ゲーム・ア・ライブ   作:ダンイ

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番外2

都市部の外れの森の中にある廃工場……

ありきたりな場所だが、此処に十香と鳶一が捕らわれているらしい。

ラタトスクのカメラでこの中に二人を連れて入るところまでは確認できたらしいが、建物の中は強い電波妨害があるらしく、中の様子は確認できないそうだ。

とはいえ、場所がすぐに確認できたのは幸いだった。なんの手掛かりもなしでは手の打ちようがなかったからな。

 

「士道。あんた大丈夫なわけ?ここしばらくはろくに戦ってないんでしょ」

 

「あははは……それについてはまだ若干不安なんだが、そんな事を言ってる状況じゃないしな。怪我をしないように気をつけるよ」

 

「シドー、よわくなっちゃたの?」

 

俺の近くに立つアイエフの意見に苦笑する……

今この場に居るのは俺とアイエフ、それとピーシェの三人だ。

二人は俺がプルルートに連絡したら増援として来てくれたのだが……肝心のプルルートはこの場にはいない。彼女は俺が連絡した時にはラステイションに遊びに行っていたみたいで、今現在、大急ぎでこちらに向かって来ているらしい。

他の国も女神達も増援に向かって来てるみたいなので、俺達は彼女達がこちらに来るまで待機をしている。

 

相手の人数が全く分からないのに、たった三人で突っ込むなんて無茶は出来ないからな……

後、アイエフに言われた通り、暫くの間戦っていないせいで俺の腕が落ちてるからな。つい最近、それを実感したばかりだし。

と言っても、女神が五人もいれば、よほどの相手でもない限りは問題にならないだろう。いざとなれば奥の手もあるしな……できれば使わずに終わらせたいけど。

 

「全然大丈夫じゃなさそうね……ま、いいわ。何も起こらなければ私達だけで突入……」

 

「アイエフ!?ちょっと待って、それフラ……」

 

バンッ!!

 

アイエフがフラグを立てたのが悪かったのか、俺が突っ込んだのが悪いのか……突如廃工場から聞こえてきた爆発音。

俺とアイエフが音の方を振り向けば大量の白い煙が窓から流れ出ていた。

突入決行だな……

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…………ここは……」

 

気を失っていた鳶一はゆっくりと目を開く……すると酷く汚れたコンクリートの床が目に映った。鳶一は状況を把握するために立ち上がろうとしたが体が上手く動かない……手足に目を移すとロープで縛られていた。

おかしい……自分はついさっきまでは士道と一緒に街中にいたはずだ。なんでこんな場所で手足を縛られているのだろう?

鳶一は目をつむって記憶をたどって……思い出した。

ジュースを買いに行った士道を公園で待っている時に急に大男に襲われたのだった。むろん抵抗したのだが相手は人間と思えない程強く負けてしまったのだった。

 

「鳶一折紙……目を覚ましたのか?」

 

声がした方を振り向けば、そこには今の自分と同じように手足を縛られた十香がいた。

そう言えば彼女とも一緒だった……正直、憎むべき相手だったので無意識のうちに記憶から消していたらしい。

彼女がいなければ士道と二人で……とは思ったものの、今はそれどころではないので置いておくことにする。

 

鳶一は十香から視線を移し、辺りの状況を確認する。

自分を倒したリーダーと思われる大男が、十数人ほどいる部下と話し合っている。此処からではよく聞こえないが、自分と十香のどちらを使うかと言うことでもめているようだ。

何をするのかは分からないが、ろくでもない事に自分たちが使われようとしているのだけは理解できた。

 

「夜刀神十香……貴方の力でどうにかならないの?」

 

「無茶を言うな……今の私は力の殆どを士道に封印されているのだぞ。そんな力などない」

 

「役立たず……」

 

「なんだと!?一番最初に気絶した貴様に言われたくはない!!」

 

謎の組織に捕まった……そんな危機的状況にも関わらずお互いを睨みつける二人。

むしろ、緩衝材となる士道がいない分、先ほどよりも悪化しているようにも見える。

そのまま言い争いを始めた二人だが、大声で騒いでいる二人を邪魔に思ったのか部下の一人が……

 

「おい!!てめぇら少しは静か「「黙って(おれ)」」あ、はい。出来るだけ静かにしてくださいね」

 

