PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜   作:ぺるクマ!

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閲覧ありがとうございます。ぺるクマ!です。

試験が終わっても送別会の幹事やら何やらでやること多すぎててんてこ舞いです…。ちゃんとメリハリつけて乗り越えて行こうと思います。

改めて、お気に入り登録して下さった方・誤字脱字報告をして下さった方・感想を書いて下さった方々、本当にありがとうございます!

そして、気が付けばこの小説も番外編を含めて話数が100話に来ました。よくここまで続け来たなと自分でも思いますが、今後ともこの作品を楽しんで頂けたら幸いです。

それでは今年初めの本編をどうぞ!


#90「MAZE OF LIFE 2/3.」

「え……? 死神……?」

 

「ど、どういうこと……?」

 

 新たなステージに到着して落水に追いついた悠たちに開口一番放った落水の言葉に驚愕する。一体どういうことだろうと悠たちは動揺するが、そんなことは構わずに落水は話を続けた。

 

「……そう、私は死神。人を殺したの。有羽子を……ね」

 

「な、何言ってんだよ、アンタ」

 

「長田有羽子はね、どこにでもいるような子だった。その頃は若くてね、私は真っすぐ懸命にやるってことを信じてた。そう……今のあなたたちみたいにね」

 

 死神の次は殺人をしたと告白した上に、長田有羽子のことを淡々と話す落水に更に陽介たちは困惑した。だが、察しのついていた悠は落水にこう聞き返した。

 

「それは貴女がタクラプロに在籍していた時の話ですか?」

 

「ええ、当時の私はただのマネージャーだった。まだ新人だった頃の長田有羽子のね。今でも覚えているわ。最初に会った時の、あの子の緊張した顔はね」

 

「なっ! マネージャーって……本当だったんだ」

 

「ドンピシャで関係者じゃねーか……」

 

 落水が長田有羽子のマネージャーだった。自分たちが立てた仮説が当たったことに更に驚くが、話はそれでは終わらない。

 

「有羽子は腐るほどいるアイドルの中の、大した才能のない人間の一人だったわ。あなたたちと同じ、素人同然の青二才だった」

 

「そ、そんな言い方って……」

 

「いいえ、それが事実よ」

 

「こ、この……!」

 

 落水の言い草に腹が立ったりせたちは拳を震わせて落水に迫ろうとする。だが、それをスッと一歩前に出た悠が制止した。

 

「せ、センパイっ!?」

 

「悠さんっ!? ちょっと」

 

「………………」

 

 鬱憤を晴らそうとして邪魔されてたのが気に食わなかったのか、制止した悠に突っかかろうとするが、悠の“落ち着け”と言わんばかりの鋭い視線にりせたちは委縮して大人しくなった。本当は悠だって彼女たちの気持ちは分かっているつもりだが、今は感情を落水にぶつけるのではなく、話を聞くべきだ。

 

「……それでもね、私もあの子も必死に頑張ったわ。あの子はいつでも言ってた。私の歌で皆を元気づけたいって……。有羽子の願いを叶える為、有羽子を売る為になら私もどんな事だってしたわよ。有羽子を見たファンたちが、少しでも励まされてくれたらって……そう思った」

 

「落水さん……」

 

「そして、あの子は売れたわ。2人で泣いて喜んだ。握手会に手が腫れるような人数のファンが並んで、ライブのチケットもいつも完売だった。あの子はすぐにトップアイドルになったわ。でも、あの歌を……カリステギアを出す頃になって、ようやく気付いた。私たちはいつの間にか、有羽子の願った場所とは遥か遠い別の場所に来てしまったの」

 

 悲し気ながらも当時のことを思い出して感傷に浸っていた落水の表情が徐々に歪んでいく。その表情の変わりように、一瞬ブルッと寒気を感じた。

 

「…………私たちはファンの心を掴むことに必死で彼らとの()()()()()()()()()()()()()()。あの子が自分の言葉で書いた歌はもう長田有羽子の歌ではなくなっていたの……!」

 

「えっ?」

 

「伝えられる場所に手が届いて、ようやくそこに立って、あの子は伝える言葉を失くしてしまった。そして、その日……あの子は自殺したの」

 

「……!」

 

