ゲーム・ア・ライブ   作:ダンイ

7 / 23
六話

「よくも此処までボロボロにしたな……」

 

十香と学校で接触してから一夜、俺はボロボロとなった校舎の前に立ち尽くしていた。

一応、学校からは空間震で校舎が壊れたため休校との連絡はされていたのだが、スーパーに買い物に行くついでとして立ち寄ってみることにしたのだ。

それにしても昨日は十香との接触よりも、その後にあった事の方が大変だった。フラクシナスに帰還した後、琴里から異世界での事や十香との関係について徹底的に問い詰められた。

琴里による俺への尋問はネプテューヌとプルルートを巻き込んで一晩中行われ、それが終わると爆睡して動かなくなった二人の保護者への説明もあったため俺は昨日から一睡もしていない。

まあ、何日か徹夜をした事もあるからこれぐらいなら問題はないんだけどな。

 

そして、それよりも問題となったのは鳶一の処遇についてだ。今はまだ意識を失っているらしいが、目を覚ました後にどう対応すればいいのかラタトスク側でも悩んでいるらしい。

一応、顕現装置には記憶を消すことが出来る装置もあるらしいが、それを使うと痕跡が残ってしまうらしく、また記憶を取り戻すための装置もあるらしい。

鳶一が一般人なら問題にはならないのだが、彼女はAST、定期健診などでバレる可能性もある。

ラタトスクとしてはそんなリスクのある選択肢を選ぶことは出来ないだろう。

そうなれば後は永遠に牢獄って選択肢もあるのだが、そこまではやりたくないし……

琴里には冗談半分で「精霊をおとす練習として、士道が彼女を説得してみれば?」なんて言われたが、それこそ専門家の出番だろう。正直未だになぜ俺が交渉役なのか、納得は出来てないからな。

 

「シドー」

 

理由もまだはぐらかされているから、分からないんだよな……

こっちの異世界の事を根掘り葉掘り聞こうとするなら、そっちの事も教えてくれないと不公平だと思うんだよな……

まあ、俺にもまだ琴里に黙ってる事があるんだけどさ。

 

「おい、聞いているのか?」

 

まあ、あれは俺が傷つくだけって言うか……正直誰にも話したくない事だから許してくれ。

本当に隠していたいことなんだ。と言うかあれが世界中に拡散されるなんて事態になったら自殺以外の選択肢は考えられない。

実際そうなりかけた時にはネプテューヌから聞いた話だと凄まじい暴走をしたらしいな。

俺は正気を失っていたから覚えてないと言うか……

 

「シドー!!私の話を聞いているのか!?」

 

「うお!?と、十香じゃないか……いったいどうしたんだ」

 

いきなり大声を掛けられたから驚いてしまった。

その声の方向に振り向けば不機嫌な顔をした十香の姿がある……彼女がそんな顔をしているってことはたぶん相当な時間彼女の声を無視していたんだろうな。

 

「どうしたではない、私が声を掛けているのに散々無視しおって」

 

「悪い……ちょっと考え事をしていたんだ。十香と別れた後に色々とあったんだよ」

 

「そうなのか?……そんな事よりも士道、今日は暇なのか」

 

「一応今日は何もないけど……」

 

校舎が壊れてしまったから休校だからな。

なんて俺が思っていると十香は目を輝かせてこちらを見つめている。彼女がこの後なんて言うかが予想出来た。きっと一緒に遊びたいと……

 

「それでは士道、デェトというのをやってみないか?」

 

「なななな、そ、そんな言葉どこで知ったんだよ!!その言葉の意味が分かってるんだよな!?」

 

「勿論だ。男性と女性が一緒に遊ぶ事を言うのだろう。この前にネプ子に教えてもらったのだ。なにか間違っているのか?」

 

「ま、間違ってないけど……」

 

確かに間違っていない……でも普通は付き合っていたりそれに近い間柄の男女が遊ぶ際に用いられる言葉だ。言い方によっては大変な誤解を招く。

っていうかネプテューヌは十香に何を教えてるんだよ。しかもこの前ってあの学校の時なのか?あの時間のない中でなんて事を教えてるんだよ!!

