ゲーム・ア・ライブ   作:ダンイ

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二話

此処はどこだ……って俺の部屋のベッドの上じゃないか。

なんで俺はこんなところで眠っているんだ?えっと……確か四糸乃が家を出てからネプテューヌの声が聞こえて……ああ!!あの後、引き出しから出てきたネプギアに押し倒されて気を失ったんだった。

時計の方を見れば二時間ほど針が進んでいる。あれくらいの事で二時間も気を失うなんて……やっぱり疲れていたんだな……

でも二時間も眠れたおかげか、完調とまでは言い難いが気を失う前よりは格段に体調が良くなった。

俺が身体を起こそうとして……

 

「あっ!?士道さん気が付いたんですね。もう身体の方は大丈夫なんですか?」

 

声に反応して横を向けばネプテューヌと同じ薄紫色の髪を腰のあたりまで伸ばした少女……ネプギアがそこに立っていた。

彼女はネプテューヌの妹で女神候補生と言う立場に居るのだが……常日頃から仕事を全くしない、ぐうたらな姉とは打って変わり、至って真面目な性格をしている。

そのため、生まれてくる順番を間違えたのではないかなどと周囲では言われている。

俺もそう思ってしまったし……

 

「ああ、もう大丈夫だ。いきなり気を失ったりして悪かったな」

 

「いえ、元はと言えば私が士道さんを踏んづけちゃったのが原因なんですし……私の方こそすいませんでした」

 

さらにその元を辿ると、俺が引き出しの鍵を掛けたままにしていたのが原因なんだけどな。

鍵を掛けてなければネプギアがあんなに勢いをつけて引き出しを開ける事はなかったんだろうし……

まあ、一番の原因は折紙なんだろうけどさ……

って、いつまでも過ぎたことを考えていてもしょうがないな。

俺はベッドから起き上がると、ネプギアに声を掛ける。

 

「俺が気を失ってる間、何もなかったよな」

 

「あっ、はい。特に問題は……でも、士道さんが気を失ってから直ぐに皆さん目を覚ましちゃって、今はリビングに居るはずですよ」

 

つまり俺は入れ違いのように気を失ってしまったわけか……

まあ、媚薬入りプリンを食べた時間にはそれほど違いはなかったし、ネプテューヌが起きたことを踏まえると他の皆がそれに続くように起きてもおかしくないだろう。

俺がリビングの方に向かおうとすると……扉が勝手に開いた。

その奥には琴里がいる。

 

「あら?起きたの?まだ眠っていると思ったのに……」

 

「ついさっき、起きたばかりだよ」

 

「それにしても、士道。貴方、女性に突き飛ばされた後、踏んづけられて気を失ったそうじゃない。そんなので精霊との交渉なんてできると思ってるの?情けないわね」

 

「仕方ないだろ……昨日ので疲れてたんだよ」

 

あのかくれんぼは本当に熾烈な戦いだった……

隠れてる間は見つかるか見つからないかで心臓がドクドクと鳴りっぱなしだったし、見つかったら見つかったで四人の捕食者から逃げるために全力で室内を駆け巡ったし……

最後の方は足が疲れて歩くことすらままならなかった。一夜であそこまで疲れたのは本当に初めての事だった。

 

「昨日ね……そういえば、昨日のプリンを食べてからの記憶がないんだけど、何かあったの?全く思い出せないのよね」

 

「あっ!?それは私も聞こうと思ったんです。いーすんさんからはお姉ちゃんが気を失ったとしか答えてくれなくて……昨日、お姉ちゃんに何があったんですか?」

 

「フロカラアガッタラキヲウシナッテタ、オレモヨクワカラナイ」

 

素直に言ったらどうなるか分からない……

今の状態の琴里に素直に媚薬のせいですなんて言ったら命の危機があるかもしれないし、シスコンであるネプギアもそれは同じだろう。

折紙が入れた……なんて言っても、彼女も口にしている以上、それを言っても信じては貰えないだろうし……絶対に俺が入れたと誤認される。

一応、ラタトスクの方には、琴里には真実を言わないように約束しているから大丈夫だろう……いざとなったら、カメラで発情した琴里を眺めてたって言って道連れにしてやる。

 

