PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

113 / 131
閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

毎度投稿が遅くなってになってしまい申し訳ございません。気づけばダンまちⅢは4話…9巻の終わりから10巻の序盤まで話が進んでたという。次は10巻終盤までには次話を仕上げて行きたいと思います。大森先生、17巻早くお願いします。

改めて、感想を書いて下さった方・高評価をつけて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

これからも拙いながら完結まで書き切りたいと思っていますので、よろしくお願いします。

それでは、本編をどうぞ!


#102「Love & Comedy ~Centimeter~.」

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 

 

…………美しいピアノのメロディーが聞こえてくる。

 

 

 

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

 

 

 聞き慣れたそのメロディーで目を覚ますと、悠は別の場所にいた。床も天井も全てが群青色に染め上げられている、まるでリムジンの車内を模した空間。ここは【ベルベットルーム】だ。

 そして、目の前にはもはや見慣れた鼻の長い奇怪な老人、その両隣には2人の美しい妙齢の女性が座っている。右手にいるプラチナ色の髪の女性は【マーガレット】。そして、左手にいる銀髪の女性はマーガレットの妹である【エリザベス】。

 

「先の催し、体育祭とやらではお疲れ様でございました。私も妹と共に拝見致しましたが、実に興味深い催しで御座いました。特に最後の種目、あのような心躍る試合は見事で御座いました」

 

 開口一番にマーガレットがそう言うと、その対面に座るエリザベスが何時ぞやのように意味深な笑みを浮かべながらこちらを見つめていた。その視線がどこかくすぐったい。

 

「さて、話は変わりますが、お客様はその催しにて一つ重要な再会を果たしたご様子。そのお相手はかつて、お客様とあの子たちを苦しめた敵だった者だったとか。あの者も随分と心変わりしたようで」

 

 マーガレットがそのように語り終えた後、同じように悠を眺めていたイゴールは重々し気に口を開いた。

 

「フフフ……貴方様は実に面白い。彼の地でもそうでありましたが、着実に真実に近づいておられる。此度の再会がこの先、貴方の旅路に影響を及ぼすのは間違いございませぬ。実に楽しみで御座いま「実に楽しみでございます。流石は主と姉上が見込んだだけのお方……」こ、これ! エリザベス! お主はまたも儂の邪魔を」

 

「失礼ながら、最近我が主の言葉のバリエーションが少ないと思われます。正直同じような台詞に飽き飽きしております」

 

「なっ……!?」

 

「それはさておき、本日はまたまた逢引きのご予定があるご様子。今回のお相手は鳴上様の最初のお仲間である奥手そうな大和撫子ガール。彼女も最近出番が増えてきたお陰か随分と楽しみにしているようでございます。どうか、存分に彼女の想いに応えて下さいませ」

 

「これぇ!! いい加減にせぬか、エリザベス!」

 

 いつもの威厳はどこへやら、年甲斐もなく怒鳴るイゴールという珍しい光景を目にした途端、視界が段々とぼやけていった。どうやら時間らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、では悠さん! 今日は、よろしくお願いいたします!!」

 

「ああ、よろしく」

 

 秋葉原駅で待ち合わせして、合流を果たした2人。今日は前から約束していた海未との登山デートだ。登山ということで厚手の服装と大きなリュックやスティックを手に持つ悠と海未を秋葉原駅を訪れていた人たちは奇妙なものを見るような視線で見ているが、そっとしておこう。

 

 

 

 

 

 

「ここか」

 

「はい、ここが今日登る山です。この山は上級者コースもありますが、初心者コースもあるので、悠さんにもお勧めですよ」

 

 電車をいくつか乗り継いで辿り着いたのは如何にもという感じがしっくりくる大きな山だった。最初は富士山を登る予定だったのだが、急遽海未が予定を変えて、悠のような初心者にも優しい山に変更したのだ。悠には秘密だが、富士山に行く計画を母に話したところ、そんなところは人が多いし初心者が相手ならここにすべきと指摘されたらしい。

 まあ、登山なんて碌にしたことがないのにいきなり富士山に登ろうなんて無謀だと思っていたので、正直変更してもらって有難かった。

 

「さあ、行こうか」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠さん、そこ気をつけてください」

 

「ああ、分かった。そう言えば、その鈴は?」

 

