PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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今回は閑話回の2回目。既に気づいている人も多いでしょうが、今回はペルソナ4ザ・ゴールデンのアニメでもあったブッキング回です。色々と考えすぎて皆さんの予想と違うものになっているかもしれませんが、それでも楽しんでいただけたら幸いです。

それと、今回の話に先の話の伏線を張ってあります。分かる人は分かると思います。

そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・評価をつけてくれた方々、ありがとうございます!ちょこっとした感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。
この作品のバーに色がついてから色々な評価をいただいて日々評価が上がったり下がったりして一喜一憂してしまいますが、それは読者の皆様がちゃんとこの作品を見ていただいている証拠ですので大変感謝です。
これからも皆さんが楽しめるような作品を目指していきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。

それでは本編をどうぞ。


#10「The hectic holiday2/2」

 

〈夜 鳴上宅〉

 

 高坂家でのバイトを終えた悠は自宅でパソコンを開いていた。先日陽介が言っていた【μ's】の動画について確認するためである。調べてみると確かにあのファーストライブの動画が存在した。コメント欄には少し辛口なコメントもあったが、それでも高評価のコメントが多かった。まぁ初めてのライブにしては上出来だろう。

 それにしても誰がこの動画を投稿したのか?お客として来た花陽と直斗とマーガレットが怪しいが、それはないだろう。見た限りだと3人はカメラらしきものは持っていなかったのを覚えている。では、一体だれが?

 

 考えても分からなかったので、悠は別のことを考えることにした。それは高坂家からの帰り道でのことだ。

 

 

〜回想〜

 

「あ!鳴上先輩」

 

 帰宅途中、道端で初ライブに来てくれた花陽と出会った。

 

「こんにちは小泉。今日はおつかいか?」

 

「はい、お母さんに夕飯の食材の買い出しを頼まれて。鳴上先輩は?」

 

「俺も夕飯の買い出しだ。買い物しないと作れるものがなかったからな」

 

「え?…もしかして鳴上先輩、お料理するんですか?」

 

「嗜む程度に」

 

「凄いです!お料理出来る男の人って私憧れます!!」

 

 そんな会話をしていると、悠は何か思い出したのか花陽にこう言った。

 

「そういえば小泉、明日って時間あるか?」

 

「へ?まぁ…ありますけど」

 

 

「良かったら前に約束してた白米を奢るの明日にしないか?」

 

 

「へ?……ええええ!い、良いんですか!」

 

「嗚呼、勿論だ。俺も明日時間あるし。リクエストのお店はあるか?」

 

「………じゃあ、お願いします。ええと……ポロニアンモールの『わかつ』って定食屋にしましょう!」

 

「わかった。時間はいつが良い?」

 

「えーと……明日の12:30で良いですか?」

 

「了解した」

 

「えへへ、明日は一緒に美味しい白米食べましょうね!鳴上先輩!」

 

 花陽は満悦な笑みを浮かべていた。その後雑談をしながら花陽を駅まで送って行った。

 

〜回想終了〜

 

 

 

 そんなこともあって明日花陽とお昼を食べることになったのだが、それだけでは申し訳ないので食後にどこか連れて行こうかと思っていると携帯の着信音が聞こえてきた。画面を見ると、発信主は『久慈川りせ』となっている。何か用なのかと思い、通話ボタンを押した。

 

 

「私だ」

 

 

『え……え〜と、こちらは鳴上悠先輩の電話番号で合ってますか?』

 

「鳴上です」

 

『……もう!先輩!!驚かさないでよ!怖い人かと思ったじゃん!』

 

「ごめんごめん」

 

『まぁ、そんなお茶目な先輩も大好きだけど♪』

 

 いつものりせだった。八十稲羽でもりせは悠に積極的なアプローチを出しては特捜隊の女子陣に冷ややかな目で見られていた。りせ本人は本気なのだが、悠は冗談だと受け止めているので、空回りすることが多いが。

 そんな彼女から突然こう提案された。

 

 

