PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

毎度投稿が遅くなってになってしまい申し訳ございません。今回の体育祭の話は一話で終わらせるつもりでしたが、時間の関係で2話に分けることにしました。

私信で、先日【Fate/Stay night Heven's Fell】の3章を観に行きました!最後というに相応しいクオリティだったのでとても興奮しました。UFさん本当にありがとう!鬼滅の刃も楽しみです!

改めて、誤字脱字報告をしてくれた方・高評価をつけて下さった方・感想を書いて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

それでは、本編をどうぞ!


#100「Sports Festival 1/2」

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 

 

…………美しいピアノのメロディーが聞こえてくる。

 

 

 

「ようこそ、ベルベットルームへ」

 

 

 

 聞き慣れたそのメロディーで目を覚ますと、いつものようにベルベットルームの椅子に腰かけていた。今回この部屋にいるのはマーガレットだけだった。

 

「本日、我が主とエリザベスは留守にしております。先日あの子たちは大変だったわね。私は体重なんて気にしたことないから、あの子たちが強いられたダイエットとやらの苦しみはよく分からないけど…」

 

 確かに、去年出会ってからマーガレットのスタイルは全然変わっていないように見える。この夢と現実、精神と物質の狭間にあるベルベットルームの住人にはそんなものは無縁なのかもしれない。

 

「それはともかく、本日貴方の学び舎では“体育祭”という催しが行われるそうね。元は貴方の世界でいう明治時代に士官学校が学生の非行を防ぐ息抜きのために始まったとされる、若者たちが各々の力をぶつけ合う熱き戦い……ふふふ、私も是非とも観に行ってみたいわ。でも、貴方と一緒にいるところを見られたら、あの子たちが嫉妬してしまうかもしれないし……」

 

 何か企んでいそうな意味深な笑みを浮かべるマーガレットに何だか嫌な予感を感じた。妹のエリザベスはあんな性格のためイベントに乱入してくることは想定できるが、まさかマーガレットも……

 

 

 

(深く考えないようにしよう…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音ノ木坂学院はかつてない活気と熱気に溢れていた。

 

『ただいまより、今年度の音ノ木坂学院高校体育祭を開催いたします』

 

 

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」

 

 

 

 今日は学校行事の一つ、体育祭が開催されていた。

 

 

 

 

 

 

 

「うわあ……すごい熱気……」

 

「去年より盛り上がってるわね」

 

「まあ、今年はね」

 

「てか、元女子高なのに男子も女子も獣みたいな雄叫び上げてたんだけど、大丈夫?」

 

 音ノ木坂学院は今年発足されたスクールアイドル【μ‘s】による夏前のオープンキャンパスや学園祭、極めつけに先日放送されたの絆フェス出演による活躍で入学希望者が殺到したため、春から危惧されていた廃校の話は正式になくなった。それにより、今回の体育祭を見学しようと大勢の中学生やそのご父兄が集まっている。

 生徒たちも廃校の話がなくなったからと言って気を抜かず、もっと学校を盛り上げて行こうという雰囲気になっているので、例年より体育祭に対する活気が溢れ返っていた。何だか八十神高校の体育祭とは全然違うなと悠は思ったが、言わないようにした。

 そして、午前中最後のプログラムにはそのμ‘sによるライブも予定されている。

 

「さて、俺たちも負けずに盛り上がらないとな」

 

「うん! 穂乃果は悠さんと海未ちゃんと組は違うけど、負けないよ!」

 

「臨むところです」

 

 音ノ木坂学院の体育祭は紅組・白組の2組に分かれて勝敗を競う形式だ。ちなみに悠たちの組み分けは

 

 

紅組:悠・海未・花陽・希・絵里

白組:穂乃果・ことり・凛・真姫・にこ・ラビリス

 

 

 と言った具合になっている。割り振りが何時ぞやのアンケートで投票が入った組と入らなかった組で分かれているという訳ではない。

 

「ラビリスちゃん、とてもワクワクしとるな。そんなに楽しみなん?」

 

「うん、こんなウチも体育祭に参加させてもらえてとても嬉しいんよ。鳴上くんの叔母さんや美鶴さんに感謝や」

 

「ああ……」

 

 一方、ラビリスは初めての学校行事にワクワクしていた。当然その監視役としてシャドウワーカーの人間も数人父兄席に紛れ込んでいる。具体的にはアイギスと真田、更には特別捜査隊の仲間である直斗の姿がある。

