モモンガさんと異形の母   作:belgdol

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遠隔視の鏡<ミラー・オブ・リモートビューイング>

 和やかな空気が流れるナザリック第六層円形劇場だが、ふとした瞬間に沈黙が下りると。

 それは何となしに生まれた空白だったひとしきり語り終え、さて次は何を話すか、なんていう事をモモンガとアヴェが考えようとしたその時。

 アルべドとデミウルゴスがそろって跪き、二人に願い出る。

 

「モモンガ様、アヴェ様。お二人が出た外は普通の草原だったのですね」

「そうなりますと、私共としてはナザリックの警戒レベルの引き上げを提案させていただかなくてはなりません」

 

 ナザリックでも随一の頭脳を持つアルべドとデミウルゴスの言葉に、モモンガとアヴェは何を言われるのかと顔を見合わせる。

 彼等以外の階層守護者も揃って何故?という顔をしている。

 デミウルゴスは眼鏡の位置をすっと直すと、一堂に対して解説を始める。

 

「まずモモンガ様とアヴェ様には勿論ですが。シャルティア。君にも確認するがナザリックの周辺は草原になっていたのだね?」

「ああ、その通り」

「その通りね」

「それがどうしたんでありんすか?デミウルゴス」

 

 重ねて確認したデミウルゴスの問いに肯定交じりの問いを返したシャルティアにアルべドが言う。

 

「それはねシャルティア。ナザリック大墳墓は沼地の中にあったはずの施設……周囲が知らぬ間に草原になっているなどという変化は第一から第三層を守護する貴女が報告すべき事態よ?」

「あ、ああー!それはたしかにそうでありんす!妾はなんという失態を……!」

「え?あ、そっか!今さっきモモンガ様達がお話になってた周囲が草原っておかしいよね!」

「そ、そうだねお姉ちゃん。そこまでの大魔法が働いたなら僕に感知できないのはおかしいよ……」

「ドルイド等ヲ修メテイル マーレガ 気ヅカヌト 言ウノハ 確カニ明確ナ異常ダ」

 

 そうしてさらに話を進めようとしたところに壮年の執事といった体のセバス・チャンと顔の中心に縫い目が走る犬頭のメイド、ペストーニャ・S・ワンコが現れた。

 

「お待たせしました皆様。何やらただならぬ雰囲気なようで」

「お待たせしました……わん。モモンガ様とアヴェ様に階層守護者の方々が御揃いで何かございましたでしょうか……わん」

 

 そろって、素早く、しかし急ぎ過ぎないように整った挙措でモモンガ達のところへ相応しい距離へと近づいたセバスとペストーニャが一礼する。

 そんな二人にくつろいだ様子で足元を楽に構えたモモンガが鷹揚に手で応える。

 

「うむ。よく来てくれたセバス、ペストーニャ。シャルティアらの守護者は解っているがナザリックの外が毒の沼地からただの草原に変化した」

「む。それは……!」

「ナザリック全体の異常事態でございますわ……ん」

「そういうことだ。であるので皆に警戒態勢の構築を頼む」

 

 事態を把握した二人が膝をつくのを見て頷くモモンガは、並んだアヴェの手を強く握る。

 彼女は種族レベルを百重ねているというビルドの構成の関係でDPSの高いスキルや補助スキルと言ったものがほとんどない。

 ゆえに彼女はナザリックの第十層で守られるべき存在であり、守りたいモノなのだ。

 

「はっ。守護者統括としてこのアルベド、全階層守護者に万全な通達をだし守りを固めたいと思います」

「うむ。頼むぞ。セバスもプレアデスの……」

「申し訳ありませんモモンガ様。お言葉を遮るのは不敬と思いますが、もしや供も連れずにアヴェ様と外へ出ていらしたのですか?」

「ん、んん。そうだけど」

「僭越ながら申し上げさせていただきます。モモンガ様という絶対なる御方が共にいれば万が一はないと思います。ですがアヴェ様は億に一つがございます。それでなくとも私含めプレアデス一同モモンガ様アヴェ様ご両名の盾に成れず生き恥を曝したとなれば痛恨の極み。どうか、その事をお含みおきいただきたく存じます」

 

 ぎらり、と目を光らせて申し出るセバスに若干引きながら。

 なんというべきかモモンガが迷っている間に、アヴェがするりとフォローに入る。

 