『ねぇセンパーイ♪明日デートしようよ♪』

 

 

「え?」

 

『明日の午前12:30までだけなんだけど、ぽっかり時間が空いたんだ。それでせっかくだからこの前のお礼として先輩とデートしようと思って』

 

 前のお礼とは、おそらく穂乃果たちのダンスレッスンのメニューを組んでくれたことだろう。確かにお礼としてデートすると約束したが、まさか花陽と明日食事することになったこのタイミングでくるとは…

 

「あの…りせ…」

 

 

『明日は楽しみだな〜。秋葉原で待ち合わせね。あ〜、朝から悠先輩と一緒に原宿とか回って〜カフェで一緒に食事して〜別れ際に先輩と甘〜いな時間を……そして……キャー!悠先輩ったら大胆〜!』

 

 

 駄目だ。事情を説明しようとしても、りせは妄想の世界に入ってしまった。こうなったらりせは話を聞いてくれない。

 

「りせ、話を」

 

『じゃあ、後でまた連絡するから!明日は楽しみだね♪悠先輩♪』

 

 と、りせは一方的電話を切った。

 これはマズイ。これは所謂ブッキングというやつだ。なんとかしなければ。

 そんな悠を尻目にまた携帯が鳴り響く。画面を見ると今度はことりからだった。

 

 

「…私だ」

 

 

『お兄ちゃん♪明日ことりとデートしよ♪』

 

 

「え?」

 

『今日宿題ぜんぶ終わったから、明日久しぶりに兄妹水入らずでお出かけしようよ♪お兄ちゃん♪』

 

 今度はことりからのデートのお誘いだ。またこんなタイミングにと思いつつ、悠は説得を試みる。

 

「あの、ことり……明日はちょっと」

 

 

『……お兄ちゃんは…私とお出かけするの嫌なの?』

 

 

 ことりがとても悲しげな声で悠に訴えかける。これには流石の悠も慌てた。

 

「いや、そんなことはないぞ」

 

『じゃあ……明日ことりとデートしてくれる?』

 

 電話越しだが、ことりが捨てられた子犬のような目で懇願している姿が想像できた。そんなことをされては流石の悠も断れるはずがない。最近菜々子と同様ことりにも何故か甘くなっているのだ。

 

 

「あ、嗚呼。勿論だ」

 

 

『本当!!やった〜!!』

 

 悠から了承を得たのが嬉しかったのか、ことりは子供のような歓喜を上げた。その喜びようは八十稲羽に居る菜々子に似ていた。

 

 〉言ってしまった……もう後戻りはできない。

 

 

『じゃあ、明日はお洋服見て回ろうよ!ちょうど新しい服をみたいと思ってたんだ。それに……お兄ちゃんのも…選びたいな〜なんて♪』

 

「そ、そうだな……」

 

 楽しそうに明日のプランを話すことりだが、悠にはそれは悪魔の囁きにしか聞こえない。

 

『それと…色々回った後………お兄ちゃんの家で2人っきりで過ごしたいなぁ♪』

 

「は?いや、それは流石に」

 

『……お願い♪』

 

 

 

 

 〜数分後〜

 

 

 

 

『じゃあ明日のことりとのデート、楽しみにしててね♪お兄ちゃん♪』

 

 

ーことりには逆らえなかった……

 

 

「どうしよう………」

 

 マズイ…八十稲羽で陽介と密着計画を実行した時のことを思い出す。またあの時の受難に遭うことになるのかと思うとゾッとする。とりあえず、このままではみんなを悲しませることになる。あの時のようにはなるまいと悠は机に向かい、計画を練り始めたのであった。

 

 

 

 

 その後、夜中に差し掛かったと同時に悠の『パーフェクト計画』がここに誕生した。その計画は以下の通りである。

 

 

 

【パーフェクト計画 作:鳴上悠】

9:00〜12:25

『ドキドキ!りせちーと密着デート!!』

 復帰を目指すりせちーこと久慈川りせと原宿を周ります。さらにりせちーから重大発表も?お楽しみに!