 ちなみに、りせも午前中に仕事が終わったら見に来るらしい。何か差し入れも持ってくるとメールに書いてあったが、嫌な予感がしたのは気のせいだろうか。

 

「うううう……お兄ちゃんと争わなきゃならないなんて……」

 

「ことりちゃん、ずっと前からそう言ってるよね?」

 

「そろそろ踏ん切りをつけてください」

 

 一方、ことりは大好きな悠と違う組になったことに納得いかない様子だ。その具合は驚くことに、母がいる理事長室まで直談判しに行ったほどらしい。当然その訴えは聞いてもらえることはなく、更には同じ組になった天敵の希が以前より悠とイチャイチャし始めたので、ことりの沈み具合は激しさを増した。

 お陰で家に帰る度に普段以上にべったり悠に甘える頻度が多くなって、雛乃の視線が以前に増して鋭くなったり勉強どころではなくなったりして、悠にとって散々だったのは別の話。

 

「ことり、俺もことりと一緒の組になれなかったのは残念だと思ってるよ。でも、俺は今日の体育祭で手を抜くことはない」

 

「えっ?」

 

「体育祭にしろ何にしろ、真剣に勝負して勝ち負けがあるから楽しいんだ。手を抜かれて勝っても嬉しくないだろ?」

 

「うん…」

 

「だから、今日は敵どうし精一杯頑張ろう。これが終わったら、いつも通り俺に甘えていい」

 

「うん……うんっ! 分かった。ことりも、今日は全力でお兄ちゃんたちに勝ちに行くよ!」

 

「その意気だ」

 

 いつも通りに悠が上手い具合にことりを諭してくれた。最早ことりの扱いが免許皆伝と称すべきほど慣れているのではないかと思わせるほどの手際だ。

 

「あっ、じゃあお兄ちゃん、この体育祭でことりたち白組が勝ったら部屋を一緒にしてね♡」

 

「えっ? 流石にそれは」

 

「お兄ちゃん……おねが~い♡」

 

「わ、分かりました……」

 

「やったあ!」

 

 訂正、ことりの方が一枚上手だった。何だかとんでもないことを言われた気がして流石にそれはと言いかけたが、ことりの必殺涙目+上目遣いのコンボには勝てなかった。

 そんな兄妹のやり取りを見て、穂乃果たちはやれやれと言わんばかりに嘆息した。

 

「みんな、絶対勝つぞ。そうしないと、俺が危ない……」

 

「悠くん、それはウチでもあんまりやと思うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 色々すったもんだはあったが、本格的に体育祭の競技がスタートした。

 

 

 

────徒競走

 

 昔ながらの足の速さを競うこの競技。この競技にはμ‘sのほとんどのメンバーが参加していた。

 

「おおっ!? 悠さん速いよ!」

 

「悠と走ってる人たちってほとんど運動系の部活動に入ってる人たちよ。凄すぎだわ」

 

「そう言ってる絵里ちゃんだって、結構速かったよ。あと運動苦手そうな希ちゃんも」

 

「ほ~のかちゃん、ちょっとワシワシしに行こうか?」

 

「ひいっ!?」

 

 夏休みの地獄の特訓が効いたのか、ほとんどのメンバーが上位に食い込んでいた。そして、余計なことを言った穂乃果は希に校舎裏へ連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

────パン食い競争

 

「今でもこんな競技があるんだな……」

 

「良いんじゃない? 定番だし」

 

 ちなみに、この競技のためだけに腹をすかせた穂乃果はぶっちぎりの一位だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────男子生徒によるソーラン節

 

 元女子高だった故に男子生徒の数はまだ全体の半分にも満たないが、それでも男子生徒たちによるソーラン節は圧巻だった。中でも異彩を放っていたのは圧倒的な表現力を有する我らが悠だった。故に、

 

「さあさあ、鳴上くんのソーラン節写真だよ! 一枚500円!」

「は~い! 買ったぁ!!」

「ちょっと! お兄ちゃんの写真は転売禁止! これは没収だよ!!」

「げっ!?」

 

 このようにこっそり悠のソーラン節姿を盗撮していたファンの女子たちの元に最強のブラコン妹が襲来したとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

────借り物競争

 

 

 定番中の定番であるこの競技は悠が参加していた。悠が参加するのを見て、穂乃果たちのみならず何故か他の女子生徒たちも祈るように手を合わせていた。

 

「……穂乃果たちは何をしてるんだ?」

 

「さあ? 多分、鳴上が自分を呼んでくれることを期待してんじゃね?」

 

「何で?」

 

「………………」

 

