PERSONA4 THE LOVELIVE 〜番長と歌の女神達〜 作:ぺるクマ!
まず読者の皆様に謝罪を
先日の夜に手違いで未完成のものを投稿してしまいました。読者の皆様に混乱を与えたことをここに謝罪します。今後こういうことを無くしていくように努めますので。
今回は『まきりんぱな』編に行く前にちょっと閑話回です。タイトルの通り、鳴上くんが休日なのに様々な受難に巻き込まれるというもの。今回の作中に出てくるバイトの話はペルソナ4のアニメのドラマCDのネタが入ってます。分かる人は分かると思いますので。
そして、新たにお気に入り登録して下さった方・感想を書いてくれた方・誤字脱字報告をしてくださった方・評価をつけてくれた方々、ありがとうございます!ちょこっとした感想や評価、そしてご意見が自分の励みになってます。
皆様のおかげでこの作品のバーに色が付くことができました。これを見たときは某お祭り男みたいに声を上げて喜んでしまいました。まだまだ未熟で拙いところはありますが、これからもこの作品をよろしくお願いいたします!
それでは本編をどうぞ。
〈ベルベットルーム〉
目を開けるとそこはベルベットルームだった。今日はマーガレットだけでなくイゴールもいた。
「ようこそ、我がベルベットルームへ。先日はマーガレットがお世話になったそうで」
「彼女たちの催しは大変見事でございました。マリーにも話したら『何で私も呼んでくれなかったの』と拗ねてしまいました。フフフ、ちょっとイジワルだったかしら?」
ー今度マリーに会った時が怖いな。
「あの催しの直後、貴方のペルソナ全書を確認したら、3つのアルカナが完全に解放されていました。【魔術師】に【女教皇】、そして【恋愛】。これはあの催しを通して、彼女たちとの絆が深まった結果かしらね」
それを聞いたイゴールは突然目を見開き、ニヤリと笑った。
「フフフ、実に素晴らしい……だが、貴方たちの物語はまだ序章が終わったに過ぎません。これからも彼の地で起こったような出来事が貴方たちを待ち受けていることでしょう。それらをどう乗り越えていくか……楽しみですなぁ……」
《ライブから数日後》
〈放課後 鳴上宅〉
「やっと来たか……」
学校が終わり今日は雨のためスクールアイドルの練習も休みなので家に帰ると、悠の元に1つの宅配物が届いた。送り主は『花村陽介』となっている。宅配物は普通のサイズだが、結構ものが入っている。中を開けているとそこにはこんなものが入っていた。
・クマ特製メガネ×9
・肉ガム×3
・編みぐるみ×3
なんか余計なものがいくつか入っていた。
まずクマ特製メガネは、穂乃果たち用に陽介を通してクマに頼んだものだ。今後穂乃果たちもテレビの世界に入るというのなら、クマ特製メガネは必須アイテムだ。しかし注文したのは3つのはずなのに、なぜその3倍の数を送ってくるのか。
肉ガムは恐らく里中が送ってきたものだろう。陽介が悠に荷物を送ることを聞いてこれもと便乗したのかもしれないが、余計な世話というものだ。これは犠牲者が出ぬよう戸棚に封印することにしよう。
編みぐるみは完二だろう。尊敬する悠のために一生懸命編んだのかもしれないが、これは悠が持つより穂乃果たちにあげる方が喜びそうなので、メガネと共に穂乃果たちに渡すことにした。
とりあえず、荷物を整理して陽介に荷物が届いたと連絡した。
『おう!荷物届いたんだって?それは良かったぜ』
「それは良いんだが、何で頼んだメガネが9つになってるんだ?頼んだのは3つのはずだが」
『あ〜それね。なんかクマ吉のやつが調子に乗ってそれぐらい作ってしまったんだと。それで『バリエーションが豊富になったからセンセイもメガネでオシャレが出来るクマ』とか言って全部送らされた』
「なるほど」
妙に陽介のクマのモノマネが上手い。自分は今のメガネに不満はないのだが。
『肉ガムと編みぐるみに関しては言わずもがなってやつだ。悠の想像の通りだよ』
「……完二は高坂たちが喜ぶからいいとして里中は余計なものを送ってきたもんだな」
