ゲーム・ア・ライブ   作:ダンイ

18 / 23
六話

「なあ、ネプテューヌ……俺はどうしてこんな事をしてるんだっけ?」

 

「そりゃ勿論、よしのんを取り戻す為に決まってるでしょ。士道ったら忘れちゃったの?」

 

「いや……それはそうなんだが……」

 

俺が言いたいのは他に手段がなかったのかと言う事なんだよ。

俺は頭を抱えながら、目出し帽を被ったネプテューヌの事を見つめる。服装もいつものパーカーじゃなくて真っ暗な服を着ていて……その姿はテロリストや強盗に見える。

それも当たり前の話だ。だって俺達は今から盗みをしようとしているんだからな。

 

数日前、折紙からよしのんの居場所を聞くことが出来たのだが。その場所と言うのが厄介で、ASTの隊員が住んでいる寮の中にある可能性が高いと言う話だった。

何でも折紙は先日の四糸乃に対する攻撃の後に、現場からその人形を持ち帰る人を見たらしい。

最初はラタトスクの方で回収をやろうとしていたのだが……顕現装置と言う国家機密を扱う部隊の寮だけあって防犯システムが厳重ですでに何度も失敗している。

それで最終手段としてASTの隊員である折紙と一緒に基地の中に潜入してるってわけだ。

ちなみに基地の中にどうやって入ったかと言うと、運び込まれる荷物の中に段ボールを使って紛れ込むという方法だ。そこで一悶着あったのだが……思い出したくないので忘れることにしよう。

 

「いや~。実はこう言った感じの事って、一度で良いからやってみたかったんだよね。美少女怪盗ネプテューヌ見参!!って感じでさー」

 

「ネプテューヌ……取りあえず両手で万歳してくれないか?」

 

「一体どうしたの?別に良いけど…………ねぷっ!?」

 

両手を上にあげて無防備になったネプテューヌに俺は容赦なくポケットの中に手を突っ込みその中にあった一枚の紙を取り出す。

丁重に折りたたまれたその紙の中には「貴方が部屋の中に置いてあった秘宝、よしのんはこの私……」っと予想通りの事が書いてあったので、すぐに両手で破り捨てた。

 

「酷いよー、士道……それを作るのに、一日徹夜したんだよ。よしのんを無事に盗んだら、それを置いてから去ろうと思ってたのに」

 

「自分で盗んだ証拠を残してどうするんだよ……と言うかお前一応自分が女神だって自覚があるのか?事情が事情だけどこれからする事は犯罪なんだぞ?」

 

「そんなこと言ったってさ。わたしはまだましな方だと思うんだよね。ノワールだったらきっと某美少女怪盗のコスプレをするだろうしー、ブランだったらこの経験を小説のネタに使うだろうしー、終始真面目にやるのってベールくらいじゃないかな」

 

女神って……

本気で超次元のゲイムギョウ界の行く末が心配になって来た……大丈夫なんだよな?

今回は真面目にやるだろうと言われたベールも神次元の方と変わりなければ廃人ゲーマーだし……

今まで何事もなくやってこられたのが奇跡と思えてしまった……と言ってもネプテューヌの話を聞いただけで超次元の女神とはあまり交流がないから実態は分からないんだけどな。

ネプテューヌだと過剰に表現するなんてよくやる事だし。

 

「二人共、そろそろ進む……私についてきて」

 

そういって物陰に隠れて進む頃合いを見計らうのはネプテューヌと同じように目出し帽をかぶった折紙だ。彼女にはこの基地の中を進む際の先導をやってもらっている。

なにせ、基地の内部にはカメラとかが多すぎて俺やネプテューヌでは見つからないように突破するのは難しい……だから基地の事を知り尽くしている折紙に先導を頼んでいる。

正直、情けないけど折紙一人でやった方が上手くいくのでは……と考えてしまったのだが、部屋のどこにあるかまでは分からないので捜索する人手が必要らしい。

 

とそんな事を考えている内に折紙が動き出した。それを見た俺達も折紙に従って物陰から飛び出し彼女の後をついていく。

カメラを避けるためか、所々で曲がりながら進んでいくと目の前には四階建ての建物が目に入って来た。折紙がその中に入って良くのを見て俺達もそれに続く。

 