丁寧語で頭を下げて集団に帰っていった。

二人に睨みつけられたが相当怖かったようだ。その男は目に涙を浮かべ、ズボンの下を濡らして集団の元へ帰っていく。

男が二人に怒鳴られるのを見つめていた仲間達は、帰って来た男の事を必死に励まし始めている。

 

一方の鳶一と十香は外野に怒りをぶつけたせいか若干冷静になったようで、これからの事を誘拐犯達に聞こえないように小さく話し始めた。

誘拐犯達は泣いている男を必死に慰めているためか、それに気づいていない。

 

「ポケットの中に手を入れて、貴方の場所からなら中身を取れるはず」

 

「なぜ、貴様の言うことを……ほれ、取れたぞ。この小さな丸いものでいいのか?」

 

「それを持って暫く待って……あと少しで切れる」

 

「?」

 

何を言っているのか分からないと首を傾げる十香。

十香は気づいていないが鳶一のポケットから取り出した小さな球状の物は煙玉だ。

鳶一が隠していたもので隙を見つけてこれを使ってラタトスクと言う組織から逃げ出そうと思っていたのだが……此処がどこだか全く分からなかったのと、何よりも士道と一緒に遊べるチャンスを不意にするわけには行かず、使用を諦めていたものだ。

こんな状況で使うことになるとは、鳶一は一切思っていなかった。

 

十香が煙玉を手に取って暫くして……鳶一が十香の方に近寄ってきた。

 

「一応、貴方のも切っておく」

 

「貴様、それは……」

 

十香を鳶一の手にある物を見て目を見開く……

鳶一の手の平には小型の……それこそ手を握ればそれだけで隠せてしまうほど小さなナイフがあった。よく見れば鳶一の手足を縛っているロープはすでに切られている。

これも鳶一がラタトスクから逃げ出すために用意した道具だ。これもこんな事に使うとは思っていなかった。

ともかく、十香に近づいた鳶一は彼女を縛り付けるロープを気づかれないように切断していく。

誘拐犯達は未だに男を慰めていて二人の様子を見る者はいない。

 

「その……すまん」

 

「勘違いしないで、人手が欲しいだけ」

 

あくまでこれは自分の為なのだ。そう伝えるように鳶一は十香に冷静に言い放った。

なにせ自分達をさらった集団はどのようなものなのか全く分からないのだ。しかもそれだけではなく、自分を簡単に倒せる男もいる。逃走するための人手は一人でも多い方が良かった。

だから自分は十香に感謝されるような事などしていない。

 

「それでも、助けてくれるのは事実だ……ありがとう、鳶一折紙」

 

「…………」

 

それを伝えてなお、お礼を言ってくる十香に鳶一は黙ってロープを切り始める。

鳶一は正直居心地が悪かった……自分はASTとして彼女の命を何度も狙ってきた。それにも関わらず十香はお礼を言っているのだ。

鳶一の攻撃は十香を傷つけたことは一度もない……だからと言って簡単に許せることではない。

なのにどうして……

 

(……話し合ってみると良い奴なんだよ)

 

思い出すのは先日の取り調べの時に士道が言ってきた言葉。

きっと、彼の言う知り合いの精霊とは十香の事なのだろう。でも鳶一に取って受け入れがたい話だった。もし十香と言う精霊が本当に良い人なのだとしたら自分のしたことは……

鳶一はこの場から逃げ出したい一心で十香のロープを切っていく……そして。

 

「ロープは切った、これで自由に動けるはず」

 

「うむ……それでこれからどうするのだ?」

 

「貴方が手に持っているのは煙玉……あの隙だらけの集団に投げ込んで」

 

十香は鳶一の言われた通りに手に持った煙玉を未だに男を慰めている集団に投げつける。

床に衝突した煙玉はバンッ!!と爆発音と共に部屋中を包み込む煙を一気に噴き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おりぁぁああ!!」

 

「げふっ!!」

 

俺の回し蹴りを喰らって空中を回転しながら飛んでいく男の姿を見つつ……これで何人目だと思いながら襲い掛かってくる疲労感に耐える。

煙を見た後アジトに突入したのは良いのだが、煙が出ていた部屋はすでにもぬけの殻、しかも誘拐犯の仲間がアジトの捜索中に何度も襲い掛かってくるのだ。

正確な数は三十を超えた辺りから数えてないので分からないが、どれだけの大所帯なんだと文句を言いたくなってくる。

 

