 

「えっ?」

 

「「「へっ!?」」」

 

 

 

「「「「「ええええええええええええええええええええええええっ!?」」」」」

 

 

 

 朝から音ノ木坂学院の校門にて、大勢の叫び声が響き渡った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、その……ごめんなさい。あんな騒ぎになるなんて、思ってなくて」

「いや、いいさ。いつものことだし」

「あははは……」

 

 ところ変わって、放課後の秋葉原。結局あのツバサの衝撃発言で音ノ木坂学院の校門付近が大騒ぎになってしまい、ちょっとした騒動になってしまった。先生たちが生徒の鎮圧に駆り出されるほどに。

 とにかく、放課後に会おうということで朝は引いてもらったが、互いに顔を知られているし、2人で会うところを見られるのはまずいため、行きつけの店で待ち合わせることにさせてもらった。その店と言うのは勿論、ことりや悠がアルバイトでお世話になっているコペンハーゲンだ。

 

「おお、これはまるで密談って感じだね。何だかワクワクするよ」

 

 そして、この店の店主であるネコさんは心よく店の奥にある個室を貸切にしてくれた。いつもよく働いてもらってるからその礼だと言っているが、面白そうだからというのが本音なのが表情から丸わかりだった。

 

「いつもすみません、ネコさん」

「いいって、いつも言ってるだろ。まあ、ウチはメイド喫茶兼BARっていう名目で店やってるし、最近は3密を避けろって行政から言われてるから、肩身が狭いんだな」

「3密?」

「知らないのかい? 3密って言ったら、密談・密輸・密会のことだろ」

「ネコさん、それ違う3密です」

 

 正確には密閉・密集・密接だった気がする。おそらく最近見たコントの番組を見て勘違いしたのだろうが、その通り今このコペンハーゲンの個室は3密になっている。

 

「「「「……………………」」」

 

 ツバサの爆弾発言を受けて、もしやこいつも悠を狙っているのかと思ったのかコペンハーゲンまでついてきたμ‘sメンバーが奥から睨んでいるからだ。実際悠の隣にいる穂乃果も普段通りフレンドリーに振舞っているものの、若干表情が強張っている。

 

「それで綺羅さん、朝の付き合ってほしいってどういうことなんですか?」

「ええっとね、簡単に言うとちょっとお願いをしに来たの」

「お願い?」

 

 険悪な雰囲気を変えようと本題に入ると、ツバサは待ってましたと言わんばかりに饒舌に話し始めた。

 

「今度秋葉原で行われるハロウィンイベントでライブをすることになったの。ラブライブ本選に出る為の一環としてね」

「は、ハロウィンイベント!?」

 

 そのイベントなら知っている。今年はラブライブに合わせてスクールアイドルが本選出場のためにと言わんばかりに続々と参加表明をしている重要イベントだ。自分たちも宣伝のためにゲストとして出演する予定だ。

 だが、そのイベントとツバサのお願いに何が関係あるのだろうか。

 

「それでね、お願いっていうのはハロウィンイベントの前に鳴上さんに私たちの練習を一日見てほしいの」

「えっ!?」

「絆フェスからお願いしようかと思ってたんだけど、ずっと鳴上さんに言う機会がなかったから。というか、いつもいいタイミングで誰か邪魔してきたから」

「ああ……」

 

 何故か脳裏に“るんと来た☆”と決めポーズをする少女が浮かんだが、そっとしておこう。それはともかく、ツバサからの突然のお願いに穂乃果だけでなく傍で聞いていた他のメンバーも動揺した。

 

「え、ええっと……これは」

「どうしたらいいんですかね?」

「私は反対よ。敵に塩を送るマネなんてできるはずないでしょ!」

「にこちゃんの言う通りね。いくらA-RISEの綺羅さんでも悠さんを送るわけないじゃない」

 

 このように断固反対ときっぱり言うメンバーの反応に、ツバサはやっぱりと言うように表情が沈んでいた。おそらくこんな反応は想定していたようだが、何故こうなることが分かってた上でこんなお願いをしたのか分からない。

 

「何で、悠さんを?」

 

 表情で察したのか、穂乃果が間髪入れずツバサに質問する。穂乃果に質問されるとは思っていなかったのか、ツバサは少し驚きつつも訳を説明した。

 