「熊除け用の鈴ですよ。流石に出くわさないと思いますが、この山は獣も多いので念のためです」

 

「なるほど」

 

 序盤は海未が分かりやすく手ほどきをしてくれたので、順調に進むことができた。山は歩幅を小さくゆっくり歩くのが基本など、如何にも山が大好きだというのが直実に伝わってくる。

 偶々今日はこの山に登る人はいないのか、道中は誰も遭遇せず2人っきりだった。クマよけの鈴がちりんちりんと2人だけのムードを作るように慎ましく鳴り響く。ここまでは予定通り。このペースでいけば頂上に予定時間通りに辿り着く。

 

 だが、そう思っていた矢先……

 

 

 

 

 

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 

 

 

 

「……すっかり天気が悪くなったな」

 

「…………」

 

 山の天気は変わりやすいというが、まさかここで現実になろうとは思っても見なかった。この時期に降るとは思えないほどの大雨が降り注ぎ、2人を荷物共々ずぶ濡れ寸前になっていた。今は木陰で難を凌いでいるが、更に不幸なことにこの近くに山小屋はおろか、雨宿りできそうなエリアがない。

 

(不覚です……もっと天気予報をチェックするべきでした)

 

 悠との登山デートすることに浮かれていたのせいか、登山に必要な天気情報とエリアチェックを怠ってしまったことを恨めしく思う。

 

「これ持ってきて良かったな」

 

「えっ? 悠さん、それは……?」

 

 そう呟いた悠はゴソゴソと背負っていたリュックから何か大きなものを取り出した。

 

「ああ、こうなるかもしれないって思って、テントを持ってきたんだ」

 

「えっ?」

 

 やけに荷物が大きいと思ったらそんなものを詰め込んでいたらしい。だが、そんなものを背負った上でここまで登ってきたとなると申し訳なくなってくるが、それは言わないようにした。

 それから2人は手際よく簡易テントを建てた後、急いで中に入って暖を取った。

 

「はあ……悠さんのお陰で何とかなりました……」

 

「備えあれば患いなしってやつだな」

 

「ええ……」

 

 悠が持ってきたのはちょうど2人がギリギリで入るほどの小さいテントだが、海未は終始ドキドキしっぱなしだった。あと数センチ近づけばこれでもかというほど密着してしまうほどに。

 

 思えばこうやって二人っきりになるのは、春に無理なトレーニングをして介抱されて以来(GWの天城屋同衾事件は別にして)久しぶりかもしれない。

 あの時はペルソナ使いになりたての時期、メンバーも今に比べたら少なかったので、もっと悠の力になりたいと無理なトレーニングでひたすら自分を追い詰めていた。

 今でもあの時の気持ちは変わることはない。最近だってりせのデートを見て物に当たってしまうほどイライラしてし、体育祭でも同じ組になって内心舞い上がっていた自分もいた。改めて確信する。

 

 

 

“園田海未”はそれほど鳴上悠のことが好きなのだと。

 

 

 

(……でも)

 

 時々思ってしまう。自分はこの男の隣に寄り添える資格があるのかと。

 希やことり、りせの悠に対する想いは底知れない。それは、忘れたくても忘れられなかった恋心、幼い頃から抱いていた恋心、この男のためなら何だってする強い気持ちが彼女たちの心の中にあるからだろう。自分にそれほどの想いがあるのかと言われたら、それはない。ただその場で助けられて惚れてしまっただけ。

 

「……もう雨は止んだみたいだな」

 

「あっ」

 

 雨も止んでそろそろ出発できそうだと、悠がテントから出ようとした瞬間、海未は思わず悠の袖をつまんだ。

 

「海未……?」

 

「あっ、いやこれは……」

 

 自分がしてしまったことに何か言い訳をしようとあたふたしてしまうが、それが間違いだった。うっかり悠の袖をつまんだままだったので、そのまま悠も一緒に倒れてしまう。そして、まるで悠が海未に床ドンとしようとしているかのように覆いかぶさる体勢になってしまった。

 

 

「わ、悪い! すぐに」

 

 

 海未に対してこの体勢はマズイ。早く身体をどけようとしたその時だった。

 

 

「う、海未……?」

 

 