 

 

12:30〜13:10

『突撃!定食屋【わかつ】の白米』

 お米を愛してやまない小泉花陽とお昼に白米!彼女は白米についてこう語る!

 

 

13:15〜18:00

『ことりが選ぶ!オススメお洋服!』

 久しぶりの兄妹デート?ことりは兄のために服をコーディネート?兄のハートを掴むためにことりは頑張ります!

 

 

 計画表があるテレビ番組表みたいになっているが、詳しくはこうだ。

 

 まず、朝9:00にりせと秋葉原で待ち合わせ。そこからりせが前から行ってみたいとリクエストしていた原宿で散策をする。色々見て回ったあと少し軽食を取り、りせと別れる。

 その後、定食屋【わかつ】があるというポロニアンモールまで行き、花陽と昼食。

 花陽と別れた後、巌戸台駅でことりと待ち合わせ。あとは普通にことりとのデートを楽しめば良い。ちなみにことりには午前中は勉強したいからと嘘をついてデートは午後からにしてもらった。ことりは不満そうだったが、こちらには受験というアドバンテージがあったのでそこを活用した。

 

 若干無理がありそうに見えるが、なんとかやるしかない。もうあの時のようなヘマはしないだろう。必ずこの計画を成功させる。そう決意して悠は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〈翌日 秋葉原〉

 

 昨日あまりに遅くに寝たせいか、しっかり準備してきたにも関わらず身体がだるい。こんな調子で大丈夫なのかと思っていると、

 

 

「センパーイ!お待たせ!」

 

 

 目の前にオシャレなサングラスを掛け、髪型をポニーテールにしカジュアルな服装に身を包んだりせが現れた。いつもは髪をツインテールにしてる彼女だが変装のためかポニーテールにしてるため、いつもとは違う感じだ。

 

「いや、そんなに待ってないぞ。りせ」

 

「本当かな〜?でも、悠先輩だから良いけど♪じゃあ、行こう!午前中だけだからあんまり時間ないし……悠先輩に1秒でも多く触れたいしね♪」

 

 と、りせは悠の腕に密着してきた。

 

「ちょっ、りせ」

 

「だって今日は日曜日だから秋葉原って人多いんだもん。はぐれないようにこうしとかないと」

 

「……まぁいっか」

 

「やった〜!じゃあ早く行こ!悠先輩♪」

 

 と、2人は密着したまま秋葉原へと繰り出した。その途中、背後から誰かの視線を感じた。

 

 

 

 

another view ①

 

 こ、これは。どういうこと!鳴上のやつ。

 わたしの目と耳が確かならば、鳴上に引っ付いているあの女は私の憧れの久慈川りせだ。鳴上のやつあんなに密着して……羨ましい……じゃなくて、どういうこと?

 休日に二人でお出かけ?……まさか!あの2人は恋人同士!!これは1人のファンとして確かめなければ。必ず尻尾を掴んでやる!!

 

 

another view ① out

 

 

 

 

another view②

 

 あらあら?休日やから1人で秋葉原に出てみたら……鳴上くん、また女の子を……

 しかも学校外の女の子とはな……これはしっかり尾行せんとな…再教育のために……

 それに、にこっちも近くにいるようやし…

 楽しい休日になりそうやね♪

 

 another view ➁ out

 

 

 

 

 

 

〈原宿〉

 

 りせの要望で原宿にやってきた。

 休日なだけであって人が多かったが、りせがギュウウと腕にしがみついているのではぐれることはなかった。2人は色々お店を見て回って過ごした。見たことない大きな綿菓子を2人で協力して食べたり、ブディックでお互いの服を選んだりした。

 りせは憧れの悠と一緒に過ごせて終始嬉しそうだった。悠もりせの久しぶりのスキンシップに戸惑ったりしたが楽しそうに過ごしていた。

 

 

 

 

 色々回った流石に疲れてきたので、2人はベンチで休憩することにした。

 

「ハァ〜楽しい!!やっぱり悠先輩と一緒だと楽しいな!」

 

