PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

自宅で過ごすことが多くなったため、部屋で研究室の課題をやったり作品を執筆したりする毎日です。時間がある故に煮詰まって中々筆が進まず更新が遅くなってしまい、申し訳ございません。

それと私事ではありますが、別作品で【Persona4 THE NEW SAKURA WARS】というものも書き始めました。本作が煮詰まって際に息抜きとして始めたものなので更新は不定期ですが、こちらも楽しめてもらえたら幸いです。

改めて、最高評価や高評価、評価を付けて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!

それではいよいよこの章のクライマックスが近い本編をどうぞ!


#94「It is our miracle.」

「き、絆フェスの……会場!?」

 

「そんなっ!」

 

「何かの間違いですよね……? そうですよ、アレは国立競技場を模したこの世界特有のオブジェに決まってます! そうですよね? りせ、希?」

 

 目の前に映る絆フェスの会場である国立競技場。その存在を認められない海未たちが苦し紛れにそう言うが、ナビ役の2人は首を縦に振った。

 

「確かに……今までと違う感じがするけど」

 

「あれは間違いなく絆フェスの会場や」

 

「ムムム……! これは紛れもなくセンセイたちの世界の匂い……間違いないクマ! ここだけこっちの世界に来ちゃってるクマよー!」

 

 もはやダメだし。信じられないが元々テレビ世界の住人だったクマからの言葉もあって、目の前にあるものが絆フェスの会場である事実を突きつけられた。だが、同時に合点がいった。

 さっきまでマシンルームで対峙したあの人物はかなみのシャドウではないということだ。今まで数多のシャドウと対峙してきたが、人の内面が具現化したシャドウであっても、このように現実のものを異世界に送り込むような大事は起こせない。このようなことが出来るのは、おそらく

 

 

 

『フフフ……ようこそ、“愛meets絆フェス”へ!』

 

 

 

 すると、不意に宙からかなみシャドウ?の声が響いてきた。

 

「お前……!」

 

『ぜ~んぶ持ってきてあげたよ? 絆フェスの会場も……そこにいる人達も、ぜ~んぶ。まあ邪魔な人たちも何人かいるけど、どうでもいいよね』

 

「まさか……絆フェスに来てたお客さんたちごと!?」

 

『フフフ……そうよ? ステージが見たい……皆と一つになりたい……誰かに会いたい……皆、心のどこかで絆を欲しがってて痛みもなくそれが手に入れば嫌がるわけないもの』

 

 かなみシャドウ?のその言葉に悠たちは愕然としてしまった。これだけの規模の会場となれば、来場している観客たちの数はとてつもないものに違いない。そして、あのかなみシャドウ?のこれまでやってきた行動を考えると、最悪の目的が読めてしまった。

 

「絆フェスの観客全員を、貴方の言う絆に繋ぐつもりなのっ!?」

 

『そうだよ? 最高にハッピーでしょ! かなみはもうすぐ皆の望むかなみになる……そして私たちの絆の歌を歌うのよ……! みんな、喜ぶよ。私たちは本当にひとつになるんだから!』

 

 かなみシャドウ?の言葉から言い表せない恐怖を感じた。あれが企んでいることなんて狂ってるとしか思えなかった。そんなこと、認められるはずがない。

 

「ふざけないで下さい! そんなこと、絶対にさせません!」

 

「そうにゃっ!! お前の計画なんて凛たちが全部ぶっ壊してやるにゃっ!!」

 

『フフフ、分からず屋さんたち……悪いけど、もうかなみのステージが始まっちゃうの。邪魔はさせないわ』

 

 言うや否や悠たちの辺りに黒い靄が発生し、多数のシャドウが姿を現した。どうやらまだこの世界に引き込まれたシャドウは残っていたようだ。

 

「くそっ! まだいやがったのか!?」

 

「一体どれだけの人が取り込まれたの……?」

 

『あなた達はこの子たちの相手をしててね。まあ、運よく上手く行けたとしても間に合わないだろうけど……フフフ…………あははははははっ!!』

 