それよりも今は十香達の事だ。

あの煙があった場所に誰もいないのと、襲い掛かって来た誘拐犯達も何かを探していた事を踏まえると、あの煙は十香達が引き起こしたもので誘拐犯達からは逃げ出せてると考えるのが妥当なのだが……

二人の姿が一向に見当たらない。別の場所から突入したアイエフとピーシェが二人を確保していると良いのだが……

そんな事を考えていた時だった。

 

「ようやく見つけたぞ!!クソガキどもがぁ!!」

 

後ろから急に響いてきた怒号。

驚きつつ後ろを振り返れば大男が俺に向かって拳を振り下ろしていた。

すでに回避は間に合わないところまで来ていたので、両腕でその拳をガードしたのだが……

 

男のあまりの馬鹿力にそのまま吹き飛ばされてしまった。直ぐに体勢を立て直して床に着地したが……

完全にガードしたのに吹き飛ばすなんて、なんて馬鹿力してんだよ。ガードした腕もしびれて痛いし……まあ、骨折はしてないみたいだから戦闘には問題ないだろう。

それよりもこの大男……間違いなく鳶一と十香を倒した奴だろうな。

今まで俺がのした奴らは殆どがド素人で……十香と鳶一が倒されたなんて信じられなかったが、こいつなら納得できる。

 

「ぬぅ、わが拳を受けて倒れないと……まさかこの一瞬で成長を……!?」

 

「いや……俺、誘拐された人じゃないから」

 

「なんだと!?」

 

どうやったら俺を十香や鳶一と間違えられるんだよ。

似通った部分なんて一か所もないし、そもそも性別が違う……まさか俺が中性的な顔をしてるからとかじゃないよな?そんな事言われたら立ち直れそうにない……

って、今はそんな事よりも目の前の大男をどうやって倒すかって事だ……たぶん普通にやっても勝てるとは思うけど、時間が掛かりそうだし、こっちもダメージを受けるだろう。

二人の安全を確保するために早く見つけたいし……………………不本意だけどあれを使うしかないのか……少しだけ気が重くなってくる。

 

「と、ともかく、わが拳を受け止めるとは中々やるではないか。だがそれで……」

 

「悪いんだけどさ……時間がないから初っ端から本気で行かせてもらうぞ」

 

「本気だと……何を言って」

 

俺の言葉に大男が首を傾げる中……覚悟を決めた俺は……

 

 

 

 

 

 

 

 

場所を移して廃工場の廊下、そこを十香を連れて駆け抜けながら鳶一は少し後悔をしていた。

あの煙玉を投げた時に窓から逃げていれば良かった……それなりの高さがあったために飛び降りなかったのだが、この工場が想像以上に広く内部も迷路のように入り組んでいるため、いまだ出口どころか窓一つすらも見つけることが出来なかった。

しかもそれだけでなく……

 

「おい、止まり……ぐぇ!?」

 

「邪魔」

 

鳶一が目の前に現れた男を一瞬で殴り倒し、その脇を何事もなかったかのように通り過ぎる。

先程から何度も殴り倒しているのだが、一体何人いるのだろう?もう十人くらいは倒したはずだ。それなのに止む気配が一向にない。

あの時、目の前に居たのが全員だと思っていたのだが……どうやら違ったようでかなりの大所帯のようだ。

 

「一体何時まで走り続けていればいいのだ!?」

 

「私に聞かないで……」

 

後ろについてきている十香の声に冷静に返す鳶一……

だがそれは声だけで内心では焦っていた。もうかなりの間鳶一達は走り続けている。十香はまだまだ体力が有り余ってそうだが、厳しい訓練を積んでいるとは言え人間である鳶一にはそろそろ限界が訪れそうになっていた。

かと言って休むことは出来ない……今度こそあの大男に会えば終わりだからだ。

戦闘能力では勿論勝ち目がないし、見た目に反して走る速度もなかなかのものだった。もし会ってしまえば逃げる事は出来ないだろう。

 

「鳶一折紙、前だ!光が見えて来たぞ!!」

 

十香の声に反応して廊下の先に目を凝らせば、そこには開けた広場のような場所と奥には外へと通じる扉があった。ようやく外だ……

外に出れば解決すると言う訳ではないが、敵だらけの建物の中に居るよりは幾分かましになる。ここら辺の地理は全く分からない(というか、そもそも聞いたこともないような名前の国だった)十香はある程度知っているようなので、何とかなるだろう。

