PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

毎度投稿が遅くなってになってしまい申し訳ございません。マジでここ最近色々と大変だった……

ここ最近と言えば、先日一気にここすきが一気に増えたのを見て少し驚きました。突然のことでびっくりしましたが、ここすきを押してくれた方々、本当にありがとうございました。

また、先日からずっと楽しみにしていた【ダンまちⅢ】が始まりました。原作を読んでアニメで見たかった異端者編だけに、一話を見てとても興奮しました。おそらく最終回辺りで来るであろうベルくんとアス…ゲフンゲフン。とにかく今後が楽しみです。

改めて、誤字脱字報告をしてくれた方・感想を書いて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

それでは、本編をどうぞ!


#101「Sports Festival 2/2」

<保健室>

 

「はあ……大事に至らなくて良かった」

 

「本当だよ……僕は全く関係ないけど……」

 

「あはははは……」

 

「「「………………」」」

 

 午後の競技が始まる前、倒れていたメンバーを発見した悠は一緒にいた穂乃果と佐々木と共に皆を抱えて保健室に駆け込んだ。

 幸いにも倒れていた海未たちの被害はそれほどではなく、少しの間脳震盪のように気絶していただけで終わった。午後の競技にも出場できるそうだ。正直穂乃果を除くμ‘s全員が倒れていた現場を目撃して呆然としてしまったが、何とか全員無事でよかった。

 

「……アンタ、来てたのね」

 

「悪かったね。鳴上に話したいことがあって君たちに会うつもりなんてなかったんだ」

 

「そう……」

 

「あははは、まさか悠さんと一緒に佐々木さんを連れて来ちゃうなんて思ってもみなかったよ」

 

「「「………………」」」

 

 どうやら皆この場に因縁ある佐々木がいることが気になったらしい。穂乃果も悠と一緒に引っ張ってきたのが、まさかあの時に対峙した佐々木だとは思わなかったらしく、気づいた時は天地がひっくり返るほど驚いていた。ただ他のメンバーと違ってすでに気兼ねなく話しているところから察するに、もう“良い人”判定をしたのだろう。

 またかと思いつつ、自分たちもいつまでも過去のことは引きずらないようにしようと皆は思った。

 

「にしても、一体何が原因で倒れてたんだい?」

 

「わ、分かんないよ。穂乃果がトイレ行って戻ったら倒れてたから、その間に起こったらしくて……」

 

「一体あそこで何が起こったんだ?」

 

 まさに“何だコレ?”と言いたくなるような状況だったので、現在の悠たちには困惑しかない。もしや某バラエティ番組で紹介されているような摩訶不思議な現象が起きたのか。

 

「ああ、犯人ならそこに居るわよ」

 

 だが、そんなことなどないと示すように絵里たちはスッとある方向を指さした。その方を振り向いてみると、

 

「は、はろー、センパイ……?」

 

「りせ……?」

 

 引きつった表情で笑顔を浮かべるプライベート姿のりせがいた。ついでに申し訳なさそうに帽子を深く被る直斗の姿も。ある程度想像はついていたが、一体どういうことなのか聞いてみると、たどたどしく直斗は事の顛末を語った。

 

 

 

 

 

 

 

~回想~

 

 それは悠が佐々木と中庭で会談している最中でのことだった。

 

「センパ~イ! お待たせ~。あなたのりせだよ♡」

 

「悠くんはここにおらへんよ。残念やったね☆」

 

「…………」

 

「…………」

 

 突如午後の競技の準備をしていたμ‘sの共有スペースに仕事終わりのりせが悠会いたさに来襲したのだ。どうでもいいがナビペルソナ持ち同士の圧が凄い……。

 

「はあ、こうなることは分かっていましたが……」

 

「あ、あはは。直斗くんもいらっしゃい。悠さんに挨拶に来たんでしょ? 良かったら悠さん来るまでここで待ってる?」

 

「今だったら、真姫ちゃんが家から持ってきてくれた高そうな紅茶もありますし」

 

「い、いえ、お気遣いなく。僕はただ皆さんに挨拶をしに来ただけですから」

 

 偶々予定が被っていない時間だったのか、もしくはこの日に合わせてくれたのか特別捜査隊&μ‘sのリーダーである悠に一言挨拶に来たであろう直斗とりせを穂乃果たちは温かく迎え入れる。

 

「紅茶……あっ、そうそう。悠センパイのために作ったお菓子持ってきたから、良かったら紅茶と一緒にどうぞ」

 

