――聖者は十字架に磔られました――


 ※「Coolier - 新生・東方創想話」様からの転載です。

・東方Projectの二次創作シナリオです。小説形式ではないのでご注意ください。
・世界観の曲解や登場人物の性格、背景などをいじっていて、設定が崩壊しています。苦手な方はご注意ください。
・一般的と思われる二次創作設定は一部流用させていただいています。すみません。
・作者は二次創作初心者です。
・ご意見を頂けると泣いて這いつくばって喜びます。


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 そそわはこちら→http://coolier.dip.jp/sosowa/ssw_l/214/1488101228


◯登場人物
・鵜飼敏光    猟師の青年。二十六歳。マタギスタイル。
・ひかり     迷子の少女。十歳くらい。黒髪おかっぱに白いワンピース。
・暫定版ルーミア 宵闇の妖怪。闇の霧を纏う。
・田助      敏光の仲間の猟師。三十代くらい。
・太一      敏光の仲間の猟師。三十代くらい。



暫定版ルーミアMK―Ⅱセカンド

○妖怪の山の外観(夜、晴れ)

 煌々と照る丸い月。投げかけられた光が妖怪の山のシルエットをくっきりと映し出している。眼下の森には騒めき一つ無い。

 ホウホウとフクロウの鳴き声が木霊する。

 

 

○妖怪の山の森(夜、晴れ)

 鬱蒼と茂る黒い森がスコープ越しに見える。

 走る視線。

 天上の月、泥にまみれる兎の死骸、木々の枝上をちょろりと走る齧歯類の影、ひらりと落ちる闇色の木の葉。

 ガサガサ、ガサガサと葉擦れの音が響く。

 目を凝らす木々の合間の闇から、丸みを帯びた人間大の闇球がコロリと這い出てくる。

 闇の球が動くと、闇からはみ出た赤く長いリボンがはためく。

 

敏光「出やがったな……」

 

 照星にその黒い影を、揺れるリボンの根元を捉える。

 

敏光「ようやくこの話も打ち切りだ、フィナーレだ、ジ・エンドだ。続編はねぇぞ、この人喰い妖怪め。脳天に直径十四ミリの鉛玉をぶち込んでやれば、どんな化け物だろうが三途の川へ一直線ってもんだ。今まで数多の人間を狩り殺してきた妖怪野郎には相応しい末路だろうが……」

 

 草叢に腹這いになって猟銃を構える敏光。

 無精髭の伸びるそのやつれた顔。

 ほうと白い息を吐いて、唇を舌で濡らす。

 

敏光「くたばりやがれ、ルーミア……」

 

 すっと息を吸って止める。

 草叢を超えて崖下へ向かう視線の先。天上に照る月の下。

 照星越しの闇の玉は、素知らぬ顔でふらふらとうろついている。

 途端、照星がブレ始める。

 ガチャガチャと大きく音を立てて震える。

 

敏光「くそっ……!」

 

 敏光は銃を放り出し、仰向けに大の字になる。

 

敏光「なんて情けない男だ、俺は……」

 

 夜空にぽっかりと浮かぶ丸い月。

 にゅっと現れるひかりの顔。

 

敏光「ひかりちゃん……」

ひかり「どうしたの? 早くあいつを倒してよ。その猟銃はお飾り?」

敏光「……撃てないんだよ」

ひかり「あは。びびっちゃったの?」

敏光「初めてなんだ、動くものを射つのは」

ひかり「動くものたって、大して動いてないじゃん」

敏光「手が震えるんだよ」

ひかり「ふぅん。役立たずねぇ」

 

 起き上がった敏光は、拳を地面に打ち付ける。

 

敏光「くそう、暫定版ルーミアめ」

ひかり「あぁ? 暫定版ー?」

敏光「だって幻想郷縁起で書かれてる姿と違いすぎるだろう。あれは本当にルーミアなのか?」

 

 

   ×   ×   ×

(フラッシュ)

 

 幻想郷縁起と書かれた本が開く。

 幻想郷縁起に描かれたルーミアの姿。

 金髪で赤い瞳をした少女の姿をしている。

 髪には赤いリボン。

 

敏光「(ナレーション)宵闇の妖怪、ルーミア。縁起では少女の姿をした妖怪ってある」

ひかり「(ナレーション)でもま、闇に紛れて普段は姿を見ることが出来ないともあるわよ」

敏光「(ナレーション)人を襲う妖怪だって言うけど、本当にこんな少女が人間を食い殺すものなのか。かつてこんなに大きな被害が出たなんて話も聞いたことが無い。隣村の奴らを全員食い殺すなんて……」

 

   ×   ×   × 

 

 

   ×   ×   ×

(フラッシュ)

 吹きすさぶ風、唸る。

 灰色の、荒らされた隣村の光景。

 木々はなぎ倒され、赤黒い血が飛び散り、あちこち欠損した死体がそこかしこに散らばっている。

 死体にはカラスや野犬が群がり、地獄絵図。

 