「中は……普通のマンションって感じだね。折紙は此処に住んでるの?」

 

「私は自宅から通ってる。此処に来ることは滅多にない」

 

「今になって思ったんんだけど、自宅通いって大丈夫なのか?自衛隊って殆どの人が寮に住んでいるイメージがあるんだが……」

 

「私はASTに所属してるから、多少は優遇されている」

 

そうなのか。

やっぱり精霊と対峙すると言う危険な仕事に就いている以上は多少なりとも優遇されているんだな……そもそも、学校に通っている折紙が自衛隊に所属しているってのもおかしな話なんだけどな。

琴里から聞いた話だとCR-ユニットを使いこなせる人は限られてるらしいからな。人を集めるために学生とかの参加も認めているのだろう。

そんな事を考えながら折紙についていくと四階のある扉の前で止まった。此処が目的地なのか?

 

「折紙、此処まで来たのは良いけど……どうやって部屋の中に入るんだ?電子ロックになってるみたいだけど……」

 

「この鍵は停電すると解錠されるようになっている。事前にラタトスクに話を通している。そろそろ停電するはず」

 

「おおっ、事前にちゃんと根回しをやっておくなんて……あっ!!士道、暗闇になったからって、どさくさに紛れてセクハラとかしちゃ駄目だからね。ゲイムギョウ界で一番優しい女神様として定評のあるわたしでも、そんな事されたら士道の事を許さないよ」

 

「絶対にしないから……それよりも折紙の方を心配しろ」

 

「折紙がどう……あっ……どうやら……注意する相手、間違っちゃったみたいだね……うぅぅ、ロードして少し前の所に戻りたい気分だよ……」

 

最初は俺の言葉が良く分からなかったネプテューヌだったけど……折紙の虎視眈々と機会を狙っている捕食者の目で俺の言葉の意味を理解出来たようだ。

他人事のように言っているけど俺も被害を受ける可能性があるから、気を引き締めないといけないんだけどな。

って言うか二人とも折紙の被害を受ける可能性がある人物ってある意味人選ミスじゃないか。ストッパーとなる人物が居ない。

 

ちょっとだけ自分の身が心配になって来た時だった。基地の電気が消えて停電が起こった。

一瞬で辺りが見えなくなる真っ暗闇の中……扉を開ける音が響いて来た。

それと同時に俺は身を構える……折紙が何時襲い掛かってきても良いようにだ。しかしその前に非常用電源に切り替わったのか照明がついて、辺りが見えるようになった。

そして俺の背後には今にも襲い掛かろうとしている折紙の姿が……

 

「…………早く部屋の捜索に移る。戻ってくるかもしれない」

 

「なかった事にする気か……別に良いけど……」

 

「問題ない……チャンスは他にもある……」

 

な、なんだ?

折紙の言った事は小さくてよく聞こえなかったんだが……背筋の辺りに今までに感じたことがないくらいの悪感が走った。お、俺の気のせいだよな……

うん、きっとそうだと自分に言い聞かせる。

 

「ほらほら、そんなところでじっとしてないで、部屋の中に入ってよしのんを探すよ」

 

そういって俺を部屋の中に押し込むネプテューヌ。

そのまま押し入れられた部屋の中を見渡すと……一言でいえば普通の部屋だ。冷蔵庫やテレビなど生活をするのに必要な物は一式揃っているのだが、それ以外のものはほとんどない。

そして探し物であるよしのんの姿もなかった。

 

「一見した感じだとよしのんの姿はなさそうだね。もしかして、普段から持ち歩いてたりしちゃってるのかな?」

 

「それはないと思う」

 

「って事は何処かにしまっている可能性が高いって事か……こうなったら三人で手分けして探すしかないか」

 

「できれば避けたかったパターンだよね。部屋の人が戻ってこないと良いんだけど……」

 

「その可能性は低い……今の時間帯だとあの人は残業に追いやられてる」

 

折紙がそういうのなら大丈夫なのだろうが、できる限り早く見つけるようにしよう。

早速三人で役割分担をした俺達は引き出しやタンスの中を開いてよしのんの事を探し始める。

机の辺りを探す事となった俺は机の引き出しを開いて……それを閉じた。

今のは見なかった事にしておこう。

 