後で絶対に秘密を暴露してやろう。

 

「それでシドー、私とデェトはしないのか?」

 

「別に構わないけど……あまりデートって言葉を大声で出さないようにな」

 

「どうしてそんな事をいうのだ?……はっ!!まさかネプ子は、私が言葉の意味を知らないのをいいことに、卑猥な言葉を教え込んだのか!?……でもシドーは間違っていないと……今度あったらネプ子に問い詰める事にしよう」

 

後でネプテューヌは、十香にデートの正しい意味の説明に苦労する事になると思うけど、一切フォローしない事にしよう。たぶん暴露するよりもきつい罰になると思う。

まあ、そんな事よりも十香とどこで遊ぶかだ。商店街にはこの前に行ったしな、他になにか……あ、そうだ。あそこがあった。

 

「十香、あの十香のお気に入りのパン屋なんだけど、新作のパンを出したと思ったんだが……行ってみるか」

 

「もちろんだ!それとシドー、新作の方も良いがきなこパンも頼むぞ!!」

 

「わかってるわかってるから、そう走るなって……」

 

急いでパン屋の方に向かおうとする十香に追いつくために走って彼女を追いかける。

そういえば十香……ここからパン屋の位置が分かってるか?方向はあってるみたいなんだが……大丈夫だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

「……琴里、また溜息をしているのかね」

 

天宮大通りの一角にあるカフェ……そこでは琴里と令音がお茶をしていた。

何時もなら今の時間は学校で授業があるのだが、別に琴里はそれをサボって此処に居るわけではない。昨日の空間震の際に琴里の通う中学校も被害を受けてしまったみたいで、突如休校となってしまったのだ。

それでせっかく、学校まで来たのにこのまま帰るのは癪に障るので、こうして令音を呼び出して時間をつぶしていたのだ。

 

まあ、そんなことは別にどうでもいい。

琴里が溜息を吐いているのには別の理由がある。それはもちろん士道の事だ。

昨日は一夜にわたって士道とあの二人の女神に尋問したのだが……衝撃の事実が判明した。琴里は士道が異世界に飛ばされていたのは、あの行方不明になった三日間だけだと思っていた。

でも事実は違った、どうやら士道が飛ばされた世界……神次元と呼ばれる場所とこちらの世界では時間の流れが違うようで、結構な時間を神次元で過ごしていたらしい。詳しい期間ははぐらかされたので分からないが、見た目の変化があまりなかった事を踏まえると長くても一~二年というところだろうが、それでもかなり衝撃的な事実だった。

でもこれで十香との仲の良さも納得できた。それだけの時間があればかなり仲を深められるだろう。

 

でも……なんかいやだった。

自分の知っている兄がどこか違う場所に行ってしまいそうで……

自分の兄があの二人に取られてしまいそうで……

実際に尋問の最後の方ではかなり感情的になって問い詰めてしまった。

 

「……シンとの関係で悩んでいるのかね。私でよければ相談になるが」

 

「大丈夫よ……私個人の問題なんだから、私でどうにかするわ」

 

「……そうか、相談したくなったら何時でも声をかけてくれ」

 

琴里が「ありがとう」と返すとしばし無言の時が流れる。

令音が尋常でない量の砂糖を突っ込んだアップルティーを口に含む。そして一服した後に琴里に問いかけてきた。

 

「……それで、いい加減に理由を教えてくれてもいいんじゃないかね」

 

「一体何のことよ」

 

「……シンの事だよ。なぜ彼を精霊との交渉役に抜擢したんだ」

 

「ああ、それね……誰にも言わない事を約束出来る?」

 

何時にもまして真面目な琴里の顔……それを見た令音は首を振った。

それを見た琴里は令音の事を信じて真実を語ることにした。

 

「よくある事……って訳ではないんだけど、実は士道と私って血がつながっていない兄妹なのよ。なんでも昔に母親に捨てられたみたいでね」

 

「ほう……」

 

「それで、幼い頃に母親に捨てられた士道はこっちにきた当初は相当参っていたみたいなのよ。それこそ自殺をしかねないくらいにね。まあ、一桁の年齢の子供がそんな目に合えばそうなって当たり前なんでしょうけどね」

 

「……それで」

 

「まあ、一年くらいでそれは収まったんだけど、それ以来人の絶望に敏感になったって言うか……困っている人が居ると首を突っ込んでいく馬鹿になったってわけよ」

 

「……だから精霊に向かっていくのはシンくらいしかいないと思ったと……でも私が聞きたいのは……」

 

令音が琴里に本題を切り出そうとした時だった……

 

ヴゥゥゥゥゥ!ヴゥゥゥゥゥ!

