PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

毎度投稿が遅くなってになってしまい申し訳ございません。今度は張り詰めていた空気から解放されて……今回は遅かった割に内容は少し薄いくなっているかもしれませんが、それでも楽しんで貰えたら幸いです。

改めて、誤字脱字報告をしてくれた方・最高評価と高評価をつけて下さった方・感想を書いて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございました!

それでは、本編をどうぞ!


#99「Planning to be on a diet.」

♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 

 

 

…………美しいピアノのメロディーが聞こえてくる。

 

 

 

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

 

 

 聞き慣れたそのメロディーで目を覚ますと、いつものようにベルベットルームの椅子に腰かけていた。今回もこの部屋には主であるイゴールとその従者であるマーガレットが待っていたのだが、どこか雰囲気が違う気がする。何と言うか、先ほどのイゴールの声色がどこか元気がないように思えるのだが。

 

「ふふふ……先日のデートはお疲れだったようですね。先日事の顛末を聞いたマリーがこの部屋で暴れて大変だったの。主が大切にしていた1944年もののシャトーなんとやらのワインがダメになったりしてね。私はこの展開は読めていましたので、被害は幾分ともありませんでした」

 

 なるほど、先ほどからイゴールが普段以上に物静かだったのがよく分かった。事情を聞いたからか、手を組んで厳かに座っている奇怪な老人の姿がどこか哀愁を帯びているように思えてきた。

 

「それはそれとして……落ち込んでいる主に代わって占ったところ、この先から貴方の物語が大きく変化するとの結果が出ました。もうすぐ大きなイベントもあることですし、今は足元を地道に固めることをお勧め致します。まあ、それよりも厄介なことが起こるかもしれないけど……ふふ、ふふふ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 りせとの怒涛のデートから数日後、平和な日常が続いていた。

 南家のリビングにて悠は受験勉強、ことりは次のライブで使う新衣装の制作に取り掛かっている。先日の絆フェスがより良い刺激になったのか、サクサクと進める手際からやる気がにじみ出ている。そんな従妹を微笑ましそうに眺めながら、悠は受験勉強に集中する。

 

「悠くん・ことり、西木野さんの病院から健康診断の結果が来たわよ」

 

 すると、仕事から帰ってきた雛乃が二つの封筒を持ってリビングに入ってきた。封筒の右下端には【西木野総合病院】と書いてある。

 

「ありがとうございます、叔母さん」

 

「もう来たんだ。早いね」

 

 実は絆フェス事件の後、直斗の提案で皆は健康診断を受けていた。去年の事件と同じく、あのマヨナカステージに長時間滞在して身体に何か異常はないのかを調べるのが目的らしい。稲羽の時は全員何ともなかったのでやらなくてもいいのではという意見もあったが、今回はあの時とは別の世界だったので、念のためにという直斗の強い反論もあって全員受けてもらったわけだ。

 2人は雛乃から渡された封筒を開けて自身の結果をチェックする。

 

「お兄ちゃん、どうだった?」

 

「普通だった。何の異常はなかったぞ。ことりはどうだった?」

 

「うん、こっちも何の問題もなかったよ。でも……」

 

「あら? ことり、ちょっと胸まわりが大きく」

 

「お、お母さん!?」

 

 娘の検査結果をチラッと見てそう呟く母にことりはカッと赤くなる。どうやら愛しの妹はまだまだ成長期らしい。成長期と言えば海未やにこはどうなっているのだろうかと思っていたが、何故か背筋に悪寒を感じたので詮索を止めた。

 

 とりあえず、自分とことりの結果を報告しようと、悠は直斗に連絡を入れた。

 しかし、今回の健康診断が面倒事を引き起こしていたことはこの時点では知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 授業も終わり放課後、いつも通りアイドル研究部の部室に行くと、何故か重苦しい雰囲気に包まれていた。その原因は恐らく正座させられている穂乃果と花陽の前で仁王立ちしている海未だろう。