 かなみシャドウ?は自分の絶対勝利を確信しているのか、嘲るように高笑いするとすぐさま気配を消してどこかへ行ってしまった。

 

「またコイツらかよ!! 道を開けろコラァ!!」

 

「完二、ダメ!」

 

 会場への道が塞がれたことに苛立った完二たちが実力行使で進もうとするが、りせが何とか踏み留ませる。だが、このままでは進めない。だからと言って、誰かがダンスをしてここから解放するにしても時間がかかってしまう。

 

 万事休すかと思ったその時、

 

 

 

 

 

 

「おやおや? 再びあの方々のステージが見られると思ってやって来てみれば、随分楽しそうなことになっておりますこと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<絆フェスの会場 メインステージ>

 

 

 

「えっ? 私……えっ? ええっ……!?」

 

 

 

 目が覚めてたかなみは自分が置かれている現在の状況にパニックになっていた。さっきまで自分は楽屋に居たはずなのに、いつの間にステージに立っていた。まだ自分たちのステージには時間があるはずなのに。よくよく見ると、目の前にはたくさんのお客さんたちも状況に追いつけずに困惑している様子なのが気になる。更には

 

「かなみん? 何で……?」

 

「何で、私たち……ステージに居るんでしょうか?」

 

 何故か菜々子と雪穂、亜里沙たちも一緒のステージに立っていた。一体全体何が起きているのか、分からない。ただ、かなみは菜々子たちを守らなきゃいけないと直感し、何振り構わず彼女たちに近づいた。その時、

 

 

『ッフフフフフフ……』

 

 

「あ、アレは……!?」

 

 誰かが不気味な笑いと共に観客に愛想を振りまきながらステージに現れた。現れたその人物にかなみは驚愕する。だって、その姿は自分と瓜二つにそっくりだったのだから。唯一違う点があるとすれば、瞳が金色に輝いているというところだろう。

 あまりの出来事に驚いていると、そのそっくりさんはそっとこちらを振りむいた。

 

『そんなに驚かないでよ。ここにいる皆も貴女も……私がここへ連れて来てあげたんだよ。あなたが苦しそうだったから』

 

「連れて……? そうだ、私……日記を、ああっ!」

 

 電撃が脳に走るように思い出すあの出来事。過去のことを思い出すのが怖くなって身体ががくがくと震えだした。

 

『……大丈夫、もう怖くないよ。私と繋がれば、あなたは何も心配なくなるから。自分を捨てて皆の望むあなたになりなさい。そうすれば、あなたは絆を手に入れられる』

 

「絆……?」

 

『欲しいでしょう? 絆が。じゃないとあなたは歌えない。だって有羽子さんもそうだったんだから』

 

 あの自分が発する言葉一つ一つが心に突き刺さっていく。何故自分が思い悩んでいることを的確に指摘できるのか分からないが、頭を抱えてしまうほど辛い。隣では菜々子たちが大丈夫と心配そうに呼びかけてくれるが、聞こえない。

 

『……苦しいよね、痛いよね? だってカリステギアは“絆”の唄だもの。あんなに気品溢れて誰からも愛された有羽子さん、あなたを孤独から救ってくれた憧れの人。その有羽子さんでさえ孤独に苛われてあなたの前であんなに無残な姿になったの。絆のないあなたじゃ何も伝えられないよ』

 

「や、やめてください……」

 

『フフフ……聞かせてあげる。この会場の人たちがあなたの事をどう思っているのか?』

 

 瞬間、空間が歪むような気持ち悪い感覚に襲われた。すると、耳にこんな声が聞こえてきた。

 

 

 

 

“何これ? ヤラセ? いーから早く歌うか踊るとかしろよ、めんどくせー”

 

“こんな寸劇誰も見ねーよ。お前らの気持ちとかホントどうでもいいっつの”

 

“余計な事しないでいつもみたく笑ってろ~。どうせスマイルしかできないっしょ~”

 

“つーか、所詮アイドルだからねー。余計なのは良いから衣装は露出度高めで頼むわー”

 

 

 

 

 

「やめてええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 

 

