PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

毎度投稿が遅くなってになってしまい申し訳ございません。気づけば前回の更新から一か月ほど経っていて、ダンまちⅢは8話…10巻終盤までいっていた。次こそは11巻中盤までに仕上げたいです。アステリオスさん、マジで強かった。

一応ここで今更ながらタイトルのことで解説をいれますが、今章に入ってから各ヒロインとのデート回やメイン回のタイトルには【Love&Comedy】と入れて、その後にそのヒロインのイメージに合うと作者が思った楽曲名を英語で勝手に入れさせてもらっています。
りせはお馴染みの【True Story】、海未には歌詞と本編の内容から”彼女お借りします”の【センチメートル】としました。今回はにこ回なので、作者がこれなら合うと考えたのは”妹さえいればいい”の【明日の君さえいればいい】です。少し違うんじゃないかと思われるかもしれませんが、今後ともヒロインのタイトルはこういう風にしていきます。

改めて、感想を書いて下さった方・評価をつけて下さった方・誤字脱字報告をして下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

これからも拙いながら完結まで書き切りたいと思っていますので、よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


#103「Love & Comedy ~All I have to do is you tomorrow~.」

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 

 

…………美しいピアノのメロディーが聞こえてくる。

 

 

 

 

 聞き慣れたそのメロディーで目を覚ますと、床も天井も全てが群青色に染め上げられた空間にいた。もう昨年から出入りしているこの落ち着く感じは……

 

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ。本日、我が主と妹は留守にしております」

 

 

 目の前には美しいプラチナ髪の妙齢の女性が座っている。名は【マーガレット】。昨年の稲羽市でのテレビの世界が関係した連続怪奇殺人事件から世話になっている自分の大事な人だ。

 

「先日はお疲れ様。中々楽しいデートだったようね。途中に他の子の横槍が入ったり、あちらの御父上の予期せぬ会合があったりしたとはいえ、流石は貴方。あの海未という子はとても満足してたわ。見ていた私も、思わず心躍ってしまったわ。私の妹エリザベスも以前デートしてもらったというし、今度は私が貴方をデートにお誘いしようかしら?」

 

 愉快そうに言うマーガレットだが、とんでもない。マーガレットとのデートはさぞかし楽しそうだが、色々と問題が発生しそうなのでご遠慮願いたい。

 

「あら、それは残念」

 

 マーガレットは残念そうに肩を竦めている。相変わらず本気なのか冗談なのか、分からない人だ。もし仮に自分とマーガレットとデートしようものなら、ことりたちが黙っているはずないことは知っているだろうに。

 それに、一体いつどこから自分たちのデートを見ていたのか聞き出したいところだが、この女性は絶対に教えてくれはしないだろう。

 

「いつそれはさておき、貴方にもう一波乱、あの子たちの誰かと秘密の逢引きが発生するとの結果がタロットから出たわ。貴方のことだから上手くやるんでしょうけど、気を付けないと後々が大変よ。フフフフフ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月某日のことである。

 

 

 

────鳴上悠が学校から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<音ノ木坂学院 理事長室>

 

 

「……悠くんはまだ来ないの?」

 

 

 その時、理事長室は異様な雰囲気に包まれていた。

 この雰囲気を作り出しているのはデスクでニコニコと笑みを浮かべながら頬杖をついている雛乃だ。ニコニコしているが、その瞳は笑っていない。というよりか、何かに絶望しているようにどんよりとしていた。

 

「あ、あの~理事長、この書類に印鑑を……それと鳴上くんから連絡が」

 

「ねえ……私はどこで間違ったの。何で、何で悠くんが学校をサボったの……私のせい?」

 

「あのですね、理事長。鳴上くんは」

 

「どうしましょう……このまま悠くんが不良になっちゃったら……」

 

「………………」

 

 用事でこの部屋を悪いタイミングで訪れてしまった先生、【山田博子】はあまりの威圧に硬直してしまった。音ノ木坂学院にやってきて数年、当初尊敬していた理事長が甥っ子のことになるとここまでになるとは思っても見なかった。

 

「はあ……理事長がそうやって過干渉だから、鳴上くんもうざったくなって反抗期に入ったのでは?」

 

「はうっ!?」

 

 刹那、雷に打たれたような痛みが雛乃を襲った。雛乃は吐血(したような動作を)してデスクにうつ伏してしまった。

 