 

「何があったんだ?」

 

「残念なことが分かってしまいました。とりあえず、席について下さい」

 

 無表情に抑揚のない口調でそう言う海未にたじろぎつつも、悠はその言葉に従った。

 そして、続々とメンバーが部室に集まって全員が揃ったと同時に海未は告げた。

 

 

「お2人に聞きます。この健康診断の結果はどういうことですか?」

 

 

 同じ表情と口調で問いただす海未に件の穂乃果と花陽は懺悔するように事を話した。

 

 端的に言うと、先日の健康診断の結果から穂乃果と花陽の体重が増加、つまり太っているということが判明したらしい。

 昨夜穂乃果の健康診断の結果を妹の雪穂と母の菊花が閲覧したところ、以前より体重が大幅に増えていたことを確認した。先日まで激動な日々を送ったにも関わらず、この結果に至ったのは恐らく日々の暴飲暴食と過剰な間食が原因であるのだが、当の本人は事態を重く見ずのほほんとしていた。これではまずいと思った菊花は強硬手段として春のファーストライブ時の衣装を着せて、その事実を突きつけたらしい。

 花陽も穂乃果に負けず劣らず大好物である白米を過剰に食していたため、同罪である。

 

「全く、夏休みにあれほど練習して、絆フェスやマヨナカステージのこともあったのに、この結果はどういうことですか!?」

 

 予想できなかったまさかの事態に海未はこれでもかというほどの雷を落とした。怒られる穂乃果と花陽はもちろん、端から様子を見ていた悠たちでさえ慄いてしまう。

 

「お、落ち着け海未。見たところ、2人ともそんなに太ってるようには」

 

「これを見てもそう言えますか?」

 

 あまりにも一方的に責められて可哀想だったのでやんわりと落ち着かせようとすると、海未が複数の写真を突きつけた。

 見てみると、ある写真にはファーストライブでの衣装が入りきれずあたふたする穂乃果や泥棒のようにこっそり冷蔵庫からお菓子を拝借する穂乃果、更には所構わずに特大サイズのおにぎりを某腹ペコ姫のようにもぐもぐと食べ続ける花陽のあられもない姿などがバッチリ映っていた。

 

「いいいいいいつの間に、そんな写真をっ!?」

 

「ちょちょちょっとおお!? その写真を悠さんだけには」

 

「黙りなさい」

 

 写真を抹消しようと騒ぐ穂乃果と花陽を音で黙らせる海未。流石の悠も、この事態は看過できないと判断したのかお手上げと言わんばかりに両手を上げた。それはつまり、死刑宣告。

 

「いいですか! これからラブライブの予選もですが、2週間後には体育祭だってあるんですよ!? 体育祭では理事長の計らいでライブもやるんですから、そんな体たらくではお客さんに顔向けできません!」

 

「「ひっ……」」

 

 突きつけられた現実に穂乃果と花陽が項垂れる中、悠たちは何も言えなかった。

 絆フェスの事件ですっかり忘れていたが、確かに2週間後には学校行事の一つである体育祭が開かれる。その上、ラブライブのアピールにと理事長の雛乃の計らいでライブもやる予定もあるので、海未の言い分は尤もだ。

 

「とにかく、それまであなた達には、みっちり絞ってもらいますからね」

 

 怯える罪人たちに海未は懐から【ダイエット ギリギリまで絞るプラン】と書かれた紙を突きつけて、そう宣言した。

 

 

 

 

 

 

 そこから海未主導による【ダイエット ぎりぎりまで絞るプラン】が実行された。普段からストイックな海未が更にストイックに計画したダイエットプランはまさに地獄というべき内容だった。

 

 

~ダイエット初日~

 

 

「はあ……はあ……死ぬう…………」

 

「きゅ、休憩を……」

 

「ダメです」

 

