モモンガさんと異形の母   作:belgdol

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派遣社員コキュートス

 モモンガはまたアヴェの肢体の上でまったりしていた。

 精神変化系には耐性があるはずだが彼女の腕の中は緩やかな安心感があるのだ。

 もしかするとスキルなどの効果ではなく心許せる相手に体を委ねているから安堵しているだけなのかもしれない。

 

「しかしエ・ランテルでの任務は成功でしたがある意味失敗でしたね……」

「落ち込んでますかモモンガさん。大丈夫?おっぱい揉みます?」

「んっ、んん!いやあ、叡者の額冠を手に入れるのには成功しましたが発動者の方がはるかにレアな存在だったとは」

「異能でしたっけ。生まれつき誰もが持っている可能性のある特殊スキルのような」

「ですねー。まさかマジックアイテムの全ての制限関係なく能力を使える超々レア人物だったとは……」

「まあまあ、こういう時は切り替えませんとモモンガさん。危険な能力者が文句のつけられない形で潰せた、と」

「うーん。それしかないですかねー。個人的にはちょっとコレクトしたかったですね……」

「嫌ですよモモンガさん。少年を監禁してどうするつもりです」

「ははは、あの少年が美少女ならペロロンチーノさんが言いそうなセリフですね」

「ぶくぶく茶釜さんなら骨と少年って誰得よ、っていうところですかね」

「茶釜さん腐ってはいなかったですからね……マーレが男の娘なのもあくまで「可愛い弟」っていうデザインのためですし」

「でも異性装萌えはあったかも……」

「どうなんでしょうね?アウラの部屋には可愛い服もかなりため込んでたと言ってたような」

「あ、そうなんですか。そこら辺の情報の把握はさすがにギルド長ですね」

「は、ははは。俺の主な仕事はギルメン間のバランス調整でしたから」

「るし★ふぁーさん」

「あ、あの人は秘密主義っていうかこっそり仕込んだ悪戯が多すぎて把握しきれないだけです」

「ふふ。そうですね」

 

 一息ついて、一般メイドにお茶を入れてもらいすっと飲むアヴェ。

 そしてソレを区切りに話題を変える。

 

「そういえば、王都リ・エスティーゼでしたっけ。あちらでシャドウデーモンを倒した人がいるとか」

「ああ、倒されたのがプレアデスとかなら問答無用で殺してる所ですがシャドウデーモンくらいなら逆に興味を惹かれますよね」

「プレイヤーかどうか、ですね」

「そうです。誰か使者になるようなNPCを送って接触してみようかな、と思うんですが」

「良いんじゃないでしょうか。そうなると……セバスあたりですかね。割と暇をしていて比較的人間に当たりが柔らかそうな性格のNPCは」

「ですね。シャルティアやアウラはナザリック以外の存在は塵芥って感じですし、アルベドは忙しい、デミウルゴスは種族的に不信感を持たれる可能性がある。コキュートスはあの外見で街にいったらモンスター扱いで交渉にすらならない可能性あり。マーレは……あんな気弱な子を一人で送り出すのは可哀そうですし」

「そうですね。そうなるとワールドアイテムは何を持たせようかな……」

「安パイは強欲と無欲なんですよね。あれなら奪われても経験値のプール分だけですんでしまいますから」

「んー、そうなりますか」

「ではもう少しシャドウデーモンで情報を集めたらセバスを接触させて様子を見る……ということでいいのかしら?」

「うん。それでいきましょう」

「さて、どんな結果がでるか楽しみですね」

「ですね。楽しくなるといいんですが」

 

 モモンガとアヴェ、二人で笑いあう。

 数日後、シャドウデーモンを倒した人物を王都のアダマンタイト級冒険者、イビルアイだと確定するとセバスを送り出した。

 その結果、イビルアイはプレイヤーではないもののプレイヤーという存在を知る者だという事が解り。

 モモンガとアヴェはそれに対してどう対応するかを話し合うのだった。

 