「私たちは今まで順調に成功してラブライブで優勝することができたわ。でもね、それは偶々上手く行っただけでまだ私たちには足りないものがあるって感じてたの。思ったはいいけど、それが何なのかが分からなくてね。そう思い悩んでた時に出会ったのが、μ‘sの動画だった」

「えっ?」

「正確にはファーストライブと稲羽市のジュネスであったイベントのやつね」

 

 それは8月に陽介に頼まれて特別捜査隊とμ‘sで対バンライブをやった時のことだろう。あの時のライブの動画が存在していたことは驚きだが、それをツバサが見ていたことも驚きだった。

 

「その動画を見た時思ったの。もしかしたら、このμ’sのマネージャーである鳴上さんなら、私たちの足りないものを教えてくれるんじゃないかって」

 

「……………」

 

「正直……こんなお願いをするのはお門違いだって分かってるわ。絆フェスであなたたちに助けてもらった恩を返せてない身で何を言ってるのか……でも、私はあなたたちと対等にラブライブで戦いたいと思ってる。だから、お願いします」

 

 ツバサは改めてそう言うと、深々と頭を下げた。ツバサの行動に悠たちは仰天してしまった。あのスクールアイドル1のA-RISEの綺羅ツバサが自分たちに頭を下げるという状況がどれほどのものなのか。

 

 

「うん、いいよ」

 

 

「えっ?」

 

 ツバサの話を聞いた穂乃果は迷うことなく了解した。

 

「私たちも、ツバサさんたちとはフェアでやりたい。ツバサさんには絆フェスで一緒に事件解決したし、ダンスも見てもらったからお礼しないと。悠さんもいいよね?」

「ああ、問題ない」

 

 悠と穂乃果がそう言うのならと、中立の海未たちだけでなく反対だった真姫とにこも渋々ながら賛成した。

 

 

「あ、ありがとう!」

 

 

 こうして、ツバサのお願いはやっとの思いで成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああ……緊張したぁ~」

 

 あの後、予定調整の後に一旦解散になったが、ツバサは少し店の雰囲気を楽しみたいと1人で個室に残っていた。穂乃果たちが出て行ったことを確認すると、先ほどのピシッとした雰囲気が嘘のようにへなへなとテーブルに身を預けた。

 正直に言うと、にこと真姫から反対意見が出た時点で終わったと思ったが、肝心の穂乃果と悠が承諾してくれたから良かった。

 

「そんなに緊張したのか?」

「ええ、あんなに緊張したのは初めてのライブ以来……って、鳴上さん!? 何で」

「ネコさんの手伝いで残った。今日のこの時間の人手が少ないからって」

 

 ちなみにことりも残ってるぞと、店の方を見てみると、いつの間にかメイド服に着替えたことりが接客しているのが見えた。どうやら悠の言っていることは本当のようだ。だが、同じA-RISEのメンバー以外に普段見せない姿を見られてしまったのは恥ずかしい。

 

「こ、こんなところ……鳴上さんに見られるなんて……」

「良いんじゃないか? ここは個室だし、俺以外は見てないからな」

 

 落ち込むツバサを励ますように悠は厨房で淹れてきたコーヒーを手前に置いて、向かい側に座った。他の接客をしなくていいのかと疑問に思ったが、そんなことはどうでもいいやと少し落ち着きを取り戻したツバサは出されたコーヒーを口につけた。

 

「あっ、美味しい……ホッとする」

「自信作だ」

 

 余程口に合ったのか、顔をほころばせて悠の淹れたてコーヒーをじっくりと堪能するツバサ。そんな幸せそうな彼女の姿を見た悠はつられて笑みを浮かべた。

 

「あっ……私ったら、また……」

「気にするな。そうやって人前で気を張ってばかりだと疲れるぞ」

「ううう……」

 

 悠の言葉が身に染みたのか、ツバサは再び顔をテーブルに埋めてしまう。悠は絆フェスで関りが深かった穂乃果たちからツバサのことはある程度聞いていたが、ここまで表の自分にこだわっているとは思っていなかった。

 

「俺はツバサさんのことは何も知らないけど、ツバサさんはもっとそのままの姿を見せていった方が良いと思う」

「えっ?」

「最初は難しいから徐々に慣れていったらいい。そしたら、もっとツバサさんは輝けると俺は思うぞ」

 

