玉座の間にコキュートスとナーベラル・ガンマが跪いている。
その後ろにはアルベドとデミウルゴス、コキュートスの出張に率いられた雪女郎が儀礼的に控えている。
そして玉座にはモモンガとアヴェ。
「よくやってくれたねコキュートス。本当なら現地の活動資金なんかは先頭にたって俺が稼ぐべきなんだろうけど」
「お疲れ様でした二人とも。良く体を休めてくださいね」
「有難キオ言葉ナレド。不肖ノ身ガ至高ノ御方々ノオ役ニ立ッタナレバ光栄デゴザイマス」
「はっ。コキュートス様の仰る通りでございます。口惜しいのはコメツキバッタどもをお助けになられたのが至高の御方々だと口外するのを止められていたことだけでございます」
「いいよいいよ。蒼銀の昆虫騎士と美姫ナーベラルとして竜王国では英雄級の扱いを受けたそうじゃないか。誇りなよ」
「身ニ余ル光栄デゴザイマス」
「同じく……」
今は外貨を稼いできたコキュートスとナーベラル・ガンマの慰労の時だ。
「いや、本当に良くやってくれたよ。これで正面から蒼の薔薇の面々を招待することができる」
「蒼ノ薔薇トイウ一団ヲナザリックニ迎エルノハソノ様ニ大事デアリマショウカ」
「まぁ今の所穏当なプレイヤーに繋がる情報を持っている唯一の集団……個人だからね。一応あーとなんでしたっけ、アヴェさん」
「スレイン法国の陽光聖典ですね。ユリ・アルファに撲殺された男が魔封じの水晶を持っていましたが。封じ込められていたのが威光の主天使なのでプレイヤーメイドかは多少怪しい所があるという結論になったはずです」
「そうでした。そちらの方にも情報はありそうだけどスレイン法国は人間至上主義国家。ちょっと穏便に情報を取ることは出来そうにないんだよね」
「不敬ながら発言をお許しください御二方。例えそうだとしてもガガンボ如きが至高の御方々に話を聞いていただけるという栄誉を賜るならば何を置いても駆けつけるべきでは?」
「……あー、コキュートス。ナーベラルは竜王国ではこの調子だったか?」
「イエ、ホボ無言ヲ貫イテオリマシタ」
「そ、そう。ナーベラル、俺達ナザリックは強大だが驕れる者になる気はない。その事を気に掛けて言動には気を付けて」
「はっ。かしこまりましたモモンガ様」
「それならよし、この話はここまで」
若干大丈夫かなぁという心配を胸にモモンガが話を打ち切る。
「ともあれコキュートスとナーベラルには引き続き竜王国でビーストマンの討伐を頼む」
「ハ、承リマシタモモンガ様」
「私もボウフラどもとの関係に留意しつつ、任務を果たしてまいります」
「あ、うん。頼むよ……」
もしかするとナーベラルの替わりに他のプレアデスを選出するべきかも、と思いつつすでに名声を形成しているナーベラルを急に差し替えるのも差支えがある。
というようなことにモモンガは頭を悩ませる。
だがコキュートスの話では会話をしない、という非常に消極的であるが妥協点としては妥当な行動(少なくともイラっときたら食べてしまいそうな面々よりははるかにましな)を取っているためこのままでいいか、という結論に達する。
そして忠実に任務をこなしているコキュートスとナーベラル・ガンマに何か褒美を与えるべきか、と考える。
そこで彼らの後ろに控えるアルベド、デミウルゴスにお伺いを立ててみる。
「ふうむ。さてナザリックに功績の大きいコキュートスとナーベラルに何かボーナスを与えようと思うんだけど。アルベド、デミウルゴス。なにか良い案は有るかな?ああ、ボーナスと言えば日々ナザリックの運営に力を入れてくれている二人にも何かあるべきかな……なにか望みはないか?」
「恐れながらモモンガ様。そのお言葉だけで我々ナザリックのしもべ一同万感の思いでございます」
「その通り。モモンガ様が我々ナザリックの者を気に掛けてくださっているという事実だけで十分でございます」
「正ニ守護者統括殿トデミウルゴスノ申ス通リカト」
「至高の御方からの褒美など恐れ多く……」
うん、ですよねー!君らそういうところあるって解ってたけどそれじゃこっちの気が済まないんだよ!という内心が思わずこつこつと骨の頬を叩く指先に現れる。
そこにすっとアヴェが一言を添える。
「ではこの玉座の間ではなくナザリックのBARで懇親会を開こうではありませんか。未成年のアウラとマーレにはまた別の機会に触れ合う機会をつくるとして、成年の階層守護者とプレアデス、そして私とモモンガさんで……飲み会ですね」
「あ、それはいいですねぇ。アルベド、都合を付けられるかな?」
「は、はい!お望みとあれば如何様にも!デミウルゴス、手伝ってくれるわね?」
「勿論ですとも守護者統括殿。モモンガ様が酒宴をお望みとあらば叶えるのが我らが役目です」
「オオオオー。モモンガ様ト酒ヲ酌ミ交ワスナドト言ウ光栄ヲ授ケラレルトハ!」
「あ、あの、見た目は幼いですがエントマは虫としては成虫、シズは自動人形ですのでどうか参加のご許可を……未成年ではありませんので」
「ん?ああ、そうだね。見た目が幼くても大人かー。ペロロンチーノさんが好きそうな設定……というかシャルティアまんまか」
「ふふ、そうですね」
「ですねぇ。あ、俺は酒飲めないけど皆気にしないで飲んでいいからね」
「大丈夫ですよモモンガさん。お酒も匂いだけで楽しめるものがありますから。匂いを楽しんだ後の物は私が飲んで差し上げます」
「そうですか?いやぁ、悪いねアヴェさん」
「いいんですよモモンガさん。モモンガさんの足りないところを補うのが妻である私の勤めでしょう?」
「アヴェさん……あ、ありがとうございます」
「ああ、後アルベドとデミウルゴスは酒宴に参加できないアウラとマーレも参加できる催し物を考えて頂戴な」
アヴェの言葉を受けてアルベドとデミウルゴスが跪き同時に言葉を発する。
「「ではモモンガ様とアヴェ様のご意向次第ですがナザリック大食堂での食事会などいかがでしょうか」」
言い終わった二人は顔を見合わせ薄く笑いあう。
考えることは同じか、という様子に。
それを見てモモンガもアヴェも頷く。
「じゃあアウラとマーレを交えた食事会は一般メイドにも参加を許そうか」
「そうですわね。人は多い方が良いわ」
「おお……さすが至高の御方々。一般メイドの事までお考えになられるとは」
「ふふ、恐悦のあまり参加できない者が現れるかもしれませんね……いえ、そのような不敬なメイド、このナザリックには居ないと思いますけれど」
なにせ実質モモンガ様とアヴェ様から招待を受けているに等しいのですからね、とアルベド。
その通り、と言わんばかりの笑みを見せるデミウルゴス。
モモンガとアヴェは若干やっちゃったかなぁ……などと思うのだった。
こうして開催された酒宴と食事会はナザリックの配下達には大歓迎されたわけだが。
モモンガは一つの懸念を抱いていた。
「アヴェさん」
「はいなんでしょう」
「皆は蒼の薔薇を招待するのに協力してくれますかね?」
「命令、ということなら大丈夫だと思いますわ。それよりも……問題は薔薇の方にあり、かと」
「ですよねー。はー、蒼の薔薇の人達が異形種を受け入れてくれるといいんですけど」
前途は中々多難なようだ。