PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

投稿が7月ギリギリになってしまい申し訳ございません。7月はレポートやら試験やらで色々執筆に手が付けられない状態だったので……。

そして、アンケートに答えてくれた皆さんありがとうございました。投票の結果、以下のようになりました。

1位:久慈川りせ(4票)
2位:東條希  (3票)
3位:園田海未 (2票)
4位:絢瀬絵里・小泉花陽・花村陽介(1標)

ということで、今話のヒロインはりせということになりました。作者的には希かことりかと思ってたいのですが、いやはや。

改めて、誤字脱字報告をしてくれた方・最高評価と高評価をつけて下さった方・感想を書いて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

それでは、最終章の始まりとなるデート回をどうぞ!


【Beauty of Destiny】
#98「Love & Comedy ~True Story~.」


♫~♫♩~♩~♫~♫♩~♩~

 

 

 

 

 

…………美しいピアノのメロディーが聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 聞き慣れたそのメロディーで目を覚ますと、悠は別の場所にいた。床も天井も全てが群青色に染め上げられている、まるでリムジンの車内を模した空間。ここは【ベルベットルーム】だ。

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

 

 目の前に鼻の長い奇怪な老人がいる。この老人の名は【イゴール】。このベルベットルームの管理者だ。そして、その両隣には2人の女性が座っている。右手にいるプラチナ色の髪の女性は【マーガレット】。そして、左手にいる銀髪の女性はマーガレットの妹である【エリザベス】だ。

 

「先日はお疲れ様でした。またも妹のエリザベスがお世話になったそうで」

 

 開口一番にマーガレットがそう言うと、その対面に座るエリザベスが何時ぞやのように意味深な笑みを浮かべながら、こちらにひらひらと手を振っていた。

 

「お客様はかの饗宴の最中に新たに絆を育み、封印されていたアルカナを複数解放させたご様子。【死神】・【塔】……ふふふ」

 

 マーガレットは膝元に置いていたペルソナ全書を開くと、そこから2枚のタロットカードが出現した。イラストは【死神】と【塔】、そのタロットの解放のきっかけとなった落水鏡花と真下かなみとのやり取りが映像として流れるページにマーガレットは魅惑の笑みを浮かべながらうっとりとしていた。

 同じように悠のこれまでの軌跡を眺めていたイゴールは重々し気に口を開いた。

 

 

 

「フフフフフフ……ここまでの旅路で貴方様は数々の困難と謎に相見えておいでなさった。ここから何が起こるのか、私たちにも読めませぬ。彼の地での出来事の再来か、それともまた未知なる儀式か宴か……さてさて、お客様がそれらに直面した時、どのような結末を迎えるのか……楽しみで御座いますなぁ……」

 

 

 

 意味ありげな言葉を残したと思うと、視界が段々とぼやけていった。どうやら時間らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絆フェスという一大イベントを終え、音ノ木坂学院は次なるイベントに勢いを注いでいた。そのイベントはずばり、第2回ラブライブ。前回の悔しさをバネに今回のラブライブは何としても本選に勝ち残って強敵A-RISEと雌雄を決したい。

 

 そんな中、彼女たちは……

 

 

「……みんな集まったわね」

 

「ええ、悠さん以外全員揃っています。悠さんには今日の練習は中止で先に帰って良いと言っておきましたので」

 

「よろしい……それじゃあ」

 

 

 

 

 

「【第一回いかに悠とりせちーのデートを妨害するか作戦】会議を行うわよっ!!」

 

 

 

 

 

 全く関係ない議題に真剣に取り組んでいた。

 

 

 

 発端はつい先日、マヨナカステージの事件が解決して、打ち上げで【わくわくざぶーん】に行った時のこと。絆フェス総合プロデューサーの落水から貰ったディスティニーランドのペアチケットを巡って乙女たちによる争奪戦が勃発。熾烈な戦いの結果、見事ペアチケットを勝ち取ったのは、なんとりせだったのだ。

 本命はブラコンのことり、もしくは幼馴染属性を持つ希だと思っていた陽介たちもこの結果には驚き、惜しくも負けてしまった彼女たちはとても悔しがっていた。そして、勝者となった当人といえば

 