ひかり「(ナレーション)妖怪だからねえ。お腹が減ったら何をしでかすか」

敏光「(ナレーション)おまけに知能も高い。俺たち猟師の包囲網を突破して、博麗の巫女まで振り切りやがった。縁起じゃ知能は低いって書いてあるのに」

ひかり「(ナレーション)ま、本に書いてある事が全てじゃないって事ね」

 

 がくがくと震える足元に、一筋の鮮やかな血河が流れて赤く濡らす。

 地獄絵図を目の当たりにして、顔面蒼白の敏光。

 

ひかり「(ナレーション)で? おにーさん、どうするの? このまま逃げ帰る?」

敏光「(ナレーション)……やるさ。村の奴らの仇を取ってやらなきゃ」

 

   ×   ×   ×

 

 

 呆れ顔、ひかりの大きな瞳が黒く輝く。

 

ひかり「鉄砲も満足に撃てないのに?」

 

 敏光はばつの悪そうな顔をする。

 

敏光「そ、それよりひかりちゃん、君の事だろ。この辺りには人食い妖怪に野犬に野盗に、おまけに危険なロリコンまでうろついているんだぞ、君みたいなか弱い美少女なんて一発だよ」

ひかり「ロ、ロリコン?」

敏光「危ないからもうお家に帰りなよ」

ひかり「迷子の私に言う台詞、それェ? 私の事より、早くあの化け物を……」

 

 はっ、と息を呑む。

 後方を指差すひかり。

 

ひかり「うしろ!」

 

 振り返る敏光。

 鮮やかな月光の中で浮かび上がる、真っ黒い闇の塊。赤いリボンがひらりと棚引く。

 リボンはすぐに闇の中に隠れてしまう。

 

敏光「ルーミア!」

 

 敏光は座ったまま素早く猟銃を構える。

 闇の球の中心を照星が捉えた。

 その闇の中に、幻想郷縁起で描かれていた、ルーミアの幻影が浮かび上がる。

 顔を青くする敏光。腕が大きく震え始める。

 

敏光「ぬあぁー!」

 

 目を閉じて猟銃を連射するが、かすりもせず、見当違いな方向へ跳んでゆく。

 

ひかり「ノーコンにも程があるでしょ!」

 

 敏光の頭を叩くひかり。

 その拍子に、一発だけ闇をかすめた弾丸。

 暫定版ルーミアの金色の毛がふわりと舞い、月光を浴びて輝いた。

 暫定版ルーミアの唸り声が響く。

 ガギゴギと音を立てて、黒い闇からにゅるりと一本、細長い闇の触手が伸びる。その先端には鋭い闇の鎌が付いている。

 刮目する敏光とひかり。

 

敏光「暫定版ルーミア、マークツー……」

ひかり「どんなネーミングセンスよ!」

 

 闇の鎌が振り下ろされる。

 とっさに敏光を突き飛ばすひかり。はずみで転がる猟銃。

 鎌は二人の間に着弾し、ドゴォンと音を立てて地面が抉れる。そこにあった猟銃は真っ二つ。

 敏光は闇の触手を手で掴み、腰に差した短刀を抜いて叩きつける。

 触手はあっけなく両断され、暫定版ルーミアは苦悶のうなり声を上げる。

 思わず、掴んだ触手を見やる敏光。

 触手の先端の闇がじわりと晴れると、そこにあったのは人間の腕がいくつも溶け合って絡みついたもの。先端の鎌は、敏光が使った短刀と同じものである。

 

敏光「ひっ……」

ひかり「逃げるわよ!」

 

 ひかりに手を引かれて、異形の腕を掴んだまま走り出す敏光。

 暫定版ルーミアはよろめきながらも二人を追う。

 

 

○妖怪の山の森、崖上の細道(夜、晴れ)

 細い崖上の道をひかりと敏光は駆ける。

 猛スピードで迫る暫定版ルーミア。

 敏光は走りながら、手にした短刀を暫定版ルーミアに向かって投げつける。

 短刀は暫定版ルーミアの足元に正確に突き刺さり、それに足を取られて、暫定版ルーミアが転げて悲鳴を上げる。

 

敏光「ざまあみろ!」

 

 ガッツポーズした瞬間に、足を踏み外す敏光。

 

ひかり「ちょ……!」

 

 ひかりもろとも、叫び声を上げながら崖下に転がってゆく。

 崖上からそれを見つめる暫定版ルーミア。

 ヴヴヴ、とうなる。

 くるりと振り返ると、元来た道を戻ってゆく。

 

 

○妖怪の山の川、岸辺(夜、晴れ)

 さらさらと流れる小川。

 傾いた丸い月が、水面に輝いている。

 ざばっと音を立てて水中から顔を現したのは、ひかり。

 そのままざぶざぶと歩いて岸に揚がる。

 片手には気絶した敏光を引きずっている。

 岸辺に敏光をぽいっと捨てると、その腹を思い切り踏みつけるひかり。

 敏光はカエルみたいな声を上げて起き上がる。

 

敏光「なにすんの!」

ひかり「そりゃこっちの台詞! まったく鈍臭いんだから」

敏光「だからって踏むこと無いだろ! 変な趣味に目覚めたらどうすんだ」

ひかり「勝手に目覚めてろ」

敏光「危うくロリコンになるところだったじゃないか!」

 

