PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

毎度更新が遅くなって申し訳ございません。自宅生活が続いている中でも、やることが色々あるので中々手が付けられずにいました。まあ新作の方も考えてるっていうこともあるんですが…。

あとやらしい話、もしお時間がよろしければ感想を送って下さい。自粛期間が長引いたせいもあって少しナーバスになってきた部分もありますが、今後の励みとしたいので重ねてお願い致します。

改めて、誤字脱字報告をしてくれた方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

ついに長かったこの【Dancing All Night】編も終わりを迎えます。それではどうぞ!


#96「Reach out to the truth 2/2.」

 最初は誰かの想いからだった。

 

 自分はかの街があの霧で覆われていた時、絆を欲する者たちの想いから生まれた。

 

 当時の街は誰も彼も霧に怯え、住人の大半は“他人などどうでもいい、己だけ助かれば良い”と願っていた。そんな者たちの想いが集められて生まれた存在が【ヒノカグツチ】。P-1Grand Prixという催しを利用して実体を得ようとした今は亡き存在だ。

 

 だが、街の全員が必ずしもそう思っていた訳ではない。そんな中でもかの者たちのように絆を欲したいと願った者がいた。

 

 

“怖い……孤独は辛い……”

“こんな時だからこそ、誰かと繋がりたい……”

“絆が欲しい……傷つかず苦しむことなくみんなと繋がれる……”

 

 

 そんな少数の者たちの願いが収束されて自分が生まれた。生まれたと言ってもあのヒノカグツチと比べれば吹けば飛ぶような小さな存在だった。故にかの者たちにも存在を知られることはなかった。

 だが、この土地に来た時には驚いた。あの霧に苛まれていなくとも、自分を生み出した者たちと同じ思いを抱くものが溢れるほど存在していた。生まれた場所より人口が多いということもあるのかもしれないが、よもやこれほどとは思わなかった。

 

 

“絆が欲しい……”

“近づこうとすれば傷ついてしまう……”

“そんなものは嫌だ……”

“苦しみたくない……”

“傷つきたくない……”

“どうせ伝えようとしても伝わらない”

“他人は自分のことしか考えない……”

”他人とは分かり合えない”

“誰もが繋がれる……絆が欲しい……”

 

 

 吹けば飛ぶような存在だった自分は大きな存在となり、今回の件を起こせるほどの力を得た。その力の要領を得た自分は己を生み出した想いに応えようと考える。

 自分は想いによって生まれた存在ならば、その想いを成し遂げようとするのは当然のこと。人間の望む理想の苦しみの無い傷つくことのない安寧の場所を創り出すことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワアアアアアアアアアアアアア!! 

 

 

『かなみんキッチンの皆さま、ありがとうございました。まさにトップアイドルに相応しい見事なパフォーマンスで御座いました』

 

「わあああっ! かなみさんたち、すっごーい!」

 

「流石はりせちゃんと並ぶトップアイドルなだけあるわ」

 

「そりゃなんたって、本物の絆に目覚めたかなみんキッチンだもん。フフ、私も本気出さないとヤバいかも」

 

「はえええっ!? りせ先輩にライバル認定されちゃいました!」

 

「というか、何でエリザベスさんいつの間にここにいるの?」

 

「そっとしておこう……」

 

 故に、こんな人間たちの戯れに自分が感情を動かされることなどないのだ。目の前で繰り広げられる名も知れぬ少年少女たちの饗宴。

 

 くだらない。実にくだらない。

 

 “伝える”ための歌や踊りを一生懸命やろうとしたことで、この自分が心を動かされることなどない。それに、無理矢理とはいえ自分の中に取り込んだ者たちは自分のこの安寧の場所を望んでいる。傷つきもしない、苦しみもしないこの完璧な場所こそが人間の理想とする場所なのだから。

 

『お次はスクールアイドルのトップアイドルであらせられる【A-RISE】で御座います。皆さま、どうか盛大な拍手をっ!』

 

「さあて、私たちもライバルたちに負けないように頑張るわよ!」

 

「「うんっ!」」

 

「おおっ! 次はツバサさんたちだ!」

 