 まずは神田明神の階段を全力ダッシュ。以前から朝練で何度もやってきたものだが、体重が増えている現在の2人にはまるで身体に重りをつけているのではと錯覚してしまうほど重いので、たった数本走っただけで息が上がっている。

 

「お疲れ様、ほら」

 

「あ、ありがとう……悠さん……うう、それにしてもお腹減ったよ。悠さん、何かお菓子は」

 

「穂乃果、間食しようとした罪でもう一本階段ダッシュです」

 

「しまったあああああああああああ!?」

 

 そして、計画中は太った原因となっている間食は禁止事項。もし破ろうものなら、このようなおしおきが下される。

 

「ねえ、もうこれダイエットというか、まるで軍隊の訓練みたいなんだけど」

 

「私もそう思う」

 

「ほらほら、そんなことでは痩せるなんて夢のまた夢ですよ。次は学校外のランニングなんですから、さっさと立ちなさい」

 

 このように、指導・監視をする海未は2人に慈悲を与えない。にこの言う通り、もはや軍隊みたいにしごかれている2人を見て流石にやりすぎではと訴えられても、短期間で2人を絞らせる目標を達成するため、海未は断固してシゴキを緩めようとはしなかった。

 

「ううう……海未ちゃんの鬼! 悪魔!!」

 

「ええ、結構です。私は貴方達を痩せさせるためなら、鬼にも悪魔にもなりましょう」

 

「……結果見たけど、海未ちゃんは相変わらず貧乳だったくせに……」

 

「(イラッ☆)ランニングの前に階段ダッシュを5本追加します」

 

「「ぎゃあああああああああああああああっ!!」」

 

 このような失言で量が更に倍にされることもしばしば。

 

 

 

 

 

 

 

「「ハァ……ハァ……」」

 

 

 神田明神でみっちりしごかれた後は、学校周辺をランニングだ。コースは事前に伝えてあるので、穂乃果と花陽は渋々と言った感じで走り込んでいる。2人のダイエットの他にも体育祭のライブに向けてやることは山積みなので、海未たちはついて来ておらず学校で練習に励んでいる。

 正直穂乃果たちは海未たちの目がなくなった今、すぐにでも逃げ出したい気分なのだが、逃げ出した後の海未が怖いので逃げようという気にならない。そう思っていると、

 

(ん? あれは……)

 

 ふと目にしたお店の看板に目をやる穂乃果。その看板には【GOHAN-YA】と書いてあった。

 

(はっ!?)

 

 看板でそこが何屋さんなのかを悟った途端、穂乃果はその場で足踏みしてしまった。何事かと振り返った花陽も足踏みしながら看板を見てフリーズする。言うまでもなく、白米は花陽の大好物だ。

 

(花陽ちゃん、行こうよ!)

 

(ダメ! ダメ!)

 

 誘惑にめっぽう弱い穂乃果は瞬時に思考がご飯のことでいっぱいになった。花陽も一緒にと何故かゼスチャーでご飯屋に誘うが、花陽もゼスチャーを使って拒絶する。それでも、穂乃果は食い下がった。

 

(でも、今なら海未ちゃんたちもいないし大丈夫だよ)

 

(それでも、ダメ!)

 

(えええ~~! 行こうよ! 花陽ちゃん!)

 

(NO! NO! NO! NO!)

 

 店の前でこんなやり取りを続ける2人だが、決着はすぐに着いた。

 

(ううううううう……YES! YES! YES!! 行こう! 白米が、私を待っている!)

 

(いえーい!)