 落水から語られた長田有羽子の話に皆は絶句してしまった。特に同じ歌詞や曲を手掛ける者として自分もそうなると思ったのだろう海未と真姫の表情が特に優れない。だが、同時に今までずっと謎だったあることに察しがついた。

 

「そうか……あの楽屋にあったメモ、あれは有羽子さんが書いたSOSだったのか」

 

 そう、今まで楽屋セーフルームで発見してきた追い詰められた内容が綴られた謎のメモ。あのメモの書いた主が長田有羽子だとすれば、今の落水の話に辻褄が合う。

 

「ええ。今の落水さんの話から察するに、カリステギアの詩を書いた有羽子さんは気付いてしまったんでしょう。自分の本当に伝えたい事が、トップアイドルになった今の自分では()()()()()()()()()という事に……」

 

「……だから、有羽子さんはカリステギアの歌詞を書き換えてしまった。それが原因で……」

 

 悠と直斗、絵里が紡ぐようにあのメモの謎について考察する。3人の仮説を裏付けるように落水は首を縦に振った。

 

「それまで味方だったファンは一斉に私を叩いたわ。有羽子を潰した“人殺し”、人を不幸にする“死神”ってね」

 

「そ、そんな……」

 

「酷い……酷いよ!! 落水さんは何も悪くないのにっ!」

 

 経緯を聞いて落水に咎はないと感じた穂乃果は思わずそう声を上げた。確かに、有羽子が自殺してしまったことに関して落水に何も落ち度はない。自殺したのは本人の意思であって落水が自殺を強唆したわけではないので世間にそう言われる筋合いはないはずだ。だが、落水の表情は変わらなかった。

 

「でもいいのよ、私も気づいたわ。有羽子の願いを叶えるなんて最初から無理だったのよ。私は"人殺し"で"死神"……あの人のようにはなれなかった」

 

 落水のその言葉を聞いた途端、背中がゾッとするような悪寒に襲われた。何となくだが、感じるのだ。落水の声色が徐々に狂気が滲み始めていることに。そして、その直感が現実であることを裏付ける事態が発生した。

 

「な、なんだっ!? ちっと様子がおかしくねえか?」

 

「み、見て! 落水さんの周りが……」

 

 その時、彼女の周囲からその狂気に比例するように湧き上がるどす黒いオーラは渦を巻いて、落水へまとわりついていく。怒り、悲しみ、憎しみ、苦しみ……あらゆる負の感情が今にも爆発しそうな危うさを秘めていた。

 

「フフフ……最高ね、落水さんは幸せよ」

 

 すると、先ほどまで気配がなかったあの謎の声が出現した。もしや、この状況はあの声の仕業なのではないかと思ったのか、悠は謎の声に食って掛かった。

 

「お前っ! どうつもりだ!? 落水さんに何をしたっ!」

 

「私はどうもしてないよ。だって、皆に望まれてる自分と自分が望む自分が同じなんですもの……」

 

 あの声の様子もおかしい。まるで長年探していたものをようやく見つけたと言わんばかりに興奮している。

 

「凄いわ……皆との落水さんの絆……聞かせてあげるわ」

 

 瞬間、また何度も味わった空間が捻じ曲がるような感覚に襲われる。そして、

 

 

 

 

『落水さん、超コエー……百戦錬磨って感じ? ホント生まれながらの憎まれ役だよね、アレ』

 

『言い方とかいちいちムカつくんだよな。そのクセ仕事出来てイイ女とか、隙もねえしさ』

 

『アイドルたちを食い物にして散々稼いでるんだよ。まあ、お陰でかなみんたちは売れてるけどね』

 

『実力あるとああなっちゃうんじゃないの? 見てる分には面白いし、近づかなきゃアリって事で』

 

 

 

 

 

「コイツら……! 何も知らねえくせに好き勝手言いやがって!!」

 

「本当……聞いてて良い気はしないわ!」

 

 これまで何度も聞いてきたどこからか知れない傍観者の声。何も知らずに好き放題言うその声たちに思わず腹が立ってしまうが、どこの誰とも知らない輩を糾弾してもキリがない。

 だが、突如として更に落水の様子に変化が現れた。

 

「「な、なんじゃこりゃっ!?」」

 

