「この度はアヴェ様のお身体の手入れをさせていただくことになりまして真に光栄でございます」
「宜しくね、ユリ、ルプスレギナ、ナーベラル、ソリュシャン、エントマ、シズ。今日はプレアデスの間でするように気楽な会話をして頂戴」
「どうか我々プレアデスのサービスをお楽しみください、アヴェ様。皆、かかるよ」
「了解です」
「はい、ユリ姉様」
「承知しました」
「はぁい」
「頑張る……」
副リーダーであるユリ・アルファが音頭を取ってゆったりとスパ・ナザリックの広い洗い場にその長い蛇身を横たえるアヴェの下半身にプレアデスの面々が集う。
その目的は古くなった鱗をこそぎ落とし、至高の御方の美を保つこと。
プレアデスの誰もがその栄誉ある仕事に対して表面上は冷静を保っているが、皆やる気に満ち満ちていた。
ルプスレギナ・ベータなどは内心「うっしゃー!やってやるっすよー!うひひひ、至高の御方のアヴェ様の身体に触れられるなんて後で一般メイドの皆にもたっぷりねっとり話してあげないといけないっすねー」と邪念に満ちた思いを抱いていた。
「ふん」
だがすかさずユリ・アルファのガントレットではなく垢擦りのような手袋を嵌めた手がルプスレギナ・ベータの頭部に振り下ろされる。
「あたー!なにするっすかユリ姉!?」
「邪念が顔から洩れていたよ」
「げっ、まじっすか」
「ルプーわぁ、完璧に演じ分けられるのにぃ。ちょっとした油断でくずれるのよねぇ」
「ちぇー、エンちゃんは完全ポーカーフェイスでいいっすよね。まぁお面なんで当然っすけど」
「あら、ポーカーフェイスぶりならナーベラルも中々のものでしてよ?」
「ポーカーフェイス……私にお任せ……ナーベラルは至高の御方関連になると途端にでれでれになる。今も」
「……何の事かしら」
「うひゃひゃひゃ、アヴェ様の鱗落してて恍惚としてるの丸わかりだったっすよナーちゃん」
「……ルプーのバカ」
「あ、怒ったっすか?ごめんっすよー、許してナーちゃん」
「ルプスレギナ、手が止まっているよ」
「わわ、失礼しました。アヴェ様も怒ってないっすか?」
「ふふ、ふふふ。怒るどころか楽しそうな姉妹仲に愉快なくらい。本当に仲がいいのね?」
「当然……プレアデスは仲良し姉妹。そういう設定」
「設定って言ってしまっているわよ?シズ」
「てへぺろー」
「ソーちゃんも大概謎の女っすけどシーちゃんも結構わけわかんない経絡で思考してるっすよねぇ……」
「あら、ソリュシャンは謎の女なの?」
「謎も謎っすよ。人間を格納してる時なんでデブらないのかーとか。酸で融かせるなら何でも食べられるのかーとか。全然教えてくれないっす」
「あらあら、それは謎多き女ね。でも謎の多い女の方が美しいとはいうわね」
「そういっていただけると何よりですわ、アヴェ様」
「……」
「あら、どうしたのかしらエントマ。なんだか動きが鈍いわよ?」
「あ、それは、そのぅ……」
「アヴェ様、エントマは仮面の下の異形度が高いので美醜の話になると気後れしてしまうようなんです」
「あ、あ、なんでいっちゃうのよぅユリ姉様のばかぁ」
「エントマ」
「は、はぁい。アヴェ様」
「少しこれを借りるわね」
「あ」
アヴェがエントマの擬態である顔の仮面を外して、その下にある巨大な蜘蛛のような顔に触れる。
「女の子にこんなことをいうのは違うかもしれないけど確りした顎。合理的な生物的な美しさがあるわね」
「あぅぅう……」
「貴女には貴女だけの美しさがあるの、だから気後れする必要はないのよ。と、いって急に意識が変わるものではないけれど。今はこれをお使いなさい」
擬態した蟲である顔の仮面を返してアヴェが微笑む。
「ありがとうございますぅ……アヴェ様」
「……羨ましい……」
「お、なんすかナーちゃんエンちゃんに嫉妬っすか?」
「嫉妬だなんて、私は純粋にアヴェ様に気を掛けていただいたエントマが羨ましいだけで」
「シーちゃん、至高の御方の事になると早口になるのって」
「よしなよ。ナザリックに所属する存在なら普通の事」
「ありゃ、さすがにこのネタには乗ってこないっすか」
「あ、それ数世紀前の「あいつ〇〇の事になると早口になるの気持ち悪いよな」「やめなよ」っていうネタよね?」
「げっ」
「ひぃ」
「……」
「はぁ……おバカな姉を持つと苦労しますわ」
「う」
「……ルプスレギナ。即座に謝罪を。至高の御方を語らう事を気持ち悪いなどと囃し立てるのはジョークでも不敬だよ」
「も、もうしわけありませんアヴェ様!この不敬はこの首掻っ切ってお詫びを!」
「今この場は許します。ですがナザリック内に不和を呼びかねないネタは以後封印なさい」
「は、はい。御慈悲を賜り恐悦至極にございます……」
「ふぅ、雰囲気が固まってしまったわね。そんな事より苦手な姉妹、好きな姉妹の暴露大会でもしたほうが建設的ね。ぶっちゃけてしまいなさい」
「ふへぇ、このタイミングでそれはキツイっすよアヴェ様ー」
「ふふふ、無理にとは言わないわ。とにかく話題が変わればなんでもいいから」
「じゃ、じゃあっすねあんまり理解されないんすけど私はおやつは骨がいいっす!あ、骨っていっても骨っこっていうガムなんすけど!」
「必死」
「必死ねぇ」
「無様だわぁ……」
「はぁ……ルプー……」
「まったく、アヴェ様の前でなければ問答無用で囲んで棒で叩いてたところだよ」
そんなどこか物騒なガールズトークを交わしながら、尾の先からアヴェの鱗が続く腰辺りまでピカピカに古い鱗を落としてアヴェの鱗の手入れは終わったのだが。
やはり一人に任せては時間が掛りすぎるという結論がでてアヴェの鱗の手入れは其の時手の空いているプレアデスによる分業制、という事に落ち着いたのだった。
正直プレアデス間の二人称が良く分かりません。
というか記憶にある限り書籍版のみの知識だと全部出ていないはずなので想像で補っている所があります。
書籍版でもルプーとナーちゃんはフランクな呼び方をする姉妹なのですが他の子は…どうなんでしょうね?