 

 結局、穂乃果の根気と白米の誘惑に花陽も負けてしまい、2人は傍の定食屋の扉に手を掛けた。その時、

 

 

「寄り道はあかんよ」

 

 

 耳元から誰かの咎める声が聞こえた。そこには今にもゴム弾をこちらに撃とうとしているラビリスの姿があった。

 

「「ら、ラビリスちゃん……」」

 

 実は2人が自分たちの目が届かないところでサボってないか心配だったので、海未はラビリスに2人を見張ってくれと監視を頼んでたのだ。シャドウ兵器である彼女の体力は超人級であるし、持ち前の怪力で容易に2人を拘束することも可能。まさに穂乃果と花陽の監視にうってつけだった。

 

「さっ、ランニングに戻ろか」

 

「「はい……」」

 

 良い笑顔でそう威圧するラビリスに2人は隠れての寄り道ができない絶望感を味わいながら、トボトボとランニングを再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうしてダイエット計画が始まって数日が経った。すると、穂乃果と花陽に妙な変化が訪れる。

 

 

「「行ってきま~す」」

 

 

 あれほど学校外のランニングを嫌がっていた穂乃果と花陽が何故か自ら進んで走りにいったのだ。

 

「ダイエットは順調そうね」

 

「そうね、最初はどうなることかと思ったけど、あんなに積極的なら大丈夫じゃない?」

 

 始めた頃はボロボロでもう止めたいと散々言っていた2人があんなにも積極的にランニングに出るようになった。本人たちも危機感を持ったのか、これはいい兆候ではないだろうかとメンバーも2人に安心感を覚え始めた。

 

「おかしいですね……」

 

 しかし、感心する絵里たちとは対称的に、海未は訝しげな眼で2人の背後を見やる。このところ、あれほど嫌がっていたランニングをかなり積極的にやるようになっている気がする。何より、監視についていってるラビリスの表情がどこか浮かない感じなのが気になる。まるで後ろめたいことがあるかのように。

 海未と同じくあの3人の妙な雰囲気を感じ取ったらしい悠も目を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ランニングに行った3人は……

 

『ありがとうございました~』

 

「ぷは~! 今日もおいしかったね!」

 

 行きたがっていたお店【GOHAN-YA】で寄り道を終えたところだった。大好きなご飯を好きなだけ食べたのか、表情は幸せいっぱいだった。

 

「見てみて、これでサービスポイントが全部溜まったよ!」

 

「ということは……!」

 

「次はご飯大盛り無料~!」

 

「え、ええんかな……ダイエット中なのにこんなことして」

 

 2人とは対照的にどよ~んとした表情で思い悩んでいるのはラビリスだ。ちなみに、彼女は身体の関係でお店では水しか飲んでいない。

 

「ラビリスちゃん! 前も言ったけど、これは青春なんだよ!」

 

「そうです! 学校帰りに友達と一緒に美味しそうなお店に寄り道! これは今だからこそできるんです!!」

 

「ううん……これ学校帰りやなくないかな………」

 

 そう、2人はなんと偶然見つけたご飯屋に寄り道したいがために、ラビリスをこちら側へ誘う作戦に出ていたのだ。そして、その作戦はラビリスには効果てきめんだった。

 学校生活にようやく馴染み始めて、自分も普通の高校生として生活できていることに喜びを感じていたラビリスは“学生だからできる”だの“ここでやらなきゃ一生できないかもしれない”という言葉に弱く、まんまと2人の策に嵌ってしまったのだ。

 こんなラビリスの良心に付け込むようなことをして恥ずかしく思わないのかと言うと、大好物を目の前にした2人はそんなことなど微塵も思っていなかった。

 

 

「ほう……そういうことでしたか」

 

 

「「「「!!」」」」

 

 

 和気あいあいとした雰囲気は一瞬で去り、代わりに背後から凍てつく視線と殺気を感じる。恐る恐る振り返ってみると、笑顔なのに目がちっとも笑っていない海未と呆れ顔でやれやれと嘆息している悠が自分たちの視線の先にいた。

 

「う……海未ちゃん……そ、それに悠さんも……」

 

「ち、ちちちちちがうんです! ここここれは……」

 

「………………」

 

 まるで不正を暴かれた銀行員のように追い詰められた表情をする3人。海未は不気味な笑みを浮かべながら、怯え固まる穂乃果と花陽の肩をガシッと掴んだ。

 