「そ、そんな事よりも、夕食はどうしたんだ?もう食べたのか?」

 

「あ、それなら出前を頼んだわよ。何時までも士道が目を覚ますのを待っている訳にはいかないでしょ」

 

「そうなのか?ってそれだと俺の分は?」

 

「頼んでいるに決まってるでしょ」

 

「冷蔵庫の中に入れてあるので、レンジで温めてから食べてくださいね」

 

良かった……俺だけ注文されてないのかと心配してしまった。

お腹も空いてきたしリビングに向かって夕食を食べる事にしよう……そう思って二人に断ってからリビングの方に行こうとした時だった……

 

「……そう、分かったわ……士道。下に行くのならそのついでにトイレの電球を取り替えてくれないかしら。さっき見たら、電球が切れていたのよ」

 

「それくらい、別に良いけど……」

 

何だろう、よく聞こえなかったけど、俺に頼む前に変な会話をしてなかったか?

なんか引っかかるんだが……気のせいだろう。いちいち人を疑っていてもしょうがないだろうしな。

俺は階段で下に降りると棚の中から予備の電球を一つ取り出す。それと作業用の椅子を一つ手に取るとトイレの方に向かう。

そこで扉を開けようとして…………あれ?なんで電気がついているんだ?

電球が切れたから交換してくれって琴里は言ってたよな?俺が来るよりも早く誰かが電球を替えたのか?でも予備の電球は減ってなかったし……

取りあえず、ノックをしてみよう。

 

「誰か入ってるのか?」

 

「む!?シドーか?すまないが、もう少しだけ待ってくれんか?まだ終わって……」

 

「十香!?なんで此処に……」

 

確か俺がラタトスクから聞いた話だと精霊用の住宅が出来るまでフラクシナスの方で暮らすって言う話だったはずなんだが……

聞き間違い……は流石にあり得ないか。長年の付き合いなんだから今更聞き間違えるはずがないだろう。でもそうしたらなんで十香がこんな所に……

俺が首を傾げて悩んでいると後ろから声が聞こえてきた。

琴里の声だ。

 

「あら?何も言ってなかったけど合格できたみたいね。良かったじゃない。失敗したら士道の黒歴史がラジオで流れる所だったのよ」

 

「合格ってなんの話だよ!……って言うか十香はなんで家に居るんだ!?トイレの電球も切れてなかったじゃないか!」

 

「少し落ち着きなさい……ちゃんと順を追って説明してあげるわよ」

 

琴里はそういって不敵に微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、説明は終わりよ。理解できたかしら」

 

「まあ、大体の事を理解できたけど……」

 

それなら一言くらいは言ってくれればと思わずにはいられない。

 

これは以前にも聞いたことなんだが、今の俺と十香の間には目で見ることは出来ない経路が通っているらしい。それを通って力の大部分が俺の身体に封印されているみたいなんだが……

十香が精神的に不安定になるとそこを通って霊力が逆流してしまう可能性があるらしい。

今の十香はフラクシナスで過ごしているのだが……そこだと多少のストレスを十香が感じているようで、彼女が一番信頼している俺の傍に居させることでストレスの解消……

それと同時に、今後の精霊との交渉のための訓練……要するに女性と話しても緊張しないように女性との接し方の訓練をするらしい……

それで十香がトイレに入ったのを見計らって、琴里が俺に電球を替えるようにお願いしたらしい。

 

それで訓練になるのか……とは思ったものの、突っ込んでも無駄だろうから諦めることにした。

もう、ノワールでもアイエフでもいいからもう一人突っ込み役が居て欲しい。

此処にいる数少ない常識人であるネプギアは、今はネプテューヌやプルルート、そして十香と一緒にゲームをやっているから突っ込みに期待出来ないし……

 

はぁ……もう高校やめてあっちの方に引きこもるかな……

あっちに行けば最低限の突っ込み役がいるし。

 

「それなら、この話はもう終わりで良いわね。って、話しているうちに随分と時間がたったわね。そろそろ風呂が沸く頃だし、今日は先に入って良いわよ」

 