 

携帯のバイブ音が突如響いて来た。琴里の携帯だ。

琴里はこんな時に誰だと思いつつ、携帯を懐から取り出すとラタトスクからの連絡だった……何か問題でも起きたのだろうか?

そんな事を思いつつ琴里は電話を受けた。

 

『すいません司令、士道君から司令につないでくれとインカムからお願いされたもので』

 

「分かったわ……すぐに繋いで頂戴」

 

インカムから連絡すると言うことは、士道は電話が使いにくい状況に置かれているみたいだが……

一体何があったのだろう?ラタトスクの司令官である琴里に連絡すると言うのは精霊関係なのだろうが……

まさかとは思うが精霊が出た……と言うのは流石にないだろう。確かに最近は空間震が多いが昨日今日で出るような存在ではない。

 

『琴里聞こえてるか?……少し連絡したいことがあってな』

 

「なによ、早く言いなさい。くだらない事だったらタダで済むと思わないことね」

 

『えっと、それじゃあ簡潔に言うが……今、十香と一緒に遊んでいる』

 

「なによ、そんな用事で連絡したの?あなたと十香……?…………って、はぁぁぁああああ!!」

 

思わず琴里は大声をあげて驚いてしまった。

その大声は静かだった店内に響き渡り客や店員の注目を集めてしまった。琴里は多くの人から向けられた視線に気づくと頭を下げて謝った後に、他人に聞こえないように注意を払いながら士道と会話を続ける。

 

「一緒に遊んでいるって……空間震は確認されてないわよ。一体どこで会ったのよ」

 

『校舎の残骸を眺めてた時にな……と言うか、琴里には精霊が空間震を起こさずに現れる場合もあるって言わなかったか?』

 

「……っあ!」

 

言われた気がする……

でも異世界で士道が長い間過ごしていたと言う方が衝撃的であまりそちらに意識が向いていなかった。でもまさか本当に一切の痕跡がなく現れるとは……後々対策を練っておかなければいけないかもしれない。

とにかく、その件は一旦置いておくとして、今は現れた精霊との接触についてだ。

 

「わかった……こちらで支援させてもらうわ。なにか十香の好きなものを士道は知っていないの?」

 

『そうだな……十香はとにかく食べる事が好きだな』

 

「それなら……大通りに最近建てられたレストランの場所は知ってる?」

 

『一応知ってるけど……そこに向かえばいいのか?」

 

「ええ、あそこはラタトスクが交渉済みの場所よ……とりあえずそこに向かって頂戴」

 

『ラタトスクって一体何をやってるんだ……とりあえず分かった、そこに向かってみるよ』

 

それを最後に琴里は電話を切る

だいぶ予定が……と言うか予定なんか明後日の方向に飛んで行ったが、ようやくこれから本番が始まる……いや、今の士道と十香の好感度を考えるとその練習と言ったほうが近いのかもしれない。

士道や十香、それに真実を告げていないクルーたちには悪いが一回くらいは予行練習をしておきたい……なにせ助けなければいけない精霊はまだ沢山いるのだ。

他の精霊では一回のミスが命取りとなる場合だって考えられる……それを踏まえれば決してこの練習は無駄にはならないはずだ。

琴里はラタトスクに指令を出すべく電話を掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シドー、次はどの店にいくのだ?」

 

「えっと……大通りの方はあまり行った事がなかっただろう?だからそこらへんの店にでも行こうと思ってな……」

 

「どこでもいいから、早くたのむぞ」

 

流石に正直にラタトスクから指示された場所に行くだなんて言うわけにはいかないので適当な言い訳を言っておく。

正直、ラタトスクと言う組織の事は未だに俺でも信じきれないからな……十香に真実を言って信じてもらうと言うのは不可能に近いだろう。

それに十香には純粋に楽しんでもらいたいしな……

 