『同情するぜ相棒。俺もやめとけって言ったんだけどよ、止められなかったわ。里中が「東京にも肉愛好家がいるかもしれないじゃん」とか言ってよ』
それにしても肉ガムはないだろうと悠は思った。あれは味覚がおかしくなければ大抵の人はマズイと感じる代物なのに。
そう思っていると、突然陽介がこんなことを言ってきた。
『それより悠、お前が手伝ってるスクールアイドルの【μ's】だっけ?結構ネットで評判になってるぞ。いや〜お前よくあんな可愛い女の子たちと知り合えたな。流石相棒、今度紹介してくれよ』
「え?……どういうことだ?」
『あれ?あの動画を投稿したのお前じゃないのか?』
「動画?…いや俺はライブのときは音響室に居たし、手伝ってもらった人に動画を撮るのを頼んだ覚えはないんだが」
『そうなのか?……まぁ、後で見てみ。それよりよ』
と、陽介が別の話題に移ろうとした時に悠の携帯に着信音が入った。耳を離して画面を確認すると、穂乃果からだった。
『ん?どうした?』
「すまない陽介、高坂から電話が入ったから一回切るな」
『そうか…まぁ、また何かあったら連絡してくれ』
「了解。またな相棒」
『じゃあな、相棒』
すっかりお決まりの台詞を残して陽介との対話を終え、悠は穂乃果との対話に移った。
「もしもし?」
『鳴上先輩!助けて!!』
「え?」
『今すぐうちに来て!』
と、穂乃果はそんなことを言い残して一方的に電話を切った。何かあったのかと思い、悠は急いで家を出た。
〈和菓子屋 【穂むら】〉
「ここだよな」
土砂降りの雨の中、高坂の家である和菓子屋に着くと悠は急いでドアを開ける。
「いらっしゃいませ」
ドアを開けると、出迎えてくれたのはみどり色のエプロンを着けた女性だった。
「あら?こんな雨の中わざわざうちの和菓子を買いに来てくれたの?」
「あの、すみません。高坂に……穂乃果さんに呼ばれて来た者なのですが」
「穂乃果?……あら?じゃあ貴方が噂の鳴上くんなのね。ふ〜ん、雛ちゃんから聞いたけどなかなか良い男の子じゃない」
と、その女性は悠に近づいてジロジロと悠を観察する。
「あ、あの」
「うん。見た目も良いし、しっかりしてそうね。うちの穂乃果とは大違いだわ」
「え?うちの?」
「あ、ごめんなさい。私、穂乃果の母親の『高坂菊花』です。先日はうちの穂乃果がお世話になったそうで」
何か穂乃果とはあまり似てない母親だなと悠は思った。娘の方は元気発剌という印象があるが、菊花の方はおっとりしているという印象を受ける。
「改めて音乃木坂学院3年生の鳴上悠です。穂乃果さんのことはこちらもお世話になりました」
「あら?今時の若い子とは違って礼儀正しいのね。これならしっかり仕事してくれそうだわ」
「え?仕事?」
「あら?穂乃果から聞いてないの?」
「いや、その」
仕事と言われても訳が分からないので事情を聞こうとすると
「あー!鳴上先輩!来てくれたんだ!」
店の奥から私服姿の穂乃果が飛び出して来た。
「高坂、これは?」
「助かったよー!お母さん、これで明日は大丈夫だね!」
「え?明日?…….え?」
詳しく事情を聞くとこうだ。
どうやらつい先ほど、この和菓子屋の職人である穂乃果の父親がぎっくり腰になって医者から1日絶対安静と言われたらしい。和菓子の方は菊花が作るので問題ないが、それだと接客が人手不足になる。なんとかならないか?と思った時に穂乃果は助っ人として真っ先に思いついた悠を呼び出したということだ。
「いや、人手って高坂がいるだろう。手伝いはしないのか?」
悠はそのことにツッコミを入れたが、それにも事情があった。穂乃果はこの間の初ライブに熱中しすぎたため、宿題が溜まりに溜まったらしい。それを消化するため明日園田家で勉強会を開くため高坂家にいないそうだ。
「鳴上先輩!お願い!!1日だけで良いから!」
事情を聞いた悠は既視感を覚えた。八十稲羽で愛屋のバイトを頼まれた時と状況が似ている。あの時は看板娘の『中村あいか』が悠は料理が得意と知って、勝手に手紙で呼びつけられたのだが。