「士道どうしたの?折角開けたのに直ぐに閉じたりして……分かった!!きっとエロ本とかいかがわしい品が入っていたんでしょ。もう士道ったらうぶなんだから。でも駄目だよ。もしかしたらそこによしのんが入ってるかもしれないんだからね」

 

「ちょ、ネプテューヌ待て……!!」

 

俺が制止するよりも早く、こちらに近づいて来たネプテューヌが引き出しを開けてしまった。

そしてその中身を見たネプテューヌは口をポカーンと開けて固まってしまった。どうやら流石にこれは予想外だったみたいだな。

でもしょうがないよな、机の引き出しの中に「必勝、合コンで勝つための十の秘訣」や「三十に近づいてからが本番・化粧で変わる貴方の姿」やら「気になるあの人の落とし方」なんて本が山のように入ってるんだから……

俺は未だに固まっているネプテューヌをよそに、俺は引き出しを閉めた。そして彼女の両肩を手で叩いて語りかける。

 

「ネプテューヌ……今のは見なかった事にしような」

 

「……うん」

 

こんな素直なネプテューヌの姿を見たのは初めてかもな……

見なければ良かったって後悔の念が見られるし……だから止めようとしたのに……

ってこんな事をしている場合じゃない。よしのんを見つけるために俺は此処に来たんだった。俺がよしのんの捜索を始めるとネプテューヌも正気を取り戻し捜索を再開した。

それにしても中々見つからないな。この部屋にはないのか?

 

「見つかった」

 

「うおっ!……って折紙か」

 

後ろからの折紙の声には驚いたが、彼女の手にはよしのんがしっかりと握られていた。

何処で見つけたか分からないがよくやってくれた。後はこの基地から逃げ出せばいいだけだ。

 

「早く見つかってよかったね……でもどうやってよしのんを見つけたの?折紙は隣の小さい部屋を担当してたけど、当てずっぽうにしては見つけるのが早くないかな?」

 

「部屋に入ったら士道の匂いがして……もしかしたらと思って匂いがする所を探した」

 

「に、匂いって……わたしの鼻だと、士道どころか匂いすらついているか分からないんだけど……折紙って凄い鼻をしているんだね」

 

「貴方と士道限定」

 

「ねぷっ!?見分けられる対象に私まで入ってるの!?うぅぅ……下手すると士織と一緒に、折紙に美味しくいただかれる未来に突入しそうで恐怖を感じるよ」

 

「ちょっと待て、なんで今俺じゃなくて士織にした」

 

「いや~、なんて言うか士織の方が受けには似合ってるとわたしは思ったんだけど……間違ってたかな?」

 

……反論ができない。

確かにそっちの方が似合ってそうだ……うん、俺が傷つくだけだしこの件はもう考えないようにしよう。俺の反応を見てネプテューヌはどこか勝ち誇った顔をしている。

今度のナスのフルコースをお見舞いしてやろう。

俺は自分の心を抉ったネプテューヌへのささやかな復讐を決意すると共に玄関の方へ移動する。もうこの部屋には用はないからな。

その際に部屋を入った時と出来る限り同じ状態にしておくことも忘れずにやっておく、証拠は残してないけど俺達が部屋に入った事がばれたら洒落にならない。

 

出来る限り入る前の部屋を再現した後、俺達は部屋の外に出た。

そしてその後は何事も問題なく目的地である外へ荷物を運ぶトラックの中に入った。あとはばれないように段ボールを被るだけだったのだが……そこで問題が発生した。

 

「おかしいな……ここに隠してたと思ったんだけどな……おい!段ボールさんや出ておいで!!」

 

「段ボールに呼びかけても出てくるわけないだろ……どうするんだ?このままだと外に出られないぞ」

 

どんな問題が起きたのかっと言うと……ネプテューヌが隠れるために段ボールをなくしてしまったのだ。

このままトラックに紛れ込めば見つかってしまう可能性もあって……結構まずい状況に置かれている。何とかして代わりの物が見つかればいいのだが……

しかし人が中に入って隠れられるものなんて早々見つかるはずがない。女神化して強行突破するか?