「そ、そんな……悠くんが……私のせいで……」

 

「理事長おおっ!?」

 

 今度こそ、力尽きたように雛乃はそのまま機能停止してしまった。突然の事態に驚きつつも何とか意識をこちら側へ戻そうとする。この時、山田先生は思った。

 

(この人、めんどくさ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方……

 

「こ、ことりちゃん! しっかりして!」

 

「そうですよ。ことりは何も悪くありませんって」

 

「悠のことだし、どうせ登校中にお年寄りとか迷子の子の手助けをしたりしてるんじゃない?」

 

 悠が学校に来ていないことに落ち込みを隠せない者がもう一人。雛乃の娘ことりである。昨日から愛しい従兄が帰ってこないこともあって、もしや自分が原因ではないかと母親同様に落ち込んでいた。

 

「だ、だって! もう昨日から家に帰ってきてないんだよ! 連絡つけようにも携帯が部屋に置きっぱなしだったし。もしかしたら、ここ数日ことりがもうすぐ修学旅行だからって無理やり一緒に寝ようとしたことが原因じゃ……」

 

「「「………………」」」

 

 しょんぼりとすることりだが、周囲はげんなりしていた。確かに昨日から学校に来ていない悠のことも心配だが、聞けば聞くほどことりや雛乃が原因なのではと思えてしまう。だが、極度のブラコンで家族愛が深い2人に原因はお前だと言おうものなら藪蛇になりそうで怖い。

 

「というより、ことりちゃんと理事長に問題があるんやない?」

 

「えっ」

 

 各々がそう思う中、先陣を切ると言わんばかりに希がチクリと小言を挟んできた。

 

「2人が家で悠くんを束縛するから、窮屈に感じて家出したかもしれんしな。そうだったら悠くんがかわいそうやな。せっかく帰れる場所ができたんに」

 

「(グサっ)」

 

「もしかしたら、今は稲羽の堂島さんのところにおるかもしれんよ。ことりちゃんより菜々子ちゃんの方が癒されるからって」

 

「ぐはっ……!」

 

 希の言葉のナイフは的確にことりの心をえぐったのか、ことりは吐血(したような動作を)してその場に倒れてしまった。

 

「ことりちゃああああああん!?」

 

「希ちゃん!? ことりちゃんの心えぐりすぎだよ!!」

 

「あらら」

 

「う……う……そう……なんだ……全部……ことりの……せ……い……」

 

「ことり! 正気に戻って下さい!」

 

「希、アンタも手伝いなさいよ!」

 

 その後の時間は灰になりそうなほど憔悴してしまったことりを慰めるのに使われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう……分かったわ。でもアンタね」

 

「んっ?」

 

 μ‘sメンバーが屋上でわちゃわちゃしている最中、にこは隅っこでこそこそしながら電話していた。その様子が少し気になった真姫はにこが電話を切ったタイミングで尋ねてみた。

 

「にこちゃん、どうしたの?」

 

「へあっ!? な、何のことかしら? 何でもないわよ」

 

 明らかにおかしい。ただどうしたのか尋ねただけなのにあからさまに動揺しているし、後ろめたいことがあるのか、携帯を後ろ手に隠している。

 

「まあそれはいいとして。今日の練習なんだけど、にこは」

 

「あっ、今日もにこは練習に出られないから。じゃあね!」

 

 絵里の言葉を遮ってそうまくし立てたと思うと、にこは逃げるように屋上から出て行ってしまった。このにこの行動に一同は不審を募らせる。

 実はここ最近になって、にこは連続で練習を休んでいた。ラブライブの予選を無事通過し、本選に向けてこれから一層練習しなくてはいけないこの時期に、誰よりも熱意を持って取り組んでいたはずのにこが練習を理由もなくサボるなんて不自然過ぎる。

 

「これは、何かあるのかな?」

 

「そうやない?」

 

 これは十分に怪しい。今日こそはにこの原因を突き止めてやると、μ‘sメンバーの心は合致した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、皆が探している悠はと言うと……

 

「はあ……寝すぎた。とりあえずにこの家を掃除してから行くか」

 

 何を隠そう、矢澤家にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ことの始まりは一日前

 

「寝坊してしまった……」

 

