PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が出されてから家でずっと過ごす日々を送っています。今はFGOのオリュンポス攻略に勤しんだり就活どうしようかと悩んだりしています。こんな状況ですが、自分の書くこの小説も一種の暇つぶしで読んで貰えたら幸いです。

そして、近日以前アンケートを取った番外編を執筆しようと思いますので、楽しみにしてください。改めて、感想を書いて下さった方・新たにお気に入り登録して下さった方々、本当にありがとうございます!今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。

それでは真実が徐々に明かされていく本編をどうぞ!


#93「Your Attection ~Truth~.」

<マヨナカステージ マシンルーム>

 

 落水を救うことに成功した悠たちはその影響で新たに現れた部屋へと足を踏み入れた。シャドウが待ち構えているかもしれないので恐る恐ると入室したが、中に広がる光景に穂乃果たちは目を奪われた。

 

「ほええ、ここがマシンルーム……見たことない機械がいっぱいだよ!」

 

「パソコンもちらほらあるし、放送室のスイッチみたいなものがいっぱいあるにゃ~!」

 

「す、すごいですね……本当に、滅多にお目に掛かれないものがこんなにたくさん……!」

 

 初めて入るマシンルームに穂乃果たちは感嘆の声を上げる。所々に設置されているモニターや大きな電子盤にあるつまみの数々。確かに、学校にある放送室みたいな場所であるが、それ以上に高度な設備が整っており、滅多にお目に掛かれないであろうマシンまで設置されていた。これには穂乃果や凛だけでなく、機械いじりが大好きな直斗も今は無邪気な子供のような表情をしていた。しかし、

 

「ちょっと待って!! この聞こえてくるのって」

 

 

ー!!ー

 

 

「あの歌っ!?」

 

 しかし、耳を澄ませてみると室内にはこの世界に入ってから散々聞かされてきた不気味な歌が流れていた。もしやシャドウが潜んでいるのではないかと直感した悠たちは一斉に警戒態勢を取る。

 

「大丈夫よ」

 

 しかし、警戒態勢を取る悠たちとは逆に落水は冷静で、手馴れた手つきでスイッチボードやMixをいじり始めた。突然落水が取った不用意な行動に悠たちは慌ててしまう。

 

「お、落水さん!?」

 

「……やっぱりね。安心なさい、音源が再生されているだけよ。それも逆再生されているわ」

 

「えっ?」

 

 唖然とする悠たちに落水は音源を止めたかと思うと、再びMixを操作して再生ボタンを押す。すると、今まで部屋に流れていた不気味な曲は女性の歌う愛らしい旋律に変わっていた。

 

「わあっ! 楽しそうな曲!」

 

「これは……中々いい曲ね。新曲の参考にしたいかも」

 

「まさか。あの不気味な歌がこの曲を逆再生したものだったなんて。少し不自然だと思っていましたが。落水さん、この曲は一体?」

 

「これはカリステギア。有羽子が残した曲よ」

 

「えっ!? これが……!」

 

 なんと、この曲の正体は長田有羽子が最後に書いたという“カリステギア”だった。まさかこれまで散々自分たちを苦しめていた曲の正体がまさかカリステギアだったとは驚きだ。自分たちはこの曲を聞いたのはたった今だったが、落水は何度もこの曲を聞いてきたので、最初からあの歌がカリステギアだと分かっていたのだろう。

 

「待ってよ……」

 

「もしかして、この声って……!」

 

「これ、どういうことよ……」

 

 だが、その中でりせやにこ、花陽は信じられないと言った表情で音楽が流れるスピーカーに目を向けていた。一体どうしたのだろうかと聞く前に、りせは落水に尋ねていた。

 

「落水さん、これって有羽子さんの声じゃないよね? この声って」

 

「そう、この声は有羽子じゃない。おそらくこの世界の主の声よ」

 

 りせの言葉に落水は肯定した。まさかと思うが、りせのみならず落水までもこの世界の正体に気づいているようだった。本人たちは辿り着いた事実に困惑しているようだが、こちらはまだ事態を把握してないので説明してくれと促すと、落水はこちらに目を向けて説明した。

 

「これを歌っているのはね、有羽子の事件の当日にタクラプロのオーディションを受けていた子よ。それに、有羽子の事件の時の第一発見者だった」

 

「えっ?」

 