「すげえ! すげえよ!! かなみんキッチンだけじゃなくて、あのA-RISEのライブをこんな近くで……!」

 

「陽介さん! にこちゃん! 精一杯応援しますよ!! サイリウムありませんか!?」

 

「んなもん、ねえよ。てか、こんなところにあるわけねえだろ……」

 

「何でないのよ! ジュネス王子のくせに本当に気が利かないわね」

 

「ジュネス王子関係ねえだろ!関係ねえから花陽ちゃん、その悲しそうな目を俺に向けないでくれっ!?」

 

 しかし、何故だ。何故あの者たちは楽しそうな表情をしているのか。どうせ自分に伝えられるわけでもないのに。

 自分は決めたのだ、これは救いだと。己を生み出した想いを持つ者たちの願う場所へ誘うのが己の役目だと。

 

 何故だ……何故、

 

 

「君は分かってないんだね……」

 

 

 誰かが話しかけてきた。誰かと思いきや、あの青い帽子を被ったエメラルド色の瞳を持つ少女……彼の地に存在しなければいけないのにも関わらず、自分の領域に勝手に入ってきた忌々しい小娘だ。その小娘はそんな心情を知って知らずか何食わぬ顔でこんなことを言ってきた。

 

「君たちは元々人々のある願いが集合して生まれた存在。それ故にその願いを元に生きている存在だけど、人間から生まれたなら君にも感情があるってことだよ。“楽しい”って感じる感情がね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後にこの場にいる踊り手たち総員によるダンスパフォーマンス。最後まで目を離さず、お楽しみください! それでは参りましょう、【Reach out to the truth】」

 

 

 ついに始まる、この饗宴最後の演目。夏休みにりせと絵里が課題として出していたものの一つであり、ジュネスのライブイベントで悠たちが披露した演目。あの時と違い、今回は穂乃果たちも加わる。密かに練習していたものの人前で披露するのは初めてだ。

 だが、そんなことは関係ない。大事なのは“伝えたい”という想い。それをダンスに乗せれば伝わるはずだ。

 

「しゃあっ! 行くぜオラァっ! 最後は俺たちで決めたらぁっ!!」

 

 完二の力強く頼もしい一声からついに始まる、この事件で最後のダンス。これまで培ってきた技術と想いを胸に特捜隊&μ‘sによるパフォーマンスが始まった。

 

 

 

 まず最初のパートを担当するのは、完二・直斗・花陽・凛の4人だ。

 完二と凛のダイナミックな動き、直斗と花陽のアシストするような細やかなステップが上手く歯車が合わさったような釣り合いのとれたパフォーマンスで客をアッと驚かせる。練習当初はまだまだ動きがなっていなかった直斗があそこまで踊れるようになったとあって、教え込んだりせと絵里はとても嬉しそうだった。

 

「後はお願いします」

「ええ、任されたわ」

 

 続いてその4人の後に続くのは、千枝・雪子・絵里・希の3年女子組だ。

 同学年でGWから仲良しだった4人の息はピッタリ。各々の個性を主張しすぎず調和の取れた素敵なパフォーマンスだ。彼女たちが時折見せる可愛らしい表情や仕草は会場に興奮の嵐を巻き起こした。

 

「花村、後はよろしく!」

「おっしゃ、いくぞ!!」

 

 更にこの勢いで繋げていくのは、陽介・クマ・真姫・にこの異色な4人。

 例によって自由奔放な動きをしまくるクマであったが、そこは普段クマの世話をしている陽介が絶妙なサポートで調整する。それにより、真姫とにこが己の実力を思う存分発揮できるパフォーマンスができたので、全く異色でありながらこれまた彼ら彼女ららしいパートとなった。

 余談で、4人のパートの終了間際にいつもの癖でドサクサに真姫にセクハラを働こうとしたクマだったが、そうする間もなく陽介にきっちり鉄拳制裁を喰らった。

 

「カナちゃん、この後クマと……ぐぎゃあっ!!」

「あっ、ごめんなさーい!」

 