 敏光は手にした異形の腕を振り回しながら言う。

 

ひかり「それ。いつまで持ってるの?」

敏光「え? うわわ!」

 

 異形の腕を見やり、慌てて放り投げる敏光。

 

ひかり「おにーさん、なっさけないなぁ」

 

 ワンピースの裾を持ち上げて、手で絞るひかり。びちゃびちゃと水がしたたり落ちる。

 ヤレヤレ、と首を振るひかり。

 

ひかり「おにーさんに仇討ちは無理ね。おにーさんこそ、お家に帰りなさいよ」

敏光「ここは既に戦場だ。後に戻れば地獄に落ちる」

ひかり「いくらかっこいい事言っても、そのへっぴり腰じゃねえ」

敏光「と、とりあえず、他の連中と合流しないことには……」

 

 辺りを見回す敏光。

 

敏光「あ!」

 

 草叢の向こうに、寝転がる人影を発見する。

 

敏光「そこで寝てるのは田助か、それとも太一か? いるならリアクションしろよー、まったく……」

 

 草叢を掻き分けて人影に近づく敏光の背。

 それがぴたりと止まる。

 首をかしげるひかり。

 

ひかり「どうしたの?」

 

 ひかりも近づく。

 

○妖怪の山の森、岸辺の広場(夜、晴れ)

 広場の真ん中にぽつりとある人影。

 よく見ると、人影は猟師の姿をした男。下半身を半分ほど土に埋められ、その腹からは内臓がごっそりと抜き取られている。

 口元に手をやり、顔をしかめるひかり。

 

敏光「田助……」

 

 さらさらと川の音。

 おそるおそる敏光のほうを見やるひかり。

 敏光の顔は憎悪に燃えている。

 ひかりは言葉を失くして立ちすくむ。

 敏光は田助の傍らに落ちていた猟銃を手に取ると、いろいろといじってみる。

 

敏光「……まだ使える」

ひかり「おにーさん……」

敏光「さっきの触手……」

 

 ベルトを肩にかけて猟銃を担ぎ、立ちあがって岸辺に戻る敏光。

 草叢をかき分けて戻る背中を見送るひかり。

 

 

○妖怪の山の川、岸辺(夜、晴れ)

 岸辺に落ちている異形の腕の前にしゃがみ込む敏光。

 異形の腕に握られている短刀を掴み、手に取る。

 

敏光「師匠……」

 

 刃に月と敏光の悲痛な顔が映る。

 ふと、刃の反射にひかりも映り込む。

 

敏光「この短刀は俺の村からの支給品なんだ。つまり、これはルーミア包囲作戦に関わった猟師達の腕ということになる」

ひかり「そう……」

敏光「この分じゃ、生き残りがいるかどうか……」

 

 短刀を腰に差す。

 立ち上がり、敏光はひかりの手を取る。

 

敏光「これ以上は洒落にならない。君を里まで送る」

ひかり「でも、私は……」

敏光「正直、ほっとしているんだ。逃げる理由が出来て。笑ってくれ、俺は情けない男だ」

 

 その時、タァン、と遠くで音がする。

 音のしたほうを見上げる敏光。

 

敏光「生き残りがいたのか?」

ひかり「行きましょう」

 

 驚く敏光。

 

敏光「しかし」

 

 ひかりは首を振る。

 

ひかり「夜の闇はルーミアの世界。どのみち奴から逃げ切る事なんて出来ないわ。倒す以外に生き延びる術は無いの」

 

 

○妖怪の山の森(夜、晴れ)

 タァン、タァンと遠くで散発的に音が連続する。

 草叢を早足で歩くひかりと敏光。

 

ひかり「でも、何か手はあるの?」

敏光「猟銃……」

ひかり「当てにならね〜」

敏光「あとは、閃光手榴弾がある。奴は強力な光に弱いと縁起にあった」

 

 歩きながら振り返り、にやりと笑うひかり。

 

ひかり「上出来」

 

 

○妖怪の山の森、岩場(夜、晴れ)

 月光に当って銀色に輝く岩の丘。

 岩の陰からにゅっと首を出す敏光とひかり。辺りを伺う。

 タァンと近くで音がする。

 同時に男の悲鳴が響き渡る。

 

ひかり「まずいわ!」

 

 ひかりが指差す。敏光は身を乗り出して猟銃を構えた。

 照星の向こう、黒い玉からいくつも触手を生やした異形の暫定版ルーミア。

 それに向かって、猟師が何事か叫びながら猟銃を乱射している。

 だが暫定版ルーミアはまったく怯まず、猟師は触手に絡め取られる。

 

敏光「太一!」

 

 敏光の猟銃が大きな音を立てて火を吹く。

 が、暫定版ルーミアの動きは止まらない。

 太一は悲鳴を上げながら、闇の玉に呑まれた。

 

敏光「この……化け物が!」

 