 

疲れてきた体に活を入れて、鳶一は走り出す……そして広場のような場所の中ほどに来た時だった。

急に真横から金属が擦れた時の音が聞こえてきたのだ。そちらを振り向けば……

 

「戦車!?」

 

戦車が砲塔をこちらに構えていたのだ。

待ち伏せは考えていなかったわけではない……しかし、されていても十数人が待ち構えているか、重機がいるくらいだと高を括っていた。戦車は完全に予想外だった。

まともな整備を受けてないのか錆びだらけになっているが、素手でかなう相手ではない……逃げても砲撃されればおしまいだろう。

そう判断した鳶一が物陰に隠れる前に……

 

「っ!?危ない!!」

 

「!?」

 

ドンッ!!

 

戦車が砲弾を放った……

辺りには轟音が響き渡り、土煙が辺りを包み込む。

そんな中、鳶一は疑問を感じた……痛みが少ないのだ。あの時確かに戦車の主砲はこちらを向いていたはずだ……なのにこんな痛みで済むのはおかしい。痛みを感じているというのは死んでいないわけだし……

鳶一はゆっくりと目を開けると十香が自分に覆いかぶさっていた……彼女が自分を突き飛ばしてくれたのだろうか……

 

「助かった、ありがとう………………十香?」

 

返事がない……鳶一が不審に思い、身を起こしつつ十香の様子を確認する。

そして手が後頭部に触れた時に、ぬちゅっと嫌な感触がした。自分の手を見てみればついていたのは血……

 

「しっかりして!?」

 

不味い……

恐らく砲撃で弾け飛んだ破片が十香の頭に衝突したのだろう。頭からだらだらと流れ出る血が止まらない。

頭蓋骨には傷は届いていないようだが十香は完全に意識を失っている。このまま彼女を連れて逃げ出すのは不可能だ。

 

「おい!直接撃ってんじゃねぇよ!!死んだら元も子もねぇんだぞ!!」

 

「す、すいません!!でもどっちも生きてるみたいですし……」

 

突如大声が響いてきたと思ったら、どこに隠れていたのかぞろぞろと誘拐犯の仲間が出てきた。

彼らは鳶一達を取り囲むように辺りに立っている。軽く見ただけで十五人程……これだけなら問題ないかもしれないが戦車を目の前にして戦うことなど不可能だった。

ただでさえ、今は目の前に意識を失った十香がいるのだ。

ここまでか……鳶一が諦めかけた時……

 

「ねぇ、貴方たちは一体なにをしたのかな?」

 

突如声が響いてきたのは……

鳶一がそちらの方を向けばワイヤリングスーツに似た衣装に身を包んだ女性が立っていた。透き通った水のように青い髪を腰のあたりまでたなびかせ、黄金のように輝く瞳でこちらを見つめている。

鳶一が前に見たラタトスクの協力者に似ているのだが……なぜかそれ以外にも見覚えがあるように感じる。でもこんな女性に知り合いなんていなかったはずだ。

 

でも誘拐犯達は違ったらしい。彼女の姿を見た誘拐犯達は目を見開き、体を震えさせる者や腰を抜かしている者、中には涙を流して泣いている者までいる。

目の前にいる女性がなんだというのだろう。鳶一が首を傾げた瞬間……

 

鳶一の横を太い光線が駆け抜けた。

 

光線が抜けていった方向を見ればそこには大きな穴が開いた戦車の姿があった。

今度は光線が来た方向を向けば拳銃を片手で構えた女性の姿がある。彼女が撃ったというのだろうか……

あの協力者と同じだけの力を持っているのだとすれば十分に可能な事だった。

 

「お、おい!!俺は聞いてねぇよ!なんでこいつが来てるんだよぉ!!」

 

「俺だって聞いてねぇ!ただ自分の国を作れるって聞いたから来たんだぞ!!なんでブルーハートの奴が来てるんだぁ!」

 

「国を作るか……貴方たちにはじっくりと色んな事を聞きたいんだけど、まずは倒させてもらうね」

 

「や、やめろぉ!!」

 