 りせは思い出したように手に持っていたバスケットからお菓子を取り出した。取り出されたのは彼女の手作りらしい焼き菓子だった。見た目はとても普通で夏休みに雪子と千枝が作ったような変なところなど一つもない。だが、夏休みに陽介たちから聞いたことがある。

 

 

“りせも雪子と千枝と同じ必殺料理人だと”

 

 

「こ、これは……大丈夫なんですかね……」

 

「まあ、でも見た目は普通の焼き菓子だし……」

 

「あっ、これ普通に美味しいよ」

 

「「「えっ?」」」

 

 後先考えずに頬張った穂乃果がそんな感想を述べたので恐る恐る口に入れてみると、言われた通り普通に美味しかった。どうやらりせの手作りは問題なかったようだ。

 あの陽介の口ぶりから去年は本当に必殺料理人の一人だったようだが、芸能界復帰をキッカケに料理の腕も上げたのかもしれない。満足気に次々と焼き菓子を食べる穂乃果たちを見て、りせは嬉しそうにはにかんでいた。

 

「良かったぁ~! 実はね」

 

「んっ?」

 

「悠センパイのことを想ってたら……もっと美味しくするために自然と手に山椒とかデスソースが握られてて……」

 

 

「「「…………えっ?」」」

 

 

 刹那、彼女たちの胃と口の中が烈火の如く熱くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、りせが俺に差し入れ持ってきたのをことりたちが食べて、それで気絶したと?」

 

「そ、そうなの……かな?」

 

「実際そうでしょう。久慈川さんが作った焼き菓子で皆さんが倒れたんですから」

 

「………………」

 

 覚えがないと言わんばかりに首を傾げるりせに直斗の追撃と絵里たちの鋭い視線が突き刺さる。

 この後、保健室からアイドル声の悲鳴が響き渡って、近くを通っていた生徒たちはぎょっとしたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……酷い目に遭ったけど、大事に至らなくて良かったわね」

 

「あははは……りせちゃんも相変わらずで」

 

「相変わらずなレベルじゃないわよ」

 

「「………………」」

 

「そして、ファンのにこちゃんと花陽ちゃんは絶句してるし」

 

 お昼時間のことを振り返ると、本当に散々で約2名が精神的ダメージを負ってしまったが、何はともあれ午後の競技は再開された。コテンパンに被害に遭った絵里たちに締め上げられたりせが憔悴したようにアイドル研究部の部室で黄昏ているが、何も問題はない。ないったらないのだ

 

「そう言えば、佐々木君は?」

 

「ああ、実は……」

 

 佐々木はあの後自宅に帰るつもりだったが、偶々新聞部の部員たちに見つかってしまい、そのまま新聞部の活動に参加させられていた。新聞部は体育祭中に競技結果やとある選手の活躍などをリアルタイムで出すため、どうしても人手が必要だったのだとか。

 佐々木は最初戸惑ったものの、頼られることは満更ではないのか渋々と言った感じで手伝っている様子が見受けられた。この様子ならもう大丈夫だろうと、遠くから見ていた悠は少し安堵していた。

 

「さあ、午後も頑張ろう! 悠さんたちも頑張ってね」

 

「ああ、そうだな。お互い勝利のために頑張ろう。敵だけど」

 

「一言余計だよっ!」

 

 しかし、トラブルというのは重なるもので、それは意外な形で顔を出した。

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよ代表リレーね」

 

「ああ、ここが正念場だ」

 

 最終種目【代表リレー】。各組から選りすぐりの足自慢が出場して速さを競う競技だ。この競技にはμ‘sから紅組は悠と絵里と海未、白組からは凛とラビリスが出場している。凛はともかくラビリスは途轍もなく強敵だ。全力で勝ちにいかねば、こちらの優勝はない。

 

 

「大変だあ!」

 

 

 気を引き締めなければとアップしようとしたその時、紅組陣営から誰かがこちらに向かって走ってきた。よく見ると、クラスの知り合いだった。

 

「どうしたんだ? そんなに慌てて」

 

「大変だよ! 紅組の代表リレーに出る選手が体調不良で出られなくなったの」

 

「何っ!?」

 

「それも、アンカーの子が」

 

「「はああっ!?」」

 

 何と悠たち紅組の選手、しかもアンカーの選手が出られなくなったという凶報が入った。何でも何か悪いものでも食べたのか、腹を壊して今は保健室で寝込んでいるとのこと。この競技直前になった腹を壊してしまうとは一体どういうことだろうか。

 

「まさか、りせの物体Xが原因じゃ……」

 

「い、いやあ、流石にそれは飛躍しすぎじゃ」

 

「あっ……そう言えば、あれ置きっぱなしにしてたの……忘れてた」

 

「「「………………」」」

 