 素早くリロードしながら連射する敏光。

 一発、二発……。

 だが、暫定版ルーミアにかすりもしない。

 三発、四発……。

 ばきぼきと不快な咀嚼音が響き、断末魔の絶叫が木霊する。

 五発、六発、七発……。

 途絶える悲鳴。

 びくりと震える闇の玉。

 暫定版ルーミアがくるりと敏光達の方を向く。

 

ひかり「隠れて!」

 

 ひかりが敏光を岩陰に引っ張り込む。

 直後、その岩陰に着弾がある。

 怒る敏光。

 

敏光「太一の猟銃まで取り込んだのか! 暫定版ルーミアマークツーセカンドめ!」

ひかり「え、マークスリーじゃないの?」

敏光「武装追加はマイナーチェンジだ!」

ひかり「あっ、来るわよ!」

敏光「分かってる!」

 

 猟銃を投げ捨て、懐から手投げ弾を取り出す敏光。

 大きな唸り声が響く。

 岩場を飛び越えて暫定版ルーミアが二人の前に着地する。

 リボンを揺らして、くるりと敏光達の方へ振り向く。

 すると突然、闇の玉は縦に倍くらいの大きさとなる。

 

敏光「で、でかくなった?」

 

 触手を震わせると、鎌を大きく振り上げる。

 ひかりは打ち捨てられた猟銃をひっつかんで構えると触手を射った。

 触手はちぎれ飛んで、暫定版ルーミアはよろめいて苦しむ。

 

敏光「え、ひかりちゃん上手くない?」

ひかり「あんたが下手すぎなだけ!」

敏光「後で教えて、撃ち方」

 

 ひかりは猟銃を構え、照星をリボンに当てる。

 が、リボンは闇の中に隠れてしまう。

 舌打ちするひかり。

 黒い玉に向かってもう一発射つが、暫定版ルーミアは反応しない。

 

ひかり「手応えが無いわ!」

敏光「いや、チャンスだ。目を閉じて!」

 

 安全ピンを抜き捨て、敏光は手投げ弾を投擲する。

 一直線に闇の玉へと吸い込まれる手投げ弾。

 一瞬後、闇の玉から幾筋ものまばゆい閃光の柱がほとばしる。

 凄まじい叫び声を上げる暫定版ルーミア。

 

ひかり「効いてる!」

敏光「もう一発!」

 

 投擲の構えを取った敏光に闇の霧が纏わりつく。

 

敏光「な……!」

 

 暫定版ルーミアの体から猛烈な勢いで噴出した黒い霧が瞬く間に空を覆い、傾いた月を隠す。

 

 

○魔法の闇の中

 敏光の姿以外には何も見えない。

 敏光は暫定版ルーミアを見失い混乱して右往左往。

 

敏光「ど、どこへ……!」

 

 かすめた鎌が左腕を深くえぐり、敏光は悲鳴を上げる。

 膝を突く敏光。

 手投げ弾を上に向かって投げる。爆発して閃光が降り注ぐが、それでも闇の霧に阻まれて一メートル先も見えない。しかも光は一瞬で消え失せた。

 

敏光「だ、駄目だ! ひかりちゃん、逃げて!」

 

 叫びながら短刀を抜き放る。それを右腕でめちゃくちゃに振り回す敏光。

 その時、闇の霧を裂いて、まばゆい光が天から落ちる。

 敏光は唖然としてその光を見つめた。

 連なった光の柱が一筋の道を造り出す。

 その中心に居るのは、ひかり。

 

ひかり「ほら、早く!」

 

 敏光の手を取って走り出す。

 周りは真闇。光の柱の中の二人の姿だけがはっきりと見える。

 光の柱は敏光達が通ったところから消えてゆく。

 

ひかり「この光はあいつの苦手な光。しばらくは追って来れないわ。でも、こんな強い光を出せるのはほんの少しの間だけ。今のうちに距離を稼ぎましょう」

 

 ひかりは敏光の振り向くと、目を丸くして驚く。

 

ひかり「おにーさん、怪我してるじゃない!」

敏光「自分で出来る。今は距離を……」

 

 腕からだらだらと血を流しながら、敏光は走る。

 が、握った短刀を取り落としてしまう。

 青白い顔で、息も絶え絶え。

 

ひかり「この上は博麗の巫女の到着を待つしか無いわ。でもこの闇じゃあ、それも絶望的ね。まさかあいつがあそこまで早く成長するとは……」

 

 爪を噛むひかり。

 

敏光「君は、妖怪なのか」

ひかり「……隠してごめんね。そうよ。私は月の光を司る妖怪。ま、ヤツのライバルみたいなもん。私には、戦う力は無いけれど」

敏光「なるほど。だから俺をけしかけて、あいつを倒そうとしてたのか。つまりこれは、妖怪同士の縄張り争いってわけかよ」

 

 ひかりは後ろめたさを感じているように頷く。

 

敏光「妖怪ってことは、君は俺より年上なのか?」

ひかり「んーどうだろ。ここ数十年の記憶も朧げだし」

敏光「なんだよ、年上かよ。幼女だと思ったから世話を焼いてやったのに」

ひかり「うろついてる危険なロリコンて自分の事だったのかよ」

敏光「年上じゃ興味ねーな、このロリババア」

ひかり「はっはっは。お前、後で死なす」

 

