ゲーム・ア・ライブ   作:ダンイ

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二話

あれから数分間、全力で街中を走り抜けた俺は精霊が現れるであろう場所までたどり着く事が出来た。

まだ爆発音などが聞こえてこないので、精霊が出現する前に到着する事が出来たようだ。

それにしても、この街から人だけが消えてしまった不気味な光景には未だに慣れることが出来ない。

避難区域に入るたびに見ているのだが、この光景を見るたびに若干の不安に襲われる。

 

俺は空間震の爆風から身を守るために物陰に隠れようとした所で、ふとファミレスの建物が目に映った。確かあれは、琴理と昼食の約束をしたファミレスだったよな。

火事や雷が落ちてもファミレスに来てと言っていたが流石に空間震が起きれば……少し不安だな。

ネプテューヌにシスコンと言われそうだが琴理の事が少し心配だ……GPSを使って確認しよう。

 

俺はアプリを手早く起動させると、GPSを使って琴理の居場所を確認しようとする。そして琴理の居場所はすぐに見つかった。俺の位置を表しているアイコンの隣……丁度ファミレスのあたりに琴理がいた。

 

「あの馬鹿……!!」

 

普通はこんな時になったら逃げるだろうが!なに馬鹿正直にファミレスで待ってるんだよ!!

取りあえず、見つけたらデコピン百発かお尻ペンペン二十発の刑に処してやる。

 

今回は琴理が泣いてもやめない事を決意しながらも、俺は物陰から飛び出してファミレスの方のへと向かう。

こうなったら、精霊と会うのはまた今度でいい。

もし現れた精霊が、最初に会った時の十香のような人間不信に陥った精霊だったらかなり危険だ……とてもじゃないが琴理を近くに置いておくことなんて出来ない。

その前に、空間震で琴理がファミレスもろとも吹き飛ばされる可能性もある。

その前に琴理を見つけないと……

 

そう思った俺がファミレスに駆け出して数秒も経たないうちの事だった。キィィィと耳障りな高い音が聞こえてきた。空間震の前兆だ。

俺は舌打ちをしながら近くの物陰に隠れる。

すると、すぐに凄まじい爆音と共に、アスファルトの破片の入り混じった爆風が襲ってきた。

 

「こんな時に空間震かよ……琴理は無事だろうな?」

 

顔を乗り出してファミレスの方向を見る。するとそこには無事なファミレスの姿があった。

取りあえず一安心だ。

そして、その次に俺は空間震が起こった方向を見た。そこはアスファルトで舗装された道路だったのだろうが、空間震のせいで球状に大きくえぐれクレーターが出来上がっていた。そしてそのクレーターの中心には一人の少女……いや精霊が立ち尽くしていた。

その精霊は所々光り輝いた鎧のような服を着ている。そして、俺はその精霊に心当たりがある……と言うか霊装を纏った十香だ。

 

十香の姿を見た俺はホッと安堵の息を吐いた。

正直今回現れた精霊が十香で助かった。他の精霊だった場合は攻撃を仕掛けてくる可能性もあったからな。

俺が物陰から出ると、十香は俺の気配に気づいたのかこちらを振り向いた。

 

「シドー!?またこんな危険なところに来たのか!早くここから……」

 

「悪い十香!琴理が逃げ遅れてそこのファミレスにいるみたいなんだ!」

 

「琴理?確か……シドーの妹だったな。だったら早く…………どうやら、少し遅かったようだ。シドー今すぐ私に近寄れ、メカメカ団からの攻撃が来るぞ!」

 

俺は十香の指示に従って、急いで彼女の元に走る。

そして俺が十香の元にたどり着いたのと同時に轟音が響いてきた。音のする方向を向けば、そこからは何十発ものミサイルがこちらに高速で向かっていた。

 

「うおっ!!」

 

俺は思わず顔を守るように両手で顔を隠すと、目を閉じてこれから来るであろう衝撃に身構える。しかし何時まで経っても衝撃が俺を身体を襲うことはなく爆発音も聞こえない。

俺がゆっくりと目を開けると十香が右手を前に出して透明な膜のようなものを張っていた。その膜にミサイルは進行を阻まれ、空中で停止している。

そしてしばらくその場にとどまっていたミサイルは爆発するが、こちらに爆風や金属片が飛んでくる事はなかった。

 