『最近は妹や幼馴染が負けないラブコメが流行ってるらしいけど、ここではそんなことなんだから』

 

 などと決勝で打ち負かした希にあっかんべえとしながらそう告げたり、調子に乗って“このデートで絶対に悠をモノにしてみせる”とライバルたちに堂々と宣言したりしたのだ。極めつけは見せつけるかのように、悠に密着しながらデートの相談をしていたことだろうか。

 

「今思い出しても、あの時のりせの態度は腹が立ちますね……」

 

「最近絶好調だから調子に乗って……」

 

「マグレで勝ったくせに……」

 

「スキャンダル見つかって自滅すればいいのに……」

 

「簀巻きにして東京湾に沈めたろうかと思ったわ……」

 

 このように海未たちのりせに対する怒りは尋常ではない。更に、この話を聞いたマリーも怒りに怒って一週間晴れだった稲羽市の天気を大雨に変えてしまったらしい。そのせいで、大迷惑を被ったと陽介たちから苦情がきたのは別の話。

 

「そ、そんなカリカリせんでもええんやない? 希ちゃんも、そんなカッカせんでも」

 

 そして、この場には八高のセーラー服ではなく、音ノ木坂学院のブレザーに身を包んだラビリスもいる。

 前から話は上がっていたが、先日からとうとう正式にラビリスも音ノ木坂学院に転校してきたのだ。学年は2年、穂乃果たちと同じクラスだ。穂乃果たちが色々世話をしたことで、本人も初めての高校生活はとても楽しく感じているらしく、一緒にスクールアイドルはできないが、悠と一緒に裏方として支えていくとアイドル研究部に入部してくれた。

 

 

 閑話休題

 

 

 だが、敗者が勝者にどう言おうと負け犬の遠吠え。だったらせめて、デート当日は奴の思い通りにさせてたまるかと、彼女たちは緊急会議を開くことにしたのだ。

 

「いい? 今回の作戦のポイントはこれよ」

 

 にこはそう言うと、部室のホワイトボードに以下のことを書きだした。

 

 

・一線を超えるようなことをしない限りは極力邪魔をしないこと

・一線を超えようとした場合は即座に止めること

・抜け駆けをしないこと

・障害となり得る者は排除すること(主に週刊誌の記者)

 

 

「なるほど……妥当ですね」

 

「本当だったら本気で邪魔したいけど、逆の立場からしたらそれは嫌だしね」

 

 にこからの提案は尤もだと判断したのか、この場にいる皆は納得する。仮にもりせは公平なルールに則った対決で勝利をもぎ取ったので、そこに妨害するというのは些か抵抗がある。多少手を繋いだり腕を組んだりすることは許容することにしたが、もしキスなど一線を越せようとした場合は粛清対象だ。すぐに2人をひっぺ返して、悠を安全な場所へ避難させた後、りせにお仕置きを決行するつもりである。その際、こそっと抜け駆けするのもまたNGだ。

 

「な、何で記者さんまで倒さなおかんの?」

 

 最後の部分が引っかかったのか、ラビリスからそんな質問が出てきた。しかし、にこはその質問に妙に据わった目で口を開いた。

 

「……考えてみなさい。最近芸能界に復活して絆フェスの影響で人気絶好調中の国民的アイドルりせちー。そして、私達μ‘sのマネージャーで妙に女子中学生たちに人気の悠。そんな2人がいきなりデートだなんて、これ以上にないスクープよ。絶対ネタに飢えてるヤツらは狙ってくるわ。特に○○とか×××××とかね」

 

「にこちゃん!?」

 

 にこの口から具体的な企業名が出てきたが、後が怖いので伏字にしております。だが、にこは止まらない。

 

「そもそも週刊誌なんてもんはね、記事が売れるなら何だってするのよ! 報道の自由があるとか読者がそれを望んでるからとか色々ほざいてるけどね、それが対象を殺すことになるかもしれないって自覚が足りないのよ! そんな奴らに人生を滅茶苦茶にされてたまるもんですか! するんだったら、善人を食い物にしてる悪党とかにしなさいよ!!」

 

「落ち着いて、にこちゃん!」

 

「それ以上は危ないわよっ!!」

 