「ああ……それじゃあ、お言葉に甘えて入ってくるよ」

 

たぶんトイレのように何かしらのトラップを仕掛けているのだろうが……

気を付けていれば大丈夫だろう……十香は今、ゲームに集中しているみたいだしな。

俺は着替えとバスタオルを手に取ってから浴室に向かうことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し考えすぎだったか?」

 

一人そんな事を呟きながら服を脱ぎ終えた俺は浴室の中へと入った。

浴室についた俺は誰かが中に居ることを疑って、何度も扉をノックしたり、声を掛けてみたり、少しだけ扉を開けて中の様子を窺ったりしたのだが、浴室には誰一人としていなかった。

流石に、分かりやすい罠を短期間に何度も仕掛けたりはしないか?でも琴里の顔が怪しかったんだよな……俺が気にしすぎただけか?

 

っま、罠がないのならそれに越したことはないだろう。

俺はそんな事を思いながら風呂蓋を手に取って開ける。そしてその中を確認……っ!?

 

「な、なんでお前がいるんだよ!折紙!!」

 

「私が背中を流してあげる」

 

いや、そういう事じゃなくて!!

俺が言いたいのは、折紙がなんで風呂の中に入ってるのかってことだよ!!

俺は何度も確認したはずだよな!ノックをしたり声を掛けたり……って事は此処にいるのは間違いなく折紙の故意だって言うのか!!

ってこのままだと折紙の色々なところが見えて……っ!?

 

「うお!?」

 

俺が両手で目を隠そうとした時……風呂の中から飛び出して来た折紙は俺を押し倒すと、そのまま俺に覆いかぶさった。

動揺していたのと、両手を顔の方にやっていたから動作が遅れて対処が出来なかった……って言うか折紙さん?今の状態でこの体勢は非常に不味いと思うのですが?

人に見られたら、とんでもない誤解を招く。

 

「士道は嘘をついた」

 

「へぇ?……な、なんの話だ……」

 

「学校での付き合うと言う話」

 

「あ、ああ……!!」

 

その話か、最初は何の話だか分からなかった。

確か先日……折紙とラタトスクの事を秘密にしてくれる約束を交わした日に、折紙が捕まった日にした俺と付き合ってくれないかと言う話に関する真相を明かすことになった。

真実を言った際は少し落ち込んではいたが……許して貰うことが出来た。

少しくらいは憎まれたりする事を覚悟したのだが……簡単に許して貰えてかなり驚いた。

でもそれが、今の状況と何か関係あるのか?

 

「その件で私の心はすごく傷ついた」

 

「お、おう……」

 

「だから士道が私に賠償してほしい」

 

あの時許してくれた訳ではなかったのか……

でも、俺のやった事を考えれば当たり前の話なのかもしれない。

だって俺のやった事は事情があったとはいえ、嘘をついて折紙と付き合った挙句、何もしないまま直ぐに彼女を捨てたんだからな。どれだけ優しい人でも許してはくれないだろう。

あの場では……きっと琴里とか他の人もいたから許してくれた振りをしただけなんだろうな。

仕方がない、俺が悪いんだ……ここは素直に折紙の話を聞いて……

 

って……なんで折紙はそんな話をこんな場所でしているんだ。

別に他の場所でも二人きりになれる場所なら……ってまさかな?いや、さすがにそれはないよな。

 

「あの、折紙さん?具体的に俺に何をしてほしいのでしょうか?」

 

「……………………子供が欲しい」

 

「やっぱりかぁっ!!!!」

 

なんで、こうも当たって欲しくない予想ばかり当たるんだよ!!

とにかく、早く体勢を立て直さないとやばい……今の体勢は折紙が有利な体勢になっている。

両手は折紙に体重を掛けられて抑えられているせいで少しも動かないし、足が届かない場所に座ってるせいで蹴飛ばすことも出来ないし……

何よりも折紙は何も付けていないから正面を向くわけには行かないし……本当にどうすればいいんだよ。

もう神様でも悪魔でも女神様でも良いから、この状態から助け出してください。お願いします。

 

「私は何も言ってないのに分かったの。以心伝心……嬉しい」

 

「なんで今ので喜べるの!?」

 

本当にどうしよう……

このままじゃ何も出来ないし、奥の手も琴里が見張っていることを考えると使えない。

って言うか琴里さん!!これを見ているのなら助けに来てください!もう失格でも良いのでお願いします!