 傍観者の声が鳴り止んだ途端、落水の周りを覆っていた禍々しい黒い靄が勢いよく渦を巻いて落水に密集してきたのだ。あまりの勢いに、悠たちは助けにいこうとも近づくことが出来ない。

 

「くっ……何だあっ!?」

 

「この気配……まさか」

 

「じゃあ、楽しんでね? アハハハハハッ!!」

 

 落水の事態に困惑するも、謎の声は高笑いしながら気配を消していった。まるで自分は高みの見物だと言わんばかりの撤退ぶりに腹が立つが、今は落水のことが心配だ。

 

「クソっ! 落水さん!」

 

「落水さんっ!!」

 

 

 

「うるさい、うるさい、うるさいっ! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!」

 

 

 

 黒い靄に包まれる落水は拒絶するように喚き散らす。

 

 

「自分を伝える? そんなの無理よ! 誰もそんな事求めちゃいない! 最初からそのつもりでいれば、有羽子はあんな事にはならなかったのに……!」

 

 

 途端、落水の叫びに応えるように、四方から伸びたリボンが彼女の体に巻き付き、その四肢を覆っていく。たまみたちの時とは違う、まるで落水の意思で巻き付くリボンを纏っているような感じがし、ただただ悠たちはそれを呆然と見ているしかなかった。

 

「な、なんだこれ……」

 

「落水さんが……」

 

 黒いオーラが晴れて現れたのは今までいくつもの修羅場を乗り越えてきた悠たちでも絶句してしまうほどの光景だった。

 姿を現した落水が身に着けていたのは先ほどまで来ていたものではなく、この世界で散々悠たちを苦しめていた黄色いリボンを纏わせたことによってできた女王を彷彿とさせるものだった。それに目がシャドウ特有の金色に変かしているのを見ると、完全に取り込まれているのが分かる。

 

「本人の夢や希望なんかどうだっていい……そんな物クソ喰らえだわ。顧客のニーズに合わせれば、全て上手く行きやがるのよっ! だったら、それでいい……今なら、分かるわ……あのシャドウとかいう化け物たちがこの世界で私に触れられないのかを!?」

 

「なっ!?」

 

 落水の口から“シャドウ”という単語が出たことに驚いてしまうが、今なら悠でも分かる。ここのシャドウの正体が絆フェスの動画を見て偽物の絆に同調した一般人だとすれば、何故落水に近寄ってこなかったのかが説明がつく。

 

「聞く耳持たない馬鹿ども、伝える事もない馬鹿ども! 全部私が操ってやる! 見なさい! これが私! ファンが恐れる私! いいえ……ファンのシャドウどもが恐れる私よっ!」

 

 それに構わず落水の身体に更なる変化が訪れた。落水の身体が更に禍々しい黒いオーラに包まれてその迫力がどんどん巨大になっていく。これ以上変化するのかと驚くのも束の間、更なる変化を遂げた落水が姿を現した。

 

 現れたのは自分たちの伸長を優に超すからくり人形だった。手から糸を垂らしており、あたかも自分がこのステージを支配していると言わんばかりの迫力を放っている。あまりの迫力に悠たちはその場から動けずにしていた。

 

 

『そうよ……これがファンに望まれる私! そして、私の望む私の姿……! あなたたちの心なんて届かない……! 青臭いガキの言葉なんて聞くつもりもないっ! 大人になりなさい、クソガキどもっ!! 自分なんて捨てちまえば、楽になれるって言ってんだよ!』

 

 

 今までとは比較にならない程の音量で不気味な歌が脳に直で鳴り響き、俺は思わず頭を押さえて身をかがめた。いつの間にか客席を埋め尽くしたシャドウたちも曲に合わせてウェーブしている。まさに自分たちの意思をくじこうとしているようだ。

 

「うっ……」

 

「くそっ……」

 

「もう……ダメ……」

 

 何とか必死に耐えようとも度重なるダンスと弾丸行軍で疲労が溜まりに溜まってきた故か、メンバーの何人かの意識が途切れ掛けてきた。このままでは飲まれてしまう。その時、

 

 

「天城っ……!」

 

「うん……!」

 

ーカッ!ー

「「ペルソナっ!」」

 

 