 一緒に出場している同じクラスの後藤くんは“ちょっと何言ってるか分かんない”と言わんばかりにキョトンとする悠の顔面をぶん殴りたくなった。

 

 

 そして、時間が経ってついに悠の番が回ってきた。スタートを告げる空砲が響くと出場選手が一斉に駆け出した。一直線にお題の紙が置いてある台へ向かい、己がこれだと直感したものへと手を伸ばす。

 

「ラビリス、一緒に来てくれるか?」

 

「えっ!?」

 

 悠がラビリスを指名したことで周りはざわついた。一体どんなお題を引き当ててラビリスを選んだのか気になるところだが、そうこうしているうちに悠はラビリスの手を引いて担当者がスタンバイしているレーンへと駆け出していく。

 

「はいはい、お題は……【大切な人】ですね」

 

「へっ?」

 

 発表された内容に周りの時が一瞬止まった。呼ばれたラビリスでさえ一瞬何のことか分からず呆けたかと思えば、また瞬時に顔を赤くする。更には何故かシャドウ兵器なのに内側の鼓動が激しくなる。

 だが、それは次の悠の言葉で静まることになった。

 

「いや、そうだろ? ラビリスも俺にとって大切な人…仲間だ」

 

「………………はっ?」

 

「えっ? ラビリスは違うっていうかもしれないけど、俺にとってラビリスは大切な仲間だし…」

 

「…………………」

 

「えっ? ラビリス? えっ? ちょっ、どこに………いたっ!」

 

 この後、何故かイラっとした顔になったラビリスに校舎裏に連れて行かれてチョップを喰らった。シャドウ兵器のチョップは尋常じゃないほど痛く、その上どこからか校舎裏にやってきたことりたちに一体どういうことなのかと尋問も喰らった。

 

 

 

 

 

 

「お、俺が……何をしたっていうんだ……」

 

 尋問から解放されたは良いが、既に満身創痍だった。お陰で次のイベントであるμ‘sのライブの裏方に行けそうにない。

 

「……やっぱり貴方は兄さんの子ね」

 

 すると、そんな悠の前にやれやれと呆れた表情をした雛乃が現れた。

 

「お、叔母さん?」

 

「この際だから言っておくけど、女の子を勘違いさせることをしちゃダメよ。女の嫉妬は怖いんだからね」

 

 雛乃は人差し指で悠の額をつんと優しく突くと、物騒な言葉を残してその場を去っていった。それがどこか実体験を元にした警告のように聞こえたので、悠は心に留めておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブも無事に終わってお昼休憩の時間、音ノ木坂学院の生徒たちは各々の家族と共に昼食を取っていた。ちなみに悠は家族である雛乃とことりはもちろん、穂乃果と菊花、そして海未たちと昼食を取っている。

 

「ごめんなさいね、悠くん。貴方も忙しいのにお弁当作ってもらって」

 

「いえ、これくらいは。何人分作ろうが手間は同じですし、折角菊花さんたちも一緒なので」

 

「わあ、今日もお兄ちゃんのお弁当は美味しそうだね」

 

「う~ん! やっぱり悠さんの弁当は美味しい!」

 

「ちょっと穂乃果、ちゃんと手を拭いてから食べて下さい!」

 

 今日の弁当はおにぎりと卵焼き、そして唐揚げといった運動会の定番中の定番のおかずだ。それでいて、味付けもシンプルで運動した後に最適だと思ったもので仕上げている。ライブ後で疲れていたのか、穂乃果の食欲がいつもより旺盛のようだ。

 

「あらあら、ありがとうね。未来の義母さんにも作ってもらって」

 

「きーちゃん? それはどういうことかしら?」

 

「え~? 何のことか分かんないわあ?」

 

 そして、毎度の如く菊花と雛乃が静かに火花を散らしている。比較的近くにいる悠は思わず冷や汗を掻いてしまうが、何とか平常心を保って箸を進めた。同時に遠くから久方ぶりの殺意の投影みたいなものを感じたが、そっとしておいた。

 

 

「貴方が鳴上くんね。改めて初めまして、海未の母です」

 

 雛乃と菊花が笑みを浮かべて睨み合っている最中、悠に話しかけてきたのは今回初めて会った海未の母親【園田水菜】さんだ。海未の母親だけあって気品があり、高級料理店の女将さんのような雰囲気を持った人物だった。

 

「は、初めまして。いつも海未にはお世話になってます」

 