 

「ふふふ、やはり貴女たちには逃げ道がない環境の方が良さそうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、ここか……」

 

「まあ確かに、ここなら逃げられる心配もあらへんけどな」

 

 海未が最終手段と言って2人を引きずり込んだのはテレビの世界だった。ここなら出入り口が一つしかないので逃げ場はない。どこかに寄り道はおろか脱走など不可能。そこまでしないとダメだと海未が判断したくらいなのだから相当な苦行である。

 余談だが、先ほど海未が2人をテレビに引きずり込むシーンが稲羽での黒歴史を彷彿とさせたので悠は少し気まずくなった。

 

「や、やば……」

 

「し、死ぬぅぅ……!」

 

 テレビの世界に連行されて待っていたのは、テレビの世界の音ノ木坂学院の校庭を延々とランニングさせられる苦行だった。やっていることはさして変わらないが、場所がテレビの世界であることと、逃げようにも逃げ道がない絶望感が2人の身体を更に重くしている。

 ちなみに、この出入り口付近の校門や校庭にはシャドウは出現しないことは調査済みなので、へとへとになったところで襲われるという心配はない。万が一の時には手が空いたメンバーも監視に加わるので、万全の布陣で穂乃果と花陽はダイエットに集中できるのだ。本人たちにとってはたまったものではないが。

 

 

 

「悠くん、どうしたん? 何か考え込んでるみたいやけど」

 

 すると、穂乃果たちがしごかれている様子を見ながらどこか物思いにふけっていた悠が気になったのか、希がそう声を掛けた。

 

「ん? ああ……ちょっと気になることがあってな」

 

「気になること?」

 

 気になることと言われて、思わず聞き返してしまった希。近くにいたことりたちも気になったのか、悠の言葉にそっと耳を傾けた。

 

「この世界の霧、前に来た時より薄くなってないか?」

 

「えっ?」

 

 実は悠が久しぶりにこのテレビの世界に訪れてどこか違和感を感じていた。試しにメガネを外してみると、確かに以前佐々木竜次の事件で訪れた時より霧が薄くなっていたのだ。まさかと思い希も確認してみると、確かに霧が以前よりも薄くなっているように感じた。

 

「あっ、本当や。確かに前来たよりも霧が薄くなっとる」

 

「これって、どういうことなんですか?」

 

「稲羽の時も、こんなことはあったの?」

 

「いや、そんなことはなかったはずだ。テレビの霧が稲羽の街に流れ込んできた時だって、あの場所の霧は変わらなかったし……」

 

「つまり、悠くんたちにとっても不可思議な事態、という訳やな」

 

 そう、希の言う通りこの事態は不可思議だ。稲羽の事件のように霧が濃くなったり現実に流出したりなどといったことなら分かるが、その逆はまさに予想外だった。

 何故、ここに来てこの世界の霧が薄くなってきたのか。理由については様々な推測ができるが、この事態に悠はどこか引っかかりを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終ダイエット計画が開始されて数日、穂乃果と花陽は部室で目をグルグルと回しながら倒れていた。どうやら今日もギリギリまで絞られたらしく、見ていて少し気の毒に思えてしまった。それよりも、指導と監視で疲れたのか窓の外をぼうっと眺めている海未が心配になった。

 

「海未、大丈夫か?」

 

「あっ……はい、ありがとうございます。大丈夫……と言いたいところですが」

 

 声を掛けてそっとグレープフルーツジュースを差し出すと、海未は申し訳なさそうに受け取った。頭痛がするのか、痛そうに額に手を当ててもいる。

 このところ穂乃果と花陽のダイエットの監督だけでなく、体育祭のライブの構成や新曲の作詞までやっている。そんな切り詰めた状態がここ最近ずっと続いていたのだから、疲労は尋常ではないだろう。