「高坂、俺が受験生だってことを忘れてないか?」
「へ!!いや、それは……」
「……こんなことしている間にも、他のみんなは勉強して……俺は合格が遠のいて……」
「あー!!ごめんなさい!ごめんなさい!鳴上先輩ごめんってば!やっぱりこの話は」
突然シリアスなことを言う悠に穂乃果は慌てた。しかし、
「………と言うと思ったか?」
「へ?」
穂乃果の慌てる顔を見て悠はニヤリと笑う。その顔は悠が人をからかう時の顔だった。
「後輩が困ってるのにそれを先輩の俺が見過ごすわけないだろ。お手伝いするよ。勉強の方は大丈夫だから」
「ううっ……鳴上先輩のイジワルー!そうならそうって言ってくれれば良いのにー!」
「ごめんごめん」
からかわれたことに怒っているのか、穂乃果は少し半泣きになって悠の肩をポカポカと叩く。その様子は仲の良い兄妹に見えた。それを見た菊花はニヤニヤしていたという。
閑話休題
穂乃果のポカポカから解放された悠はとりあえず明日高坂家のお手伝いをすることを承諾し、帰宅しようと思ったが……
ゴオオオオオオオッ
外はこの季節とは思えない嵐になっていた。携帯で天気予報を見ると、爆弾低気圧により明日の朝までこの調子らしい。どうしたもんかと悩んでいると、菊花が悠にこう提案してきた。
「鳴上くん、今日は泊まって行きなさい。こんな嵐の中で帰らせて何かあったら、ご両親と雛ちゃんに申し訳ないから」
「え?」
何かまた既視感を感じた。雛乃の時を思い出したのか身体がブルッと震えた気がした。
「心配しなくて大丈夫よ。空き部屋はあるし、着替えはうちの人のを使ってもらえれば良いしね。明日お手伝いしてくれるなら尚更よ」
悠はこの提案に最初は断ろうかと思ったが、菊花の言うことは尤もであり断ったら別のことで面倒になりそうなので、悠は菊花の提案を受け入れることにした。穂乃果は悠が泊まることを聞いて嬉しそうにしていた。しかし、ただ泊まらせてもらうだけでは申し訳ないので悠は菊花にこう提案する。
「なら今日の夕飯は自分が作りますよ」
「え?鳴上くん料理できるの?」
「嗜む程度に」
「でも……」
「こっちは泊まらせてもらう側なので、それぐらいはさせてください」
そう言うと渋々だったが、菊花は承諾してくれた。とりあえず、キッチンに入る前に手を洗おうと思い洗面所の場所を教えてもらった。洗面所のドアを開けるとそこには…
「ウーン、どうすれば大きくなるんだろう?」
メガネをかけた下着姿の女の子が居た。悠はそれをみた瞬間気づかれないように静かにドアを閉じた。
ーそっとしておこう
「って!アンタ誰!」
そうは問屋は卸してくれなく、先ほどの少女が悠に気づいたのか下着姿のまま凄い剣幕で悠に詰め寄ってきた。
「いや、俺は」
「この!ヘンタイ!!」
少女は悠の弁明も聞かずに顔にグーパンを繰り出した。少女が出すとは思えないその威力に悠は数十分気絶したのであった。
閑話休題
「あら?美味しそうね。これは期待して良いのかしら?」
「お口に合うか分かりませんが」
気絶から復活した悠は何とか夕飯を作り終えることが出来ていた。高坂家の食卓に悠の手料理が並び、あまりの出来栄えに菊花は期待した目をしている。今日のメニューは『鮭ときのこのバターホイル焼き』。前とある料理漫画を読んで作ってみたいと思ってた一品である。
「うわ〜美味しそう!流石鳴上先輩だね!」
初ライブの打ち上げで悠の手料理の味を知っている穂乃果はキラキラした目で料理を見渡している。
「……確かに美味しそう」
先ほど悠にパンチを繰り出した穂乃果の妹である少女『高坂雪穂』は暗い表情で料理を見つめていた。どうやら事情も知らずに悠を沈めたことを気にしてるようだ。そのことで調理中何度も土下座で謝られたのだが、悠は全く気にしてなかった。これは『オカン並』の寛容さが成せるものだろう。
「雪穂さん…だったか?」
「……雪穂で良いですよ」
「そうか……雪穂、別に俺は別にさっきのことは気にしてないぞ。そう気に病むな」