「まあまあ、そんな。こちらこそいつも娘がお世話になっているのに。本当に雛ちゃんのお兄さんに似て、ハンサムで礼儀正しいのね。これは海未が惚れるのも納得ね」

 

「お、お母様!? それ以上は」

 

「そう言えば、今度海未と山登りに行くんでしょ? 海未ったら、余程あなたと山に登るのが嬉しいのか入念に下調べもしててね。この間の休日は一緒に道具も買いに行ったんでしょ? 海未がとても楽しかったって嬉しそうに言ってたわ。あんな顔するなんて初めてだから、うちの人が相当複雑そうでね」

 

「も、もう!!」

 

 目の前で繰り広げられる園田親子のやり取り。何と言うか、流石海未の母親なだけあって娘を上手く転がしている。海未はもう敵わないと諦めているのか、後半はただただ顔を赤くして俯いていた。

 

「んん? 悠さん、海未ちゃんと山登りってどういうこと?」

 

「お兄ちゃん? ことり、そんな話聞いてないけど……どういうことなのかな?」

 

「「あっ……」」

 

 内緒だったはずの約束を母親に暴露されてしまった。当然そんな話など聞いていない穂乃果とことりがどういうことなのかと詰問してくる。ことりに至ってはもう既に目のハイライトが消えていた。

 結論、緊急事態。

 

「そう言えば……この間お出かけにいったのって、海未ちゃんとデートを……?」

 

「えっ? えええっ!?」

 

「ゆ……悠さん、どどどどどうすれば……!」

 

「撤退だ。今は撤退しかない! さらばっ!」

 

「「あっ!?」」

 

 誤魔化せないと察した悠は事態をうやむやにすべく海未を連れて撤退する。だが、逃がすものかと穂乃果とことりも後を追いかける。絶対に2人での山登りのことを聞きだすために捕まえてやると言わんばかりの気迫に悠と海未は慄きながらも学校を駆け回った。

 

「はあ……何だか懐かしいわねぇ」

「そうね、私たちの学生時代を思い出すわ」

「あの頃はねぇ」

 

 娘たちが男を追いかけ回している光景を見て、何故か学生時代の郷愁の想いに駆られた母親たちだった。

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……何で体育祭でも、こんな目に遭うんだ……」

 

 追いかけっこを終えて一息ついた後、缶コーヒーを購入しようと自販機のボタンを押す悠。あの後、穂乃果やことりだけでなく噂を聞きつけた女子中学生たちや亜里沙にも追いかけられてちょっとした騒ぎになってしまったので、何故か先生たちに怒られてしまったのだ。こんな時は缶コーヒーを飲んで一旦落ち着くのが一番だ。

 

 

「やあ、ちょっといいかな?」

 

 

 すると、背後から誰かに声を掛けられたので振り返ってみると、私服姿らしいカジュアルな服装に身を包んで眼鏡をかけている青年が立っていた。この人物を悠は知っている。

 

「……お前は佐々木か?」

 

「ああ、久しぶりだね」

 

 それは夏休み前の学園祭、その時に穂乃果たちに忘れがたい記憶を刻んだ事件の首謀者【佐々木竜次】。あの事件の後、佐々木は学校を休学していた。雛乃の話では新学期が明けても中々登校して来ないので心配だということだったが、今日の体育祭は見に来ていたらしい。

 彼の学園祭事件の時の物静かな雰囲気は相変わらずだが、どこか憑き物が落ちた感じがした。

 

「実は……君に話があるんだ。あの事件について」

 

「……聞こう」

 

 

 

 

 

 ここなら誰の目も気にせず話ができるだろうとのことで校舎裏を訪れた2人。隣り合って壁に寄り添うと互いに購入した缶コーヒーで一服する。

 

 

「僕はただ、自分の書いた記事を誰かに認められたかったんだ」

 

 

 一息ついたタイミングで佐々木はおもむろにそう切り出した。

 

「……前にそんなこと言ってたな」

 

「ああ、こういうことを知ってもらいたい。間違っていることは伝えたい。そんなことを伝える記者になりたいと思ってジャーナリストになりたいって思っていたのに……やっぱり誰にも見向きもされないと、それどころじゃなくなってしまったんだ」

 

 佐々木が学園祭事件を起こした動機は単純な妬みだった。自分の学校新聞の記事は見向きもされなかったのに対し、穂乃果たち【μ‘s】は短期間で注目の的になったことを僻んだ結果があの事件だった故に、そう振り返ったのだろう。

 

「今のマスメディアは人の細かい失敗や性癖なんかを粗さがしのように掘り返す。こうなったのは、この世の人たちは多分刺激を求めてると僕は思ったんだ」

 