「それは良かった」

 

「あの綿菓子凄かったね。私ずっと東京に居たのに、あんなのあるなんて今まで気づかなかったよ」

 

「俺もだ」

 

「フフフ、悠先輩が食べるのに苦戦してたの面白かったよ」

 

「そう言うとりせもだろ?」

 

 2人で楽しく会話した。その時、どこからか黒いオーラを感じた気がしたが気のせいだろう。

 

 

「あ!そういえば、先輩がマネージャーやってるスクールアイドルの動画見たよ。ちょっと素人臭いところはあったけど、プロの私から見ても初めてにしては中々のものだったな」

 

 りせはμ'sの初ライブを好評する。それを聞くと悠は自分のことのように嬉しかった。

 

「ありがとう。りせが協力してくれたおかげだな」

 

「ううん、私はただ練習メニューを教えただけ。頑張ったのはあの子たちでしょ?それに……悠先輩もあの子たちに何かしたんでしょ…」

 

 そう言うと、りせは頬を膨らませた。やはりスクールアイドルとはいえ憧れの悠が自分以外のアイドルのマネージャーを務めているとこは気に食わないようだ。

 

「そ、それより何か俺に伝えたい事があるんじゃなかったか?」

 

 りせの目線が痛かったのか別の話題に変えようと試みる。

 

 

「あ、そうそう。実は悠先輩たちに私が出るフェスのバックダンサーを……あっ」

 

 

 りせはそんなことを言いかけたが、とある方向を見てそう声を上げる。

 

「どうした?」

 

「先輩、あれ」

 

 りせが示したほうを見るとそこには……

 

 

「ジイィィィィ」

 

 

 サングラスにマスクを装着した小学生くらいのツインテール少女が少し遠いところから2人をジッと見ていた。サングラスにマスクという組み合わせなので端からみたら不審者に見える。

 

(……あれは矢澤だよな)

 

 その少女の格好が以前にこがしていたものと同じなので悠が呑気にそんなことを思っていると

 

「あの子なんなんだろ?……何か怖い」

 

 りせはそう言いつつ、悠の腕にしがみつく。余程少女のことが怖いのか、あるいはわざとそうしてるのか真相は彼女のみぞ知る。そんなりせを見て、悠はりせを安心させようと優し接した。

 

「大丈夫だ。俺がいるぞ」

 

「悠先輩……」

 

 二人に何やら甘い雰囲気が流れて始めた。すると、

 

 

「な、鳴上〜〜〜!!」

 

 

 2人の雰囲気に痺れを切らしたのか、少女が2人に凄い勢いで急接近してきた。

 

「うわっ!あの子こっちにきた!」

 

「逃げるぞ!りせ!!」

 

「え?ちょっ、先輩!」

 

 本能が危険を察したのか悠はりせの手を掴み少女から逃げるため逃走を開始した。

 休日の原宿なので人が多かったので中々撒けなかったが、テレビの世界でシャドウから逃走した経験を思い出し何とか振り切った。

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

 

 不審な少女から逃げ切った2人は場所を原宿から辰巳ポートアイランドへと場所を移した。ここならもうにこに見つかるはずはないだろう。

 

「ハァ…ハァ…怖かった〜。もう!あの子誰!?もう少しで悠先輩と良いところまでいけたのに〜〜〜!!」

 

 少女から逃げ切ったあと、せっかくの悠とのデートを邪魔されたのでりせは相当ご立腹だった。もうデートの時間も残り少ない。このままでは雰囲気が悪くなるので、悠はまた時間が空いたらデートするとフォローを入れた。それを聞くとりせは多少は機嫌が良くなったのか、小悪魔的な笑みを浮かべて

 

「じゃあ、今度はとことん攻めるから覚悟しててね♪悠先輩♪」

 

 と、ウインクして言われた。

 

 

ーその後残り時間はカフェで談笑して時間を潰した。

 

 

 

12:25

〈ポロニアンモール 噴水広場〉

 