そんな事を考えている内に、どうやら店についたようだ。

 

「ここが士道の言っていた店か?」

 

「ああ、そうだ……ここで頼もうと思うが、ちょっと今日は金を持ってこなくてな。一万円以内に収めてくれよ」

 

「そうなのか?むう、世の中は世知辛いな……なにか簡単に金子を調達する手段はないのか?」

 

「そんな手段なんてあるわけないだろう……あったらほとんどの人が働かなくなるぞ」

 

「それはそうなのかもしれないが、仕方な……」

 

「十香?一体どうしたん……」

 

店の扉を開けて固まってしまった十香を見て、不審に思いつつその後に続いて……俺も固まってしまった。

いや、だって扉を開けたら多くのスタッフが立っていて、その手には『千人目のお客様です。おめでとう』って書かれたプラカードを持っているだぞ。

しかもよく見るとその中に琴里と令音さんが混じってるし……

 

「おめでとうございます。お客様は当店の千人目となりますので、近くの商店街で使える商品券十万円分のプレゼントと、当店での注文は全て無料とさせてもらいます」

 

これをするために此処に来いと指示を出したのか……

正直助かった。十香はかなりの大食いで彼女が手加減なしで食えば日本円にすると、平然と万札が何十枚と飛んでいく。彼女におごって何人もの人が涙を流し財布を空にして来たことか……

最近はそれを知ったみたいで、ある程度は手加減するようになったみたいなんだがな……

 

「おおっ!!つまり此処での注文はすべて無料になるのだな!早速心行くまで注文をするぞ、シドー!!」

 

「おい!?嬉しいのは分かるが、店内を走るなって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、士道達が入っていた店の向かい側にある路地裏……

そこでは一人の女性が口に手を当て、息を殺して店の様子をうかがおうとしていた。

なぜ彼女がそんな事をしているのかと言うと……一言でいえば彼女がASTに所属しており、ある任務によって街を探索していたからだ。

その任務とは精霊を見つけること……なんてはずはなく、昨日から行方不明となった鳶一一曹の捜索だ。彼女は昨日の戦闘には参加していないので詳しくは分からないが、昨日の精霊への対処中に現れた謎の飛行体を追跡中に連絡が途絶えてしまったらしい。

顕現装置や精霊など秘匿されている情報を持っている以上、そのまま放置と言う訳にはいかず、こうして捜索していたのだが……とんでもないものを見つけてしまったと一人愚痴る。

 

まさか空間震もないのに精霊が現れるなんて思ってもみなかった……

もしこれが偶然でないのだとしたら、今までの対策が根本からひっくり返る事態だ。なにせ現状の精霊対策は空間震の前兆を掴んで、それが起こる前に一般人を避難させることで精霊と戦闘が出来る状態を作り出していたのだ。

もし空間震を出さずに現れる精霊がいたなら、人が多くいる場所で精霊が暴れだすわけで……

幸いなことに目の前の精霊は今すぐ暴れだす気配はない。彼女はポケットにしまっていた端末を取り出すと基地との連絡を取る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

空中艦フラクシナスの艦橋、その正面にあるモニターにはレストランでの食事を終えて商店街で食べ歩きしている士道と十香の姿が映っていた。一見すれば普通の商店街で二人の高校生が遊んでいるだけにしか見えないのだが……もちろんここはラタトスクが誘導した場所、ただの商店街であるわけがなかった。

実はこの商店街とラタトスクとの間で交渉が行われていて、いま商店街に居るほとんどの者はラタトスクの関係者だ。士道はそれに気づいているのか、若干苦笑を浮かべつつ十香を見守っている。

 

椅子に座ってそれを眺めている琴里は満足げに微笑んでいた。

今のところは特に問題なく順調に進んでいる……このまま上手くいって最終局面になったあたりで精霊の霊力を封印する方法を知らせれば十香の件は解決するだろう。

まあ、ヘタレの兄がその方法をすぐさま実行できるか少し問題はあるが……

 

最後の最後でうまくいくか琴里が不安を抱え始めると、ちょうど後ろの扉が開いた。

その先には異世界の女神であるネプテューヌとプルルートの姿があった。

 