 まるで実際に被害に遭った当事者のようにまくし立てるにこにちょっと恐怖してしまった。もしかしたら、学園祭の時に戦った佐々木竜次が新聞部だったことが影響しているのかもしれない。

 

「とにかく! 当日はあの女の思い通りにさせないわよ!! そして、絶対に悠の貞操を守り通すわよ!!」

 

「「「「サーっ! イエッサー!!」」」」

 

 何はともあれ、彼女たちの想いは一つ。多少のイチャつきには目を瞑るが、あの女に悠を渡してなるものか。その想いを胸に、彼女たちは団結した。

 

「よしっ! それじゃあ、作戦を頭に叩き込んで解散!!」

 

 かくして、話題のスクールアイドル【μ‘s】の乙女たちによる大作戦が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎてデート当日の朝、デート相手である悠はいつも通りに南家の食卓で朝食を取っていた。叔母の雛乃と従妹のことりと3人で取る食事はいつも通りなのだが、今日はどこか空気が違う。具体的にはいつも積極的に話しかけてくることりは先にどこかへ出かけたのかこの場にいないし、向かいに座る雛乃はニコニコと笑顔でいるのだが、どこか怖い雰囲気を醸し出している。

 

「悠くん、今日はデートなんですって? ことりから聞いたわよ」

 

「で、デートというか……」

 

 突拍子に核心をついてきた雛乃に驚きつつ悠はしどろもどろにそう受け答えした。落水から貰ったディスティニーランドのペアチケットをりせが手に入れて、休みが取れるうちに使いたいということで、今日がその日だというのは雛乃も把握していた。

 

「相手はりせちゃん。せっかく芸能界に復帰したばっかりなんだから、スキャンダルには気を付けなさい。特にネタに飢えてる○○とに×××××はね」

 

「叔母さん……週刊誌に何か恨みでもあるんですか?」

 

 そんな叔母に怯えつつ朝食を食べ終わった後、悠は手荷物を確認して家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<秋葉原駅>

 

 電車に揺られながら待ち合わせ場所に着いた悠。一応約束の時間の20分前に到着したので、まだりせは来ていなかった。時間があるようなら、少し勉強でもしておくかと単語帳をだそうとしたその時、

 

 

 

「お待たせ、せんぱーい♡ 待ったあ?」

 

 

 

 駅の方からりせの声がした。どうやらりせが到着したようなので振り返ってみると、そこに現れたりせの姿に思わず息を飲んでしまった。

 

「あ、ああ……俺も今着いたところだ」

 

「ふふ、ありがとう。ところでセンパイ、今日の私のファッションどう? 似合ってる?」

 

 悠のそんな気は知らずか、ふわりと回って今日の服を見せつけるりせ。これまで何度もりせのファッションを見てきたが、今日のは一段と気合が入っていた。顔バレを防ぐためにサングラスは掛けているものの、今時のファッションを着こなし、その上で己の魅力を上手く引き出すように髪型やメイクを施している。

 

「と、とても似合ってるよ。何だか……見違えたな」

 

「やったあ!」

 

 悠に服装を褒められて嬉しさが爆発したのか、人目を気にせず飛び跳ねるりせ。いつもと雰囲気の違う後輩に戸惑ったものの、嬉しそうなので何よりだと思うことにした。

 

「じゃあ、そろそろ行こっか。それよりもセンパイ、やっぱりこれ掛けた方がいいよ」

 

「えっ、サングラス? 何で?」

 

「何でって、最近のセンパイはそれなりに人気なんだから、正体隠しておかないと」

 

「そうなのか?」

 

「そうなの。これでよしっと。それじゃあ、行こっか」

 

 訳の分からぬままサングラスをかけさせられた悠はそのまま引っ付かれる形でその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<ディスティニーランド>

 

 りせに執拗にぎゅっとされながら電車に揺られて乗り継ぐこと数十分、今回のデート場所であるディスティニーランドに辿り着いた。

 

「人が多いな……」

 

「そ、そうだね」

 

 昔ながらテーマパークとして人気のあるディスティニーランドは休日ということもあって混みあっていた。この状況が予測されるため、本来は開園よりずっと前から並ばなければ丸一日アトラクションなどを満喫できないのだが、今回の悠たちはそんなことをする必要は全くなかった。