「それじゃあ先輩、私はここで失礼するね」

 

「ああ、今日は楽しかった」

 

「私も楽しかったよ♪今度は別の場所でね」

 

 途中で不審な少女の邪魔が入ったとはいえ、何とか良い感じでデートを終わらせた。第一段階が終わったと安堵していると……

 

 

「あっ!鳴上先輩、お〜い!」

 

 

 私服姿の花陽が悠たちに向かってやって来た。

 

 

「なっ!!!」

 

 

 これに悠の頭の中で警報が鳴り響いた。花陽とはりせと別れた後に定食屋の前で合流するはずだったのに。どうやら偶然にもここで合流してしまったようだ。

 

「こ、小泉」

 

「先輩……この子は…何?」

 

 まずい!りせが目を鋭くして黒いオーラを発している。なんとかしなければ…

 すると、花陽はりせをジッ見て何かに気づいた。

 

「な、鳴上先輩?この人って……まさか」

 

 な、何だ?何に気づいたんだ?

 

 

 

「久慈川りせさんですか!!」

 

 

 

 

「「………へっ?」」

 

 まさかの返答に悠とりせは惚けてた声を出した。

 

「わ、私!りせさんのファンなんです!!握手してください!」

 

「えっ、良いけど」

 

「ありがとうございます!!あと!りせさん去年の電撃休業の理由はほんとは何だったんですか?それから………」

 

 アイドル好きの本能が目覚めたのかマシンガンのように質問を投げかける花陽。花陽の勢いに対応しきれないのかりせはあたふたし始めた。流石にこれでは悠もフォローできない。

 

「そっとしておこう」

 

「センパーイ!!タスケテー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

〈定食屋【わかつ】〉

 

「パク…パク…それにしても驚きました!鳴上先輩があの久慈川りせさんと知り合いだったなんて」

 

「あ、嗚呼」

 

 あの後、花陽のマシンガントークから解放されたりせに事情を説明した。すると、りせは先ほどの怒りが花陽のせいで冷めたのか、今回のことは許してくれたが、また時間が空いたらデートするということで手を打ってもらった。

 

 

「それにしても…よく食べるな」

 

 目の前で頼んだ定食、主に大盛りの白米を美味しそうに食べる花陽を見て悠はそう呟く。

 

 

「へっ?あ…私自分で言うのもなんですけど小さい時から食べることが好きで……主に白米を食べるのが1番幸せなんですけど……女の子としては…やっぱり変ですか?」

 

 

 花陽は目を伏せて悠にそう尋ねた。女の子としては余程気にしているのだろう。以前にも穂乃果にも聞かれたことだ。

 

「そんなことない。よく食べることは健康の証拠だし、俺はそういう子は嫌いじゃないぞ」

 

 悠は花陽に微笑んでそう返す。すると、花陽はそれを聞いて安心したのか笑顔になって、止まっていた箸を再び動かした。

 

「ありがとうございます!鳴上先輩!先輩のおかげで食欲が増えました!」

 

「え?」

 

「店員さーん!白米おかわりください!」

 

 あの大盛りの白米を完食し尚且つおかわりを要求する花陽の姿に悠は絶句した。花陽の白米を食べるペースはどんどん速くなっていった。その後、店員に渡された会計簿を見て悠は顔が真っ青になった。

 

 

 

 

 

閑話休題

 

 

 

 

「鳴上先輩!今日はありがとうございました!!」

 

「……ああ」

 

 会計を済ませて定食屋を出ると、ご満悦の花陽と財布が一気に軽くなって意気消沈する悠がいた。

 

「私はこれから用事があるのでここで失礼しますけど、また機会があったら一緒に白米食べましょう!先輩」

 

「あ、嗚呼。勿論だ」

 

「ありがとうございます!また会いましょうね、鳴上先輩!」

 

 そう言って、花陽はその場を去っていった。

 

 

「…女の子はお金がかかるな」

 

 

 改めてそう実感した悠であった。

 

 

 

 

「そういえば…今何時だ?」

 

 そう思い時計を見てみると、時刻は13:15を指していた。

 

「まずい!!ことりとの集合時間が!」

 

 集合場所は巌戸台駅に指定したのでこれは確実に遅刻する。悠の頭の中でことりが待ち合わせ場所で待ち惚けをくらい、変な男にナンパされるビジョンが展開されていた。

 

(そんなことは俺が許さないし、叔母さんに知られたら殺される!)