「刺激?」

 

「この世の人間全員とは言わないけど、平和に日常が続いてる今この時間の中で退屈を殺すための刺激を欲してる。いい例がテレビや漫画やアニメ。そして、ニュースなどで報道される事件とかだ」

 

「………………」

 

「他人の不幸は蜜の味とは言ったものだよ。自分たちは当事者じゃないからって、好き勝手にあれこれ憶測して考察して、当人たちのことなんて何も知りもしないでその勝手な憶測や考察をSMSなんかで拡散して無意識に攻撃する。それが楽しい、これが正義だと思う人間が、このネット社会に多くいるんだろう。この悪しき風習はもう世界中に根付いてるよ。この風習のせいで、人生を壊されたり、自殺したり、殺されたりしている人が多くいるにも関わらずね」

 

 その佐々木の言葉は悠の心にストンと落ちていった。稲羽の連続殺人事件を特別捜査隊の仲間たちと追っていた去年、今思い返して見れば自分たちもその身勝手な人間の一人だったのかもしれない。

 殺された被害者たちやあの事件の犯人だった生田目太郎や足立透がどんなことがあって犯行に及んだのか知らずに、自分勝手な正義を振りかざして間違いを起こしそうになったのだから。

 

「人の悪口を仲間内で言うのは“凡人”、口にしないのは“賢人”、不特定多数に発信するのは“暇人”。前に読んだことがある漫画の言葉なんだけど、今のこの風習の原因になってるのはこの暇人たちだ。今のこの風習をなくそうと思うなら、暇人たちを一人残らず根絶しようとしない限り……なくならないんだろうな」

 

「…………」

 

 何とも極端な話だと思った。そんなことを言ったら、この世の人間全員がその暇人の分類に入ってしまうではないか。だが、悠はその言葉を否定することはせず、ただただコーヒーを一口飲んだ。

 

「それでも俺は……いつかなくなるって信じてる。そのために、俺たちは誰に何を言われようとも伝え続けなければならないんだ」

 

「えっ?」

 

「お前が言ってた暇人たちは全て知っているような言葉を投げかけるけど、本当は何も知らない訳だろ? お前がどんな思いで記者になろうとしたのか、何を伝えたかったのかを」

 

「……………………」

 

「そんな上辺だけしか知らないような暇人たちに振り回されるのはダメだ。自分が決めたことを最後まで信じることが、俺たちには大切なんだと俺は思う。最初はただ孤独で心が折れそうなこともあるだろうけど、本当のお前を分かってくれる人たちにいつか巡り合えるはずさ。俺も……そうだったから」

 

 語り終えて改めて稲羽でのことを思い返す。陽介や完二、千枝ほどではないにしろ、自分もあの町では最初都会からきたというだけで偏見的な目で見られていた。それでも、陽介や千枝たち特別捜査隊の仲間や堂島と菜々子のお陰で、己を通すことができた。いつも孤独だと思い込んでいた自分にそれは違うと気づくことができた。だから、佐々木にもきっと。

 悠の言葉を聞き終えた佐々木はふと空を見上げると、思わず笑みをこぼした。

 

「……そうだな。君と改めて話ができて良かった。お陰で僕も、やり直せる気がするよ」

 

「これから、どうするんだ?」

 

「ひとまず、学校に戻ることにするよ。以前のような生活ができると思わないけど、前を向けるように頑張るさ。君たちも……頑張ってね」

 

「ああ、もちろんさ」

 

 どうやら佐々木の役に立つことはできたらしい。スッキリした表情になった佐々木は立ち去ろうと足を進めた。その時、

 

 

 

 

「大変大変! 悠さん、大変だよ!」

 

 

 

 

 どこかパニックになった穂乃果が校舎裏に走ってやってきた。突然の穂乃果の訪問に悠のみならず佐々木も戸惑っている。

 

「えっ? 穂乃果、どうしたんだ」

 

「とにかく早く来て! とりあえず、そっちの人も!!」

 

「えっ? 僕は……」

 

 余程パニックになっているのか、穂乃果は悠のみならず佐々木の手まで引っ張ってどこかへ走って行く。一体どうしたのかと悠と佐々木は顔を見合わせるが、その答えは連れて行かれた先にあった。

 

 

「「えっ…………」」

 

 

 連れて行かれたのはμ‘sの共有スペース。そこには腹を抱えて気絶しているメンバーの姿があった。これは、一体どういうことだろうか…?

 

 

To be continuded.


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