モモンガさんと異形の母   作:belgdol

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番外編:デートinBAR

「アヴェさん、ナザリックのBARに行ってみたくないですか?」

「着いて来て欲しい、と?」

「着いて来て欲しいのはその通りなんですけど、BARでデートとかリアルじゃできませんでしたから、やってみませんか?」

「ああ、確かにそれはいいかもしれませんね」

「どうせだからアヴェさんが夕食を食べてる間に俺は先にBARに行ってますから、待ち合わせしましょう」

「お互いに衣装を変えて、という趣向ですね?」

「ですです。如何でしょう」

「良いですね。それ、やりましょうモモンガさん」

「じゃあ……十八時ごろに待ち合わせで」

「はい解りました。楽しみにしていますね」

「俺の方も楽しみにしてますよ」

「ふふ、どんな服にしようかしら」

 

 ここでモモンガは重要な事に気付く。

 こういうデートの時のコーディネイトまで一般メイドに任せていい物なのか?

 なんとなくアヴェはすいすいと衣装を決められるイメージがある。

 なら自分も頑張って自分のセンスを試してみたい気がする。

 でも自信がない……こういう時どうすればいいのか教えてくれる友人も、読み物も読んだことがなかった。

 

「対処が必要だな……」

「どうかしました?モモンガさん」

「あ、いや。ちょっとデミウルゴスに相談事ができたのでちょっと席を外しますね」

「……?はい、いってらっしゃいモモンガさん」

「はい行ってきます。ではでは」

 

 モモンガはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力によって第七階層に赴く。

 そう、困った時のデミウルゴスと言わんばかりに。

 

 

 

「アヴェ様とのデートの時の服選びのポイント、でございますか」

「うん。マーレはまだ子供だし、コキュートスは全裸だからね。相談できるのはデミウルゴスだけなんだ」

「なるほど、そういう事でしたら是非、全力でご相談に乗らせていただきます」

「う、うん。頼むよ」

 

 眼鏡の位置を整えてきらりと光らせるデミウルゴス。

 その口元には隠しきれない喜びの笑みが見える。

 

「まずデートはどのような場所で行われるのでしょうか?」

「一応BARを予定してるんだけど……」

「BARですか、では思い切りシックに決めるか、反対に派手に決めて周囲の耳目を集めるか、です」

「うーん。周囲の反応を集めたいわけではないからシックに行くかな……」

「ではやはり至高の御方を飾るのは神器級のあのローブと外套が相応しいかとも思いますが、あれはいわば戦装束。ここはモモンガ様の白磁の身体に映える様に黒、ないしは濃紺のローブ系の衣装がよろしいかと存じます」

「ふむ、外套は必要ないかな?」

「室内でのデートですから、思い切ってモモンガ様の頚骨から頭蓋骨への美しさを演出するのも手かと」

「なるほどなぁ。いやぁ、デミウルゴスは頼りになるよ。ありがとうね、デミウルゴス」

「いえいえ。モモンガ様の御役に立てて無上の幸福でございます」

「そう言ってもらえると助かるよ……おっと、じゃあもう衣装選びに時間をかけるからもういくね」

「はっ、行ってらっしゃいませモモンガ様」

 

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力で去って行ったモモンガを見送ったデミウルゴスは、やり遂げた顔をして鼻歌を歌い出した。

 嬉しいのだろうに何故かドナドナで。

 

 

 

「邪魔をする」

 

 ナザリックの規模からすると小さすぎる店内……それも全て大人の社交場をイメージしてつくられたためである……に銀糸でユグドラシルにおける魔法的な言語を裾に縫い付けた漆黒のローブを着込んだモモンガが入店する。

 それに驚いたのはこのBARを運営する副料理長だ。

 

「い、いらっしゃいませモモンガ様!この度はどのような御用でございましょう!?」

「うん、アヴェさんと十八時ごろから飲みたいんだけど、席をキープできるかな?」

「はっ!至高の御方々の為とあらば命に代えましても!」

「まあまあ、アヴェさんは下半身がアレだからスペースを取ってしまうと思うからできるだけでいいよ」

「いえ、なんなら今日はお二人の為に貸し切りにすることも辞しません」

「それだと他の飲みたい皆に悪いんじゃ……」

「モモンガ様がアヴェ様とお飲みになるという事情を説明すれば、その場を見られないことを残念がる者は居ても不満に思う物はおりません!」

 