「でも…」
「早く食べよう。これは出来立てが美味しいんだ」
悠がそう言うと雪穂はまだ納得してない様子だったが、こくりと頷いて箸を持った。
その夜、高坂家の食卓に女性3人の歓喜の声が上がったのは言うまでもない。食事中、菊花が悠を見て
「……これは是非とも婿に欲しいわ」
と呟いていた気がしたが、そっとしておいた。
夕飯の後、悠はデザートとして『穂むら』名物の和菓子【ほむまん】をいただいていた。とても美味しかったので陽介のお土産にちょうどいいと思っていると、菊花が悠にこんなことを言ってきた。
「鳴上くん、貴方和菓子作りに興味ないかしら?」
「え?…まぁ人並みに」
「せっかくうちでお手伝いするんだから、挑戦してみない?ちょうど材料も余っているから」
「…よろしくお願いします」
そんなやり取りを聞いた穂乃果と雪穂は頬を引きつらせていた。
「お、お姉ちゃん……お母さん…まさか」
「鳴上先輩……生きて帰れるかな……」
その夜……
「そこ!違うって言ってるでしょ!」
「は、はい!」
厨房で菊花にしごかれる悠の姿があった。どうやら菊花は普段おっとりしているが、和菓子に関しては人が変わるらしい。少し分量を間違えただけで怒声が飛ぶ状況で、悠の精神のHPは減っていくのであった。その代償として悠の和菓子スキルは上がった。
〈就寝時間〉
「鳴上さんすみません。うちの母が」
「大丈夫だ雪穂……もんだいない」
「強がってますけど、そのやつれた顔は大丈夫じゃないですよね」
菊花のシゴキが終わった後、雪穂に空き部屋を案内された。ちなみに穂乃果はまだ午前0時を回っていないにも関わらず既に就寝している。宿題はやらなくていいのかと思ったが、黙っておくことにした。
「それじゃあ、明日はよろしくお願いします。おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言って、雪穂は自室に戻っていった。
改めて、ここの親子はあまり似つかないなあと悠は思った。性格は言わずもがなだが、容姿も違う。雪穂は母や姉と違って赤みがかかった茶髪のショートカットでつり目をしている。こんな親子もいるのかと思いつつ、布団を敷いて眠りについた。
〈翌朝〉
携帯のアラームか鳴り目が覚めた。時刻は朝4:50。この時間帯に起きたことがあまりないので身体が重いが、とりあえず服を着替えて部屋を出た。廊下を渡り厨房へ入ると、そこにはすでに作業に入っている菊花が居た。
「あら?鳴上くん、おはよう。こんな朝早く起きなくても良かったのに」
悠が来たことに気づいたのか菊花は笑顔で迎えた。
「おはようございます。なにか手伝えることがあればと思いまして」
「え?別にそこまでしなくてもいいのに」
「手伝いますよ。それくらいしないと自分の気がすまないので」
そう言うと菊花は悠の提案を受け入れた。悠は簡単な作業だけを任させただけだが、昨日の菊花のシゴキのお陰か手際が良くなっていた。それをみた菊花は
「一晩でここまで成長するなんて……やっぱり婿に欲しいわ………お相手として穂乃果を……いや雪穂かしら……」
と、怪しげなオーラを漏らして呟いていたがそっとしておいた。
閑話休題
こうして仕込みも終わり朝食も済ませて、いよいよ開店時間となった。すると、
「おはようございます。穂乃果を迎えに来ました」
「おはようございます」
と、海未とことりがやってきた。
「いらっしゃいませ」
ここは店員として二人に挨拶すると、悠がいると思わなかったのか海未とことりは驚愕した。
「な、鳴上先輩!何してるんですか!」
「お兄ちゃん!どうしてここに!しかもその格好って」
「色々あって、1日ここで手伝いをすることになった」
悠がそう説明すると奥から菊花が顔を出す。
「あら?海未ちゃんにことりちゃん。いらっしゃい。穂乃果を迎えに来てくれたの?」
「はい。穂乃果が逃げる可能性があると思ったのでれんこ…迎えに来ました」
今連行と言おうとしなかっただろうか?