 ぐぅ、とひかりのお腹が鳴る。

 

 

○妖怪の山の森、広場(夜、晴れ)

 森の合間のちょっとした広場。

 焚き火の炎がパチパチと跳ねる。

 上空は闇の雲が覆っていて真っ暗闇。

 焚き火だけが光源なので、座る敏光とひかりの姿も朧げ。

 ひかりはがふがふと音を立てて握り飯にがっついている。

 敏光は自分の分の握り飯を持って、ぼーっと焚き火を見つめている。腕には血の滲む包帯。猟銃は足元に置かれている。

 ひかりは巨大な握り飯をぺろりと平らげると、物欲しそうな顔で敏光のほうを見つめる。

 敏光、無言の圧力に負けて握り飯を差し出す。

 満面の笑みでそれに食らいつくひかり。

 

敏光「よく食うな、ババア」

ひかり「あっはっは。お前も喰ってやろうか、おにーさん」

敏光「へっ。妖怪の食欲ってのは際限が無いんだな」

ひかり「そんな事無いわよ」

 

 見る間に握り飯を平らげるひかり。

 

ひかり「妖怪だってお腹いっぱいだったら人を襲わないよ。ま、私は元から襲わないけど」

敏光「じゃあ何であいつ、暫定版ルーミアマークツーセカンドは、あんなに人間を襲うんだよ」

ひかり「さあ? 腹減ってるんじゃないの?」

敏光「腹が減ってる、か……」

ひかり「私はもうおなかいっぱい」

 

 ひかりは満足そうに腹を擦っている。

 

ひかり「さて。そろそろ移動しないとね。奴に追いつかれるのが早いか、博麗の巫女に見つけてもらうのが早いか。賭けだわね」

敏光「いや。奴は俺が直接脳天に鉛玉をぶち込んで倒す」

 

 パチンと火が大きく跳ねる。

 敏光の瞳が焔の色に染まっている。

 

ひかり「……本気?」

敏光「奴を撃った時に、手応えが無いって言ったろ。アレはね、奴が盾を使っていたからさ。取り込んだ人間を、太一を肉壁にしていたんだ」

 

 猟銃を取り出して弾込めを行いながら、淡々と言う敏光。

 

敏光「俺はね、ひかりちゃん。外来者なんだ。外からこの幻想郷にやってきた。そういうやつは大抵、妖怪の餌になるのがオチらしいじゃないか。でも俺は、運良くあの村に受け入れられた。猟師っていう仕事までもらって。恩人達を目の前で殺されて、しかもあんな風に躯を汚されて。それでも敵を討たないなんて、男の、いや人間のすることじゃない。奴は必ず、俺の手で倒す」

 

 ふあぁとあくびするひかり。

 

ひかり「ノーコンが粋がってもね」

敏光「次は、当てるさ」

 

 焚火に目を逸らして言う。

 揺らめく炎。

 

ひかり「ねえ」

敏光「なんだよ」

 

 猟銃の銃身を自らの胸に当てたひかりが、引き金を敏光に突き付けている。

 

ひかり「おにーさん、私を撃てる?」

敏光「ババアにそういう台詞言われても、そそられないなぁ」

ひかり「怖いんでしょ。人の形をしたものを撃つのが」

敏光「躊躇なんかするかよ、化け物に」

 

 ひかりは敏光の右腕を掴み、強引に猟銃のグリップを持たせた。

 途端、敏光の腕は震えて、猟銃を取り落とした。

 敏光は目を伏せた。

 

ひかり「やっぱり」

敏光「くそ……」

ひかり「怖いのね」

敏光「出来るかよ、妹と同じくらいの子を撃つなんて……」

ひかり「それがたとえ、人食い妖怪のルーミアでも?」

 

 落とした猟銃を取り上げ、敏光はすっくと立ちあがる。

 ベルトを肩に掛けて。

 

敏光「奴はルーミアじゃない。暫定版ルーミアだ」

ひかり「そんな理屈で」

敏光「少なくとも、縁起に描かれたルーミアじゃない。暴走したケダモノだ、走り回る災害だ。これ以上被害を増やさないためにも……」

ひかり「おにーさん貴方、本当に撃てるの?」

 

 唇を噛む敏光。

 ひかりも立ち上がる。

 

ひかり「一つだけ、手があるわ」

敏光「手?」

ひかり「奴のリボンを撃つの。それならおにーさんでも撃てるでしょう」

敏光「そんなものを撃ったところで」

ひかり「あれは奴の力の源なのよ。撃てば弱体化するはず。でもそれは奴も分かっていて、すぐに闇の中に隠してしまう。奴の不意を突くしかないけれど……」

 

 頷く敏光。

 

敏光「策がある。奴が人を襲うのは、腹が減っているからだろう」

 

 

○妖怪の山の森、上空(夜、晴れ)

 星々の輝く空。

 沈みかけた月が妖怪の山の尾根を照らす。

 その下に雲海のように広がる黒い霧。

 

 

○妖怪の山の森、岸辺の広場(夜、晴れ)