「ふぁ~、気持ちよかった~。琴里ちゃんベッド貸してくれてぇ、ありがとうねぇ~」

 

「わたしも久々にじっくりと寝られたよ。最近は遅くまで寝てるといーすんに怒られるからね」

 

そう言いながら二人は艦橋の中に入ってくる。

彼女達は昨日の一夜にわたった尋問によって疲れ果ててしまったようで、フラクシナスの休憩室のベッドを借りて寝ていたのだ。

琴里がようやく起きたのかと思った矢先の事だった……ネプテューヌが急に何かを思い出したような大声をあげたのだ。

 

「ああっ!!ぷるるんどうしよう!?わたし、またいーすんへの連絡を忘れちゃったよ!また説教を喰らっちゃうよ!!」

 

「ねぷちゃん~、実はあたしも連絡するのを忘れてたのぉ~。謝ったらいーすん許してくれないかなぁ~?」

 

「むりむりむりむり、それだけは絶対にないって。ぷるるんも思い出してみてよ。この前の時だって、わたし達が謝っても全然許してくれなかったんだよ」

 

一体どうすればいいのだと慌てふためく二人……

琴里にはいーすんと言う人物の事が良く分からなかったが、その人物が怒ることを心の底から二人が恐れているのだけは理解することが出来た。

まあ、なんだかんだ言ってもこれは二人の問題だ……そう結論づけた琴里は無視しようとしたのだが……

先ほどまでコンソールをいじっていた令音がその手を止めると、二人に声を掛けた。

 

「……君たちの言ういーすんと言う人物かは分からないが、シンからイストワールには連絡をこっちでやっているから心配する必要はないと君たちに伝えるようにお願いされていたのだが」

 

「おおぁ~、流石士道君、こういった事への根回しがいいねぇ~」

 

「でも、おかげで助かったよ。士道が連絡してなかったら、また鬼の形相のいーすん、略して鬼いーすんを見る羽目になってたんだからね」

 

二人が安堵の息を吐いていると画面上の士道と十香に動きがあったみたいだ。

十香が士道を引っ張る感じで別の場所に進んでいる。

 

それを見た女神二人はどこに行くんだろうと首を傾げるなか、琴里は邪悪な笑みを浮かべる……引っかかったな、と。

もう彼女の士道を見つめる視線は兄を見るものではない……例えるなら罠に引っかかった哀れな獲物を見つめる狩人の視線だ。それに気づいた女神約一名が琴里に戦慄していると、どうやら二人は目的の場所についたらしい。

 

二人が見つめる先には西洋風のお城があった。そして掲げられた看板には堂々とドリームランドと書いてある。それだけでネプテューヌは此処がどこだが予想がついた……

 

「琴里!?士道をなんて場所に誘導してるの!?このままだと純粋無垢な十香が、士道によって自分好みに汚されちゃうんだよ!!」

 

「好感度を上げるにはこれが一番手っ取り早いでしょ。大丈夫よ、ヘタレな士道の事だから本番まではしないわ」

 

「ふぇ~、ねぷちゃん急に声をあげてどうしたのぉ~?このお城の中に何かあるの~?。あたし良く分からないよ~」

 

どうやらプルルートは目の前にある愛のホテルの意味が分からないようで、一人首を傾げている。

琴里とネプテューヌは口論をする中、画像の二人は十香に引きずられる形でホテルの中に入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、中身は普通のホテルと違いないみたいなのだが……どこが良い所なのだ?シドーは、分からないか?」

 

「ワルイナ、オレニモヨクワカラナイヤ」

 

どうしてこうなったんだろう……

確か数分前までは俺達は商店街で遊んでいたはずだ……それなのに今はラブホテルの一室にいる。本当にどうすればこんな事になるんだろうな……現実逃避をしたい。

 

やっぱりあの福引をやったのがまずかったのだろう。商店街で渡された福引券を十香がやってみたそうにしていたからやったのだが……一等が出るのまでは予想していたが、中身がラブホテルの一泊無料券って何を考えてるんだよ!普通は旅行券とかだろうが!!