 音ノ木坂学院3年C組、鳴上悠。この日、この男は学校を大幅に遅刻していた。

 あの海未との登山デート(もはやデートと呼べるものではなかったが)から数日、テントでの一件を聞いた雛乃の説教が連日続いた影響で勉強によって蓄積されていた疲労が更に蓄積されて、寝坊してしまったのだ。叩いて起こそうとしたことりの気配や大声にも気づかないほどに。

 

「この時間だと、中途半端だしな」

 

 時計を見て、もう手遅れだと悟ったのか慌てることなく淡々と制服に着替えてテーブルに置かれていた朝食を手に付ける悠。

 時刻はもう1時間を過ぎた辺りで今から学校に行くとなると、授業途中に教室に入ることになって気まずい。昨日の説教の恐怖から、また雛乃に怒られてしまうのではないかと、身体が震えるほどトラウマになりかけていた。この歳になって怒られるのが怖いというのは如何なものかと思うが、家庭環境が家庭環境だったので何も言うまい。

 まあ、そう思いとどまってもしょうがないと思ったのか、重い腰を上げて学校を行こうと思ったその時だった。

 

「んっ? 携帯が鳴ってる。この番号は確か……」

 

 テーブルに置いていた携帯の着信音が鳴り響く。番号が見覚えのあるものだったので試しに出てみることにした。

 

「もしもし?」

 

『もしもし、悠兄様ですか?』

 

「えっ? もしかして、こころか?」

 

『はい! お久しぶりです』

 

 スピーカーから聞こえてきたのはにこの妹であるこころの声だった。そう言えば、にこの事件から久しく会っていなかった。元気にしているのかと尋ねようとすると、こころは申し訳なさそうな声が耳に届いた。

 

『あ、あの……悠兄様、頼みたいことがあるのですが』

 

「どうしたんだ?」

 

『実は、妹のここあと弟の虎太郎が……熱を出して』

 

「えっ?」

 

 今朝2人が発熱して母親も今日は出張なので、にこは最初学校を休んで看病しようと思ったが、放課後には今後の進路に関わる補講が待っていた。こころも自分もいない状況で2人を家に残すわけにはいかず、どうしたものかと悩みまくって、ダメ元で悠に電話してみたというのが経緯らしい。

 

 

 で、

 

 

「ゆ、悠兄様……いいのですか?」

 

「良いんだよ。ここあと虎太郎がピンチなら、すぐに駆け付けるさ」

 

 悠は学校のことなど放り出してこころの頼みを聞くことを選択した。まだ年端のいかないこころが1人で看病は少し心配なのもあるが、こころも一人では心細いだろうと思って、大急ぎで矢澤家にやってきた。

 

「悠兄様、ありがとうございます。でも、学校の方は?」

 

「大丈夫だ。先生に事情を電話して叔母さんにも伝えてもらうから。あっ、携帯忘れた」

 

「…………」

 

 一応後で学校には矢澤家の固定電話で連絡しておいたので問題ないだろう。だが、電話に出たのは件の山田先生で雛乃ではなかったので、行き違いで自分の叔母に伝わっておらず、ああなっていることはまだ知る由もない。

 とりあえず、寝室で寝込んでいるここあと虎太郎の様子を見てみることにしよう。

 

「ここあ・虎太郎、大丈夫か?」

 

「うん……だいじょうぶ……あれ~、ゆうにいだ。どうしてここに?」

 

「ゆうにい……」

 

「ここあと虎太郎が心配になってきたんだ」

 

「そうなんだ……ゆうにい、ありがとう」

 

「ありがとう……」

 

 布団でとろんとした表情で受け答えする2人に悠は微笑んで頭を撫でる。その後、熱さまシートや特製のおかゆなどで2人を看病しながらテキパキと寝ている2人を起こさないように矢澤家の家事を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠の尽力によって、虎太郎とここあは順調に体調が良好になっていった。2人の顔色からそれを確信して笑みを浮かべていると、矢澤家のドアが開いた。

 

「ただいま~。帰ったわよ」

 

「お帰り、にこ。疲れてるのか?」

 

「そうなのよ、悠。今日はスーパーの特売だったから、おばちゃんたちとバトルになっちゃって……えっ、悠?」

 