 不意打ち同然に言われた悠の言葉はストンとツバサの心の中に入った。

 ああ、これが話に聞いていたこの人の言霊なのかと同時に直感する。この人の言葉がこれまでμ‘sの彼女たちの背中を押して、ここまで駆け上がってきたのだろう。やはり、自分の判断は正しかった。この人は自分たちにもきっと良い影響を与えてくれる。そう感じたツバサは嬉しくなって再び顔の表情を緩ませた。

 

「ふふふ、ありがとう鳴上くん。これからもよろしくね」

 

 

 

────ツバサとの絆が深まった気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~数日後~

 

 

「今日だったな……UTX学園に行くのは」

 

 

 ツバサと約束した日の放課後、携帯でツバサのUTX学園までの道順を確認していく。

 すると、画面が突然着信を知らせる画面に切り替わって着メロが鳴り響いた。着信主を見ると、真姫からだった。

 

「もしもし?」

『悠さん! 大変よ!!』

「ど、どうしたんだ真姫? そんなに慌てて」

 

 普段の落ち着きが嘘のような慌てた真姫の声に嫌な予感を感じる。そして、その予感は次の言葉で当たることになった。

 

 

『な、直斗さんが……直斗さんが重体で私の病院に運ばれたの!!』

 

 

 その言葉を聞いた途端、頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<西木野総合病院>

 

 直斗が重体と聞いて居ても経ってもいられなくなった悠はツバサに事情を説明した後、学校から直行で西木野総合病院に駆け込んだ。幸いエントランスに顔見知りの看護婦さんが待っていたので、すぐに通して貰えた。

 

「早紀さん、直斗は…」

「…命に別状はないから、安心していいわよ」

 

 そして、直斗の治療を担当してくれたのは他ならぬ早紀、真姫のお母さんだ。

 

「……ありがとうございます。早紀さん」

「良かったあ。良かったよぉ、直斗くん!」

「連絡を貰った時はどうしようと思いましたが、本当に良かったです……」

 

 同じように直斗の重体連絡を受けていた穂乃果たちもこの病室に通して貰っている。後でりせも見舞いに来るようだ。

 

「一体、直斗に何があったんですか?」

「症状からすると、首筋に強力な薬を打たれたことで意識不明になったと考えられるわ。更に詳しい検査が必要だけど、今のこの子には安静が必要よ」

 

 早紀は直斗の症状を伝えると、これから診察とマスコミへの対応があるからと病室を出て行った。窓から玄関を見ると、案の定どこかで情報を聞きつけたらしいマスコミでごった返していた。

 探偵王子で有名な直斗が重体で入院したのだからマスコミが見逃すはずない。分かっていたが、こうも見ると怪我した大事な後輩が見世物にされているようで多少吐き気がした。

 

「どうしたんだろ、直斗くん」

「意識不明の重体になるほどって余程の大事件を追ってたんじゃ」

「…………」

 

 未だに目の覚めない直斗を、皆心配そうに見つめる。一体何があったのだろう。

 すると、直斗の手帳が傍にある台に置かれているのが見えた。何かメモが挟んであるようだったので見てみると、そこには直斗の直筆でこんなことが書かれてあった。

 

 

"音ノ木坂の神隠し・テレビの世界・当時の記者"

 

 

「これは……」

「どうやら直斗くんは私たちが追ってる事件のことを調べてる最中に襲われた可能性が高いわね」

 

 一緒にメモの内容を見た絵里の言葉で病室に緊張が走った。このメモだけで断定するのは良くないが、もしかすると直斗は自分たちが追っている犯人にやられたのかもしれない。

 だが、そんな緊張が走る中、穂乃果が何を思ったのか、こんなことを言いだした。

 

 

「そういえば、音ノ木坂の神隠しって何だろ?」

 

 

「「「「えっ?」」」」

 

 全く脈録もなく今更な疑問を口にした穂乃果に、その場にいたメンバー全員が思わず穂乃果の方に視線を集中させた。

 