 それをいち早く察知した悠が間一髪にペルソナを召喚して回復魔法【メシアライザー】を発動する。2人の咄嗟の判断により何とかメンバーの意識を奪われる事態は防げた。だが、これは一時的な処置に過ぎない。シャドウ化した落水の暴走を止めなければ、同じことの繰り返しだ。

 

 

「みんな、倒れるなっ! 落水さんの為にも俺たちは負けられないんだ!」

 

 

 悠から檄に皆の気持ちがきゅっと引き締まる。そうだ、今ここで自分たちが倒れる訳には行かない。もしここで自分たちが倒れたら、誰があの人を助けられるだろうか。

 

 

「簡単じゃないのは分かっている……でも、分かって貰えるまで、何度だって伝えてみせる!」

 

 

 これまで同じように助けてきたともえやツバサたちの場合は、強制的に望まれる自分を受け入れさせられてシャドウ化したが、落水は違う。最初から自ら望んでシャドウ化し、あまつさえ周囲に望まれる自分をも受け入れたのだ。これまで対峙してきたものとはケタが違うと思って臨まないとやられてしまうだろう。

 

 気付けば、中央ステージに2人の人物が立っていた。1人はもちろん我らがリーダー鳴上悠。そしてもう一人は、μ‘sのリーダーである高坂穂乃果だった。

 

 

「穂乃果、一緒に踊ってくれるか?」

 

「うんっ! 任せて!!」

 

 

 おそらく無意識なのだろうが、この2人がステージに立つとなった時、陽介たちは不思議と安堵した。この2人ならきっと落水に想いを伝えられる。そう確信したのだから。

 

「よーし! 今回は私と希センパイと一緒にフルパワーで音響するから、任せたよ!」

 

「悠くん・穂乃果ちゃん、やっちゃって! 2人の課題曲【MAZE OF LIFE】は絶対落水さんにお届けするから」

 

「悠! 穂乃果ちゃん! 負けんなよ!!」

 

「ガンバレー! 2人ともっ!!」

 

 仲間たちの声援が2人に更なる力を与える。自分たちを支えてくる彼らに心から感謝して、2人はシャドウ落水に向き合った。

 

 

 

「「μ‘sic スタート!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る……走る……とにかく走るようにして踊るしかない。

 

 これまではステージとは違った感覚。今までは広い平野を駆け抜けるようなイメージだったが、ここは違う。まるで魔獣に襲われながら薄暗い森を駆け抜けているようなイメージだ。それほどあの落水が脅威ということだろう。

 

 だが、それでも悠と穂乃果は自分たちの気持ちがしっかりと届いていることは確信していた。これまでの戦いで何度もやってきたダンスで気持ちを伝えるということ。何より、落水を助けたいという気持ちは人一倍強いという自負があった。

 

 行ける、この調子なら行ける。背後から聞こえる仲間の声援や客席のシャドウたちの歓声を原動に2人はフィニッシュに向けてラストスパートをかける。

 

 

 

 

 だが、この時悠はそんな確信と同時に()()()()がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしっ! これならいけるぞっ!!」

 

「わあっ!」

 

 曲も最後のサビに入ってステージの悠と穂乃果のパフォーマンスが勢いを増した。

 

 流石と言うべきか、我らがリーダーたちのパフォーマンスは表現力といい技術といい、陽介や海未たちはもちろんの事、絵里や本職のりせでさえも目を見張る出来栄えだった。夏休みからの成長が誰よりも著しく、その勢いはとどまることを知らない。

 

 これなら、行ける。誰もがそう確信した。そして、

 

 

ーカッ!ー

「イザナギ!」

「カリオペイア!!」

 

 

 フィニッシュと同時に、悠と穂乃果は勢いよく顕現したタロットカードを砕いてペルソナを召喚した。

 

『ぎゃあああああああああああっ!!』

 

 黒いベースを手に持つイザナギと赤いギターを掲げるカリオペイア。2体のペルソナはすぐさま目にもとまらぬ速弾きのギターに、正確な旋律を奏でるベースによるセッションを開始した。一度耳に入ってしまうと鼓動が抑止できないほど高まったシャドウたちはこれでもかというくらい興奮して大きな歓声を上げて、宙に溶けるかのように消滅した。その影響は落水シャドウにも出始めて、苦しむようにもがいている。