 どうやら姉のにこが帰ってきたようである。ひとまず出迎えにいこうと玄関に出ると、悠の姿を確認したにこはその場にフリーズした。

 

「えっ…………なっ! ななななななななな、何で悠がここにいるのよ!?」

 

「あ、ああ……そう言えば言ってなかったな」

 

 自宅に帰るとそこに悠がいるとは思っていなかったのか、混乱しているにこに状況を伝えるために説明を始めた。

 

 

 

 ~30分後~

 

 

 

「つまり、俺がここにいても問題ない」

 

「分かった! もう分かったからストップストップ!」

 

 状況をきめ細かく説明しようとした悠だったが、大体の事情を把握したにこはこれ以上は不要と言わんばかりにストップを掛ける。要するに、自分が知らない間にこころが悠に看病を頼んだということで、自分が帰宅するまで懸命に看病したり家事をしてくれたりと尽くしてくれたことだ。

 

「学校に来てないと思ったら、まさかこころがアンタを呼んでたなんてね。アンタ、ちゃんとことりや理事長に連絡しておきなさいよ」

 

「あっ、忘れてた。そもそも携帯持ってなかったし」

 

「ったく」

 

「それはともかく、最近にこが練習を休んでたのも、これが原因か?」

 

「うぐっ……」

 

 ここ最近にこはμ‘sの練習を立て続けに休んでいた。大抵の事情はこころから聞いていたが、本人もあっさりと練習を休んでいた理由を見破られて観念したのか、にこは白状した。

 数日前から親が長期出張で2週間ほど家にいないので、自分が兄妹の面倒を見なくてはならなくなったということ。それが理由でμ‘sの練習を休まざるをえなかったこと。

 

「なるほど。でも、そんなこと言ってくれれば絵里たちも分かってくれるのに」

 

「言えるわけないでしょ。誰もがアンタみたいに素直って訳じゃないのよ」

 

「そうなのか?」

 

「そうなのっ!」

 

 いまいち釈然としないが、これ以上追及するなと言わんばかりに睨みつけるにこの気迫にこれ以上追及することは止めた。

 

「じゃあ、俺は帰るよ。叔母さんも心配すると思うし」

 

 何はともあれ、ここあと虎太郎も体調が良くなってきたし明日は問題なく幼稚園に行けるだろう。にこの秘密も一応聞けたところなので、今日はここで帰宅しなくては。

 

「悠、大丈夫なの? 今日はこころたちが世話になったんだし、せっかくだから今日は泊まっていきなさいよ」

 

「いや、流石にそれは」

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアア

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 最早お決まりと言っても過言でもないほどの雨が降り注いでいた。

 

「俺って、雨男なのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうやってなし崩しに矢澤家に泊まることになった悠。もちろん、着替えなど持ってきていないが、矢澤家に置いてあった男物のジャージを貸してもらった。

 

「あら、ちょうどいいじゃない」

 

「そうだな。なあこれって」

 

「……お父さんのよ。偶々押し入れの中にあったから」

 

 その話は触れないでおこう。どこかこれ以上広げてはいけない話題のような気がする。

 

「ゆうにい! このえほんよんで~!」

 

「ゆうにい……あそぼ」

 

「こらっ! アンタたちは病み上がりなんだから、少しは遠慮しなさい!」

 

「「ええ~~~」」

 

「ええ~じゃない!」

 

「あははは……」

 

 体調が良くなったここあと虎太郎は悠が家に泊まることになって嬉しいのか、遊ぼう遊ぼうとせがんできた。熱が下がったばかりなので、あまり無理はしてはいけない。そう気遣いながら、結局悠はここあと虎太郎の遊び相手になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、バックダンサーってどういうことだ?」

 

「えっ?」

 

 3人が寝静まってちょうどリビングで今日の勉強を進ませていたところ、せっかくだから今日矢澤家の家事を進めていた中で見つけた疑問について聞いてみることにした。

 

「いや、実はここあがこれで遊んでいるのを見つけて」

 

「ギクッ」

 

 そう言って悠がそっと取り出したのは手作りのおもちゃだった。おそらくにこが妹弟たちのために作ったであろうモグラたたきを模したおもちゃだが、このもぐらの絵柄がにこを除くμ‘sメンバーの似顔絵で、体調が良くなったここあと虎太郎が“バックダンサー”と言いながら遊んでいたのだ。