 

 

 

 

 ダメだ、もう聞きたくもないし見たくもない。自分には絆なんかなくて、カリステギアを歌う資格はない。絆が欲しい……みんなに認められたい。

 その時、四方から伸びたリボンがかなみを巻き取ってかなみの身体を宙へと誘った。四肢をぐるぐる巻きにされて両手両足を伸ばすように吊るされる様はまるで磔のようだった。

 

「かなみお姉ちゃん!?」

 

「かなみさん、大丈夫?」

 

 呆気に取られていた3人が心配そうに声を掛けてくれるが、かなみにはもう届かない。既にかなみはリボンに巻き疲れた影響か、意識が段々と薄れて思考する力が奪われつつあった。

 

『フフフ……ごめんね? そのかなみん、あなた達をガッカリさせちゃったでしょう? さあ、おいで。私と繋がった方が楽しいよ?』

 

 かなみシャドウは優しくそう言うと、こちらにいらっしゃいと言わんばかりに手を差し出した。ダメだ、自分はこれでいいが菜々子たちがこちら側に来るのはダメ。そう警告しようとも身体に力が入らなくて声を出す気力がない。

 

 

「かなみお姉ちゃんをいじめちゃダメ!!」

 

 

 だが、3人はその誘いを跳ね除け、真っすぐにかなみの元へと駆け寄った。そして、かなみを庇うように両手を広げてとおせんぼする。

 

「あなたは、かなみさんじゃない! それくらい分かるよ!! 亜里沙たち、ここまでずっと一緒だったもん!!」

 

「大体あなたは何なんですか! さっきから、かなみさんを苦しめるようなことを言って!」

 

『はあ……?』

 

「こんなに苦しそうなのに、楽しいはずないよ! おねえちゃんはまちがってるよ!!」

 

 亜里沙・雪穂に続いて菜々子の悲痛な叫びが会場に木霊する。その言葉にはザワザワと自分勝手なことを言っていた群衆も静まり返ってしまった。それほど菜々子たちの叫ぶが心に響いたということだろう。

 だが、黒幕であるかなみシャドウ?には全く響かなかったのか、愉快そうにニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべていた。

 

『うふふふ……可哀想な子たち。いいよ、そこまで言うなら……無理やりにでも繋げてあげる!』

 

 すると、かなみを繋いでいたリボンのうち数本が菜々子たちをロックオンする。

 

 

 

 

 

「そこまでだよっ!!」

 

 

 

 

「だ、誰っ!?」

 

 突如会場内に響く誰かの声。これには会場の観客のみならずステージのかなみシャドウも身構える。次の瞬間、ステージに大きなスモークが立ち込めた。一体何事かと会場がザワザワし始める。そして、スモークが晴れたステージにはいつの間にか9人の少女が姿を現していた。

 

 

 

 

 

「「「「スクールアイドル【μ‘s】参上!!」」」」

 

 

 

 

 

「……!」

 

 どこからともなくどこかの歌劇団のようにポーズを決めて登場した天敵たちにかなみシャドウも驚愕する。まさか自分が送り込んだシャドウたちをこんなにも早く解放したというのか。

 

「お、お姉ちゃんッ!?」

 

「えっ? えっ? 何で、お姉ちゃんがここにいるの? 今までどこに行ってたの?」

 

『へぇ、意外に早かったね。何をするのか分からないけど……。!!っ』

 

 今さらこの場に来ても遅い。このまま菜々子たち諸共リボンに繋げてやろうと目を向けたが、ステージには菜々子や雪穂、亜里沙の姿はなかった。どこに行ったのかと見渡して見ると、3人はステージの下手にいた。更に傍には悠たち特別捜査隊が保護するように守っていた。スモークが立ち込めている間、悠たち特捜隊メンバーがステージの下手に誘導していたのだ。

 これはかなみシャドウ?も想定外だったのか、表情が珍しく狼狽していた。この反応に散々馬鹿にされた腹いせなのか、ざまあみろと言わんばかりに千枝とりせはかなみシャドウ?にむけてあかんべえと舌を出していた。