「ごめんなさいセバス。私が久しぶりに外を見たいとこの人にお願いしたの。貴方たち最も私たちに近くに居る護衛に声を掛けずにごめんなさいね」

「いえ、アヴェ様。セバス様も言い過ぎでした……わん。そう言っていただけるのは嬉しいですが少々……わん」

「私たちは気にしていなくてよペストーニャ。けれど指揮系統ははっきりさせておかないといけないかしら。アヴェ様。このアルベド。守護者統括で全下僕の最上位者でございます。セバスやプレアデス、ペストーニャに指示を出されたなら私も把握しておきたいところですわ。お二人の気配が第九階層から消えて私たちがどれほど心細く慄いたかを御知りください」

 

 気まずげにアルベドを一瞥したペストーニャへかぶりを振り、その懸念を振り払いながらアルベドはアヴェに言い放つ。

 勿論正面切ってではなく、申し上げ奉るというように深く頭を下げながらだ。

 その動きに自分が失言をしてしまったことに気付きアヴェは僅かに顎を下げアルベドに謝罪した。

 

「ごめんなさいね。そう、確かにこのナザリックを統括するアルベドにまず謝るのが筋でした。勘気を恐れずに発言してくれたのはありがとう。気を付けるわ」

「そう言っていただけると光栄ですわアヴェ様。職務上至高の御方からの命令の経路の思い違いは看過しかねましたので。」

「確かにアルベドとしては職務上そういわざるを得ない問題ね。本当にごめんなさい」

「いえ、解っていただければそれで……」

 

 わずかなやり取りで互いの調整を終えると、アルベドが優雅に膝をつき礼を尽くす。

 恭しく跪くアルベドにアヴェは頭を下げ返す。

 それを見たら驚くのはアルベドの方で、慌てて頭を深く下げる。

 

「ア、アヴェ様もうしわけありません!私はなにもアヴェ様に頭を垂れさせるようなつもりでいったわけではありません。御顔をお上げくださいまし」

「そう……?気を遣わせてしまってごめんなさいね」

「お気になさらずとも、職務上申し上げた、というだけでアヴェ様は至高の御方でございます」

 

 と、ここでモモンガがアヴェに声をかける。

 

「過度に謝り合うのは不毛だよアヴェさん。それよりちょっとやってみたいことがあるから付き合ってくれませんか?」

「はい。なんでしょう?」

「周辺の偵察を行うべきだと思うんですが、未知の土地にいきなり人員を送り出すのもなんですし。部屋にある遠隔視の鏡を使えるか一緒に試してくれませんか?」

「なるほど……ではアルベドには改めてデミウルゴスと共同してナザリック内部の警戒を引き上げてもらう仕事をしてもらいましょうか」

 

 行動を決めた二人にさりげなく、デミウルゴスが案をだす。

 

「恐れながらモモンガ様。遠隔視の鏡の動作チェック中にも近隣……特に差し迫った半径1,2㎞程度の偵察は行っておくべきかと」

「うーん。それもそうか。ではセバス……いや、シャルティア。君の下僕のヴァンパイアブライドを総動員して今言った範囲の索敵をアウラの下僕の索敵能力を持ったモンスターと共同して行うように。知的生命体がいた場合とにかく交戦せず情報を持って帰ることを優先して」

「ア、アウラと共同でありんすか?」

「なあにシャルティア、モモンガ様の決定に不満でも?」

「おんしはありんせんでありんすか?」

「べっつにー。実務は下僕だし。シャルティアと並んで仕事するわけじゃないからね」

「あっそ。そういわれればそうでありんすね。ご下命、確かに承りんした。モモンガ様」

 

 ひとまずの方針が決定したことで場の雰囲気が引きしまる。

 そして守護者一同が改めて礼を取りモモンガとアヴェに命令を復唱する。

 こうして各々の任務を果たすために守護者は分かれていき、アヴェとモモンガはゲーム時代二人の寝室だった部屋に指輪の力で転移した。

 

「さてと、それじゃあ始めましょうかアヴェさん」

「はい。ふふ、なんだか並んで遠隔視の鏡で市場を物色しながらお話していた時みたいですね」

「あー、異形種は街に行くのにも気を使いましたからね……あのころとはまた別な意味で大変になりそうですよ」

「ふふ、そうですね。さて、この鏡の使い方は……と」

 

 二人並んで各々の遠隔視の鏡の前で様々な動作を試してみる。

 その効果は見上げた星空が太陽に変わるころに現れるのだった。


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