って、そんな事を考えているうちに折紙が……ってそうだ興奮しなければ良いんだ。俺は目を閉じると心の中でお経を唱え始める。

少しだけど落ち着いて来た……これ……っ!?

 

首筋の辺りから感じたぬるっとした感触……

それに驚いた俺が目を開ければ、目の前には舌を突き出した折紙姿が……まさか舐めたの?俺の首を舌で舐めたの!?

って不味い。また折紙の姿を見たものだから興奮してきて……もうこうなったらしょうがない。琴里にバレるのを覚悟で女神化して……

俺がそう決意した瞬間だった。

 

「おっふろ~♪おっふろ~♪お……」

 

急に開く浴室の扉、そしてその先にはこちらを向いて目を丸くしているネプテューヌの姿が……

琴里っ!?お前の仕掛けたトラップってこっちの事なのか!?ああ、確かに風呂の中には誰もいなかったから油断したよ!!おかげで事態はさらに悪化したよ!!

……女神に助けを求めたのは俺だけどさ!!

 

俺がどうネプテューヌを説得しようか頭を抱えていると、何を思ったのか鳶一は固まっているネプテューヌを浴室の中にいれた。そして彼女の……

 

「って折紙!?なにをやってるんだ!?」

 

「このまま騒がれては迷惑、今のうちに気絶させる」

 

「させなくていいから!!」

 

「…………ねぷ!?なんで士道と折紙が一緒にお風呂で!?もしかして二人ってそんな関係だったの!?ってなんでわたしまでお風呂の中に入れられてるの!?はっ!!もしかして、口封じのために、とても口では言えないような、あんなことやそんなことをしている姿を撮影されちゃうの!?」

 

ああ、どうしよう……ネプテューヌが正気に戻ってより一層状況が悪化した。

どうしてこんな事になるんだろう?俺が何かしたのか?

俺は十香を救いたくて頑張ったはずなのに……今のこの現状がその対価だと言うのなら早くも心がへし折れそうだ。

俺が瞳から流れ出そうになる涙を必死に堪えてると、何処からか防水カメラを取り出した折紙がネプテューヌに詰め寄っていた。

 

「折紙!?本当にする気なの!?わたしのあられもない姿をそのカメラに収める気なの!?士道!!ヘルプミィィィィイイ!!」

 

「大丈夫、このことを黙ってくれるのなら公開はしない。さあ、両手を上げて……そのまま両足を方少し開いて……」

 

「お前は何をやってるんだよ!?」

 

俺は急いで折紙のカメラを取り上げる。

女神の脅迫写真なんて洒落にならない。もし神次元や超次元に漏れたらシェアに直結する。

って言うかなんでネプテューヌは涙目になりながらも素直に折紙の指示に従ってるんだよ……もしかして抵抗したらもっとひどい事をされそうで怖かったのか?

俺がカメラをいじって撮影したネプテューヌの写真を消していると、ネプテューヌが抱きついて来た。

 

「士道!ありがとうね!!わたし、このままお嫁に行けない身体にされるかと思ったよ!!」

 

「ほら、もう大丈夫だから泣きやめよ……って言うか折紙はなんでこんなものを持ってるんだよ」

 

「撮影するために決まっている」

 

それはそうに決まってるだろうけどさ……

流石にこんな状況を見越しての物じゃないだろ。他に用途があって持って来たはずだろうし……

一体何の目的で…………なんかすごく嫌な予感がするんだが気のせいか?

とにかく、俺がネプテューヌの写真を消していく……すると画面には俺が服を脱いでいる写真が……

 

ってこれが目的かよ!いつの間に撮ったんだよ、これ!?