 

「お兄ちゃんっ!? 何でここにいるの?」

 

「菜々子!? それに、雪穂に亜里沙も!?」

 

「「鳴上さんっ!?」」

 

 安全な場所に保護された菜々子たちは今まで失踪していた悠たちがこの場に現れたのか理解が追い付けず混乱していた。

 

「す……すまない……お前たち……」

 

「恩に着る……であります…………」

 

 見ると、かなみと一緒にこちら側へ引き込んだはずの2人も救出されている。リボンに体力と精力を奪われたせいか、万全の状態ではなさそうだ。だが、これはおかしいとかなみシャドウ? は思う。あの2人は絶対目の付かない場所に置いてきたというのに、悠たちが短時間で見つけられるはずがない。これは一体どういうことなのか。

 しかし、その答えはステージ上に現れていた。

 

 

 

『臆する~ことなく~!』

 

 

 

 

『エスパレードお邪魔致します!』

 

 

 

 

『お……お前は……!?』

 

 毎度のように穂乃果たちμ‘sのステージで勝手にMCとしてやってくるエリザベス。

 そう、この短時間にこれだけのことを成し遂げられたのはこのエリザベスのお陰だった。一瞬で道を塞ぐシャドウたちを解放し、しかもどこから連れてきたのか分からないがかなみと共に連れ去られた真田とアイギスもちゃっかし救出していた。

 

『皆々様、本日は多くのプロたちが集う絆フェスとやらにお越しくださり、誠にありがとうございます。しかし残念な知らせが一つ、皆々様はそこの金色の目をした悪党によって異次元の世界へ連れてこられてようで御座います』

 

 エリザベスの衝撃の一言に会場がザワザワと騒ぎ始める。言ってることの意味は分からないが、どうやら尋常ではない事態がこの場で起こっていることは観客たちも肌身で分かっていたようだ。それに、エリザベスは学園祭以来だったのか、マイクパフォーマンスに力が入っている。

 

『ただ、皆様が助かる道は一つ。あのリボンに囚われている真下かなみ様を皆様の手で救うことで御座います。しかし、現状皆さまは真下様を想う気持ちがからっきしなように見受けられように思えます。そこで、今から彼女たちにパフォーマンスで皆様方の情熱を蘇られてもらおうかと思います』

 

 あまりにド直球過ぎて、ある意味偽りのないエリザベスのマイクパフォーマンスに観客のみならず下手の悠たちやステージの穂乃果たちも唖然としてしまった。観客からしてみれば意味が分からず無茶苦茶であるのだが、かなみを救出するにはこれしかない。

 改めてステージの穂乃果たちと下手の悠は視線を合わせる。

 

 

(頼んだぞ、みんな!)

 

(任せて!)

 

(必ずかなみさんを助けて見せるから!)

 

 

『それでは、参りましょう! 今をときめくスクールアイドル“μ‘s”より【それは僕たちの奇跡】で御座います!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────聞こえる。誰かの歌う声が……

 

 

 

 もう既に意識など薄れてるはずなのに、聞こえるということはまだ聴覚はまだ残っている。

 

「かなみさん、君はそれでいいのか?」

 

 聞こえる……薄れる意識でもはっきりと聞こえる男の子の声。この声を自分は知っている。

 

「あは……鳴上さん……ですか……」

 

 目を開ける気力もなくなって見えないが、悠が近くで自分に語り掛けているのが分かった。まだ声を出す気力は残っているので、かなみは小さい声で応答した。

 

「私……何も出来ない……何も取り柄がない…………人とお付き合いするの上手くなくて……いつもボッチでした……でも、有羽子さんの歌に励まされて……自分もああなりたいって、思ったです」

 

「……」

 

「でも、有羽子さんがあんなことになって……ホントの自分なんて、どうやって出したらいいかも分からなくって……嫌われるの怖くて、失敗するのが嫌で……どうすれば仲良くなれるのかも分からない……私は絆が欲しいのに……絆の事なんて歌えない……伝えられない…………私が有羽子さんのようになれる訳ないんです」