「鳴上くん、昨日からありがとうね。夕飯や朝食作ってもらったり、朝の仕込みを手伝ってくれたり」
「いえ、一晩泊めてもらいましたのでこれくらいおやすい御用です」
菊花と悠がそんな会話をしていると、それを聞いたことりが焦ったような顔をして悠に詰め寄ってきた。
「お兄ちゃん!どういうこと!!穂乃果ちゃんの家に泊まったの!しかもご飯作ったの!」
「こ、ことり?どうしたのですか」
ことりの急変ぶりに海未は困惑する。
「お、落ち着け。昨日は偶々嵐で、危なかったから泊めてもらっただけだぞ。そのお礼としてご飯とか作っただけで」
「むぅ…………」
悠の説明を聞いたことりは何故か黒いオーラを醸し出しながらむくれ始めた。そんなとき
「海未ちゃん!ことりちゃん!おはよう!!今日はよろしくね!」
と、何も知らない穂乃果が宿題が入ってるバッグを持ってやってきた。それに気づいたことりは黒いオーラを出したまま穂乃果に近づいて
「穂乃果ちゃんおはよう♪やっと来たね♪今日は一緒に頑張ろう♪」
「こ、ことりちゃん?今日何か変だよ!目が笑ってないし」
穂乃果はいつもとは違う友人の様子に動揺する。実際穂乃果は何も悪くないので、俗に言う八つ当たりというものである。
「何のことかな?早く海未ちゃんの家に行こう♪時間がなくなっちゃうから♪それに…聞かなきゃいけないこともあるから♪」
ことりは穂乃果の腕を掴み、ズルズルと外へ引っ張っていった。
「ちょっ、ことりちゃん!怖いよ!どこからそんなチカラが……鳴上先輩!海未ちゃん!タスケテー!!」
穂乃果の叫びも虚しく、穂乃果は外へ連れ出されてしまった。その光景をみた菊花は
「あらあら?まさかことりちゃんも……フフフ…ライバルが増えたわね」
と意味不明なことを言い出して、店の奥に引っ込んでいった。その場に取り残された悠と海未はただ呆然とするしかなかった。
「鳴上先輩……私はどうすれば…」
「そっとしておこう」
閑話休題
とりあえず穂乃果たちが去った後、休日のせいかお客さんがたくさん来店した。八十稲羽ではこんな接客をたくさんするバイトは経験してなかったので悠にしては珍しく戸惑ったが、よく店の手伝いをしているという雪穂がサポートしてくれたお陰もあって何とか円滑にお客を捌けていた。
「ふぅ、去年は接客はあまりやったことないから結構くるな……」
昼休憩になって腰を下ろした悠がそう呟くと雪穂が話しかけてきた。
「鳴上さんって、何のバイトしてたんですか?」
「嗚呼、去年は確か夏休みに家庭教師に学童保育の手伝い、病院の清掃。そして夏休み終盤にジュネスのタイムセールで人の波に飲まれそうに……」
「もう聞きたくないです」
今思えば、よくあんなバイトまみれの夏休みを送れたなと悠は思った。あれも全て菜々子の傘の為だったからか。夏休み終盤のアレは陽介に付き合っただけだが。
昼休憩も終わり仕事に戻るとまたたくさんお客さんが来店したが、慣れてきたのか午前中よりかは戸惑うことはなくなった。
途中常連さんという老夫婦から「この人は雪穂ちゃんの彼氏かい?」などと聞かれる漫画ではベタな展開があった。これに雪穂がテンパって和菓子を何個か落としてしまった。
そんなことをしているうちに閉店時間となった。店を閉めた瞬間、どっと悠の身体に疲れが溜まる。慣れないことをすると結構疲れるものだなと悠は実感した。
その場に座っていると菊花にリビングに呼び出された。リビングに着くとそこには、何か封筒を待っている菊花と胡座をかいて座っている厳格な雰囲気を持つ男性がいた。おそらくこの男性が穂乃果の父親だろう。
「今日はありがとうね、鳴上くん。助かったわ」
「………ありがとう」
2人は悠に頭を下げて礼を言う。