「いやー……そもそも私たちって、悠さんに助けられて事件追ってる訳だけど、その事件の元になってる“音ノ木坂の神隠し”ってどんな内容だったかなって思って」

「そ、そう言えば……」

「今までテレビに入った皆を助けるのに精一杯で、肝心の噂の内容を全然覚えてなかったような……」

 

 自分たちが追っているテレビの世界に関係している噂“音ノ木坂の神隠し”。午前0時頃に何も写ってないテレビの画面を見つめると、次の日に行方が分からなくなるというマヨナカテレビに似た内容。言われてみれば、マヨナカテレビに似ているという認識から、その噂の真偽や詳しい内容が曖昧だった気がする。

 現に内容を思い出そうとしても、ぼんやりとしたものしか思い浮かばない。花陽の言う通り、今まで人命救助を優先した弊害だろう。

 

「こんなことはあんまり言いたくないんだけど、その噂には私が関係しているかもしれないわ」

 

 すると、皆と違って重苦しそうな表情をしているにこが重々し気に口を開いた。

 

「えっ? にこちゃん」

「アンタたちも知ってるでしょ。私が一年生の時にスクールアイドルをやって、その時にいたメンバーを追い込んだこと」

「それは……」

 

 その事件は知っている。にこが高すぎた理想を押し付けてしまったが故に、解散してしまった。更に追い打ちを掛けるように、そのメンバーが数日行方不明になって転校してしまったとも。

 

「思えば音ノ木坂の神隠しって噂が広まったのって2年前だったし……もしかしたら、私のせいで……」

「とりあえず、ここで分からないことを議論しても仕方ない。このことは知ってそうな奴に話を聞こう」

 

 雰囲気が暗くなってきたのを察してか、これ以上話が脱線するのを防ぐため悠は一旦話の腰を折った。

 

「知ってそうな人?」

「誰それ?」

「それは明日、俺から聞いてみるよ。直斗のことは心配だけど、ひとまず今はイベントのことに集中しよう」

 

 見れば、もう外は夕暮れで暗くなる時間帯だ。時間的に見ればすでに下校時間なので、とりあえず今日のところは解散にした。今は直斗が少しでも早く元気になることを祈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

「ただいま~」

「あら、お帰りなさい。お夕飯は出来てるわよ」

 

 南家に帰ると、早めに帰っていた雛乃が出迎えてくれた。エプロンをしているところから、夕飯を作ってくれたのだろう。リビングに入ると、すぐさま空腹を誘う美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐった。

 鞄を部屋に置いて手を洗って食卓に着くと、南家の夕飯の時間が始まった。雛乃の食事はいつも通り美味しく、どこかホッとした。

 

「そう言えば、直斗くんは大丈夫だったの? 重体で西木野さんのところに運ばれたって聞いたわよ」

「早紀さんは適正処置はしたから大丈夫だと。でも、意識が戻るのに数日かかるそうです」

「そう……命に別状がないようで助かったわ」

 

 やはり雛乃も直斗のことを聞いていたのか、心配そうな様子だった。直斗と言えば……

 

「そう言えば叔母さん」

「どうしたの、悠くん?」

「叔母さんは音ノ木坂の神隠しって知ってますか?」

 

 刹那、ニコニコとしていた表情をしていた雛乃が冷たい雰囲気を纏った。

 

「悠くん、どこでそんなことを聞いてきたの?」

「い、いや……今日学校の友達から聞いたんですけど、内容が曖昧で。それで、少し興味が湧いたというか……」

 

 必死に言い繕うが、こんな冷たい表情をした雛乃を見るのは始めてで動揺してしまった。ことりも優しい母の初めて見る表情を見たのか、動揺して言葉が上手く出なかった。

 

「悠くん、悪いけどそれについては話せないの。そんなことより悠くんは自分のことを考えなさい」

「は、はい……分かりました」

 

 雛乃らしくない冷たい圧に押されて生返事をした悠はその後、何も追及せず食事を再開した。美味しく平らげた今日の夕飯だが、その味は覚えていなかった。

 代わりに覚えていたのはあの優しい雛乃からは考えられない冷たい声と表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

<音ノ木坂学院 新聞部>

 

 放課後、音ノ木坂の神隠しについて詳しく知るために訪れたのは新聞部だった。昨夜の雛乃の変わりようは気になるが、今は自分たちが出来る範囲での情報収集に励むことにしよう。