 ほの暗い森の中。さらさらと川の音がしている。

 広場の真ん中に、半分土に埋まった人影が横たわっている。

 草叢の奥から黒い霧がじわりじわりと流れてくる。

 揺れる赤いリボン。

 暫定版ルーミアの闇の玉が、草叢を掻きわけて現れる。

 荒い息を吐きながら、闇の玉が人影に近づく。

 闇の玉が人影の間近に迫ったその時。

 人影が動いて、猟銃を天空に向かって構える。

 

敏光「来ると思ったよ」

 

 人影に偽装していた敏光の瞳が、揺れる赤いリボンを捉える。

 響き渡る轟音。

 暫定版ルーミアのリボンが真っ二つにちぎれ飛ぶ。

 唸り声をあげる暫定版ルーミア。

 闇の霧が弱まり、辺りに月の光が差す。

 暫定版ルーミアの纏う闇も小さくなる。

 

敏光「今だ、ひかりちゃん!」

 

 腕で顔を覆いながら、かぶせた土を跳ね飛ばして飛びのく敏光。

 木陰から現れたひかりが、手投げ弾を投擲する。

 手投げ弾は一直線に闇の玉へと飲み込まれる。

 一瞬後、闇の玉から幾筋ものまばゆい閃光の柱がほとばしる。

 暫定版ルーミアは絶叫し、一瞬縦に大きくなったかと思うと、そのまま横に倒れる。

 どぉんと大きな音が響き渡り、地面が振動する。

 空を見上げたひかり。闇の霧は消え、星の光が見える。

 血と泥にまみれた皮の靴。

 敏光が倒れ伏した暫定版ルーミアを見下ろしている。

 暫定版ルーミアは黒いシルエットのまま。

 ひかりは暫定版ルーミアをしゃがんでのぞき込む。

 

ひかり「どうして戻ってくるって分かったの?」

敏光「野生動物が獲物を地面に半分埋めて置くのは、自分の縄張りを誇示する目的もあるけど、単純に食べきれない獲物を保存しておくためでもあるんだ」

ひかり「せっこいわね。食べ残しを狙うなんて。それに」

 

 ちらりと敏光の姿をみやるひかり。

 敏光の服は、赤黒い血に染まっている。

 

ひかり「お仲間の血でペイントなんて、ナンセンスじゃない」

敏光「……ひかりちゃん。離れてくれ。これから仇を取る」

 

 暗い瞳の敏光。

 猟銃を持って、暫定版ルーミアへと近づく。

 不意に、一発の銃声が響く。

 

敏光「な……」

 

 足から血を吹き出し、倒れる敏光。

 唖然とするひかり。

 

ひかり「おにーさん!」

敏光「後ろだ!」

 

 ひかりは立ち上がり、敏光の方へ駆け寄ろうとする。

 その後ろで、硝煙を上げる闇の触手を蠢かせながら、暫定版ルーミアが立ち上がる。

 振り返ったひかりは、闇の触手に捕らえられ、悲鳴を上げる。

 もう一本現れた触手が、地面に落ちた赤いリボンを拾い上げる。

 闇の玉の中から棚引くリボンの残骸と結び合わさると、リボンは元通りにくっついてしまう。

 そうして闇の霧が再び渦巻きはじめる。

 括目するひかり。

 

ひかり「ば、馬鹿な……そんなこと……」

敏光「ひかりちゃん!」

 

 ひかりは触手に締め上げられ血反吐を吐く。

 倒れ伏したまま猟銃を構える敏光。

 ひかりに絡まった触手に狙いをつける。

 が、照星が震え始める。

 そうしている間にも、ひかりが闇の玉に引き寄せられてゆく。

 

ひかり「撃つのよ、おにーさん! 仇を取るんでしょ!」

 

 ひかりは血を吐きながら、敏光の方を振り返って叫ぶ。

 敏光は血が出るほどに唇を噛み締める。

 

敏光「だけど!」

 

 ひかりが闇の玉の中に引き込まれる。

 絶叫しながら引き金を引く敏光。

 だが弾丸は当たらない。

 

敏光「畜生、畜生!」

 

 泣き叫びながら引き金を引き続ける敏光。

 闇の玉の中から強力な閃光が迸り、敏光は腕で顔を隠す。

 両手を十字架のように広げたひかり。全身からまばゆい光が発せられている。

 森は真昼のように明るくなり、すべてがモノクロに染まる。

 光に貫かれた暫定版ルーミアの闇の玉は薄まり、その姿かたちが露わになる。

 二本足で立ち上がる大きな獣。体のあちこちから、人間の腕や足が無数に突き出たシルエット。赤いリボンと瞳だけが鮮やかに輝く。

 息を呑み、呆然とその姿を見つめる敏光。瞳に闘志が戻る。

 ひかりの方へ大きく口を開いた、暫定版ルーミアのその赤い瞳。

 猟銃の轟音が轟き、赤く輝く瞳から、真っ黒な血が噴き出す。

 断末魔の悲鳴を上げる、暫定版ルーミア。

 

 

○妖怪の山の森、上空(夜、晴れ)