まあ、あまり地上に居れない十香にそれを渡されても困るんだがな……

 

ともかく、その後は十香に力ずくで連れ込まれたわけだが、本当に琴里の奴は何を考えてるんだよ……いくら好感度を上げるためとはいえ、これじゃあ順序が……好感度?

そういえば未だにはぐらかされているのだが、なんで好感度を上げる必要があるんだ?

自惚れじゃないが、俺に対する十香の好感度は十分に高いはずなんだが……つまり、好感度を上げるだけじゃダメで、その先の何かをしなくちゃいけないのか……好感度を上げた先なんて……

はぁ!!まさかこの部屋を用意したのは……

 

いやいや、流石にそれはないだろう。俺の考えすぎだ。

やったところで何かなるわけじゃないんだぞ。俺の想像がたくまし過ぎるだけだ。

 

「シドー?一人で顔を赤くしたり、首を振ったりして一体どうしたのだ?」

 

「い、いや……なんでもない……」

 

幸いにも十香はこの施設がなんの為に使われているか理解していない。

普通のホテルと言って誤魔化せば大丈夫なはずだ。なにも問題は…………面白がって本当の意味を教えそうな人物が一人頭の中で浮かんできた。本当にどうしよう……

 

「シドー……一つ聞きたい事があるのだが、構わないか?」

 

「……俺の知ってる範囲なら構わないけど」

 

「その……だな?今日……いや、昨日からシドーは変だぞ?よそよそしいと言えばいいのか……上手く言葉に出来ないのだが、何時ものシドーと違う気がするのだ?最近何かあったのか?」

 

「っ!?」

 

十香の思いがけない質問に言葉を失ってしまた……

昨日から俺が変わった事、それはラタトスクの協力を受けたことだ。

俺自身はいつも通りに接してきたつもりなんだが……実際は少し違ったようで十香に違和感として感じ取れてしまったようだ。

 

どうしよう……

このまま十香に正直に言った方が良いのだろうか?

でもいきなり信用はしてくれないだろうし……何よりラタトスクの空間震の解決法が好感度を上げるだなんて知ったら気まずくて出来なくなってしまう。

でも嘘をついて誤魔化すなんて手段は出来れば使いたくないし……

俺が悩んでいると、十香の若干不安そうな声が聞こえてくる。

 

「シドー?……私には言えない事なのか?」

 

「……その…………悪い、今はまだ言うことが出来ない」

 

「そうか……分かった。それならこれ以上は聞かない事にするぞ」

 

「えっ……それでいいのか?気になったんじゃ」

 

「別に私は士道を困らせたくて質問したのではない。士道が言いたくないのならそれで構わん。だが……一人で解決できそうにないのなら、私に言ってくれ。可能な限り力になるぞ」

 

こちらを見つめてそういってくれる十香……

そんな彼女に真実を言えない事を心苦しく思う……でもそればっかり思っては居られない。

まずこれからどうするか、それが一番重要だ。たぶんだが、好感度を上げよう……そんな事を心のどこかで思っていたから十香は違和感を感じてしまったんだ。

だったらこれからは俺も十香も楽しめる事をすればいい。流石に食事は十香についていけないし……となればあそこしかないな。

 

「十香、今からゲームセンターにでも行かないか?」

 

「ふむ?構わないが……せっかく此処に来たのだ。此処で出来る楽しい事とやらをしなくても良いのか?やり方が分からないのなら私が店員に……」

 

「聞かなくていいから!ここはただのホテルだ!きっとそうなんだ!!ほら、早くゲームセンターに行くぞ!」

 

「し、シドー!?おい、引っ張るな!?そんなに焦らなくともゲームセンターはなくなったりしないのだぞ!!なにをそんなに……」

 

「いいから早く!!」

 

その後、なんとか十香を説得した俺はゲームセンターで遊ぶ事にしたが……

十香の説得で疲労した俺はゲームで良い成績を残すことは出来ず、対戦系のゲームでは十香に全敗してしまった。

まあ、疲れてなくても普段からあまり勝てないんだけどな……

 

取りあえず、琴里には今日の夕飯に嫌いな食べ物のフルコースを食らわせてやる事を俺は強く決意した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。