 ちなみに、穂乃果たちはツバサたちにハロウィンイベントで負けぬよう、インパクトのあるキャッチフレーズを考えるからと部室に籠っているので、今回は1人だ。そして、

 

「音ノ木坂の神隠し?」

「ああ。佐々木はオカルト系の記事を書いてたんだろ? 過去のことをほじくるようで悪いけど、音ノ木坂の神隠しについて、何か聞いたことないか?」

 

 悠の心当たりがある人物というのは、かつての敵で今は親交のある佐々木竜次だった。希の話によれば、佐々木は以前音ノ木坂の七不思議と言ったオカルト系の記事を書いていた。もしかしたら、佐々木は音ノ木坂の神隠しについて何か知っているのかもしれない。

 だが、佐々木は目を伏せて申し訳なさそうに返答した。

 

「いや、悪いけど僕はあまり知らない。あの人なら知ってるけど」

「あの人?」

「はいはーい。それは私のことかな?」

 

 佐々木の言葉に反応して奥のデスクから作業していたらしい女子生徒が顔を出してきた。

 

「君は確か、天野さん…だったか?」

「あら、もしかして覚えてくれてる? さっすが鳴上くん! そう、知っての通り私はこの新聞部部長の【天野舞耶】だよ。レッツポジティブシンキング!」

「あははは……」

 

 実は名前は希から聞いていたが、顔はすっかり忘れていたことなんて言えない。

 

「で、音ノ木坂の神隠しについて聞きたいんだって。何でまた?」

「い、いや……ちょっと気になって」

「ふ~ん。まあいいけど」

 

 話せない事情があると察してくれたのか、天野はそれ以上追及することはなく、近くのテーブルの椅子に悠を座らせると、早速本題に入ってくれた。

 

「音ノ木坂の神隠しっていうのは実は名前だけが有名で実際の内容は曖昧なんだよ」

「えっ?」

「例えば、君が聞いた"午前0時頃に何も写ってないテレビの画面を見つめると、次の日に行方が分からなくなる"とか、他には“中庭で願掛けすると運命の人に連れて行かれる”とか“学校の屋上で悪さすると呪われて連れて行かれる”とか、そんな感じ。要するに情報が錯綜してて、正確な内容が把握できないってこと。でも、共通してる内容と言ったら、その発端は2年前に転校しちゃった生徒たちが転校前に行方不明になったってことかな?」

 

 やはり始まりはそこになるのかと悠は心の中でため息をつく。自分もあの後出来る限り調べたが、内容は天野の言う通りバラバラ。共通しているのは発端になったのは2年前に転校した女子生徒たちだろうとのことだった。

 

「でもね、私が調べたところ、ちょっと気になることがあったのよ」

「気になること?」

 

 また振り出しだと思った時、天野が急に声を低くしてこんなことを言ってきた。

 

「これはあんまり他には言えないんだけど、行方不明になった子が転校しちゃった後に、とある週刊誌の記者がこの学校について変な記事を書いたんだって。実はあの学校がその子たちを強制的に退学させたとか何とかって」

「えっ?」

「生憎その記事は絶版になってて手に入らなかったんだけど、その記事のせいで学校に対する誹謗中傷が多く寄せられてたって。当然他のマスコミも食いついて、その記者も調子に乗ったか知らないけど、あることないことまた記事にしていたずらに噂を広げたらしいの」

 

 全くモラルの欠片もない話よねと天野は吐き捨てたが、それは悠も同意だった。今そんなことをやったらその週刊誌は終わるだろうが、2年前にもそんなモラルの無い記者がいたのだなと思う。

 

「当然そんな事実はないし、いくらこっちから抗議してもやめなかったから、ついに理事長自ら出版社に乗り込んだんだって」

「叔母さんが……?」

 

 ここで叔母の雛乃の名前が出たことに少し身構えてしまったが、悠は黙って話の続きに耳を傾ける。

 

「そしたらね、その記事を書いた記者がニヤニヤしながら本当は退学させたんだろとか、真実を言えとか圧をかけてきたんだって。理事長はああいう人だからそんなことはないって何度も訴えたらしいの。そしたらね、しびれを切らした記者がこう言ったらしいわよ」

「どういうことを?」

「それは……」

 