「私はあの事件の後、有羽子の遺品を受け取りに行ったわ。でもね、一つ見当たらないものがあったの。それは事務所や彼女の家を探しても見つからなかった」

 

「何が、なかったんですか?」

 

「日記よ。私たちが初めて仕事を取った時に記念としてあの子に贈ったの。鍵の番号を私とあの子の誕生日を合わせた“1324”に設定して、いつもそれを持ち歩いて離さなかったの。それがあなたたちが楽屋で目にしてきたものの正体よ」

 

 落水さんの言葉で、悠の脳裏にこれまで見てきた楽屋セーフルームの風景が駆け巡った。それで思いついたのはいつも鏡に貼りつけてあったメモだった。

 

「あのメモは()()()()()()()()()()()だったのか」

 

 なるほど、道理で真に迫った内容だと思っていたらそういうことだったらしい。あのメモは直筆で書かれてあったので、中身は知っていなくてもそれが有羽子のものであると落水は初めから分かっていたのだろう。

 

「そして、その第一発見者の子がその日記を持ってたの」

 

「えっ?」

 

「私が仕事でその子と会った時に、気づいてね。当然私は問い詰めたけど、知らない・分からないの一点張りだった。ふざけてるのかと思ったけど、聞いたらあの子は事件のショックから()()()()()()()()()()の。でも皮肉なことにタクラプロのオーディションには受かっていた」

 

 つまり、この世界の主は悠たちの当初の推測通りタクラプロ関係者、それも落水が知っている人物だということだ。そう思っていると、落水は悠に視線を移してこんなことを言いだした。

 

「鳴上悠、ここに来る途中にそこのマリーって子から聞いたわ。あなた達、とても奇妙な体験をしてきたのね。本当の自分なんて見せつけられて、それを乗り越えてきたなんて……並大抵なことじゃないわ」

 

 感心した様子の落水にそう言われて反射的にマリーの方へ視線を向けると、マリーはフッといつぞやの悠のような笑みを浮かべていた。

 

「話を戻すけど、今まであなたたちが経験してきた事件のことを考えたら、この世界が誰かの心情風景を表しているのは確かよ。“彼女”が見慣れたタクラプロの楽屋やマシンルームがこの世界に存在したんだから……」

 

「ああっ! つまり、ソイツが普段見てる場所だから、ここを作る時にそれが出て来ちまったとしても、妙じゃねえっつーことか! 確かにこのましんるーむってとこや楽屋んとこは、“思わずできちまった”っみてえな出方だったしな」

 

「…………」

 

 完二が得意げに解説した途端、またも雰囲気が微妙なものになってしまった。この世界に入ってからだが、あの完二が積極的に推理する様子はどうも違和感がある。落水もそう思ったのか、悠たちと同じ表情を浮かべていた。

 

「な、ナンスか! 先輩らも俺らしくないって言うんすか!?」

 

「い……いやあ……」

 

「そ、それは……その……」

 

「少し驚いただけだ。俺は完二はやれば出来る奴だって信じてたぞ」

 

「せ、先輩……! あざっす!!」

 

 陽介や千枝たちはしどろもどろだったが、悠はストレートに称賛すると完二は感動したのか嬉しそうに頭を下げた。改めて完二がどれほど悠を慕っているのかを再認識できた気がする。

 茶番はそこまでにして、そろそろこの事件の黒幕を暴こうと直斗は改まって尋ねた。

 

「落水さん、教えて下さい……その人物は誰なのですか?」

 

「これは今回の絆フェスの為に録ったラフ音源。当然歌っているのは……」

 

 落水が答える前に悠には既にその人物が浮かび上がった。このカリステギアは元々落水が今回の絆フェスでかなみんキッチンに新曲として歌わせようとしたもの。今回この世界に誘拐されたたまみたちを除くならば、その人物は1人しかいない。その人物の名は

 

 

 

 

「「……真下……かなみ!」」

 

 

 

 

『ピンポーン! ピンポーン! だいせいかーい!! さっすが勘だけは良いんだね!』

 

 

 見ると、マシンルームの全てのモニターに何者かの姿が映し出された。その姿を見て、皆は驚愕した。

 

「あれは……!」

 

「か、かなみっ!?」

 

『おはよ、みんな。食べたら寝べし! の真下かなみですっ! 落水さんたら、そんな話までしちゃうなんて……本気で私たちの絆を捨てるつもりなんだね』

 