 

 溢れ出る思い思いの言葉に涙しそうになる。気力も少ないのに何故ここまで喋れるのかと自分自身も不思議だった。もしかしたら、最後に聞いてほしかったのかもしれない。自分の心のからの本当の言葉というものを。

 

 

「かなみさん、君は勘違いしている。君は別に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………へっ……?」

 

 だが、悠のその言葉がかなみを現実へ引き戻してくれた。取り込まれそうになっていた意識が再び起き上がる。その言葉を聞かなければならないと感じたから。

 

「君にとって有羽子さんは人生を変えてくれた憧れの人だった。それで有羽子さんのようになろうとした気持ちは分からなくない。でも、大事なのはそうじゃないだろ?」

 

「……!」

 

「分からないなら“分からない”って伝えればいい。欲しいなら“欲しい”って伝えればいい。それは怖い事かもしれない。今みたいに心無い言葉で傷つくこともある。だけど、自分が思うことを伝えたいって思ったから、君はステージに立つことを選んだんじゃないか?」

 

(……わ、私は……私は…………!)

 

「なら、思い切って伝えよう! ありのままの本当の自分を! 傷ついても心が折れそうになっても、自分を信じればいいんだ! 今目の前の穂乃果たちがそれを君に示している!」

 

 力強く、そして心の響く悠の言葉に思わず目を開けてしまったかなみ。その視界に映ったのか、ステージで可憐に踊る9人の少女たちだった。

 

 

 

 その時、誰かの声が聞こえた……

 

 

 

“なにこれ?”

 

“絆? 伝える? 超寒いんだけど”

 

“芸能人を生で見ていればそれで良いんだっての……”

 

“何が絆フェスだよ、つまんねえ”

 

“偉そうに客に説教すんなってんだ”

 

 

 

 聞こえてくる声に思わずビクッとなる。あれだけ少女たちが一生懸命踊って伝えているのに肝心の観客たちには全く伝わってない。これでは意味がない、逆に自分たちが無意味だったと傷ついてしまう。

 

 

 なのに……

 

 

 

(何で、彼女たちは……諦めてないの?)

 

 

 

 そう、ステージ上の少女たちは諦めていなかった。彼女たちだって分かっている筈だ。今観客たちがどのような想いで自分たちを見ているのか分かっている筈だ。それでも、懸命に己の全力を必死に伝えようと歌って踊っている姿に不思議に感銘を受けてしまった……そして、

 

 

 

 

“頑張れー!! かなみ!!”

 

 

 

 

 どこからか、自分を応援する声が聞こえてきた。

 

 

 

“そうだ! 俺たちもついてるぞ!! ”

 

“応援してるよ──!”

 

 

 

 徐々に自分を応援する声が広がっていく。もしかして、ステージにいる彼女たちに触発されて自分に声援を送ってくれたのではないか。だが、

 

 

“はあ? 何言っての?”

“こんな小芝居見せられて、馬鹿じゃねえの? ”

“あいつらアイドルだぞ。客のことなんて、考えてるわけないだろ”

 

 

 それに負けじと負の声もまたまた聞こえてくる。だが、

 

 

 

 

 

“そんなの関係ないよ!!”

 

“かなみんはいつも俺たちに伝えてくれたじゃないか!!”

 

“俺たちはそんなかなみんに勇気づけられたんだ!”

 

“そうだよ! 今かなみんが苦しんでるんだったら、今度は私たちが支える番だよ!”

 

“アイドルとか演技とか演出とかそういう話じゃないんだよ! 人としてどうかって話なんだよ!!”

 

 

 

 

 

 負の声を押しのけるように自分を応援する声が広がっていく。そのことに自然と心が震えた。

 

 

 

(ああ……嬉しい……)

 

 

 

 感動で意識が回復してきたのか、視覚と聴覚も正常に戻ってきた。その時、かなみの耳と目に何かを叫んでいる大勢の観客たちが映った。

 

 

か・な・み! か・な・み! か・な・み!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に踊り切った。今までのオープンキャンパスや学園祭ライブとは何倍も違う、現在の自分たちでは絶対立ち入ることの出来ない国立競技場という大勢の観客が見ている中でのステージは正直上手く行くのか不安だったが、何とか無事に踊り切った。

 やれるだけのことはやた、後は自分たちの想いが届くのを祈るだけだ。すると……

 

 

 

か・な・み! か・な・み! か・な・み!