 最初見た時は仰天したが、楽しそうに遊んでいる2人を見ていると聞くに聞けなかった。

 

「で、ここあと虎太郎が遊んでいる部屋を見てみたら、こんなポスターが」

 

 そうやって取り出したのはμ‘sのポスターだった。だが、そのポスターは何故かにこだけが大々的に写っていて、他のメンバーはまるでバックダンサーであるかのように小さく映っているだけだった。

 

「………………(ガクガク)」

 

 次々と突きつけられる証拠に、流石のにこも冷や汗が止まらなかった。今まで隠し通してきた秘密が一瞬でバレてしまった。これから自分は何を要求されるのだろうか。まさか、薄い本のように理不尽な要求でもされるのだろうか。何とは言わないが薄い本のように。

 

「一体……何が望みなのよ……」

 

「いや、別に」

 

「えっ?」

 

「強いて言うなら、このおもちゃをもう一個作ってくれ。イラストは全部ことりで」

 

「限定的すぎるでしょうが!!」

 

 さっきまでシリアスだったのが一気にぶち壊しになった。そう言えば、この男はそんなことなど考えない男だった。何だか薄い本のようになど考えていた自分が馬鹿らしくなって溜息をついたにこは今度こそ観念して全て話した。

 

 

 

 

 にこが高校に入ってスクールアイドル研究同好会を結成した際、こころたちに自慢げにスクールアイドルになったと宣言したことが始まりだった。

 結成から少しして価値観の違いによってにこのアイドルグループは解散。このことをどう妹たちに伝えたら良いのか悩んだが、自分の姉がスクールアイドルだとキラキラと輝いた目をした妹たちの期待を裏切ることができなかった。

 それで、自分は普通のスクールアイドルとは違う宇宙一のスーパーアイドル。今はμ‘sというグループで活動しているが、センターは自分であると嘘をついてしまい、現在進行形でその設定を続けているとのことだった。

 

「…………」

 

「どう、これが全てよ。軽蔑した?」

 

 全てを語り終えたにこは半ば諦めたように両手を上げた。こんなくだらない理由で妹たちを騙し続けたのだ。それは軽蔑もするだろうと思ったが、悠は違った。

 

「にこ、俺は別に責めてるわけじゃないぞ」

 

「……えっ? どういうことよ」

 

「可愛い家族に見栄を張りたいって気持ちは、俺にも分かるってことだ」

 

 自分だって菜々子やことりの前では見栄を張りたい時だってある。そのせいで昨年のバレンタインで腹を壊したし、大恥だってかいたのだが……。それはともかく

 

「でも、嘘はダメだ。いつか、真実を知った時のこころたちとのダメージは大きいと思うぞ」

 

「……だけど」

 

「分かってる。でも、μ‘sは皆がセンターだ。そこに優劣なんてない。まあ、優劣がないっていうのは……」

 

「悠、アンタここで来世に行きたいの?」

 

「すみません……」

 

 思わず身体のある一部分に注目してしまって、にこの逆鱗に触れてしまった。それはともかく、悠の言わんとしていることは伝わった。

 にこはにこらしくあっていい。例え偽っていたとしても、こころたちには自分たちの姉は凄いアイドルであるということは変わりない。だから、そんなに見栄を張る必要はないと。

 

「ありがとう、悠。アンタのお陰で少し肩の荷が下りたわ。いつか、ちゃんとこころたちに言うわね」

 

「それがいい」

 

 

 

 

 暫しにこと談笑している間、時は進んでそろそろ悠にも睡魔がやってきた。寝る場所が足りなくなるからと最初はソファで寝ようとしたが、それは良くないと食い下がったにこの奮闘によってこころたちと川の時で寝る事となった。

 

(い、勢いで一緒に寝ることになったはいいけど……)

 

 だが、にこは内心バクバクしていた。妹弟同伴とはいえ、想い人と流れで一緒に寝ることになったのだ。こんなことをしてドキドキしない方がおかしいだろう。

 しかし、にこのドギマギしていることなど露知らず、悠は既に深い眠りへと誘われていった。疲れていたとはいえ、仮にも年頃の女子と寝ることになって緊張していないのかと少しイラっと来たが、まあこの男ならしょうがないと諦めてしまう。

 

「悠、改めて今日はありがとう」

 