 モニター越しで悪い笑みを浮かべているかなみに愕然としてしまった。それほどまでに突きつけられた事実が受け入れがたいものだったからだ。

 

「マジかよ……!」

 

「で、では……私たちやツバサさんたちをここに引き込んだのも、絆フェスのサイトに動画を流したのも……この事件を引き起こした張本人も……」

 

『フフフ……そう、ワ・タ・シ! あーあ……つまんないの、すももたちもツバサたちも、落水さんも、み~んな私を捨てちゃうんだ~。ショックだな~!』

 

 何という事だろうか。絆フェスを利用した一連の事件の黒幕はこの事件の一番の被害者であったはずの真下かなみだった。いや、そう断言するには語弊がある。

 

「ちょっとまって! このかなみちゃん、目が金色だよ!」

 

「目が金色……こいつはかなみさんのシャドウなのか!?」

 

「シャドウ……あなたたちが言ってた己の裏の感情を体現した存在。ということは、これはかなみの裏の感情ってことなの……?」

 

 そう、モニターに映るかなみは目が金色に光っていた。つまり、このかなみは現実にいる本物のかなみではない。これは今まで遭遇してきた本人が隠してきた感情や欲望、それが具現化した存在であるシャドウだ。

 

『それより……あの堂島って言う刑事さんとラビリスっていう外人、あなたたちの知り合いなの?』

 

「ど、堂島さん?」

 

「それに、ラビリスちゃん……?」

 

 突然かなみシャドウから堂島とラビリスの名前が出たことに一同は困惑する。そんな中、モニター越しのかなみシャドウに雪子とことりが食って掛かった。

 

「あなた……! ラビリスちゃんに何かしたの? それに、堂島さんにも……!」

 

「叔父さんに何かしたの!? もしかして、お母さんや菜々子ちゃんにも……!」

 

『誤解しないで? やらかしたのは2人の方だよ。疑うんだったら、今見せてあげるよ。あいつらがかなみに何をしたのかを』

 

 かなみんシャドウがそう言った後、モニターに何かが映り始めた。映り始めた映像に悠たちは驚愕する。何故なら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<現実サイド>

 

「……」

 

 自分の目が金色になっている。そのことを認識したことにより、かなみの頭の中に今まで封じ込めてきた記憶が浮かび上がってきた。

 

 

 そうだ、自分は10年前にタクラプロのオーディションを受けに行った。孤独な自分を救ってくれた長田有羽子に憧れて。

 オーディションが終わった後、偶々その有羽子が近くの部屋に入っていくのが目に入った。憧れの人が目の前にいる。そのことに浮き立った自分はサインを貰おうと荷物を抱えて有羽子の入った部屋へと足を踏み入れた。

 

 

 だが、そこに待っていたのは憧れの有羽子が首を吊った信じられない光景だった。

 

 

 その後、自分はショックを受けてしまい、気が付けば自宅の机の前にいた。その時、現場で思わず手に取ってしまった日記帳の存在に気づいて、中身が気になって開いてしまった。そこに記されていた内容にかなみは更に動揺することになるとは知らずに。

 

 信じられなかった。憧れの有羽子がまさか絆が欲しいと悩んでいたなんて。あまりに受け入れがたい事実に愕然としてしまった。だが、同時にこうも思った。

 

 

 違う、こんなのは本当の有羽子じゃない。私の知っている有羽子は明るくて自分や皆を笑顔にする強い人だ。こんな弱いのは有羽子ではない。これは何かの間違いだと。自分の知る有羽子さんはもっと輝いてなければならない。

 

 

「だから……わ、私が()()()()()……!」

 

 

 そう、憧れの有羽子がこんなことで悩んでいて、挙句に自殺したなんて事実は認められなかった。だから、かなみはその日記帳を自分の目の届かないところへ隠した。だから、自殺した長田有羽子の遺品で見つからないものがあったという状況を創り出してしまったのだ。他ならぬ、自分自身の手で。

 

 ようやく思い出した。あの日、本当は何があったのか。そして、自分が何をしでかしたのかを。

 

 

「動くなっ!」

 

 

 その時、威圧するような声が楽屋に響き渡った。鏡を見てみると、自分の背後に2人の人物が緊迫した表情でこちらを見ていた。1人は銀髪の男でファイティングポーズを取り、もう一人は金髪の女性で銃らしきものを構えていた。

 

「シャドウ反応確認。間違いなくこの人であります」

 

「両手を上げろ! 抵抗はするな」

 

 男性は低い声でそう威嚇すると、ジリジリとこちらへの距離を詰めてきた。その動きはまるで警察のようだったので、かなみは更に動揺してしまった。

 

(こ、この人達は何……? もしかして、警察の人……!? まさか、堂島さんが……? 何で? もしかして、有羽子さんのことを知って……? 違う、私は悪くない! 私はただ有羽子さんの日記を隠しただけなのに! 何でっ! 何でこんなことで逮捕されなきゃいけないのっ!? 堂島さんっ!?)