 そして、ラストに繋げるために盛り上げていくのはりせ・かなみ・海未・ことりだ。

 流石はトップアイドルとして君臨してきた久慈川りせと真下かなみ。天才的なセンス。互いに競い合ってきた者同士故か、タイミングまでバッチリ合って素晴らしいダンスを繰り広げていた。

 そして、海未とことりも2人に負けていない。日頃の厳しい練習で培ってきたリズム感とステップ、そして従兄譲りの表現力。何より彼女たちの中にある潜在的な才能により、りせとかなみと同等のクオリティを保っていた。

 

「さあ、センパイ・穂乃果ちゃん! お願い!」

 

 

「ああ、決着を着けよう」

「うん、始めよう。イッツショータイム!」

 

 

 最後を飾るのは、当然この2人。悠と穂乃果のリーダーコンビだ。ステージに登場していてから早々にこの2人が格の違いを表した。何度も練習したかのような息の合いようとメインであるはずのりせやかなみを押しのけるかの如く見せつける表現力による存在感。

 そんな2人の勢いに釣られて、ステージに先ほどまで出番だった特捜隊&μ‘sのメンバーだけでなく、かなみんキッチンとA-RISE、更には菜々子たちも一斉に飛び出した。もはや悠と穂乃果を中心としたランダムダンスになっているが、不思議と一体感があり、それもまた彼ららしい良いパフォーマンスと化していた。

 

「センパイ、素敵! そのままいっちゃえ!」

「鳴上さん、決まってるです!」

「手応えアリだぜ! そのまま行けえっ!」

「悠っ! やっぱりお前は、最高の相棒だぜ!」

「鳴上くん・穂乃果ちゃん、信じてるから!」

「君たちなら出来る! これまでも、ずっとそうだったから!」

「センセイ! ホノちゃん! 頑張るクマ~! みんな待ってるクマよ~!」

 

 この感覚は今までも感じていた。皆の“伝えたい”という想いがエネルギーとなって自分に集まってくる。

 

「穂乃果、ここが決め所ですよ!」

「悠さん・穂乃果ちゃん、ファイトですよ!」

「その調子でいっくにゃ~!!」

「アンタたち! その調子でいっちゃいなさい!!」

「悠・穂乃果、あなたたち最高よ!」

「悠くん、負けんでな!」

「お兄ちゃん、頑張って! お母さんも叔父さんも、待ってるから!!」

 

 それにより、心の中に潜むペルソナたちに大きな影響をもたらしているのが凄く伝わってくる。

 

 

「お兄ちゃん、すごーい!」

「お姉ちゃん、普段とは全然違う……」

「鳴上さん、カッコいい!!」

 

 

 そう、これが人と人とが繋がるということだ。

 

 

「さあ悠さん、一緒に決めよう!」

 

 

 隣で一緒にステップを刻む穂乃果からもエネルギーを感じる。

 これだ。これが、自分たちが築いてきた絆の力。自分だけでは得られなかった……かけがえのない皆との力。その力を今ここに解放しよう。囚われた多くの人たちを助けるために。そして、自分たちが大切にしていることをあの殻に閉じこもろうとしている者に伝えるために

 

 

 

 

ーカッ!ー

「「「「ペルソナ!!」」」」

 

 

 

 

 フィニッシュを迎えた瞬間、皆で一斉にペルソナを召喚する。召喚された多数のペルソナたちは各々の楽器を所持しており、まるでオーケストラのような規模で壮観だった。もちろんこの壮大なオーケストラをまとめるのは……

 

 

 

「伊邪那岐大神」

 

 

 

 そう、皆の想いを受け取って進化した伊邪那岐大神だ。手にはその証というべき白金色に輝く指揮棒を握っている。

 伊邪那岐大神が指揮棒を一振りすると、側で待機していたカリオペイアのギターから演奏が開始された。それに続いてドラムとティンパニーがリズムを響かせ、管楽器と弦楽器による重奏が一気に場を盛り上げる。楽器を弾くペルソナたちが皆想いのままに音色を響かせ、それが聞くものたちを魅了する。

 

 最後に伊邪那岐大神が指揮棒を思いっきり上空へ投げ、肩に掛けたギターで思いっきり奏で上げる! 