 月は既に沈んでいる。

 雲海のように広がっていた黒い霧が消え去る。

 後には、静かな森の光景が広がっている。

 山の向こうは、少し白み始めている。

 

敏光「(ナレーション)ルーミアの正体は、ヒグマだったのか……」

 

 

○妖怪の山の森、岸辺の広場(夜、晴れ)

 猟銃を杖代わりにして立つ敏光。足には白い包帯が巻かれている。

 金色の毛並みをした子ヒグマの死骸を見下ろしている。

 子ヒグマの体のあちこちからは、喰らった人間の腕や足、顔が突き出している。

 その首元には、赤いリボンの残骸が結びついている。

 

敏光「しかもこいつは、どうやら子どもみたいだ」

 

 子ヒグマの瞳は赤い色をしている。

 その目元は濡れていた。

 

敏光「お前も俺と同じか。外来者だったんだな……」

 

 敏光は首をひねる。

 

敏光「しかし、こいつは本当にルーミアなのか。幻想郷縁起には昔から居ると書いてあるのに、ヒグマの子どもじゃあ計算が合わないぞ」

ひかり「いや、そいつがルーミアよ。暫定版のね」

 

 ひかりはしゃがみ込むと、子ヒグマの首に絡まっていたリボンに手を伸ばした。

 

ひかり「あっちぃ!」

 

 しかしすぐに手を引っ込めるひかり。

 やけどした手をふーふーと吹く。

 

ひかり「おにーさん、これ取ってよ」

敏光「え? あ、ああ」

 

 言われるがままにしゃがみこみ、子ヒグマに絡まったリボンを取る。

 ひかりは自分の黒い髪を指差して言う。

  

ひかり「つけてつけて」

敏光「ババアが色気出してどうしたんだ」

 

 にかっと笑うひかり。

 

ひかり「これ、もともと私のだから。こいつに取られちゃってたの」

敏光「ふーん……あれ?」

 

 よく見ると、リボンには細かい文字で様々な文字が刻んである。

 

敏光「これ、リボンじゃなくて御札か。なんか色々まじないが書いてあるな」

ひかり「いいからいいから。はやくはやく」

敏光「はいはい」

 

 ひかりの髪にリボンを結わえてやる敏光。

 ひかりは目を閉じ、穏やかな顔。

 

ひかり「おにーさん……」

敏光「なんだよ?」

ひかり「さよなら」

 

 結び終わると同時に、敏光を突き飛ばすひかり。敏光は尻もちを付く。

 

敏光「なにすん……」

 

 言いかけて、言葉を失う。

 傍らに転がる子ヒグマの毛並みが黒く変わっている。瞳も黒い。

 ひかりのほうを見やった敏光は息を呑む。

 じゃらじゃらと音を立てて、周囲の闇を吸い寄せるようにして、黒い霧がひかりにまとわりついて行く。

 

敏光「……まさか」

 

 ひかりの髪の色が見る間に金色に変わる。着ていた白いワンピースも闇の色が混ざってゆく。

 その姿は、幻想郷縁起の挿絵にあったルーミアと瓜二つ。

 

敏光「まさか、そのリボンが……」

 

 両手を十字架のように広げる。ひかりの顔に暗い陰が差す。

 開いた瞳は鬼灯のように赤い。

 

ルーミア「おにーさん。よく見ると貴方……けっこう美味しそうね?」

 

 刮目する敏光。

 ひかりは少しだけ、寂しそうに微笑む。

 

 

○妖怪の山の外観 (朝、快晴)

 山の稜線からのぞく朝の光が、夜の闇を切り裂いている。

 チチチと小鳥が鳴く。

 

 