出来ればそれはやりたくないんだが……

 

「そういう事もあろうかと、用意してた」

 

そういってどこからともなく取り出したのは一つの巨大な段ボールだった。

その中には人が二人くらい……いや、無茶をすれば三人くらいは入れそうな大きさの段ボールだ。

助かった……これで基地の外に出ることが出来る。今回は折紙に助けられっぱなしだな。

早速段ボールの中に入って……

 

「どうしたんだ、ネプテューヌ?段ボールに入らないのか?」

 

「いや……なんか嫌な予感がしたんだけど……きっとわたしの気のせいだよね」

 

 

 

 

 

 

 

「士織……お願いだから、もうちょっとそっちに詰めてよ」

 

「ごめん……私もこれ以上は無理かも……元々が狭いんだから少しの間我慢してね」

 

トラックの荷台にある巨大な段ボールの中……そこに私達はぎゅうぎゅうになりながらも入っていた。

巨大な段ボールだったけど、さすがに三人一緒に入るのは無理があったみたいで狭く蒸し暑い中を私たちは我慢している。

ちなみ私は士織モードになって段ボールの中に入ってる……男の状態だとネプテューヌ達と密着せざる負えないこの場所では色々と問題があるからね。

だから女性となることでその問題を解消している。

 

それにしても何時になったらトラックは動くのかな。狭くて窮屈だから早く動いてくれると嬉しいんだけどね。

狭くて時間すら確認……ひゃ!?

 

「ね、ネプテューヌ!?変な場所を触らないでよ!!」

 

「へ?わたし士織に触ってないよ?士織の気のせいじゃ……ひぃ!?」

 

「ね、ネプチューヌ?」

 

口では言えないところを触られたことに抗議の声を上げると返って来たのは、ネプテューヌの何も知らないと言う声と……短い悲鳴だった。

勿論私はネプテューヌの事を触っていない……

となると触れられる人物は後は一人しかいないわけで……

うん、すごく汗が流れて来たんだけど、どうすればいいのかな?

 

やばい……この状況はすごくやばいよ。

よくよく考えてみるとあの捕食者と一緒の狭い場所に入るなんて自殺行為だね。

ネプテューヌが段ボールに入る前に感じた嫌な予感ってこの事だったんだ……あの時気づいていれば……ふぇ!?

 

「お、折紙っ!!変な場所を触らないでよ!!」

 

「大丈夫……二人とも私に身を任せて、私がちゃんと導いてあげる」

 

「何処に導くつもりなの!?うぅぅぅ……まさかわたしが部屋の中で言った事がこんなにも早く実現するなんて……いやぁ!!折紙ぃ……そこはダメだってぇ……このままじゃわたしぃ……身も心も落とされちゃうよぉ……」

 

「ね、ネプテューヌ!?お、お願いだから正気を保って!!」

 

「そんなこと言われても……折紙ってすごくテクニシャンで……ふぁ!?……だから駄目だってばぁ……」

 

甘い声で抗議をするネプテューヌ……折紙の矛先が私に向けば、私もこうなっちゃうのかな?

この狭い閉鎖空間には逃げ場はないし……ってあれ?もしかして今の状況って、折紙の思うがままになってないかな?

こんな都合の良すぎる事なんて早々は……はぁ!!

 

「もしかして……事前に私達が用意した段ボールを捨てたのって……折紙?」

 

「……私の考えを言わなくても分かってくれた……嬉しい」

 

「やっぱりなのっ!!……にやぁ!?……お、折紙……お願いだから、へんな場所をさわらないでぇ……」

 

だ、誰でも良いから私を助けて……折紙の本当に凄くて……

このままだと色々とやばいよぉ……

 

「今の悲鳴、可愛かった。もう一度聞かせて」

 

「い、いやぁぁぁぁぁああああ!!」

 

その後トラックが発進して基地の外に出るまでの間……私とネプテューヌは必死に抵抗して折紙から大事な一線を守ることにだけは成功した。

と言っても私たちが受けたダメージは甚大で……段ボールを出るころには二人してげっそりとなっていたよ。それなのに折紙は肌がつやつやしていて若返ったようになってるし……

これが搾取される者と搾取する者の違いってやつなのかな……ネプテューヌじゃないけど理不尽だって叫びたくなったよ……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。