 

 ここにいる皆の想いを届けるために、このステージを見てくれている全ての人々へ伝えるように。ありったけの想いを込めた速弾きギター演奏はやり切ったという悠の表情で終幕した。

 

 

 

 

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 身体から溢れ出す人々の興奮にミクラタナノカミが耐え切れなくなって絶叫する最中、空間は真っ白に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは……」

 

 

 意識が戻って辺りを見渡して見ると、そこは先ほどまでいた空間ではなかった。足場はりせと希によるペルソナではなくちゃんと存在し、星々が輝く空などない。まるでどこまでも続いて居るような真っ白な景色が広がっていた。

 見覚えのある場所だと悠は思った。記憶が確かなら、同じような場所に2度来たことがある。一度目は音ノ木坂学院に入って早々の夜に呪いをかけられた時、二度目は絵里と希の事件を解決した後に誰かに声を掛けられた時に。

 

 

「これが……お前たちのいう……絆か……」

 

 

 誰かの声が聞こえたので振り返ってみると、そこに人が居た。否、あれはミクラタナノカミだろうか。先ほどの見上げる程だった巨体は今はなく、自分の背と同じくらいの大きさになっている。そう直感した悠は、まるでその言葉を待っていたかのように反射的に告げた。

 

 

「俺たちは……みんなが別々だから、ぶつかることだってゼロじゃない。でも、それでお互いを認められたら、本当の絆になる。だから、俺たちは逃げたりしない! 何度でも正面から向き合って分かりあって見せる。今までも、これからも!」

 

 

 力強く、まるで鋼の如く堅い決意を示した悠の言葉にミクラタナノカミはフッと声を盛らした。

 

「フフフ……フハハハハハハハハハハッ!! まさか我もそのような不確かなものに(ほだ)されようとは………全く、お主らの方が度し難い。認めよう、お主らの勝ちであると。だが忘れるな……私を求める声は消えない。いつかまた、お前たちとまみえる日も来るだろう」

 

 ミクラタナノカミのその言葉は悠には警告のように聞こえた。アメノサギリやイザナミも散り際に同じようなことを言っていたが、例えそうだったとしても自分たちは彼らに立ち向かうだろう。

 だが、それはそれとして他の皆はどこへ行ってしまったのだろうか。もしや、あの白い光に巻き込まれて……

 

「案ずるな……全てをお前たちの世界へ返している。それに、お主に伝えることがあったので、お主をここへ呼んだのだ……」

 

 ミクラタナノカミの“伝えたいことがある”という言葉に悠は思わず反応する。

 

「……どういうことだ?」

 

「なに、我に打ち勝ったご褒美よ。仮に此度の顛末が我とお主たちとの勝負であったのなら、勝者には褒美をやらねば理にかなわんだろう。それに、褒美というのはお主たちが知りたがっていた者のことだ」

 

 褒美の内容が“自分たちの知りたがっている人物の正体”。まさかと思いつつ、昂る鼓動を抑えながら悠はミクラタナノカミの言葉に耳を傾ける。

 

「不思議に思ったであろう、何故我がお主を知っているのか? それは、我もあの霧から生まれた存在だからだ」

 

 それからミクラタナノカミは話した。自分はヒノカグツチと同じく八十稲羽が霧に覆われた時に住人の願いから生まれたこと。だが、その願いは少数だったため、ヒノカグツチと比べれば吹けば飛ぶような存在であったと。

 

「…………」

 

 ミクラタナノカミの生い立ちを聞いて悠は多少驚いたが、やはりという気持ちが強かった。これまで遭遇した霧の住人たちは人々の願いや想いが集まって誕生した存在だったので、今回もそうではないかとおおよそ見当はついていたのだ。だが、

 

「我をこの場に連れてきた者がいる。その者のお陰で小さき存在だった我は現在のような力を持つまでとなった。この土地には我を生み出した者どもの願いを持つ者が多くいたのでな」

 

 ミクラタナノカミは何者かに稲羽からこの東京へ移動させられて大きな存在となった。稲羽では少数だった源となる想いを持つ者が東京では逆にたくさんいたからだ。皮肉なもので、狭くとも人が多い場所ほどそういう孤独に苛まれる人物は多いものなのだろう。