 海未は弱々しくも悠の肩をぎゅっと掴んだ。そして、その勢いで悠を引き寄せ、更にぎゅっと抱きしめてしまう。

 あまりに予想外の行動に悠は困惑してしまったが、海未は違う意味でも同じだった。だが、心では分かっている。これは単なる我がままだ。この機会はもう訪れないかもしれない。そう思ってしまったら、もう身体は反射的に動いていた。この機会を逃したくない、続くならずっとこの体勢でいたい、悠とこのまま一緒にいたい。だって、

 

 

 

「ゆ、悠さん……わ、私は……私は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~い、そこまでやで☆」

 

 

 

 

 突如身体がブルッと硬直してしまうほどの威圧。恐る恐る振り返ってみると、携帯を構えている目が笑っていない笑顔の希がこちらを見降ろしていた。

 

「の、のぞみ……?」

 

「ななななな」

 

「悠くん、これはどうい「スト────プ!!」きゃあ!」

 

「えっ? うわあああああっ!?」

 

 突如希の背後から誰かが勢いよく突っ込んできた。しかもそれは独りでなく大人数だったので、テントの中は大混雑となり、重量に耐え切れずテントは崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたたたた……」

 

「全く、全員でテントに突入ってどういうことよ…いくら協定違反しからたって」

 

「だ、だって…海未ちゃん普段は奥手そうなのにいざという時はグイグイ行くから、お兄ちゃんが食べられちゃうんじゃないかって思ったら身体が…」

 

「……当然のようにいるけど、何で皆ここにいるんだ?」

 

「「「あっ……」」」

 

 テントから引きずり出されると、いつの間かテントの周りにカッパを着ている穂乃果たちがいた。話を要約すると、先日の体育祭で海未の母水菜に海未と悠が山デートをすると聞いた穂乃果とことりがその情報をμ‘sの皆に話し、何か起こるかもしれないとのことでここまで尾行していたらしい。

 こんな大所帯で自分たちを尾行していれば気づきそうなものだが、あえて聞かない方が良いだろう。

 

「それにしても、よくここまで登ってきたな」

 

「あはは、確かに」

 

「でも、これからどうするの。皆テントに突入したせいで壊れちゃったし」

 

 先ほど穂乃果たちがテントの中へ突入してしまったので、テントの足が真っ二つに割れて使い物にならなくなってしまった。この雨の中どうしようと頭を悩ませていると、真姫がおずおずと手を上げた。

 

「あの、実はこの山に私の別荘があるんだけど」

 

「「「「へっ?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、でかい……」

 

「この山にこんな別荘があるなんて知りませんでした」

 

 真姫の案内で訪れたのは見事なほど組み立てられたログハウスだった。夏休み前の海での合宿で使わせてもらった別荘もそうだったが、ここも同じくらいの大きさだ。これならここにいる全員が寝泊まりできそうだ。

 

「ようこそおいでくださいました。ささ、中へどうぞ」

 

「で、出島さん!? 何で?」

 

「奥様から本日お嬢様がご友人と彼氏をこちらに連れてくるだろうと仰られていたので」

 

「か、彼氏じゃないって!」

 

 ログハウスの扉を開いて出迎えてくれたのはメイド服に身を包んだ美人な女性だった。真姫との会話から察するに西木野家に雇われている使用人なのだろう。今しがた思い出したが、真姫は名医の両親を持つお嬢様だった。勝手な考えだが、そんな環境ならメイドの一人や二人いてもおかしくない。

 改めて漫画やテレビの世界でしかみたことがないメイドの登場に穂乃果たちは思わず興奮してしまった。

 

「わあ、本物のメイドさんだ!」

「とっても美人……」

「こうしてみると、真姫ちゃんってお嬢様なんだってことを思い出すね」

「あれ? あの人の声、どこかで聞いたことない?」

「確かに……生徒会役員共の〇島さんとか、小人族の勇者とか」

「ンンー、何のことかな?」

「あっ、絶対そうだ」

 

 凛の無茶ぶりにも応じてくれるメイドさん。確かに声があの声優さんに似ている気がする。

 

 

 

 案内されて中へ入ると、まるで新築ではないのかと思わせるほどピカピカの室内が広がっていた。床はワックスがけしてあるのか鏡のようにピカピカで埃一つない。メイドの出島さんが自分たちが来る前に掃除や手入れをしたのだろうが、家事にうるさいにこも文句のつけようがないほどパーフェクトだ。