 

「落水さん、こんな特典までつけてたなんて」

 

 落水はこうなることも予測していたのか、このペアチケットに入園はおろかアトラクションを優先的に搭乗できる特典までついていたのだ。しかも、このディスティニーランドの全アトラクション対象である。

 

「まあ、ラッキーだよね。これで追手も撒けるかもしれないし」

 

「んん?」

 

「何でもないよ。それよりセンパイ、はぐれちゃったらまずいから手を繋ごう」

 

 長蛇の列を気にすることなく大好きな人と人気テーマパークを楽しめる。そのことにりせはもう頬が緩みっぱなしだった。りせがそう言うならと、悠はおもむろに彼女の手を優しく握った。

 

「やだ……センパイ、そんなに強く手を握っちゃって……大胆過ぎ」

 

「えっ? そんなに強く握ってはないけど」

 

「そんなセンパイには、こうだ!」

 

 りせはしめたと言わんばかりに今度は悠の腕にぎゅっとしがみついてきた。突然のことに少し動揺してしまう悠だったが、その表情を見てりせは陰でニヤリと笑みを浮かべた。

 悠は悠でりせの行動に戸惑ったものの、稲羽でもこういうことは時々されたし、最近はことりや希にされることも多かったので、別に気にしなかった。だが、一瞬周りから怨嗟の視線を感じた気がするが、そっとしておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方……

 

「こちらチーム【lily White】、ターゲットの入園を確認したで」

 

「…………」

 

「う、海未ちゃん!? 顔が般若みたいになってるにゃ!?」

 

 入園ゲート付近では物陰に隠れて様子を伺っていた希が耳にしたインカムにそう告げる。傍では今までにないくらい顔を真っ赤にしながら怖い表情を作る海未に凛が怯えているが、無視しておく。

 

『チーム【Bi Bi】了解。総員指定の位置へ。チーム【Printemps】、応答して』

『……………………』

『チーム【Printemps】!』

『ち、チーム【Printemps】所定の位置に到着! いやあ、間に合って良かった~』

『……あなたたち、さっきまで遊んでたわね?』

『そそそ、そんなことないよ! ただ順番待ちが長かったし、電子機器は持ち込まないで下さいって係員の人に言われたから』

『遊んでたんじゃない!?』

 

 インカムからやり取りから察する通り、既にμ‘sのデート妨害作戦は始まっていた。

 朝早くから並びに並んで悠たちより先にディスティニーランドに入園していた彼女たちは3つにチームを分けて、悠とりせ(ターゲット)が来るまでずっと待機していたのだ。どこかのチームはアトラクションにうつつを抜かしていたが、今回の作戦を忘れていた訳ではない。

 すると、出入口を張っていた海未たちの元にもう一人のメンバーが颯爽と現れた。もちろん、同じく辺りを張っていたラビリスである。

 

「確認したけど、今のところ記者らしき人もおらんしまだ周囲の人が2人に気づいてる気配もあらへんかったよ」

 

「ありがとう、ラビリスちゃん。ほな、行こうか」

 

 ラビリスの報告を受けて、見失わないようにターゲットの尾行を始めるチーム【lily White】。ここからは徹底的に対象をマークして好き勝手出来ないようにする。故に、どんな些細なことも見逃すまいと。

 

 

 

 

 

 

(やっぱり来てたね、希センパイたち……予想してたけど、穂乃果ちゃんたちもいるんだろうな……)

 

 だが、りせは周りに潜んでいる敗者たちの存在には気づいていた。気づいてたからこそ、こうやってあからさまにアピールしているのだ。おそらく彼女たちは自分たちが一線を超えるようなことをさせないために監視しにきたのは察しがついている。

 ここまでは全て想定内。せっかく勝ち取った悠とのデートなのだから思いっきり楽しまなくては。そう、あちらが監視できなくなるほど羨ましくなる甘いデートを。

 

 

 

 

 

ホラーアトラクションにて

「ううう……こ、こわいい……」

「りせ、そう言えばお化け屋敷苦手じゃなかったか?」

「ちち違うよっ!?」

「ちょっ、そんなに引っ付かれると……」

 