 

「そして、その者はこう言ったのだ。我の計画は好きにすればよいが、一つ頼まれてくれと。それはとある場所にかの地のような異世界を創ること。その場所とは……お主らがいる()()()()と言いよったところだ」

 

「!!っ」 

 

 今度こそ悠は驚きを露わにするように、告げられた事実に目を見開いた。自分がこの春から追っていた音ノ木坂の事件の根幹となっていたあの世界は目の前にいるミクラタナノカミが創り出した。そうなってくると、今回のマヨナカステージやかつてのP-1Grand Prixですら、誰かの思惑通りだったのではないかと思えてくる。

 

「教えてくれ、あなたを東京に連れだしたのは誰なんだ?」

 

「残念だが、その者の名は我も分からぬ。だが、断言しよう。その者は今もお主らの近くで事の成り行きを見ている」

 

「えっ!?」

 

「我が言えるのはここまでだ。後はお主たちで見つけるがよい。迎えが来たようだしな」

 

 ミクラタナノカミは悠の背後を指さしてそう言ったので、振り返ってみるとそこに膨れっ面でこちらを見ている少女の姿が見受けられた。エメラルド色の瞳にトレーニングマークの青いハンチング帽とバッグ。なるほど、迎えとはそういうことか。

 

 

『さらばだ、絆の踊り手たち……素晴らしい宴であった』

 

 

 ミクラタナノカミはそう告げると、全身に光が灯り始めたかと思うと、輝きが増すにつれて存在が薄くなっていった。どうやらこのまま彼……彼女は消滅してしまうようだ。だが、その前に言っておくことがある。

 

「ミクラタナノカミ」

 

 悠は真っすぐミクラタナノカミを見据えた。そして、

 

 

「俺たちのステージを見てくれて……ありがとうございました」

 

 

 悠は晴れやかな笑顔でそう言うと、深々と頭を下げた。最後まで自分たちのパフォーマンスを見てくれて、ありがとうと言われることのないお礼を告げられたミクラタナノカミは虚を突かれたようにあっけに取られていた最後にフッと声を盛らしたと同時に光となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

…………………………………

 

 

 

「あれ?」

 

「これは……戻ってきたのか……でも、空の色が違うような……」

 

 気が付くと、もうそこはミクラタナノカミと一緒に居た白い空間ではなかった。目の前には夜空が広がる国立競技場に大勢の観客たち、自分が足をつけているのはステージだ。そして、何より周りには仲間たちがいる。

 

「ここ、マヨナカステージじゃないよっ! だってほら……! さっきマヨナカステージ居た時って、カメラマンさんいなかったよね!?」

 

 千枝が辺りを見渡して指さす方を見ると、確かにカメラがある。確かにマヨナカステージではそんなものはなかった。

 

「じゃあ、ここは現実世界……帰ってきたんだ! やったあ!!」

 

「私たち、勝ったんだね!」

 

「おっ! 絆フェスの客らも無事らしいっすよ」

 

 絆フェスの会場にいる観客たちに何も異常がないところを見ると、どうやらあのミクラタナノカミはちゃんと約束を守ってくれたらしい。だが、この事態はあまり喜ぶべきものではない。

 

「あれ……? 俺たち…………」

「つーか、アレ? 絆フェスどーなったっけ?」

「途中までは普通だったよね? それで、確か……」

「あれ……覚えてねーけど、俺……寝てた?」

 

「よく考えるとこれ……完全にヤバくねぇか? 明らかに客、混乱してっし……」

 

「た、確かにこの状況を説明するかはちょっと骨が折れそうですね……」

 

 思えばフェスの観客は、この会場がマヨナカステージに落ちたその瞬間から事件を目撃している。ミクラタナノカミの絆に捕らえられた間は記憶がなかったとしても、それ以外の部分でさえ簡単な説明で納得できる事態ではないだろう。

 一体どうしたら良いのだろうと思ったその時……

 

 

ドオオオン!! 

 

 

 悠たちの懸念をを吹き飛ばすように聞き覚えのある音が夜空へと舞い上がった。そして、大輪の華が夜空に咲き誇り、自分たちの置かれた状況を忘れて感嘆の声を上げた。

 

「わああっ! 花火だっ!! すごーい!」

 

 

ドオン! ドオン! ドオン! ドオン!