 

 

「してお嬢様、この方が狙っていらっしゃる鳴上様でございますか?」

 

「ヴぇえっ!? ね、狙ってるって……」

 

「奥様から聞いております。是非とも将来看護師として雇いたいとか、お嬢様のお婿に来てほしいだとか」

 

「ちょっと!?」

 

 顔を最大に真っ赤にさせて出島さんの口を塞ぎにかかる真姫。そんな反応を面白がっているのか、当人はニコニコしている。

 

 そんな中で海未だけは浮かない表情をしているのが、気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せっかくだし、ここで次のラブライブ本選に向けて話し合わない?」

 

「ええ~! 夜はこれからだよ、トランプでもして遊ぼうよ~」

 

「わあ!希ちゃん、相変わらず大きいね」

 

「絵里ちゃんもとってもいい形してる」

 

「にこちゃんは…………うん」

 

「最後まで言いなさいよ!!」

 

 壁の向こうから穂乃果たちのそんな声が聞こえてくる。今悠は西木野家の山荘に設けられている大浴場の男風呂で疲れを癒している最中だった。

 少し前、せっかくだからこの山荘で次のラブライブ本選への対策を考えようという絵里の発案で、作戦会議を開いていた。新曲や新衣装、振り付けの作成に今後の宣伝活動。やることは山積みだが、山のログハウスと違う環境で行っているせいか、いつもより進捗が良い。更にはメイドの出島さんが合間に美味しい紅茶やお菓子を振舞ってくれるので、より良い状況で進んでいる。

 だが、そんな中で海未の顔色はすぐれなかった。やはり今日の登山デートが滅茶苦茶になってしまったことを気にしているのだろうか。だとしたら、自分は海未にどんな言葉をかけてあげたら良いのか。

 

 そんなことを考えていると、ふと壁に設置してあった謎の小さな鳥居が気になった。後から聞くことになるが、その鳥居は西木野夫妻が結婚前にデートで行った長野のとある温泉にあったもので、それのお陰で結婚することになったとかの思い出に同じものをこの別荘にも設置したらしい。そう言えば、前に凛に貸してもらった長門有希ちゃんの消失で見たことがあったなと思いつつ、鳥居の近くに寄って吊るされてあった紐を引っ張ると

 

 

「「えっ?」」

 

 

 向こうの女湯に入っていた海未と目があった。

 

「わ、悪い!」

 

 あまりのことにびっくりしてしまい、思わず手を離して距離を取る。それは向こうにいる海未の同じだったのか、バシャッと跳ねる水しぶきの音が聞こえてきた。まさかの出来事だったとはいえ、海未の入浴姿を目撃してしまったが、お約束通り湯気やタオルのお陰で見えていなかったので問題ない。問題ないのだ。

 

「悪かったな……海未……」

 

「え、ええ……こちらこそ」

 

 何だか、このようなやり取りに慣れてしまった気がする。初めは去年の天城屋旅館に泊まった時に、更には今年のGWにそのお代わりが発生して、夏休みも同じことがあった。

 

「ゆ、悠さん」

 

「な、何だ?」

 

「きょ、今日のアレは……本当に「海未ちゃ~~~ん!」きゃああっ!? ちょっと穂乃果、急に抱きつかないで下さい!! ことりもどうしたんですか!? そんな怖い顔して」

 

 何だか良いところだったのを邪魔された気がする。思わず溜息をついて再び湯船につかるが、先ほどまでとは違って全然癒されなかった。

 

「気になっているのですか? 園田様のこと」

 

「そうですね。えっ……? で、出島さん!?」

 

 物思いにふけっていると、いつの間にか背後にメイドの出島が立っていた。手にはモップとバケツを持っており、服装は袖をまくったメイド服だ。

 

「お気になさらず。私のことは銭湯などで男湯の掃除をしに来るおばちゃんとでも思っててください。どうせなら、このままお背中をお流ししましょうか?」

 

「是非ともお願いしま」

 

「「「悠さん?(お兄ちゃん?)」」」

 

「いや……結構です」

 

「でしょうね」

 