ネプテューヌには悪いが彼女が風呂に入ってきてくれて助かった。もしネプテューヌが撮られてなかったら気づかないところだった。

とにかく、この写真はすべて消去する。

 

「士道ひどい……」

 

「なんで俺が責められてるんだ?文句を言いたいのはこっちだからな」

 

「えっと、状況がいまだにわからないんだけど。さっき見たことから察するに、士道が折紙に襲われてたって事で間違いないのかな?」

 

「それで間違ってないよ……」

 

ネプテューヌが事態を把握してくれたみたいで助かった。

これでようやく収まりそうだ。……そんな事を思って俺が一安心しているとネプテューヌがとんでもない事を言い出した。

 

「それじゃあさ、もう色々と面倒くさいし、このまま三人で一緒にお風呂に入らない?」

 

「ぶぅぅぅ!?!?」

 

ね、ネプテューヌは何を言い出しているんだ!?

女性同士とかならともかく、俺は男なんだぞ!?そんなのに耐えられる訳がないって言うか、ネプテューヌは見られても平気なのかよ!?

そんな事を思っていると、ネプテューヌは俺の耳元で静かに囁く。

 

(前みたいに、自己暗示を掛けた後にあの姿になれば特に問題はないでしょ。折紙には女神化した後の姿を見られてるんだし、それほど驚かれないって)

 

(いや、そう言う問題じゃなくてな……いまこの状況を琴里に見られてるかもしれないんだぞ)

 

(その時は、わたしが不思議な力を使いましたって誤魔化すから大丈夫だってば。それに……そうしないと士道が危ないと思うよ……あっちを見てみてよ)

 

そう言ってネプテューヌが指をさした先……扉の前には俺の事をじっと見つめる捕食者の姿が……

うん、確かに色々と危険そうだ。生身の戦闘能力は俺の方が上のはずなのに、今の折紙にはなぜか勝てる気がしない。

確かにあの姿になれば襲われる心配はないと思うが……もうこうなったら仕方ないな。腹をくくることにしよう。

 

俺は目を閉じ、自分に暗示を掛けながら姿を変えようとする。それと同時に身体の力を抜いていく……

すると俺の髪が一瞬で腰の方まで伸びていき、体つきも男の物から女性特有のものへと変わっていく。そして、変化が終わった事を実感した私は目をゆっくりと開けると、目の前にあった鏡に一人の女性の姿が映っていた。

女体化……私が女神メモリーを飲み込んで女神化できるようになってから身に着けたもう一つの能力、同じく飲み込んだネプテューヌ達は性別を変えられないから、たぶん男である私が飲んだことで身につけられた能力だと思う。

でも、女神化と違って性格は変わらないから自己暗示を使って誤魔化しているんだけどね。

 

「えっと、この姿なら大丈夫なのかな?」

 

「わたしは特に問題ないよ。いやー、それにしても相変わらず女性になると美人になるよね、士道……いや、この姿での名前は士織だったよね」

 

それにしても、ネプテューヌは身体が女性になっているとはいえ、よく男の私と一緒にお風呂にはいれるよね。普通は無理だと思うんだけどな……

ちなみに、今性格を変えるために使った自己暗示は、仕事中にボロを出さない為に覚えたものなんだよね……

男性が女神化しました……なんて前代未聞の事を公表する訳にもいかず、プラネテューヌの公務で人前に姿を現す際にはこの姿になっている。おかげで一般には士道=ブルーハートじゃなくて士織=ブルーハートとなっている。

まあ、精神的にはこっちの方が助かってるんだけどね。

 

ってこんな個人的な話より、折紙の様子はどうなってるんだろう?

 

「折紙もこの姿で構わないかな?」

 

「……構わない。問題は特にない」

 

なんだろう?

この姿なら襲われないって思ってたのに、折紙は未だに私に捕食者としての視線を向けているような気がする。もしかして折紙ってどっちでもイケるくちなのかな?

ううう……それだと不味いよ。こっちの姿だと腕力が大幅に落ちちゃうし……今の折紙と戦ったら絶対に負ける気がするよ。

と、言うかネプテューヌにも若干だけど捕食者としての視線を向けているような気がするんだけど気のせいだよね。

 

(ありゃ?狙いが外れちゃったね。でも今の姿なら襲われても大きな問題にはならないよね)

 

(それはそうなのかもしれないけど……ネプテューヌは大丈夫なの?折紙、若干だけど貴方にも視線を向けているよ)

 

(ほ、本当だ!!どうすればいいの!?このままだと、私が入って来た時の士道のように襲われちゃうよ!!)