 

 

 

「おおっ!? お客さんたちのかなみさんコールが凄すぎるよ!!」

 

 MCのエリザベスの言霊の影響もあるのだろうが、会場全体から響き渡るかなみコールに思わず圧倒されてしまった。

 

 

 

 

か・な・み! か・な・み! か・な・み!

 

 

 

 

「すごい熱気……!」

 

「みんな、かなみさんを応援してる」

 

「これって、凛たちのお陰かにゃ?」

 

「ああ、もちろん。凛たちのお陰でちゃんと伝わったんだ。かなみさんの心と、俺たちが伝えたい気持ちが」

 

 ステージ上だけでなく下手で待機していた悠たちも圧倒されるほどの熱気を肌身で感じる。どうやらエリザベスの目論見通りになったようだ。見れば、かなみは今のこの光景を見て目頭を熱くしていた。

 

 

「「「「かなみー!!」」」」

 

 

 すると、こちらに向かってくる複数の人影が見えた。それは楽屋セーフルームにいるはずのかなみんキッチンとA-RISEのメンバーたちと落水だった。

 

「落水さんっ!? それに、かなみんキッチンとA-RISEのメンバーも!」

 

「な、何でここに!?」

 

 安全な場所にいた方が良いと諭して楽屋セーフルームに居てもらったのに、何故こんな場所まで駆け付けたのか。しかし、それは愚問だった。

 

「何でって、かなみがピンチなのにジッとしてられる訳ないじゃんっ!……一番じゃないのが気に食わないけど!!」

 

「集まって話したの。今までは私たち、かなみを盛り上げる為のただの“メンバー”でしかなかった。おかしな話だよね……事務所も一緒で年も近いのに、どこか距離を置いてたのよ」

 

「……多分、私たちも怖かった。本当の自分なんて嫌われるんじゃないかって、どこかでそう思ってたの」

 

「でも、これからは違う。変えるって決めたの。私たち……ちゃんとした仲間になる。その...穂乃果さんたちμ‘sみたいに」

 

「「「えっ!?」」」

 

 かなみんキッチンのメンバーの言葉に衝撃を受ける。あの人気アイドルグループのメンバーたちが一介のスクールアイドルに過ぎない自分たちのようになりたいと言ってくれた。本来あり得ないことに穂乃果たちは思わず呆然としてしまった。

 

「それは私たちA-RISEもよ、穂乃果さん」

 

「ツバサさん?」

 

「ここまであなたたちのパフォーマンスを見てきて、今の私たちに足りないものを自覚したわ。ランキングとかそういうのは関係なし、私はあなた達のようにメンバーを支え合うグループになりたい。これからは()()()()よ、あなたたち」

 

 ツバサの宣言に傍に居る英玲奈やあんじゅも同意だと言うように頷いた。かなみんキッチンからの発言のみならず、あのA-RISEからのライバル宣言。全てのスクールアイドルが聞いたら羨むであろうビッグイベントの連続に頭がクラクラしてしまいそうだが、穂乃果たちは感激してしまった。

 

「そうよ! そして私がプロデュースする。徹底的にね!」

 

「それは、友情じゃなくてスパルタになりそうですね……」

 

「なら、あなたたちも一緒にやってあげましょうか? さっきの華撃団みたいな演出も歌も、なおし甲斐がありそうだから」

 

「「「結構です!!」」」

 

 更に、落水の有難いのか勘弁してほしいのか分からない提案を持ち出されたが、穂乃果たちは即決で断る。少し惜しいと思ったが、スパルタな特訓なんて夏休みの絵里とりせ、海未による特別メニューで十分だ。

 

 

「だから……! あんたがそんなんじゃ困るんだよ! かなみっ!!」

 