 まさかの原因発覚。後日、被害に遭った人物に話を聞いたところ、偶々生徒会の仕事で絵里と希に用事があってμ‘sの共有スペースを訪れたところ誰もおらず、ちょうど小腹も空いていたので机に置いてあったクッキーを食べてしまったとのこと。

 ここに来てまたもりせのクッキーが更なる被害を出すとは思いもしなかった。すると、度重なるトラブルによってか、紅組メンバーがジロッと白組を睨みつけた。

 

「ねえ……もしかして、りせちゃんって穂乃果たち白組が寄越したスパイなの?」

 

「ラビリスちゃんはいるけど、万が一を考えてってことかいな?」

 

「ちょっ!? そんなワケないよ! 穂乃果たちはそんな外道みたいなことする訳ないでしょ!」

 

「お、お兄ちゃんは……信じてくれるよね?」

 

「曲者め」

 

「人聞き悪すぎっ!?」

 

 とりあえずそのことに関しては後でりせを再度締め上げて、今後はレシピを忠実にアレンジなど加えないよう無意識下に刷り込むとして、この事態に悠と絵里は焦りを感じた。

 

「どうするの? 代表リレーはまずいわよ……相手は凛、ラビリスもいるのよ。凛はともかくラビリスは」

 

「だったら、誰かに走ってもらえばいいんじゃ?」

 

「でも相手はラビリスだ。半端な速さじゃ勝てないぞ。40ヤード走を4秒2くらいは必要だ」

 

「何よ、その具体的すぎる条件は……」

 

「だが、それくらいじゃないと……勝てない」

 

 そう、穂乃果たち白組のアンカーはあのラビリスだ。本気を出さないようにと釘を刺されているとはいえ、シャドウ兵器の身体能力は高い。例え運動系の部活動生が相手でも全国大会上位クラスの実力を持っていない限り対等に戦えないだろう。実際被害に遭ったアンカーの選手はその条件に当てはまっていた。

 

「でも、そんな人なんていないわよ。ただえさえ私たちは運動部の人が少なくて不利なのに」

 

「今から誰かに頼むってなっても、急にこんな状況を受け入れてもらうなんて……」

 

「ううう……穂乃果たちのせいじゃないけど、罪悪感が……」

 

 まさに八方塞がり。時間があれば何か手はあるはずなのだが、競技開始まであまり時間がない。一体どうすればいいのか。

 

 

 その時、誰かが悠の肩をちょんちょんと叩いた。

 

 

「き、きみは……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、競技が始まった。観戦する生徒や父兄の声援が会場を埋め尽くす中、佐々木は新聞部の共有スペースで黙々とパソコンのキーボードを打っていた。先ほど行われた競技の結果をいち早く書かないといけなかったので、競技を観戦する余裕はない。

 まあ、実際久しぶりの新聞部の活動なので、ちゃんとしなければと気負っていることもあるが。

 

「ねえねえ、紅組の代表リレーのアンカーが欠けちゃったんだって」

 

「ええっ!? じゃあ、代わりのランナーどうするの!?」

 

「白組のアンカーって、確かラビリスさんでしょ」

 

 新聞部の共有スペースで黙々とキーボードを打っていると、そんな話し声が聞こえて手を止めてしまった。何でも、誤って劇物を口にしてしまって保健室行きになってしまったとかなんとか。どうでもいいが、うちの新聞部は情報を掴むのが速いと今更思う。

 それに、紅組と言えばあの悠が所属している組だったはずだ。しかもアンカーが抜けるとなると、大きな痛手になる。白組のアンカーは全国大会に出場する選手でも太刀打ちできない実力を持つ選手だったはずだ。

 

(でも、僕には関係ないか)

 

 気になる情報のはずなのに、佐々木は再び視線をパソコンの方に移してしまった。自分には関係ない、もとい自分がどうとできる問題ではない。そう思ってしまったから。

 

(はは、僕は相変わらずだな。せっかく、変われたと思っていたのに……)

 

 

「あっ! 鳴上くんだ!」

 

 

 女子が黄色い声を上げたので、ふと見ると今まさに気にしていた悠にバトンが渡ったところだった。ここまでの経過を見てみると、紅組が白組に大きく差をつけられて劣勢。これでアンカーにバトンが回ったらまず勝てないだろう。頑張っても無駄なのにと思っていたその時、

 

 

 

 

「お兄ちゃ──ん! 頑張れぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 刹那、悠の足が加速して一気に差を縮めた。

 

(あ、あの子がブラコンで鳴上もシスコンだってことは聞いてたけど、ここまでか!?)