 

 

「まさに乱れ打ちですね。これはすごい」

 

「た~まや~!」

 

「く~まや~!」

 

「「く~まや~!」」

 

「ちょっとクマくん、菜々子ちゃんと亜里沙に変なこと教えないで!」

 

 夏休み終盤に皆で観に行ったの花火大会を追憶させるほど迫力ある花火が絶え間なく、寂し気な夜空を彩るように打ちあがっていく。あまりに美しい光景に会場にいる人々を虜にした花火は数分後に終了した。すると、

 

 

『ご来場の皆様に申し上げます』

 

 

 花火が終わってから束の間、いつの間にマイクを持って司会者席にいた落水が登場していた。

 

『ただいま、絆フェスのフィナーレを飾るサプライズ花火の打ち上げに際し、機材の故障などによるハプニングでステージが中断したことをお詫び致します』

 

 淡々と冷静に事務報告するようにアナウンスする落水。サプライズの花火のことなんて悠たちはもちろんのこと、かなみんキッチンやA-RISEたちもそんなことは聞いていない。舞台袖で何のことかと呆然としているスタッフの様子からも察するに、完全にこれは落水のアドリブだ。

 

「おいおい、あの人完全になかったことにする気だぞ……」

 

「ああ……でも、その方がいいかもしれないな」

 

『尚、現時点でトラブルは全て解消され、ステージの進行に支障はなくなりました。よって……予定通り、絆フェスのステージを継続させて頂きます』

 

 落水はそう言い終えると、舞台袖のスタッフたちにサッサとしろと言いたそうに合図を投げる。事態を呑み込めていなかったスタッフたちだったが、落水の気迫に慌てて作業に取り掛かると、ワンテンポ遅れてBGMが会場に流された。これを受けて観客席のざわめきが歓声に変わるまでそれほどの時間はかからなかった。

 

「すごっ! 一気に会場の雰囲気を戻しちゃったよ!」

 

「まあ、強引でもあそこまで進められちゃうとね。相手が落水さんだし……」

 

「なし崩しとはいえ鮮やかな手並み、見事だな。俺も見習いたい」

 

「というか皆さん、早く降りませんか……ここステージの上なんで」

 

 改めて見る落水のプロデューサーとしての手腕に感嘆する一同だったが、直斗の一言に水を打ったように冷静さを取り戻した。

 

「やばっ!」

 

「私たち、ずっとステージに……」

 

「マヨナカステージで踊りすぎて、感覚がマヒしてたみたい……」

 

「もう私たちの出番はないし、ややこしくなる前に立ち去りましょう」

 

「よーし撤収、撤収するぞ!」

 

 そうだ、ここから自分たちの出番はない。ましてや混乱を極めたこの状況に対応できるほど、悠たちもプロじゃない。ここは落水……必要ならかなみんキッチンやりせ、A-RISEたちに任せて、それ以外のメンバーは早々に撤収するべきだ。そう判断してから、身をかがめてステージに降り注ぐスポットライトを避けつつそそくさと舞台袖に移動しようとする。だが、

 

 

『それではこれより、絆フェス最終イベント、かなみんキッチンの新曲発表を行います。ステージを盛り上げてくれるのはもちろん……!』

 

 

ー!!ー

 

 

 落水の声と共に盛り上がっていた音楽と舞い踊っていた色とりどりのライトが消えて、閃光のような眩いスポットライトがステージの中央に残っていたかなみたちと舞台袖に逃げようとした悠たちを射抜いた。

 

 

『かなみんキッチン&絆ダンサーズの皆さんです!!』

 

 

「「「「なにいいいいいっ!?」」」」

 

 

「むひょー! みんなクマに夢中クマね! はれヨースケ、手を振らんと!」

 

「っていうか何っ!? どうなってんのこの流れ……!」

 

 自身たちを照らすスポットライトに自然と動きを止められてしまい、思わず観客の方を向く。一体どうなっているのかと混乱する悠たちのことなど露知らず、落水は策士のように逃げ場を塞いできた。