そこから始まった戦いは一方的だった。

いや、そもそも戦いにすらなっていなかっただろう。

戦意を失っている相手を目の前のブルーハートと呼ばれた女性は二丁の拳銃を使って一方的に倒していったのだ。拳銃から放たれる光弾が当たる度に吹き飛んで気を失っていく誘拐犯達……

この場に居た全員が気を失うまで数秒とかからなかった。

 

その光景をただ眺めることしか出来なかった鳶一に、誘拐犯達を倒したブルーハートは近づいていく。

それに気づいた鳶一は十香を抱きかかえたまま身構える……誘拐犯達を倒してくれたとはいえ味方とは限らないのだ。勝てるとは、とてもではないが思えない。でも……

そう思ってブルーハートを睨みつける。

すると彼女は少しだけ驚いたような表情をして、すぐににっこりと微笑んだ。

 

「大丈夫だよ。怪我を治すだけだから」

 

優しい口調でそう呟いたブルーハートは手の平から青い炎を出す。

その炎からは物を燃やすと言った荒々しさを感じることが出来ず、あるのは周りを優しく温め照らす安らぎに似た感覚だった。

彼女はその炎をそっと十香の怪我をした場所に近づける……そして手を離すと十香の傷はなくなっていた。

 

「これでもう大丈夫だね。それじゃあ私は用事があるから……」

 

そう言ってこの場から立ち去ろうとするブルーハート……

そこで鳶一はようやく自分が見覚えがあった理由に気づいた。

それもそのはずだろう、見覚えが有って当たり前の相手と似ていたのだ。なにせその人物の事はずっと見てきたのだ。

姿形はかなり違って……っというか性別すら変わり声も変わっていたが自分が彼の癖を見間違えるはずがない。

だから確信をもって言えた……

 

「五河士道……何をしてるの?」

 

「っ!?だ、だれの事かな?私、五河士道なんて名前の人は……」

 

「困ったときに首を8.12°右に傾げ、口元を約5.2mm上げるその癖は五河士道と全く同じ。他の人は誤魔化せても私は誤魔化されない」

 

「なんで、そんなことを知ってるの!?ねぇ、なんで知ってるの!?」

 

自分でも知らなかった癖を指摘されて驚愕するブルーハート……そしてそれは自分が五河士道だと証明するような行動だった。

それに気づいたブルーハートは嵌められた……そう思って驚愕するが、鳶一は真実を言っただけで、彼女をはめる気持ちは全くない。

恐ろしい観察眼と言えばいいのか、愛ゆえになせる行動と言えばいいのか……

 

ともかく正体を隠すことを諦めたブルーハートは、変身を解除する。

彼女の身体が光に包まれたかと思うと、そこには男性の人影が現れた。そしてその人影の正体は鳶一の予想通り、五河士道であった。

 

「今まで、誰にも気づかれた事はなかったんだけどな……」

 

「私の目は誤魔化せないと言ったはず。それよりも、先程の姿の説明をして欲しい」

 

「まあ、色々とあってな……詳しくは説明したくないんだ」

 

そう言って肩を落とす士道……相当落ち込んでいるようだ。彼にとってこの話題は触れられたくないものなのだろう。

しかし、鳶一は真剣な視線で士道の事を見つめている。彼女から見れば一般人だと思っていた士道が不思議な力を使っているのだ、知りたくて当然の話だろう。

それに十香が逃げ出す前に気になることも言っていた。

 

「……彼女の霊力を封印したことと関係があるの」

 

「っ!?それをどこで…………もしかして十香からか?」

 

こくっと頷く鳶一……

捕らわれている際に十香は自分の霊力は士道に封印されているといったのだ。どのような方法を使ったか知らないが、もしそれが本当の話なら今のような現象を起こせてもおかしくはないだろう。それだけ精霊に関する事は未知の事が多いのだ。

鳶一が士道の方を見つめると彼は、一応は言わないように言い聞かせてたんだがな……と頭をかいて困ったような顔をしている。

そして何かを諦めたような顔して語り始めた。

 

「実はさ、俺に精霊の力を封印できる力があるみたいで……十香はついこないだ封印に成功したんだよ」

 

「精霊を封印?」

 

「ああ、封印した精霊は殆どの力を失うし、空間震を起こすこともない……もういるだけで世界を破壊する存在じゃない」

 

「…………」

 