 

 そう慌てていると

 

 

「お兄ちゃーん!」

 

 

 と、件のことりが後ろから悠に抱きついてきた。

 

 

「こ、ことり!どうしてここに?集合場所は巌戸台駅だったはずだろ?」

 

「ん〜?何かね、駅に行く途中で綺麗な女の人が突然『お兄ちゃんはポロニアンモールにいるよ』って教えてくれて」

 

「え?」

 

「ことりも半信半疑だったけど、信じて来てみたらこうしてお兄ちゃんに会えたんだ♪」

 

 ことりの話に悠は一瞬不安がよぎった。

 

「……ことり。その女の人の特徴は?」

 

「え〜と、確か紫っぽい髪の人でサングラスを掛けてたような…胸も結構大きかったし………あれ?あの人最近どこかで会ったような?」

 

「ことり、そっとしておこう」

 

 ことりの話で大体容疑者は想像できた。これ以上触れたら何かやな予感がした。

 

 

「え?お兄ちゃん?」

 

「まぁそんなことより、今日はことりが服を選んでくれるんだろ?楽しみにしてたんだ」

 

「本当!!お兄ちゃんがそう言ってくれるなら、ことり張り切っちゃおうかな♪」

 

「それじゃあ行こうか」

 

 なにはともあれ無事ことりと合流出来たし、計画も多少予想外のこともあったが順調に進んでいるのだ。最後まで気を抜かず、思いっきりことりとのデートを楽しもうと悠はことりと共に街へ繰り出した。その時、ことりは悠の腕にしがみついたが気にしなかった。

 

 

 

 

 

another view ➁

 

 ウフフフ、やっぱりあの子に警告しとって正解やったわ。鳴上くんも大変やね〜まさか女の子とトリプルブッキングとはな〜ウフフフ………

 お楽しみはこれからやで、鳴上くん♪

 

another view ➁ out

 

 

 

 

「お兄ちゃん、これなんてどうかな?」

 

「いいと思う」

 

 悠とことりは現在ポロニアンモールの洋服屋にてショッピングしている最中であった。

 

「お兄ちゃん、これは?」

 

「ブリリアント」

 

「もう!お兄ちゃんったら、さっきから良いとかブリリアントとかしか言わないじゃん」

 

「そう思うしかないから仕方ないだろ。実際ことりは何でも似合うんだから」

 

「もう……」

 

 悠の発言にことりは文句を言いながらも顔を赤くする。端から見ればもはや立派なカップルと言っても過言ではなかった。

 

「じゃあ次はちょっと冒険して……これは?」

 

「却下」

 

「え?……お兄ちゃん?」

 

「そんな露出の多いものはダメだ。ことりにはまだ早すぎるし、そんなもの着て怪しい奴に絡まれたらどうするつもりだ?」

 

「ううっ……ごめんなさい」

 

 時には兄らしく行き過ぎた行動を注意することもしばしば。

 

 

「前から思ってたんだけど、お兄ちゃんって似たような服ばっかり着てない?」

 

「そうか?」

 

「そうだよ。お兄ちゃんいつも白のポロシャツと黒のズボンを着てるところしか見てないし。お兄ちゃんも何かバリエーションを増やした方が良いよ」

 

 言われてみればことりの言うことは的を得ている。八十稲羽でも悠はそれらしか着ているところしか見ていなかった。自分も里中や天城のことを言えないなと悠は思った。

 

「でも、俺は別にこのスタイルは気に入ってるし、オシャレとかどうでも」

 

 

「ダメだよ!!」

 

 

「うお!ことり」

 