「シドー、怪我はないか?」

 

「ああ、大丈夫だよ。ありがとうな十香」

 

俺が怪我のないことを確認した十香は、ミサイルが飛んできた方向に振り向くと若干の怒りが入った眼差しを向けた。

十香の視線の先には人が空を飛んでいる。ここまで近くで見たのは始めてだが……十香がメカメカ団と言うのもうなずける恰好だった。

空を飛ぶための翼やらミサイルの発射器やら使用法は分からないが、その他にも様々な機械を身に着けて空を飛んでいる……それにしても、女性しかいないのだが何か理由でもあるのだろうか?

俺がメカメカ団の事をぼんやりと眺めていると、その中の一人の少女に目が移った。

 

「あれは……鳶一折紙か?」

 

あの特徴的な真っ白な髪を見間違えるはずはない。間違いなく今日学校であった、クラスメートの鳶一折紙だ。

まずいな……こんな場所に居ることを発見されれば間違いなく学校で追及される。出来れば見つからずにいたいのだが……

俺がそんな事を考えていた時だった……

 

「シドー!すまない!!」

 

「えっ、ちょ……うおぉぉぉぉぉおおお!!」

 

十香に襟元をつかまれたかと思うと彼女はそのまま高く掲げ、まるで物を投げるかのポーズをとった。

そして物凄い勢いで振りかぶって俺をボールのように投げ飛ばした。

俺は抵抗する事も出来ず、勢いよくファミレスの窓から内部へと突入することになった。

 

 

 

 

 

 

 

「痛たたたた……十香の奴、もう少し手加減できなかったのか……」

 

あの後、コンクリートの壁に腰をぶつけて無事に止まることは出来たのだが、腰へのダメージが甚大で愚痴を漏らしながらも腰に手を当てて必死に立ち上がろうとしていた。

愚痴で手加減とは言ったものの、十香が全力で投げれば今頃俺はコンクリートの壁を突き破ってグロテスクな肉の塊に変貌していた事だろう。そういう意味では手加減はしてくれたんだが、せめて心構えをする時間くらいは欲しかった。

まあ、近くから響いてくる爆発音の事を踏まえると、そんな時間が残されていなかったのだろうけどな。

 

「士道君、さっきから腰をさすってるけど大丈夫~。痛いならヒールを掛けてあげようかぁ~」

 

「朝に琴理にやられたキャメルクラッチのダメージが残っててな。ヒールを使うまでのダメージじゃないから、大丈夫だ」

 

「もう士道ったら、そんな風に腰を痛めてばかりいると、おじいさんみたいに杖がないと歩けなくなっちゃうんだよ」

 

「ふぇ~、士道君おじいちゃんになっちゃうのぉ~?。だったら今すぐにヒールを掛けて……」

 

「ならないから。……っていうかネプテューヌとプルルートなんで此処にいるんだよ。部屋で待ってろって言ったはずだよな」

 

俺が呆れつつ声のする方向に振り返ると、そこには案の定ネプテューヌとプルルートの姿があった。

なんというか、こんな感じで急に会話に割って入られたのは初めての事ではなかったので、もう慣れた。昨日のベッドに入られたのは流石に驚いたけどな。

それにしても、一体なんの用件で部屋から出たんだ。くだらない事だったら内緒にしていることをイストワールに暴露してやろう。

俺が胸の内でそんな事を決意していると、プルルートが事情の説明をしてくれた。

 

「えっとね~。最初はおとなしく部屋で待っていることにしたんだよ~。でもぉ、サイレンの音が聞こえてきて~、心配になったから、部屋を飛び出して士道君を探す事にしたの~」

 

「一応心配してくれたのには感謝するが……一体どうやって俺を探したんだ。女神化して空でも飛んだのか?」

 

「それは簡単なことだよ。士道は根っからのトラブルメーカーだから、物凄い爆発音がしたところに一直線に向かったんだよ。事件ある所に士道は居るからね」

 