 モモンガの問いに答える副料理長はキノコのような姿から涼しい顔で対応しているように見えるが。

 内心炙られたシイタケのように汗だくだくである。

 万が一にも至高の御方々に失礼があっては腹を切ってもたりないというのが下僕としての共通認識であるからだ。

 

「そうかな?」

「そうでございます」

「じゃあ頼むよ……ところで俺もアヴェさんもお酒を嗜むのは初めてなんだけどお勧めは有るかな?」

「そうでございますね……モモンガ様は香りだけをお楽しみになられるという事で香りがよくとも癖の強い蒸留酒系をお勧めします。アヴェ様にはまず軽めのカクテルから……サワー系もよろしいかと」

「蒸留……合成ビールとは違うの?」

「蒸留酒とは……」

 

 モモンガの好奇心を満たすために色々質問されて副料理長は極度の緊張と幸福感を味わうのだった。

 

 

「お邪魔します」

 

 アヴェがBARに入店するとモモンガがゆったりとしたローブに包まれた腕を上げて彼女を呼ぶ。

 

「アヴェさん、こっちです。席取っておきましたよ」

「あら、ありがとうございますモモンガさん。副料理長も手間を取らせたわね」

「いえ、その様な事は……」

「そう?じゃあ飲みましょうか、モモンガさん」

 

 アヴェは臙脂色のコルセット状のカップが六つある上着に艶のある薄紫色のケープを重ねた衣装を着ていて、青白い肌によく似合っている。

 飲み始める前に「良く似合っているよアヴェさん」という言葉を掛けたいが、ちゃんと言えるかモモンガは葛藤している。

 だが、勇気を出してモモンガは口に出した。

 

「良く似合っているにょ……よ、アヴェさん」

 

 全然無理でしたぁ!というモモンガの内心の叫びを無視して、何事もなかったかのようにアヴェはお礼を言った。

 

「ありがとうございますモモンガさん。実はちょっと似合っているか自信がなかったんですけど、そういっていただけると嬉しいです」

 

 にこにこと微笑むアヴェは、即座に言葉を送り返した。

 

「モモンガさんのローブも良くお似合いですよ。その服の裾の縫い取りどこかでみたおぼえがあるんですけど、なんでしたっけ……?」

「あ、ああ!これは実はユグドラシルの超位魔法の魔法陣の文字を縫い取った柄でこれは失墜する天空の柄なんですよ!」

「ああ、この袖口の模様とか確かに失墜する天空を唱える時に出る小魔方陣の柄ですね」

「えと、実はこれ自分で選んだんですけど……変じゃ、ないですよね」

「とってもお似合いですよ。モモンガさんみたいに元が良いとなんでも似合いますよね」

「も、元が良いって、俺骨ですよ!?アヴェさんはその……絶世の美女って感じ、ですけど」

 

 恥ずかしいーというように片手で顔を隠しながら、ちらりとアヴェを覗くと、アヴェはモモンガの頭蓋骨の頂点から頬骨、あご骨となぞり濡れた瞳でモモンガに告げる。

 

「モモンガさんも良い骨格ですよ。とっても、格好いいです」

「ふ、副料理長!?アヴェさんにピーチリキュールのサイダー割りを!」

「はっ、畏まりました」

「そ、そういえばアヴェさん、毒無効の指輪は外してきましたか?アヴェさんが来るまでの間に聞いたんですけど、デミウルゴスやコキュートスとかこのBARに来る皆は酔うために毒無効装備を外してくるそうですよ」

「あら、アルコールって毒扱いなんですね」

「みたいですね」

「じゃあ素のスキルで毒耐性を持ってる私は酔いにくいのかしら……?」

「だと思いますよ。俺に至っては飲めないから酔えないんですけどね」

「あら、じゃあ雰囲気に酔ってもらえるように頑張ります」

「え?それってどういう……」

「ふふ、それは飲みが進んでからのお楽しみ、という事で」

「はあ……」

 