「お兄ちゃんはカッコ良いんだからもっとオシャレに気を使うべきだよ!!じゃないとお兄ちゃん、女の子にモテないよ!」

 

「ぐっ……わ、分かったよ、ことり」

 

「でも…将来のお兄ちゃんのお嫁さんとしては……お兄ちゃんがモテるのは…良くないかな……」

 

「え?……ことり?」

 

「何でもないよ♪じゃあ、次はお兄ちゃんのを選ぼう!」

 

 何かことりが不穏なことを呟いた気がしたが、気にしないでおこう。そう思いたい。

 

 その後ことりに着せ替え人形の如く色々な服を着せられたが、デートは順調に進んで行ったのであった。

 

 

 

 

〈ポロニアンモール 食品売り場〉

 

 悠とことりは服を選び終わった後、夕食の買い物に繰り出していた。

 

「本当にうちに来るのか?」

 

「うん♪一応お母さんと叔父さんと叔母さんの許可は取ったよ♪3人とも今日は忙しいからちょうど良いって」

 

「…うちの両親はともかく叔母さんまで」

 

「それよりお兄ちゃん、今日はなに作るの?」

 

 ことりの並々ならぬ行動力に肩をすくめながらも、悠は今日の夕飯は何にするか考えることにした。

 もうここまで来たが、計画に穴はない。悠はこのときパーフェクト計画の成功を確信したが、それはある人物の登場によって一気に崩れることになった。

 

 

 

「あ!鳴上!!」

 

 

 

 声がした方を振り向くと、そこには同じ買い物カゴを手に持ったにこが居た。悠は内心驚きながらも平静を保つ。

 

「矢澤、奇遇だな。矢澤も夕飯の」

 

 

「それよりも鳴上!あんた今日何で原宿で久慈川りせと一緒に居たのよ!どういうこと!」

 

 

「なっ!!!」

 

 再び悠の脳内で警報が鳴る。やはり、原宿で悠とりせを追いかけ回したのはにこだったのだ。マズイ、そばにことりが居るというのに

 

「や、矢澤、それはだな」

 

「言い訳は無用よ。今は忙しいから今日は退くけど、明日ちゃんと話を聞かせてもらうから。覚悟しなさい!」

 

 にこはそれだけ言うと、颯爽とその場を去っていった。

 

 

「……お兄ちゃん?今の話どういうこと?」

 

 

「こ、ことり?」

 

「お兄ちゃん、今日午前中は勉強したいからってことりに言ったよね?あれは嘘だったの?」

 

 先ほどのにこの発言が聞き捨てならなかったのか、ことりは黒いオーラを発しながら悠に問い詰める。ここで正直に話せば良かったのに、悠はシラを切ることを選択した。

 

「お、落ち着けことり。今のは矢澤の見間違いだろう。それに俺がことりに嘘をつくわけないだろ?」

 

「……本当?」

 

「本当だ」

 

「…………そうだよね。お兄ちゃんがことりに嘘つくわけないよね♪」

 

 悠の言葉をことりは信じたので、悠は心の中でホッとした。

 

「じゃあ気を取り直して、食材を選ぼう。ことりは何が良い?」

 

「ええ〜とね、今日は…」

 

 こんな調子で夕飯の買い物を済ませた2人だった。悠は何とか持ち堪えたと思っていたが、これで終わりではなかった。

 

 

 

〈鳴上宅〉

 

 家に到着すると、悠は早速食材を取り出し夕飯の支度をしようとする。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん宛に手紙が来てるよ」

 

「ん?誰からだ?」

 

「それが、差出人の名前は書いてないんだけど」

 

「え?……ことり中身を確認してくれるか?俺ちょっと下準備するから」

 

「分かった」

 

 とりあえず、ちょうど良い時間だし今から準備する方が良いだろう。ちなみに今日の夕飯は

 

 

「……お兄ちゃん?ちょっとこっち来て」

 

 

 

 突然ことりが低い声で悠を呼んできた。

 

「え?いや、俺今から」

 

「……こっちに来て」

 