士道の言葉に何も返さず、鳶一はじっと十香の事を見つめる。

士道の言った事はきっと正しいのだろう。彼女が何時も通りの力を持っていればこの廃工場を消滅……いや、そもそも捕まったりはしなかっただろう。

でも、それでも彼女がまだ絶対に空間震などを起こしたりしないとは言い切れない……なにせ精霊の力は先ほども言った通り未知の部分が多い。ラタトスクが知りえない秘密があってもおかしくはない。

 

合理的に考えれば彼女を倒した方が……むしろ封印されて力が弱っている今がチャンスなのかもしれない。

しかし、鳶一にはもう十香を倒そうといった確固たる意志がなくなっていた。自分に素直にお礼を言ったり自分を庇う十香を、世界を破壊する凶悪な生き物として見ることが出来なくなってしまった。

もし本当に彼女が空間震を起こさず、強大な力を持っていないのだとしたら……

 

「それでも精霊は危険な存在」

 

「やっぱり納得は……」

 

「でも、それは精霊と言う一つの種の話……少なくとも、私にはもう彼女が危険な存在には見えない」

 

「それじゃあ……」

 

「私は十香をもう狙わない……それにラタトスクの存在も黙秘する」

 

精霊が危険な存在……その考えを改めたわけではない。

しかし、もしも十香のようにこちらに危害を加える気のない精霊がいたら。そしてその精霊の封印に成功して無力化できたのなら……それならばもう倒す必要はない。

それが今鳶一にできた最大限の譲歩だった。

 

「ありがとう」

 

「礼を言われるような事じゃない……それよりも、さっきの力は精霊を封印した影響なの」

 

「あ……それは、一回に説明するとごたごたするだろ?だから後から説明したいんだが……一つだけお願いを聞いてもらえないか」

 

「構わないけど、条件が一つある」

 

「条件?何か俺にして欲しいことがあるのか?」

 

「貴方は十香の事を名前で呼んでいる、私だけ鳶一では不平等……これからは折紙と呼んで欲しい」

 

「それだけで良いのか……分かった、折紙。それでお願いしたい事なんだが、ラタトスクには今の姿を黙ってくれないか?」

 

「分かった。これで契約は成立した。これからもよろしく、士道」

 

そう言って手を取り合う二人。

これで一件落着……少なくとも二人はそう思っていた。

 

しかし士道は重大なことを忘れていた。

それはある人物が変身してこの場に向かって来ていると言うことである。

その人物は仲間を大切にしていて……もしその仲間が攫われたとなればどういった事になるか、それを士道はすでに何度も経験ずみであったのに失念していた。

いや、むしろ経験していたからこそ、忘れたくて気づかないようにしていただけなのかもしれない。

しかも今回はすでに治ったとはいえ怪我をしてる……その結果は……

 

「あらぁ、此処で伸びてる人達が、十香ちゃんを誘拐したお馬鹿さんたちよねぇ。ふふっ、このお馬鹿さんたち、一体どうしてくれようかしらぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、もうそっちの話は終わったの?」

 

「一応な……」

 

俺はご立腹な顔で座っている琴里の前に座った。

つい先程、女神同士での今回の件における話し合いが終わり、その内容を俺が琴里に説明することになっていた。

琴里としては話し合い自体に参加したかったのだろうが……流石に国のトップ同士の会話なのでそれは出来ないと俺が説明して、琴里も渋々だがそれに納得してくれた。

琴里にはすまないと思うが、あんな緩い会話を見せる訳にはいかないからな……

 

それにしても今回の事件を解明するのは本当に大変だった。

なんせ、誘拐犯達のほとんどが、プルルートのせいで精神崩壊を起こし取り調べどころじゃなくなっていたからな。

おまけに、アイエフもトラウマを刺激されて使い物にならなくなったし、それを見た折紙にも精神的なダメージを与えたみたいだし……

まあ、今回のは人数が多かった分、一人当たりのダメージが分散されているから一週間ほどで正気を取り戻すだろう……たぶん。

 

「一体何が原因で十香達は攫われたのよ」

 

「それなんだけど……まずはこの世界の仕組みを説明する必要があるんだ」

 

「仕組み?」

 

「ああ、此処神次元では女神が国を作れるんだが……その女神になるためには女神メモリーという物が必要になってくるんだ」

 

「それがどうしたのよ」

 