 

(ネプテューヌきっと大丈夫だよ。二人で力を合わせればきっとどうにかなるし……いざって時には死なばもろともって言う素敵な言葉もあるしね)

 

(確かにそれなら一安心……ってあれ?士織?今、わたしを道連れにする的な事を言ってなかった?冗談だよね!?)

 

今まで突っ込みっぱなしだったせいか、ネプテューヌに突っ込みをさせて少しだけ気がまぎれたのは内緒の話だよ。

 

 

 

 

 

 

 

はぁ……疲れを取るはずのお風呂で逆に疲れたような気がする。

あの後、折紙やネプテューヌと一緒に入ったのだが……時々セクハラをしてくる折紙を止めるので大変だった。ネプテューヌがいたおかげで被害が分担されたのが不幸中の幸いだったな……

今日で折紙は家に一旦帰るみたいだし……明日からは大丈夫だろう……たぶん。

俺がリビングで疲れ果てていると琴里が部屋に入って来た。それ見た瞬間俺は思わず身構えてしまう。あの姿になったのに気づかれてないよな?

 

「風呂場での件は一応合格よ。良かったじゃない」

 

「あ、そうなのか?それにしたって、ネプテューヌを使うことはないだろ。ちょっと不貞腐れてたぞ」

 

「あら?協力者になってもらったんだし、これくらいの協力をしてもらっても、文句を言われる筋合はないでしょ」

 

それはどうかと思うけどな……俺が失敗したら最悪ネプテューヌは全裸を俺に見られることになったんだし。

って、俺が女性の姿に変わったことに関しては質問されないな……ってことは見ていなかったのか?でも何かしらの手段で合否を判定したみたいだし……素直に聞いてみた方が早いか?

 

「琴里?合否ってどうやって決めたんだ?カメラを飛ばしてたわけじゃないんだろう?」

 

「さすがにそこまではやらないわよ。今回は浴室の近くに感情を読み取る事が出来る観測機器を飛ばしておいたのよ。それで感情が一定のラインを超えたら不合格って事にしたんだけど……なぜか三人分のデータが取れたのよね?なにか心当たりはないかしら?」

 

「オレハナニモシラナイナ」

 

そう適当に言って誤魔化す俺……

琴里はそんな俺の姿に怪訝な視線を向けているが……どうやら、追及する気はないようだ。

流石に折紙が俺を襲うために風呂で待機していました……なんて真実を言う訳にはいかないからな。

正直助かったよ。

 

「琴里、早いけどもう寝て良いか?今日は疲れてるんだよ」

 

「別にいいわよ。後片付けくらい、たまには私がやっておくわ」

 

ありがとうな、と一言琴里に言って俺は階段を上がって自分の部屋に行った。

流石に琴里も寝ている時は何も仕掛けられないだろう……これ以上なにか仕掛けられたんじゃ、俺の身が保たない。冗談なしで倒れてしまいそうだ。

ベッドの中に入って布団をかぶって目をつぶる……すると直ぐに眠気が来た。

それに身を任せて、このまま眠りにつくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁぁぁっ……もう朝か……」

 

欠伸をしながら目を薄っすらと開けると隙間から光が差し込むカーテンが見えてきた……時計を見ればそろそろ起きて朝食の支度をしないと不味い時間帯だ。

そういえばタイマーを掛けるのを忘れてたな……丁度いい時間に起きられて幸いだったよ。

俺が寝過ごすと最近の琴里は暴力だけじゃなくて罵倒までしてくるからな……いや、悪いのは寝過ごした俺なんだけど、起こし方ってものがあるだろ……

特にプロレス技を喰らった日には身体の所々が痛むから一日が辛くなるんだよな……

って、そんな事よりも早くリビングに行って朝食の支度をしないとな。俺は腕に力を入れて立ち上がろとして……

 

むにっ……

 

な、なんだ?今左手の方からマシュマロみたいな柔らかいものを掴んだ感覚が……

これってもしかして……いやいや、それはないだろ。そんな事が起きるのなんて漫画やゲームの話くらい……あれ?なんか最近そういった目に合ってないか?