「ネプテューヌに言われるのはものすごく心外なんだが……っと言うか別に俺がトラブルを作ってる訳じゃないぞ。ただ行く先々でトラブルに巻き込まれるというか……」

 

「そうなんだぁ~。あれ~、でも行く先々でトラブルに巻き込まれるって、ゲームとかの主人公みたいだよね~。もしかして士道君は主人公なのかなぁ~」

 

「ねぷっ!確かに言われてみると士道が主人公みたいだ。……はっ!!まさか士道は主人公の座を虎視眈々と狙ってたの!?いつも浮かべていた笑顔の裏で、どうやって私を蹴落とすかを考えてたの!?駄目だよ、主人公の座は未来永劫に私の物なんだから!士道には絶対に渡さないよ!どうしても欲しいのなら私を「てい」ねぷっ!!」

 

これ以上ネプテューヌにしゃべらせていると収拾がつかなくなりそうだったので、何時ものように後ろ首に手刀を当てて強制的に黙らせることにした。

この二人……特にネプテューヌは好き勝手にさせると話題が明後日の方向に脱線するからな。

 

「ふざけるのはそのくらいにしてくれ……そういえば、プルルートはどうしてこっちに来てるんだ?ネプテューヌの方のイベントだから、あまり関係はないよな?」

 

「ぎくぅ~。べ、別に、いーすんに任せられた仕事が厳しいからぁ、これを口実に逃げようなんて考えてないよぉ~」

 

考えていたんだな……

プルルートがこんな調子でイストワールは大丈夫なのだろうか……ネプテューヌの方には比較的真面目なネプギアがいるが、プルルートの方はほぼ一人で仕事を片づけているから負担は大きいだろうしな。

あと、言ってはいけない事だがプルルートの方のイストワールはスペックが低いし……

今度の休日に仕事の手伝いにでも行こう。そのうち口から血を吐くかもしれない。

 

「それで、士道はなんでこんな所に来てたの?まさか 、あっちの方で行われてる無双の観戦に来たわけじゃないよね」

 

「うわぁ~、十香ちゃんすごいねぇ~。人を次々とお星さまに変えてるよぉ~」

 

俺がネプテューヌが指をさした方向に振り向くと、そこには剣を振り回している十香の姿が目に入った。これが人間ならただの不審者なのだろうが、強大な力を持つ精霊である十香がやっているとなると話は変わる。

振った剣先から生まれた斬撃はビルなどの障害物を容赦なく切り裂き、空中を飛んでいるメカメカ団に直撃。そのまま視界の彼方まで吹き飛ばされていく。

 

「あの吹き飛ばされた人、生きてるんだよな……」

 

「たぶん、大丈夫じゃないかな。十香が本気で振るったら吹き飛ぶじゃなくって、消し飛んじゃうだろうし。それにあのメカメカ団って人たちも結構丈夫そうだよ」

 

それはそうなんだが、やはり多少の心配はしてしまう。

人が死ぬのなんてあまり見たくないし、何よりも十香を人殺しにはしたくない。

 

「それよりもぉ~、あれを見に来たんじゃないならぁ、どうして此処にきたのかなぁ~」

 

「それは……あっ!そうだった琴理だ!!琴理が避難に遅れて此処に居るみたいだから此処に来たんだ!!二人とも琴理を見なかったか?」

 

「えっと~、確か士道君の妹って赤髪をツインテールにした子だったよねぇ~。あたしは見覚えがないかなぁ~。ねぷちゃんは~」

 

「わたしも見てないよ。そもそも、こんな危険な所に入るなんて私みたい主人公か自殺志願者くらいだからね」

 

「でもGPSだと……やっぱり、此処を示しているんだよな……」

 

俺は携帯を懐から出して、再度確認するが琴理を示すアイコンは先ほど見た時から少しも動いていない。やっぱりここに居ると思うんだが……携帯だけを落としたのか?

空間震のせいで床に皿やガラスの破片やら色々なものが落ちてるから、それらに埋まって携帯が見えなくなっていてもおかしくないし……

あっ!!だったら携帯を鳴らせばいいのか!

 

俺は琴理に電話を掛けるが一向に繋がらない。そして店内から着信音なども聞こえてこない……ここじゃないところに居るのか?