 

『今回絆ダンサーズとして参加して頂いているのは、今話題のスクールアイドル、UTX学園の【A-RISE】さんと音ノ木坂学院の【μ‘s】さん、そして久慈川りせさんが御贔屓にしている八十神高校の【特別捜査隊】の皆さんです! 盛大な拍手を』

 

 逃げ道に逃げ道を塞ぐかのように、観客たちによる盛大な拍手や声援が悠たちにその場から立ち去ろうとする気力を奪った。もはや退路を絶たれたも同然と状況だ。

 

「すげー、完全に退路絶たれたよねコレ……」

 

「ええ、してやられたわ……」

 

 すでに観客の注意はかなみたちだけでなく悠たちにも注がれている。もはや逃げることはできず、出来る事と言えば引きつった顔で観客席に手を振り返すだけだ。

 

「どどどどどうすんのよっ! 私たちがこんな場所に立っちゃっていいの!?」

 

「わ、分かりませんよ!」

 

「ううううううううううう……」

 

「み、皆さんが……こっち見てます……」

 

 予期もせぬ事態に皆は気が動転したのか、マヨナカステージでの自信が嘘のように慌てふためている。だが、

 

「皆が見ている……はっ!? この状況でお兄ちゃんに抱き着いてそのままキスしちゃえば、ことりたちは付き合ってるっていう既成事実が……」

 

「(ガシッ)……させると思う?」

 

「(ガシッ)そんな抜け駆けはさせへんで?」

 

 一部ではそんな邪な想いを抱えた乙女たちによる戦いが勃発しているが、知らないふりをしておこうと悠は心に決めた。

 

「かなみ……カリステギアよ、歌いなさい。歌詞はオリジナルの方で行くから。あなた達もよろしくね」

 

 こちらに向かってそう言うと、落水はそそくさとステージ下手へと下がっていった。

 

「カリステギア……有羽子さんの曲…………」

 

 かなみは一瞬身体を震わせてしまったが、かなみんキッチンの皆が大丈夫だと言うように、見つめている。それを受けて、

 

「……はいっ! という事で次が“絆フェス”最後のイベントとなりました! お約束通り、私たちかなみんキッチンの新曲を発表させて下さいっ! この曲は私の先輩が残してくれた曲で、私とここにいる仲間たちを繋いでくれた本当に……本当に大事な曲です! 最後まで温かく見守って下さい!」

 

 かなみの元気のよくハキハキとしたスピーチに観客たちはエールを送るように惜しみない声援と拍手を送る。この事件を経て精神的にもアイドルとしても一段と成長したようだ。

 

「へっ、こうなりゃしゃーねえ……最高のダンスでばっちり決めてやるぜ!」

 

「うん、やろ! 折角のステージだし、楽しまなきゃ損だよ!」

 

 ステージで真っすぐに自分の想いをマイク越しに伝えたかなみの姿に背後であたふたとしていた一同も心を打たれて感化されたのか、顔にやる気がみなぎってきた。

 

「知らねえぞ……ぜってー放送事故だ。今年下半期、最大級の……!」

 

「放送……事故っ!?」

 

「あわわわわわわわわわわ……」

 

「大丈夫、ちゃんと伝わるさ」

 

 一方、それでも心穏やかではないない者が何名かいるが、そっとしておこう。決して逃げ場がないからと言って諦めている訳ではない。ないったらない。

 

 

「じゃあ皆さん、踊って~騒いで~フェスの思い出、一緒に刻み付けるべしですっ! 一生懸命歌うので聞いて下さいっ! かなみんキッチンで、【カリステギア】です!!」

 

 

 かなみの一世一代の掛け声に会場に熱気が沸き上がった。これから始まる絆フェス最後のイベント。こんな機会は今後ないだろうから、思いっきり楽しもう。

 

 

「てか、楽しもうもなにも、俺らこの曲知らねえしっ!!」

 

「「「ダレカタスケテ──ー!!」」」

 

 

 会場が熱狂に包まれる最中、そんな一部の悲鳴は虚しくもかき消された。

 

 

 

To be continuded Epilogue.


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