 

 あまりの単純さに内心呆れつつも驚いてしまう。自分と同じことを思ったのか、白組の選手も妹の声援だけで一気に差を縮められたことに口をあんぐりを開けていた。だが、白組優勢と思われていた展開が一気にひっくり返ったので、会場の熱気は一気にヒートアップした。

 

 そして、アンカーが位置についた瞬間、会場からどよめきに似た声が上がる。何故なら、白組だけでなく欠員がでたという紅組のレーンに一人の選手が入ったからだ。いや、観客にとって驚きだったのはその選手は音ノ木坂学院で見たことがない人物だったからだ。

 だが、一部の人間はその人物を知っている。

 

 

「あいか、頼む!」

 

 

 紅組レーンに入り、悠からバトンを受け取った選手の正体はなんと稲羽市の名物出前娘【中村あいか】だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~競技開始前~

 

「な~るかみくん、久しぶり」

 

「あ、あいか!? 何でここに?」

 

「出前、お届けにきたぁ」

 

「へっ?」

 

 そこにいたのは岡持ちを手にした稲羽にいるはずのあいかだった。こちらが驚愕しているに対し、本人は相変わらず淡々とした表情だった。

 

「私が頼んだの。あいかちゃんがちょうどこっちに来てるって聞いたからね」

 

「鳴上くんの叔母さん、私のお得意様」

 

「……ちょっと何言ってるか分かんない」

 

 詳しく聞いてみると、偶々親戚をお店の手伝いをしに東京を訪れたところ、それを知った仲が良いお得意様である雛乃が呼んだらしい。

 そう言えば、あいかはポロニアンモールにあるラーメン屋【はがくれ】に親戚がいて偶に手伝いをしに来ていると本人から聞いたことはあるが、まさかこんなタイムリーな日にとは思いもよらなかった。

 

「それよりも、レースのランナーが足りなくて困ってる?」

 

「な、何でそれを……?」

 

「傍で聞いたから」

 

「そ、そうか……」

 

「もし良かったら、私が力になる」

 

「へっ?」

 

 それは嬉しい情報だった。あいかは神出鬼没もさることながら足も十分に速い。あの千枝や雪子がごぼう抜きと称賛するほど俊足で、稲羽で行われた町内対抗リレーであの陽介に匹敵、否追い越すほどだったので、これならラビリスにも対抗できそうだ。

 

「でも、いいのか?」

 

「……鳴上くんは私に大切なものを教えてくれた。だから、今度は私が鳴上くんに恩返しする番」

 

 無表情のあいかの目から真剣な感情を感じる。普段見せないあいかのその表情に悠は驚いてしまったが、彼女がこんなに真剣なら断る方が悪い。

 

「その代わり、今度稲羽に帰ったら、肉丼たくさん注文して」

 

「あ、ああ……」

 

 やはり商魂も凄まじい。悠の生返事を聞いて、あいかはしてやったりとVサインを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は戻って、アンカー戦。一歩遅れてスタートしたあいかはその実力を存分に発揮した。

 

「何あの子! 足はやっ!?」

 

「ラビリスさんに遅れを取ってないなんて……! あんな子、学校にいたっけ?」

 

「うおおおっ! 面白いことになってきたああ!!」

 

 まさかの展開に新聞部のみならず、このレースを見ている全ての人々が熱狂した。全国クラスの実力を持つ者でも対抗できないと言われていたラビリスに謎の助っ人少女が並んでいる。

 目の前に広がるデッドヒートに自分もキーボードを叩く手を止め、思わず立ち上がってしまった。身体が熱い。激しい運動をした訳でもないのに、心がバクバクしてしまう。そうだ、これは興奮だ。久しく感じていなかった興奮だ。

 たかが体育祭なのに、こんなに興奮したのは久しぶりだ。そして、

 

 

「いっけえええええええええええええ!!」

 

 

 果たして、結果は如何に……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいか、お疲れ。大活躍だったな」

 

「ううん…………負けちゃってごめん……」

 

「き、気にしないで、あいかちゃん! あいかちゃんのお陰で盛り上がったから!」

 

「そうですよ! あいかさんが出前してくれた“はがくれ丼”もおいしいですし」

 

「フォローになってないわよ、それ」

 

 無事に体育祭は閉幕した。今は全校生徒総出で後片付けをして後夜祭が開かれている。と言っても、各々好きな場所でで好きなことをしてもいいという形式なので。悠たちはμ‘sはいつもの部室であいかが持ってきてくれたラーメンや丼で後夜祭を楽しんでいた。