 

『ふふふふ……抵抗なんてしないよ』

 

 突然楽屋にあの不気味な声が木霊した。いや、違う。その言葉は自分の口から発せられていた。

 

 

『だって、もうここは私のテリトリーだから』

 

 

 瞬間、2人の死角から何かが飛び出して襲い掛かった。2人はそれが黄色いリボンだと認識したが、時はすでに遅く成す術の無しに身体に巻き付かれてしまい、バタンと倒れてしまった。

 

「えっ?」

 

「「………………」」

 

「こ、これ…………わ、私が……やったの……?」

 

 倒れた2人にかなみは更に動揺した。ピクリとも動かない。まるで、死んでいるように。

 

 

「い……い…………」

 

 

 

「イヤああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 受け入れがたい現実にかなみは絶叫し、自身も暗闇に飲まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、今のって……」

 

「げ、現実の……かなみさん……ですよね? それに、真田さんやアイギスさんも……」

 

「し、し、師匠が……」

 

 モニターに映し出された今の一部始終に悠たちは絶句した。今モニターに映ったのはまさしく現実にいるであろうかなみだった。その映像は今リアルタイムで起こっていることなのだ。

 それ認識した皆は目に映った光景に唖然し、おのずと怒りが沸き上がってきた。皆の心情を代弁するように、穂乃果がモニターのかなみシャドウに怒声を上げた。

 

「かなみさんをマヨナカステージに引き込んだのっ!? それに、真田さんとアイギスさんまで!!」

 

 あの事件の記憶が蘇って激しく動揺していたかなみを無理やりマヨナカステージに引き込んだ。更に、タイミング悪くシャドウワーカーの真田とアイギスを利用したのだから、姑息なこと極まりない。だが、かなみシャドウは何の悪びれもせず、ただただ瀬々笑っていた。

 

『フフフ……大正解。でも当然だよね?』

 

「はあっ…?」

 

『ひとりぼっちの自分、いつまでも代えの利く自分、何も伝えられない自分……絆の無い自分。せっかく忘れてたのに、堂島さんとラビリスちゃんが余計な事するから思い出しちゃった。あ~、でもそれだけじゃないなあ』 

 

 ニヤニヤと嘲るようなかなみシャドウはそう言うとその視線をジッと悠たちの方へ向けていた。

 

「……どういう事?」

 

『フフ、良いことを教えてあげる。あなたたちが今いるその部屋はね、かなみが心の中で自分の記憶を閉じ込める為に作りだした場所なんだよ』

 

「えっ?」

 

『あの楽屋だってそう、かなみは自分に都合の悪い記憶を全部そこに放り込んだの。有羽子さんを“憧れの有羽子さん”のまま、自分の中でとっておきたかったから』

 

「じゃ、じゃあ……あの壁に貼ってあった、有羽子さんの日記も……!」

 

「そういうことだったの!?」

 

「どういうことですか? 陽介さん」

 

 かなみシャドウの言葉からある事実に辿り着いたらしい陽介と絵里。理解が追い付いていない者は説明してくれと2人にそう促した。

 

「……誰だって忘れたいことや消したい過去だってある。恐らくだけど、かなみんは憧れだった有羽子さんが絆を求めた末に自殺したって事実が受け止められなかったんだ」

 

「だけど、それは衝撃過ぎて忘れたくても忘れられなかった。だから、かなみさんは無意識にこの部屋にその記憶を封じ込めてたってことよ。ここがかなみさんの心象風景を表した世界であれがかなみさんのシャドウなら、説明がつくわ」

 

『ふふふ、正解正解。……私はかなみの中にいる。だから、私はちゃんと隠しておいたよ。なのに、あなたたちが伝えようとして私を刺激するから……ね?』

 

「「「!!っ……」」」

 