 すまし顔で平然としている出島だが、悠は気が気でない。思わず悪ノリで承諾しようと思ったら、壁の向こうから底知れない圧が掛かってしまった。メイドさんが背中を流してくれるという男なら一度は想像したことがあるシチュエーションだったので勿体ない気がしたが、後で制裁を喰らうことに比べたらマシだ。

 そんな悠の心情など知ったこっちゃないと言うように、出島は黙々と洗い場を掃除していた。

 

「本来の鳴上様のご予定は聞いております。園田様と登山デートのはずが突然の悪天候に見舞われ、備えとして持ってきたテントで園田様を押し倒したのも束の間、尾行していたお嬢様たちに邪魔されて、なし崩しにこちらに来たと」

 

「色々語弊があるような……」

 

 そもそも何でそんなに詳しいのかが気になる。そう本人に聞いても“探偵をやっていたもので”の一点張りだった。

 

「しかし、鳴上様も気づいておられるのでしょう? 園田様やお嬢様を含め、たくさんの方々に好意を抱かれていることを」

 

「それは……」

 

「これは最近読んだ小説の受け売りですが、例えどんなものであっても好きとも伝えないで『気づけ』と思っている方々は傲慢です。ですが、しっかりと好意を伝えて下さった方にはこちらもしっかり誠意を尽くすのが礼儀だと私は考えます」

 

「……………」

 

 出島がそうアドバイスしてくれたものの、どうやって海未に誠意を尽くせばいいのか分からない。こういうことにあまり不慣れな悠は思わず天を仰いでします。そんな悠に出島は掃除を進める手を止めて溜息をついた。

 

「その様子だと、鳴上様はこのような事態には慣れていらっしゃらないようですね。このままでは園田様に恥をかかせたままになってしまいますし。よろしければ、この状況にピッタリな場所をお教えいたしましょうか?」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 穂乃果たちがリビングで遊んでいる中、海未は独りになりたいと割り当てられた部屋で自己嫌悪に陥っていた。

 何であんなことをしてしまったのか。いや、さっきのお風呂の件については事故ということになるだろうが、昼間のテントの件は言い訳のしようがない。なので悠からはもう見限られていることだろう。明日からどんな顔をして会えばいいのだろうか。

 そんな時、不意に部屋のドアがノックされた。何事だろうとゆっくりと起き上がってドアを開けると、そこには件の悠がいた。

 

「海未……」

 

「悠さん……何か?」

 

 悠の突然の訪問に困惑しつつも、何の用だと質問する。すると、悠は海未の手を握って目を真っすぐに見つめた。

 

「ちょっと外に出ないか?」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 居間でトランプをして盛り上がっている穂乃果たちの歓声を隠れ蓑にこっそりログハウスを抜け出した悠と海未。夜道を懐中電灯で照らし、はぐれないように手を繋いで歩いている海未は訳が分からず為すがまま悠についていった。そして、

 

「悠さん、ここは……? あ、わああ」

 

 辿り着いたのは誰もいない展望台のある草原。ふと空を見上げると、そこには東京では見られない満点の星が広がっていた。標高が高い故か、うっすらと天の川も目視できるほど澄んでいる。

 

「出島さんに教えてもらったんだ。ここがこの山で一番星空が綺麗な場所だって」

 

 悠はそう言うと、肩に掛けていた手提げバッグからシートを取り出して海未に座る場所へと促した。気を遣ってくれたのだろうか、自分を先に座らせてから悠はゆっくりとシートに腰を下ろした。

 

「こうやって寝そべって見上げると、星がよく見えるぞ」

 

「へっ? は、はい」

 

 更に促され、シートに背中を預けて空を見ると、なるほどこれはまた格別な絶景になった。

 

「ごめんな、海未」

 

「へっ?」

 

「今日のデート、台無しになって」

 

「い、いえ! 今回は偶々運が悪かっただけですし……」

 

 美しい星空に心を奪われていたせいか、不意にそう言われて思わず慌ててしまった。

 

「俺としては、いつも海未には苦労をかけっぱなしだから、今日のデートで少しでもリフレッシュしてもらいたかったんだ。この星空がせめて」

 

「い、いえ! 十分ですよ。わ、私のほうこそ……」

 

 迷惑をかけたと言い切る前に、今日のテントのことを思い出した海未は口をつぐんでしまう。思えば自分がもっと情報をしっかり把握して最適な日程を組んでいればこんなことにはなっていなかったのだ。だが、そうは言っても天気は人間にコントロールできないものなのでそう悔やんでも仕方がないことだ。