でもGPSは……と俺の思考が堂々巡りに入った所で、何かに気づいたかのようにネプテューヌが声を上げた。

 

「分かった!きっと士道の妹は秘密結社とか存在をひた隠しにしている組織の一員なんだよ!だからGPSがここを示しているのは、ここの地下深くにある秘密基地とか、ここのはるか上空を飛んでいる巨大空中戦艦の中にいたりするからなんだよ」

 

「なるほど~、士道君の妹は、秘密の組織の一員だったんだねぇ~」

 

「いや、流石にそれはないだろ。地中だったらGPSは反応しないし、空中戦艦だったらどうやって姿を隠すんだよ。そのままだと丸見えだぞ」

 

「はぁ!!そう言われれば確かにそうだった」

 

第一、琴理の性格じゃそんな組織の一員なんて無理だろうしな。

そんな事より今は琴理の行方だ……あいつは一体どこに居るんだ。もしかして携帯が壊れてるのか?

でも琴理のGPSだけがおかしく表示される壊れ方なんてあるのか?

 

「士道君~。もしかしたらぁ、誤差でここが表示されてるだけかもしれないし~。この辺りを探してみた方がいいんじゃないかなぁ~」

 

「そうかもしれない……悪いんだが二人とも手分けして琴理を探すのを手伝ってくれないか?」

 

「あたしはいいよぉ~。ねぷちゃんは~」

 

「勿論、わたしも手伝うよ。士道には何かとお世話になってるし、久しぶりに借りを返せるチャンスなんだから、張り切っちゃうよ」

 

俺の頼みに快く応じてくれる二人。

この二人はやる時はきちんとやるので、力を貸してくれるのは非常に心強い。まあ、普段はその事実を帳消しにするほどだらけているのも事実なのだが……

取りあえず、二人が何時もは真面目にやらない事は置いておくとして、今は琴理の捜索だ。

俺達は辺りを探すためにファミレスの裏口から出ようとした時だった。

 

「はぁ?」

 

急に自分の身体が軽くなったと思ったら、いつの間にか俺達はファミレスの前ではなく配管やらがむき出しにされた建物の中と思われる場所にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ……さっきまで俺達はファミレスの中にいたよな……」

 

「ちょっと前まで、そこで皆でお話をしてたのは覚えてるよぉ~」

 

だったら俺達はなぜこんな部屋の中にいきなり飛ばされてるんだ?

改めてこの部屋を見渡すが、此処にあるのは辺り一面を囲む白い壁と前方にある扉くらいだ。

 

「はぁ!!もしかしたら、さっきのファミレスで隠しコマンドの入力にたまたま成功して隠しダンジョン的な場所に飛ばされたんじゃないかな!?」

 

「ふぇ~。ねぷちゃん、それだと物凄く大変だよぉ~。隠しダンジョンにはラスボスよりも強い隠しボスが居ることが多いんだよぉ~」

 

「ねぷっ!士道どうしよう!?まだわたし達、ラスボスどころかボスすらも倒していないんだよ!それなのに隠しボスなんてムリゲーだよ!このままだと私たち全滅しちゃうよ!!」

 

「取りあえず、ふざけるのをやめて落ち着いたら良いんじゃないか?」

 

なんでこの二人が居るとこうも真面目な雰囲気がぶち壊しになるのだろうか……

いきなり変な場所に飛ばされるってかなりまずい状況だよな。よくそんな場面で悪ふざけが出来るよな。まあ、緊張が程よくほぐれたりする時もあるからマイナス効果ばかりではないが。

 

「それで、真面目に今後どうすればいいと思う」

 

「んっとね。わたしは、取り合えず扉があるんだから先に進んだ方がいいと思うよ。ここでぐずぐず考えていても何も解決しないしね」

 

「あたしも、ねぷちゃんに賛成~。士道君はどうするのぉ~」

 

「俺もそれが良いと思うんだが……問題は扉なんだよな……」

 

俺達の目の前にはたった一つだけ扉があるのだが……その扉には取っ手などがつけられておらずどうやって開ければ良いかが分からない。

自動ドアなのかと思って近づいて見たが反応は一切ない。自動ドアではないのか、それともロックされているのか分からないが、このままでは進むことは出来ない。

扉自体も白一色で、その周りも触ってみたがボタンらしきものもない。

 