『あ~あ、可哀そうなかなみ。何かと向き合うなんて、最初から出来る訳ないのに……“仲間”だって言われちゃったから、あなたたちを助けたくて頑張っちゃったんだね。結果、傷ついただけだったけど!! アハハハハハ!!』

 

 かなみシャドウの高笑いは暗にこれはお前たちのせいだと示唆するような物言いだった。それに穂乃果たちは心にグサッと来るような痛みと同時に不愉快さを感じた。去年の連続殺人事件や音ノ木坂学院の事件で何度も経験してきたことだが、やはり慣れない。特に自分の影が自分をバカにするようなことを口にするのは。

 

「バカにするな!! 人を助けようとして、何が悪いのさ!?」

 

「そうだにゃ! そもそもお前が人をさらったりするからいけないのにゃ!!」

 

「そうです! 私たちはたた、かなみさんたちの事を助けたくて……!」

 

 誰よりも人の頑張りを否定されるのが嫌いな千枝を皮切りに凛と花陽もかなみシャドウに抗議する。だが、それを聞いたかなみシャドウは更に愉快そうに顔を歪めた。

 

『助ける……? クク……アハハハハハっ!! バカねぇ! その結果がこれでしょう?』

 

「うっ……」

 

『まだ分からないの? あなたたちのした事は結局かなみを傷つけただけじゃない。だから、言ったのに……本当の自分を伝えるなんて、結局傷つくだけだってさ! そんなことあなた達は知ってるはずだと思ってたのに、本当に成長していないんだね!』

 

「そ、それは……」

 

 違うと反論したかったが、上手く言葉に出来なかった。もしや本当に自分たちのしたことはかなみを余計に傷つけただけだったのではないかと思い始めてしまったのだ。実際今モニターで見た通り、かなみは傷つき、恐怖の悲鳴と共に事件に巻き込まれてしまった。これは自分たちが引き起こしたしまったのではないか。

 

『まあ……それはそうと、貴方は何で何も言わないの? 鳴上悠』

 

「………………」

 

 かなみシャドウがそう言ってきたので不審に思って、一同は悠の方に視線を写した。確かに、気づかなかったが悠だけは未だにダンマリを続けていた。あのシャドウはこの中で最も悠が激昂する内容を喜々と語ったというのに。

 

『あははは、どうしたのよ? そこは悔しむか落ち込むところでしょ? もう信じてた人に裏切られるのは慣れちゃったとか、そういう感じ? あなたもかなみと同じで可哀想な人よねぇ。誰からも求められてないのにお節介を焼いて、それが裏目に出ちゃうってところがさあ!』

 

 ここぞとばかりに心無い言葉を続けて投げかけるかなみシャドウだったが、悠は微動だにしなかった。そして、間を置いてからようやく口を開いたと思うと、

 

 

 

「……誰だ、お前は?」

 

 

 

「えっ?」

 

()()()()()()()()()()()

 

「ちょ……何言ってるの、鳴上くんっ!?」

 

 悠の突拍子の無い問いかけに仲間たちは困惑した。モニターに映る人物はどう見てもかなみシャドウじゃないか。

 

『……はあ? 何?』

 

「気になっていたが、りせやたまみたちのことはともかく、何でお前は俺のことまで知っている? 俺は先日までかなみさんと接点はないはずだぞ」

 

「「あっ!」」

 

 そうだ、これまで言動でずっと引っかかっていたことだが、この事件の黒幕はマヨナカステージのメインゲストとして引き込もうとしたたまみやツバサ、りせたちのみならず、何故か()()()()()()()()()()()。かなみと悠は先日出会ったばかりで身の上の話などしていないので、これは矛盾している。

 

「あなた、本当にかなみのシャドウなの?」

 

 その時、かなみシャドウの表情が歪んだ。それと同時にモニター越しから禍々しいオーロが出てきたように見える。

 

「悠くん、ビンゴやっ! こいつはかなみちゃんの」

 

 

『ったく、うぜんだよ!!』

 

 

「!! っ」

 

 

『今更探偵気取りで誤魔化そうってか? ああん? ショーコはあんのかよ! ショーコはよおっ!?』

 

 

「なななナニゴトクマ~!! 急にフンイキが変わったクマよ~~!?」

 

「これって……」

 

 悠の指摘を受けて希が何か気づいたことを告げようとした途端、かなみシャドウが怒声を上げて遮った。更に質の悪いクレーマーのように捲し立て始めたので、あまりの変わりように唖然としてしまった。この反応を受けて改めて一同に疑惑が募った。

 

──()()()()()()()()()()()()()()()()()? 