 

「……」

 

「ちょっ!? 悠さん、何を」

 

 突然何も前触れもなく、悠がこちらに距離を詰めてきたと思いきやグイッと己の身体に海未を抱き寄せた。

 

「いや、このままじゃ冷えるだろ? ここは山だし、もう10月だ。海未に風邪を引かれたら困る」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

 

 だから、何でそんな小恥ずかしいことを平然とやれるのだと海未は心で叫んだ。

 この人はいつもそうだ。こっちが縮めたくても縮めない距離を不意に詰めてくる。意味が分からない、意味が分からないのに……

 

「海未、難しく考える必要はないぞ」

 

「へあっ?」

 

「資格があるのかなんて、関係ない。大体、海未は考え過ぎなんだ。まあ、いつも穂乃果や凛たちが自由奔放だからつい考えすぎる癖がついたのかもしれないけど」

 

「…………」

 

「海未はもっと自分の気持ちに素直になっていい。心のままであっていい。今日登山の歩き方や楽しみ方を教えてくれた海未はとても楽しそうで、魅力的に見えた。だから、今度また機会があったら、今度こそ2人っきりで山に登ろう。その時こそ、ありのままの海未を見せてくれ」

 

「…………」

 

 ああ、本当にズルい人だ。普段は本当に掴みどころがないくせに、こっちの心情は手に取るかのように察して、それをどうにかしようと行動してくる。普通の人だったら鬱陶しいと思うかもしれないが、自分はそう思わずどこか大切にしてくれる。焦る必要はなかった。悠は海未と同じように同じようなことを悩んでいた。それだけでも海未は嬉しかった。

 

「あっ……ごめん、海未。多分もうすぐ希たちに見つかると思う」

 

「えっ?」

 

 そう言えば、遠くから自分たちを探す声が聞こえてきた気がする。もしや、自分たちがいないことに気づいた穂乃果たちが探しに来たのではなかろうか。まずい、こんなところを見られたら絶対に説教待ったなしだ。すぐに離れなければと思っていると、悠は慌てることなく空を見上げていた。

 

 

「だから、もう少しここにいよう」

 

 

 そして、その優しい手の温もりと暖かい言葉にあてられた海未はそのまま身体を預けた。

 焦らなくて良い。無理に追いつこうといなくていい。いつか、これが運命だったといえるように、少しずつ近づいていこう。いつか、自分の中にある"好き"と言う気持ちを伝えるために。

 そう決意する海未を照らすように、空の星々は爛々と輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、真姫の別荘で次のラブライブの本選に向けての作戦を練って練習した後、出島さんに各々の家の近くまで送って貰った。本当は日帰りで登山する予定だったので、急な泊まりになってしまったこともあり、一応謝りに行くからと悠は海未の家で下ろして貰った。

 だが、

 

「…………」

 

「お、お父様!」

 

「えっ?」

 

 園田家の玄関で待ち構えていたであろう海未の父親に遭遇してしまった。そして、

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 気づけば、悠は海未父に強制的に家に案内され、客間で正座させられていた。いや、対面に座る海未父は楽にしていいといってくれたのだが、威厳ある威圧的な雰囲気に負けて正座になってしまった。

 それに、空気が重苦しい。凄く重苦しい。それは当然だ。目の前には神妙な顔でこちらを見やる、というか睨んでいる初老の男性が1人。その一歩後ろではその妻である女将のような女性が眩しく微笑み、娘である海未が気まずそうに視線を逸らしていた。

 

「君かね? 鳴上悠くんというのは」

 

「は、はい。う……いや、園田さんにはいつも」

 

「私も園田だが?」

 

「……海未さんにはいつもお世話になっています」

 

「そうか、私も海未から聞いてる。頼りになる人だと」

 

「は、はあ……」

 

「……」

 

 正直逃げたいと思った。水菜がどうぞと出してくれた高級なお茶もお菓子も全く喉を通らない。海未も心境は同じく自室に逃げ込みたい気持ちでいっぱいだった。

 対する海未父はまるで品定めするかのような眼光でこちらを見ている。何だかお嬢さんを僕に下さいと頼みにきた婚約者みたいなシチュエーションを味わっているように思えるのは気のせいだろうか。