「どう士道、扉は開けられそう?無理だったら諦めて待ってるのが良いと思うよ。きっとこれはイベントが起こって誰かが扉を開けてくれるパターンだとわたしは思うんだよね」

 

「なぁ、ネプテューヌ……毎度の事なんだがお前、現実とゲームをごっちゃにしてないか?こんな場所で扉を開けてくる奴なんて、確実に俺達を此処に閉じ込めた奴だぞ」

 

俺がネプテューヌのゲーム脳的思考に呆れつつ扉から距離を取るために、反対の壁際まで下がる。

扉を開けることが出来ないのだったら、俺が取れる手段はたった一つ……扉を破壊するしかない。

此処が他人の建物の中だと思うとちょっと気が引けるが、今はこれしか取れる手段がないのだからしょうがない。

 

俺は扉に向かって走り込み助走をつける。

俺はその勢いを拳に乗せて目の前の扉……

 

「あ……」

 

が急に開いた。

そしてその先には男性が一人立っていた。それを見た俺は急いで拳を止めようとしたのだが、助走の勢いまで乗せた拳がそう簡単に止まるわけもなく……

その結果……

 

「すいません。少々遅くなって……ごふぅ!!…………ぃぃ……ガクッ」

 

「「うわぁ~」」

 

俺の拳は相手を直撃……しかも、直前に止めようとしてバランスを崩した結果、俺の拳は急所に当たってしまった。

当てられた相手は、口から泡を吐いて気を失って倒れ、その倒れた体はピクピクと痙攣を繰り返している。それとなんか途中で歓喜に満ちた声を上げていた気がするけど気のせいだと思いたい。

今はそんな事よりもどうするかだ……

 

俺が助けを求めるように、後方に居る二人に視線を向けると二人は俺にドン引きしており、後ずさりをして俺から距離を取ろうとしていた。

 

「士道君~。敵かもしれない相手だけどぉ、出会い頭に殴るのはダメだと思うよぉ~」

 

「そうだよね……今回の件は流石のわたしでもドン引きだよ。しかもただ殴るだけじゃなくて、男の急所を狙うだなんて……もしかして今回のイベントの件で士道を追い詰めちゃったのかな。ごめんね、わたしが手軽にシェアを獲得できる手段だと思って、安易な気持ちで依頼しなければこんな事には……」

 

「重い空気を出すのはやめてくれ!!たまたまそこにぶつかっただけだから!狙ってなんてやってないから!って、そんな事よりも早くプルルート、ヒールを掛けてあげてくれ!このままだと、この人取り返しのつかない事になるから!!」

 

「了解~」

 

プルルートは倒れた男性の元に駆け寄ると、素早く回復の呪文を唱え始めた。

これで最悪の事態は回避出来たと思うが……もう相手との敵対は避けられないだろうな。流石にこの施設を管理しているのが一人って訳はないだろうし。

取り敢えず、当初の目標であった扉を開ける事には成功したんだ……この部屋から出て辺りの調査でもしよう。

そう思って扉から顔を出した時だった。

 

「……ふむ……少し遅いと思って来てみたのだが……副司令は気を失っているみたいだね。一体何があったんだ?」

 

先ほど俺が気絶させた男性と同じような服を来た女性が、扉のすぐ近くで首を傾げながら俺に声を掛けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、事情を説明した俺たちは、その女性に先導されて廊下の中を歩いていた。

先導している女性……村雨令音はここフラクシナスで解析官をやっているらしい。他にも色々と聞きたい事があったのだが、自分は説明下手だからと断られたしまった。

ただし、俺(ネプテューヌ達は巻き込まれただけらしい)に用があって転移装置を使ってファミレスからここまで転移させた事と、その用とは俺とここの司令官が話をしたいと言う事は何とか聞くことが出来た。

それにしても用って一体なんなのだろう……心当たりが多少あるから気が気でない。

 

それと、気を失っている副司令は俺が責任を取る形で背負って運んでいる。

あの後、真っ先に令音さんに謝ったのだが、彼女は「きっと彼にとっては本望さ……君が気にする必要はない」と言われてしまった。

あの場ではただ頷くしか出来なかったのだが、殴られるのが本望ってどういう意味……はぁ!!まさかあの時のセリフってそう言う意味なのか!?