 以下、解説です。


 私は最近、ふっと思いついたフレーズからお話を作ることが多いのですが、これもその口でした。
 思いついたのはズバリタイトル。タイトルからして、最初はギャグ作品になるだろうと考えていました。
 けっこうシリアスな話になってしまったのは、モチーフに「シャアが来る」を選んだ時です。シャアと一般兵の戦い、つまり圧倒的な能力差がある相手に挑むド根性な連邦軍兵士、それが主人公敏光の原型となっています。やりたかったのはもちろん、「ビーム輝くフラッシュバックに奴の影」。クライマックスの戦闘シーンで現れていますね。私としてはけっこう満足しています。
 「暫定版ルーミアMK-Ⅱセカンド」という言葉は、劇中で登場するルーミアが偽物であることを端的に示していますね。ひかりのキャラクターはもう分かりやすすぎるほどルーミアなので、ラストは予想しやすいと思います。なので、ラストの部分は観客に「来るぞ来るぞ……!」と思わせたいなぁと思って構成しました。ちょっとひかりの行動が冗長で、ひかりのキャラ的には分かり切ってる「リボンに触れる事が出来ない」をわざわざ試しているのはそのためです。私が演出家だったら、この部分をもっと冗長に変更してしまうかも。
 このシナリオを書くにあたって一番困ったのが、ルーミアの能力です。
 闇です。
 黒いんです。
 このままじゃ映像にならねえ。
 という事で出てきた設定が、「敏光が女の子を撃つ事に躊躇する」でした。まるい闇の玉にルーミアの姿を投影するという、そのまんま素直なの手法をとっていますね。もし他の演出家さんがいい映像方式を考え出してくれたのなら、もう全面的に書き直しちゃいますよ。
 もう一つの工夫が暫定版ルーミアの触手でしょうか。黒い玉だけだと全然危機感が無いので、黒い触手で直接的な攻撃描写をさせてみました。その結果、暫定版ルーミアの設定がかなり重くなってしまった面があります。体中から取り込んだ人間の手足が突き出てたり、なんかデビルマンとかに出てきそうな敵ですねえ。めっちゃグロテスク。
 この話をシナリオ形式で書く事にしたのは、ラストシーンの為ですね。最後の、ひかりがルーミアに変身するシーンと、ひかりが少しだけ寂しそうに微笑んで終わるシーンを表現するには、小説ではなくシナリオが適切だと判断しました。ラストシーンは読者に解釈を投げたかったのです。ルーミアは幻想郷縁起で人食いと明言されていますが、その実、人食いにしては愛らしすぎる姿を持つ人気の高い妖怪です。また、縁起の記述自体、信憑性が完全ではなく、阿求の独断と主観が多分に入り込んでいる作りとなっています。その辺、さすが原作者さんは格が違うなあとうなってしまいますね。
 ルーミアはただかわいいだけの妖怪なのか、かわいいけど人食いなのか、恐るべき捕食者なのか、いまだに人によって解釈が分かれている。この話でも、ルーミアに戻ったひかりは敏光を殺すのか? 殺さないのか? 最後の展開は各々のルーミア観に任せたい。そう、つまりみんなのルーミア観をもう一度掘り起こす事が、この作品のコンセプトなのでした。

 付け加えて。今回はシナリオ形式で書いたのですが、これは実は完全なシナリオ形式ではなかったりします。暫定版ルーミアとひかりの正体は本来、キャラ説明で書くべきですね。ただ私は読み物としての面白さも求めてしまったので、登場人物紹介では記述しないこととしました。
 
 
 
 
 あとは以下に簡単な設定を説明しておきます。オリジナル設定が多分に入っていますのでご注意。
 
 
 まず、ルーミアです。ルーミアはもともと、月の光を司るおとなしい妖怪でした。森の中で迷子になった人々に、月の光で照らして道を示すのです。力は弱く、劇中で自分自身が言っているように、人食いではありませんでした。
 しかしあるとき、賢者達にとらわれ、妖怪を強化し狂暴化させるリボンを付けられてしまいます。月への侵攻等を計画していた賢者達は、手っ取り早く強い兵士をそろえるためにそういう人体実験を行っていたのです。
 幸いルーミアはリボンと正反対の属性だったのでそこまで狂暴化はしませんでした。それにより予定の効力を発揮しなかったリボンの力に賢者達は失望し、以後その計画を本格的に実行することはあきらめたのです。しかし実際は大成功していて、今回、事故でリボンを付けてしまった子グマが恐るべき殺戮兵器に変わったことから、それは明らかでした。
 ルーミアはリボンの危険性を十分に認識していて、リボンを自らに封印し、「宵闇の妖怪ルーミア」となってリボンの存在価値の無さを示し続ける道を選んだ。それが事件の背景です。ちなみに、東方煉獄譚の話の中でルーミアの捕食行為を風見幽香が邪魔していますが、あれも、とある理由からルーミアの事を知っていた幽香が意図的に行っていたわけです。
 つまり、磔にされた聖者とはルーミアだったというワケです。
 次に敏光。敏光は外の世界からやって来た自衛隊員、しかも防衛大学校出のエリートです。能力も高く、かなりの射撃の腕を持っています。劇中でははずしまくってますが、同期の中でも一番の射撃の腕で、百発百中。運悪く幻想入りしてしまうのですが、能力を駆使して生き残り、その腕を見込まれて猟師として生計を立てることが出来ました。劇中で敏光の銃にはスコープが付いていますが、幻想郷では村田銃の初期型とかを使用している設定なので、スコープとかほとんど無いです。敏光はスコープなどの機材を自作しており、技術力で村人の信頼を勝ち取ったというわけです。
 敏光は年の離れた妹を溺愛していたのですが、自衛隊に入ってからはあまり会うことができず、そのまま幻想郷に来てしまったのでした。そのため、妹に似た年頃の(少女のような姿である)ルーミアを存在を撃つことに、非常にためらいを持っていたのです。
 
 こういう裏設定を劇中であまりさらす必要もないというところも、シナリオ形式の利点だったりしますね。いろいろと想像してもらえるように細かい表現をしてゆくのは、とても楽しいです。
 読者視点だけで見てしまうと、おそらくシナリオを面白く読む事は難しいんじゃないかなと思います。自らもクリエイターとなったつもりで読んでいただくと、いろいろと想像の余地や改変のアイデアなどが出せて楽しいのではないかなと。そういう知的なゲームとして楽しむというのがシナリオ形式の作品を読む時のコツなんじゃないかなと思います。
 もちろん、楽しい映像を作ることがシナリオの最終目標ではあるのですが。



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