 

 

 

チュロス店にて

「せんぱ~い♡このチュロス美味しいよ、あ~ん♡」

「あ、あーん……あっ、こっちも美味いな」

「うふふ、センパイのも頂戴♡」

「いいけど」

「んん~美味しい! センパイにあ~んしてもらったからかな?」

「えっ?」

 

 

 

ウォーターアトラクションにて

「…結構濡れたな。りせは大丈夫……か?」

「う、うん……センパイ、どうしたの?」

「言いにくいんだが……その、下が」

「へっ……? きゃっ、ちょっと下着が透けて…」

「そこのお店に一緒に行こう。着替えを探さないとな」

「し、しまったぁ~……こんなハプニングは予想してなかったなあ。でも、センパイが密着してくれてるから…これはこれで役得♪」

 

 

 

 

 こんな調子で2人のデートは続いていった。それに対して、作戦中のμ‘sたちはというと

 

 

 

ガンッ!ガンッ!

「ああああっ!! 腹立つ~~!!」

「ぐうう……なんて卑劣なぁ……」

「2人とも、落ち着きなさい! 周りの人に迷惑かけてるわよっ!」

 

 

 悠とりせの甘々なデートの様子を見せつけられて、彼女たちはお冠だった。地団太を踏んだり、近くのごみ箱に八つ当たりしたりと周囲の人がドン引きするほど怒りを露わにしている。そんな2人を制御するのに絵里は一苦労で心労が溜まってしまった。

 

 

 

 

バキッ! バキッ! 

「…………」

「海未ちゃん……無言で木の枝折らんでや」

「の、希ちゃんも目のハイライトが消えてるにゃ!? ううう……凛じゃ捌ききれないにゃ~~~~!!」

 

 チームでは海未が無表情のまま地面に落ちている枝を延々と折り続けたり、希は目のハイライトを消したままタロットカードを無限シャッフルしたりと、凛一人では捌ききれない事態に陥っていた。

 

 

 

 

バタンッ!

「ぐふっ……もう、耐え切れない…………」

「花陽ちゃああん!?」

「大丈夫……これくらいならことりでもしてるし……大丈夫……うん、大丈夫

「ことりちゃん!? そう言ってるけど、目が据わってるし今すぐ殺しに行きそうな雰囲気だすの止めて!?」

 

 りせの目論見通り、2人のイチャイチャに穂乃果たちは精神的ダメージを受けていた。花陽は羨まし過ぎて気絶し、ことりに至っては思わずヤンデレ化してしまうほど追い込まれていた。

 どれもこれも一線を越えてないものだけにやり口がいやらしい。ラビリスだけは何も感じることなく淡々と監視を続行できているが、2人があんなに楽しそうなのに何故彼女たちが悶え苦しんでいるのか理解不能だった。

 そんなカオスな状況に彼女たちが追いこまれている中、当の本人たちはパレードを楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪~♪♪~~」

 

「りせ、楽しそうだな。そんなにさっきのパレードが楽しかったのか?」

 

「えっ……うんっ、超楽しかったよ!」

 

 嘘である。この女、自分たちのイチャイチャを見て悶絶している彼女たちの様子にしめしめと笑っていた。普段こんなことはしない性分なのだが、普段から彼女たち……特にことりや希には煮え湯を飲まされているので、ちょっとした仕返しができたようでスカッとしているのだ。

 それが表情に出ていたのか、悠に感づかれて少し焦ったが誤魔化せたようで何より。まあ、さっき一緒に見たパレードもりせ的にも楽しめたので嘘ではない。

 

「はあ、良いなあ。私もああいう風なお姫様みたいになりたいなあ」

 

「えっ?」

 

「大好きな人にお姫様みたいにぎゅっと抱っこされたいっていうのは、女の子の憧れなの。特にセンパイみたいな素敵な人にね」

 

 パレードが終わって近くにあったベンチで休憩を取っていると、りせが思わずといった風にそんなことを呟いた。

 そして、受け答えして頬を朱色に染めながら熱い視線で悠を見る。監視している者たちからしたら何かあざとく感じて何故かイラっとした。

 すると、目の前を一組の親子が通り過ぎた。久しぶりの家族水入らずでの休日なのか、母親と父親、そして子供たちの顔はとても楽しそうだった。そんな親子の姿にりせは儚げな様子で見つめていたのに気づいた。