 ふと何を思い立ったのか、にこはそっと悠の耳元に近づいてそう囁いた。思えば今年の春に出会ってからこの男に支えてもらってばかりいる。2年前の出来事に向き合うキッカケを作ってくれた、自分がスクールアイドルとして歩みことを支えてくれた。今回だって、自分のことなど放り出して妹と弟を助けてくれた。

 この男には感謝してもしきれない。否、そんなことは関係ない。

 

 

「やっぱり、私はアンタのこと……好きよ」

 

 

 この気持ちに嘘はない、勘違いでもない。自分が初めて異性に抱いた本当の気持ちだ。すっかり寝入って聞いていないだろうが、思わずそう言いたくなってしまった。改めて、自分がした行動に羞恥を感じたにこはそのままサッと布団に潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ~翌日~

 

 

 

「またよく眠ってしまった……」

 

 

 悠は一通りの家事をこなしたところ、一気に睡魔が襲ってきて眠れなかった。

 気づけば、時刻はまた昼前となっていた。そう言えば、今日は何かの行事で午前中だけだった気がする。

 

「んっ……にこの家の電話が鳴ってるな」

 

 誰からだろうと思い、勝手ながら鳴り続ける矢澤家の固定電話の受話器を取る。

 

「もしもし」

 

『もしもし悠! アンタ、まさかこの時間まで寝てたの!?』

 

「あ、ああ……何か疲れてて。それに、にこの家の布団が心地よくて」

 

『アンタねぇ!!』

 

 とりあえず、一日だけでもお世話になったのだし、どうせなら少し掃除してからいくかと悠は掃除機を拝借してこころ達がまた風邪を引かないようにと入念に掃除を始めた。

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

「こころ、お帰り」

 

 掃除を続けていると、どこか出かけていたらしいこころが帰ってきた。

 

「悠兄様、バックダンサーの方々がいらっしゃいましたよ。何か話があるそうです」

 

「えっ? バックダンサー?」

 

 帰ってきたこころの意味深な言葉にどういうことだと思ったその時、リビングに入ってきたこころの後ろから誰かが姿を現した。

 

 

 

「悠くん、見~つけた♪」

 

「あっ……」

 

 

 

 毎度のパターン。気づいた時には手遅れだった。おそらくこころに付いてきたμ‘sメンバーが皆、どこか冷たい目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、そんな理由だったなら言ってくれたら良かったのに」

 

「そうよ」

 

「いや、一応叔母さんには言ってたんだけど」

 

「理事長、ずっと落ち込んどったよ。どこかで行き違いがあったんやない? 携帯も忘れよったし」

 

「あっ」

 

 発見直後に正座させられ尋問されそうになったところで、こころが悠兄様に何をするのかと言わんばかりにおたまを構えて一触即発。幼女とJKたちの戦争が勃発するのを防ぐために何とか【言霊遣い】級の伝達力を駆使して事情を説明した。小さい子が熱を出しての看病ということもあってか、メンバー全員が納得してくれた。

 

 して、どうして穂乃果たちがこの場所を突き止めたのかと言うと、最近練習に参加していないにこを不審に思ったので、原因を突き止める為に尾行したらしい。途中で気づかれて秋葉原で撒かれてしまったが、偶然にこに似ていると思って声を掛けたのが、買い物に行っていたこころ。自分たちが姉のバックダンサーだと気づいたこころが悠のことをあれこれと喋ってしまったので、悠に話したいことがあると言い聞かせて、矢澤家までついてきたというのがここまでの経緯である。

 

「悠兄様、どうしたんですか? もしかして、このバックダンサーさんたちがまた悠兄様に何か粗相を?」

 

「いやいや、そんなことじゃない。だから落ち着いてくれ、なっ」

 

「ううう、悠兄様がそう言うなら……」

 

 また悠をいじめていると思ったのか、お茶を用意しながら訝しげに穂乃果たちを睨みつけるこころ。このままだとあらぬ誤解を与えてしまいそうなので、優しく宥めると渋々ながら落ち着いてくれた。

 

「ふーん、悠兄様……ね」

 

「悠くんは菜々子ちゃんぐらいの子に懐かれやすいんやね」

 

「い、いや……そのお……」

 