 結果として、あいかはラビリスに勝つことが出来なかった。中盤まではいい勝負だったのだが、勢い余ったラビリスが少し本気を出してしまったのだ。ラビリスに負けて悔しいのか、珍しくあいかが無表情を保ったまま落ち込んでいたので、慰めるのに苦労した。

 

 だが、体育祭は例年以上の盛り上がりを見せ、参加した生徒も満足気な表情で後夜祭を楽しんでおり、来賓も見学しに来たご父兄も音ノ木坂学院の体育祭は良かったと話していたらしい。

 

「わあっ! 見て下さい。今日の体育祭ライブのPVが凄く評価されてますよ」

 

 花陽が部室のパソコンで動画サイトをチェックしていた。今回の体育祭ライブは第二回ラブライブの予選条件である“未発表”の曲で臨んだものだっただけに反応が不安だったが、画面に映るコメントや評価蘭を見る限り、結果は上々だった。

 

「ちょっと飲み物を買ってくる」

 

「あっ、お兄ちゃん。ついでにことりのも頼まれてくれるかな? レモンティーで」

 

「じゃあ、私はミルクティーで!」

 

「凛はオレンジジュースがいいにゃ!」

 

「ちょっと! 悠さんに色々頼み過ぎです! 飲み物なら私が行きますから」

 

「いいんだ、海未。行ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 部室を出てゆっくり歩いて購買近くの自販機までやってきた。ふと見える校庭の方を見ると、そちらで後夜祭を楽しんでいる生徒たちの姿が映る。各々が互いを称え合い、今日という日を振り返りながら笑いあう生徒たちの光景を見て、色々あったが頑張って良かったと心から思った。

 

「やあ」

 

 すると、後夜祭の様子を少し後方から眺めていた悠に佐々木が声を掛けてきた。どうやら佐々木もここの自販機に用事があったらしい。

 

「新聞部の方はいいのか?」

 

「ああ、少し疲れたから外させてもらったよ」

 

「そうか」

 

「……今日はありがとう。君と出会えたお陰で新聞部の皆と改めて分かりあって、元に戻ることも出来た。一歩前に進めそうな気がしたよ」

 

「それは良かった」

 

 今回の体育祭は佐々木にとっても色々と転機のキッカケになるものだったらしい。

 

「それと、ここに来たのは君に言い忘れてたことを思い出してね。それを伝えに来たんだ」

 

「何だ?」

 

「1つ気になったことがあって。僕の取り調べをした桐条の人から見せてもらった脅迫状だけど、あれは僕のじゃない」

 

「えっ……?」

 

 脅迫状とは悠とことりが部室で発見したワープロ文字で書かれた文章のことだろう。あれは佐々木本人が部室に侵入して置いたものだったと思っていたが、どうやら違っていたらしい。

 

「文章は僕が書いたものだけど、紙が違ったんだ。あの紙は……学校の印刷室で使われてるものだった」

 

「じゃあ……!」

 

「多分、僕は君たちの部室に脅迫状が置かれる前に記憶がなくなってることになる。現に僕は君たちの部室に侵入した覚えはないし、鍵が掛かってる部屋に侵入するなんて技術も持ってない。おそらく、犯人は学校関係者の中にいる。それも、この学校のマスターキーを使える……誰かだ」

 

「…………」

 

「ここからは君たちに託すことにするよ。僕が言えた義理じゃないのは分かってるけど……必ず、事件を解決してくれ」

 

 佐々木はそう言い残すと、今度はそのままこの場から立ち去っていった。残された悠は新たに浮上した疑問に思考を巡らせていた。

 

 

(脅迫状は佐々木が置いたわけじゃない。誰か共犯者がいたんだ。でも、佐々木は自分だけで事を犯そうとしたと言っている……どういうことだ?)

 

 

 考えれば考えるほど分からなくなっていく。一体誰がこんなことを仕組んだのか? 心当たりがあるとすれば、あの時目に映った赤コートの人物だが、それも一体何者か? ますますこんがらがってくる。

 だが、悠はフウと一息吐くと、立ち上がってその場から去っていった。そして、

 

 

「あっ、悠さ~ん、お帰りなさい。こっちであいかちゃんが持ってきてくれたもの一緒に食べよう! この餃子、美味しいよ!」

 

「お兄ちゃ~ん! こっちのチャーハンもおいしいよ!」

 

「悠くん、こっちも」

 

「ああ、今行く」

 

 

 新たなる謎が残った。でも、今はこの時を楽しもう。かけがえのない大切な仲間たちと過ごすこの時間を。

 

 

To be continuded.




Next Chapter


――私はあとどれくらいで貴方に追いつけるのでしょう?


#102「Love & Comedy ~Centimeter~.」

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