じゃあ、これってもしかして……

俺が嫌な予感を感じつつそっと毛布をどける。そして俺の左手の場所を確認すると……俺の手はネプギアの胸の上にあった。

 

こ、琴里!?また、俺をはめやがったなっ!!

風呂での一件といいやることが徐々にエスカレートしてきてないか!?

これをどうやって回避しろって言うんだよ!!でも、ネプギアなら話せば理解してくれるか……いや、駄目だ。その前にパニクって話にならない。

でも、幸いな事にまだネプギアは起きていない……このまま気づかれないようにベッドの上から居なくなれば大丈夫……だと思いたい。

とにかく俺はそっと左手をネプギアから離すと、右によって……

 

ふにっ……

 

なんだ、今度は右手の方から柔らかい感覚が……

ま、まさかな?そんな事はないよな……いや、流石の琴里でもそんな事は……

俺は泣きそうになる気持ちを奮い立たせ、右の毛布をそっとどかしていく。するとそこには……プルルートの姿があった。

駄目だ……心が折れそうだ。って言うかなんで俺の腕はご丁寧にプルルートの胸の上に置かれているんだよ。動かしたのは俺だけどさ……普通はこんなピンポイントな場所に当たらないだろ。

俺は本当にギャルゲーの主人公になってしまったのか?

 

「ふぁ~~、よく眠った~。…………士道君?」

 

そんなこんなを考えている内に目を覚ましたプルルートが俺を真っ直ぐと見つめてきた。

そして自分の胸に置かれている俺の右手を見つめた後、左側のネプギアの事を見つめている。

 

終わった……

今日が五河士道として生きる最後の日になるようだ……あはははっ、琴里、不甲斐ないお兄ちゃんでごめんな。俺はもうすぐ自我を失ってしまうと思うけど、お前の事は妹として愛していたよ。

だから、壊れた俺になんか構わず生きてくれ……

 

「士道君~、これってどういう事なのかな~?」

 

「ちょっと待ってくれ!起きたらこうなってたんだよ!!俺は本当になにも知らないんだ!!」

 

「ふぇ~、そうだったのぉ~?確かに、此処は士道君の部屋だもんねぇ~。あたし、士道君の事を疑っちゃったよぉ~。ごめんなさい~」

 

あれ?意外と話が通じてるのか?

てっきり問答無用で女神化して俺の事を調教すると思っていたんだが……目の前のプルルートは俺の事を申し訳なさそうに見つめている。

もしかして、助かったのか?

そんな事を思い始めた時だった……

 

「う……うぅん……」

 

ネプギアが目を覚ました。

彼女は目をこすりながら身体を起き上がらせると、俺の方を寝ぼけた顔で見つめる。

 

「あっ、士道さんおはよう…………へぇ!?なんで士道さんがベッドの中に居るんですか!?ってここ士道さんの部屋じゃないですか!?なんで私こんな場所で眠ってるんですか!?」

 

首を振り回して辺りを見ながら慌てふためくネプギア……予想通りパニクってるな。

でもプルルートもいるし説得はたぶんできるはずだ。

 

「少しだけ落ち着いてくれ……」

 

「落ち着けませんよ!!なんで私は士道さんと一緒に眠ってるんですか!?あ、あの……なにもしてませんよね?」

 

「大丈夫だよ~。士道君はぁ、起きたらこうなってたって言ってたから~」

 

「えっ?そうなんですか?それじゃあ私が士道さんの布団に……す、すいませんでした!!」

 

そういって俺に頭を下げるネプギア……

正確には、故意ではないと言えネプギアの胸を一回揉んでいるんだが……話がややこしくなりそうなので今は黙っておくことにしよう。

ごめんな……ネプギア。後で何か好きな電子部品を買って上げるから許してくれ。

取りあえずこれで事態は収拾がついたのか?後は学校だからそこまで行けば流石に……

 

「えっと、それじゃあ。俺は朝食の支度があるからリビングに行くからな」

 

俺は布団の上に居る二人にそう断って、下へ向かう事にした。


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