 しばらく生きた心地がしない沈黙が続いて数分、流石に気まずい雰囲気に耐え切れなかったので、悠は先手必勝と言わんばかりに口を開いた。

 

「あ、あの…今回は日帰りのはずが、泊りになってしまってすみませんでした」

 

「………………」

 

「い、一応……何故かついてきた部活の仲間たちと一緒に山小屋……というか、後輩の別荘に泊まったので、別にやましいことはなかったです」

 

「…………」

 

「いや、男の俺から言っても説得力はないと思いますが……い、一応」

 

「…………」

 

「…………」

 

 会話が続かない。海未父の眼圧が凄すぎて言葉が上手く出てこない。しどろもどろになっている悠に海未は助け舟を出そうとするが、同じく父親のあまり見ない眼圧にすっかり怯えてしまい声が出ない。水菜は未だニコニコと成り行きを見守るだけで何もしない。

 そんなカオスな状況が続く最中、ずっと黙っていた海未父がその重々しく口を開いた。

 

「……分かった。そう、水菜……妻から聞いている」

 

「へっ?」

 

「鳴上くん、今後とも海未をよろしく頼む」

 

「えっ?」

 

 海未父はそう言うと、ゆっくりと立ち上がって客間から去っていった。一連の行動に訳が分からず、残された海未と悠は首をかしげてしまう。だが、水菜だけは何かを察したように微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 話も済んだし、悠はそろそろ帰りますと、園田家を後にした。見送りますと海未は慌てて玄関まで案内するが、そんな2人の様子を陰からジッと海未父は見ていた。

 

「あれが、鳴上の息子か……」

 

「ええ、見ての通りあの人にそっくりだったでしょ?」

 

「ふん……」

 

 しばし2人の様子を見守った後、居間で妻に淹れてもらった熱い緑茶を嗜みながら呟く海未父はどこか複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「はあ、まだ学生時代のことを引きずってるんですか?」

 

「……そういうことじゃない」

 

 妻に指摘されたことが図星だったのか、更に表情を複雑にさせて緑茶を更に飲む。

 もう結婚して何年もなるせいか自分の考えが全て見透かされている気がする。確かに、妻に言われたことは図星だ。

 

「ただ、あの男に海未が泣かされることになるかもしれないと心配になっただけだ」

 

 言い逃れしながらふと脳裏に浮かんだのは己の学生時代。

 良家なのを良いことに好き放題暴れていた自分を軽々と負かし続けたあの男。喧嘩や勉学、徒競走やボール投げ、挙句には無呼吸対決などといった今思えば下らない勝負でさえ敵わなかった。唯一得意としていた水泳や遠泳ではギリギリ勝てたが、それは向こうが“ハンデがないとフェアじゃない”と情けも同然に重りをつけた上での勝負だった。挙句には自分が好きだった相手はあの男に夢中だということを知った時ははらわたが煮えくり返るほど怒り、そして己の無能さを悔いた。

 だから、今日娘があの男の息子だという少年と一緒に帰宅してきた時、あの思い出がフラッシュバックしてしまったのだ。

 

「全く、貴方は海未のことになると心配症になるんですから。あの子が貴方みたいになるはずないでしょ」

 

「…………分からんぞ」

 

 やれやれと水菜は嘆息する。全く面倒くさい旦那だ。もしも彼が海未と交際することになったら大変だと考えてしまう。

 だが、対面で未だうんうんと悩み悶える夫と違って、水菜の心情は穏やかだった。先日の体育祭であの少年に面と会った時から確信していた。あの子は海未を受け入れたとしても受け入れないにしても、海未をきっと幸せな道に導いてくれると。

 

(海未…頑張ってね)

 

 2階の自室で今日のことを思い出しながら明日への一歩を踏み出そうとしている娘を想いながら、母は心に願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後...

 

 海未とのデートも終わって一段落した日常が戻ってきた。と言っても、あの後南家に帰宅してすぐに雛乃とことりによるお説教が待っていたので、ここ数日は全然平和じゃなかった。だが、

 

 

「あ、あの……にこ、これは?」

 

「良いから! 黙って私に付き合いなさい」

 

 

 また、新たな面倒事が幕を開けようとしていた。

 

 

 

To be continuded.


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。