皆様、始めまして。唐突ですが《転生》ってどう思います?
転生してみたいと思いますか?
転生したとして、その世界はファンタジーな方がいいですか?
ファンタジー世界で転生特典を使って無双したと思いますか?
——そんな考えを持つ貴方達へ忠告です。やめとけ、絶対に後悔する。
僕も最初は転生できるのに喜んだ。特典貰えると喜んだ。ファンタジー世界に行けると喜んだ。無双できると喜んだ。
でもね、転生すればそれはもう現実。妄想で描くように何でもかんでも上手くいくわけ無い。
まず暗殺者に憧れたのがいけなかった。暗殺者なんて殺し以外何もできない職業だ。憧れこそすれなりたいと思ってはいけない。
次に暗殺者で一番強い人物であるキングハサンの力を求めたのがいけなかった。というよりこれが一番の失敗だった。
キングハサンはカッコイイと思うが、社会の中であんな思想をしている奴は精神異常者だし、口調など中二病としか思われない。望むべきではなかったんだ。
転生先の家庭も酷かった。父親はリストラされ酒とギャンブル三昧で借金漬け。母親は育児放棄で他所に男作って滅多に帰ってこない。
それでも既に大人の意識と転生特典のお陰で幼児だった僕でも生き延びる事ができた。
暴力を振るおうとした父親の首を反射的に断ち、化物と罵倒する母親の首を反射的に断ち、そして両親を殺めても全く罪悪感が湧かない自分の精神の絶対性に唖然とした。
この時、改めてキングハサンは常識外れだと実感した。
その時は幼児が両親を殺したと誰も思わなかったので、僕は被害者扱いで罪に問われはしなかった。
この時は本当に常識的な社会世界に転生できて助かったと思った。
僕は孤児院『若葉の家』に入れられることになったが、あの家庭環境に比べれば何処でもマシだろうと思った。
だが、それも考えが甘かった。両親を殺害された幼児、それも泣くことも戸惑うこともない能面のように無表情な幼児は心が壊れていると思われても仕方ない。
……違うんです。心壊れてないんです。能面なのはキングハサンは無表情がデフォルトだからなんです。
……いくら笑顔作ろうとしても顔の筋繊維が全く動いてくれないだけなんです。
まぁ、僕が能面なのはさておき、そんな子が送られる孤児院がマトモな子供を集めた場所か? そんな訳あるか。
事故や災害で親を亡くした子供、親に捨てられた子供、親に殺されかけた子供、そんな子供ばかり押し込められた場所の雰囲気が良いわけなく、てか、最悪だった。
だが、此処で救いの女神が! 原作キャラの一人『東堂刀華』が現れた!
いや本当に彼女は女神だった。皆を笑顔にしようと頑張ってた。小さい子に絵本読んであげてた。拒絶する子も見捨てなかった。傷付けられても挫けない姿に僕はホロリしたよ。後、手料理が美味くて惚れそうになったね。
そんな彼女のお陰で孤児院の雰囲気は良くなり、皆が笑顔で暮らせる家になった。いや〜、良かった良かった。
……まぁ、僕は色々やらかし過ぎて五歳くらいの時に追い出されたけどね!
何をやらかしたかはいまは割合しておく。
孤児院を追い出された僕は、行く当てもなく一人で生き抜くしかなかった。
しかし、身元引受け人もおらず、まして五歳児が働けるわけ無い。
で、無一物の僕ができることは……一つしかない。
………………………えぇ、暗殺ですとも。キングハサンの力を持ってすれば完全犯罪など朝飯前。裏稼業なら正体を隠す者などゴロゴロいるので幼児がやってもバレなかった。
とりあえず、義務教育である中学校卒業、十五歳になるまで裏稼業をやりました。
この時は現実に瞳が絶望に染まりました。因みに未だに絶望に染まった瞳は治りません。
これは僕が心の奥底で現実に絶望したままということでしょうか?
何はともあれようやく表社会で一般人として働ける! 裏稼業よ、さようなら〜。僕は争いのない社会人として平和な人生を歩めると歓喜した。
ここまで話したように《転生》なんて碌でもないと理解して頂けただろうか? では、最後に一つだけ。
————転生なんて絶対にするんじゃねエェェェェェェェェェッ!
では、さようなら。僕は一般人として生きていきます。
………なんて言っていた時期が僕にもありました。
「はいー☆ 新入生のみなさんっ! 入学おめでとーーーーッ!♡」
やはり僕は現実に絶望するしかなかった。