 

 

“自分は桐条と繋がりがある。やろうと思えば、お前の学校を潰すことだってできるんだぞ。分かったら、さっさと本当のことを吐け”

 

 

 

 

「桐条?」

「要は自分の記事が売れ出して話題になったから、邪魔されたくなくて脅したんでしょ。実際その出版社は桐条とも何も関係なかったし、当時のその週刊誌の売り上げは音ノ木坂の記事でうなぎ登りだったらしいわよ。全く、いつかの誰かを思い出すわね」

 

 最近の自分の失敗を思い出したのか、近くで作業していた佐々木がゴホゴホと咳き込んでいた。一度対峙したとはいえ、黒歴史を次々と思い出させているようで本当に申し訳なくなってきた

 

「そしてここからが重要なんだけど、その理事長を脅した記者がその数日後に行方不明になったの」

「えっ?」

「転校した子たちみたいに本当に行方不明になって今も発見されてないらしいの。まるで、神隠しに遭ったみたいに

 

 背筋に寒気がした。まさかと思っていたが、本当にそんなことがあったなんて信じられなかった。

 

 

「それから出版社も何故か倒産してね。最初は桐条が裏で記者を消したんじゃないかって言われてたんだけど、そんな話はいつの間にか消えて、代わりに音ノ木坂を貶めようとしたら祟られるって噂が広まったの。"音ノ木坂学院に関わると神隠しに遭う"ってね。それからこの学校は気味悪がられて、入校希望者も減っちゃったってわけ。さっき言った数多の内容もこのことで尾ひれがたくさんついたからなんでしょうね」

 

 

 これが、音ノ木坂の神隠しの元になった話。事の顛末を聞いた悠は何とも言えなくなった。2年前、まだ稲羽に行く前の音ノ木坂にいた自分は転勤が多い家庭環境から他人に関心が一切なかった。

 

「まあ、今は君たちのお陰で持ち直したけどね。そう言えば鳴上くんは一年の時はここにいたんだっけ?」

「俺はそんなこと全く知らなかった。あの時の俺は、他人に関心がなかったから」

「そう……」

 

 とにかくこの音ノ木坂の神隠しに関して、雛乃が何かしら知っていることは確かだろう。もしかしたら美鶴も何か知ってるかもしれない。悠は情報をくれた天野と佐々木に今度お礼をすると伝えて、新聞部の部室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり、叔母さんは何か知ってる。それで昨日、あんなことを言ってたのか……)

 

 

 まずは雛乃に話を聞いてみよう。だが、昨夜の様子から雛乃が話してくれるとは思えない。正直あの雛乃の冷たい表情と声色を思い出すと、思わず手が震えてしまうが状況が状況だ。例え怪しまれようと少しでも情報を聞き出そうと悠は決心する。

 そして、理事長室前に着くと少しぎこちないノックをして理事長室のドアを開けた。だが、

 

 

「えっ……?」

 

「あっ……」

 

 

 

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 

 

 ドアを開けた先には異様な光景が広がっていた。信じがたいが、部室で新たなキャッチフレーズを考えている筈の穂乃果たちが、何故かメタル系バンドのような派手な格好をしていたのだ。

 そして、それを見ていたであろう雛乃は引きつった笑みを浮かべ、その傍らではラビリスが頭痛を抑えるように頭を抱えていた。悠がこのタイミングでやってくると思わなかったであろう彼女たちはわなわなと震えていた。

 

「ええっと……これは?」

「悠くん…この子たちがね、これで次のイベントに出るって考えてるんだけど、どう思う?」

「う、ウチは止めたんよ。でも……」

 

 そして、彼女たちの奥にいる雛乃はと言うと、動揺して固まっている甥っ子に尋ねてくる。ラビリスも慌てて訂正するが、その問いに悠は何も答えることなく静かにドアを閉めた。

 

 

「そっとしておこう……」

 

 

 

「そっとしないでえええっ!! 悠さあああああああんっ!!」

 

 

 

「これはふざけてる訳じゃないのよおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

「弁明させてくださあああああああああああいっ!!」

 

 

 

 後日、件のことは会議が長引いたことによる暴走だという説明を受けて、とりあえず納得した。

 

 

 

To be continuded.


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。