 

 しかし、かなみシャドウ?は先ほどの乱心が嘘のように落ち着いたかと思いきや、こんなことを言ってきた。

 

『まあいいや、どうせバレると思ってたし。そんな事より、かなみも予定より早く呼んじゃったから早速やっちゃおうか!』

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

「また地震……! これって……」

 

 かなみシャドウらしき人物がそう言った途端、再び地震が発生した。これと似たような状況を目のあたりにしたことがある一同はピンときた。

 

「かなみんがこっちに落ちたんだ。フツーに考えりゃまた……」

 

「落水さんの時みたいに新しいステージを作るかもしれないってこと?」

 

『あはは……! 違うよ、そんな面倒なことはしない。だって、今日は“繋がりたい”って子たちが自分からたくさん集まってるんだよ。もっと、大きなことをやらなきゃ!』

 

「繋がりたい人がたくさん集まってる?」

 

「訳わかんないこと言ってんじゃないわよ!」

 

 意味深なことを言うかなみシャドウ?に皆は訝しげな表情を浮かべる。だが、

 

「いや、こりゃちっとやべーかもしれねえぞ……? こっち来てから感覚狂ってたけど、俺らここに落ちてから何日か経ってるはずだ。俺らが合同練習のために集まったことを考えりゃ、こいつは言ってんのは……」

 

 

「ああ……絆フェスが行われる会場だ!」

 

 

「なるほど、さっきのかなみの映像……あれは確かに絆フェスの会場になる国立競技場の楽屋だった。だとすれば、今日は絆フェス当日! コイツの狙いは、絆フェスの会場そのものよ!!」

 

 

『アハハハハハッ! 大正解よ! さあ、始めましょう。私とみんなが繋がる絆フェスを! アハハハハハハッ!!』

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

 かなみシャドウ?はそう高笑いした後、地鳴りは更に激しさを増していく。しばらくすると、地震は収まり辺りには静寂が戻っていた。

 

「お、収まった?」

 

「今のは……一体?」

 

「アイツは絆フェスの会場に何かするつもりだ! 何とかしないと。急いでここを出るぞ!!」

 

 事態を把握するために悠たちは急いでマシンルームを出た。だが、そこに広がっていた光景に一同は愕然としてしまった。

 

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どういうことなんや……! これ……」

 

 西木野総合病院で聞き込みを終えたラビリスは急いで国立競技場へと向かっていた。道中にで先に警備をしている美鶴やかなみに話を聞こうと既に会場に到着したという堂島に連絡を取っているのだが、繋がらない。嫌な胸騒ぎを感じながらも到着した時には既にことは起こっていた。

 

 

「か、会場全体が……霧に包まれてとる……」

 

 

 そう、件の国立競技場はどでかい霧に包まれていた。しかし、何か違う。霧に包まれたというにはあの形状は異常だ。まるで、霧が壁のように競技場周辺を隔てているようなそういう風にラビリスは感じた。すると、ラビリスの携帯に着信音が鳴ったので見てみると、同じシャドウワーカーで美鶴たちとは別に本部で別の任務についていた隊員から連絡がきた。

 

『ラビリス! 大変よ!!』

 

「ど、どうしたんですか?」

 

 通話に出てから一番に入った切羽詰まった声。その声に嫌な予感を感じたと同時に、ラビリスに更に衝撃を与える事実が告げられた。

 

 

『どうしたの何も、国立競技場がこの世界からなくなってるの!!』

 

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な……なあ、悠。俺たち、今マヨナカステージにいるんだよな?」

 

「ああ」

 

「だったら……あれ、何だよ」

 

 

 マシンルームを出てすぐに目に飛び込んできたそれに陽介は恐る恐ると指さした。

 扉を開いて出た光景は青空が広がっていた。更には目の前にこれまでのオブジェではなく、正真正銘の立派な円形の競技場らしき建築物が存在していた。陽介のみならず、穂乃果や千枝たちもそれを見て顔を青ざめた。そうだ、りせや希のナビがなくとも分かる。

 

 

「信じられないが、絆フェスの会場だ。()()()()()()()()()()()()()()みたいだ……!」

 

 

 そう、自分たちの目の前にあるそれとは、現実世界にあるはずの国立競技場……つまり、絆フェスの会場だった。

 

 

To be continuded Next Scene.


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