 随分と菜々子と同じように懐いているこころを見て、ジトーとした目で悠を見る穂乃果たち。ここまで来れば、自分が本当にロリコンなのではないかと考えてしまうが、それはないと少ない理性が何とか踏み止まらせてくれた。

 

 

 

「で、どうするにゃ? このままじゃにこちゃん、こころちゃんたちに嘘をつき続けることになっちゃうにゃ」

 

 凛がこのいたたまれない空気を変えようと話題をすり替えてくれたが、確かにこれは大問題だ。これまでよくバレていないものだと感心するが、それも長くは続くはずはない。いつか絶対に真実を目のあたりにするだろう。その時、こころたちに嘘をついていたことで、矢澤姉弟の絆にヒビが入ってしまうかもしれない。

 お節介かもしれないが、ここまで事情を知ってしまったからには何とかしてあげたい。何かできることはないのかと、頭を悩ませる。

 

「なあ、そのことについて提案があるんだけど」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~数日後~

 

 

「い、一体どうなってるのよ……」

 

 

 あれから散々秋葉原まで追いかけてきた穂乃果たちがあの後、何も自分のことを追求しなくなったので、どうしたのかと思えば、今日の放課後に無理やり講堂に連れて行かれて、ことりが新しく作成したという衣装を着せられた。急展開過ぎてあれよあれよと状況に流されてしまったが、本当に一体何がどうなっているのか。

 

「やっぱりにこっちはかわええな。流石宇宙一のスーパーアイドルやね」

 

「希……」

 

 事態に困惑していると、奥からいつも通りにこやかな笑みを浮かべている希が姿を現した。もしやこれは希が仕組んだことだろうか。

 

「いいや、この企画を考えたんは悠くんとエリチやで。それより、ここから客席の方を見てみ」

 

「えっ……ええっ!? こころ! それに、ここあも虎太郎まで!」

 

 希に促されてステージ裏から客席を見ると、誰もいない講堂の客席の最残列にこころとここあ、虎太郎がワクワクした表情でスタンバっていた。

 悠と絵里が考えたのは、にこが妹弟たちのためにやる単独ライブだった。より一層ライブっぽくするためにわざわざ講堂の使用許可を雛乃に申請する徹底ぶりだ。更に、今までにこのソロ曲などなかったため、真姫と海未がにこのための曲を、ことりはその曲にマッチする衣装をわずか数日で作成。まさに、にこのためだけに行うには豪華すぎるほどだった。一番驚いていたのは何も聞かされていなかったにこ本人だが

 

「なるほどね。道理で練習出なくていいから、この曲と振り付けを練習しといてって言った訳ね」

 

「そういうこと。今日は特別な日。こころちゃんたちとしっかり向き合うんやで」

 

 客席の奥を見ると、成り行きを見守るように悠と絵里が立っている姿もある。更に、その近くには他のメンバーたちの姿も。

 全く、お節介な仲間たちだとにこは思った。でも、お陰で今まで妹たちに偽ってきた自分と決別できそうな気がする。例え真実を話して失望されたとしても、

 お膳立てしてくれた仲間たちのためにも、今日のステージを精一杯楽しんでやり遂げよう。決意を新たにしたにこは希に見送られながら、講堂のステージに立った。

 

 

 

 

 

 

「絵里、本当に良かったのか?」

 

 にこのステージが始まってから少し経って、悠は隣にいる絵里にそう問いかけた。今にこはこころたちに本当のことを話した後、新たな決意表明をしてこころ達のためにと歌って踊って、精一杯の自分を見せつけている。

 

「良いのよ。私も亜里沙がいる訳だし、妹に見栄張りたいって気持ちはわかるもの」

 

 そう言えば、絵里も可愛い妹を持つ長女だった。バレエにしろ普段の学校生活にしろ、普段から妹にはカッコイイ姉の姿を見せたいのだろう。その気持ちはよく分かると、悠も絵里には共感した。

 

「それに……にこのことに関しては私にも責任があるし」

 

「えっ?」

 

 にこのことで絵里に責任があるとはどういうことなのか。絵里もその話は悠に聞いてほしかったのか、どこか懺悔するように語り始めた。

 

 

 実は絵里は高校1年生だった頃からにこのことは知っていた。彼女がスクールアイドルを始めたことも、方向性の違いから解散してしまってもひたむきに勧誘を続けていたことを。実際に自分もスクールアイドルをやってみないかと本人からチラシを渡されて勧誘されたこともある。だが、