 

 これが自分たちの全力だった。素人でも青二才でも落水のために必死に踊ったつもりだ。これでもし伝わらなかったら……

 

 

「やったか!?」

 

 

 客席のシャドウたちと同様に影響が出ている様子のシャドウ落水を見て陽介が歓喜の声を上げる。だが……

 

 

 

 

『違う……違う、違うっ!! 私は認めないっ!! こんなもの……絶対にっ!!』

 

 

 

 

 嫌な方向に予感が当たってしまった。ペルソナセッションで客席のシャドウたちを解放したにも関わらず、落水はシャドウ化したまま再び立ち上がった。そして、再びあの不気味な音楽が大音量で鳴り響き悠たちに襲い掛かる。

 結論、悠たちのダンスは失敗した。落水に想いが届けることが出来なかったのだ。

 

「そんな……悠さんや穂乃果でも駄目だったなんて……」

 

「あ、ありえない……!」

 

「陽介さんがフラグっぽいこと言うから……」

 

「お、俺のせいかよっ!?」

 

「くそっ……! いい加減に認めやがれっ!! 本当は分かってんだろ……!!」

 

 最後の抵抗とばかりに完二たちは残っている力を振り絞って落水にそう呼びかける。しかし、返ってきたのは予想外の反応だった。

 

 

『何故だ……! 何故有羽子じゃない! お前たちが心を伝えられるというのなら……何故あの子はあんな目に……!!』

 

「……!」

 

『他人に何かを伝えられるなんてできやしない!! そんなものは幻想だっ! まやかしだっ!!』

 

 

 シャドウ落水の叫びに応じるかのように不気味な歌が更に大音量で流れてくる。意識が飛びそうだ、立っていられる気がしない。

 

「は、花陽ちゃん……!」

 

「はい……雪子さん……えっ?」

 

 その瞬間を狙ったように回復魔法を放とうとした雪子や花陽に黄色いリボンが襲った。不意打ちで撃たれたリボンに2人は気付くことはできず、そのまま意識を失って倒れてしまった。

 

「なっ!? 雪子さんと花陽ちゃんがっ!?」

 

「だ、誰か回復魔法をっ」

 

 絵里が周囲にそう呼びかけるも誰もそれに応えることなく力尽きるように膝をついていく。クマが、直斗が、真姫たち回復魔法を使える者たちから順に次々に力尽きていく。

 

「うぐっ……」

 

 もう回復魔法を使えるメンバーは自分しかいない。せめて全滅は避けたいと悠はメシアライザーを発動しようとしたが、すでに魔法を使うための精神力は底を尽きていた。渾身のダンスをした後で、精神的に追い詰められた状況では当然だろうが、仲間が危機にさらされていることに冷静でいられずそのことに気づかなかったのだ。

 そう悔やんでいる最中、ついに悠も膝をついてしまった。

 

「悠くんっ!?」

 

「センパイっ……! きゃあっ!!」

 

 薄っすらとなる視界の中、仲間たちが次々に倒れていくのが目視できる。ついには隣で共に踊った穂乃果までも苦しそうに膝をついていた。

 

 

 まただ……。また自分は失敗してしまうのか。

 

 稲羽の事件を解決しても、穂乃果たちと一緒に成長できたと思っていても、まだ自分はあのころから何も変わっていないのか。

 

 そう絶望する傍ら、どんどん視界が真っ暗になっていく。そして、保っていた意識もどんどん遠くなっていった……

 

 

 

…………

 

 

 

………………

 

 

 

……………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんっ! 穂乃果ちゃんっ!」

 

 

 

 

 

 

 刹那、ことりの声が薄っすら聞こえたと思うと同時に遠くなった意識が一気に戻ってきた。視界は良好、声も出せる。未だにあの音楽は聞こえるが、どうにか耐えられるくらいに体力も回復していた。だが、雪子や花陽などの回復担当がいないこの状況で一体誰が……

 

「ことり……! お前…」

 

 答えは単純だった。悠の危機を察したことりが土壇場でペルソナ【エウテルペー】を召喚し、戦闘不能になった雪子たちの代わりに回復魔法を発動したのだ。しかも、その魔法は戦闘不能になった対象を復活させる"サマリカーム"だ。

