短編集︰されど、この恋は終わらず。   作:いろはにほへと✍︎

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人は心が愉快であれば
終日歩んでも嫌になることはないが
心に憂いがあれば
わずか一里でも嫌になる
人生の行路もこれと同様で
人は常に明るく愉快な心をもって
人生の行路を歩まねばならぬ

―シェイクスピア―



かおりのリズムで ぜーんぺん

 中学を卒業してから幾何か経った。

 

 私は海浜総合高校に進んで、自然と中学の頃と何ら変わりない生活を送っていた。

 

 笑って。

 

 楽しんで。

 

 私はそんな自分の生活が充実していると思っていたし、満足していた。

 

 けれどそれはあいつに再会してから変わった。

 

 いや、変えられた。

 

 私の価値観そのものを。

 

 × × ×

 

 急激に冷え込み、毎日震えて起きる朝を迎える十二月。

 

 いつもの様に登校すると、生徒会のイベントについて話を持ち掛けられた。

 

 私は生徒会のメンバーではないが、どうしてか手伝うことが多くなっていて、例に漏れず今回もそうだった。

 

 友達に話すと会長に狙われてるんじゃないのかと冗談めかして言われたがあながち間違っていないような気もする。

 

 けれど、特にすることも無く、暇を持て余していたので私は迷うことなく参加した。

 

 話が進むうちに総武高校へ参加を打診したと聞いた。

 

 総武高と聞いて、誰か知っている人いたかなと考えてみたが特に思い浮かぶ人はいなかった。

 

 葉山くんは会いづらいし、サッカーも忙しいだろうし。

 

 × × ×

 

 会議初日。

 

 特に考えることもなく私もコミュニティセンターに向かった。

 

 中に入ると総武だろう人たちが少しずつ集まっていて中に一人見知った顔が見えた。

 

 私は思わず話しかける。

 

 「比企谷?」

 

 「……あ?」

 

 「…………折本」

 

 偶然にも再会した比企谷は、私に気づくと苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

 私はあえてそれを気にせず話しかける。

 

 「比企谷って生徒会だったの?」

 

 「いや別に」

 

 「じゃあ私と同じだねー」

 

 「そうか」

 

 「……」

 

 それきり会話は続かなかった。

 

 他者から見れば私たちの間に隙意があるように見えただろう。

 

 正しくその通りだ。

 

 中学の頃のことを考えたら当然だ。

 

 私は中学の頃、比企谷に告られた。

 

 そして、振った。

 

 しかもそれは学校中に広がっていった。

 

 あの時ほど登校しづらかったことはない。罪悪感で押し潰れそうだった。

 

 いくら私が噂を広げていないとはいえ、友達に軽々しく話した私にも責任の一端があるのは明らかだったからだ。

 

 それからつい最近、また再会した。

 

 その時もまたやってしまったのだ。

 

 私は変わろうとして、変わることなく同じ過ちを繰り返してしまった。

 

 更に今、比企谷は気になる存在に……。やめよう。

 

 比企谷と別れて、一人悶々としていると、恙無く会議は始まった。

 

 × × ×

 

 進むことない会議からまた数日経って、いよいよイベントの一週間前になった。

 

 相変わらず会議は進まない。

 

 私は原因に気づいていながらも目を瞑っていた。

 

 海浜での人間関係っていうのもあったし、波風を立てたくないというのもあった。

 

 どうせ今日も進まないんだろうなと適当に賛同している時だった。

 

 「……合同でやる必要ってあるか?」

 

 突然、比企谷が口を開いた。

 

 停滞した会議を進めるためだろうか。

 

 だが一色ちゃんや副会長が何を言っても聞く耳を持たない、こちらの轆轤会長を説得などできるのか。

 

 要点を掴めていない、本質が分からない私にはとても解決できるとは思えなかった。

 

 予想通りうちの会長は何か訳の分からない御託を並べる。

 

 「それは、合同でやることでグループシナジーを生んで、大きなイベントを」

 

 「シナジーなんかどこにもないし、それに、大きくって言ったって、このままだと大したことできないだろ。なのに、なんでまだ形にこだわるんだ」

 

 比企谷の言葉は、糾弾するようでもあり、詰問するようでもあった。

 

 その比企谷を責めるようにこちら側からひそひそと声がする。

 

 会長は焦っているのか早口で捲し立てる。

 

 「企画意図とずれてるし。それにコンセンサスはとれてたし、グランドデザインの共有もできていたわけで……」

 

 会長の言葉から少し間が空いて、比企谷は口の端を歪めて重々しく口を開く。

 

 「……違うな。自分はできると思って、思い上がってたんだよ。だから、まちがえても認められなかったんだ。自分の失敗を誤魔化したかったんだろ。そのために、策を弄した。言葉を弄した。言質をとって安心しようとした。まちがえたとき、誰かのせいにできたら楽だからな」

 

 どうしてか、声には自嘲が混じっているような感じがあった。

 

 そして、私はこの会議の問題点を理解することが出来た。

 

 それからは早かった。

 

 こちら側から出た反対意見、いや、否定させまいと奮起する言葉を雪ノ下さんが潰し、由比ヶ浜さんがフォローする。

 

 そして、ようやくのことで、この会議は終止符を打たれた。

 

 × × ×

 

 「なんか変わったね。比企谷」

 

 会議が終わり、帰りの支度をして自動販売機に寄ると、比企谷がいた。

 

 私は躊躇することなく話しかけた。

 

 「折本か。別になんも変わってねえよ」

 

 「そう? 少なくとも中学の頃よりは……」

 

 「案外、見る側に問題があるのかもね」

 

 「は?」

 

 「私が比企谷のことをつまらないやつだって言ってたのは私がちゃんと見てなかったからかもってこと!」

 

 「いや俺つまんない人間だし」

 

 「卑屈にならない! 比企谷は凄いやつだよ!」

 

 「……はぁ。そういうことにしとくわ」

 

 「うんうん」

 

 「じゃあ俺もう帰るから」

 

 そう言うと比企谷は鞄を手に取る。

 

 「あ、そうなの? じゃあまた今度」

 

 「……帰り、気をつけて帰れよ」

 

 「……うん。ありがと」

 

 比企谷は私の返事を聞くこともなく、すぐに去っていった。

 

  × × ×

 

 クリスマスイベントが終わってから一週間ほど。

 

 もう少しでお正月だ。

 

 新年を迎えるのに、色々買い足そうと私は千葉駅まできた。

 

 買い物をする前にウィンドウショッピングでもしようと思ってぐるぐるとお店を回る。

 

 だが特にめぼしいものも見つからず、ベンチに座っていた。

 

 ぼーっと人の波を見つめる。

 

 あいつなら何か文句ばかり言いそうだ。

 

 そう思ってふと視線をそらすと、そこで偶然にも、ぴょんぴょんとはねるアホ毛を見つけた。

 

 私は迷わず話しかける。

 

 「比企谷! ……と一色ちゃん?」

 

 思わず出しかけていた声は萎んでいき、妙な嫉妬感のようなものが芽生えた。

 

 「あ、折本?」

 

 「…………」

 

 「こ、こんにちはー。比企谷、一色ちゃん……」

 

 時既に遅く、私は二人に気づかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 




最初は1200文字だったのが今じゃ2000越えるようになった越えるようになった。
少し成長した。

短編集です!
リクエストあれば要望が叶うかも…(笑)

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嬉しいです(笑)

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