「いえ、後輩のご家族が困ってるならこれくらい平気です。それに俺も今日良い経験をさせて頂きました。こっちこそありがとうございます」
悠は穂乃果の父親に内心ビビりながらも今日貴重な体験をさせてもらったことに礼を言う。
「……………」
「鳴上くん、これは今日のお礼よ。受け取って」
と、菊花が悠に持っていた封筒を差し出す。その封筒には『給料袋』と書かれてあった。
「そんな。受け取れません。俺は今日手伝いできただけなのに」
悠は今日の労働は『知人のお手伝い』と認識していて、バイトとは思ってなかった。故に給料などもらう必要はないと相手に伝えると
「………受け取りなさい」
と、寡黙だった穂乃果の父親がそう発言した。
「それは私と妻が今日の君の働きを見て、見あうと思って用意した対価だ。君が今日のことをどう思ってようが勝手だが、相手が厚意で用意したものを受け取らないと言うのは相手に失礼とは思わないか?」
穂乃果の父親の言葉に悠はうっと思った。流石大人の男というべきか指摘したことは的を得ている。
「鳴上くん、うちの人もこう言ってるし、受け取ってくれない?私たちからの感謝の気持ちよ」
流石にここまで言われては断れないので、悠は給料袋を受け取ることにした。
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」
悠は正座して深々と頭を下げた。すると、そんな悠に菊花はこう言った。
「鳴上くん、これからも穂乃果のことよろしくね」
「え?」
「最近穂乃果がね、貴方のことをよく話すの。穂乃果が結構信頼してる人だからどんな子かなと思ってたけど、昨日から接してみたら貴方がとても良い人なのが分かったわ。穂乃果が信頼するのも納得ね」
「……」
「だから、もしあの子がこの先何かあったら助けてあげてね」
「……私からもよろしく頼む」
と、高坂夫妻が悠に向かって頭を下げてそうお願いした。
「分かりました。任せてください」
悠はしっかりと高坂夫妻の方を見てそう返事した。それを見て高坂夫妻はとても安心したという表情を顔に浮かばせていた。
ー高坂夫妻と仲が深まった気がする。
しかし、穂乃果の父親が急に目を細めて悠にこう言った。
「……ただし穂乃果を嫁には渡さんぞ」
「え?いや、貰いませんよ」
「何?……うちの娘に何か不満があるのか?」
「いや!そういうことじゃなくて」
いきなり話があらぬ方向にぶっ飛び始めた。
「も〜貴方ったら。鳴上くんは結構和菓子の素質があるから私は婿に来るのは大歓迎よ。なんなら卒業後にここで働かない?婿として迎えるから」
「え?……いや、だから」
良い話で終わろうとしたのに、急に台無しになってしまった。この後も悠と高坂夫妻の嫁婿に貰う貰わないの話で無駄な言い争いが続いたのである。
一方高坂家の玄関では
「た、ただいま〜……」
「お姉ちゃん、お帰り〜ってどうしたの?結構疲れてるみたいだけど。そんなに宿題溜まってたの?」
「……今日のことりちゃんは……怖かった……」
こんなやり取りがあったりと高坂家は結構騒がしかったのであった。
こうして、鳴上悠の忙しい1日は終了した。しかし、また明日更なる受難が待ち受けていることはまだ悠は知らなかった。
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「私だ」
「センパ〜イ、明日デートしよ♪」
「鳴上先輩、明日白米食べに行きましょう!」
「お兄ちゃん♪明日はことりとデートだよ♪」
「鳴上くん♪明日お話が」
「どうしよう………」
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