 

「どうした?」

 

「ううん、前に雑誌の取材で“将来は子供何人ほしいですか?”って質問された時のこと思い出してた」

 

「??」

 

「その時は事務所が用意した答えを言ったの。“りせちー、コドモだから分かんないですゥ”って。でも、ホントはね、私の憧れは大家族だったの。大好きな人と結婚してたくさんの子供たちと仲良く過ごせたら、幸せなんだろうな。センパイは将来コドモ何人欲しいとかって、ある?」

 

 唐突に振られた質問に悠は若干表情を強張らせた。その反応を見たりせは今更ながらこの質問は聞いてはダメなことだったと気づいた。これまでの悠の家庭事情を考えたら、その質問はあまりよろしくないだろう。

 だが、悠は気にすることなく、淡々とりせの質問に答えた。

 

「何人でも良いんじゃないか? 俺も好きだと思った人と結婚して、子供と仲良く過ごせたら……それは素晴らしいことなんだと思う」

 

「ふふ、そうだよね。センパイは将来良いパパになりそう」

 

「えっ? 何で?」

 

「だって、菜々子ちゃんとことりちゃんと居る時のセンパイって、すっごく優しい顔してるもん。だから、センパイみたいなパパだったら理想だなって」

 

「………………」

 

「隣には誰がいるのかな? 最初が“り”で、最後に“せ”の人かな?」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「や、やだ……自分で言ったのに、恥ずかしい……」

 

 りせは思わず赤面して手で顔をパタパタと仰ぐ。恥ずかしくなるなら言うなと周りは思った。

 

「い、今のはことりちゃんたちには内緒だよ? 2人だけの……秘密」

 

 人差し指を唇に当てて、しーっという仕草を可愛らしくするりせに思わずドキッとしてしまった。

 

「はい、この話は終わり! 次のアトラクションに行こ」

 

「そうだな」

 

 再び2人の甘々なデートが再開されたわけだが、もう監視者たちに体力は残っていなく、やる気が失せてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあ、きれ~い!」

 

「ああ、これは凄いな」

 

 陽が沈んで夜空が広がり始めた中、ディスティニーランドの目玉の一つである夜のショーが始まった。度々テレビや雑誌で紹介されている通り、イルミネーションを用いた壮大な演出やそれを彩うように次々と打ち放たれる花火はまさに目を奪われるほど美しかった。ペアチケットの特典で、これをかなりいい場所で見られただけでも今日来た甲斐があったというものだ。

 

「ねえセンパイ」

 

「ん?」

 

 そんな光景に見惚れていると、傍で同じようにショーを眺めていたりせがそう呼びかけてきた。

 

 

 

「センパイは、誰か好きな人いるの?」

 

 

 

「えっ?」

 

 突然の質問に悠は困惑した。一体こんな時に何を聞いているのだろうか、否こんな時だからこそかもしれない。

 

「ううん、少し気になっただけ。センパイだって気づいてるでしょ? 私や……ことりちゃんや希センパイ、穂乃果ちゃんたちの気持ち」

 

「それは……」

 

「多分センパイは皆を大切な仲間って思ってるから。1人選んだら、他の皆を悲しませるからって……あえて考えないようにしてるんでしょ? あと、センパイの家庭を考えたら……きっと」

 

「………………」

 

 言い返せようもないくらい的確に自分の心情を言い当てられた。思わず天を仰ぐと数々の花火が目に映る。

 悠とて聖人君主ではないので、自分がりせやことり、そして希や穂乃果たちにどういった感情を向けられているかなんて知っていた。彼女たちのような可憐で気高い少女たちにそういった感情を抱かれているのは正直嬉しいと思っている。だが、

 

「俺だって、お前たちの気持ちに気づいてるよ。だけど、今の俺にそのことを考える余裕がない」

 

「分かってる。音ノ木坂の神隠し事件のことでしょ?」

 