 流石に働き過ぎなので、何か海未にできることがないかと考えていると、ふとある考えが浮かんだ。

 

「なあ海未、もし良かったら、今度どこかリラックスできる場所に行かないか?」

 

「へっ!?」

 

「海未には今回のことで色々負担を掛けたしな。俺にはこれくらいしか出来ないけど、海未が行きたい場所ならどこでも連れて行くぞ」

 

 一瞬、時が止まったような気がした。そして、告げられた言葉を再確認した海未は顔を紅潮させる。言葉の意味、つまり悠からデートのお誘い。心の中が歓喜と困惑でパニックになるのを抑えて、海未は多少たじろぎながらも冷静を保った。

 

「わわわわ分かりました!! でしたら、体育祭が終わった後に、2人で山へ行きましょう!」

 

「分かった、山だな………………えっ? 山?」

 

「はい! 最近色々あり過ぎて登れなかったんですよ。これを機に悠さんと登るのも一興ですね」

 

 予想してなかった変化球な解答に戸惑ってしまった。まさかデートのリクエストが登山だとは流石の悠でも夢にも思わなかった。

 

「もしかして、海未は登山が趣味なのか?」

 

「そうですが、言ってなかったですか?」

 

「ああ、それは良いんだが……登るって、どこに?」

 

「富士山に行きましょう!! この時期の頂上からの景色が圧巻ですよ! 悠さんにも一度見てほしいです!」

 

 ガンッと頭を殴られたような感覚に襲われた。体力に自信があるとはいえ、登山経験も碌にない自分がいきなり日本最高峰に挑戦? あまりに無謀すぎやしないかと言いたいが、目をキラキラとさせてこちらを見る海未にそんなこと言えるわけがない。

 

「……分かった。じゃあ、それまでに登山の道具を揃えておくから」

 

「でしたら、明後日の休日に一緒に買いに行きましょう! せっかく付き合ってもらうのですから、ちゃんとしたものを選んでほしいですし。私が悠さんにぴったりなものを見繕ってみせます!」

 

「あ、ありがとう」

 

「はいっ! ふふふ、楽しい休日になりそうですね」

 

 何故か、海未を気にかけてお出かけに誘ったら、富士山を登ることになってしまった。何だかとんでもないことに巻き込まれてしまったと思ったが、先ほどまで疲れ切っていたのが一変してとても嬉しそうにはにかむ海未を見ていたら、そんなことはどうでもよくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 相も変わらずテレビの世界で海未にしごかれまくる穂乃果と花陽だったが、この日は前日より厳しくされていた。

 

「ハアハア……ハァ……し、死ぬぅぅ……」

 

「う、海未ちゃん……今日は一段と…………厳しい……や、やっと終わったぁ……」

 

「2人ともよく頑張りましたね。足のこむら返りを防ぐためにこのグレープフルーツジュースを飲んでください。後で、悠さんと一緒にマッサージもしてあげますよ」

 

「「そして、何かとても優しい!?」」

 

 いつも以上に厳しいと思いきや今までの鬼の所業が嘘のように優しくもなった。こんな両極端になる海未が2人にはとても不気味に思えて逆に恐怖した。

 そんなダイエットの様子を旗から見ていたメンバーにも驚愕を与えた。

 

(海未ちゃん、どうしたのかな?)

 

(昨日まで鬼のように厳しかったのに、何か不気味だよ)

 

(昨日良いことでもあったんやない? 悠くん関係で)

 

 そんな海未に思うところがあるのか、ジッと悠の方を見やる。当の本人は誤魔化すように明後日の方向を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 結果として、穂乃果と花陽のダイエットは成功した。

 

 だが、過酷なダイエットに耐えた反動故かしばらく2人は食欲が湧かず……と思いきや、いつも通り間食と暴飲暴食をし始めて、再び海未の雷が落ちたのは別の話。

 

 

 

 そして、物語は体育祭へ。

 

 

To be continuded.


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