 うむむ?と疑問を飲み込むモモンガをよそに、副料理長がモモンガの注文に従って出してきたサワーを上品に、しかし一息に飲み干しアヴェ。

 グラスを取る動作、口につけて傾ける挙措、置く時も無音。

 それらが相まってがっついているようには見えない。

 

「お、アヴェさんお酒飲む姿が様になってますね。結構リアルでご経験が?」

「それが不思議なんですけど、この身体になってから身体能力が伸びたからか『丁寧に動く』のが格段に楽になったんですよ」

「あ、あーあー。それ、俺も覚えがありますよ。身体をこういう状態で保持したい、とかいうのが凄く正確にできるんですよね」

「ですよね?モモンガさんもそうですよね。モモンガさんがグラスを傾けてお酒の香りを楽しむ姿、とても様になっていますよ」

「え?そうですかね……こんな感じですか?」

 

 モモンガがBARのカウンターに膝をつき大きめのグラスを傾けて香り立たせるためにグラスを揺らすと、どうです?と言うようにアヴェに顔を傾ける。

 

「そうそう、そんな感じです。よくお似合いですよ」

「ふふ、アヴェさんに様になってると言ってもらえると嬉しいですね……それに香りも良い……」

 

 カラコロとロックの氷を回して、モモンガは良い気分になる。

 アヴェも話の切れ目に出されるお代わりを飲むピッチを緩め、じっくりと味わうように飲むようになる。

 

「ねえモモンガさん私少し酔っちゃいました……ちょっと調子よく飲みすぎましたかね……」

「え!?もう廻っちゃったんですか?」

「はふ……顔が熱いです……赤くなってませんか?」

「赤……くはないですけど青い顔がもっと青くなってますね」

「ふふ、血が青いからですかね。ほら、ちょっと触ってください」

 

 アヴェがモモンガの空いた手を掴んで頬に当てる。

 するとほんのりと上気した頬に相応しい僅かな熱がモモンガの骨の手にじんわりと伝わる。

 

「あ、暖かい、ですね」

「えへへ、酔っちゃってますから……ふふ、モモンガさんの手冷たくて気持ちいいです……」

 

 モモンガの手を頬から外すとアヴェはモモンガの肩にしなだれかかる。

 

「ふふ、私酔っちゃった……なんて言われた経験あります?モモンガさん」

「なっ……ないですよそんなの……」

「モモンガさんに酔わされちゃった……」

「ええ、俺のせいですかぁ!?」

「もう、そこは一緒に飲んでたんですから」

「あ、ああそういう……」

「それとも一緒に飲んでる女に甘えられてモモンガさんはスルーするんですか?」

「う、うぉぉ……」

 

 酒は回っていても飲まれたという感じではないアヴェの濡れた瞳と心なしか艶の良い唇に魅せられ圧倒される。

 そしてついつい、なんで実戦使用する前になくなっちゃったんだ……!なんていう気持ちに支配されるモモンガ。

 無くもないような性欲が沈静化されることもなくじりじりと股関節のあたりで燻っているかのように感じる。

 

「雰囲気で酔わせること、できました?ふふ」

「そ、それは……その、はい……」

 

 気づけばしなだれ掛かるアヴェの肩に手を廻そうとして手を開いては閉じてを繰り返している自分の動きに敗北を認めるモモンガ。

 そして思い切ってアヴェの肩を確りと掴む。

 

「じゃあ、その、お持ち帰り、しちゃおうかなー。なんて……」

「うふふ、どうぞどうぞ」

「モモンガ様、アヴェ様。仲睦まじくいらっしゃいますね。お帰りならお飲みになったアルコールが抜ける前をお勧めしますよ」

 

 さりげなくそのままベッドの上の乱戦に持ち込んでしまわれればいいのに、という願いを込めて副料理長がいうと、アヴェを余った尻尾を引きずりながらもモモンガがお姫様抱っこしてった。

 きのこな副料理長は祈る。

 勢いで御世継ぎできてしまえばいいのに、と。(※出来ません)




モモンガさんの性欲、なくもないって昂った時凄いじれったい気分になると思うんですがどうなんですかね…沈静化の働く幅も小さいのかな…。

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