「そうよっ! あなたはこんなところで終わる人じゃないんだからっ! かなみっ!!」

 

「「「かなみっ!!」」」

 

 

 積年の想いをぶつけるようにかなみに力強く呼びかけるかなみんキッチンのメンバーとA-RISEたち。その光景に宙ぶらりんのかなみは思わず涙を浮かべてしまった。

 

 

「かなみさん! ちゃんと伝わってたじゃん! 今までかなみさんがしてきたことの全てが嘘じゃなかったんだよ」

 

「ああ! ほんの少しでも、あなたはちゃんと絆を作ってたんだ! それは、今まで君がやってきた努力の賜物だ!」

 

 

 かなみたちの様子を見て穂乃果と悠は思わずそう言葉をかけた。それが引き金になったのか、かなみの感情が湧き水のように溢れ返ってきた。

 

 

「ももっち……たまみん……ともっち……のぞみん…………ツバサちゃん……嬉しい……私、仲間ができました!」

 

 

 かなみの声に生気が戻って自身のはっきりとした意思を感じ取れるほどの力で拳を握っていた。そうだ、悠たちは知っている。どんな困難な状況だって信頼できる仲間の声があれば、何度だって立ち上がれることを。

 

 

 

 

 

「私の……大事な“仲間”……!!」

 

 

 

 

ー!!ー

 

 

 

 

 刹那、リボンがブチッと切れる音が鳴り響いた。観客と仲間たちの声援に意識を取り戻したかなみが自らの意思でリボンを断ち切ったのだ。この光景にかなみシャドウ? は絶句してしまう。

 

 

『何っ!? 私たちの絆を……自分の意思で断ち切ったのっ!? 鳴上悠と同じことを……あのかなみがっ……』

 

 

 リボンを断ち切って脱したかなみだったが、宙に浮いていたため引力に流されるまま落ちて行く。そのまま地面に激突してしまうのかと危惧するが、それは心配無用だった。その落下地点には悠が待っており、まるで空から落ちてきた少女を受け止めるようにお姫様抱っこでかなみをしっかりキャッチした。

 

 

「な、鳴上……さん……?」

 

「お疲れ様。頑張りましたね」

 

 

 お姫様抱っこの状態で悠に笑顔で労いの言葉をかけられたかなみは思わず薄っすらと頬を赤らめてしまった。

 

 

「……はいっ! ありがとうございます、鳴上さんっ!!」

 

 

 

────かなみから心からの感謝が伝わってくる。

 

 

 

「ちょっと鳴上さん!! 早くかなみから離れてよ! なんかムカつくからっ!!」

 

「お兄ちゃんっ!!」

 

「悠さんっ!!」

 

「悠くん……?」

 

 女性陣からの猛烈な抗議を受けて悠は冷や汗をかきながらかなみをたまみたちに任せた。かなみは少し残念そうな顔をしていたが、そんなことは気にせず悠はかなみシャドウ?と対峙した。

 

 

「さあ、次はお前の番だ」

 

 

 悠がそう言い終えると同時に、待機していた特捜隊メンバーが呆然としているかなみシャドウ?を逃げられないように包囲する。これならいつ何が起こっても対応できる布陣の完成だ。更には回復したアイギスと真田も加わっているので、万全と言えるだろう。

 

「テメ―! 今まで散々好き勝手しやがったな!」

 

「たまみちゃんのみならず、師匠たちまで巻き込んで……許さないんだから!」

 

「こっからは俺たちのターンだ。そこから動くんじゃねえぞゴラァっ!!」

 

「その場から一歩でも動いたら、すぐ発砲するであります!」

 

 

 

『……………………』

 

 

 

 逃げられない状況下でアイギスに銃口を向けられている状態にも関わらず、かなみシャドウ?は未だ立ち尽くしている。成功すると確信していた目論見が崩されたことによる憔悴なのかは分からないが、その静けさが少し不気味だった。

 

 

 

 

「もう一度聞くぞ、お前は誰だ?」

 

 

 

 

To be continuded Next Scene.


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