 そう、今は春から追っている事件の犯人を捕まえる事や受験に掛かりっきりであるので、そのことに向き合う時間はない。というのは建前。

 本当は怖いのだ。誰かを選んで、それ以外の彼女たちを泣かせてしまうこと。そして、自分はいつも目の前で困っている人がいたら誰これ助けてしまう。だから、例え誰かと結ばれたとしても、逆に不幸にしてしまうのではないかと。

 

 

「卑怯かもしれないけど………待ってほしい。全て終わったら……俺は、俺の気持ちを伝えるよ」

 

 

 だから、今は気持ちに整理をつけて、全てを終わらせたその時にちゃんと彼女たちの想いと向き合おう。卑怯なことだと自分でも思うが、それが鳴上悠にとって今出来る精一杯のことだ。

 それを理解したりせはそうかと呟くと、まるで達観したように再び花火が咲き誇る空を見上げた。

 

「……うん、分かった。センパイ、こっち向いて」

 

「えっ……?」

 

 瞬間、ドンと今日一番の花火が空に咲き誇ったと同時に、りせは悠の頬に勢いよく唇を当てた。触れる柔らかい唇の感触。あまりのことに呆然としていると、りせは更に顔を寄せてにっと笑った。

 

 

 

「センパイが誰かに想いを伝える時は、今みたいに頬じゃなくて、ちゃんとここにキスしてね」

 

 

 

 りせの、彼女の眩い笑顔と言葉が放たれた瞬間、ショーの幕が下りる。その時に見たりせの顔を悠は忘れることはないだろう。

 

 

 その瞬間は昨年からずっと自分を想い続けてくれている後輩の今までにない美しいものだったのだから。

 

 

 

 甘い思い出を残して、悠とりせのデートは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

「りせちゃん、ちょっといいかな?」

 

 夢のようなデートが終わって翌日のこと、所属のタクラプロの事務所に仕事で来たりせにマネージャーの井上は出会って早々に声を掛けた。口調は穏やかであるものの、どこか目が据わっている様子だったので、りせは嫌な予感がした。

 

「ど、どうしたの……井上さん?」

 

「いやね、この写真のことで聞きたいことがあってね」

 

「げっ……」

 

 そう言った井上は手に持っていたスマホの画面を見せつける。そこには、何と昨日の悠とのデートの様子を写した写真が映っていた。しかも、一番見られてはいけない夜のショーで悠の頬にキスした時の写真だ。まさかの最悪の事態にりせはどっと冷や汗をかいた。

 

「やばっ、まさか……昨日の悠センパイとのデート……○○か×××××に……」

 

「いや、これは希ちゃんから送られたものだよ。これを週刊誌に送るつもりはないけど、りせちゃんが今後こんなアイドルらしからぬ行動をしないよう注意してほしいって」

 

「なっ!? (希せんぱああああああああああああい!!)」

 

 スキャンダルを免れて安心したの束の間、仕返しと言わんばかりに爆弾を送られた事実に再び地獄に落とされた。その際、タロットカードを手にしたり顔をする天敵の顔が脳裏に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、悠はと言うと……

 

 

「悠……昨日はお楽しみだったようね……」

「へえ~……りせちゃんにキスして貰ったんだぁ~」

「ぜんっぜん、気づきませんでした……まさか、こんな破廉恥なことを……」

「ちゃ~んと説明してくれるまで帰れると思わないで下さいね」

 

 

「………………」

 

 いつもの部室にて魔女裁判にかけられていた。こちらも、希が例の写真を皆に見せたことが原因である。あの時のショーはそれなりの人ごみだった故に穂乃果たちも見逃していたのか、この写真を見た時の感情の変わり具合が尋常ではなかった。

 

「悠くん、これは幸せ税という形で受け取ってな」

 

「完全に私怨だろ……」

 

「私怨よ。でも、果たしてこれは悪なんかな?」

 

「…………」

 

 謀が全て上手く行ってご満悦な笑みを浮かべる希に悠は更に項垂れる。どうやらこの場には魔王しかおらず、救いの神は降りてこない。言いたくないが、もうデートは懲り懲りだと心の底から思った。

 

 

 だが、後日とある事情のため、またデートする羽目になることはこの時はまだ知らなかった。

 

 

 

To be continuded.


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