 いつの間にそんな魔法を使えたのかという突然の従妹の成長に悠は驚いた。なるほど、それなら一度手放した意識が戻ったことに納得もいく。だが、まだ発現したばかりの魔法故か復活できたのは悠とその近くにいた穂乃果だけで、発動したことりは既に苦し気で立っているのがやっとという状態だった。それでも、ことりは倒れるのを堪えて悠に伝えるべきことを伝えた。

 

 

「お兄ちゃんっ! まだ終わってない!! まだ、落水さんに伝えてないことがあるでしょ!?」

 

「……!」

 

「あの人はまだそれが伝わってない! だから、お兄ちゃんが伝えて上げて!!」

 

 

 ことりは最後にそう言うと全ての力を出し切ったようにぱたりとその場に倒れてしまった。妹が倒れたのを目のあたりにして思わずことりの元に駆け寄ろうとしたが、その衝動をグッと堪えた。

 もしここで何も出来ずにまた倒れてしまったら、ことりの決死の魔法が無駄になってしまう。そんなことは絶対ダメだ。悠はそのまま後ろを振り向かず、すぐさま暴走を続ける落水の方に視線を向けた。

 

『貴様ら……まだ倒れてなかったのか……! 忌々しい……!』

 

「落水さんっ!! あなたがそう信じたいだけだ! 有羽子さんを失ったことの悲しみで、周囲の皆を……自分を責めているだけだ! あなたもたまみたちと同じ……! 自分の心が伝わらないことが怖いだけだ!」

 

『黙れっ!! あの人のような……分かったような口を聞くなっ!! お前に、お前に何が分かるっ!! 私はあの子を殺した死神だっ! 人を殺した気持ちが……お前に分かるのかっ!?』

 

「分かるよっ!」

 

 悠と落水との舌戦に穂乃果も参戦する。正直自分が加わって戦況が変わるのか分からない。それでも悠の助けになりたい、皆を、落水を助けたいという一心で穂乃果は己の想いをぶちまけた。

 

「あなたは死神なんかじゃないっ!! あなたはこの世界来てからずっとツバサさんたちを心配してた! それに、自分のことより私たちのことを現実に帰そうとしてた! そんな人が冷たいわけないよ!! ここに来るまでずっと引っかかってだけど、今なら分かる! 落水さんは不器用だけど、とっても優しい人だよ!!」

 

『うるさいっ!! うるさいうるさい!! たかがスクールアイドル風情の小娘がっ!! お前らの信じてるダンスも、歌も、何も伝える事の出来ない薄っぺらい嘘だっ!! まやかしだっ!!』

 

 穂乃果が必死に声を張り上げるも、それでも落水には届かない。だが、少しずつではあるが落水の心の鉄仮面に徐々にヒビが入っているように感じる。なら、これならどうだと悠は再び声を張り上げた。

 

 

「じゃあ何で、有羽子さんが書いた"カリステギア"をかなみさんたちに歌わせようとしたんだっ!!」

 

 

『……!』

 

 

 悠の放ったその言葉に落水は初めて言葉を詰まらせた。ここだ、ここが正念場だ。畳み掛けるなら、ここしかない。

 

 

「そうだよっ!! 有羽子さんの歌をみんなに聞いてもらいたかったんじゃないの!! 伝わらなかった有羽子さんの心を、少しでも伝えたかったからじゃないの!!」

 

 

『!!……っ』

 

 

 捕まえた。今度こそ落水は狼狽した。その隙を逃さず、悠と穂乃果は畳み掛けるように最後の言霊を放った。

 

 

「あなたはちゃんと俺たちみたいに伝えたいって気持ちを持ってる! だから、諦めるなっ!!」

 

「落水さん、帰ってきて!! あなたを待ってる人が、絶対いるからっ!!」

 

 

 

『伝えたい……気持ち……待ってる……』

 

 

 

 その時、落水の身体から白い光が溢れだして周囲に散乱した。あまりに眩い光が視界を覆ったので、悠たちは思わず目を瞑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、光が晴れて薄っすらと視界が良好となる。そこに映った光景に悠は思わず声を上げた。

 

 

 

 

「落水さん...!」

 

 

 

To be continuded Next Scene.


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