「イビルアイ……ちゃん?さん?どうしますかね」

「うーん。他のプレイヤーの存在を確認できた、というところで十分じゃないでしょうか」

「出来るならプレイヤーを知ってる誼でナザリックが集めた情報の答え合わせ役にご招待するというのもありじゃないかと思うんですけど」

「あ、それは有益ですね。ただイビルアイ……さんでいいかしら。イビルアイさんは有名な冒険者なんでしょう?忙しくないでしょうか」

「あー……それなら依頼扱いで来てもらうとか……」

「ずっと引きこもってたせいで現地通貨がありませんね……」

「う、ううん。どうするべきかなぁ」

「ユグドラシルの通貨を使うわけにもいきませんしね」

「セバスにはプレイヤーかどうかの確認のためにもっていかせたんですけどね、ユグドラシル金貨」

「そのお陰でイビルアイさん自身はプレイヤーではないと一応の裏が取れたわけですけど」

「そういえば、竜王国という国ではビーストマンという人食いの種族に困っているという話がありましたね」

「え?……ああー、ナザリックの戦力で竜王国に乗り込んでビーストマンを駆逐して褒章を貰うんですね?」

「です。今の所それが一番無理のない現地通貨の入手法じゃありませんか?他のプレイヤーは居る、という前提で、人間を守るために戦う人側の異形種という立場も得られますし」

「ふむ。それだとどれくらいの戦力を出すかですよね。異形種の居るアピールとしてコキュートスあたりを出すのは提案するとして」

「餓食弧蟲王は人を苗床にするからだめ……というかナザリックから出す戦力ではありませんよね」

「そうなるとエントマあたりも除外、ですね。ただでさえグリーンビスケットっていう代用食で我慢させてるのに目の前に大量のご飯がばらまかれてる戦場に送るのは酷でしょう」

「コキュートスは決定、ですかね」

「そうですね。人食いもしませんし、彼の人柄なら無用な衝突は産まないでしょう」

「あとは脇を固める人選ですか」

「後衛としてナーベラルはいいかもしれませんね。あの子なら外見がいいから突然現れた異形種の戦士と周囲のクッションになってくれそうです」

「後は兵士ですね。この世界はアンデッドに対する目が厳しいからナザリックの陣容からだと中々……」

「あー、死の螺旋ですっけ?エ・ランテルで叡者の額冠手に入れた後のお偉いさんの話で出てたのは」

「そうですね。強大な死はより強く大きな死を招く。少なくともナザリックではそんなことないんですけれど」

「微妙に世界のルールがずれてるんですかね……死の螺旋が適用されるならタダでナザリックの一階層から三階層の戦力がアップできたんですが」

「と、話を戻しますね。その死の螺旋の伝承がなければ竜王国に出向くのはモモンガさんでもよかったと思うんですが」

「はー……警戒、されますよねぇ。アンデッドじゃ」

「コキュートスでギリギリと言ったところですよね」

「うー。中々冒険ができない……」

「あ、良い事を思いつきましたよモモンガさん。山脈の方にはフロストドラゴンが出るみたいじゃないですか」

「お、そんな話もありましたねぇ!」

「ええ。ですので気晴らしにドラゴン退治としゃれこんできたらいかがですか?」

「いいですねー。低位階のスクロールの材料にはアヴェさんのスキルで生み出したキメラの皮なんかを当ててましたが、ここらで一つこの世界のドラゴンの皮はどこまでの位階の魔法を込められるか実験ですね」

「ええ。後はその他の素材も有効活用できるかどうか……そのあたりの実験はデミウルゴスが上手くやってくれそうです」

「デミウルゴスかー……そういえばアウラとマーレ、アルベドもナザリック内に詰めっ放しですし。デミウルゴスと一緒にドラゴンハントに連れて行こうかなー」

「そうですわね。たまの息抜きにはいいかもしれません」

「よーし、じゃあ階層守護者のスケジュールの調整をアルベドに頼んで……一狩り行こうぜ!なんちゃって」

「古いゲームのネタですっけ?」

「ですです。守護者と話してるとリアル系のネタが通じなくて寂しいんですよね……アヴェさんが居てくれてよかったですよ」

「ふふふ、こんなことでよかったらいくらでもいいですよ。あなた」

「……不意打ちは止めてくださいよ。沈静化するところでした」

「ふふふ」

「あ、そうだ。コキュートスに従わせるのは雪女郎にしましょう。同じ氷結牢獄の上司と部下なら問題なく連携できるはず……」

「いいですね。雪女郎なら精霊とかいってごまかすこともできそうです」

「じゃあその線で……さてさて、コキュートスには頑張ってもらわないと」

「ですねぇ」

 

 こうして決められたちょっとしたハイキングと資金稼ぎは決行され。

 モモンガと旅路を共にした階層守護者達には満足を。

 竜王国への強力な助っ人としてあらわれた異形の武人コキュートスは名誉と金貨を手にナザリックへと帰還したのだった。


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