ってことはこの人は……

 

俺が気を失っている副司令に残念そうな物を見る視線を向けていると、ガンッ!!っと物が壁にぶつかる音が聞こえてきた。

慌ててそちらのほうに向くと令音さんが顔を壁にぶつけていた。

 

「……ああ、すまんね。最近少し寝不足なんだよ」

 

「大丈夫?どれくらいの間、寝てないの?わたしみたいに、ちゃんと眠らないと大きくなれないんだよ」

 

確かにネプテューヌは毎日ように気持ちよさそうに寝てるからな……仕事をさぼって。その前にネプテューヌは女神なんだから成長しないんじゃなかったのか?

っていうか令音さんはもう寝ても大きくはならないだろう。見た目の判断だけど二十は超えてそうだし。

 

俺がそんなことを思っていると、令音さんは少し考えてから指を三本立てた。

 

「うわぁ~、すごいねぇ~。令音さんは、三年間も寝てないんだぁ~。あたし、何時も仕事中に寝ちゃってぇ、いーすんに怒られるからうらやましいなぁ~」

 

「……いや……三十年だ」

 

「まさかの十倍!!三か月くらいはわたしも覚悟してたけど、これは完全に予想外だよ!何をどうすればそんなに寝ないでいられるの!?」

 

三十年って明らかに外見年齢を超えているんだが……

と言うかそんなに寝ないで人って生きていけるものなのか?でも顔を見ると嘘を言っているようには見えないし、何より今まで見たことのないくらい大きな隈が尋常では考えられないくらい寝ていない事を物語っている。

 

「……最後に寝た日が思い出せないんだ。自分でもどうにかしたいとは思っているのだがね……っとお話をしている内に着いたようだ。この先に司令官がいる……副司令はそこらへんに置いておくといい……」

 

なんか副司令の扱いがぞんざいなんだがいいのだろうか……副司令って組織のNo.2だよな。

もしかして人望がないのか?

なんかまだ司令官に会う前なんだが、この組織について非常に不安になってきた……

 

俺が組織に対する不安を抱えていると、令音さんが目の前にある扉に付けられた電子パネルを操作して扉を開ける。

 

「……さ、入りたまえ」

 

令音さんの後に続いて俺達が扉の中に入ると、そこには一言で言ってしまえば船の艦橋のような光景が広がっていた。

部屋の中央には司令官が座ると思われる豪華な椅子が備え付けられ、そこから見渡せるようになっている床が下がった場所には複雑そうなコンソールが六台も置かれている。そして正面には巨大なモニターが備え付けられ、そこには色々なパラメーターが表示されている。

なんと言うか……ネプギアが目を輝かせそうな光景だ。

 

「……連れてきたよ」

 

「遅かったじゃない。っていうか神無月はどうしたのよ。あいつに連れて来いって言ったはずだけど?」

 

「……色々と勘違いがあったみたいでね。今は扉の前で気を失っているよ」

 

「はぁ?一体何をやってるのよあいつ……まあいいわ。それよりも自己紹介をしなきゃいけないしね」

 

俺は令音さんと司令官と思われる人の会話を聞きながら首を傾げた。

背を向けている椅子が壁になって姿は見ることが出来ないので正確なことは分からないのだが、声が若すぎる……と言うかこれは明らかに少女の声だ。

司令官ともなれば年老いた男性をイメージすると言うと偏見が過ぎるのかも知れないが、少女はいくら何でもないだろう。もしかして声だけが若いのか?

でも……なんかどこかで聞いたことがある声なんだよな……

 

俺がそんな事を考えていると、椅子がゆっくりと回って司令官の姿が徐々に明らかになっていく。

そして、俺はその姿を見て言葉を失ってしまった。

だって、椅子に座っているのは……

 

「ようこそ、〈ラタトスク〉へ。知ってると思うけど、私はここの司令官を務めている五河琴理よ」

 

俺の妹……五河琴理が座っていた。

 


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