「は、はい」

 

 ことりが低い声で呼んでくるので何事かと思い、調理場を離れる。ことりは悠の姿を確認すると、突然こんなことを言い始めた。

 

 

「ウフフフ…お兄ちゃん、ことりは悲しいなぁ……まさか愛しのお兄ちゃんが……ことりに嘘つくなんて……」

 

「え?」

 

 悠はことりの姿に恐怖を感じた。何だろう、顔は笑っているのに目のハイライトは消えている。その姿はまるで怒った雛乃のようだった。流石親子と言ったところか

 

「な、何を言ってるんだ?ことり……俺は何も嘘なんて」

 

「じゃあ、この写真はどういうこと?」

 

 シラを切り続ける悠にことりは一枚の写真を見せる。それには、今日原宿でデートしている悠とりせの姿がバッチリ写っていた。

 

「なっ!!これは…どこで……あっ」

 

 

「フフフ、お兄ちゃん…やっぱりことりに嘘ついてたんだ〜」

 

 

「待て!ことり、これがいつ撮られた写真とかは」

 

「ここにちゃーんと今日の日付けと時間が書いてあるよ。これをどう説明するのかな?」

 

 確かに写真の隅っこに今日の日付けと時間が記載されてあった。

 終わった……もう反論の余地がない。ここはもう許してもらえるようひたすら謝罪するしかないだろう。

 

「こ、ことり……その………すまなかった……ウソをついて……でも…これには事情が」

 

「……お兄ちゃん?」

 

「はい!!」

 

「フフフ、今日お兄ちゃんは色々あって疲れてるでしょ?だから、代わりにことりがお夕飯作ってあげる♪」

 

 

「え?」

 

 意外な提案に悠は困惑する。いつものパターンなら長い説教が待っているかと思ったからだ。しかし、それでもことりの目はハイライトが戻ってなかったのでやな予感しかしない。

 

「じゃあ、今から作るからお兄ちゃんは正座して待ってて」

 

「え?……いや」

 

「お兄ちゃん?…正座」

 

「分かりました」

 

 ことりは悠が正座したのを確認すると、台所に入っていった。逃げだそうと思えば逃げられるが、逃げればどんな仕打ちが待っているか分からなかったので、悠は大人しく待つことにした。

 

 

ドンドンッ…ガチャガチャッ…バリンッ

 

 

 台所からはマトモに調理しているとは思えない音が聞こえてくる。それを聞くだけでも悠にとっては恐怖だった。

 そして、しばらくして……

 

「出来たよ〜♪お兄ちゃん♪さぁ、召し上がれ♪」

 

「え?……ことり、これは料理じゃ」

 

「召し上がれ♪」

 

「いや、これ食べたら」

 

「召し上がれ♪」

 

「こ、ことり……おねが」

 

「………召し上がれ♪」

 

「……………じゃあ、いただきます」

 

 

 ことりが出したものは何だったのか?またそれを口にした悠はどうなったのか?それは読者のご想像にお任せしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈稲羽市 花村宅〉

 

「ヨースケ、センセイから電話が来てるクマ」

 

「おっ、悠からか。サンキューなクマ……もしもし相棒、どうした?」

 

『…….陽介…か』

 

「お、おいどうしたんだよ悠。そんな死にそうな声して」

 

『陽介……今までありがとう』

 

「は?……おい悠、何の冗談だ?全然笑えねぇぞ」

 

『もう疲れたよ……パトラッシュ…』

 

「オイィ!全然シャレになんねぇ台詞なんだけど!何があった!」

 

『我が…生涯に……一片の』

 

「それ以上言うな!!しっかりしろ!悠!!」

 

 

 こうして鳴上悠の忙しい休日は幕を閉じたのであった。

 

ーto be continuded

 




Next Chapter

「鳴上先輩はどうしたんでしょう?」

「さあね♪.」

「スクールアイドルやらない?」

「あら?あなたは」


「それを決めるのは俺じゃない。君次第だ」


Next #11「What do you do?」

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