そこからどうして十香達の誘拐に繋がるかが分からない……そう言いたげな視線を向ける琴里。

無理もないかもしれない。俺達だって辛うじてプルルートのお仕置きを逃れた誘拐犯達に事情を聞いてようやく真相が分かったのだ。

あれはどう考えて馬鹿がやる答えだったからな。

 

「あの誘拐犯達はその女神メモリーを運良く入手することが出来たらしい。でも肝心の女神になる女性がいなくてな。それで考えたそうだ…………そこら辺の美少女を攫って女神にして国を作ろうと……」

 

「ごめん、ちょっとまって……今頭の中で整理するから……」

 

そう言って頭を抱える琴里……俺も初めてそれを聞いたときはそうなったよ。

だって穴だらけ過ぎるんだよな……前に七賢人がやった時は洗脳したからどうにかなったが、あいつらはそんなものを用意しているわけではない。

なった所でぶちのめされるのがオチなんだよな。それに基本的に女神になれる人の確率ってかなり低いし。

 

「まあ……結果的にうまく終わったからいいんじゃないのか」

 

「それを言われると痛いのよね……なにがあったか知らないけど、鳶一の説得に成功したみたいだし」

 

何が有ったのかは俺も知らないのだが、折紙はもう十香に敵意を向けることはなくなった。

まあ、それでも喧嘩はしているのだが……何というか前ほど険悪な雰囲気ではない。ただ、単純にお互いの性格がかみ合わないだけのようだ。

でも、此処まで出来たのなら成功と言っていいだろう。

 

「それで折紙をどうやって元の生活に戻すんだ?」

 

「それはこっちで考えるわよ。士道の心配する事じゃないわ」

 

そうなのか?

それなら言葉に甘えさせてもらう……あまり変な事じゃないと良いんだがな。

まあ、なにはともあれ無事に終わったってことで良しとするか。

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜……俺は執務室の外に出て夜風に当たっていた。

本当なら今頃は家に帰っているはずなのだろうが、十香が攫われた件の後処理しなければならず、俺はついさっきまで書類の処理をしていた。

本来ならプルルートがやらなければいけないんだが……久しぶりに女神化してストレス発散したせいか熟睡してしまったからな。何時もの如く、俺がやっていた。

 

俺は懐から宝石のようなものを取り出した。それは手の平サイズの青く輝く菱形の宝石で……今回の事件で押収する事になった女神メモリーだ。

女神が集まった話し合いの際にこれをどうするか話し合われたのだが……今回の事件で一番迷惑を被った俺に渡すと言う事で一致してしまった。

こんな物を渡されても扱いに困るんだけどな……

 

「士道さん?ベランダに出てどうかしたのですか?」

 

「イストワールか?なんか夜風に当たりたくなってさ……これを見てて懐かしくなってきたし」

 

「女神メモリーですか……それにしても士道さんが服用したと聞いた時は、正直驚きましたよ」

 

俺も自分が女神メモリーを服用して女神になるなんて思いもしなかったからな。

でも俺はあの時、自分の意志でこれを飲んだ。あの時はネプテューヌ達がピンチなのに何もしてやれなくて、そんな自分が悔しくなって……一つの可能性に掛けてこれを飲み込むことにした。

結果的に言えばネプテューヌを助けられたし、歳を取らなくなったし、力も手に入ったしで良い事ずくめなのかもしれないけどさ……

性別と性格が変わるのだけがな……はぁ……

 

「夜風は身体を冷やすので、気をつけてくださいね」

 

「分かってるよ……」

 

イストワールがベランダから出て行った事を確認した俺は欠伸を噛み殺しながらも、夜空を眺める。

それは元の世界と違った夜空だが……今となっては元の世界以上に見慣れてしまっている。

 

それにしても琴里になんて説明すれば良いのか……いや、女神メモリーを服用して女神になりましたと言うしかないのだろうが、その覚悟がな……

でも何時か言わないといけない事だし……いずれ覚悟を決めないとな……




士道の使いたくない力とは女神化の事でした。伏線らしい伏線は張っていませんでしたが、勘のいい方は気づいていたと思います。ちなみに余談ですが、士道は女神化すると言葉使いなどは女性のものに変わります。ネプテューヌが女神化した際と同じと言うと分かりやすいかもしれません。
次は四糸乃……っと言いたいところなんですが、今回で書き溜めていた分はなくなってしまいました。なので今までに比べると投稿のペースは落ちると思いますが、週末に一回の投稿ができるように頑張りたいと思います。

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