 

「私は……何もしなかった。アイドルなんて興味なかったし、馬鹿らしいと思ってたから……見て見ぬふりをしてしまった。その結果、にこは孤立してしまって、浮いた存在になってた。それが私にとって後ろめたかったの」

 

 当時の自分のことを思い出しているのか、どこか申し訳なさそうな表情でステージの上でパフォーマンスをするにこを見つめている。

 

「エリチ、それはうちも同じよ。ウチもあの頃からにこっちのこと知っとったんに、何もできへんかった……」

 

「それは……」

 

 いつの間に傍に来ていた希も絵里と同じことを思っていたのか、似たような表情でにこを見つめている。

 要するに2人はにこが孤立してしまったのは手を差し伸べることができなかった自分たちのせいなのだと思っているのだろう。仲間となった現在、今更贖罪のつもりでこんなことをしても許してもらえるはずがないとも。

 

「本人はそう思ってないと思うぞ」

 

「「えっ?」」

 

 きょとんとする2人に、悠はちょいちょいとステージの方へ視線を促すと、ステージのにこがこちらに視線を向けているのが見えた。

 

「絵里、ありがとう。アンタのお陰でこころたちに本当のことが言えて……これから本当の意味でスクールアイドルをやっていくことが出来そうだわ」

 

「にこ……」

 

 真っすぐに目を合わせて投げかけた言葉に偽りや見栄はない。

 

「全く、アンタも見栄張るんじゃないわよ。見栄を張るのは妹か悠だけにしときなさいっての」

 

「貴女に言われたくないわよ」

 

「本当やね」

 

 冗談交じりに笑いあうμ‘s3年組のやり取りに近くで見守っていた悠やステージ裏で覗いていた穂乃果たちは思わず笑みを浮かべた。一度はすれ違ったものの、改めて築かれたであろう絆を感じたからだ。

 

「悠! アンタには一番感謝しているわぁ! 本当にありがとう!!」

 

 にこは今度は視線を悠に移して言葉を発する。観客席のこころたちも姉の視線の先に大好きな悠がいると分かったのか、顔に喜びを露わにして大きく手を振っている。悠もこころたちに手を振り返すと、にこはこのタイミングと言うように息をスッと吸った。

 

「私、いつかアンタのことを夢中にさせてみせるわ。本当の意味での宇宙一のスーパーアイドルになるまでにね」

 

「えっ? それって、どういう」

 

 

 

「大好きよ、悠」

 

 

 

 それは一番伝えたい人に一番伝えたいことだった故か、まさに将来のスーパーアイドルにこちゃんを思わせるような屈託のないアイドルスマイル。このような状況、ステージでしか見られないであろう少女の純粋な笑みと言葉に、悠はどうしようもなく顔を赤くしてしまった。

 

 

 この後、勢いで告白したにこは改めて希を始めとするメンバーたちにこってりと絞られたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




<???>


 とある薄暗い小屋の中、黒いパーカーと灰色のニット帽で顔を隠した人物が2人。追われていたのか、2人の息が上がっていた。

「どう?あの探偵は撒けた?」

「今度はいつも以上に入念に撒いたから、しばらくは大丈夫…」

 本当にしつこい探偵だと忌々しく思う。いつ自分たちをマークしていたのか知らないが、もう遅い。例えここで自分たちを抑えたとしても自分たちには誰も知り得ない抜け道がある。あの探偵王子が優秀でも絶対に見つからない抜け道が。

「……準備は整った?」

「うん、大丈夫。今度はしくじらない」

「そう……ぬかるんじゃないわよ。今度こそ、私たちは復讐を果たすんだから」

「ええ、私たちに何もしてくれなかったあの学校と、今更性懲りもなく夢を追い続けてる…あいつにね」

 頷きあった2人のうち黒いパーカーを被った人物はふとポケットに乱暴にしまった一枚の紙きれを取り出して、忌々し気に見つめた。
 それは雑誌の記事をくりぬいたもので、見出しには【絆フェスで真下かなみと共演したスクールアイドル“μ‘s”】と書かれており、大きく載っている写真には手を振って笑顔を振りまいている少女たちが映っていた。


To be continuded.

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